FEJ 75 08 453 2002

富士時報
Vol.75 No.8 2002
平型 IGBT 素子内部の電流測定技術
降矢 正保(ふるや まさほ)
石山 泰士(いしやま やすお)
まえがき
図1 平型 IGBT の外観
産業,電力,鉄道の分野に適用している電力変換装置に
は,小型・低コストといった要求とともに,社会基盤を支
える大容量のシステム装置としての高い信頼性が求められ
る。大容量装置に適用される素子には,従来はサイリスタ,
GTO(Gate Turn Off)サイリスタが主に用いられていた
が,近年では,IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)
が広く用いられるようになってきている。富士電機では,
高耐圧・大電流デバイスである平型 IGBT を開発し,製品
展開を行っている。この平型 IGBT の外観を図1に示す。
平型 IGBT は,パッケージ内部に複数の IGBT チップお
よびダイオードチップを並列に接続し,大電流化を図って
いる。チップを並列に接続するためには,各チップの電流
分担を均一化することが重要である。
表1 目標仕様
本稿では,平型 IGBT パッケージ内部に配置されている
チップごとに電流センサを取り付け,スイッチング時の電
流を測定する技術について紹介する。
パッケージ内部の電流測定の目標仕様
絶縁耐圧
2.5 kV
周波数帯域
250 kHz
外 形
24.7×24.7(mm)
厚 さ
2.1 mm 以下
圧接型構造を特徴とする平型 IGBT パッケージ内部に配
試作電流センサの特性
置されている各チップの電流分担を把握するためには,
チップごとに電流センサを直接取り付けて電流を測定する
電流センサとして,ロゴスキーコイルを採用する。ロゴ
必要がある。
表1に,今回開発するチップと一体型の電流センサの目
スキーコイルは磁気材料を使用しないため,外形を小さく
標仕様を示す。以下に,目標仕様の概要について説明する。
することができる。このコイルはアンペアの周回積分原理
で電流を検出するため,外部磁束の影響を受けにくい。
(1) 絶縁耐圧
平型 IGBT の定格電圧 2.5 kV と同等の絶縁耐圧とする。
3.1 構 造
(2 ) 周波数帯域
電流センサの周波数特性はターンオフ時の電流変化時間
から設定し,これを周波数帯域の中心とする。
(3) 外
図2に,試作電流センサの外観を示す。図2に示す試作
電流センサの構造は,断面が 1.0 × 1.0(mm)の絶縁体コ
アにポリエステル線(φ 0.2 mm)を 300 ターン密着 1 層
形
チップと電流センサ一体型の構成とするため,チップの
外周部に取り付けられる外形とする。
巻きし,矩形(くけい)トロイダルコアとした。さらに,
これをエポキシモールドで厚さ 2.0 mm,外形 24.7 × 24.7
(mm)に仕上げた。
降矢 正保
石山 泰士
静電気・放電応用装置の研究・開
パワーエレクトロニクス製品の開
発に従事。現在,
(株)富士電機総
発に従事。現在,
(株)富士電機総
合研究所パワーエレクトロニクス
合研究所パワーエレクトロニクス
研究所。電気学会会員。
研究所。電気学会会員。
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平型 IGBT 素子内部の電流測定技術
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評価は,図5に示すように遮断する電流の近傍に試作電流
センサを配置し,試作電流センサが電流遮断時に検知する
3.2 周波数特性
図3に,試作電流センサの周波数特性を示す。図3に示
電流レベルを測定して行った。測定結果を図6に示す。遮
すとおり,周波数帯域の中心が目標仕様の 250 kHz となる
断電流 160 A に対して,外部磁束の影響による,電流セン
ように設定した。測定可能な周波数帯域は 5 kHz ∼ 1.3
サの電流変化が 2 %以下である。これにより,試作電流セ
MHz となる。
ンサは外部磁束の影響を受けることなく,精度よく電流を
測定できることが分かる。
3.3 実波形評価
上記から,試作電流センサは,目標仕様を満足している。
図4に,ターンオフ時の電流測定結果を示す。試作電流
電流分担測定結果
センサと従来からスイッチング試験に用いている電流セン
サを比較すると,両者のターンオフ波形が一致しているこ
とが分かる。これにより,従来から用いている電流センサ
試作電流センサを平型 IGBT パッケージ内部に配置され
と同等の性能であることが分かる。
ているチップごとに取り付けて,各チップの電流を測定し
3.4 外部磁束の影響
