FEJ 75 08 485 2002

富士時報
Vol.75 No.8 2002
24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
小薗 秀明(こぞの ひであき)
熊谷 洋(くまがい ひろし)
國分 多喜雄(こくぶん たきお)
図1 24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ(C-GIS 2100)
まえがき
高度情報化社会の進展に伴い,常に安定した電気エネル
ギーの供給が求められている中で,スイッチギヤは,受変
電設備を構成する主要機器であり,信頼性,安全性,小型
軽量化,および保守点検の省力化が強く求められている。
そのため,最近の特別高圧クラス(24/36 kV)ではガス絶
縁スイッチギヤ(C-GIS:密閉容器の中に主回路を収納し
SF6 ガスなどにより絶縁を保持する)が主流になってきて
いる。
一方,1997 年 12 月に開催された「気候変動枠組み条約
第 3 回締約国会議」
(COP3)において「京都議定書」が
採択され,2000 年以降における先進国の温室効果ガス排
出量の削減目標が規定された。削減対象のガスは CO2 な
ど 6 種類であり,その中に SF6 ガスも含まれている。
SF6 ガスは電気機器に必要な絶縁,消弧,不燃,無害な
N99-2521-3
ど多くの長所を有する反面,大気寿命が長く,評価年数を
100 年とした場合の地球温暖化係数比較で CO2 の 23,900
と小型軽量化を実現した C-GIS)と C-GIS 2100 の特徴お
倍と非常に大きな温室効果を示す。そのため,電気機器に
よび仕様を表1に示す。
おける脱 SF6 ガス化が求められている。
このような地球環境保護の観点から SF6 ガスをまったく
使用しない 24 kV 脱
SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS
2100」
(以下,C-GIS 2100 という)の製品化を完了したの
でここに紹介する。
2.2 製品化技術
(1) C-GIS 2000 での実現技術
C-GIS 2000 では SF6 ガスの極少化(従来型の 12 kg を
4.4 kg に)
,小型軽量化(従来型の 2,400 kg を 1,000 kg に)
,
および正面保守型を実現している。
製品概要
(2 ) C-GIS 2000 の構成
C-GIS 2000 における SF6 ガスの極少化は,固体絶縁部
SF6 ガスをまったく使用せず,なおかつ小型軽量化によ
品の採用,遮断器および断路器の小型化による密閉容器の
り素材の総使用量を低減した CO2 の排出量削減に寄与す
縮小化によるものである。これにより,密閉容器の下部ス
る製品を実現した。
ペースに主回路ケーブルを配置することを可能とし,正面
保守型を実現している。さらに密閉容器をステンレス鋼製
2.1 特徴および仕様
薄板で構成することで軽量化を実現している。
C- GIS 2100 により,脱 SF6 ガス化および質量の低減
(従来型 2,400 kg → 1,000 kg)を達成した。製品の外観を
図1に示す。
(3) C-GIS 2100 による脱 SF6 ガス化
C-GIS 2100 では,C-GIS 2000 の実現技術に新絶縁技術
の適用および技術的課題を解決することにより,同等の質
C-GIS 2000(C-GIS 2100 に先駆けて SF6 ガスの極少化
量にて脱 SF6 ガス化を達成している。
小薗 秀明
熊谷 洋
配電盤の開発・設計に従事。現在,
配電盤の開発,設計に従事。現在,
真空遮断器の開発設計に従事。現
神戸工場配電盤設計部マネー
神戸工場配電盤設計部。
在,機器・制御カンパニー技術開
ジャー。電気学会会員。
國分 多喜雄
発・生産センター開発部主任。
485(47)
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24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」
