富士時報 Vol.74 No.7 2001 サーボシステムの制御技術応用例 藍原 隆司(あいはら たかし) 市川 誠(いちかわ まこと) 金子 貴之(かねこ たかゆき) まえがき 表1 サーボ技術ロードマップ 年代 近年,サーボ技術は表1のようなロードマップで進歩し 1980年代 1990年代 2000年代 ディジタル化 てきている。 1980年代には高速 CPU やカスタム LSI の出現によって サーボ制御の全ディジタル化が進展した。1980年代後半か ら1990年代前半にかけては,希土類永久磁石や新しい構造 による電動機の小型化と IPM(Intelligent Power Module) や高集積 LSI などによるアンプの小型化とが進展した。 1990年代はさらなる CPU の高速化やエンコーダの高分解 小 型 化 高性能・ 高分解能 モーション 制御 高速ネット ワーク化 能化によって,1990年代終盤には応答性能 400∼600 Hz, エンコーダ分解能 16 ビット程度となってきている。 以上の流れに引き続いて,2000年代前半にはモーション 表2 電動機の仕様 制御とネットワーク化が主な流れになると思われる。モー ション制御はいろいろな解釈があると思われるが,ここで キュービックタイプ 0.1∼2 kW スリムタイプ 0.05∼5 kW 100 V スリム 0.05∼0.2 kW 容 量 は「機械動作制御を目的とした電動機制御技術」という意 味で使用している。 最大トルク 300%(450%:組合せによる) このような流れの中で,富士電機のサーボシステムの制 定格回転速度 3,000 r/min 御技術応用例として,制振制御技術,フルクローズド制御, 最大回転速度 5,000 r/min 高速バス制御について以下に紹介する。 エンコーダ ABS/INC 兼用,16ビットシリアル FALDIC-αシリーズの主な特徴・仕様 表3 アンプの仕様 富士電機のサーボシステム FALDIC-α(ファルディッ ク・アルファ)シリーズは,小型・高性能サーボとして発 基本機能 位置・速度・トルク制御:V タイプ 直線位置決め内蔵:L タイプ 回転割出し内蔵:R タイプ (1) 売以来好評をいただいている。 主な仕様を表2,表3に示す。 本シリーズは,高性能・高分解能を達成するとともに, 上 位 I / F 接点信号,SX(高速シリアル)バス,Tリンク,RS-485 周波数応答 600 Hz 整定時間 1 ms ABS/INC 兼用 16 ビットシリアルエンコーダを標準装備 し,電動機とアンプの組合せによっては最大トルク 450 % (2 ) ( 3) が出力可能などの特徴を有している。 ルクローズド制御などといったシステムに対応するための また,パルス列のみならず位置決め機能内蔵タイプや回 性能向上や機能拡充を行っている。 転割出し機能内蔵タイプなどの特徴的な機能も持っている。 制振制御技術 さらに上位インタフェース(I/F)として,高速シリアル バス対応も実現している。 これら基本機能や上位 I/F に加え,制振制御技術やフ 藍原 隆司 ロボットアームの高速移動を行った場合に,アーム先端 市川 誠 金子 貴之 サーボシステムの開発設計に従事。 サーボシステムの開発設計に従事。 サーボシステムの研究開発に従事。 現在,鈴鹿工場設計部担当課長。 現在,鈴鹿工場設計部。 現在, (株) 富士電機総合研究所パ 電気学会会員。 ワーエレクトロニクス研究所。電 気学会会員,精密工学会会員。 415(33) 富士時報 サーボシステムの制御技術応用例 Vol.74 No.7 2001 が振動してしまうことがある。これはアーム先端の質量が 急停止することで,アームにたわみを生じるためである。 で,実際の機械系の振動も抑制することができる。 図1に制振制御なし時のアーム先端位置振動波形を示す。 このような場合,電動機が停止していても先端が振動して 測定は,アーム停止位置付近にレーザ変位計を設置し, いるため,アームの振動抑制には先端位置やアームの弾性 先端に測定レーザを当てて行った。約 10 Hz・初期振幅 10 を考慮した制御が必要となってくる。 mm(p−p)の振動が 1 秒以上続いている。 従来の対処方法としては加減速をS字波形とすることが 図2に制振制御あり時のアーム先端位置振動波形を示す。 多かったが,振動抑制効果を高くするためには動作時間が まったく同一動作・同一制御パラメータで,制振制御の機 遅くなってしまうデメリットがあった。 能のみをオンすることで,振幅が約 2 mm(p−p) と, 図 1 これに対して FALDIC-αのオプション機能として制振 制御技術を開発し,さまざまなアプリケーションに適用し, 大きな効果を上げている。 の 1/5 に減少している。 