FEJ 75 08 0000 2002

昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 14 年 8 月 10 日発行(毎月 1 回 10 日発行)富士時報 第 75 巻 第 8 号(通巻第 809 号)
昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 14 年 8 月 10 日発行(毎月 1 回 10 日発行)富士時報 第 75 巻 第 8 号(通巻第 809 号)
パワーエレクトロニクス技術特集
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定価525円(本体500円)
ISSN 0367-3332
本
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務
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北
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支
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社
社
社
社
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首 都 圏 北 部 支
首 都 圏 東 部 支
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店
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見
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わ き 営
戸
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城
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木
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井
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梨
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野
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阜
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滋
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歌 山 営
取
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吉
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陰
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島
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分
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崎
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九 州 営
業
業
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業
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業
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業
業
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業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
エ ネ ル ギ ー 製 作 所
変電システム製作所
千
葉
製
作
所
東京システム製作所
神
戸
工
場
鈴
鹿
工
場
松
本
工
場
山
梨
工
場
吹
上
工
場
大
田
原
工
場
三
重
工
場
(株)
富士電機総合研究所
(株)
FFC
お問合せ先:機器・制御カンパニー システム機器事業部 電話(03)5435-7111
1(03)5435-7111
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1(023)641-2371
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1(075)253-6081
1(073)432-5433
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1(088)655-3533
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〒963-8033
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〒311-1307
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〒390-0811
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〒420-0053
〒604-8162
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〒802-0014
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〒870-0036
〒880-0805
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〒400-0222
〒369-0192
〒324-8510
〒510-8631
〒240-0194
〒151-0053
東京都品川区大崎一丁目11番2号(ゲートシティ大崎イーストタワー)
札幌市中央区大通西四丁目1番地(道銀ビル)
仙台市青葉区一番町一丁目2番25号(仙台NSビル)
富山市桜橋通り3番1号(富山電気ビル)
名古屋市中区錦一丁目19番24号(名古屋第一ビル)
大阪市福島区鷺洲一丁目11番19号(富士電機大阪ビル)
広島市中区銀山町14番18号
高松市番町一丁目6番8号(高松興銀ビル)
福岡市中央区天神二丁目12番1号(天神ビル)
熊谷市筑波一丁目195番地(能見ビル)
さいたま市宮町一丁目38番1号(野村不動産大宮共同ビル)
千葉市中央区富士見二丁目15番11号(日本生命千葉富士見ビル)
横浜市西区北幸二丁目8番4号(横浜西口KNビル)
新潟市新光町16番地4(荏原新潟ビル)
長野市南県町1002番地(陽光エースビル)
刈谷市大手町二丁目15番地(センターヒルOTE21)
神戸市中央区江戸町95番地(井門神戸ビル)
岡山市駅元町1番6号(岡山フコク生命駅前ビル)
宇部市相生町8番1号(宇部興産ビル)
松山市勝山町一丁目19番地3(青木第一ビル)
那覇市銘苅二丁目4番51号(ジェイ・ツービル)
旭川市緑が丘東一条四丁目1番19号(旭川リサーチパーク内)
北見市西富町163番地30
釧路市新栄町8番13号
帯広市東三条南十丁目15番地
函館市海岸町5番18号
青森市長島二丁目25番3号(ニッセイ青森センタービル)
盛岡市中央通一丁目7番25号(朝日生命盛岡中央通ビル)
秋田市八橋大畑一丁目5番16号
山形市宮町一丁目10番12号
新庄市五日町1324番地の6
郡山市亀田一丁目2番5号
いわき市内郷御厩町二丁目29番地
水戸市中央二丁目8番8号(櫻井第2ビル)
茨城県東茨城郡大洗町桜道304番地(茨交大洗駅前ビル)
宇都宮市東宿郷三丁目1番9号(USK東宿郷ビル)
金沢市広岡一丁目1番18号(伊藤忠金沢ビル)
福井市大手二丁目7番15号(安田生命福井ビル)
甲府市相生一丁目1番21号(清田ビル)
長野市南県町1002番地(陽光エースビル)
松本市島立943番地(ハーモネートビル)
松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)
岐阜市光明町三丁目1番地(太陽ビル)
静岡市弥勒二丁目5番28号(静岡荏原ビル)
京都市中京区烏丸通蛸薬師上ル七観音町637(朝日生命京都ビル)
和歌山市鷺ノ森堂前丁17番地
鳥取市雲山153番地36〔鳥電商事
(株)
内〕
倉吉市東巌城町181番地(平成ビル)
松江市御手船場町549番地1号(安田火災松江ビル)
徳島市寺島本町東二丁目5番地1(元木ビル)
高知市本町四丁目1番16号(高知電気ビル別館)
北九州市小倉北区砂津二丁目1番40号(富士電機小倉ビル)
長崎市金屋町7番12号
熊本市水前寺六丁目27番20号(神水恵比須ビル)
大分市寿町5番20号
宮崎市橘通東三丁目1番47号(宮崎プレジデントビル)
鹿児島市加治屋町12番7号(日本生命鹿児島加治屋町ビル)
川崎市川崎区田辺新田1番1号
市原市八幡海岸通7番地
市原市八幡海岸通7番地
日野市富士町1番地
神戸市西区高塚台四丁目1番地の1
鈴鹿市南玉垣町5520番地
松本市筑摩四丁目18番1号
山梨県中巨摩郡白根町飯野221番地の1
埼玉県北足立郡吹上町南一丁目5番45号
大田原市中田原1043番地
四日市市富士町1番27号
横須賀市長坂二丁目2番1号
東京都渋谷区代々木四丁目30番3号(新宿コヤマビル)
パワーエレクトロニクス技術特集
目 次
特集論文
パワーエレクトロニクス技術特集に寄せて
440( 2 )
三木 一郎
パワーエレクトロニクス技術の動向と展望
441( 3 )
海田 英俊
逆阻止 IGBT の適用技術
武 井
学 ・ 小高 章弘 ・ 藤 本
445( 7 )
久
大容量 6 in 1 IGBT モジュールの適用技術
449(11)
滝沢 聡毅 ・ 吉田 收志 ・ 松原 邦夫
平型 IGBT 素子内部の電流測定技術
453(15)
降矢 正保 ・ 石山 泰士
スイッチング電源用 DC-DC 変換技術
456(18)
鷁頭 政和 ・ 西川 幸廣 ・ 野澤 武史
表紙写真
AC-DC 変換回路技術
460(22)
三野 和明 ・ 五十嵐征輝
高圧 IGBT 多直列技術
阿 部
464(26)
康 ・ 丸山 宏二
永久磁石同期電動機のセンサレス制御技術
野村 尚史 ・ 大 沢
モーションコントロール技術
金子 貴之 ・ 市 川
468(30)
博
472(34)
誠
パワーエレクトロニクスは,今や日常接す
る身近な機器にまで深く入り込み,現代社会
超小型サーボシステム「FALDIC-βシリーズ」
を力強く支えている。さらに,エネルギーや
中村 和久 ・ 遠 藤
476(38)
実 ・ 高本 慎一
地球環境というわれわれが直面している課題
に応える有効な技術として,より一層の発展
瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」
が期待されている。
田中 伸央 ・ 國中 孝文 ・ 内藤 英臣
481(43)
富士電機では,長年にわたって電力用半導
体デバイスとそれを応用したパワーエレクト
ロニクス技術を駆使し,システムの省力化や
小型軽量化,高性能化,信頼性向上,適用分
野の拡大を推進してきた。
表紙写真は,大容量電力変換装置の代表例
普通論文
24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
小薗 秀明 ・ 熊 谷
485(47)
洋 ・ 國分多喜雄
である静止形無効電力補償装置とスイッチン
グ電源用パワー IC を示し,さらに,その動
作波形をイメージ的に表現したものである。
最近の学会発表──パワー半導体国際会議(ISPSD ’
02)
491(53)
パワーエレクトロニクス
技術特集に寄せて
三木 一郎(みき いちろう)
明治大学理工学部教授 工学博士
最近ではパワーエレクトロニクス関連技術の研究開発も
テムにおいては,制御対象こそ異なるが,コンピュータか
一段落し,多くの技術が成熟されたものとして社会に浸透,
らの小信号により,人や車の動きなどその他様々なものを
融合されているというのが実感である。これまでパワーエ
大規模に制御している。小信号により大電力を容易に制御
レクトロニクス技術の動向は,新しいパワーデバイスの出
できる半導体デバイスの動作によく似た構図である。しか
現によってほぼ定められてきたといえる。これは当然のこ
し,この例に挙げた情報化システムでは信号から実際の動
ととも考えられるが,今後は取り残されてきた問題の解決
きの間に人間が介在することからかなりの柔軟性があり,
を始めとして,地球環境保護を見据えた先端技術分野や情
動きの中にインテリジェントなものが多く含まれている。
報分野へのパワーエレクトロニクス技術のなお一層の積極
夢物語として,半導体デバイスにこのようなインテリジェ
的な進出が必要であろう。
ント化されたものを組み入れることは難しいことであろう
そこで,まず先端技術におけるパワーエレクトロニクス
か。
技術の一例について考えてみたい。石油ショックの後,代
さて,周知のように情報化は生活の中にも十分浸透して
替エネルギーの必要性が叫ばれ,太陽エネルギー利用の研
いる。しかし,今後さらに高度情報化が進展すれば,より
究が盛んに行われた時期があった。しかし,石油供給が安
高品質な電力の供給が必要となること,また,高度情報化
定すると急速にこれらの研究の勢いはしぼんでしまった。
の裏で巨大なエネルギーが消費されることなどについて一
このことは人間がいかに現実的であるかを象徴しているが,
般には理解されていない。もちろん高度情報化によりエネ
現在では,グローバルな環境保護の視点から再び脚光を浴
ルギー利用の効率化などは格段に上昇していることは間違
びている。昨年のことになるが,新入生に先端技術の話を
いないが,トータルとしてエネルギー消費も上昇している
することになり,調査を行った。そのとき興味を惹かれた
ことは年々電力需要が増加していることからも明らかであ
のが,NASA での研究である。最後に人間が真に頼れる
る。高度情報化の存立には無駄のない高品質な電力がいつ
エネルギー源は太陽であるとし,太陽発電衛星の研究が進
でも安定して入手できることが前提であり,パワーエレク
められているということであった。その後まもなく,この
トロニクス技術の力が最も発揮できるところでもある。
システムが現実的になりつつあるということが新聞でも報
エネルギー消費の増加は,地球環境の悪化に勢いを与え
道された。静止軌道上に打ち上げられるこのシステムでは,
るが,パワーエレクトロニクス技術はより急速な環境悪化
太陽電池が用いられ,マイクロ波により地上に送られる電
を防ぐ大きな技術としてこれまで以上に期待されることは
力は,集電アンテナから変換器を通して送電される。この
間違いない。パワーエレクトロニクス装置の使用によって
ような大規模かつ最先端技術が集約されるシステムでは,
発生する,負の働きを相殺する装置を必要としないパワー
実際の運用においては新しい,そしてまた既存のパワーエ
エレクトロニクス装置の開発は是非とも必要であろう。こ
レクトロニクス技術の強力なサポートなくしては到底実現
れには先に述べた夢物語のインテリジェント半導体デバイ
し得ないと考えられる。このように,地球規模の環境保護
スも貢献できるのかもしれない。
に関連して生じる,エネルギー問題解決に果たすパワーエ
パワーエレクトロニクス技術の成長初期に大学院の学生
レクトロニクス技術の役割は,ますます重要になると考え
として,パワエレとは直接関連のない研究を行っていた私
る。
にとっては,学会などで盛んに発表されていたパワーエレ
一方,情報分野とパワーエレクトロニクス技術との関わ
クトロニクス技術の成果はうらやましく,この分野はまる
りについてはどうであろうか。本題から少し離れるが,現
で宝の山のように見えた。今後はどのように輝いていくの
代の高度情報化システムはパワーエレクトロニクスにおけ
か大きな楽しみでもある。
る半導体デバイスに例えることができる。高度情報化シス
440( 2 )
富士時報
Vol.75 No.8 2002
パワーエレクトロニクス技術の動向と展望
海田 英俊(うみだ ひでとし)
まえがき
パワーエレクトロニクスの現状と課題
パワーエレクトロニクス機器はパワートランジスタや
パワーエレクトロニクス機器は,半導体のオンオフによ
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)
,マイクロプ
るスイッチ動作を行うので基本的に低損失を特徴とする。
ロセッサなどの新しい技術を取り入れながら高性能化の道
この反面,スイッチングによる電磁的な障害の発生源とも
を歩んできた。最近は IT(Information Technology),
なり得るため,長所を伸ばし短所を改善することが必要で
FA( Factory Automation), HA( Home Automation)
ある。また,制御は大きなピーク電力を発生させる高速制
といった流れに乗って,従来からパワーエレクトロニクス
御から省エネルギー運転までの幅広い自由度を持っている
機器が使われている工場,交通機関,電力系統,オフィス,
ので,状況に応じて適切に運用されることが望ましい。そ
商店では統合管理が進み,家庭においては「IH」
(Induc-
こで,これからは環境を含めた周囲との調和を多角的に保
tion Heating)や「インバータ」の語を冠した電気製品が
ちながら,性能・機能をより高度化する技術の方向性と尺
増加している。
度を明確にすることが必要と思われる。
パワーエレクトロニクスの基本的機能は,エレクトロニ
クス制御による電気エネルギーのコントロール,変換(電
(1) 資源消費の削減と環境負荷の軽減
大ざっぱな数字ではあるが,20 年でパワーエレクトロ
圧,電流,周波数,波形)
,他のエネルギー形態への変換
ニクス機器の体積は約 1/10,質量は 1/5 に低減している。
(電磁気,アクチュエータ,高周波加熱など)である(図
一方,消費エネルギーや CO2 の削減への対応については,
1)
。そのため,情報化社会における高速で正確な電気エ
素子や回路の損失低減から,省エネルギー運転,回生エネ
ネルギーの管理・制御機能を果たすことが期待される。
ルギーの回収といった取組みがなされている。これらの継
本稿では,パワーエレクトロニクスの動向と富士電機に
おける研究開発状況について述べる。
続的な効果拡大には,低損失の回路方式,新パワーデバイ
スといった部分最適化手法とそれによる小型軽量化に加え,
システム運用面での最適化を図る新技術が望まれる。
(2 ) ノイズや高調波の規制
パワーデバイスのスイッチングによるノイズや高調波を
図1 パワーエレクトロニクスの要素技術と製品群
抑える回路とノイズを外部に漏らさせない構造は,他の機
器への障害を防ぐ重要なポイントである。近年,EMC
サーボ
新エネルギー用
インバータ
モータ
インバータ
(Electromagnetic Compatibility)についての規格化が進
み,国際電気標準の IEC 規格では 150 kHz ∼ 30 MHz 帯
UPS
電力系統
補償装置
高周波応用
域の雑音端子電圧(伝導ノイズ)を規定値以下とする指令
が出されている。国内においても IEC の指令に沿った
「高圧需要家ガイドライン」と「家電・汎用品高調波抑制対
各種電源
策ガイドライン」が 1994 年に制定され,自主規制に入っ
ている。また,国内の情報処理機器については,VCCI
エンジニア
リング
IT
電子
回路
制御
トポ
ロジー
数値
解析
冷却
パワー
デバイス
電磁気
構造
(情報処理装置等電波障害自主規制協議会)にて電磁波放
射による電波障害を起こさないようにする自主規制がある。
これらに対応する電磁的にクリーンな機器を実現するには,
電源高調波や雑音端子電圧を抑える高度の回路・構造技術
海田 英俊
マイクロプロセッサを応用したパ
ワーエレクトロニクス技術の開発
に従事。現在,
(株)富士電機総合
研究所パワーエレクトロニクス研
究所長。工学博士。
441( 3 )
富士時報
パワーエレクトロニクス技術の動向と展望
Vol.75 No.8 2002
が必須である。
図2 パワーデバイスの変遷
(3) 新しい価値の追求
造や,装置性能水準の高度化によって,より一層貢献度を
高めることができると考える。
デバイス容量
これからの情報化社会においては電気エネルギーやモー
ションの制御と IT とが密接に融合した先端的新機能の創
GTO
MVA
サイリスタ
MOSFET
バイポーラ
トランジスタ
現状においても,数十 MVA の無効電力制御を高速制御
する IGBT 式 SVC(Static Var Compensator)
,高速 CPU
IGBT
1970
1980
1990
2000
年代
に低圧大電流を供給する高速電源,また,精密機械を nm
オーダー制御するサーボなど,驚くべき性能の機器が次々
と実用化されている。
図3 電流センサの原理と外観
小コイル
断面
パワーデバイスの適用技術
is
パワーエレクトロニクス機器に必須のキーパーツはパ
ワーデバイスである。図2に示すごとく,パワーデバイス
ip
Ro
積
v(t ) 分
器
∫v(t )dt
はサイリスタに始まり,バイポーラトランジスタや GTO
(Gate Turn Off thyristor)を経て,現在は IGBT へと移
行している。IGBT は高圧・大容量化が比較的容易なため,
サイリスタや GTO との置換えも射程内とされているが,
(a)ロゴスキーコイルの原理
優位差を多角的につけることも重要になってくる。以下に
パワーデバイスの適用技術に関する取組みを紹介する。
3.1 新パワーデバイスの適用技術
富士電機では新デバイスとして FS-IGBT(Field Stop
IGBT)と逆阻止 IGBT の 2 種を開発している。その成果
を受けて,現在,適用技術の確立を進めている。
(b)外観
(1) FS-IGBT
FS-IGBT は従来に比べて大幅な順方向電圧降下の低減
と高速化を図ったデバイスである(本特集号の別稿「大容
。電流
量 6 in 1 IGBT モジュールの適用技術」の図5参照)
3.2 パッケージ内部の観測技術
密度を高くとれる IGBT チップと入出力端子を最適配置し
複数チップを実装している大容量パワーデバイスにおい
たことで,設置面積が従来比 1/2 の薄型パッケージ化が図
て,信頼性確保は大きな課題の一つである。パッケージ内
られている。高性能の冷却フィンと組み合わせたインバー
に複数実装されている IGBT チップは,構造や配置などに
タスタックの試作評価では,損失が従来比約 2 割減となる
よる動作条件の違いを極力抑え,均等な負荷分担とするよ
結果が得られており,インバータや電源機器の大幅な小型
うに設計されている。しかし,より厳しい条件での負荷分
化が期待できる。
担を確認しようとすると,狭く高電磁界のパッケージ内に
(2 ) 逆阻止 IGBT
おける各チップの電流測定は容易ではなく,小型で高速性
逆阻止 IGBT は逆耐圧を持つまったく新しい素子である。
と精度を備えるセンサも得がたかった。そこで今回,図3
これまでの IGBT は逆耐圧を持っておらず,順方向だけの
に示すとおり,圧接構造素子組込み用の微小なセンサを開
開閉能力に限定されていた。そのため,サイリスタ整流器
発し,素子への影響なしにチップ電流を詳細に観測するこ
のようにシンプルだが逆電圧のかかる回路方式には適して
とに成功した。また,これによって全域で正常に負荷が分
いなかった。開発された逆阻止 IGBT は,順方向電圧降下
担されることも裏づけられた。本測定技術を基に,大容量
を増すことなく,独特の耐圧構造にて逆耐圧を持たせるこ
パワーデバイスの性能・信頼性向上を図れるものと考える。
とに成功している。この逆阻止 IGBT を二つ逆並列に接続
すると,理想スイッチに近い高速で低損失の双方向スイッ
技術の動向と取組み
チを構成できる(本特集号の別稿「逆阻止 IGBT の適用技
。新しいパワーデバイスは新しい技術の
術」の図4参照)
電源およびドライブ分野と回路・制御・情報の各要素技
直接
術の大まかな関係を 図4にまとめてみた。電源分野では,
変換をはじめとする新しい回路方式の展開が期待できる。
低ノイズ,高力率,低高調波,高効率が機器の指標となっ
源泉であり,逆阻止 IGBT
の登場によって,AC-AC
ているため,回路技術に重点が置かれている。特に小容量
442( 4 )
富士時報
パワーエレクトロニクス技術の動向と展望
Vol.75 No.8 2002
では最低限の部品点数での実現が重要である。一方,ドラ
(b)
がその原理である。
策装置を製品化した。 図7
イブ分野では,省エネルギー運転,チューニングによる省
図7
の UPS におけるバッテリーの代わりに大容量コン
(a)
力化,状態推定や同定による高性能化といった運用や制御
デンサをエネルギー蓄積要素として用いているので,信頼
に重点がある。なお,IGBT の直並列接続技術が大容量化
性が高く長期にわたってメンテナンスが不要であり,電源
における共通の課題である。
品質改善に大きく寄与できるものと考える。
これらの要素技術や応用についての取組みを以下に紹介
する。
4.2 ドライブシステムの取組み
4.1 電源分野の取組み
ボの制御関連技術を紹介する。
4.1.1 ノイズ・高調波・損失低減
4.2.1 インバータ制御技術
モータドライブ分野の主な機器としてインバータとサー
ソフトスイッチングは回路の共振を利用して掲記の課題
インバータは誘導機または永久磁石同期機に対応する機
を解決する技術であり,特にスイッチング周波数の高い小
種が開発されている。誘導機については,ベクトル制御,
型電源に適している。また,最近クローズアップされてい
速度センサレスベクトル制御,V/f 制御とその発展型であ
る問題には待機電力削減がある。これに対してはバースト
るトルクベクトル制御が,専用モータ,汎用モータから高
発振による間欠運転にてトップクラスの低待機電力化技術
圧モータまでのバリエーションをそろえて実用に供されて
を確立している。
いる。永久磁石同期機ドライブにおいても,富士電機では
以上の複雑な要求を満たしつつ小容量の回路を再現性よ
ベクトル制御および V/f 制御を実用化している。取扱い
く実現するには集積化が有効であり,富士電機ではすでに
が簡便な V/f 制御は,高効率制御の実現で省エネルギー
スイッチング電源用 IC を製品化している。図5に IC の外
駆動に適し,しかも速度センサレスベクトル制御と比較し
観を示す。
て遜色(そんしょく)のない制御性能を実現している(本
数百∼数 kW クラスの電源は,サーバや通信機器など
特集号の別稿
「永久磁石同期電動機のセンサレス制御技術」
を対象とすることが多い。そのため,システムを効率よく
。
の図6参照)
安定に運用できるように,高精度と高効率,高力率,低高
4.2.2 サーボの新機能
調波であることが望まれる。これらを同時に達成できる原
高速・高精度用途に使用されるサーボシステムでは,二
理的に優れた変換回路として,富士電機では,本特集号の
つの取組みを行っている。第一はサーボアンプの性能向上
別稿「AC-DC 変換回路技術」の図1に示す方式を提案し
である。高速位置決めと制振制御は,サーボを組み込んだ
。
ている(図6に回路構成と装置の外観を示す)
図5 スイッチング電源用 IC
4.1.2 新しい応用
最近の生産設備や情報処理に使用される装置にはきわめ
て安定な電源環境を要求するものがあり,瞬時電圧低下が
発生するとトラブルや歩留り低下など,大きな影響がある。
ま た , 従 来 使 わ れ て い る UPS( Uninterruptible Power
Supply)では,瞬時電圧低下の頻度が高いと充放電の繰
り返しでバッテリーが急速に劣化する問題があった。そこ
で富士電機では,瞬時電圧低下に特化した瞬時電圧低下対
図4 要素技術と電源およびドライブ分野の関係
図6 ワールドワイド対応三相 AC-DC 電源
回路技術
,
イズ
低ノ 失
損
低
率,
高力 調波
高
低
ソフト
スイッチング
マルチレベル
変換器
高性能
変換器
大容量化
高応答
制御技術
アドバン
スト制御
高応
答
高速
制御
省力化
チュー
ニング
低損
失
能
高性
省エネルギー
運転
メン
テナ
ンス
,サ
ービ
ス
3φAC200 V
またはAC400 V
R
S
素子
直並列
量化
大容
電
源
分
野
低サー
高圧化 ジ,
情報化
DC800 V
+
ワールド
ワイドPFC
+
11 kW/DC400 V
P
DC-DC
コンバータ
T
N
(a)回路構成
ド
ラ
イ
ブ
分
野
推定・
同定
,
制御
ス
テム 御, ービ
シス ント制 ス,サ
ラ
ン
プ テナ
メン
(b)装置の外観
443( 5 )
富士時報
パワーエレクトロニクス技術の動向と展望
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図7 UPS と瞬時電圧低下対策装置の基本構成比較
図9 多直列回路の基本構成
直流電圧
電源系統
+
バイパス時
ゲートバランスコア
コンバータ
AC→DC
インバータ
DC→AC
バッテリー
ゲート
駆動回路
(上アーム)
負
荷
充放電回数は有限
(a)UPS
電源系統
バイパス時
コンバータ
AC→DC
ゲート
駆動回路
(下アーム)
インバータ
DC→AC
+
大容量コンデンサ
負
荷
充放電に制約なし
(b)瞬時電圧低下対策装置
図8 FALDIC-βと支援システム
キャリヤ周波数・低スイッチング速度としてバランスを維
持せざるを得ない欠点があり,装置の小型化・高性能化を
阻む要因であった。今回,富士電機では,この問題を克服
できる新しい直列技術を開発した。ゲート駆動にバランス
用コアを挿入する簡素な構成であり,しかも IGBT の増幅
作用によって自動的にバランスする性質を持つので,高
キャリヤ周波数による高性能化に有効と思われる。図9は
多直列回路をインバータに適用した場合の基本構成である。
あとがき
装置の性能を引き出す要となっている。第二は装置組込み
調整時に用いる支援ツールである。ツールに搭載したマシ
以上,パワーエレクトロニクスにおける研究開発の取組
ンアナライズ機能は,組込み対象の装置が持つ複雑な機械
みの概要について紹介した。今後とも,さまざまなニーズ
振動モードを解析することができる。図8はサーボシステ
の実現と環境やエネルギー問題に貢献する新技術の迅速な
ムと支援ツールの組合せ例である。従来は装置に複雑な機
開発を図るべく,技術力を結集し高めていく所存である。
械振動があると多大な調整時間を要していたが,支援ツー
ルを使用すると,振動抑制制御の適切かつ速やかな調整が
可能になる。さらに今後,機械系伝達関数の同定精度が向
上すれば,サーボの無調整化まで期待が持てる。
参考文献
(1) 鷁頭政和.高効率自励発振型電流共振コンバータ,電子技
術.vol.43,no.5,2001,p.22- 25.
