富士時報 Vol.74 No.2 2001 ハイサイド高機能 MOSFET 鳶坂 浩志(とびさか ひろし) 大江 崇智(おおえ たかとし) 市村 武(いちむら たけし) まえがき 製品の紹介 自動車電装業界では, 「安全」 「燃費向上」をキーワード 2.1 主要特性の紹介 として,電子制御システムの大規模化が進められている。 ハイサイド高機能 MOSFET F5045P パッケージの外観 このため自動車電装メーカーは,ECU(Electronic Con- を図1,最大定格を表1,電気的特性を表2,論理表を表 trol Unit)の基本性能を向上させ,なおかつ小型,低コス 3,回路ブロックダイヤグラムを図2に示す。さらに主な ト化することを切望している。自動車電装メーカーの ECU 特徴を以下に紹介する。 に対する要求は次のとおりである。 (1) 過電流,過熱検出機能による負荷短絡保護機能内蔵 (1) 電子制御システム全体の大規模化に伴う,ECU の小 (2 ) インダクタンス負荷ターンオフ時の逆起電圧に対する 電圧クランプ(L 負荷クランプ)回路内蔵によるインダ 型・薄型化 (2 ) 電子制御システム全体の大規模化に伴う,ワイヤハー クタンス負荷高速動作可能 (3) 出力段パワー MOSFET の低損失化 ネスの低減 (3) ECU の低コスト化 (4 ) マイクロコンピュータ直接駆動可能 (4 ) ECU の高性能化(安全性,快適性の向上) (5) システム自身のフェイルセイフ対応として,入力端子 (5) ECU の高信頼性化 そして,この ECU を構成している半導体素子にも同様 図1 F5045P パッケージの外観 の要求がある。これら ECU に対する要求を ECU に使用 される半導体に対する要求に置き換えたものを以下にまと める。 (1) 半 導 体 の 小 型 ・ 薄 型 ・ SMD( Surface Mount De- vice :表面実装デバイス)化 (2 ) トータルコストダウンへの対応可能(高機能化) (3) 半導体デバイスの高性能化(過電流保護,過熱保護機 能の内蔵) (4 ) 半導体デバイスの高信頼性化 富士電機では,上記の半導体デバイスへの要求に対応す る新製品,ハイサイド高機能 MOSFET(Metal-OxideSemiconductor Field-Effect Transistor)F5045P を開発中 である。 表1 F5045P の最大定格(T c =25℃) 記号 定 格 条 件 単位 ワーデバイスをワンチップ化することで,従来の個別部品 ドレイン - ソース電圧 V DS 33/50 DC/0.25s V の組合せに比べ,電子部品の実装スペースの低減と信頼性 電 源 電 圧 V CC 33/50 DC/0.25s V 出 力 電 流 I out 1 入 力 電 圧 V IN −0.3∼ V CC +0.3 接 合 部 温 度 Tj 150 ℃ 保 存 温 度 Tstg −55∼+150 ℃ 項 目 高機能 MOSFET は駆動・制御・保護などの回路と,パ (2 ) (1) の高いシステムを可能とするデバイスである。 DC V 鳶坂 浩志 大江 崇智 市村 武 インテリジェントパワーデバイス インテリジェントパワーデバイス インテリジェントパワーデバイス の開発・設計に従事。現在,富士 のチップ開発・設計に従事。現在, のチップ開発・設計に従事。現在, 日立パワーセミコンダクタ (株) 松 富士日立パワーセミコンダクタ 本事業所開発設計部。 118(18) A (株) 松本事業所開発設計部。 富士日立パワーセミコンダクタ (株) 松本事業所開発設計部。 富士時報 ハイサイド高機能 MOSFET Vol.74 No.2 2001 表2 F5045P の電気的特性 項 目 動作電源 電圧 静止電源 電流 記 号 条 件 図2 F5045P の回路ブロックダイヤグラム 規格値 〈注〉 Vcc 単位 最 小 最 大 3 33 V CC TC =−40∼ +105℃ I CC V CC =13 V R L =26 Ω V IN =0 V TC =−40∼ +105℃ V IN(H) V CC =3∼5 V TC =−40∼ +105℃ V IN(L) V CC =3∼5 V TC =−40∼ +105℃ V IN(H) V CC >5 V TC =−40∼ +105℃ V IN(L) V CC >5 V TC =−40∼ +105℃ 1.5 静止電源電流 低減回路 V IN1 150 A L負荷 クランプ回路 レベル シフト ドライバ 内部 電源回路 過電流 検出回路 OUT ロジック 