この機能によれば,同じ機械剛性のままで,いままで以 上の動作タクトを出すことが可能となり,機械性能を上げ 制振制御ブロック図は,本特集号の別稿「インバータ・ ることができる。 サーボ・ UPS 技術の動向と展望」の 図2を参照いただき フルクローズド制御 たい。電動機とアーム先端との間が剛性の低い機械結合と なっており,電動機動作時に先端が振動する。この機械モ デルをサーボアンプ内部の2慣性モデルとして持っており, 機械精度以上の位置決め精度の要求がある場合,フルク 先端推定位置を演算する。この先端推定位置をもとに,振 ローズド制御を採用することがある。図3に,セミクロー 動抑制制御のアルゴリズムが2慣性モデルの振動を抑制す ズド制御とフルクローズド制御のブロック図を示す。 る。さらに同じ作用を実際の電動機制御系にも与えること セミクローズド制御では,モータエンコーダの情報を フィードバック制御することで電動機の位置を直接制御す 図1 制振制御なし時のアーム先端位置振動波形 るが,機械位置を直接制御することはない。したがって, 電動機からの伝達機構の誤差要因が機械精度に影響する。 フルクローズド制御では,機械位置を直接外部エンコー ダ(もしくはリニアスケール)にて検出し,電動機を制御 4mm するため,正確に機械位置を制御できる。 アーム先端位置 このような制御は以下の場合に有効である。 (1) ボールねじの機械誤差以上の精度が必要な場合 (2 ) ギヤのバックラッシよりも精度が必要な場合 図3 セミクローズド制御とフルクローズド制御のブロック図 200ms 指令 アンプ モータ エンコーダ 機械 時間 (a) セミクローズド制御 指令 図2 制振制御あり時のアーム先端位置振動波形 アンプ 電動機 機械・外部 エンコーダ (b) フルクローズド制御 4mm アーム先端位置 図4 フルクローズド制御ブロック図 アンプ 200ms 位 置 指 令 ハイブ リッド 位置 制御 速度 制御 パワー アンプ モータ エンコーダ テーブル 電動機 リニアスケール 時間 416(34) 富士時報 サーボシステムの制御技術応用例 Vol.74 No.7 2001 (3) すべりやすいものをローラ搬送する場合 一方,フルクローズド制御においては以下のような問題 高速バス制御 も出やすい。 ™機械系バックラッシなどの非線形性が強い場合に,安 ネットワーク時代を迎えて,サーボシステムにも高速通 信機能の要求が高まってきている。そのような中で FAL 定な制御ができにくい。 ™外部エンコーダの分解能がモータエンコーダよりも粗 DIC-αシリーズは,SX バスシステムによる高速通信を実 (4 ) い場合に,滑らかな制御ができにくい。 現している。 このような問題を解決する方法として, 図 4 のフルク SX バスは,統合コントローラ MICREX-SX の標準バ ローズド制御ブロック図に示すハイブリッド位置制御を スとして採用されている高速バスであり,その仕様を表5 行っている。ここでは,リニアスケール(外部エンコーダ) に示す。また,SX バス対応アンプの基本仕様を表6に示 のフィードバックとモータエンコーダのフィードバックの 両方を位置制御に使用し,リニアスケールによって精度を 確保するとともに,モータエンコーダによって制御の安定 性を確保している。 表5 SX バスの基本仕様 項 目 仕 様 備 考 通信速度 25 Mビット/秒 I/O 1,024点を1msでリフレッシュ可能 このときの実機動作波形を図5に示す。200 W のサーボ 総 長 25 m 光コンバータにより延長可能 モータ(GYC201DC1-SA)にて 表4 の送りテーブルを駆 伝送媒体 ツイストペア カテゴリ5 動した。 接続形態 バス型 T分岐ユニットでツリー構造可能 通信方式 独自 図5の動作波形は,上から偏差パルス量,帰還速度,偏 差ゼロ信号となっている。動作移動量 10 mm,偏差ゼロ 幅 20 m とした。点線が従来制御であり,実線がハイブ リッド位置制御である。モータエンコーダの分解能が 0.1 m 相当以下であるのに対して,スケール分解能は 表6 SX バス対応アンプの基本仕様 項 目 仕 様 1 m と粗い。また,テーブルまでの伝達機構にはねじれ 基 本 機 能 V/L/R タイプ などの非線形要素があり,制御の安定性を阻害する。 占有ワード数 16ワード:V/L/R タイプ ハイブリッド位置制御は,従来制御より高ゲインにでき 伝送データ 位置,速度,シーケンス信号など るため,位置偏差が小さくなり,速度応答も速くなってい 接 続 台 数 連続10台(バス電源追加で10台以上も可) る。結果として偏差ゼロ信号出力も速くなるため,高タク トの動作ができる。 