(2 ) 三野和明,黒木一男.ワールドワイド対応整流回路のシ
4.3 大容量化技術
電力系統のフリッカ補償や無効電力補償,あるいは大型
モータ駆動に用いる大容量変換器では,パワーデバイスを
直並列接続して必要な装置容量を実現しなければならない。
従来の直列技術では,サイリスタ,GTO や IGBT に電圧
を均等に分担させる機能を抵抗やスナバ回路で実現してい
た。この方法は抵抗などによる損失が大きく,しかも低
444( 6 )
ミュレーション解析結果と実験結果.半導体電力変換 SPC00 - 78 産業電力電気応用 IEA - 00 - 54 合同研究会.2000,
p.23- 28.
(3) 五十嵐征輝ほか.簡易力率改善方式新部共振コンバータ.
半導体電力変換研究会 SPC- 00- 19.2000,p.37- 42.
(4 ) 伊東淳一ほか.永久磁石同期電動機のV/f制御の高性能
化.電気学会論文誌D.vol.122,no.3,2002,p.253- 259.
富士時報
Vol.75 No.8 2002
逆阻止 IGBT の適用技術
武井 学(たけい まなぶ)
小高 章弘(おだか あきひろ)
藤本 久(ふじもと ひさし)
まえがき
以下,逆阻止 IGBT の構造,動作確認結果について報告
する。
現在普及している電力変換回路は電解コンデンサや直流
逆阻止 IGBT
リアクトルなどで構成される直流平滑回路が必要である。
この直流平滑回路は装置の小型化,低コスト化,長寿命化
の大きな妨げとなっている。そこで直流平滑回路を用いず
逆阻止 IGBT は,従来の IGBT が持ち得なかった逆耐圧
(1)
に変換動作が可能な方式としてマトリックスコンバータに
代表される直接変換形電力変換回路の研究が盛んに行われ
性能を有する新しいデバイスである。
図2に従来型 IGBT,および逆阻止 IGBT を用いた双方
向スイッチを示す。逆阻止 IGBT をマトリックスコンバー
ている。
図1にマトリックスコンバータの主回路構成を示す。直
タなどの直接変換回路に適用することで,従来型 IGBT で
接変換回路には双方向の電流遮断が可能なスイッチが必要
は必須であった逆耐圧を担うダイオードが不要となる。こ
である。汎用スイッチ素子は逆印加電圧に対する耐圧(逆
れによって,
耐圧)を持たないため,双方向スイッチの回路構成が複雑
となる。また,双方向の電流を遮断するため,構成が複雑
な交流スナバ回路が必要となる。富士電機は逆耐圧性能を
持つ新しい IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor,以
下「逆阻止 IGBT」と略す)を開発中である。今回逆阻止
IGBT を用いた双方向スイッチモジュールを試作し,直接
変換回路(交流チョッパ回路)に適用した場合の転流動作
(1) チップ数削減によるコストダウンおよびパッケージサ
イズダウン
(2 ) オン電圧の低減:従来型 IGBT+ ダイオードで 4 V 程
度が逆阻止 IGBT 単体で 2 V 程度
などが期待できる。
次に逆阻止 IGBT の逆耐圧構造について述べる。
図3
(b)
に従来型 IGBT, 図3
にメサ型逆阻止 IGBT,
(a)
に分離型逆阻止 IGBT の逆電圧印加時のチッ
および図3
(c)
および変換効率を確認した。
プ端部断面模式図を示す。
チップ製造工程最終段で,チップはウェーハから切り出
図1 マトリックスコンバータの主回路構成
される(ダイシング工程)
。このためチップの外周は,結
晶ひずみが大きく結晶欠陥密度が高いダイシング側面を有
U
する。従来型 IGBT では,逆バイアスを印加すると,裏面
pn 接合から伸びた空乏層,すなわち高電界領域がダイシ
R
S
T
V
図2 逆阻止 IGBT を用いた双方向スイッチ
W
+
IGBT×2+Di×2
逆阻止 IGBT×2
双方向スイッチ
または
または
オン電圧 4 V
オン電圧 2 V
(a)従来型IGBTモジュール
(b)逆阻止IGBTモジュール
武井 学
小高 章弘
藤本 久
パワーデバイスの設計・開発に従
半導体電力変換装置の研究・開発
半導体電力変換装置の研究・開発
事。現在,
(株)富士電機総合研究
に従事。現在,
(株)富士電機総合
に従事。現在,
(株)富士電機総合
所デバイス技術研究所。
研究所パワーエレクトロニクス研
研究所パワーエレクトロニクス研
究所。電気学会会員。
究所。電気学会会員。
445( 7 )
富士時報
逆阻止 IGBT の適用技術
Vol.75 No.8 2002
ング側面にも現れ,結晶欠陥で絶えず発生しているキャリ
ラインドした後に分離層が裏面に現れるようにし,ダイシ
ヤが電界により輸送されて大きな漏れ電流となるため,逆
ング部をすべて分離層で覆うようにした。その後,裏面
〕
。
耐圧は得られなかった〔図3
(a)
p+コレクタ層を形成することで,空乏層は連続した裏面コ
メサ型逆阻止 IGBT ではチップ外周部を n− 層を貫くよ
レクタ層と分離層とに沿って伸び,ダイシング側面に到達
うにエッチングして,活性部とダイシング側面を電気的に
〕
。
しないので,漏れ電流の発生を防ぐことができる〔図3
(c)
隔離している。ダイシング側面には電界が発生しないので
結晶性を劣化させずに深い選択拡散を行う技術と,非常に
漏れ電流が発生しない。逆バイアス時にはエッチング溝側
薄いウェーハを扱う製造技術の組合せにより,初めてこの
面に現れる pn 接合部から空乏層が伸びる。この領域には
ようなデバイス構造を実現することが可能になった。図4
シリコンの結晶ひずみが存在しないので漏れ電流は小さい。
に試作した双方向スイッチモジュールの外観を示す。
さらに pn 接合部が正のベベル構造になっているため電界
が緩和されており,電界の局所集中が避けられる〔 図 3
直接変換装置の構成
(b)
〕
。分離型逆阻止 IGBT では,あらかじめウェーハ表面
から非常に深い分離層(p+)を形成し,ウェーハ裏面をグ
逆阻止 IGBT の評価用回路として,直接変換回路で最も
簡単な交流チョッパ回路を使用した。 図 5 に降圧形交流
チョッパ回路の主回路構成を,表1に主要部品表を示す。
図3 逆電圧印加時のチップ端部断面
(1) 入力フィルタ(L,C)
ダイシング側面
p+
p+
PWM(Pulse Width Modulation)成分を平滑する逆 L
形フィルタを接続した。
n−
100 m
キャリヤ発生
各スイッチは開発中の逆阻止 IGBT(600 V/50 A 定格)
空乏層
を逆並列接続して構成されている。また,ダイオードと
+
p
グラインド面
ツェナーダイオードを逆直列接続した回路を逆阻止 IGBT
(a)従来型IGBT
のコレクタ - ゲート間に接続したダイナミッククランプ形
ダイシング側面
p+
p+
p+
(2 ) 双方向スイッチ
n−
スナバ回路を各スイッチに適用した。
(3) 検出回路
100 m
双方向スイッチの転流制御用として,負荷電流検出用
CT を,また電源電圧検出用 PT をそれぞれ接続した。
空乏層
(4 ) 入力電源,負荷回路
入力電源は単相 200 V 50 Hz,負荷回路は R- L 誘導負荷
図5 降圧形交流チョッパ回路
グラインド面
(b)メサ型逆阻止IGBT
G1
SW1
ダイシング側面
p+
Q1
L
Q2
n−
p+
CT
100 m
分離層
C
空乏層
G2
G3
p+
LL
Q4
Q3
G4
RL
SW2
グラインド面
(c)分離型逆阻止IGBT
PT
G1
G2
G3
G4
制御回路
図4 試作モジュールの外観
表1 主要部品表
記 号
(a)双方向スイッチ 1 個
(b)双方向スイッチ 3 個
内蔵タイプ
内蔵タイプ
(逆阻止 IGBT 2 チップ内蔵)
(逆阻止 IGBT 6 チップ内蔵)
446( 8 )
部品名
定 格
C
コンデンサ
15 F/630 V
L
リアクトル
2 mH/15 A
Q1∼Q4
逆阻止 IGBT
600 V/50 A
CT
電流検出器
100 A-4 V
PT
電圧検出器
200 V-5 V
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逆阻止 IGBT の適用技術
Vol.75 No.8 2002
とした。
よるサージ電流やサージ電圧が発生し,最悪の場合,素子
を破壊する。これらの対策として,従来の負荷電流転流方
転流方式
図7 複合転流方式
4.1 転流パターン
直接変換回路では,スイッチング時に電源の短絡を防ぐ
電源電圧
だけでなく,負荷端子の開放が生じないようにスイッチン
負荷電流
グする必要がある。スイッチング時の各スイッチの切換パ
ターン(転流パターン)には,負荷電流に依存して転流す
る方式と電源電圧に依存して転流する方式がある。
図6に負荷電流転流方式と電源電圧転流方式における各
逆阻止 IGBT の点弧パルスパターンの例を示す。負荷電流
転流方式は負荷電流の極性に応じて各 IGBT を個別に制御
負荷電流転流
電源電圧転流
する方式である。例えば,負荷電流の極性が正(図5にお
いて負荷の部分に示した矢印の向きを正とする)の場合は,
図6
に示すように,転流する IGBT(図中 Q2,Q3)を
(a)
図8 各転流方式による動作確認波形
オーバラップさせることにより負荷電流を転流させる。ま
た,電源短絡を防ぐために同一極性の IGBT には短絡防止
入力電圧(200 V/div)
期間を設けている。一方,電源電圧転流方式は電源電圧の
出力電圧(200 V/div)
極性に応じて各 IGBT を制御する方式である。例えば,電
0V
源電圧の極性が正(図5においてコンデンサの部分に示し
0V
サージ電圧発生
(b)
に示すように,
た矢印の向きを正とする)の場合は,図6
逆電圧印加 IGBT(図中 Q1,Q3)を常時オンさせること
0A
により負荷端子の開放を防止し,転流する IGBT(図中 Q2)
と同一極性の IGBT(図中 Q4)に短絡防止期間を設けて
0A
入力電流(5 A/div)
いる。
2 ms/div
出力電流(5 A/div)
いずれの方式も検出信号(負荷電流,電源電圧)のゼロ
(a)負荷電流転流方式
クロス付近において,検出誤差などに起因した転流失敗に
入力電圧(200 V/div)
図6 各転流方式のパルスパターン
出力電圧(200 V/div)
0V
0V
Q1
Q3
サ
ー
ジ
電
流
発
入力電流(5 A/div) 生
0A
0A
Q2
2 ms/div
Q4
出力電流(5 A/div)
(b)電源電圧転流方式
SW1
SW2
SW1
(a)負荷電流転流方式(負荷電流極性が正の場合)
入力電圧(200 V/div)
出力電圧(200 V/div)
Q1
0V
0V
Q3
Q2
0A
0A
入力電流(5 A/div)
Q4
2 ms/div
SW1
SW2
出力電流(5 A/div)
SW1
(b)電源電圧転流方式(電源電圧極性が正の場合)
(c)複合転流方式
447( 9 )
逆阻止 IGBT の適用技術
Vol.75 No.8 2002
図9 発生損失測定結果
表2 運転条件
条 件
項 目
入力電圧
200 V/50 Hz
出力電圧
90 V/50 Hz
出 力
1.16 kW
負 荷
R L =5 Ω, L
=10
mH(cosφ=0.85)
L
スイッチング周波数
オンオフ比
10 kHz
45 %
80
72 W
70
発生損失(W)
富士時報
60
51 W
50
その他
(リアクトルなど)
40
30
20
通流損失
10
0
スイッチング
損失
既存モジュール適用
(効率93.9 %)
逆阻止IGBT適用
(効率95.7 %)
式と電源電圧転流方式を切り換えて転流を行う「複合転流
方式」を考案し,実験によりその効果を確認した。図7に
電源電圧波形と負荷電流波形に対する転流切換パターンを
向スイッチを構成した場合の変換効率を測定した。表2に
示す。今回は電源電圧転流パターンを優先とし,電源電圧
運転条件を, 図 9 に発生損失測定結果を示す。直列ダイ
の極性切換り付近で負荷電流転流パターンに切り換えるこ
オード通流損失の低減効果により素子損失が 65 %程度に
とにより転流失敗を抑制している。
低減することが確認された。
4.2 転流動作確認結果
あとがき
各転流方式による転流動作確認結果を図8に示す。負荷
電流転流方式と電源電圧転流方式で発生するサージ電圧お
逆阻止 IGBT は,直接変換装置を実用化するうえで重要
よびサージ電流が複合転流方式で運転することにより抑制
なファクタとなる。また,電流形変換装置などへの適用も
されていることが確認できる。
期待できる。今後は,逆阻止 IGBT の早期製品化を目指す
とともに,各種装置への適用を考慮した周辺回路について
発生損失
図5の試験装置において,試作した逆阻止 IGBT を逆並
列接続して双方向スイッチを構成した場合と既存モジュー
ル(2MBI50N-060,600 V/50 A)を逆直列接続して双方
448(10)
も開発していく所存である。
参考文献
(1) Takei, M. et al.
600V-IGBT with Reverse Blocking
Capability. in proceedings of ISPSD ’
01. 2001,p.413-416.
富士時報
Vol.75 No.8 2002
大容量 6 in 1 IGBT モジュールの適用技術
滝沢 聡毅(たきざわ さとき)
吉田 收志(よしだ あつし)
松原 邦夫(まつばら くにお)
まえがき
装置の小型化が実現できる。モジュールの定格は,
1,200 V/225 A,300 A,450 A である。
インバータや UPS(Uninterruptible Power Supply)に
(2 ) モジュールの出力主端子(図2における U,V,W 端
代表されるパワーエレクトロニクス装置においては,年々
子および+,−端子)がモジュールの外側に配置されて
小型,低コスト,高性能および高信頼性化の要望が非常に
いるため,主回路配線構造が容易に実現できる。また各
強まってきている。特に大容量の装置に適用される電力変
相が独立に出力端子を有しているため,並列接続が容易
換用半導体素子は,これらの要望に応えるための開発が
に実現できる。
(3) モジュール上部にゲート駆動回路の搭載が可能で,装
年々進められてきている。
そこで富士電機はこれら大容量のパワーエレクトロニク
ス 装 置 向 け に , 新 し い IGBT( Insulated Gate Bipolar
Transistor)と FWD(Free Wheeling Diode)を搭載し
置の省スペース化が実現できる。
(4 ) サーミスタを内蔵しているため,過熱保護が可能であ
る。
た 6 アームのインバータブリッジ構成とした大容量 6 in1
IGBT モジュールと,保護機能および並列接続機能を有し
た新しい IGBT 駆動用ゲート回路を製品化する。本稿では
図2 大容量 6 in 1 IGBT モジュールの外形図および等価回路図
これら製品の特徴およびその適用技術について紹介する。
U
V
W
G6
E6
C1
G1
E1
G4
E4
G2
E2
T1
T2
150
ジュールの外観を図1に,外形図および等価回路を図2に
C3
G3
E3
137
新しいコンセプトとして開発した大容量 6 in 1 IGBT モ
C5
G5
E5
122
2.1 モジュールの特徴
110
大容量 6 in1 IGBT モジュールの特徴
示す。本モジュールは,大容量パワーエレクトロニクス装
置への適用を目的に以下の特徴を有する。
(1) 6 アームのインバータブリッジ構成(図2参照)であ
る。また富士電機製従来モジュール(1MBI400N120)
−
22
+
−
50
を 6 個使用した場合と比較して約 1/2 の設置面積で,
22
+
−
50
162
22
+
50
17
22
(a)外形図
図1 大容量 6 in 1 IGBT モジュールの外観
〔インバータ部〕
〔サーミスタ部〕
C5
C3
C1
G5
G3
G1
E5
U
+
+
+
E3
V
G6
G4
E6
E4
−
−
T1
E1
W
T2
G2
E2
−
(b)等価回路図
滝沢 聡毅
吉田 收志
松原 邦夫
パワーエレクトロニクス製品の開
パワーエレクトロニクス製品の研
電力変換装置,パワーデバイスの
発に従事。現在,
(株)富士電機総
究・開発に従事。現在,
(株)富士
研究開発に従事。現在,
(株)富士
合研究所パワーエレクトロニクス
電機総合研究所パワーエレクトロ
電機総合研究所パワーエレクトロ
研究所副主任研究員。電気学会会
ニクス研究所副主任研究員。電子
ニクス研究所。電気学会会員。
員。
情報通信学会会員。
449(11)
富士時報
大容量 6 in1 IGBT モジュールの適用技術
Vol.75 No.8 2002
インバータ運転した場合の,富士電機製従来モジュール
との損失比較結果(計算結果)を示す。損失は約 20 %
2.2 新 IGBT,新 FWD の特徴
今回富士電機は大容量 6 in 1 IGBT モジュールに搭載す
る IGBT および FWD チップを新規に開発した。これら新
低減している。
(2 ) FWD は低ノイズ化を目的に,アノードからの少数
キャリヤをコントロールすることで,ソフトな逆回復特
規チップの特徴は以下のとおりである。
(1) IGBT は,空乏層を止めるための拡散層(Field Stop
性を得ている。 図 4 にチョッパ動作時の,従来タイプ
層)と,トレンチゲートを設けた新規構造により低オン
FWD との放射ノイズスペクトル比較結果を示す。ピー
電圧化と低スイッチング損失化を達成している。図3に
ク部で約 8 dB の放射ノイズ低減効果が得られている。
インバータ発生損失(1アーム分)
(W)
P sat(IGBT)
+ P on+ P off+ P sat(FWD)
+ P rr
図3 インバータ発生損失比較
ゲート駆動回路の特徴
300
図5に大容量 6 in 1 IGBT モジュールの上部にゲート駆
255 W
動回路を搭載し,ユニット化した外観(開発中)を示す。
250
(2 )
(1)
本ゲート駆動回路の特徴は以下のとおりである。
203 W
200
(1) アーム短絡時や出力短絡時の際のソフト遮断機能
P rr
P sat
(FWD)
150
P off
(2 ) 保護回路動作時のアラーム信号出力機能
(3) 大容量 6 in 1 IGBT モジュールの並列接続を考慮した
100
P on
ゲート駆動回路の並列接続機能
50
P sat
(IGBT)
これらの機能によって装置の高信頼性化が実現できると
ともに,図5に示すユニットを多並列接続化することで,
0
従来モジュール
(Sシリーズ)
大容量 6 in 1 IGBT
モジュール
(1,200 V/450 A)
さらなる大容量装置への展開が可能となる。
図6 にアーム短絡時のソフト遮断波形を示す。約 3,000
インバータ発生損失計算条件:
I o=150 Arms,f o=50 Hz,負荷力率=0.85
直流電圧=720 V,
f c=10 kHz 2アーム変調
T j=125 ℃
図5 ゲート駆動回路の外観
図4 FWD の違いによる放射ノイズ比較
放射ノイズレベル(dB V/m)
100
90
80
70
64dB V/m
60
50
40
30
20
図6 アーム短絡時のソフト遮断波形
10
0
30
40
50
60 70 80 90 100
周波数(MHz)
200 230
(a)従来タイプ FWD
放射ノイズレベル(dB V/m)
100
90
VCE
80
70
60
56dB V/m
50
40
0V
I C(短絡電流)
30
0A
20
10
0
30
40
50
60 70 80 90 100
周波数(MHz)
200 230
(b)大容量 6 in 1 IGBT モジュール用 FWD
450(12)
VCE=200 V/div,I C=2,000 A/div,
時間=2.5 s/div
直流電圧:600 V,室温,スナバレス
富士時報
大容量 6 in1 IGBT モジュールの適用技術
Vol.75 No.8 2002
図7 ゲート駆動回路並列接続時のスイッチング波形
従来方式
タ
ー
ン
オ
ン
波
形
図8 大容量 6 in 1 IGBT モジュール用ゲート駆動回路基本構成
開発方式
VCE
P
O
N
U
VCE
IC
駆動回路
IC
VCE
VCE
IC
G3
G1
E5
E3
E1
Y
Z
駆動回路
IC
駆動回路
駆動回路
G5
X
タ
ー
ン
オ
フ
波
形
P
O
N
W
P
O
N
V
P4 O4 N4
駆動回路
駆動回路
G6
G4
G2
E6
E4
E2
U ∼ Z :IGBTオンオフ指令端子
P O N :ゲート電源端子
G E :ゲート出力端子(大容量 6 in 1 IGBT モジュール
接続用ホール)
:ゲート駆動回路間接続用ホールまたはランド
I C=50 A/div,VCE=100 V/div,時間=200 ns/div
直流電圧=300 V,室温
評価素子=600 V/100 A 素子
(a)単体使用時のゲート駆動回路結線図
並列接続
短絡ピンもしくはジャンパ
A の短絡電流に対して,スナバレスの条件においても
サージ電圧が低く,速やかな電流遮断を実現している。
また,図7に従来の方法でゲート駆動回路を並列接続し
た場合と,今回開発したゲート駆動回路を並列接続した場
同左
合との,IGBT のターンオン時およびターンオフ時のス
同左
イッチング波形比較を示す。従来方式ではゲート駆動回路
内の定数ばらつきなどによって,スイッチング波形がアン
バランスしているが,今回開発した回路で駆動した場合は,
ほぼターンオン,ターンオフともにバランスした波形と
モジュール1
なっている。
モジュール2 モジュール3
(b)3並列時のゲート駆動回路結線図
図 8 に本ゲート駆動回路の概略の内部基本構成と,本
ゲート駆動回路を 3 並列接続した場合の結線図例を示す。
並列数にかかわらず,並列接続を実施するゲート駆動回路
る。
間に短絡ピンもしくはジャンパ線を接続するだけで IGBT
そこで放熱器効率を向上させるための一方法としてヒー
の並列駆動が実現できる構成となっている。本構成とする
トパイプの一種であるヒートレーン技術(TS ヒートロニ
ことで,装置の大容量化が容易に実現可能となる。また,
クス社製)適用を試みた。ヒートレーンとは自励振動ヒー
( 3)
従来は必ず実施していた装置容量ごとのゲート駆動回路設
トパイプとも呼ばれており,一般的なヒートパイプが毛管
計が不要となり,装置設計時間の短縮化が可能となる。
力を用いているのに対し,ヒートレーンは作動液体を循環
させるための駆動力として振動力を用いているものである。
大容量 6 in1 IGBT モジュールのための放熱器
今回さらに,ヒートレーンを効率よく動作させるため,
放熱器の受熱面のみならずフィン部にも配することで,放
大 容 量 6 in 1 IGBT モ ジ ュ ー ル は 設 置 面 積 が 従 来 モ
熱器内の温度の均一化を図っている。
ジュールに対して約 1/2 となる特徴を有しているが,その
図9にヒートレーンの受熱,放熱および熱輸送の作動原
反面,発熱密度が約 2 倍になる課題も有している。そのた
理を,また図10にヒートレーンおよびそれを適用した放熱
め装置設計においてはモジュール冷却用の放熱器の選定が
器の外観を示す。
重要課題となる。
図11に従来から一般に適用されているくし形の放熱器と
一般に発熱密度が高くなると放熱器の熱輸送効率が低下
ヒートレーン放熱器を使用した場合との,同一発生損失条
し,同一損失発生条件においても放熱器内の温度こう配が
件での放熱器の熱抵抗値および体積比較結果を示す。発熱
大きくなり,その結果として放熱器表面のピーク温度は高
密度が低い従来のモジュールを使用した場合,くし形のも
くなる。このことは放熱器効率の低下を意味し,従来適用
ので適用可能(熱抵抗値= 0.038 ℃/W)であったが,
していた放熱器は適用できない。そのため大容量 6 in1
大容量 6 in 1 IGBT モジュールとした場合,発熱密度が高
IGBT モジュール用として新規に放熱器の開発が必要とな
く大幅に熱抵抗値が上昇する(熱抵抗値= 0.057 ℃/W)。
451(13)
大容量 6 in1 IGBT モジュールの適用技術
Vol.75 No.8 2002
図9 ヒートレーン作動原理
蒸発部
図11 くし形放熱器とヒートレーン放熱器の比較
液相
凝縮部
気相
0.057
0.05
0.02
気相の移動
受
熱
熱抵抗値(℃/W)
液相の自励振動
放
熱
0.04
0.038
0.035
0.03
体積
0.01
0.02
体積(m3)
富士時報
0.01
受熱(蒸発部)
作動液の核沸騰
(相変化)
気相の移動
(潜熱輸送)
放熱(凝縮部)
気相の凝縮
(相変化)
従来
大容量 6 in 1 IGBT
モジュール モジュール
大容量 6 in 1 IGBT
モジュール
くし形放熱器
(従来タイプ)
ヒートレーン放熱器
(新規開発品)
液相の自励振動
(顕熱輸送)
液相の緩やかな循環
あとがき
熱吸収により作動液が相変化し,蒸気の移動を利用して潜熱を輸送
する。核沸騰により液相が振動し,この振動を利用して顕熱を輸送
する。
大容量のパワーエレクトロニクス装置用半導体として開
発した大容量 6 in 1 IGBT モジュールの特徴とその適用技
図10 ヒートレーンプレートと放熱器
術について紹介した。
今後とも,信頼される電力変換用半導体モジュールおよ
ヒートレーンプレート
コルゲートフィン
び本半導体モジュールを適用したパワーエレクトロニクス
装置の製品化に,より一層注力していく所存である。
参考文献
(1) 吉田收志ほか.IPM 並列接続のためのゲート駆動回路−
スイッチング電流均等化の一手法−.平成 14 年電気学会全
受熱板
国大会.no.4- 020,2002,p.27- 28.