プと電流センサ一体型にした電流測定の概略構成である。
た。図7は平型 IGBT パッケージ内部に今回開発したチッ
大電流素子である平型 IGBT パッケージ内部ではチップ
が並列に接続されているため,隣接するチップの電流によ
る外部磁束が電流センサに与える影響について評価した。
図5 外部磁束の影響試験方法
図2 試作電流センサの外観
遮断電流
磁束φ
2.0
.7
24
(単位:mm)
試作器
図3 周波数特性
90
5 kHz
1.3 MHz
−70
−80
100 200
位相
500 1 k 2 k
5 k 10 k 20 k
80
G 70
60
50
40
30
20
10
0
P
−10
50 k100 k200 k 500 k 1 M 2 M
周波数(Hz)
図6 外部磁束の測定結果
300
250
電流値(A)
ゲイン
−60
(0.1 mV)
位相(deg)
ゲイン(dB)
−50
(1 mV)
遮断電流
200
150
100
50
試作電流センサ
0
−50
図4 電流測定波形評価
時間(500 ns/div)
300
電流値(A)
250
200
図7 電流測定の概略構成
150
試作電流センサ
100
試作電流センサ
50
0
従来から用いている電流センサ
−50
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時間(500 ns/div)
チップ
平型 IGBT パッケージ
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図8 試験回路構成
RCDスナバ
Q1
負荷リアクトルL
C(コレクタ)
C(コレクタ)
直流電圧
Ed
1
N
2
1
2
N
Q2
内部
iC
供試素子
E(エミッタ)
図9 チップ電流合計波形と電流センサ一括測定の電流波形
ロゴスキーコイルCT
E(エミッタ)
図10 各チップの電流波形
200
2,000
150
電流値(A)
1,500
電流値(A)
CT
従来から用いている
電流センサ
1,000
0
50
チップ電流合計値
500
No.1チップ
100
0
時間(500 ns/div)
時間(500 ns/div)
200
また,図8は試験回路構成である。図8に示すように,供
試素子パッケージ内部に試作電流センサを取り付けて,ス
電流値(A)
150
No.2チップ
100
50
イッチング試験を実施した。スイッチング試験は,平型
IGBT パッケージ全体の遮断電流を 1,800 A とし,各チッ
0
プの電流分担を測定した。
時間(500 ns/div)
200
まず初めに,試作電流センサで測定した各チップの電流
分担が正しく測定できているのかを評価する。図9に,各
用いている電流センサでパッケージ全体の電流を測定した
波形とを示す。図9から,両者の電流波形が一致しており,
試作電流センサを用いることで,各チップの電流を精度よ
150
電流値(A)
試作電流センサで検出した電流を合計した波形と従来から
No.3チップ
100
50
く測定できることが分かる。
図10に,平型 IGBT パッケージ内部に配置されている各
0
時間(500 ns/div)
チップの電流波形を示す。測定した平型 IGBT の各チップ
の電流分担は均一となっていることが明らかとなった。
あとがき
参考文献
(1) Koga,T. et al.Ruggedness and Reliability of the 2.5kV-
本稿では,平型 IGBT パッケージ内部に配置されている
1.8kA Power Pack IGBT with a Novel Multi-Collector
チップごとに電流センサを取り付け,スイッチング時の各
Structure. 1998 IEEE International Symposium on Power
チップの電流を測定する技術について紹介した。
Semiconductor Devices and ICs. p.437- 440.
今後は,電流測定技術を駆使して,パワーデバイスのさ
らなる高信頼化に貢献する所存である。また,今回紹介し
た電流測定技術を電力変換装置にも展開していく予定であ
る。
(2 ) 原田達哉.核融合分野における高電圧,大電流の測定.昭
和 58 年電力中央研究所調査報告.no.183003,1983.
(3) 石山泰士ほか.平型 IGBT 素子内部電流の測定.平成 14
年電気学会全国大会.4- 010,2002.
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*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。