0.7× V CC V 0.3× V CC 過熱検出 回路 IN2 V GND 入 力 電 圧 V 3.5 (10) オン状態保持用として 2 入力端子構成 V 2.2 用 途 F5045P は ECU のメインリレー駆動用途を中心に,油 入 力 電 流 (1チャネル あたり) I IN(H) V CC =13 V V IN1 または V IN2 =5 V 12 オ ン 抵 抗 R DS(on) V CC =13 V I out =0.5 A 0.60 過電流検出 I OC V CC =13 V 2 A ル MOSFET を使用し,ゲート昇圧用チャージポンプ回路 過 熱 検 出 T trip V CC =13 V 150 ℃ を内蔵しているハイサイド形の半導体素子である。ハイサ スイッチ ング時間 t on /t off V CC =13 V R L =26 Ω 120/40 s イド方式のメリットは,①負荷の電食を回避できる,②負 L負荷 クランプ 電圧 Vclamp V CC =13 V L =10 mH −(50− −(60− V CC ) V CC ) V A Ω 圧ソレノイドバルブ,ランプ,モータなどの制御用に開発 したデバイスである。 なお,F5045P は,出力段パワーデバイスには n チャネ 荷状態をモニタして,フィードバック制御をかけたい用途 における,モニタ回路の設計が容易である(ECU 設計者 はモニタ回路の GND 電位基準で設計できる) ,などがあ 〈注〉特に表記なきものは T C =25℃の条件である。 り,これらのメリットを生かしたい用途には最適なデバイ スである。 表3 F5045P の論理表 IN1 IN2 OUT L L H H L H L H L H H H 過電流検出 L L H H L H L H L ※ ※ ※ 自己復帰 ※:出力電流制限モード 過熱検出 L L H H L H L H L L L L 自己復帰 入力端子 開放 Open Open L Open H Open L Open H Open L L L H H 正常動作 備 考 特 性 3.1 低動作電源電圧 F5045P にて ECU メインリレーを制御する場合,F5045P の Vcc 端子はバッテリーに直接接続される。これは低温時, エンジン始動時などにおいて自動車のバッテリー電圧が最 悪 3 V 程度まで低下することがあり,そのようなときでも 素子の基本的なオンオフ動作が必要であるということを意 味する。 F5045P は低動作電源電圧を実現するため,素子のゲー 各入力端子は入力プルダウン内蔵 しているため,入力 Open は V IN = LOW を意味する。 ト酸化膜厚と周辺回路を最適化した。F5045P と従来のハ イサイドデバイスである F5044H(定格:50 V/3 A/120 mΩ/SOP-8 パッケージ IPS)のオン抵抗の電源電圧依存 性を図3に示す。チャージポンプ回路を用いたハイサイド 開放時の出力オフ機能内蔵 (6 ) 自己分離型 CMOS/DMOS(Complementary MOS /Diffusion MOS)プロセス採用 (7) SOP-8 SMD パッケージ採用による小型・自動実装対 応 デバイスでは,電源電圧が低下すると,チャージポンプ回 路のゲート昇圧能力が低くなり,オン抵抗が上昇する。上 記の最適化により,従来のデバイスよりオン抵抗が上昇し 始める点が低電圧側にシフトしていることが分かる。さら に,電源電圧を 0 V から徐々に上昇させたときの F5045P (8) 低動作電源電圧〔Vcc(min)= 3 V〕 の動作波形を図4に示す。Vcc が約 2.5 V 以上で Vcc 電圧波 (9) 低スタンバイ電流〔Icc(max)= 150 μA〕 形と OUT 電圧波形が等しくなり,素子がオン動作をして 119(19) 富士時報 ハイサイド高機能 MOSFET Vol.74 No.2 2001 図3 オン抵抗の電源電圧依存性 図5 最低動作電源電圧の温度依存性 6.0 T j=25 ℃ オン抵抗 R DS(on)(Ω) 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 F5045P 最低動作電源電圧 V cc(min)(V) 3.0 R DS(on)=2.45 Ω 5.0 F5044H 4.0 3.0 F5045P 2.0 1.0 F5044H 0 0 5 10 0 −100 −50 20 15 0 50 100 150 200 温度 T j(℃) 電源電圧 V cc(V) 図4 F5045P 低電源電圧時の動作波形 図6 F5045P 入力部の回路 Vcc 10 ms/div 静止電源電流低減回路 内部電源 回路 V cc :2 V/div IN1 IN2 V OUT :2 V/div OUT レベルシフト ドライバ GND V V cc= V OUT となり, cc≒2.5 Vにおいて 素子がオンしていることが分かる。 