(2 ) 滝沢聡毅ほか.IPM 並列接続のためのゲート駆動回路−
保護協調のための一手法−.平成 14 年電気学会全国大会.
本課題に対してヒートレーン放熱器は低熱抵抗化(熱抵抗
3
値= 0.035 ℃/W)と,大幅な小型化(体積:0.016 m →
3
0.009 m ,体積 56 %に削減)を達成している。
452(14)
no.4- 021,2002,p.29.
(3) 萩原克之,山岡達也.ヒートレーン技術を用いた素子冷却
用放熱器.熱設計・対策技術シンポジウム.2002,A4- 4.
富士時報
Vol.75 No.8 2002
平型 IGBT 素子内部の電流測定技術
降矢 正保(ふるや まさほ)
石山 泰士(いしやま やすお)
まえがき
図1 平型 IGBT の外観
産業,電力,鉄道の分野に適用している電力変換装置に
は,小型・低コストといった要求とともに,社会基盤を支
える大容量のシステム装置としての高い信頼性が求められ
る。大容量装置に適用される素子には,従来はサイリスタ,
GTO(Gate Turn Off)サイリスタが主に用いられていた
が,近年では,IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)
が広く用いられるようになってきている。富士電機では,
高耐圧・大電流デバイスである平型 IGBT を開発し,製品
展開を行っている。この平型 IGBT の外観を図1に示す。
平型 IGBT は,パッケージ内部に複数の IGBT チップお
よびダイオードチップを並列に接続し,大電流化を図って
いる。チップを並列に接続するためには,各チップの電流
分担を均一化することが重要である。
表1 目標仕様
本稿では,平型 IGBT パッケージ内部に配置されている
チップごとに電流センサを取り付け,スイッチング時の電
流を測定する技術について紹介する。
パッケージ内部の電流測定の目標仕様
絶縁耐圧
2.5 kV
周波数帯域
250 kHz
外 形
24.7×24.7(mm)
厚 さ
2.1 mm 以下
圧接型構造を特徴とする平型 IGBT パッケージ内部に配
試作電流センサの特性
置されている各チップの電流分担を把握するためには,
チップごとに電流センサを直接取り付けて電流を測定する
電流センサとして,ロゴスキーコイルを採用する。ロゴ
必要がある。
表1に,今回開発するチップと一体型の電流センサの目
スキーコイルは磁気材料を使用しないため,外形を小さく
標仕様を示す。以下に,目標仕様の概要について説明する。
することができる。このコイルはアンペアの周回積分原理
で電流を検出するため,外部磁束の影響を受けにくい。
(1) 絶縁耐圧
平型 IGBT の定格電圧 2.5 kV と同等の絶縁耐圧とする。
3.1 構 造
(2 ) 周波数帯域
電流センサの周波数特性はターンオフ時の電流変化時間
から設定し,これを周波数帯域の中心とする。
(3) 外
図2に,試作電流センサの外観を示す。図2に示す試作
電流センサの構造は,断面が 1.0 × 1.0(mm)の絶縁体コ
アにポリエステル線(φ 0.2 mm)を 300 ターン密着 1 層
形
チップと電流センサ一体型の構成とするため,チップの
外周部に取り付けられる外形とする。
巻きし,矩形(くけい)トロイダルコアとした。さらに,
これをエポキシモールドで厚さ 2.0 mm,外形 24.7 × 24.7
(mm)に仕上げた。
降矢 正保
石山 泰士
静電気・放電応用装置の研究・開
パワーエレクトロニクス製品の開
発に従事。現在,
(株)富士電機総
発に従事。現在,
(株)富士電機総
合研究所パワーエレクトロニクス
合研究所パワーエレクトロニクス
研究所。電気学会会員。
研究所。電気学会会員。
453(15)
富士時報
平型 IGBT 素子内部の電流測定技術
Vol.75 No.8 2002
評価は,図5に示すように遮断する電流の近傍に試作電流
センサを配置し,試作電流センサが電流遮断時に検知する
3.2 周波数特性
図3に,試作電流センサの周波数特性を示す。図3に示
電流レベルを測定して行った。測定結果を図6に示す。遮
すとおり,周波数帯域の中心が目標仕様の 250 kHz となる
断電流 160 A に対して,外部磁束の影響による,電流セン
ように設定した。測定可能な周波数帯域は 5 kHz ∼ 1.3
サの電流変化が 2 %以下である。これにより,試作電流セ
MHz となる。
ンサは外部磁束の影響を受けることなく,精度よく電流を
測定できることが分かる。
3.3 実波形評価
上記から,試作電流センサは,目標仕様を満足している。
図4に,ターンオフ時の電流測定結果を示す。試作電流
電流分担測定結果
センサと従来からスイッチング試験に用いている電流セン
サを比較すると,両者のターンオフ波形が一致しているこ
とが分かる。これにより,従来から用いている電流センサ
試作電流センサを平型 IGBT パッケージ内部に配置され
と同等の性能であることが分かる。
ているチップごとに取り付けて,各チップの電流を測定し
3.4 外部磁束の影響
プと電流センサ一体型にした電流測定の概略構成である。
た。図7は平型 IGBT パッケージ内部に今回開発したチッ
大電流素子である平型 IGBT パッケージ内部ではチップ
が並列に接続されているため,隣接するチップの電流によ
る外部磁束が電流センサに与える影響について評価した。
図5 外部磁束の影響試験方法
図2 試作電流センサの外観
遮断電流
磁束φ
2.0
.7
24
(単位:mm)
試作器
図3 周波数特性
90
5 kHz
1.3 MHz
−70
−80
100 200
位相
500 1 k 2 k
5 k 10 k 20 k
80
G 70
60
50
40
30
20
10
0
P
−10
50 k100 k200 k 500 k 1 M 2 M
周波数(Hz)
図6 外部磁束の測定結果
300
250
電流値(A)
ゲイン
−60
(0.1 mV)
位相(deg)
ゲイン(dB)
−50
(1 mV)
遮断電流
200
150
100
50
試作電流センサ
0
−50
図4 電流測定波形評価
時間(500 ns/div)
300
電流値(A)
250
200
図7 電流測定の概略構成
150
試作電流センサ
100
試作電流センサ
50
0
従来から用いている電流センサ
−50
454(16)
時間(500 ns/div)
チップ
平型 IGBT パッケージ
富士時報
平型 IGBT 素子内部の電流測定技術
Vol.75 No.8 2002
図8 試験回路構成
RCDスナバ
Q1
負荷リアクトルL
C(コレクタ)
C(コレクタ)
直流電圧
Ed
1
N
2
1
2
N
Q2
内部
iC
供試素子
E(エミッタ)
図9 チップ電流合計波形と電流センサ一括測定の電流波形
ロゴスキーコイルCT
E(エミッタ)
図10 各チップの電流波形
200
2,000
150
電流値(A)
1,500
電流値(A)
CT
従来から用いている
電流センサ
1,000
0
50
チップ電流合計値
500
No.1チップ
100
0
時間(500 ns/div)
時間(500 ns/div)
200
また,図8は試験回路構成である。図8に示すように,供
試素子パッケージ内部に試作電流センサを取り付けて,ス
電流値(A)
150
No.2チップ
100
50
イッチング試験を実施した。スイッチング試験は,平型
IGBT パッケージ全体の遮断電流を 1,800 A とし,各チッ
0
プの電流分担を測定した。
時間(500 ns/div)
200
まず初めに,試作電流センサで測定した各チップの電流
分担が正しく測定できているのかを評価する。図9に,各
用いている電流センサでパッケージ全体の電流を測定した
波形とを示す。図9から,両者の電流波形が一致しており,
試作電流センサを用いることで,各チップの電流を精度よ
150
電流値(A)
試作電流センサで検出した電流を合計した波形と従来から
No.3チップ
100
50
く測定できることが分かる。
図10に,平型 IGBT パッケージ内部に配置されている各
0
時間(500 ns/div)
チップの電流波形を示す。測定した平型 IGBT の各チップ
の電流分担は均一となっていることが明らかとなった。
あとがき
参考文献
(1) Koga,T. et al.Ruggedness and Reliability of the 2.5kV-
本稿では,平型 IGBT パッケージ内部に配置されている
1.8kA Power Pack IGBT with a Novel Multi-Collector
チップごとに電流センサを取り付け,スイッチング時の各
Structure. 1998 IEEE International Symposium on Power
チップの電流を測定する技術について紹介した。
Semiconductor Devices and ICs. p.437- 440.
今後は,電流測定技術を駆使して,パワーデバイスのさ
らなる高信頼化に貢献する所存である。また,今回紹介し
た電流測定技術を電力変換装置にも展開していく予定であ
る。
(2 ) 原田達哉.核融合分野における高電圧,大電流の測定.昭
和 58 年電力中央研究所調査報告.no.183003,1983.
(3) 石山泰士ほか.平型 IGBT 素子内部電流の測定.平成 14
年電気学会全国大会.4- 010,2002.
455(17)
富士時報
Vol.75 No.8 2002
スイッチング電源用 DC-DC 変換技術
鷁頭 政和(げきのず まさかず)
西川 幸廣(にしかわ ゆきひろ)
まえがき
野澤 武史(のざわ たけし)
より高周波交流電圧を全波整流し,平滑コンデンサ Co で
整流電圧を平滑する。
スイッチング電源は,コンピュータをはじめ各種端末機
出力定電圧制御は,エラーアンプの出力をホトカプラで
器,通信機器などほとんどの電子機器の電源として用いら
絶縁し,ホトカプラの出力を駆動回路に入力することによ
れている。スイッチング電源に求められる性能は,小型・
り主スイッチの駆動信号を生成する。
軽量化,低価格化などに加えて低ノイズ,待機電力の低減
この回路は,スイッチング電源の DC-DC コンバータと
など環境面への配慮が挙げられる。これらの要求を満足す
して適用事例が多いフライバックコンバータやフォワード
べく,さまざまな変換方式が提案されている。
コンバータと比較して以下の特徴がある。
この中で,電流共振型の変換方式は高い変換効率と低ノ
イズの実現により実用化されている。本稿では,電流共振
型
DC-DC
変換技術における回路方式,待機電力低減技術,
および多出力時の制御技術について紹介する。
(1) MOSFET がソフトスイッチングであり,この結果,
低スイッチング損失および低ノイズである。
(2 ) MOSFET の耐圧は直流入力電圧以上,整流ダイオー
ドの耐圧は出力電圧の 2 倍以上でよい。
(3) 変圧器を正負両方向に励磁し,変圧器の利用率がよい。
電流共振型 DC-DC 変換回路
(4 ) 共振リアクトルは変圧器漏れインダクタンスを利用す
ることができ,共振動作させるための追加部品が少ない。
2.1 主回路構成
図 1 に電流共振型 DC-DC 変換回路を示す。主回路は
2.2 駆動方式
MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Tran-
図2 に各種駆動方式を示す。 図2
は高耐圧 IC による
(a)
sistor)Q1 および Q2 を主スイッチとしたハーフブリッジ
駆動方式である。この方式は,周波数変調方式による出力
構成である。共振用コンデンサ Cr,Cs と共振用リアクト
定電圧制御であり,現在一般的に使用されている。
ル Lr とで共振回路を構成することにより,Q1 および Q2
図2
(b)
(b)
および
は富士電機独自の駆動方式である。
は
(c)
のスイッチング損失を低減できる。変圧器二次巻線はセン
変圧器 Tr に補助巻線 P2 および P3 を設け,Q1 および Q2
タータップ構成であり,整流ダイオード Dr1 および Dr2 に
を自励発振動作させ,Q2 をパルス幅変調(PWM)制御す
図1 電流共振型 DC-DC 変換回路
が変化し動作周波数も変化する。この方式は駆動回路の低
る方式である。また Q2 を PWM 制御する結果,共振動作
P
Lr
P1
Q1
S1
S1
Q2
共振回路
V0
P
S2
Cr
駆
動
回
路
図2 駆動方式
+
C0
Cs
G1
Vi
Dr 1
G1
Dr 2
Tr
H
V
I
C
G2
Ea
エラー
アンプ
Ea
(a)高耐圧IC型
P2
S2
G2
S2
Ea
S1
P1
S1
G2
P3
S2
Tr
(b)自励発振型
P2
G1
S2
L
V
I P3
C
Ea
Tr
(c)複合発振型
鷁頭 政和
西川 幸廣
野澤 武史
パワーエレクトロニクス製品の開
スイッチング電源技術の開発に従
パワーエレクトロニクス技術の開
発に従事。現在,
(株)富士電機総
事。現在,
(株)富士電機総合研究
発に従事。現在,
(株)富士電機総
合研究所パワーエレクトロニクス
所パワーエレクトロニクス研究所。
合研究所パワーエレクトロニクス
研究所。電気学会会員,電子情報
電気学会会員。
研究所。電気学会会員。
通信学会会員。
456(18)
G2
S1
P1
S1
G1
S2
S2
N
S1
富士時報
スイッチング電源用 DC-DC 変換技術
Vol.75 No.8 2002
図4 効率特性
図3 動作波形
Q1:オン
Q2:オン
オフ
オフ
オフ
オン
100
オフ
オフ
V i=380 V
95
VQ2
VQ1
0
I Q2
I Q1
0.4 A/div
V i=350 V
効率 (%)
η
200 V/div
0
90
85
V i=400 V
80
75
200 V/div
70
0
VLr+ VP1
ηmax=94.4 %
V o=16 V
1
0
2
3
出力電流 I o(A)
4
5
200 V/div
V Cr
図5 雑音端子電圧特性
0
I D r2
I D r1
4 A/div
100
10 V/div
VO
0
t:4
s/div V i=350 V,VO=16 V,I O=4.1 A
レベル(dB V)
0
80
60
CISPR Pub.22 Class B 限度値
40
20
耐圧化と簡素化が可能となる。しかしながら待機電力低減,
0
150k 200k 300k
500k 700k 1M
過電圧や過電流に対する保護などに対応するためには,追
2M
3M
5M
7M
10M
20M 30M
周波数(Hz)
加部品が必要となる。
そこで定電圧制御,待機電力低減機能,保護機能などを
低耐圧 IC で構成し,Q1 を補助巻線による駆動,Q2 を低
耐圧 IC による駆動とすることで上記課題を解決した方式
待機電力の低減技術
である。この方式は Q1 および Q2 ならびに低耐
が図 2
(c)
圧 IC をパッケージ化した F9221L(複合発振型電流共振
コンバータ用パワーデバイス)として製品化している。
近年,地球環境保護の観点から電子機器の通常運転時の
省電力化に加え,主電源は投入したままでこれら電子機器
の運転を停止させている場合(待機)の省電力化が強く求
2.3 動作波形および電気特性
図3 に入力電圧 DC 350 V,出力 DC 16 V/65.6 W,動作
められている。
一般的に待機電力低減機能を持つスイッチング電源は,
周波数 78 kHz,自励発振型駆動における動作波形を示す。
通常運転用の電力変換回路に加え,待機専用の補助電源回
MOSFET Q1 および Q2 には正弦波状の電流が流れ,共振
路も搭載しており,装置体積の増加やコストパフォーマン
用コンデンサ電圧 VCs によりスイッチング時の電圧変化率
スの悪化などの課題がある。この課題を解決するため,一
が抑制される。共振用コンデンサ電圧 VCr は正弦波状に変
つの電力変換回路で通常運転と待機時の省電力化に対応す
化し,
(Lr + P1)に対する印加電圧は,Q2 オン時が Vi −
る富士電機独自の待機時制御方式を開発した。 図 6 に
VCr,Q1 オン時が VCr である。整流ダイオード Dr1 および
F9221L の待機電力低減機能として採用している,PWM
Dr2 には正弦波状の電流が流れ,出力電圧 Vo は平滑コン
間欠制御方式の回路ブロックを示す。図中の破線内がこの
デンサ Co により直流となる。
制御方式に関する回路である。この制御方式は,スイッチ
図4 に効率特性を示す。入力電圧 DC 350 V,定格負荷
ングの強制停止期間を設けて間欠発振動作をさせ,単位時
において最大効率 94.4%と高効率を達成している。入力電
間あたりのスイッチング回数を低減させることで省電力化
圧が高くなると効率が低下しているが,この原因はパルス
を図るものである。
幅変調制御の結果,変圧器二次巻線 S1 およびダイオード
この方式の特徴は次のとおりである。
Dr1 を介する電力供給が大きくなり,これらの責務が増加
(1) 待機時における高精度な定電圧制御
するためである。
図5に雑音端子電圧(467 ページの「解説」参照)特性
スイッチング期間と強制停止期間を固定とした場合,負
荷に供給される電力はスイッチング期間で制限されるため,
を示す。国際規格である CISPR Pub.22 Class B に対し 30
入力電圧や負荷変動の範囲が広い条件において,定電圧制
dBμV 程度の余裕があり,低ノイズ化も達成している。
御は困難である。したがって,定電圧制御を高精度に行う
457(19)
富士時報
スイッチング電源用 DC-DC 変換技術
Vol.75 No.8 2002
には,入力電圧が高い場合ではスイッチング期間を狭め,
イッチング期間の開始時に半導体スイッチング素子のオン
逆に低い場合ではスイッチング期間を広げる必要がある。
期間を徐々に広げ(ソフトスタート)
,スイッチング停止
そこでこの制御方式では,スイッチング期間と強制停止期
期間の開始時にはオン期間を徐々に狭め(ソフトエンド)
,
間をホトカプラの出力信号 VFB と間欠発振用三角波 VB と
変圧器に流入する電流 IP1 を緩やかに増減させることで解
の比較演算によって決定することで,入力電圧や負荷変動
消している。
の範囲が広い条件においても高精度な定電圧制御ができる。
(3) 待機専用補助電源回路の省略
図8に力率改善回路と複合発振型電流共振 DC-DC コン
(2 ) 変圧器からの音の低減
単純に間欠発振動作をさせると変圧器から耳障りな音が
バータから成るスイッチング電源に,この制御方式を適用
発生する。この音は, 図 7 の動作波形に示すように,ス
したときの入力電力特性を示す。なお,力率改善回路は損
失低減のためその動作を停止させている。無負荷時の入力
図6 PWM 間欠制御方式の回路構成
電力は 0.4 W 以下と低損失であり,待機専用補助電源回路
は不要である。
P
+
Vi
P1
V0
S1
多出力電流共振型 DC-DC 変換回路
図9に多出力電流共振型 DC-DC 変換回路を示す。図1
N
+
+
PWMコン
パレータ
−
VFB
の回路構成に対し,変圧器二次巻線 S1 に可飽和リアクト
エラー
アンプ
VS
ル L1 を,S2 に L2 をおのおの接続し,エラーアンプの出
+
力をリセット回路に入力し,リセット回路の出力をダイ
−
PWM用
キャリヤ信号
VB
バースト
発振信号
オード Da1 および Da2 を介して,可飽和リアクトル L1 お
よび L2 に接続する。変圧器二次側の回路を必要数追加す
れば,出力数を任意に増やすことができる。
この方式は,可飽和リアクトルを磁気的なスイッチとし
図7 待機時の動作波形
て利用するものである。エラーアンプの出力結果に基づき,
リセット回路が可飽和リアクトルのリセット電流を供給す
V i=141 V, Po=0.5 W)
( る。リセット電流が大きい場合は可飽和リアクトルの不飽
和期間が長く,変圧器一次側から二次側への電力供給期間
Vs
2 V/div
を短くする。結果的に変圧器の二次側で PWM 制御する
ことになり,出力を定電圧制御することができる。
0
複数個の出力は,上記動作原理により各出力個別に制御
I P1
0.8 A/div
できるため,変圧器一次側に特別な制御回路は必要なく,
発振器によりオン時比率 0.5 一定で Q1 および Q2 を交互に
0
駆動するだけでよい。
図9に示す回路構成において,入力電圧が高くなった場
ソフト
スタート
スイッチング
期間
ソフト
エンド
時間:2 ms/div
よび可飽和リアクトルの磁束密度変化Δ B が増加すること
強制停止
期間
になり大型化する。
図9 多出力電流共振型 DC-DC 変換回路
図8 低出力時の入力電力特性
4
(1)
合,動作周波数一定で動作させると式
から,変圧器お
AC100 V
Lr
入力電力 P i(W)
AC240 V
Q1
3
P1
発
振
器
S2 Da2
458(20)
1.0
1.5
出力電力 Po(W)
2.0
2.5
C0
Dr2
エラー
アンプ
V 01
リセッ
ト回路
L2
共振回路
Tr
0.5
+
Q2
1
0
0
Dr1
Cs
Cr
2
L1
S1 Da1
V 02
V 03
富士時報
スイッチング電源用 DC-DC 変換技術
Vol.75 No.8 2002
図10 入力電圧と動作周波数との関係
図11 出力特性
120
動作周波数 (kHz)
縦軸: 1 V/div
横軸:10 A/div
縦軸: 1 V/div
横軸:10 A/div
定格出力できる動作周波数の限界値(実験値)
110
5V
100
3.3 V
90
80
0
70
60
300
320
340
360
V i(V)
入力電圧 380
44 A
(b)5 V 出力
400
縦軸: 2 V/div
横軸:10 A/div
12 V
ΔB=
0
50 A
(a)3.3 V 出力
ET
……………………………………………(1)
N・Ae
ただし,ET:巻線に印加される電圧時間積
0
N :ターン数
33 A
(c)12 V 出力
Ae :コア実効断面積
この課題を解決するには,入力電圧を検出し動作周波数
を変える制御を追加すればよい。しかしながら,電流共振
型 DC-DC コンバータは,変圧器巻数比が一定の場合,入
力電圧によって定格出力できる動作周波数の限界がある。
術を紹介した。ここで紹介した技術は,装置の小型化に大
図10に示す動作周波数特性は,定格出力できる限界値の一
いに寄与するものと考える。今後もさらなる小型化,高性
例である。周波数制御はこの特性をもとに決定する。周波
能を実現する技術の開発を推進していく所存である。
数制御を追加した場合,追加しない場合と比較して,変圧
器および可飽和リアクトルのコア実効断面積をおのおの
15 %程度小さくできる。
参考文献
(1) 細谷裕.ノートパソコン用共振型アダプタ.’
98 スイッチ
図11に出力特性を示す。3.3 V,5 V および 12 V のすべ
ての出力において無負荷から過負荷まで定電圧制御できて
いる。また過電流に対する保護機能として,3.3 V 出力は
50 A,5 V 出力は 44 A,12 V 出力は 33 A でそれぞれ出力
電圧を垂下させている。
ング電源システムシンポジウム.1998,C1- 3- 1 ∼ C1- 3- 15.
(2 ) 鷁頭政和.高効率自励発振型電流共振コンバータ.電子技
術.vol.43,no.5,2001,p.22- 25.
(3) 桑原今朝信,西川幸廣.複合発振型電流共振コンバータ用
パワーデバイスの応用.電子技術.vol.44,no.2,2002,
p.56- 60.
あとがき
(4 ) 鷁頭政和ほか.マグアンプ制御電流共振 DC/DC コンバー
タ方式ミッドレンジサーバ用電源.平成 13 年電気学会産業
スイッチング電源に適用する電流共振型
DC-DC
変換技
応用部門大会論文集.vol.3,2001,p.1351- 1354.