図6 SX バスシステム構成例 偏差パルス量 (パルス) 図5 フルクローズド制御実機動作波形 POD 20,000 10,000 0 −10,000 0 50 150 100 時間 (ms) 200 SCPU32 偏差ゼロ信号 (オン・オフ) 帰還速度 (r/min) APS30 4,000 3,000 2,000 1,000 0 −1,000 TERM TERM PWR SLV SLV STOP STOP ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL CH1 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR CH2 EMG +OT -OT RUN SX ONL ERR RUN ALM BAT ALM CPU CPU No. No. 20 SX LOADER LOADER 0 50 150 100 時間 (ms) 200 1 B/A 1.5 1 0.5 0 −0.5 HP2 FALDIC 0 150 100 時間 (ms) ハイブリッド制御 50 200 MODE ESC K80791543 従来制御 表4 送りテーブルの諸元 ス ト ロ ー ク 300 mm ね じ ピ ッ チ 5 mm 負 荷 質 量 40 kg スケール分解能 1 RYS401S3-VVS SHIFT ENT CHARGE CHARGE FALDIC MODE ESC K80791543 RYS401S3-VVS SHIFT ENT CHARGE L1 L1 L2 L2 L3 L3 DB DB P1 P1 P+ P+ N N U U V V W W アンプ 電動機 m 417(35) 富士時報 サーボシステムの制御技術応用例 Vol.74 No.7 2001 図7 SX バス同期運転速度波形例 速いタクトで同期運転が可能になったのも,高速バスを使 用したゆえんである。 本システムでは,同期運転以外にもカム同期,走行切断 5,000 r/min な ど の シ ス テ ム 対 応 が MICREX - SX の FB( Function Block)にて実現できるほか,位置決め機能内蔵アンプを 使用することで CPU に演算負荷をかけることなく,多数 速度 台の高速制御が可能になる。 あとがき 45ms 以上,富士電機のサーボシステム FALDIC-αシリーズ を中心に,制御技術の応用例として制振制御技術,フルク ローズド制御,高速バス制御について紹介した。 時間 今後も市場要求にこたえるべく,新機能拡充や一層の高 性能化の実現を行う所存である。 す。 参考文献 高速伝送のメリットを生かして精密・高速動作や高タク (1) 荒川宏泰ほか.小形・高性能サーボシステム FALDIC - α トの動作が可能となる。 図 6 は,MICREX-SX を使用し シリーズ.富士時報.vol.72,no.4,1999,p.243- 247. た2軸同期システムの例である。モーション専用のコント (2 ) 柳瀬孝雄ほか.最近のインバータ・サーボシステムの制御 ローラを用いることなく MICREX-SX の CPU で2軸分 の同期した位置指令を演算し,2 ms 周期でアンプに与え ている。 (3) 藤田光悦ほか.最近のエンコーダ技術.富士時報.vol.72, no.4,1999,p.228- 232. このときの2台の動作速度波形を図7に示す。2軸がそ ろって 45 ms で加減速している様子が分かる。このような 解 説 技術.富士時報.vol.72,no.4,1999,p.215- 218. (4 ) 川島重雄ほか.拡大する SX バス接続機器.富士時報. vol.73,no.2,2000,p.130- 134. ABS/INC エンコーダ ABS/INC エンコーダは,Absolute/Incremental エ ンコーダを略したものである。 装置の電源をオンするたびに,原点位置を決めてか ら通常の位置決め動作を行う方式には,INC エンコー る現在位置を常に得ることができる。 従来の ABS エンコーダはこのような特別な機能を 持つため高価であったが,FALDIC-αでは ABS/INC 共用として標準装備している。 ダが使用される。これに対して,装置をセットアップ するときに一度原点位置を決めるだけで,電源オン・ 電動機 エンコーダ オフにかかわらず以降の位置決め動作ができる方式に は,ABS エンコーダが使用される。 ABS エンコーダは,電源オフ時も電動機の回転を監 視する回路がバッテリーバックアップされて動作して いることと,電源オン時に1回転内のどの位置にいる かを検出する特別な回路を持つため,原点位置に対す 418(36) 位置を忘れないよ! *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。