させるためには,この回路に CMOS を用いることが有効 (a)動作波形 である。NMOS インバータと CMOS インバータの特徴を 表4に示す。しかしながら表2に示すように,本デバイス の入力しきい値電圧は,3 ∼ 33 V の電源電圧範囲と, Vcc IN1 F5045P IN2 OUT GND Tc =−40 ∼+105 ℃の温度範囲をカバーする必要があり, 温度依存性を小さくしなければならない。このため,CM OS インバータの採用は不適当であるため,オフ時に入力 (b)測定回路図 回路部の NMOS インバータを切断する方式を採用した。 この静止電源電流低減回路により静止電源電流を従来のハ イサイドデバイス 3 mA(max)から Tc =−40 ∼+105 ℃ いることが分かる。最低動作電源電圧の温度依存性を図5 の範囲において 150 μA(max)にすることができる。 に示す。最低動作電源電圧が従来品 F5044H と比較して約 2.0 V 小さくなっており,F5045P は Tc =−40 ∼+105 ℃ において広範な動作電源電圧 3 ∼ 33 V を実現できる。 3.3 入力保持機能 F5045P は,制御回路内に OR 論理回路を付加し,2 入 力構成とした。このため F5045P は,IN1 端子の入力信号 3.2 静止電源電流の低減 ライン(例えばイグニッションスイッチ)が確定していな 自動車電装システムの大規模化に伴い,ユニット全体の いようなときでも,IN2 端子のオン信号により,そのオン オフ時のスタンバイ電流を 3 mA 以下に低減させたいとい 状態の保持が可能である。これにより F5045P は,ECU う希望がある。このため,個々の半導体の静止電源電流を のメインリレー制御といった,さまざまな状況下でもオン 小さくする必要がある。F5045P はこの要求に対応するた 状態保持が要求されるシステムにおいて,特別な外部回路 め,図6に示すような内部電源回路をデバイスのオフ時に を付加せずに使用することができるデバイスである。 切断する回路(静止電源電流低減回路)を付加した。静止 電源電流が大きい原因の一つに,内部電源により動作する 入力回路部のインバータに n チャネル MOSFET(NMOS) のみを用いていることがあげられる。静止電源電流を低減 120(20) 3.4 サージ耐量 F5045P は ESD(Electro-Static Discharges:静電破壊) 試験において,C=150 pF,R=150 Ωの条件下,ECU 組 富士時報 ハイサイド高機能 MOSFET Vol.74 No.2 2001 表4 NMOS インバータと CMOS インバータの特徴 NMOS インバータ スと同等の実力を持っている。 CMOS インバータ あとがき インテリジェントパワーデバイスの新製品として F50 回 路 図 45P の概要,特性などについて述べた。自動車電装分野の ECU メインリレーに使用されることを前提に,本製品を 紹介してきたが,高機能 MOSFET シリーズはその汎用性 の高さから各種用途への応用が可能である。 ™電流源と MOSFET の最適設計 長 により,入力しきい値電圧の 所 温度依存性を小さくできる。 ™動作電源電圧範囲が広い。 ™消費電流が小さい。 短 ™消費電流が大きい。 所 ™入力しきい値電圧が MOSFET に依存するため温度依存性が ある。 ™動作電源電圧範囲が狭い。 今後富士電機では,さまざまな用途に対応できるインテ リジェントパワーデバイスの系列拡大と,さらなる性能向 上のための技術確立を推進していく所存である。 参考文献 (1) 木内伸ほか. SOP- 8 パッケージハイサイド IPS. 富士時報. vol.72, no.3, 1999, p.168- 171. 込み状態で 15 kV 以上の耐量を持つデバイスであり,従来 の富士電機製自動車電装用インテリジェントパワーデバイ (2 ) 木内伸ほか. インテリジェントパワー MOSFET. 富士時 報. vol.70, no.4, 1997, p.222 - 226. 121(21) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。