459(21)
富士時報
Vol.75 No.8 2002
AC-DC 変換回路技術
三野 和明(みの かずあき)
五十嵐 征輝(いがらし せいき)
まえがき
2.1 主回路構成
図1に力率改善回路の主回路構成を示す。その構成は双
現代の情報化社会の発展に伴い,サーバ,通信基地局用
方向の電流を制御することができる双方向スイッチ回路と,
電源などの情報通信機器やディスプレイ,パソコンなどの
電解コンデンサ(C1,C2)からの逆電流を防止する高速ダ
家電製品が急速に普及している。これらの機器に適用され
イオード(D7 ∼ D12)から成る。ここで,双方向スイッチ
る
変換回路は地球環境保護の見地から,高効率化
回路に用いるダイオード(D1 ∼ D6)に流れる電流は連続
することで消費電力を低減する必要がある。また,AC-
であり,逆回復電流が流れる経路も存在しないので D1 ∼
DC 変換回路が発生する高調波電流(480 ページの「解説」
D6 は低速ダイオードを使用することができる。ここで,
参照)は他の機器を誤動作させるなどの悪影響を与えるた
各スイッチング素子をオンすることによって,電源電圧は
め,高調波電流の発生を抑制し,入力電流を高力率にしな
リアクトルを介して短絡し,入力電流は増加する。また,
ければならない。特に,近年では 75 W 以上の変換回路に
スイッチング素子をオフすると,入力電流は負荷側へ供給
対して入力高調波電流規格が制定され,この規格を満足す
されて減少する。よって,各スイッチング素子のオン信号
ることが要求されている。
のパルス幅を変化させることによって,入力電流波形を制
AC-DC
このような状況の中,高効率化・高力率化を実現し,さ
御することができる。例えば,R 相電圧が正のときには R
らに世界各地の電源電圧にも対応したワールドワイド入力
相の入力電流 IR はスイッチング素子 S1 のオン信号によっ
の AC-DC 変換回路を開発した。
て制御され,R 相電圧が負のときには IR は S2 のオン信号
本稿では,5 kW 以上の大容量の機器に対して三相入力
AC 200 V 系または AC 400 V 系共用のワールドワイド対応
によって制御される。同様に,S 相の入力電流は S3 と S4,
T 相の入力電流は S5 と S6 のオン信号によってそれぞれ制
力率改善回路,200 W 以下の比較的小容量の機器に対して
単相入力 AC 100 V 系または AC 200 V 系共用の簡易力率
図1 ワールドワイド対応力率改善回路
改善回路を紹介する。
P1
ワールドワイド対応力率改善回路
D1
S1
D2
S2
D7
L1
+
V C1
R
IR
D8
通常,電力変換装置には AC 200 V 系の電源電圧に対し
て 600 V 耐圧の半導体素子が適用され,AC 400 V 系の電
したがって,電源電圧に応じて電力変換装置を個別に設
D3
S3
D4
S4
D9
L2
S
計・製作しなければならない。そこで,電源電圧 AC 200
V 系または AC 400 V 系でも 600 V 耐圧の半導体素子を適
D10
S相双方向スイッチ回路
用することができ,高調波電流の発生も抑制することがで
(1)
きるワールドワイド入力対応の力率改善回路を開発した。
本方式は低耐圧の半導体素子を適用することができるので
C2
+
V C2
N1
R相双方向スイッチ回路
V RS
源電圧に対しては 1,200 V 耐圧の半導体素子が適用される。
D5
S5
D6
S6
D11
L3
T
スイッチング損失の低減効果が得られ,スイッチング周波
数の高周波化も可能である。
D12
T相双方向スイッチ回路
三野 和明
五十嵐 征輝
パワーエレクトロニクス機器の開
パワーエレクトロニクス機器の開
発に従事。現在,
(株)富士電機総
発に従事。現在,
(株)富士電機総
合研究所パワーエレクトロニクス
合研究所パワーエレクトロニクス
研究所。電気学会会員。
研究所グループマネージャー。工
学博士。電気学会会員。
460(22)
C1
富士時報
AC-DC 変換回路技術
Vol.75 No.8 2002
御することができ,各相の入力電流は高調波の少ない高力
ここで,入力電圧は AC 200 V または AC 400 V,出力電圧
率な波形に制御される。さらに,各半導体素子に印加され
DC 800 V,出力電力 11 kW である。適用した半導体素子
る電圧は C1 や C2 の電圧でクランプされるので,600 V 耐
はすべて 600 V 耐圧のものを使用し,スイッチング素子は
圧の半導体素子を適用することができる。
2 in 1 の富士電機製 IGBT モジュール 2MBI100N-060N を
使用した。ここで,スイッチング周波数は 15.6 kHz,入力
電流の総合ひずみ率 THD は 20 次までの高調波成分で演
2.2 制御方式
図2 にワールドワイド対応力率改善回路の R 相双方向
算した。
スイッチ回路における制御ブロック図を示す。ただし,こ
図3に三相 AC 200 V 入力時,図4に三相 AC 400 V 入力
こでは R 相電流の制御について示してあるが,S 相と T
時の入出力波形を示す。これらの波形から,入力電流は高
相の双方向スイッチ回路においても同様に制御する。ここ
調波の少ない正弦波状の良好な波形が得られ,各電解コン
で,出力電圧の定電圧制御は各電解コンデンサ C1 と C2 の
デンサ電圧(VC1,VC2)が DC 400 V に制御されて出力電
検出電圧 VC1 と VC2 を指令値にフィードバックすることで
圧は DC 800 V となっていることが分かる。表2に本試作
実現する。例えば,上アームのスイッチング素子(S1,S3,
機の性能を示す。これらの結果から,開発したワールドワ
S5)の制御パルス幅を変化させることによって C2 の電圧
イド対応力率改善回路は電源電圧 AC 200 V 系または AC
を制御でき,下アームのスイッチング素子(S2,S4,S6)
400 V 系でも 600 V 耐圧の半導体素子を使用することがで
の制御パルス幅を変化させることによって C1 の電圧を制
き,入力電流の高調波も抑制できることが確認できた。さ
御することができる。よって,C2 の検出電圧 VC2 を上
らに,各電解コンデンサと並列にそれぞれ不平衡な負荷を
アームのスイッチング素子の制御信号にフィードバックし,
接続した場合でも各電解コンデンサの電圧を制御すること
C1 の検出電圧 VC1 を下アームのスイッチング素子の制御
信号にフィードバックする。一方,入力電流指令波形 VR
図3 AC 200 V 入力時の入出力波形
は検出した入力線間電圧を相電圧に変換することで得られ
VRS
る。さらに,入力電流の制御は通常の力率改善回路の制御
方法と同様に出力電圧の検出値をフィードバックした指令
値で VR を振幅変調し,入力電流の検出値 IR をフィード
バックすることで行われる。また,キャリヤ信号と比較し
VC1
0
0
IR
VC2
0
0
て得られた PWM(Pulse Width Modulation)信号は各相
電圧が正のときに上アームのスイッチング素子,負のとき
VRS=200 V/div
I R=50 A/div
t =5 ms/div
に下アームのスイッチング素子をスイッチングするように
分配される。
VC1=200 V/div
VC2=200 V/div
t =5 ms/div
(a)入力波形
(b)出力波形
2.3 試験結果
表1に本回路方式の機能試作機に用いた回路定数を示す。
図4 AC 400 V 入力時の入出力波形
VRS
図2 制御ブロック図(R 相双方向スイッチ回路)
VC1
0
IR
VR
正弦波指令
(線間/相変換)
×
−
+
PI
−
+
×
+
G
D
U
−
PI
+
0
IR
RP
RN
S1
VC2
0
S2
0
−
位相検出
RP
RN
PI
−
VC2
PI
VRS=500 V/div
I R=20 A/div
t =5 ms/div
−
+
+
指令値 VC1
キャリヤ信号
(a)入力波形
VC1=200 V/div
VC2=200 V/div
t =5 ms/div
(b)出力波形
表2 ワールドワイド対応力率改善回路の主要緒元
表1 主回路定数
品 名
記 号
AC リ ア ク ト ル
L1∼L3
1,280
D1∼D6
600 V/100 A
スイッチング素子
S1∼S6
600 V/100 A
D7∼D12
電解コンデンサ
C1,C2
AC 200 V 系または AC 400 V 系
出 力 電 圧
DC 800 V(DC 400 V×2)
出 力 電 力
11 kW 定格
力 率
0.99 以上
THD(定格時)
2 %以下
定 格 時 効 率
94.7 %(AC 200 V 入力時)
97.4 %(AC 400 V 入力時)
H
低速ダイオード
高速ダイオード
入 力 電 圧
定 数
600 V/100 A
5,400
F/450 V
461(23)
富士時報
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Vol.75 No.8 2002
ができ,欠相時には単相動作に切り換えることで動作が可
に導通角が狭まり力率改善効果が小さくなる。この改善の
能である。また,この力率改善回路は電源電圧が高い場合
ため,リアクトル L1 の回路を付加する。L1 には,Q1 がオ
でも低い耐圧の半導体素子を使用することができるので,
ンのときに,入力電源→ D1(または D2)→ Q1 の経路で
入力電圧変動が大きい地域にも適している。
電流 i2 を流すことができる。i2 は入力電圧が高いほど大き
な電流となり,大きな力率改善効果が得られる。つまり,
簡易力率改善回路
今回提案する力率改善回路は,入力電圧が低いときには主
に N3 巻線の効果で,入力電圧が高いときには主に L1 の回
の規
路の効果で力率改善する。この結果,入力電圧が AC 80
定により高調波電流を低減することが必要である。また,
∼ 288 V の幅広い範囲で高調波電流を規格値以下に抑える
200 W 以下の装置においては,小型化と低コスト化からワ
ことができる。
入力電力 75 W
以上の変換回路は,IEC61000-3-2
ンコンバータ方式の簡易力率改善回路の適用が図られてい
る。
3.2 試験結果
図6 に,リアクトル L1 をパラメータとしたときの入力
電圧に対する力率と電解コンデンサ電圧 VC1 の関係を示す。
3.1 回路方式と回路動作
図5にディスプレイなどの装置に適用している簡易力率
L1 がない場合,入力電圧 AC 100 V 程度では昇圧巻線 N3
(2 )
改善回路の一例を示す。この回路は,変圧器の昇圧巻線
の効果で力率 0.8 以上が確保されているが,入力電圧が
N3 と,ダイオード D1,D2,リアクトル L1 から構成され
AC 200 V では力率が 0.7 以下となって低減している。し
るワンコンバータ方式の簡易力率改善回路としている。簡
かし,L1=600 μH を接続することで入力電圧が AC 200 V
(b)
に示す。力率改善回路を付
易力率改善回路の動作を図5
以上でも力率が 0.8 以上を確保できる。また,VC1 は L1 に
加しない場合の入力電流 i inc は入力電圧絶対値│Vin│が C1
ほとんど依存せず,昇圧巻線 N3 による昇圧分(=V1 ・
の電圧 VC1 より高いとき(│Vin│> VC1)に流れ,波形ひ
N3/N2=24 V)に抑えられている。このことから,力率は
ずみ率の大きな電流となり高調波電流の規格を満足しない。
L1 の値を変更することで調整できることが分かる。
今回提案する方式は,変圧器 Tr の昇圧巻線 N3 とリアク
トル L1 の回路を用いて力率改善する方式である。
図7に,簡易力率改善回路を接続したときとしないとき
の効率特性を示す。簡易力率改善回路を付加することで,
昇圧巻線 N3 には,Q1 がオフ時に図5に示す電圧 VN3 が
L1 と N3 を介した電流が主スイッチである MOSFET Q1
発生する。この電圧 VN3 と入力電圧絶対値│Vin│の和の電
に重畳されて流れることにより損失が増大する。しかし,
圧が C1 の電圧 VC1 より高いとき(VN3 +│Vin│> VC1)に
変換効率の低下分として,L1=600 μH の場合 2.7 %であり,
電流 i3 を流すことができる。この結果,従来の i inc より導
専用の PFC(Power Factor Correction)回路を接続する
通角を広げることができる。しかし,N3 巻線のみでは,
場合より高効率化が確保されている。
入力電圧 Vin が高いとき,VN3 は固定であるために相対的
図 8 に入力電圧 AC 100 V と AC 200 V のときの入力電
流波形 iin とそのときの高調波電流値をそれぞれ示す。高
調波電流は,IEC61000-3-2 クラス D の規格値に対して,
図5 簡易力率改善回路
入力電圧 AC 100 V のとき 53.7 ∼ 67.0 %と,入力電圧 AC
N3
Tr D
4
VN3
N1
i in
D1
i3
N2
200 V のときは 32.3 ∼ 74.3 %と約 30 %の余裕を持って満
+ C
3
足している。
V1
i1
図6 入力電圧,力率,電解コンデンサ電圧特性(Po = 100 W)
L1
D2
C1 +
力率
i inc
i in=i 2+i 3
V C1
i2
電解コンデンサ電圧 V C1(V)
(a)回路構成
V in
0.90
350
0.85
300
0.80
250
0.75
200
0.70
150
0.65
100
V C1
50
0
50
(b)回路動作
462(24)
0.95
400
V C1
V in+V N3
1.00
450
Q1 C
2
i2
100
150
:L1= 600 H
:L1=1,200 H
:L1=なし
200
入力電圧 V in(V)
250
0.60
0.55
300
力率
V in
富士時報
AC-DC 変換回路技術
Vol.75 No.8 2002
図7 入力電圧に対する変換効率(Po = 100 W)
図8 入力電流波形(Vin = AC 100 V,Po = 100 W)
95
i in
変換効率 η(%)
PFCなし
i in
90
89.1
86.4
85
PFCあり
L1=600 H
i in=1 A/div,t =4 ms/div
80
i in=0.5 A/div,t =4 ms/div
(a)V in=AC 100 V,
PO=100 W
75
50
100
150
200
250
300
入力電圧 V in(V)
V in(V)
高調波
次数
あとがき
高調波電流の発生を抑制し,電源装置の高効率化を実現
するワールドワイド対応の
AC-DC
変換回路技術として,
大容量向けに三相入力のワールドワイド対応力率改善回路,
(b)V in=AC 200 V,
PO=100 W
AC 100 V
測定値 規格値
(mA) (mA)
AC 200 V
測定値/
規格値
(%)
測定値 規格値
(mA) (mA)
測定値/
規格値
(%)
1
1,153
3
602
899
67.0
263
391
67.3
5
270
502
53.8
162
218
74.3
7
152
264
57.6
69
115
60.0
9
72
132
54.5
39
58
67.2
11
62
93
66.7
13
40
32.5
522
小容量向けに単相入力の簡易力率改善回路を開発し,良好
な評価結果が得られた。今後,これらの回路技術を適用し,
製品化を推進する所存である。
半導体電力変換研究会 SPC- 00- 19,2000,p.37- 42.
(3) Kolar, J. W. et al.Design and Experimental Investiga-
参考文献
tion of a Three-Phase High Power Density High Efficien-
(1) 三野和明,黒木一男.ワールドワイド対応整流回路のシ
cy Unity Power Factor PWM (VIENNA) Rectifier Em-
ミュレーション解析結果と実験結果.半導体電力変換 SPC-
ploying a Novel Integrated Power Semiconductor Mod-
00 - 78 産業電力電気応用 IEA - 00 - 54 合同研究会.2000,
ule.IEEE APEC.vol.2,1996,p.514- 523.
p.23- 28.
(2 ) 五十嵐征輝ほか.簡易力率改善方式新部共振コンバータ.
(4 ) Zhao, Y. et al.Force Commutated Three Level Boost
Type Rectifier.IEEE IAS Conf. Rec.1993,p.771- 777.
463(25)
富士時報
Vol.75 No.8 2002
高圧 IGBT 多直列技術
阿部 康(あべ やすし)
丸山 宏二(まるやま こうじ)
まえがき
図1 充放電スナバ回路
充放電スナバ回路
電力系統,産業プラント,電気鉄道などで適用される電
力変換装置は高圧・大容量であるため,以前はサイリスタ
や GTO(Gate Turn-Off)サイリスタなどのデバイスが
IGBT
主流を占めていた。一方,汎用インバータなどの比較的中
小 容 量 の 変 換 装 置 に は IGBT( Insulated Gate Bipolar
Transistor)が広く適用されており,高性能化が図られて
いる。次に,高圧・大容量の分野へ IGBT を適用すること
が重要となってきている。富士電機ではすでに,高耐圧・
大電流の平型 IGBT(2.5 kV/1.8 kA)を製品化しているが,
図2 ターンオフ時の素子電圧波形(2 直列接続時)
IGBT 変換装置の用途拡大には,高電圧化を可能とする
IGBT の素子直列接続技術の確立が必須になっている。
スパイク電圧
このような背景のもと,富士電機では IGBT 複数個を直
電圧変化率低減
オフタイミングが早い素子電圧
列接続する技術について,技術開発を行っている。
本稿では,直列接続時における素子電圧バランス制御技
術の動作原理,シミュレーション解析,試験結果を中心に
0
紹介する。
素子電圧の不平衡低減
スイッチングタイミング差
充放電スナバ回路なし 充放電スナバ回路あり
直列接続
を小さくすることができるため,素子電圧不平衡を抑制す
2.1 直列接続技術の課題と従来回路方式
デバイスを直列接続したときの最大の問題点は,各デバ
ることができる。しかし,この回路を高圧装置に適用する
イスのスイッチングタイミングに差が生じたとき,各デバ
場合には,回路が大型かつ複雑となり,損失も増大する。
イスの素子電圧が不平衡となり,特定のデバイスに過大な
電圧責務がかかることである。IGBT の場合,他の電力用
デバイスと比較すると,スイッチング速度が速く,素子電
2.2 素子電圧分担回路方式
ここでは,上記の課題をシンプルな回路で改善すること
圧の不平衡が大きくなる傾向がある。特にターンオフ時に
ができる,富士電機独自の方式について紹介する。本方式
は,電流遮断時に発生する過渡電圧が主回路電圧に重畳す
は,直列接続されている IGBT のゲート線を,コア(以下,
るため,素子破壊を招く可能性が強くなる。素子電圧の不
ゲートバランスコアという)によって磁気的に結合させ,
平衡を抑制することが,IGBT を直列接続する際の最大の
スイッチング時に流れるゲート電流のタイミングをバラン
スさせるものである。その結果,素子電圧分担を均等化さ
課題となる。
一般的に,この課題に対して有効な手段として,図1の
せることができる。
ように,充放電スナバ回路を各デバイスに接続する方法が
図3に IGBT を 2 直列接続したときの回路構成を示す。
採られている。この回路は,コンデンサ,ダイオード,抵
ゲートバランスコアは巻数比 1 : 1 の二次巻線で構成され
抗から構成され,図2のようにターンオフ時の電圧変化率
ている。ゲートバランスコアの接続方法は,図3のように
464(26)
阿部 康
丸山 宏二
パワーエレクトロニクス製品の開
パワーデバイス周辺技術の開発に
発に従事。現在,
(株)富士電機総
従事。現在,
(株)富士電機総合研
合研究所パワーエレクトロニクス
究所パワーエレクトロニクス研究
研究所。電気学会会員。
所。電気学会会員。
富士時報
高圧 IGBT 多直列技術
Vol.75 No.8 2002
直列接続している素子のゲート線に各巻線を直列に接続す
次に,ゲートバランスコア Tg がある場合の動作につい
る。これにより,各素子のゲート線を磁気結合させること
て説明する。ターンオン時,ΔT(on)の期間中,Q1 が先に
ができる。
オン状態となると,ゲート電流 Ig1 が先に流れようとする。
以下に,この回路動作原理について説明する。図4はタ
しかし,この動作によってゲート駆動回路間に電位差が生
イムチャートである。Q1,Q2 の入力信号 Vi1,Vi2 にタイ
じ,ゲートバランスコアの端子電圧 VT1 は正,VT2 は負の
ミングばらつきがあり,Vi1 が Vi2 に対してオン時にΔT(on),
電圧を発生する。すなわち,Ig1 を減少させる方向,また
オフ時にΔT(off)進んでいると仮定する。このような条件
Ig2 を増加させる方向に電圧が発生して, 図4 の実線のよ
において,ゲートバランスコア Tg がないとき,図4のよ
うに Ig1 = Ig2 とすることが期待できる。これによって
うに Q1 のゲート電流とゲート出力電圧(Ig1 と Vg1)は,
ゲートタイミングをバランスさせることができる。同様の
Q2 の Ig2 と Vg2 に対して,オンとオフ時にそれぞれ, ΔT
(on) と
ΔT(off) 進んだ波形となる(ゲート駆動回路 GDU1
と GDU2 の信号伝達時間は等しいと仮定する)
。このとき,
原理で Q1 が先にオフすると,VT1 は負,VT2 は正の電圧
を発生し,これが Ig1 を増加させる方向,Ig2 を減少させる
方向となり,ターンオフ時でも Ig1 = Ig2 となる。
ターンオン時にはΔT(on)の期間中,Q2 はオフ状態である
ため素子電圧 VCE2 が破線のように上昇する。この電圧上
2.3 シミュレーションによる動作解析
昇分は,VCE1 の減少分と等しい。 ΔT(on) 経過した Ta の
上記の動作原理を検証するために,図3の回路のシミュ
タイミングで Q2 がオンして電圧が減少し,定常状態とな
レーション解析を実施した。今回,シミュレータとして,
る。ターンオフ時にはΔT(off)の期間中,Q2 はオン状態で
デバイスと回路の連成シミュレーションが可能な,二次元
あるため早く遮断される Q1 の素子電圧 VCE1 が上昇して,
対応の ISE-TCAD(ISE 社)を用いた。
破線のように VCE2 とアンバランスが発生する。ΔT(off)経
図5に,ターンオフ動作のシミュレーション結果を示す。
過した Tb のタイミングで Q2 がオフし,アンバランス電
デバイスモデルとして,富士電機の 2.5 kV 平型 IGBT を
圧は定常電圧に収束する。
用いている。また,Q1 のゲートタイミングが Q2 と比較し
て 200 ns 進んでいるものとする。この結果から,ゲート
バランスコアを接続することで素子電圧のアンバランスが
図3 素子電圧分担回路方式
抑制されることが確認できる。
IGBT
ゲートバランスコア Tg
GDU1
V CE1
Q1
I g1
2.4 IGBT 多直列接続スタックの試作
Rd1
G
入力信号 V i1
E
V g1
V T1
スタックを試作した。IGBT には,富士電機の 2.5 kV/1.8
ゲート駆動回路
GDU2
G
入力信号 V i2
上述したゲートバランスコアの動作原理を,多直列接続
した変換装置に適用するために,IGBT を4直列接続した
kA 平型 IGBT を使用した。これは,サイリスタなどと同
V CE2
Q2
I g2
Rd2
様,圧接平型構造であり,直列接続に適した構造である。
図6に,ゲートバランスコアとゲート駆動回路周辺の外
V T2
E
V g2
観を示す。このゲートバランスコアは,ゲート駆動回路に
IC
内蔵している。
図7に,スタック全体の外観と回路構成を示す。本回路
図4 タイムチャート
図5 シミュレーション結果
V i2 0
V g1
V g2 0
オフ
オン
オフ
オフ
オン
オフ
V g1
V g2
V g1
V g2
素子電圧(V)
素子電流(A)
4,000
V i1 0
3,000
2,000
IC
1,000
V CE1
V CE2
500 ns
0
I g2
(a)ゲートバランスコアなし
I g1
ΔT(off)
ΔT(on)
I g1
I g2
V CE1
V CE2
V CE1
V CE2 0
V CE1
V CE2
4,000
素子電圧(V)
素子電流(A)
I g1
I g2 0
3,000
2,000
IC
V CE1,
V CE2
1,000
500 ns
0
ゲートバランスコアあり ゲートバランスコアなし
(b)ゲートバランスコアあり
465(27)
富士時報
高圧 IGBT 多直列技術
Vol.75 No.8 2002
図6 ゲートバランスコアとゲート駆動回路周辺の外観
は,2 レベルインバータの 1 相分を構成しており,上下
アーム8個の IGBT を水冷の冷却フィンで挟んで加圧する
構造となっている。
こ こ で , Q 11 ∼ Q 14 , Q 21 ∼ Q 24 は IGBT, GDU 11 ∼
29.5
GDU14,GDU21 ∼ GDU24 はゲート駆動回路,R11 ∼ R14,
R21 ∼ R24 は分圧抵抗,そして Tg11 ∼ Tg14,Tg21 ∼ Tg24 は
29.4
26.5
(単位:mm)
(a)ゲートバランスコアの外観
ゲート駆動回路
IGBT
ゲートバランスコアである。ゲートバランスコアを図のよ
うに接続することで,直列接続されている IGBT のゲート
冷却フィン
線がすべて磁気結合されるようにしている。
2.5 試作器試験結果
図7 の IGBT4 直列接続スタックを用いて,ターンオフ
試験を行った。試験条件は,直流電圧 4,000 V,遮断電流
1,000 A であり,上アーム(Q11 ∼ Q14)で遮断させた。ま
た,Q11 のスイッチングタイミングを他の 3 素子より 200
ns 進めた。
まず,ゲートバランスコアのゲート電流バランス効果を
検証するために,ゲートバランスコアの有無によるゲート
(b)ゲート駆動回路周辺の外観
電流のタイミングについて測定を行った。その結果を図8
に示す。ゲートバランスコアがない場合には,Q11 のゲー
ト電流 Ig1 が,他のゲート電流よりも 200 ns 早いタイミン
図7 スタックの外観と回路構成
グで流れ始めているが,ゲートバランスコアを接続するこ
ゲート駆動回路
IGBT
冷却フィン
とにより, 4 素子のゲート電流のタイミングが一致してい
ることが分かる。
次に,ゲート電流のタイミングをバランスさせることが,
結果として素子電圧分担のバランスに効果があることを検
証するために,素子電圧の測定を実施した。 図9 に,Q11
と Q12 の素子電圧波形を示す。ゲートバランスコアがない
図8 ゲート電流測定結果
(a)スタック全体外観
ゲートバランスコア
Q
Tg11 11
GDU11 I g1
GDU12
Q12
I g2 T
g12
R12 V CE(Q12)
I g3
GDU13 Tg13
R11 V CE(Q11)
0
Q13
R13 V CE(Q13)
I g2,I g3,I g4
I g1
I g4 Q14
GDU14
(a)ゲートバランスコアなし
Ed
Tg21
GDU21
GDU22
Tg22
GDU23 Tg23
GDU24
Q21
R21 V CE(Q21)
Q22
R22 V CE(Q22)
Q23
R23 V CE(Q23)
(b)回路構成
0
I g1,I g2,I g3,I g4
Q24
R24 V CE(Q24)
直流電圧 E d=4,000(V),コレクタ電流 I c=1,000(A)
Q11∼Q24:2.5 kV/1.8 kA平型IGBT(富士電機製)
466(28)
1 s
R14 V CE(Q14)
1 s
(b)ゲートバランスコアあり
富士時報
高圧 IGBT 多直列技術
Vol.75 No.8 2002
場合には,早いタイミングでオフする Q11 の素子電圧 VCE
図9 素子電圧分担測定結果
(Q11) が他素子の素子電圧よりも上昇するが,ゲートバラ
ンスコアを接続することで,素子電圧分担が均等化されて
いることが分かる。
あとがき
V CE(Q11)
IC
本稿では,高圧 IGBT の多直列接続可能な技術について
V CE(Q12)
紹介した。今後,電力系統や産業プラントといった高圧電
0
1 s
(a)ゲートバランスコアなし
力変換装置のさらなる小型・高性能化を推進するため,直
列接続技術をはじめとする高圧化技術の発展に貢献してい
く所存である。
参考文献
(1) 江口直也ほか.電力・産業用パワーエレクトロニクスを支
える要素技術.富士時報.vol.74,no.5,2001,p.265-272.
V CE(Q11),V CE(Q12)
IC
(2 ) 阿部康ほか.IGBT 直列接続時の素子電圧分担の改善方法.
平成 13 年電気学会全国大会.4-002,2001.
0
1 s
(b)ゲートバランスコアあり
V CE(Q11),V CE(Q12):500 V/div
I C:500 A/div
解 説
雑音端子電圧
雑音端子電圧は伝導ノイズとも呼ばれ,周波数 30
100
て障害を与える,電磁妨害波の一種である。雑音(障
90
害の大きさ)は,電源線に発生する電圧を測定するこ
とで評価することができる。
雑音端子電圧の限度値は,国際規格である CISPR
Pub.22 などで規定されている。図に示すように,CIS
PR Pub.22 は 150 kHz ∼ 30 MHz の帯域で周波数帯域
ごとに規定されている。家庭で使用するパソコン用モ
ニタやアダプタなどの情報技術機器に搭載するスイッ
チング電源では,CISPR Pub.22 Class B を満足させな
雑音端子電圧(dB V)
MHz 以下の周波数帯域で電子機器の電源線に伝搬し
80
70
A
B
60
50
40
30
100
A:CISPR Pub.22 Class A
B:CISPR Pub.22 Class B
1,000
10,000
周波数(kHz)
100,000
ければならない。なお,Class A は商工業地域で使用
する機器に適用される。
467(29)
富士時報
Vol.75 No.8 2002
永久磁石同期電動機のセンサレス制御技術
野村 尚史(のむら なおふみ)
大沢 博(おおさわ ひろし)
まえがき
来困難であったゼロ速度時のセンサレス制御ができる。
以下,各制御の特徴について説明する。
永久磁石同期電動機(PMSM)は誘導電動機と比べて
効率が高く小型であり,エアコン,ファン,ポンプ,エレ
2.1 速度・位置推定部
速度・位置推定部は,IPMSM の電圧方程式をもとに電
ベータなどに多く使われている。
PMSM を運転するためには,回転子の磁極位置に応じ
流と電圧から磁極位置誤差を検出し,誤差がゼロになるよ
て電流と電圧を制御する必要があり,従来は,エンコーダ
うにフィードバックループを構成して速度と位置を演算す
やホールセンサなどの位置検出器を使って運転していた。
る。広い速度範囲で安定運転を実現するため,速度に応じ
しかし,位置検出器を使うことで,価格アップ,検出器の
て二つの位置誤差検出方式を使い分ける。
取付けや配線作業の煩雑さ,信頼性低下,大型化などの問
中・高速時は,IPMSM の電圧方程式を使って演算した
題が発生することがある。また,最近は,装置を小型にす
電流推定値と電流検出との偏差から位置演算誤差を検出す
るために高速 PMSM の適用が進んでおり,機械的な制約
る。電流偏差に表れる位置演算誤差の情報は,誘起電圧
から位置検出器が使えないケースが増えている。このため,
(回転子の永久磁石により固定子巻線に誘導される電圧)
位置検出器を使わないで運転するセンサレス制御は,PM
に比例して大きくなるので,速度が高いほど演算精度を高
SM ドライブにとって不可欠な技術である。
めることができる。しかし,誘起電圧が小さい低速時には,
富士電機では,多様なニーズに対応するため,2 種類の
センサレス制御技術を開発した。一つは,大きな始動トル
電流偏差から位置演算誤差を検出できないため,別の方式
を使う。
クが得られ,高精度なトルク制御ができる「センサレスベ
IPMSM は回転子の突極性により,電機子巻線のインダ
クトル制御」である。もう一つは,安価なハードウェアで
クタンスが磁極位置によって変化するので,この特徴を使
センサレス制御ができる「V/f 制御」であり,PMSM ド
えば速度にかかわらず位置情報を検出できる。そこで,低
(2 )
(1)
ライブ製品「FESPAC シリーズ」などに応用されている。
速時には,電圧指令に高周波電圧を重畳して,このときに
本稿では,センサレスベクトル制御と V/f 制御の原理
流れる高周波電流からインダクタンスを測定し,これをも
( 3)
について述べ,実験結果をもとにおのおのの特徴と性能を
とに位置演算誤差を検出する。
比較する。
図1 センサレスベクトル制御のブロック図
センサレスベクトル制御
発振器
トルク指令 電流指令
図1にセンサレスベクトル制御のブロック図を示す。位
置検出器を使う代わりに,電流と電圧から回転子速度と磁
速度指令
速度
調節器
極位置を演算し,これらを使って磁極と平行方向と直交方
トルク
線形
制御
電流
調節器
+
+ 電圧指令
イン
バータ
電流
向の電流成分を制御することでトルクと速度を制御する。
センサレスベクトル制御は,最近主流になっている埋込
位置誤差
調節器
磁石構造永久磁石同期電動機(IPMSM)に適した制御方
式である。IPMSM は,従来の PMSM と比べて低価格,
小型,堅牢(けんろう)であり,回転子に「突極性」を持
−
+
速度推定
速度・位置推定部
つ特徴がある。この突極性を積極的に活用することで,従
468(30)
野村 尚史
大沢 博
可変速駆動装置の開発・設計に従
可変速駆動装置の開発・設計に従
事。現在,
(株)富士電機総合研究
事。現在,
(株)富士電機総合研究
所パワーエレクトロニクス研究所。
所パワーエレクトロニクス研究所
電気学会会員。
主席研究員。電気学会会員。
積分器
位置推定
IPM
SM
富士時報
永久磁石同期電動機のセンサレス制御技術
Vol.75 No.8 2002
図3 V/f 制御のブロック図
図2 センサレスベクトル制御のトルク制御精度
200
速度指令
電圧指令
+
f /V
変換器
イン
バータ
+
トルク(%)
高効率
制御
電流
0
安定化
制御
−
+
−200
−200
0
トルク指令(%)
200
周波数指令
積分器
PM
SM
電気角
図4 トルク 電流特性
:V /f 制御
:V /f 制御+高効率制御
:センサレスベクトル制御
2.2 IPMSM の高効率トルク線形制御
電流(A)
20
IPMSM は回転子に突極性があるため,永久磁石によっ
て得られるトルクに加えて,リラクタンストルク(471
ページの「解説」参照)が利用できる。そこで,リラクタ
10
ンストルクを使って,IPMSM のトルクが最大になるよう
に電流を制御することで高効率制御する技術を開発した。
また,PMSM は,基底速度を超えると誘起電圧がイン
バータの最大出力電圧より大きくなって運転できなくなる
−200
0
トルク(%)
200
が,電流制御によって端子電圧を抑制することで最高速度
を拡大する技術を開発した。
しかしながら,上記の制御を使うとリラクタンストルク
の影響で電流とトルクの間に線形性がなくなるので,従来
3.2 高効率制御
は,トルク制御を行うのが困難であった。この問題を解決
PMSM は出力トルクの大きさに応じて電圧や電流を最
するため,IPMSM の負荷角に着目した新しい電流制御技
適制御することで効率をよりいっそう高くできる。しかし,
(4 )
術を開発し,高効率制御とトルク線形制御を両立した。
図2にトルク指令に対するトルクを測定した結果を示す。
V/f 制御に適した高効率制御は過去に例がなく,V/f 制御
の大きな課題となっていた。そこで,PMSM の無効電力
トルクはほぼ指令値に制御できており,定格運転時のトル
に着目し,効率を最大にするには,PMSM の無効電力を
ク制御誤差 3 %以下の高精度トルク制御が達成できている。
電流の二乗と速度の積に比例して制御すればよいことを解
なお,実験には,3.7 kW,1,800 r/min,6 極の IPMSM
析により明らかにした。この原理を使って,無効電力が効
を使っており,後に示す他の実験結果も同じである。
率最大の条件になるように電圧指令を補正することで,高
効率運転を実現している。
V/f 制御
図4にトルク−電流特性を,高効率制御を使った場合と
使わない場合,およびセンサレスベクトル制御で比較する。
図3 に V/f 制御のブロック図を示す。V/f 制御は,PM
SM の回転子がインバータから供給する電圧の周波数に同
高効率制御により V/f 制御の軽負荷時の電流をセンサレ
スベクトル制御とほぼ同じに低減できている。
期して回転する原理を利用した運転方式である。基本的に,
端子電圧の大きさを周波数指令に比例して制御する簡単な
方式であるが,電流情報を使って制御性能を高める技術を
3.3 始動トルクの向上
PMSM の V/f 制御は,ゼロ速度での運転が原理的に不
( 5)
開発した。以下,制御の特徴について述べる。
可能であり,低速運転時には,電機子抵抗やインバータの
出力電圧誤差の影響によって最大トルクが低下しやすい。
3.1 安定化制御
PMSM の V/f 制御は,そのままでは安定性が低く,運
これを解決するため,低速時には電流フィードバック制御
を併用することによって最大トルクを改善している。
転条件によっては持続した振動が発生することが,実験と
制御系の安定性解析により明らかになっている。そこで,
センサレスベクトル制御と V/f 制御の特徴比較
電流を周波数指令にフィードバックすることで安定な運転
を達成している。
図5に速度−トルク特性を示す。センサレスベクトル制
469(31)
富士時報
永久磁石同期電動機のセンサレス制御技術
Vol.75 No.8 2002
御は,ゼロ速度から基底速度の 150 %の領域において定格
図6に加減速特性を示す。どちらもゼロ速度から基底速
の 150 %以上の負荷で安定運転できる。V/f 制御の始動ト
度の 150 %まで 0.8 秒で加減速運転できており,特性はほ
ルクは,センサレスベクトル制御には劣るが,定格の
ぼ同等である。
図7は負荷ステップ応答である。V/f 制御の場合でも,
70 %以上のトルクが得られている。
センサレスベクトル制御と同等以上の速度応答が得られて
いる。
図5 速度 トルク特性
表1にセンサレスベクトル制御と V/f 制御の特徴を比較
200
して示す。センサレスベクトル制御は,大きな始動トルク
トルク(%)
が得られ,高精度なトルク制御ができるのが特徴であり,
クレーンや垂直搬送装置などに最適である。一方,V/f 制
御は,安価なハードウェアでセンサレスベクトル制御と同
0
等の高効率と速度応答が得られるのが特徴である。また,
高速 PMSM の運転には一般に高性能なマイクロプロセッ
サが必要であるが,V/f 制御は構成が簡単であるので安価
−200
0
100
速度(%)
なマイクロプロセッサで容易に運転できる。したがって,
200
V/f 制御は,ファン,ポンプ,コンプレッサなどに最適で
(a)センサレスベクトル制御
図7 負荷ステップ応答
(r/min)
トルク(%)
200
−200
0
(%)
0
100
速度(%)
1,800
速度
1,440
100
トルク
0
200
0.4 s
(a)センサレスベクトル制御
(r/min)
V f 制御
(b) /
1,800
速度指令
(%)
(A) (%)(r/min)
(r/min)
図6 加減速特性
0
1,800
速度
1,800
速度
1,440
100
トルク
0
0
100
0.4 s
トルク
(b) V /f 制御
0
50
電流
0
初期位置演算
0.4 s
表1 センサレスベクトル制御と / 制御の特徴比較
V f
(A) (%)(r/min)
(r/min)
(a)センサレスベクトル制御
1,800
速度
0
100
トルク
価 格
高価(ベクトル制御
インバータ相当)
安価
(汎用インバータ相当)
最 低 速 度
0%
5∼10 %
始 動 ト ル ク
150 % 以上
70 % 以上(定格電流時)
トルク制御精度
3 %(定格運転時)
トルク制御不能
速 度 応 答
電流
0
0.4 s
(b) V /f 制御
470(32)
V f
/ 制御
モ ー タ 効 率
0
50
センサレスベクトル制御
速度指令
0
1,800
項 目
用 途
89 %(3.7 kW 供試 IPMSM の場合)
15 rad/s 以上
™大きな始動トルクが
必要な用途
™トルク制御
例:クレーン,垂直搬送
装置
™簡易可変速
™高速 PMSM
例:ファン,ポンプ,
コンプレッサ
富士時報
永久磁石同期電動機のセンサレス制御技術
Vol.75 No.8 2002
ある。
p.405- 408.
(2 ) 市中良和ほか.高性能ベクトル制御インバータ「FRENIC
あとがき
5000VG7S」の特殊電動機への適用例.富士時報.vol.74,
no.7,2001,p.419- 421.
PMSM のセンサレス制御技術としてセンサレスベクト
(3) Aihara, T. et al.Sensorless Torque Control of Salient-
ル制御と V/f 制御について紹介し,おのおのの特徴と性
Pole Synchronous Motor at Zero-Speed Operation.IEEE
能を比較した。今後とも,市場ニーズに応えるべく,より
Transactions on Power Electronics.vol.14,no.1,Janua-
低価格で使いやすい PMSM ドライブの開発に努力してい
ry,1999,p.202- 208.
く所存である。
(4 ) 野村尚史ほか.センサレス IPM 同期モータドライブのト
ル ク線 形 制 御. 電 気 学 会 産 業 応 用 部 門 全 国 大 会 . 2001,
参考文献
p.1257- 1260.
(1) 糸魚川信夫ほか.同期電動機駆動システム「FESPAC シ
リーズ」とその適用分野.富士時報.vol.74,no.7,2001,
解 説
(5) 伊東淳一ほか.永久磁石同期電動機の V/f 制御の高性能化.
電気学会論文誌D.vol.122,no.3,2002,p.253- 259.
リラクタンストルク
磁気抵抗のことを英語でリラクタンス(Reluctance)
q 軸方向の磁束
q軸
といい,磁気抵抗の非対称性によって発生するトルク
S
をリラクタンストルクという。簡単にいえば,永久磁
石により発生するトルクが磁石の N 極と S 極が引き
永久磁石
合う力であるのに対して,リラクタンストルクは磁石
N
S
IPMSMの回転子構造(断面図)
石を貫くのに対し,q 軸方向(d 軸と直交方向)の磁
向の磁気抵抗が大きくなり,回転子の磁気抵抗が非対
S
空げき
合,d 軸方向(永久磁石の磁極方向)の磁束は永久磁
の透磁率にほぼ等しいので,q 軸方向と比べて d 軸方
q軸
磁性体
q軸
d軸
クに加えてリラクタンストルクが利用でき,電流や電
永久磁石 d 軸
N
固定子
N
称になる。このため,IPMSM は永久磁石によるトル
圧を最適制御することで高効率制御が実現できる。
d軸
N
N
埋込磁石構造永久磁石同期電動機(IPMSM)の場
束は回転子鉄心内部を通る。永久磁石の透磁率は空気
S
磁性体
と鉄が引き合う力である。
d 軸方向の磁束
N
固定子
N
S
電流
電流
トルク
リラクタンストルク
トルク
永久磁石トルク
471(33)
富士時報
Vol.75 No.8 2002
モーションコントロール技術
金子 貴之(かねこ たかゆき)
市川 誠(いちかわ まこと)
まえがき
ディジタル制御化が実現されてから, 図1に示すように,
制御,センサ,オートチューニング・解析技術などを,主
モーションコントロール技術を広くとらえれば,位置や
速度,加速度,力を制御する技術であり,ここでは電気・
機械の複合系を対象とした制御技術について述べる。近年
のモーションコントロールの進歩は著しく,さまざまな要
素技術を融合し発展している。
要な要素技術として発展してきている。次に主要な技術に
ついて説明する。
(1) 制御技術
CPU の高速化・高性能化の恩恵を受け,各制御器は
PI/PID 制御だけではなく,オブザーバや適応制御,2 自
富士電機では特に,パワーエレクトロニクス応用分野と
由度制御といったモデルベース制御理論やノッチフィルタ
して,「機械動作制御を目的とした電動機駆動」へモー
などのフィルタをディジタル制御にて実現するようになっ
ションコントロール技術を積極的に適用している。これら
た。このことにより,機械振動の低減や位置決め整定時間
の分野はパワーモジュールや LSI などの半導体技術のほ
の短縮といった制御性能が著しく向上し,機械システム全
か,制御理論,センサ技術,通信技術などの飛躍的発展に
体のタクトタイムの短縮,精度の向上,システムとしての
合わせそれらの利点を取り入れ,着実に進歩している。本
稿では,その中でも特にサーボシステムの制御技術に関し,
信頼性が向上している。
(2 ) センサ技術
エンコーダや電流検出器などの高分解能化と高速化によ
主要技術および将来への展望について紹介する。
り,位置決めの高精度化のみならず,トルク脈動の低減な
モーションコントロールの主要技術
どの制御性能も向上している。また,センサとアンプ間の
伝送をシリアル通信とすることにより,位置以外の情報伝
サーボシステムは,電力を回転力に変換するサーボモー
タ,モータの位置・速度を検出するエンコーダ,および電
力を供給する電力変換部とモータを指令に追従させる制御
送が可能になるとともに,省配線化による信頼性向上が図
られている。
(3) オートチューニング・解析技術
部から成るサーボアンプで構成される。ユーザーの機械へ
逐次推定アルゴリズムを利用した機械モデルの推定技術
の組み込みやすさ,要求性能や機能などに指標を置けば,
によって,リアルタイムな制御パラメータのオートチュー
サーボシステムにおける技術は,1980 年代に CPU による
ニングを実現している。また,複雑な制御系においても
図1 モーションコントロールにおける技術構成
上位コントローラ
高分解能
シリアル通信
フルクローズド制御
サーボアンプ
オートチューニング・解析
エンコーダ
軌道最適化
指令生成
パルス列
シリアル通信
バス方式
PI制御
追従制御,適応制御
オブザーバ
非線形補償
低損失
小型化
サーボ
モータ
小型・高出力
低コギング
金子 貴之
市川 誠
モーション制御の研究開発に従事。
サーボシステムの開発設計に従事。
現在,
(株)富士電機総合研究所パ
現在,鈴鹿工場設計部。
ワーエレクトロニクス研究所。電
気学会会員,精密工学会会員。
472(34)
電力
変換部
制御部
富士時報
モーションコントロール技術
Vol.75 No.8 2002
チューニングできることを目的とした,機械モデルを詳細
一例としてモデルベース制御を応用し,高い応答を実現
に解析するソフトウェアが出現し,制御パラメータの最適
したテーブル駆動における位置決め特性を示す。図2は送
化が可能となっている。
り速度を 3,000 r/min とし,台形加減速運転したときの全
これらの背景を踏まえ,制御技術の中から「高応答化技
体波形であり,図3は位置決め完了時を拡大した波形であ
術」
「制振制御技術」
「解析技術」について解説する。
る。指令パルス列の周波数がゼロとなると同時に,位置偏
2.1 高応答化技術
差である偏差パルス量が+
− 20 パルス以内に収束している
ことが分かる。なお,従来では制御器に含まれる誤差や積
モーションコントロールにおける制御応答に関する要求
は,以下に示す二つの要素に分類できる。
分器の影響により,偏差の収束に数 ms の遅れがあった。
本方式では,位置決め完了時に表れるモデル化誤差である
。
(1) 指令値に誤差なく高速に追従する(目標追従特性)
要素と時間遅れを考慮した独自のアルゴリズムを採用する
。
(2 ) 外乱や負荷変動の影響を受けない(外乱抑圧特性)
ことにより,高い追従性能を実現している。
近年,サーボシステムが適用される生産機械は,非常に
( 3)
(4 )
高いスループットが要求されている。そのためサーボシス
テムの制御応答もこれまでより高い目標追従性能が要求さ
2.2 制振制御技術
前節のほか,モデルベース制御の適用例として制振制御
が挙げられる。近年,位置決めの高速化が進むにつれ,機
れるようになった。
しかしながら,従来のフィードバック制御中心の制御則
械系の軽量化およびコストダウンのため,アルミ素材の
では,目標追従特性とロバスト安定性のトレードオフと
アームやベルトといった比較的剛性が低い機械構成の採用
ハードウェアの制約から,設定可能な応答に限界がある。
が多くなっている。このようなシステムにおいて高加減速
このため,近年は,負荷機械の特性を積極的に制御系に取
駆動させる場合,アームやベルトの低い剛性により,数十
り込み,目標追従特性と外乱抑圧特性を両立し,かつモデ
Hz 以下の低い振動が生じることがある。このような振動
ル誤差にもロバストなモデルベース制御が適用されている。
要素は,従来の機械共振を抑制するフィルタやオブザーバ
でトルク指令や速度指令を操作するだけでは有効に抑制さ
れない場合があり課題とされてきた。
図2 位置決め動作全体波形
位置決め
完了信号
偏差パルス量
(パルス)
指令パルス列
周波数(Hz)
これに対し,富士電機で開発した制振制御技術は, 2 慣
600
性系モデルの振動抑制に追従するように実際の制御系を動
400
作させることにより,機械の振動を抑制しながら高加減速
200
で高精度を実現することができる。
0
図4の実験構成にて,位置決め動作においてスライダに
6,000
1回転=65,536パルス
4,000
取り付けたアーム先端の移動量をレーザ変位センサにて測
定した。 図 5 は従来の応答であり,60 Hz 程度の振動が
2,000
100 ms 以上続いている。それに対し,本方式を適用した
0
場合,図6に示すようにワークの先端は滑らかに動作する。
−2,000
オン
実験の結果,本方式は 5 Hz から 60 Hz 程度までの振動を
オフ
抑制することができる。
0
0.1
0.2
0.3
時間(s)
0.4
0.5
2.3 解析技術
これまで紹介したようなモデルベース制御を最適に調整
するには,モデルとなる負荷機械系の特性を慣性モーメン
図3 位置決め動作完了時の拡大
位置決め
完了信号
偏差パルス量
(パルス)
指令パルス列
周波数(Hz)
トだけではなく,ばねやダンピング,その他の要素を詳細
150
100
図4 実験システムの構成
50
0
アーム
−50
200
レーザ変位センサ
100
±20パルス
0
−100
オン
オフ
0
0.01
0.02
0.03
0.04
時間(s)
0.05
0.06
モータ
スライダ
473(35)
富士時報
モーションコントロール技術
Vol.75 No.8 2002
に解析する必要がある。その代表的な方法として FFT
(Fast Fourier Transform)による周波数特性解析があげ
られ,具体例として本特集号の別稿(超小型サーボシステ
ωai :反共振角周波数
ζri,ζai :減衰係数
実際の周波数特性を G(jωk)とした場合,パラメータ,
)で解説される「サーボアナラ
ム「FALDIC-βシリーズ」
A(s)
,B(s)の推定式は,式
の近似誤差式を最小にす
(2 )
イズ機能」に適用されている。
る最小二乗アルゴリズムとなる。
ここでは FFT による周波数特性解析も含め,共振周波
数などパラメータの推定技術を含めた機械系の特性解析に
N
2
min Σ W(ωk )G(jωk )
A
(jωk )
−B
(jωk ) ……………(2 )
k=1
W(ωk):重み係数
ついて紹介する。
図7に本構成を示す。まず,ランダム信号のトルク指令
さらに,推定されたパラメータの精度をさらに高めるた
を入力しモータを加振させ,モータの速度・位置データを
め,実際の周波数応答点と希望の周波数応答点との間の二
収得する。次にトルクデータと速度・位置データから
乗誤差の重み付き和を最小化する近似誤差式を適用する。
FFT によりトルクからモータ速度,または位置までの周
N
min Σ W(ωk )G(jωk )
−
k=1
波数特性を算出する。
そして,周波数特性を最小二乗法による関数のフィッ
B
(jωk )
A
(jωk )
2
…………………(3)
式
は右辺が分数式となっているため,パラメータに関
(3)
ティング問題として,伝達関数の係数を推定する。ここで,
して非線形となり解析的に解くことが困難であるため,非
(1)
推定するモデルは図8に表す多慣性系モデルであり,式
線形最小二乗法を用いた繰返し演算が必要になる。ここで
で表すことができる。
(1)
は,式
での推定結果を初期値として,繰返し探索のア
B
( s )=
A
(s)
2
l−1(s +2ζaiωai s+ω2
1
ai )
・Π
sJ1 i=1(s2+2ζriωri s+ω2ri )
………………(1)
ルゴリズムを適用し,最適な値を探索した。
以下に,30 Hz と 200 Hz 近辺に共振周波数を持つ3慣
性系の機械系における解析結果を示す。図9は FFT によ
ωri :共振角周波数
る解析結果であり,図10は本方式を用いパラメータを推定
して,周波数特性をプロットしたものである。両者を比較
図5 制振制御なし時のアーム先端応答
すると,本方式は共振周波数が正しくフィッティングされ
ていることから,機械系伝達関数の係数が精度よく推定さ
れていることが分かる。これらの結果を制御パラメータの
設定や,全体のシミュレーションに適用することで,容易
に要求する制御応答の実現が可能となる。
なお本方式は,実データから直接伝達関数を推定する方
式と比較して,周波数領域でデータの平滑化および修正が
可能であることから,効率的な解析が可能といえる。
0.5 mm
20 ms
図7 解析システムの構成
トルク
指令
トルク制御
電力変換器
モータ
発生トルク 負荷機械の
伝達特性
モータ
位置・速度
フィッティング
図6 制振制御時のアーム先端応答
G(s )
=
メモリ
FFT解析
s 3+1.6 s 2 …
s 4+0.8 s 3 …
伝達関数
特性解析
図8 多慣性系のモデル
0.5 mm
n1
n2
nl
τd
20 ms
τ1
τ2
J1
474(36)
τl
J2
Jl
富士時報
モーションコントロール技術
Vol.75 No.8 2002
図9 FFT での周波数特性解析結果
図10 フィッティング後の特性
40
ゲイン(dB)
ゲイン(dB)
40
20
0
−20
−40
100
0
−100
−200
212 Hz
0
−20
−40
−60
200
位相(°)
位相(°)
−60
200
26 Hz
20
1
10
100
周波数(Hz)
1,000
10,000
( 5)
100
0
−100
−200
1
10
100
周波数(Hz)
1,000
10,000
みを強化していく。
モーションコントロール技術の展望
あとがき
今後,多種多様な機械システムにおけるユーザーのさま
ざまな要求に応えるため,富士電機はモーションコント
以上,モーションコントロール技術に関し,その主要技
ロール技術の要素技術として以下の 2 点に積極的に取り組
術として,制御技術および解析技術を中心に応用例を交え
む所存である。
て解説した。
(1) 適応および最適化技術
機械動作の高速化・低振動化の要求はますます高度化し,
制御対象である機械システムの変化にも適用できる制御技
今後も市場ニーズに応えるべく新たな要素技術を取り入
れ,モーションコントロール応用製品の開発に精進してい
く所存である。
術が要求される。また,これまで独立に行われてきた制御
対象である機械システムのモデリングと,制御系の同時最
参考文献
適化の要求もある。これらに対して,さまざまな理論が提
(1) 堀洋一ほか.応用制御工学.丸善.1998.
唱されているが,富士電機では,新しい理論やアルゴリズ
(2 ) 藤田光悦ほか.最近のエンコーダ技術.富士時報.vol.72,
ムの適用を行い,より厳しい市場の要求に積極的に応えて
いきたい。
(2 ) 高信頼性技術
no.4,1999,p.228- 232.
(3) 藍原隆司ほか.サーボシステムの制御技術応用例.富士時
報.vol.74,no.7,2001,p.415- 418.
機械動作の高速化に伴い,機械システムの経年変化が加
(4 ) 海田英俊ほか.最小次元外乱トルクオブザーバに基づく多
速される。システム全体の高信頼性化の要求から,機械シ
慣性の振動抑制制御.電気学会半導体電力変換研究会.
ステムのモデリング情報を用いた機械メンテナンス機能な
SPC- 93- 38,1993.
どの要求が高まっており,富士電機では機械システムの解
析技術を体系化して高信頼性技術のさらなる向上への取組
(5) 鈴木達也ほか.モーションコントロールの多機能化と将来.
平成 13 年電気学会産業応用部門大会.S3- 5,2001.
475(37)
富士時報
Vol.75 No.8 2002
超小型サーボシステム「FALDIC-βシリーズ」
中村 和久(なかむら かずひさ)
遠藤 実(えんどう みのる)
高本 慎一(たかもと しんいち)
図1 FALDIC-βシリーズの外観
まえがき
近年,各種産業機械の自動化・高性能化が進んでいる。
特に,半導体・電子部品加工装置などの分野では,機械の
高速化・高精度化・小型化の要求が顕著である。これらの
市場では AC サーボシステムに対して,さらなる高性能
化・小型化の要求が増してきているうえ,ユーザーの使い
やすさも求められている。
今回開発した「FALDIC-βシリーズ」では,これらの
要望に応えるため,機能・性能を精錬して,機械振動の抑
制,位置決め整定時間 1ms 以下を実現してより高度な要
求に対応することを可能とした。また,業界最小サイズを
達成したうえに,オートチューニングの改良,パソコン
ローダの用意,サーボアナライズ機能の追加をするなどし
てユーザーの使いやすさへの配慮もした。
以下,本サーボシステムの特徴・仕様について紹介する。
であるパルス列入力による位置決め運転専用機種として機
能をブラッシュアップし,単機能による使いやすさを考慮
FALDIC-βシリーズの特徴および仕様
したうえで回路の小型化を図った。
(2 ) 動力端子台のコネクタ化
FALDIC-βシリーズ(以下,本シリーズという)の外
観を図1に,基本仕様を表1に示す。
従来,動力の配線はねじ式端子台を使用して接続してい
たが,本シリーズでは新たにコネクタ式端子を採用し,前
本シリーズの容量系列は,200 V 入力仕様 50 ∼ 750 W
(計 5 種類)
,100 V 入力仕様 50 ∼ 200 W(計 3 種類)で
合計 8 種である。
面パネル面積を大幅に縮小することができた。
(3) 専用メタル基板の採用
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を主とした
このシリーズの主な特徴は次のとおりである。
発熱部品を,専用のメタル基板に実装し,部品配置の自由
度による発熱部品の最適配置,発熱部品の集約化を行うこ
とができた。その結果,小型化によって最も弊害となる冷
2.1 小型化
近年,半導体製造装置業界をはじめとするサーボ市場で
は,装置全体の小型化がますます進み,使用機器の一つで
あるサーボアンプに対してもその要求は厳しいものになっ
てきている。
却能力の低下を補うことができた。
(4 ) 高密度実装 1 枚基板の採用
従来,内部の基板は主回路系と制御系の 2 種類で構成さ
れていたが,これを 1 枚の基板に実装することによって基
このため本シリーズの開発にあたり,盤への設置面積を
板間の接続を不要にした。さらに BVH(Blind Via Hole)
業界最小レベルにするべく,サーボアンプの小型化を目指
を使用した多層基板や小型部品による高密度基板設計をす
し開発を行った。
ることにより,基板面積の縮小を図ることができた。これ
らの新たな取組みにより,高性能汎用サーボ FALDIC-α
(1) 機能特化による回路の削減
(1)
本シリーズでは,サーボへの指令入力として最も一般的
476(38)
シリーズの容積比 47 %(200 W による比較)という業界
中村 和久
遠藤 実
高本 慎一
サーボシステムの開発・設計に従
サーボシステムの開発・設計に従
サーボシステムの開発・設計に従
事。現在,鈴鹿工場設計部。
事。現在,鈴鹿工場設計部。
事。現在,鈴鹿工場設計部。
富士時報
超小型サーボシステム「FALDIC-βシリーズ」
Vol.75 No.8 2002
表1 サーボアンプの基本仕様
型 式(RYB)
500S3
-VBC6
101S3
-VBC6
相 数
入
力
電 圧
周 波 数
出
力
101S3
-VBC
201S3
-VBC
401S3
-VBC
751S3
-VBC
三相入力(ただし,400 W 以下に限り単相入力可)
AC100∼115 V(−15 %+10 %)
50/60 Hz
AC200∼230 V(−15 %+10 %)
50/60 Hz
制 御 方 式
全ディジタル正弦波 PWM 方式
キャリヤ周波数
10 kHz
定 格 電 流(A)
0.9
1.5
2.7
0.9
0.9
1.5
2.6
4.8
最 大 電 流(A)
2.7
4.5
8.1
2.7
2.7
4.5
7.8
14.4
過 負 荷 耐 量
3 s/300 %
制 動 方 式
直流中間回路への回生制動,回生抵抗は外付け(オプション)
インクリメンタル専用 16 ビットシリアルエンコーダ(1回転分解能 16 ビット)
制 御 機 能
パルス列入力による位置制御
最大入力
パルス周波数
1 MHz(差動),200 kHz(オープンコレクタ)
最大回転速度
5,000 r/min
周 波 数 応 答
J M)
600 Hz(at J L= 位 置 分 解 能
2 (=65,536)/1回転
16
過電流(01,02),過速度(03),過電圧(04),エンコーダ異常(05),制御電源異常(06,07),
メモリ異常(08),組合せ異常(09),回生トランジスタ過熱(10),エンコーダ通信異常(11),
CONT 重複(12),過負荷(13),不足電圧(14),回生抵抗過熱(15),偏差オーバー(16),
アンプ過熱(17),エンコーダ過熱(18),イニシャルエラー(19)
保護機能(アラーム)
構 造
開放,自然空冷
開放,強制空冷
屋内,標高 1,000 m 以下
じんあい,腐食性ガス,直射日光なきこと
CE マーキング対応の場合 ™Pollution Degree=2
™Over Voltage Category=Ⅱ
設 置 場 所
環
境
500S3
-VBC
単相入力
フ ィ ー ド バ ッ ク
機
能
・
性
能
201S3
-VBC6
周 囲 温 度
−10∼+50 ℃
周 囲 湿 度
10∼90 % RH(結露なきこと)
耐 振 動
4.9 m/s2{0.5 G}
衝 撃
19.6 m/s2{2 G}
そ の 他
UL/cUL(UL508C),CE マーキング(低電圧指令 EN50178)第三者認定取得
質 量(kg)
0.6
0.7
表2 外形寸法比較
(単位:mm)
200 W
高さ
α
β
160
160
60
80
100
奥行
130
130
130
高さ
130
130
130
幅
幅
0.7
1.0
図2 密着配置図
750 W
160
奥行
容積比
400 W
0.6
35
50
70
130
130
130
47 %
51 %
57 %
[例]200 V 入力 50 ∼ 750 W それぞれ 1 軸
α:FALDIC-αシリーズ(200 V 入力)
β:FALDIC-βシリーズ(200 V 入力)
最小レベルのサーボアンプを実現した。
また,小型化をしたにもかかわらず操作性が損なわれな
いよう以下のような工夫を施した。
① タッチパネルに従来と同一の機能を持たせる。
② 配線接続用のコネクタをすべて前面に配置する。
③ 回生抵抗をアンプに取付け可能とする。
外形寸法の比較を表2,密着配置図を図2に示す。
2.2 簡単セットアップ
(1) 操作性を追求したセットアップパラメータ
FALDIC-βは,半導体製造装置などに代表されるよう
477(39)
富士時報
超小型サーボシステム「FALDIC-βシリーズ」
Vol.75 No.8 2002
な高タクト位置決め制御をターゲットに絞り込んだパルス
図3 オプションの外観
列運転専用アンプである。故にサーボアンプの設定パラ
回生抵抗
(薄型)
メータは,全体数こそ少なくなっているものの,高タクト
を極限まで追求するために
章で紹介する「制振制御」
「ノッチフィルタ」などの制御設定パラメータは増えてい
サーボアンプ
る。そのためパラメータブロックを「基本設定」
「システ
ム設定」
「制御設定」と用途別に分類し,パルス列運転を
行うために最小限必要なパラメータを「基本設定」ブロッ
クに集約することによって,短時間でセットアップできる
ように工夫している。
(2 ) オートチューニング
オートチューニングは,従来のオートチューニングをブ
ラッシュアップし,FALDIC-α では 30 倍までであった
負荷慣性比を 100 倍までとし機械の適応範囲を広げている。
また,その調整は,いわゆる「ワンパラメータオート
チューニング」として,前項でも紹介したパラメータの
「基本設定」ブロックに「オートチューニングゲイン」と
ダイナミック
ブレーキングユニット
しておき,
「オートチューニングゲイン」一つを上下する
だけで簡単にサーボの最高性能を引き出せるようになって
いる。
御に頼らず,外部回路にてモータを停止させる方法として,
2.3 海外規格への対応
り,この機能を内蔵した「ダイナミックブレーキングユ
モータ動力線を短絡して制動トルクを発生させる方法があ
本シリーズでは北米市場で要求される UL/cUL 規格,
ニット」を用意した。本オプションはアンプ本体下部に取
欧州市場で要求される EN 規格(CE マーキング)に標準
付け可能であり,アンプと一体化することで小型化を実現
品で対応している。
している。またユーザーの操作性を考慮して,パラメータ
の変更などは必要なしに,オプションをワンタッチ装着す
2.4 16 ビットシリアルエンコーダ
FALDIC-βシリーズでは高性能・高精度位置決めを要
求されることから,サーボモータに新開発のシリアルエン
るだけで,アンプ側が自動認識しダイナミックブレーキが
動作可能としている。
(3) 回生抵抗
コーダを搭載した。本エンコーダの分解能は 16 ビット
オプションの回生抵抗は,薄型(小型)と大型の 2 種類
(65,536 パルス相当)であるうえ,高速シリアル通信にて
の形状を用意した。特に薄型の抵抗はアンプ本体の冷却
データをアンプに伝送する。これにより,低速域での回転
フィン部に取付け可能であり,抵抗とアンプを一体化する
むらの安定化,高速応答性を実現している。また従来のア
ことで,アンプの小型化を維持することができ,盤内の設
ブソリュート機能を取り除いてインクリメンタル専用とす
置面積を必要としないように配慮した。
ることで柔軟な価格対応力を有している。
制御機能
2.5 オプションの充実
本シリーズではさまざまなユーザーニーズに対応するた
。
めにオプションの用意をしている(図3)
3.1 振動を抑制
(1) 制振制御
(2 )
(1) パソコンローダ
FALDIC-βは富士電機独自の技術である制振制御を標
サーボシステムの操作性向上のため,支援ツールとして
準搭載している。制振制御とは,サーボアンプに多慣性の
専用のパソコンローダを用意した。これによりセットアッ
機械モデルを内蔵し,ロボットアームの先端のような剛性
プ,トラブルシューティング,メンテナンスなどの作業の
の低い機械の振動を低減できる機能である。この機能を使
効率化を図っている。また「制振制御」
「ノッチフィルタ」
用するには,その機械固有の振動周波数に応じてサーボア
などの機能を簡単に使えるようにパソコンローダに「サー
ンプのパラメータである「反共振周波数」を設定する必要
ボアナライズ機能」を搭載可能としている。またパソコン
がある。今回,そのパラメータを4段装備し,例えば,機
ローダとサーボアンプの接続において,使用ケーブルは汎
械の搬送物の有無で振動周波数が変化するような機械にお
用 LAN ケーブルを採用し,ユーザーの入手性を考慮した。
いても柔軟に対応できるように,外部入力信号から切換が
(2 ) ダイナミックブレーキングユニット
サーボシステムに異常が発生した際,モータを強制停止
させることが望まれる場合がある。アンプ本体のモータ制
478(40)
できるようになっている。
(2 ) ノッチフィルタ
サーボシステムを有するさまざまな装置において,装置
富士時報
超小型サーボシステム「FALDIC-βシリーズ」
Vol.75 No.8 2002
の生産性を向上させるため,一般的にサーボの制御設定を
パソコンのアプリケーションから構成され,機械の特性を
高応答設定とする。しかし,高応答に設定すると,モータ
解析できる機能である。図4はパソコン上のサーボアナラ
と装置の機械共振を発生しやすくなり,それ以上の高応答
イズ画面である。加振トルク,加振モード(軸構成)と
な設定は望めなかった。このような機械共振を避ける方法
いった簡単な項目の設定後,開始から 15 秒程度で機械特
は,ローパスフィルタを設定する方法があるがカットオフ
性を表すボード線図が表示される。一般的に,共振点,反
周波数以上の応答をすべて減衰させ,機械共振点を大きく
共振点がない機械においては右肩下がりのフラットな曲線
超える周波数までの応答を得ることができなかった。この
になるが,それらがある場合,図4のように山谷が明確に
課題を解決するべく,本シリーズではノッチフィルタを搭
出る。山の部分が共振点,谷の部分が反共振点である。
載している。ノッチフィルタは特定の周波数のみ応答を減
衰させる特性を持っている。その周波数に共振周波数を設
定することにより機械との共振を抑制し,より高応答な設
3.2 高性能
(1) 指令追従制御
定ができるようになっている。この共振周波数を 2 段装備
富士電機では,装置の動作タクトタイム短縮の要求に応
し,共振点が 2 点あるような複雑な機械にも柔軟に対応で
えるため,整定時間の短縮にチャレンジしてきた。本シ
きるようになっている。
リーズでは整定時間を大幅に短縮できる指令追従制御を開
(3) サーボアナライズ機能
発した。指令追従制御とは,位置指令に対してモータを完
前述の「制振制御」および「ノッチフィルタ」は,サー
全に追従させ,位置偏差量をほぼゼロとするように制御す
ボアンプのパラメータとして共振周波数と反共振周波数を
る方式である。 図 5は指令追従制御のブロック図である。
適切に設定しなければ威力を発揮しない。そこで,これら
通常のフィードフォーワード制御は,加減速時に位置偏差
設定値を「簡単に」
「正確に」求めるためサーボアナライ
量がゼロになることはないが,そこにブロック図の指令追
ズ機能を開発した。サーボアナライズ機能とは,サーボア
従ブロックが示すように補償項を加えることによって,加
ンプ内蔵のトルク指令を入力とした加振機能と,加振した
減速時も含めて位置偏差量をほぼゼロにすることができる。
ときのトルク,速度,位置データから機械特性を解析する
図6は,従来制御と指令追従制御との比較波形である。図
図4 サーボアナライズ画面
図6 指令追従波形
3,000
r/min
指令周波数
5,000
パルス
偏差パルス
3,000
r/min
指令周波数
5,000
パルス
偏差パルス
10 ms
位置決め完了
5.1 ms
10 ms
位置決め完了
従来制御
0 ms
指令追従制御
指令パルスが切れたと同時に位置決め完了ができる。
動作
:3,000 r/min まで 20 ms で加減速
位置決め完了幅:偏差が 200 パルス以下
サーボ調整
:同じ調整値で指令追従制御を追加
図5 指令追従制御ブロック図
指令追従
制御
d
dt
パルス列入力
S字時定数
フィード
フォワード
位置調節器
ゲイン
PI制御
ノッチ
フィルタ
電流制御
M
PG
整定時
加算制御
位置検出
速度検出
479(41)
富士時報
超小型サーボシステム「FALDIC-βシリーズ」
Vol.75 No.8 2002
を見ても明らかなように,指令追従制御で動作させた波形
は全域で位置偏差量がほぼゼロとなっている。その結果,
あとがき
同条件で測定したにもかかわらず,位置決め整定時間(指
令周波数ゼロから位置決め完了オンまで)は従来制御の
5.1 ms に対して 0 ms を達成している。
以上,
「FALDIC-βシリーズ」についてその概要を述べ
た。本シリーズは業界トップレベルの性能と小型化を同時
に実現したものであり,高タクト・高速位置決めを必要と
(2 ) 高分解能化
本シリーズは,位置決め運転の指令としてパルス列入力
するニーズに積極的に応えた製品である。富士電機では,
専用機種である。このパルス列指令の最高入力周波数は従
今後もさまざまな業種の機械において生産性向上に役立つ
来 500 kHz で あ っ た の に 対 し , 本 シ リ ー ズ で は 1 MHz
サーボシステム製品開発に全力で取り組む所存である。
(差動入力時)まで可能とし,新規開発の専用 16 ビットイ
ンクリメンタルシリアルエンコーダとの組合せで,装置の
参考文献
高分解能化を達成した。また電流制御ループの高速演算処
(1) 荒川宏泰ほか.小形・高性能サーボシステム FALDIC- α
理を行う専用制御 LSI と,32 ビット RISC-CPU により,
シリーズ.富士時報.vol.72,no.4,1999,p.243- 247.
周波数応答 600 Hz,位置決め整定時間 1 ms 以下を実現し
(2 ) 藍原隆司ほか.サーボシステムの制御技術応用例.富士時
た。
報.vol.74,no.7,2001,p.415- 418.
解 説
高調波電流
高調波電流とは一般に基本となる商用周波数(50
Hz または 60 Hz)以上の周波数成分を持った電流で,
制させるような電力変換装置の回路方式や制御方式に
おける研究開発が盛んに行われている。
主に電力変換装置が動作することによって電源系統に
発生する。電源系統にはさまざまな機器が接続されて
いるので,電力変換装置が高調波電流を発生させると,
同じ電源系統に接続されている他の機器に悪影響を与
える。例えば,高調波電流によって機器が誤動作した
り,場合によっては破損してしまう。そこで,高調波
電流の発生を抑制させる目的で国際規格 IEC61000 3-2 が制定された。
IEC61000-3-2 は有効消費電力が 75 W 以上かつ定
奇
数
高
調
波
格入力電流が 16 A/相以下の機器に適用され,機器の
用途や消費電力によってクラス A ∼ D に分類されて
いる。例えば,表にクラス A における高調波電流の
限度値を示す。クラス A では三相平衡機器や他のク
ラスに属さないすべての機器が対象となり,各周波数
成分の高調電流を表に示されている限度値以下にする
必要がある。よって,近年では高調波電流の発生を抑
480(42)
偶
数
高
調
波
高調波次数
n
最大許容電流
(A)
3
2.30
5
1.14
7
0.77
9
0.40
11
0.33
13
0.21
n
15≦ ≦39
0.15
2
1.08
4
0.43
6
0.30
n
8≦ ≦40
0.23
15
n
8
n
富士時報
Vol.75 No.8 2002
瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」
田中 伸央(たなか のぶひさ)
國中 孝文(くになか たかふみ)
内藤 英臣(ないとう ひでおみ)
まえがき
瞬 低
落雷による瞬時電圧低下(瞬低)などの電源障害は負荷
瞬低は,電力系統を構成する送電線などに落雷などで故
機器へ影響を与え,その程度(瞬低時間,電圧低下度)に
障が発生した場合,故障点を検出し遮断器で故障点を電力
より,負荷機器の誤動作や動作不能を引き起こす。その結
系統から切り離すまでの間,電圧が低下する現象(図2)
果,貴重な情報資産の喪失や生産ラインの操業停止など甚
である。
大な損失を被ることがある。こういった被害を回避するた
図3は近年の国内における年間の停電発生状況を示して
め,UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装
おり,瞬低継続時間:200 ms および電圧低下度:50 %ま
置)を導入して電源の安定化を図っているユーザーは多い。
一方,小容量の UPS(ミニ UPS)に搭載されている
図1 「DipHunter」の外観
バッテリーは約3年ごとの寿命による交換を必要としてお
り,特に多数のミニ UPS を導入しているユーザーは,そ
の保守が大きな負担となっている。経済的な面もあるし,
バッテリーの交換作業の労力や寿命管理が必要となるから
である。今回,富士電機ではメンテナンスフリー瞬低保護
装置として「DipHunter」
( 図1 )を開発した。蓄電装置
としてバッテリーを使用せずコンデンサを採用することに
より,バッテリーの定期交換を不要とし,その他すべての
部品寿命を8年以上とすることで,メンテナンスフリー化
を実現した。以下にその概要を述べる。
(2 )
図2 瞬低発生メカニズム
雷
わっ!
雷だ!!
②せん絡
⑤瞬低の
影響発生
⑥故障検出
①落雷
変電所
③故障電流
故障だ!
回路を
切り離せ!!
⑦故障
除去
④瞬低
発生
保護リレー 遮断器
発電所
変圧器
田中 伸央
國中 孝文
内藤 英臣
UPS の製品開発,設計に従事。
UPS の開発,量産試験,検査に
UPS の商品企画に従事。現在,
現在,神戸工場制御設計部。
従事。現在,神戸工場品質保証部。
機器・制御カンパニー電源・機器
事業部電源技術部。
481(43)
富士時報
瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」
Vol.75 No.8 2002
でに,どちらも発生回数の 80 %以上が集中している。
特 徴
一方,図4は各機器の瞬低耐量を示しており,ほとんど
の機器が瞬低に対し,十分な耐量を持っていないことが分
かる。
今回開発した瞬低保護装置「DipHunter」は,下記の特
また,近年,半導体製造装置にも瞬低耐量が求められる
徴を備えている。
ようになってきており,この規格として SEMI F47 規格
(図5)が示されているが,半導体製造装置に内蔵される
機器すべてがこの規格をクリアできるようになっていると
3.1 SEMI F47 規格クリア
半導体製造装置などの安全規格である SEMI スタン
ダードの F47(半導体プロセス装置電圧サグイミュニティ
は限らず,瞬低保護装置や UPS が必要とされる。
のための仕様)は,半導体製造装置に対する瞬低耐量を要
(2 )
図3 年間の停電発生状況
求した規格である。
「DipHunter」はこの規格値(0.05 ∼ 1.00 秒の範囲)お
回数(回/年)
10
8
〈97〉
100
(80) 87 88 90
82
(84)
(84)
(84)
〈78〉
〈98〉
〈98〉
〈98〉
(71)
61
T =12回/年
6
4
よびこの規格の推奨値(0.05 秒未満,1.00 秒以上の範囲)
までもクリア(図5)している。
半導体製造装置側で SEMI F47 規格を満足できない場
(%)
12
50
合でも,この装置を電源側に設置することで,この規格の
要求レベルを十分満足することができる。
200 ms
〈1〉
2 (0)
7
0
3.2 メンテナンスフリー
一般的に UPS は瞬低だけでなく長時間の停電もその保
6 12 18 24 30 36以上
瞬低継続時間(×10 ms)
護対象となっている反面,バッテリーを使用することから,
0
3
6
9
12 15 18以上
瞬低継続時間(サイクル:50 Hz系)
バッテリーのメンテナンスが必要である。
そこで,この装置は圧倒的に頻度の多い瞬低に保護対象
(a)瞬低継続時間別回数
を限定し,コンデンサの蓄積エネルギーでバックアップを
96 100
〈80〉 88
(100)
(77)
10
〈100〉
76 (92)
〈54〉
〈95〉
8 (54)
54
行う方式を採用した。
6
T =12回/年
50
これにより,UPS のように煩わしいバッテリーの定期
的な交換作業が不要で,8 年間(周囲温度 25 ℃の環境下
にて)のメンテナンスフリーを実現し,ユーザーにとって
(%)
回数(回/年)
12
大きな負担であるメンテナンス費用やバッテリーの廃棄費
4
用などのランニングコストが不要となる。
また,バッテリーを使用していないので,鉛などの有害
2
物質もなく,環境にも優しい。
0
20 40 60 80 100
注〈 〉:多雷地域での値
電圧低下度(%)
( ):少雷地域での値
(b)電圧低下度別回数
3.3 優れた出力電源品質
主回路部分は常時インバータ給電方式を採用しているた
め,この装置の出力は商用電源側で発生した電圧変動や
(2 )
図4 機器の瞬低耐量
図5 SEMI F47 規格および「DipHunter」瞬低耐量
パワーエレクトロニクス
応用可変速モータ
高圧放電ランプ
不足電圧
継電器
0
ワープロ
パソコン
電磁開閉器
ベッドサイドモニタ
(医用電気機器)
50
凡例
影響なし
0.2秒
影響あり
〈注〉この特性は実測の一例であり,メーカーの保証値
ではない。機種・負荷状況によって特性は異なる。
100
0.01
0.05 0.1
0.2
0.5
1
2
瞬低継続時間(s)
0.5
5
10
(サイクル:50 Hz 系)参考
482(44)
SEMI F47 10
推奨値
10
50
100
入力電圧低下度(%)
電圧低下度(%)
0
0.5
20
30
2
40
50
10
0.2
0.02
0.45
0.3
60
0.24
70
0.21
80
0.19
90
0.19
0.18
100
0.01
出力100 V(−8%)
SEMI F47規格範囲
(0.05∼1.00秒)
10
0.1
1
バックアップ可能時間(s)
〔条件〕
瞬停耐量カーブ(出力電圧−8%にて停止)
※抵抗負荷700 W時
100
富士時報
瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」
Vol.75 No.8 2002
サージ,ノイズの影響を受けず,常に安定した出力電圧を
を可能としている。
。
負荷機器へ供給することが可能である(図6)
また,整流器負荷(ピーク値の高いひずんだ電流)に対
しても瞬時電圧制御機能により,ひずみのない,きれいな
。
正弦波電圧を出力する(図7)
3.5 海外安全規格対応
海外の安全規格である UL1778 を取得,および CE マー
キングにも適合した設計としている(2002 年 7 月取得済
み)
。これにより,海外向け機器への搭載も容易に行える。
3.4 系統に優しい電源
この装置の入力部は高力率制御コンバータで構成され,
3.6 小型・軽量
入力電流を力率1の正弦波電流(図8)となるようにコン
コンデンサバックアップ方式の採用により,現行の富士
トロールしているため,高調波電流と所要入力容量の低減
電機製ミニ UPS J シリーズに対して体積はそのままで,
質量は約 35 %の軽量化を達成し,縦置き・横置きも可能
( 図9 )で,FA 機器や半導体製造装置などの産業用機械
図6 商用電源変動に対する出力電圧
商用電源の変動
定電圧・定周波無停電
図9 縦置きおよび横置き「DipHunter」の外観
電圧
変動
周波数
変動
Dip
Hunter
定電圧
定周波
無停電
負荷
機器
波形
ひずみ
高周波
ノイズ
瞬時
停電
図7 整流器負荷時の出力電圧波形
表1 「DipHunter」の主な仕様
項 目
仕 様
給電方式
常時インバータ給電
電圧: 50 V/div
定格容量
1 kVA/0.7 kW
相 数
単相 2 線
電 圧
100 V±2 %
周 波 数
50 または 60 Hz
備 考
瞬低補償時は
−8%
交流出力
電流: 20 A/div
時間: 2 ms/div
図8 定格負荷時の入力電流電圧波形
交流入力
電圧: 50 V/div
電流: 10 A/div
時間: 2 ms/div
そ の 他
電圧波形
正弦波
過負荷保護
10 A(実効値)/
30 A(ピーク値)
UPS 内部にて
自動切換
相 数
単相 2 線
電 圧
100 V±15 %
周 波 数
50 または 60 Hz±5 %
容 量
1 kVA 以下
力 率
0.97 以上
入出力定格時
瞬低耐量
130 ms 以上
(コンデンサ初期時)
110 ms 以上
(コンデンサ寿命時)
周温 25 ℃,
700 W 負荷時
瞬低繰返し
耐量
5 秒間隔で約 130 ms の
瞬低繰返し(負荷 700 W)
周囲温度
0∼40 ℃
相対湿度
30∼90 %(結露なきこと)
冷却方式
強制風冷
外形寸法
W128×D365×H214
(mm)
質 量
9 kg
483(45)
富士時報
瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」
Vol.75 No.8 2002
図10 「DipHunter」の主回路構成
高力率
コンバータ
交流入力プラグ
交流出力コンセント
PWM
インバータ
+
バイパスリレー
R
S
+
E
EMIフィルタ
への搭載も容易にできるデザインになっている。
また,19 インチラックへの搭載も可能で,19 インチ
ラックマウント用アタッチメントも用意している。
瞬低時の記憶内容は次の4種類である。
(1) 瞬低が発生した回数
(2 ) バックアップ補償時間を超える瞬低が発生した回数
(3) 瞬低継続時間
仕 様
(4 ) バックアップ継続時間
メモリに記憶された内容は,装置とパソコンとをシリア
表1に主な仕様を示す。
ルケーブルで接続することにより,パソコンの画面上で確
バッテリー方式の UPS では,電源環境の悪い場所で,
認することができ,不具合解析の手助けとなる。
瞬時の電圧低下にもバッテリーによるバックアップ動作が
あらかじめ専用の通信ソフトウェアをパソコンにインス
頻繁に働き,バッテリーを消耗して装置が停止してしまう
トールしておく必要があるが,このソフトウェア(UPS
恐れがあり,注意が必要である。
TALK)は特定のホームページからダウンロードが可能で
しかし,この装置の回路方式では,コンデンサへの充電
ある。
は直ちに行えることから,電源環境の悪い場所でも,頻繁
な瞬低に対応が可能である。
あとがき
その尺度として,この装置には瞬低繰返し耐量を設けて
おり,5 秒間隔で約 130 ms の瞬低(100 %→ 0 %)繰返し
にも対応可能な仕様となっている。
本稿では,瞬低保護装置「DipHunter」についての概要
を紹介した。
図10に回路構成を示す。常時はインバータ給電で,装置
この装置は,従来の UPS ではどうしても超えられな
異常時には商用給電に切り換えるバイパス回路を有し,信
かったメンテナンスフリーというハードルをクリアした製
頼性をアップさせている。
品である。これにより,保守の煩わしさから UPS の採用
を見合わせていたユーザーに対しても推奨でき,半導体製
瞬低発生記憶機能
造装置や FA 機器・システムへの適用が加速していくこと
が見込まれる。
「DipHunter」は,きわめて短い時間(数十 ms オー
今後もさらなる情報化の進展に伴い,社会の電気への依
ダー)の瞬低に対して負荷機器を保護するが,数十 ms
存が一層高まっていくことが予想され,この瞬低保護装置
オーダーのバックアップでは,この装置が実際に動作した
や UPS の必要性が高まることは必至である。社会の要求
かどうかを判断することは非常に困難である。
に応えるためにもさらなる高信頼化・高品質化とともに,
例えば,短い入力電圧低下が発生したときに,この装置
の出力が停止した場合,この装置の許容バックアップ時間
顧客のさまざまなニーズに合わせた製品の開発に尽力する
所存である。
を超えた瞬低があったのか,この装置に異常があって出力
が停止したのかが判断できず,この装置の有用性が明確に
ならないことが危惧(きぐ)される。
このようなトラブルを防ぐことを目的に,この装置は
CPU(制御回路)で入力電源電圧を観測し,瞬低時はそ
の観測内容をメモリに記憶し,必要なときに読み出せる機
能を設けている。
484(46)
参考文献
(1) 松尾浩之ほか.新型ミニ UPS「NetpowerProtect シリー
ズ」
.富士時報.vol.74,no.7,2001,p.427- 430.
(2 ) 電気共同研究会.瞬時電圧低下対策.電気共同研究.
vol.46,no.3,1990.
(3) SEMI STANDARD.SEMI F47- 0200,2000.
富士時報
Vol.75 No.8 2002
24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
小薗 秀明(こぞの ひであき)
熊谷 洋(くまがい ひろし)
國分 多喜雄(こくぶん たきお)
図1 24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ(C-GIS 2100)
まえがき
高度情報化社会の進展に伴い,常に安定した電気エネル
ギーの供給が求められている中で,スイッチギヤは,受変
電設備を構成する主要機器であり,信頼性,安全性,小型
軽量化,および保守点検の省力化が強く求められている。
そのため,最近の特別高圧クラス(24/36 kV)ではガス絶
縁スイッチギヤ(C-GIS:密閉容器の中に主回路を収納し
SF6 ガスなどにより絶縁を保持する)が主流になってきて
いる。
一方,1997 年 12 月に開催された「気候変動枠組み条約
第 3 回締約国会議」
(COP3)において「京都議定書」が
採択され,2000 年以降における先進国の温室効果ガス排
出量の削減目標が規定された。削減対象のガスは CO2 な
ど 6 種類であり,その中に SF6 ガスも含まれている。
SF6 ガスは電気機器に必要な絶縁,消弧,不燃,無害な
N99-2521-3
ど多くの長所を有する反面,大気寿命が長く,評価年数を
100 年とした場合の地球温暖化係数比較で CO2 の 23,900
と小型軽量化を実現した C-GIS)と C-GIS 2100 の特徴お
倍と非常に大きな温室効果を示す。そのため,電気機器に
よび仕様を表1に示す。
おける脱 SF6 ガス化が求められている。
このような地球環境保護の観点から SF6 ガスをまったく
使用しない 24 kV 脱
SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS
2100」
(以下,C-GIS 2100 という)の製品化を完了したの
でここに紹介する。
2.2 製品化技術
(1) C-GIS 2000 での実現技術
C-GIS 2000 では SF6 ガスの極少化(従来型の 12 kg を
4.4 kg に)
,小型軽量化(従来型の 2,400 kg を 1,000 kg に)
,
および正面保守型を実現している。
製品概要
(2 ) C-GIS 2000 の構成
C-GIS 2000 における SF6 ガスの極少化は,固体絶縁部
SF6 ガスをまったく使用せず,なおかつ小型軽量化によ
品の採用,遮断器および断路器の小型化による密閉容器の
り素材の総使用量を低減した CO2 の排出量削減に寄与す
縮小化によるものである。これにより,密閉容器の下部ス
る製品を実現した。
ペースに主回路ケーブルを配置することを可能とし,正面
保守型を実現している。さらに密閉容器をステンレス鋼製
2.1 特徴および仕様
薄板で構成することで軽量化を実現している。
C- GIS 2100 により,脱 SF6 ガス化および質量の低減
(従来型 2,400 kg → 1,000 kg)を達成した。製品の外観を
図1に示す。
(3) C-GIS 2100 による脱 SF6 ガス化
C-GIS 2100 では,C-GIS 2000 の実現技術に新絶縁技術
の適用および技術的課題を解決することにより,同等の質
C-GIS 2000(C-GIS 2100 に先駆けて SF6 ガスの極少化
量にて脱 SF6 ガス化を達成している。
小薗 秀明
熊谷 洋
配電盤の開発・設計に従事。現在,
配電盤の開発,設計に従事。現在,
真空遮断器の開発設計に従事。現
神戸工場配電盤設計部マネー
神戸工場配電盤設計部。
在,機器・制御カンパニー技術開
ジャー。電気学会会員。
國分 多喜雄
発・生産センター開発部主任。
485(47)
富士時報
24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
Vol.75 No.8 2002
図2に C-GIS 2100 に関する製品化技術について示す。
脱 SF6 ガス化における技術的課題
図3に C-GIS 2000 および C-GIS 2100 の断面とその回路
構成を示す。回路構成への柔軟な対応を考慮し,受電部に
接地開閉器および 3 位置受電断路器を同時に配置できるよ
うにしている。
脱 SF6 ガス化を行うにあたり,ドライエアと窒素を評
価したが,コロナ緩和作用により高い耐電圧性能を確保で
きるドライエアを採用することとした。
表1 各製品の特徴および仕様
製品名称
発売時期
絶縁媒体・定格圧力
なお,試作装置に窒素を封入して実験した結果,ドライ
C-GIS 2100
C-GIS 2000
2000 年 7 月
2002 年 4 月
SF6
0.05 MPa(G)
ドライエア
0.09 MPa(G)
SF6 ガスの量(kg)
4.4
0
放圧板の有無
なし
あり
ガス収納密閉容器の材質
標準質量(kg)
幅
標準
寸法
(mm)
(2 ) 気密性能の確保
(3) 加圧したドライエア中での絶縁物の安定性の確保
1,315
正背面保守
1,700
1,750
奥行
VCB 構造
2,300
バリヤ有無
ドライエアの耐電圧性能は,零気圧(ゲージ圧)では
SF6 ガスと比較して,約 1/3 である。
あり
なし
(4 ) 内部事故への対策
3.1 絶縁性能の確保
0.79
0.75
固体絶縁母線
加圧したドライエア中での雷インパルス絶縁特性におい
24
て,平等電界条件での 50 %破壊電界は,ギャップ長およ
50
びガス圧力の 0.84 乗に比例して高くなる。さらに,ドラ
雷インパルス(kV)
125
イエア(水分量 500 ppm)と高純度ドライエア(水分量
零気圧(ゲージ圧)
運転電圧に耐える
0.5 ppm)の 50 %破壊電圧は一致しており,水分量が約
20B
500 ppm 以下であれば,絶縁性能には影響がない。また,
定格電圧(kV)
商用周波(kV)
耐電圧
(1) 絶縁性能の確保
1,250
母線の構造
アを採用するにあたっての技術的課題は以下のとおりであ
る。
1,000
正面保守
高さ
また,零気圧(ゲージ圧)ドライエアにおいて,運転電
圧に耐える絶縁性能があることを確認している。ドライエ
ステンレス鋼
600
据付け面積(m2)
エアの場合よりも破壊電圧が大幅に低下することを確認し
ている。
絶縁階級
定格電流(A)JEM/IEC
定格短時間電流
定格周波数(Hz)
準拠規格
600/630,1,200/1,250
25 kA,1 秒
(1)
不平等電界条件についても検証している。
表2に適用した絶縁方式と適用箇所を示す。
50/60
(1) ガス絶縁
JEM1425 IEC60298
断路器コンタクトおよび主回路導体は,曲率を大きくす
図2 24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ(C-GIS 2100)の製品化技術
C-GIS 2000での実現技術
ステンレス鋼製薄板容器の
採用
固体絶縁部品の採用
固体絶縁母線
固体絶縁VT
ブッシング貫通形CT
小型遮断器の採用
縮小型真空バルブの開発
真空バルブの水平配置
小型断路器の採用
回転形断路器
絶縁物容器への収納
新絶縁技術の採用
加圧ドライエア
最適絶縁技術
技術的課題の解決
気密性能
絶縁物特性
内部事故
486(48)
小型軽量化
の実現
密閉容器の
縮小化
主回路ケーブルの
密閉容器下部配置
正面保守型
の実現
SF6ガス極
少化の実現
24 kV脱SF6形
ガス絶縁スイッチギヤ
C-GIS 2100
脱SF6ガス
の実現
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24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
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図3 断面図およびスケルトン
C-GIS 2000
C-GIS 2100
母線
放圧装置
母線断路器室
断路器
バリヤ
M
絶縁物容器
遮断器室
真空バルブ
2300
2300
絶縁
ボード
遮断器
密閉容器
40
1185
1250
表2 絶縁方式と適用箇所
効果および特徴
絶縁方式
ガス絶縁
電極形状の最適化と空間距離の
確保による電界の緩和
600
40
1235
1315
40
50
25
50
電力ケーブル
600
図4 絶縁ボードによる相配置変換
適用箇所
断路器コンタクト
主回路導体
電極から直接荷電粒子が出ない。
被覆絶縁
等電位線が押し出されることで曲率
が大きくなり,電界が緩和される。
母線ブッシング
取付コンタクト
最大電界点が電極表面でなく
絶縁物表面となる。
バリヤ絶縁
放電路が長くなる。
バリヤの帯電により平等電界に
近づく。
半固体絶縁
被覆絶縁に同じ
VCB
母線断路器ーVCB
間の導体
る,あるいは空間距離を確保することにより,裸電極のま
まで絶縁性能を確保できる構造とした。
(2 ) 被覆絶縁
続する導体を一体注型したボード)を介して接続すること
で,省スペースで絶縁を確保した。図4に絶縁ボードによ
る相配置変換の状況を示す。
被覆絶縁は導体の表面に絶縁層を形成することにより耐
電圧を上げる方法である。気中盤で従来から実績があるが,
今回,加圧したドライエア中での効果について基礎から検
証し,最適な方法を採用している。
(3) バリヤ絶縁
3.2 気密性能の確保
ドライエアを採用するにあたり,密閉容器の気密性をい
かに確認するかが課題となる。従来,漏れの確認は空気中
に存在しない SF6 ガスの検出によっていたが,ドライエ
バリヤ絶縁は導体の相間あるいは対地間に絶縁板を挿入
アは外部の気体と同一であるため,その方法はとれない。
することにより耐電圧を上げる方法である。バリヤの位置
本製品では,空気中に存在せず,分子径がドライエアよ
によって耐電圧に影響が出るが,本製品ではバリヤを遮断
り小さいヘリウム(He)により,漏れ確認を行うことと
器本体に取り付けることで精度を確保している。
している。
(4 ) 半固体絶縁
母線断路器下部の主回路導体においては,前後に三相が
各気体の分子径を以下に記す。
。
He:2.18 A
。
配置される母線断路器と左右に配置される遮断器との接続
O2 :3.64 A
部における交差部の絶縁確保に困難が予想された。第 1 相
N2 :3.75 A
および第 3 相導体を,絶縁ボード(前後から左右へ直接接
。
。
SF6 :6.0 A
487(49)
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24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
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に封入した密閉容器内と大気圧開放下に試験片を保持し,
3.3 加圧したドライエア中での絶縁物の安定性の検証
170 ℃で 1,000 時間まで検証した。時間に対する曲げ強さ
加圧したドライエア中では,酸素濃度が大気圧〔0.1
の低下特性を図5に示す。なお,図中に示した曲線は,大
MPa(abs)
〕中より高くなる。酸素濃度の絶縁物への影
気圧下の劣化に拡散の近似式を,高圧力下にべき乗の近似
響を確認するため,大気圧下と高圧力〔0.2 MPa(abs)
〕
式をあてはめている。
下にてエポキシ樹脂とポリカーボネート樹脂について,加
137 時間までの初期段階では,高圧力下における低下率
速劣化検証を行った。
検証の結果,エポキシ樹脂における 1,000 時間後の曲げ
表3 ポリカーボネート樹脂の検証結果
強さの低下率は高圧力下と大気圧下で同等であり,加圧に
加熱温度 125 ℃
条 件
より強度低下が加速されないことを確認した。また,ポリ
カーボネート樹脂についても,1,200 時間経過後の絶縁破
絶縁破壊強さ
(kV/mm)
壊強さは低下しておらず,実用上まったく問題にならない
ことが分かった。個々のケースにおける詳細を以下に述べ
大気圧開放
500 h 後
1,200 h 後
30
29.6
30.7
30.1
0.042
0.037
0.036
0.034
30.9
2 気圧密閉
大気圧開放
tanδ
(%)
る。
初 期
0.069
2 気圧密閉
(1) エポキシ樹脂の検証
エポキシ樹脂については,ドライエアを 0.2 MPa(abs)
図6 DS ケースの応力解析例
図5 エポキシ樹脂曲げ強さの低下特性
応力
大
1.2
:2気圧
:大気圧
Max
曲げ強さ(保持率)
1.0
Min
0.8
0.6
恒温槽:
170℃
0.4
0.2
0
200
400
600
800
時間(h)
1,000 1,200
小
図7 常用・予備受電(2CB,1VCT)の構成例
常用
予備
常用受電 予備受電
VCT
フィーダ フィーダ
3×CT
VD
VD
ES
ES
3×LA
DS
DS
VCB
VCB
DS
DS
2300
3×CT
VCT
3×LA
固体絶縁母線
600
600
W
600
600
VCT
正面保守型 正背面保守型
DS
DS
東京電力
(株)
管内
VCB
VCB
W*1(mm) 関西電力
(株)
管内
ES
ES
その他
盤奥行寸法(mm)
3×CT
488(50)
3×CT
*1:気中接続VCTの場合
*2:モールドタイプVCTの場合
1,400
1,500*2
1,600
1,315
1,750
富士時報
24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
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図8 常用・予備受電(2CB,2VCT)の構成例
常用
常用受電
予備
3×CT
VCT
VCT
フィーダ フィーダ
予備受電
VD
ES
ES
3×LA
H
3×CT
VD
3×LA
DS
DS
VCB
VCB
VCT
固体絶縁母線
600
VCT
VCT
VCT
W
600
DS
DS
DS
VCB
VCB
ES
W
600
正面保守型 正背面保守型
東京電力
(株)
管内
DS
600
1,400
W*1(mm) 関西電力
(株)
管内
1,500*2
その他
1,600
盤奥行寸法(mm)
ES
H(mm)
3×CT
3×CT
1,750
1,315
2,300*2
関西電力
(株)
管内
その他
2,650
*1:気中接続VCTの場合
*2:モールドタイプVCTの場合
〈注〉
図9 常用・予備受電(1VCT,バイパス DS)の構成例(〈注〉バイパス DS:2 回線受電,1VCT の場合で VCT の交換を無停電で行える方式)
常用
3×CT
VD
予備
常用受電 予備受電
VCT
EVT,LA フィーダ フィーダ
3×CT
VD
ES
H
ES
VCT
DS
DS
VCB
VCB
DS
DS
固体絶縁母線
600
600
W
600
600
600
DS
VCT
DS
正面保守型 正背面保守型
東京電力
(株)
管内
DS
W*1(mm) 関西電力
(株)
管内
DS
DS
VCB
VCB
ES
その他
盤奥行寸法(mm)
3×LA
ES
3×EVT
3×CT
3×CT
H(mm)
関西電力
(株)
管内
その他
1,400
1,500*2
1,600
1,315
1,750
2,300*2
2,650
*1:気中接続VCTの場合
*2:モールドタイプVCTの場合
が大気圧下よりも大きく,劣化が早く進行している兆候が
ンプル板の絶縁破壊強さと tan δの測定結果を示す。tan
認められたが,その後の 1,000 時間までの低下率を比較す
δ値は時間経過とともに徐々に低下しており,熱劣化の影
ると,大気圧下の低下率と同等であり,加圧条件により劣
響が認められ,高圧力下の低下がやや速い傾向にある。一
化スピードが継続して加速されることはないものと判断さ
方,絶縁破壊強さはまったく低下しておらず,実用上問題
れる。
にならないと判断できる。
これは,ドライエアの加圧による酸素分子の増加は,樹
脂表面には直接的に影響するが,樹脂内部への影響は少な
3.4 内部事故時の圧力上昇対策
いことによるものと考えられる。
密閉容器内におけるアーク事故時の圧力上昇は,空気中
(2 ) ポリカーボネート樹脂の検証
のほうが SF6 ガス中に比べ大きくなることが知られてい
ポリカーボネート樹脂については,125 ℃において大気
る。理由としては,空気は比熱が SF6 ガスに比べ 1/4 と
圧下と高圧力下で検証を行った。表3に,厚さ 1 mm のサ
小さく,温まりやすく膨張しやすいこと,さらにアーク電
489(51)
富士時報
24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
Vol.75 No.8 2002
圧が高いことがあげられる。
密閉容器をこの内圧上昇に耐えるようにすることは困難
あとがき
であり,経済的にも得策でない。
C-GIS 2100 では,この万一の内部事故に対し放圧装置
以上,SF6 ガスの極少化を実現した C-GIS 2000 に新た
を設け,事故の拡大を防止するようにしている。断路器室
な技術を付加し,脱 SF6 ガス化を達成した地球環境に優
との区画を行う絶縁物容器(DS ケース)は,放圧装置動
しい 24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ C-GIS 2100 に
作までの遮断器室内部圧力上昇に耐え,遮断器室での事故
ついて紹介した。
が母線へ波及しないようにしている。図6に DS ケースの
応力解析例を示す。
なお,放圧装置は安全を考慮し密閉容器天井部に設け,
ガスを盤天井部から放出するようにしている。
構成例
今回開発した製品は,地球温暖化防止という社会の要求
にマッチした製品であり,ユーザーに十分満足いただける
ものと考えている。今後とも,地球環境に優しい製品の開
発に取り組んでいく所存である。
参考文献
(1) 山岸泰彦ほか.加圧乾燥空気の雷インパルス絶縁特性検証.
常用・予備受電における標準スケルトンと構成例を図7
∼図9に示す。
490(52)
平成 13 年放電・開閉保護・高電圧合同研究会.ED- 01- 185,
SP- 01- 30,HV- 01- 84,2001.
富士時報
Vol.75 No.8 2002
最近の学会発表
パワー半導体国際会議(ISPSD ’
02)
(The 14th International Symposium on Power Devices & ICs)
パワー半導体およびパワー IC の最も重要な国際会
議である ISPSD’
02(The 14th International Sym-
縦型および横型デバイスとも実用化へ向け,研究開発
の本格化が印象的であった。
posium on Power Devices & ICs)が,2002 年 6 月
富士日立パワーセミコンダクタ
(株)
の大西より発表
4 日から 7 日まで米国のニューメキシコ州サンタフェ
さ れ た “ 24 mΩ ・cm2 680V Silicon Superjunction
で開催された。
MOSFET”では縦型デバイスにおけるクラス最高の
今回,129 のアブストラクト応募(30 %が米国,30
%がヨーロッパ,24 %が日本,13 %が韓国,3 %が
その他のアジア各国)の中から,口頭発表 40 件,ポ
性能指数を実現し,大きな注目を集めた。同業他社か
らの質疑も多く,関心の高さをうかがわせた。
IGBT の分野では,薄いウェーハを用いることに
よって低損失の実現が可能な次世代 IGBT に関する発
スター発表 31 件が採択された。
以下に,Plenary Session,ポスターセッション,
表が多くみられた。富士日立パワーセミコンダクタ
口頭発表,ワークショップから興味深い発表をリスト
(株)の大月より発表された“Investigation on the
アップし,その概要を紹介する。
Short-Circuit Capability of 1200V Trench Gate
Plenary セッションの中では,TI 社により発表さ
れ た “ Safe Operating Area
-
a New Frontier in
Ldmos Design”が,横型 MOSFET に関してはオン
Field-Stop IGBTs”では薄いウェーハに特有の熱に
よる負荷短絡破壊メカニズムに関する発表を行い,大
きな注目を集めた。
抵抗と耐圧のトレードオフの議論に加え,SOA(安
(株)
東芝より発表された“Ultra High Switching
全動作領域)の議論が高信頼性のために重要であるこ
Speed 600V Thin Wafer PT-IGBT Based on New
とを示唆した。SOA には電気的 SOA と熱的 SOA が
Turn-Off Mechanism”では,コレクタ層のエミッタ
あることを述べ,その測定方法とシミュレーションに
注入効率を下げることにより,MOSFET に近い高速
ついて説明していた。今後 SOA を改善するためには,
スイッチングを可能にする報告があり,参加者の興味
ベース抵抗に関連した設計,銅配線などを用いた素子
を引いていた。
冷却方法などに可能性があるとして注目を集めた。
横型 MOSFET の分野に関しては,特性向上に対す
また,ポスターセッションにおいても Infineon 社
によって発表された“1700V-IGBT3:Field Stop Tech-
るさまざまな構造の提案が興味深かった。
(株)
富士電
nology with optimized trench structure- Trend
機総合研究所の杉によって発表された“A 30V Class
setting for the High Power Applications in Indus-
Extremely Low On-Resistance Meshed Trench
try and Traction”では,1,700 V トレンチ IGBT で
Lateral Power MOSFET”が,シリコンを島状に形
のドリフト層の低注入効率化と厚さ制御,そして
成し,そのトレンチ側壁にチャネルを形成する独創的
フィールドストップ層の最適化を行い,ターンオフ時
な構造で,大いに注目を集めた。
の発振を制御し特性改善を図ったことが報告された。
また,Philips 社からは“Fully Self-Aligned Pow-
また,ワークショップでは,MEMS(Micro Elec-
er Trench-MOSFET Utilizing 1μm Pitch and 0.2
tro-Mechanical Systems)とパワー IC の分野からそ
μm Trench Width”が発表され,トレンチ技術の大
れぞれパネリストが選出され,アクチュエータやセン
2
幅な改善によって,オン抵抗:10 mΩ・mm ,Ron・Qgd:
サ,MEMS 用パワー IC についての実用化や信頼性に
13 mΩ・nC を実現し,今後の微細化に期待が高まった。
関する活発な議論が繰り広げられた。MEMS は比較
パワーデバイスにおける次世代半導体材料である
的高耐圧で電流容量が小さいため,MEMS 用パワー
SiC(シリコンカーバイド)を用いたデバイスの発表
IC との相性はよく,オプティカルスイッチ,インク
も 非 常 に 多 か っ た 。( 株 )東 芝 に よ り 発 表 さ れ た
ジェットプリンタ,高周波スイッチ,HDD 用ヘッド
“Guard Ring Assisted RESURF:A New Termina-
駆動アクチュエータなどの分野に適用が期待される。
tion Structure Providing Stable and High Break-
最後にパワー半導体およびパワー IC の分野におい
down Voltage for SiC Power Devices”では,SiC-
ても,他のエレクトロニクス分野と同様に,例外なく
ショットキーバリヤダイオードのエッジ構造について,
年々技術の高度化が進んでおり,高性能化・小型化へ
プロセスばらつきおよび表面電荷に対し耐圧変動の少
の道を歩むこととなるであろう。そしてトップ企業間,
ないガードリング構造を提案し,実素子においても
大学間の激しい研究開発競争はますます加速していく
800 V 程度の耐圧を確保できることを報告し,興味を
ことであろう。
引く内容であった。シリコンの特性を超える性能の獲
それらの新たな研究成果,技術成果は 2003 年 4 月
得に対し,さまざまな構造検討がなされ,実用化に向
に英国ケンブリッジで開催が予定されている ISPSD
けた競争が激化していると感じた。
’
03 で発表され,今年にもまして熱い議論が交わされ
スーパージャンクションデバイスの分野に関しては,
ることであろう。
491(53)
カンパニー別営業品目
電機システムカンパニー
情報・通信・制御システム,水処理・計測システム,電力システム,放射線管理システム,FA・物流システム,環境シス
テム,電動力応用システム,産業用電源,車両用電機品,クリーンルーム設備,レーザ機器,ビジョン機器,電力量計,
変電システム,火力機器,水力機器,原子力機器,省エネルギーシステム,新エネルギーシステム
機器・制御カンパニー
電磁開閉器,操作表示機器,制御リレー,タイマ,ガス関連機器,配線用遮断器,漏電遮断器,限流ヒューズ,高圧受配
電機器,汎用モールド変圧器,電力制御機器,電力監視機器,交流電力調整器,検出用スイッチ,プログラマブルコント
ローラ,プログラマブル操作表示器,ネットワーク機器,インダクションモータ,同期モータ,ギヤードモータ,ブレーキ
モータ,ファン,クーラントポンプ,ブロワ,汎用インバータ,サーボシステム,加熱用インバータ,UPS,ミニ UPS
電子カンパニー
磁気記録媒体,パワートランジスタ,パワーモジュール,スマートパワーデバイス,整流ダイオード,モノリシック IC,
ハイブリッド IC,半導体センサ,サージアブソーバ,感光体およびその周辺装置
流通機器システムカンパニー
自動販売機,コインメカニズム,紙幣識別装置,貨幣処理システム,飲料ディスペンサ,自動給茶機,冷凍冷蔵ショーケー
ス,ホテルベンダシステム,カードシステム
富 士 時 報
第
75
巻
第
8
号
平 成
平 成
14 年 7 月 30 日
14 年 8 月 10 日
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2002
Fuji Electric Co., Ltd., Printed in Japan(禁無断転載)
492(54)
富士時報論文抄録
パワーエレクトロニクス技術の動向と展望
逆阻止 IGBT の適用技術
海田 英俊
武井 学
富士時報
Vol.75 No.8 p.441-444(2002)
富士時報
小高 章弘
藤本 久
Vol.75 No.8 p.445-448(2002)
地球環境問題に対する解決方法が模索される中,電気エネルギー
マトリックスコンバータに代表される直接変換形電力変換回路は
はそのクリーン性から重要視されている。パワーエレクトロニクス
直流平滑回路が不要であり,装置の小型化・低コスト化・長寿命化
は電気エネルギー変換のコア技術であり,その自在性と制御性は省
が可能となる方式として注目されている。この方式には双方向ス
エネルギー,省資源とそれによる経済効果を得る鍵を握っている。
イッチが必要とされているが,富士電機は逆耐圧性能を持つ逆阻止
本稿ではパワーエレクトロニクスの課題と,技術開発に対する富士
IGBT を開発し,逆並列接続した双方向スイッチを実現した。本稿
電機の取組みについて述べる。
では,逆阻止 IGBT の概要,直接変換回路へ適用した場合の転流動
作および損失評価結果について紹介する。
大容量 6 in 1 IGBT モジュールの適用技術
平型 IGBT 素子内部の電流測定技術
滝沢 聡毅
降矢 正保
富士時報
吉田 收志
松原 邦夫
Vol.75 No.8 p.449-452(2002)
富士時報
石山 泰士
Vol.75 No.8 p.453-455(2002)
インバータなどの大容量パワーエレクトロニクス装置向けに,イ
産業・電力・鉄道の分野に適用している電力変換装置には,小
ンバータブリッジ構成とした新コンセプトの大容量 6 in 1 IGBT モ
型・低コストといった要求とともに,社会基盤を支える大容量装置
ジュールを製品化し,本モジュールの適用技術を開発した。大容量
であるため,高い信頼性が求められる。大容量装置に適用される素
6 in 1 IGBT モジュールは従来製品に対して,約 1/2 の設置面積と
子には,従来はサイリスタ,GTO が主に用いられてきた。近年で
約 20 %の損失低減を特徴としている。またその適用技術として,
は,IGBT が広く用いられるようになってきた。富士電機では,高
短絡時の保護動作および並列接続可能なゲート駆動回路,ならびに
耐圧・大電流デバイスである平型 IGBT を開発し,製品展開を行っ
従来比約 56 %小型化を図った本モジュール専用の放熱器を開発し
ている。本稿では,平型 IGBT パッケージ内部に配置されている
た。
チップごとに電流センサを取り付け,スイッチング時の電流を測定
する技術について紹介する。
スイッチング電源用 DC-DC 変換技術
AC-DC 変換回路技術
鷁頭 政和
三野 和明
富士時報
西川 幸廣
野澤 武史
Vol.75 No.8 p.456-459(2002)
富士時報
五十嵐 征輝
Vol.75 No.8 p.460-463(2002)
電子機器用電源として用いられるスイッチング電源の中で,電流
入力電流高調波を低減し,高力率かつ高効率化を実現できるワー
共振型の変換方式は高い変換効率と低ノイズという優れた特性を有
ルドワイド入力対応の AC-DC 変換回路技術を紹介する。5 kW 以
している。本稿では,回路方式とともに富士電機独自のスイッチ素
上の大容量器向けに三相 AC 200 V または AC 400 V 系共用のワー
子駆動方式として自励発振型ならびに変圧器補助巻線による駆動と
ルドワイド対応力率改善回路,200 W 以下の小容量機器向けには単
低耐圧 IC による駆動を組み合わせた複合発振型を紹介する。また,
相入力 AC 100 V または AC 200 V 系共用でワンコンバータ方式の
電流共振型の課題であった,軽負荷時の回路損失を低減する技術,
簡易力率改善回路を開発し,入力電流高調波の低減,高力率化およ
および多出力時の各出力電圧を可飽和リアクトルを用いて高精度に
び高効率化が達成できた。
制御する技術についても紹介する。
高圧 IGBT 多直列技術
永久磁石同期電動機のセンサレス制御技術
阿部 康
野村 尚史
富士時報
丸山 宏二
Vol.75 No.8 p.464-467(2002)
富士時報
大沢 博
Vol.75 No.8 p.468-471(2002)
汎用インバータなどの中小容量の電力変換装置には,スイッチン
永久磁石同期電動機のセンサレス制御方式として「センサレスベ
グ素子として IGBT が広く適用されており,サイリスタが主流で
クトル制御」と「V/f 制御」を開発した。本稿では 2 種類のセンサ
あった高圧・大容量分野にも IGBT を適用することが重要となって
レス制御の原理について述べ,実験結果をもとに特徴と性能を比較
いる。富士電機でも高耐圧 IGBT を製品化しているが,用途拡大の
する。センサレスベクトル制御は,定格の 150 %以上の大きな始動
ためさらなる高電圧化を可能とする IGBT の素子直列接続技術の確
トルクが得られ,制御誤差 3 %以下の高精度なトルク制御ができる
立が必須になっている。本稿では,富士電機で開発を行った直列接
のが特徴である。V/f 制御は,ハードウェアを安価にでき,電流情
続技術について,動作原理,シミュレーション解析,試験結果を中
報を使った高効率制御と安定化制御によりセンサレスベクトル制御
心に紹介する。
と同等の高効率と速度応答が得られるのが特徴である。
Abstracts (Fuji Electric Journal)
Application Technique for Reverse Blocking IGBT
Trends and Prospects for Power Electronics
Manabu Takei
Hidetoshi Umida
Akihiro Odaka
Hisashi Fujimoto
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.445-448 (2002)
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.441-444 (2002)
The direct linked type converter, typified by the matrix converter,
eliminates the need for a DC link circuit, and as such, its application is
attracting attention as a method for realizing devices having a smaller
size, lower cost and longer life. For the bi-directional switch required in
this method, Fuji Electric has developed a reverse blocking IGBT having reverse blocking capability and has realized an anti-parallel connected bi-directional switch. This paper presents a general overview of
the reverse blocking IGBT and describes the evaluation results of the
commutation and loss when utilized in a direct linked type converter.
In the search for solutions to global environmental problems, electric energy is gaining importance for its cleanness. Power electronics is
a core technology for electric energy conversion, and its flexibility and
controllability hold the key to achieve an economic efficiency through
energy and resource savings. This paper describes recent challanges in
power electronics and Fuji Electric’s efforts toward them.
Technology for Measuring the Current in a Power
Pack IGBT
Application Technology for Large Capacity 6 in 1
IGBT Module
Masaho Furuya
Satoki Takizawa
Yasuo Ishiyama
Atsushi Yoshida
Kunio Matsubara
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.453-455 (2002)
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.449-452 (2002)
The conversion systems utilized in the fields of industry, power,
and electric railways, are required to have small size, low cost, and
because they are high capacity systems that support the civil infrastructure, high reliability. Previously, thyristor and gate-turn-off (GTO)
devices were mainly used as elements in these high capacity systems.
However, insulated gate bipolar transistor (IGBT) devices have
recently come into widespread use. Having developed a power pack
IGBT that is a high-voltage high-current device, Fuji Electric is
presently working on product development. This paper describes the
installation of a current sensor at each chip located within the power
pack IGBT package and the technology for measuring current during
switching.
For large capacity power electronics equipment such as inverters,
Fuji Electric has commercialized the new concept large capacity 6 in 1
IGBT module, having an inverter bridge configuration, and has developed application technology for this module. In comparison to prior
products, the large capacity 6 in 1 IGBT module features of a footprint
of approximately half the size and an approximate 20 % reduction in
loss. Additionally, as application-related technology, Fuji Electric has
developed a gate drive circuit that provides protection during the
short-circuit mode and which can be connected in parallel, and a custom heatsink that enables this module to achieve a size of approximately 56 % that of previous products.
AC-DC Converter Circuit Technology
DC-DC Conversion Techniques for Switching Power
Supply
Kazuaki Mino
Masakazu Gekinozu
Seiki Igarashi
Yukihiro Nishikawa
Takeshi Nozawa
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.460-463 (2002)
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.456-459 (2002)
This paper introduces AC-DC converter circuit technology that is
compatible with universal inputs, reduces input current harmonics and
is able to realize a high power factor and high efficiency. Fuji Electric
has developed a 3-phase 200/400 V AC universal input type power factor correction circuit for large output capacity of 5 kW or more and a
single-phase input 100/200 V AC fly-back converter with power factor
correction circuit for small output capacity of 200 W or less, thereby
achieving a reduction of input current harmonics, a higher power factor
and higher efficiency.
Among switching power supplies used as the power supplies for
electronic devices, the current resonant-type conversion method has
excellent characteristics of high conversion efficiency and low EMI
noise. This paper describes the circuit system and introduces Fuji
Electric’s proprietary switch element driving methods which are a selfoscillation type and a multi-oscillation type that combines with driving
by the transformer’s auxiliary winding and driving by a low voltage IC.
Techniques for reducing circuit loss during low load operation which is
problem for the current resonant type conversion method and techniques for using saturable reactors to precisely control each output in
case of multi-output configuration, will also be described.
Sensorless Control Technology for Permanent
Magnet Synchronous Motors
Series Connection Technology for High Voltage
IGBTs
Naofumi Nomura
Yasushi Abe
Hiroshi Ohsawa
Koji Maruyama
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.468-471 (2002)
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.464-467 (2002)
Fuji Electric has developed two types of sensorless control methods for the permanent magnet synchronous motor, namely, sensorless
vector control and V/f control. In this paper, principles of both types of
sensorless control methods are described, experimental results are
presented, and the characteristics and performance of each sensorless
control method are compared. Advantages of the proposed sensorless
vector control include a large starting torque that is 150 % or more of
the rated value and high precision torque control that has an error of 3 %
or less. Advantages of the proposed V/f control are not only low hardware cost but also high efficiency and response speed, equivalent to
that of sensorless vector control, realized by means of the proposed
current-based high efficiency control and stabilization control.
IGBTs are widely used as switching devices in small- and mediumcapacity conversion systems such as an inverter. It is also becoming
increasingly important to use IGBTs in high-voltage large capacity
applications where thyristors had been the mainstream. Fuji Electric is
also commercializing high-voltage IGBTs, but in order to broaden the
range of applications, it is essential to establish a series connection
technology for even higher voltage IGBT devices. This paper describes
the operating principles, simulated analysis, and test results of the
series connection technology developed by Fuji Electric.
モーションコントロール技術
超小型サーボシステム「FALDIC-βシリーズ」
金子 貴之
中村 和久
富士時報
市川 誠
Vol.75 No.8 p.472-475(2002)
富士時報
遠藤 実
高本 慎一
Vol.75 No.8 p.476-480(2002)
富士電機では,パワーエレクトロニクス応用分野として電動機制
近年,産業機械の自動化・高性能化が進んでいるが,特に半導
御へモーションコントロール技術を積極的に適用している。これら
体・電子部品加工装置などの分野では,機械のタクトタイム短縮や
の分野はパワーモジュールや LSI などの半導体技術のほか,制御
高精度化,小型化の傾向があり,サーボシステムに対してもさらな
理論,センサ技術,通信技術などの飛躍的な発展に合わせそれらの
る高性能・小型化の要求が一段と高まってきている。これらの要求
利点を取り入れ,着実に進歩している。本稿では,その中でも特に
に応えるために,業界トップレベルの制御性能と業界最小寸法を実
サーボシステムの制御技術に関し,主要技術および将来の展望につ
現した「FALDIC-βシリーズ」を開発したので,その機能・特徴
いて紹介する。
を紹介する。
瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」
24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
田中 伸央
小薗 秀明
富士時報
國中 孝文
内藤 英臣
Vol.75 No.8 p.481-484(2002)
富士時報
熊谷 洋
國分 多喜雄
Vol.75 No.8 p.485-490(2002)
落雷などによる瞬時電圧低下(瞬低)から負荷機器を守るため,
気候変動枠組み条約第 3 回締約国会議において削減対象ガスの一
UPS(無停電電源装置)を取り入れているユーザーは多い。小容量
つに指定された SF6 ガスは,地球温暖化係数比較で CO2 の 23,900
の UPS に搭載されているバッテリーは約 3 年で寿命による交換を
倍とかなり大きな温室効果を示す。そのため電気機器における脱
必要とし,特に多数のミニ UPS を導入しているユーザーには経済
SF6 ガス化が求められている。このような観点から,SF6 ガスを
的にも労力としても大きな負担になっている。今回製品化した瞬低
まったく使用しない 24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS
保護装置「DipHunter」では,蓄電装置にコンデンサを採用するこ
2100」を製品化した。本稿では SF6 ガスの極少化を達成した C-GIS
とにより,バッテリーを含めた部品交換を一切不要とする,メンテ
2000 の技術に,加圧したドライエアにより絶縁するための新たな
ナンスフリー化を実現した。本稿では,その仕様,構成および特徴
技術を付加し,同等の寸法にて脱 SF6 ガス化を達成した C-GIS
を紹介する。
2100 について紹介する。
FALDIC-β Series Compact Servo System
Motion Control Technologies
Kazuhisa Nakamura
Takayuki Kaneko
Minoru Endou
Shinichi Takamoto
Makoto Ichikawa
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.476-480 (2002)
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.472-475 (2002)
In recent years, industrial machinery has advanced to become
more highly automated and to have a higher level of performance.
However, especially in the field of semiconductor component processing equipment, even higher performance and smaller size are being
required in response to the trends toward shortened tact time, higher
precision and compactness of the equipment. In response to these
demands, Fuji Electric has developed the FALDIC-β Series, which
realizes the worldwide highest level of control performance and smallest dimensions. This paper introduces the functions and features of the
FALDIC-β Series.
At Fuji Electric, motion control is being used extensively with
electric motor drives as an application of power electronics. These
applications are steadily progressing through combining semiconductor
technologies such as power modules and LSI devices with rapidly
developing control theory, sensor technology, communications, etc.
This paper focuses on servo system control technology and introduces
the principal technologies and future outlook.
C-GIS 2100, a 24 kV SF6-free Gas-insulated
Switchgear
DipHunter, an Instantaneous Voltage-drop Protection
Unit
Hideaki Kozono
Nobuhisa Tanaka
Hiroshi Kumagai
Takio Kokubun
Takafumi Kuninaka
Hideomi Naito
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.485-490 (2002)
Fuji Electric Journal Vol.75 No.8 p.481-484 (2002)
At the 3rd Session of the Conference of the Parties to the United
Nations Framework Convention on Climate Change, on a global warming potential, SF6 gas was shown to exhibit a large greenhouse effect of
23,900 times that of CO2. SF6 gas is one of the gases targeted for
reduction. Consequently, there have been calls to develop electric
equipment that is free of SF6 gas. Based on this viewpoint, Fuji Electric
has commercialized the C-GIS 2100, a 24 kV SF6-free gas-insulated
switchgear that uses absolutely no SF6 gas. Based on the technology of
the C-GIS 2000 which achieved a large reduction in the amount of SF6
gas, the C-GIS 2100 is built to the same dimensions and incorporates
new technology to provide insulation by means of compressed dry air.
This paper introduces the SF6-free C-GIS 2100.
To protect load instruments from Instantaneous Voltage-drop due
to lightening or other causes, many users install an uninterruptible
power supply (UPS) unit. The battery installed in a small-capacity UPS
has a lifespan of approximately 3 years and must be replaced thereafter.
This imposes a large financial and labor-intensive burden on users who
are operating multiple mini-UPS units. In the newly commercialized
instantaneous voltage-drop protection unit, the DipHunter, a capacitor
is utilized in the storage unit to eliminate the need for component
replacement including the battery. The result is operation that is maintenance-free. This paper introduces the specifications, circuit configuration and features of the DipHunter.
本
社
務
所
北
東
北
中
関
中
四
九
海
道
支
北
支
陸
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西
支
国
支
国
支
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社
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社
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社
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北
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東
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首 都 圏 北 部 支
首 都 圏 東 部 支
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川
支
新
潟
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支
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支
山
口
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松
山
支
沖
縄
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店
店
店
店
店
店
店
店
店
店
店
店
道
北
釧
道
道
青
盛
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山
新
福
い
水
茨
栃
金
福
山
長
松
甲
岐
静
京
和
鳥
倉
山
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高
小
長
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大
宮
南
所
所
所
所
所
所
所
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所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
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所
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所
所
所
所
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所
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所
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業
業
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業
業
業
業
業
エ ネ ル ギ ー 製 作 所
変電システム製作所
千
葉
製
作
所
東京システム製作所
神
戸
工
場
鈴
鹿
工
場
松
本
工
場
山
梨
工
場
吹
上
工
場
大
田
原
工
場
三
重
工
場
(株)
富士電機総合研究所
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〒980-0811
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〒460-0003
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〒730-0022
〒760-0017
〒810-0001
〒360-0037
〒330-0802
〒260-0015
〒220-0004
〒950-0965
〒380-0836
〒448-0857
〒650-0033
〒700-0024
〒755-8577
〒790-0878
〒900-0004
〒078-8801
〒090-0831
〒085-0032
〒080-0803
〒040-0061
〒030-0861
〒020-0021
〒010-0962
〒990-0057
〒996-0001
〒963-8033
〒973-8402
〒310-0805
〒311-1307
〒321-0953
〒920-0031
〒910-0005
〒400-0858
〒380-0836
〒390-0852
〒390-0811
〒500-8868
〒420-0053
〒604-8162
〒640-8052
〒680-0862
〒682-0802
〒690-0007
〒770-0832
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〒850-0037
〒862-0950
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東京都品川区大崎一丁目11番2号(ゲートシティ大崎イーストタワー)
札幌市中央区大通西四丁目1番地(道銀ビル)
仙台市青葉区一番町一丁目2番25号(仙台NSビル)
富山市桜橋通り3番1号(富山電気ビル)
名古屋市中区錦一丁目19番24号(名古屋第一ビル)
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高松市番町一丁目6番8号(高松興銀ビル)
福岡市中央区天神二丁目12番1号(天神ビル)
熊谷市筑波一丁目195番地(能見ビル)
さいたま市宮町一丁目38番1号(野村不動産大宮共同ビル)
千葉市中央区富士見二丁目15番11号(日本生命千葉富士見ビル)
横浜市西区北幸二丁目8番4号(横浜西口KNビル)
新潟市新光町16番地4(荏原新潟ビル)
長野市南県町1002番地(陽光エースビル)
刈谷市大手町二丁目15番地(センターヒルOTE21)
神戸市中央区江戸町95番地(井門神戸ビル)
岡山市駅元町1番6号(岡山フコク生命駅前ビル)
宇部市相生町8番1号(宇部興産ビル)
松山市勝山町一丁目19番地3(青木第一ビル)
那覇市銘苅二丁目4番51号(ジェイ・ツービル)
旭川市緑が丘東一条四丁目1番19号(旭川リサーチパーク内)
北見市西富町163番地30
釧路市新栄町8番13号
帯広市東三条南十丁目15番地
函館市海岸町5番18号
青森市長島二丁目25番3号(ニッセイ青森センタービル)
盛岡市中央通一丁目7番25号(朝日生命盛岡中央通ビル)
秋田市八橋大畑一丁目5番16号
山形市宮町一丁目10番12号
新庄市五日町1324番地の6
郡山市亀田一丁目2番5号
いわき市内郷御厩町二丁目29番地
水戸市中央二丁目8番8号(櫻井第2ビル)
茨城県東茨城郡大洗町桜道304番地(茨交大洗駅前ビル)
宇都宮市東宿郷三丁目1番9号(USK東宿郷ビル)
金沢市広岡一丁目1番18号(伊藤忠金沢ビル)
福井市大手二丁目7番15号(安田生命福井ビル)
甲府市相生一丁目1番21号(清田ビル)
長野市南県町1002番地(陽光エースビル)
松本市島立943番地(ハーモネートビル)
松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)
岐阜市光明町三丁目1番地(太陽ビル)
静岡市弥勒二丁目5番28号(静岡荏原ビル)
京都市中京区烏丸通蛸薬師上ル七観音町637(朝日生命京都ビル)
和歌山市鷺ノ森堂前丁17番地
鳥取市雲山153番地36〔鳥電商事
(株)
内〕
倉吉市東巌城町181番地(平成ビル)
松江市御手船場町549番地1号(安田火災松江ビル)
徳島市寺島本町東二丁目5番地1(元木ビル)
高知市本町四丁目1番16号(高知電気ビル別館)
北九州市小倉北区砂津二丁目1番40号(富士電機小倉ビル)
長崎市金屋町7番12号
熊本市水前寺六丁目27番20号(神水恵比須ビル)
大分市寿町5番20号
宮崎市橘通東三丁目1番47号(宮崎プレジデントビル)
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川崎市川崎区田辺新田1番1号
市原市八幡海岸通7番地
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神戸市西区高塚台四丁目1番地の1
鈴鹿市南玉垣町5520番地
松本市筑摩四丁目18番1号
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昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 14 年 8 月 10 日発行(毎月 1 回 10 日発行)富士時報 第 75 巻 第 8 号(通巻第 809 号)
昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 14 年 8 月 10 日発行(毎月 1 回 10 日発行)富士時報 第 75 巻 第 8 号(通巻第 809 号)
パワーエレクトロニクス技術特集
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ISSN 0367-3332