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図2に C-GIS 2100 に関する製品化技術について示す。
脱 SF6 ガス化における技術的課題
図3に C-GIS 2000 および C-GIS 2100 の断面とその回路
構成を示す。回路構成への柔軟な対応を考慮し,受電部に
接地開閉器および 3 位置受電断路器を同時に配置できるよ
うにしている。
脱 SF6 ガス化を行うにあたり,ドライエアと窒素を評
価したが,コロナ緩和作用により高い耐電圧性能を確保で
きるドライエアを採用することとした。
表1 各製品の特徴および仕様
製品名称
発売時期
絶縁媒体・定格圧力
なお,試作装置に窒素を封入して実験した結果,ドライ
C-GIS 2100
C-GIS 2000
2000 年 7 月
2002 年 4 月
SF6
0.05 MPa(G)
ドライエア
0.09 MPa(G)
SF6 ガスの量(kg)
4.4
0
放圧板の有無
なし
あり
ガス収納密閉容器の材質
標準質量(kg)
幅
標準
寸法
(mm)
(2 ) 気密性能の確保
(3) 加圧したドライエア中での絶縁物の安定性の確保
1,315
正背面保守
1,700
1,750
奥行
VCB 構造
2,300
バリヤ有無
ドライエアの耐電圧性能は,零気圧(ゲージ圧)では
SF6 ガスと比較して,約 1/3 である。
あり
なし
(4 ) 内部事故への対策
3.1 絶縁性能の確保
0.79
0.75
固体絶縁母線
加圧したドライエア中での雷インパルス絶縁特性におい
24
て,平等電界条件での 50 %破壊電界は,ギャップ長およ
50
びガス圧力の 0.84 乗に比例して高くなる。さらに,ドラ
雷インパルス(kV)
125
イエア(水分量 500 ppm)と高純度ドライエア(水分量
零気圧(ゲージ圧)
運転電圧に耐える
0.5 ppm)の 50 %破壊電圧は一致しており,水分量が約
20B
500 ppm 以下であれば,絶縁性能には影響がない。また,
定格電圧(kV)
商用周波(kV)
耐電圧
(1) 絶縁性能の確保
1,250
母線の構造
アを採用するにあたっての技術的課題は以下のとおりであ
る。
1,000
正面保守
高さ
また,零気圧(ゲージ圧)ドライエアにおいて,運転電
圧に耐える絶縁性能があることを確認している。ドライエ
ステンレス鋼
600
据付け面積(m2)
エアの場合よりも破壊電圧が大幅に低下することを確認し
ている。
絶縁階級
定格電流(A)JEM/IEC
定格短時間電流
定格周波数(Hz)
準拠規格
600/630,1,200/1,250
25 kA,1 秒
(1)
不平等電界条件についても検証している。
表2に適用した絶縁方式と適用箇所を示す。
50/60
(1) ガス絶縁
JEM1425 IEC60298
断路器コンタクトおよび主回路導体は,曲率を大きくす
図2 24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ(C-GIS 2100)の製品化技術
C-GIS 2000での実現技術
ステンレス鋼製薄板容器の
採用
固体絶縁部品の採用
固体絶縁母線
固体絶縁VT
ブッシング貫通形CT
小型遮断器の採用
縮小型真空バルブの開発
真空バルブの水平配置
小型断路器の採用
回転形断路器
絶縁物容器への収納
新絶縁技術の採用
加圧ドライエア
最適絶縁技術
技術的課題の解決
気密性能
絶縁物特性
内部事故
486(48)
小型軽量化
の実現
密閉容器の
縮小化
主回路ケーブルの
密閉容器下部配置
正面保守型
の実現
SF6ガス極
少化の実現
24 kV脱SF6形
ガス絶縁スイッチギヤ
C-GIS 2100
脱SF6ガス
の実現
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図3 断面図およびスケルトン
C-GIS 2000
C-GIS 2100
母線
放圧装置
母線断路器室
断路器
バリヤ
M
絶縁物容器
遮断器室
真空バルブ
2300
2300
絶縁
ボード
遮断器
密閉容器
40
1185
1250
表2 絶縁方式と適用箇所
効果および特徴
絶縁方式
ガス絶縁
電極形状の最適化と空間距離の
確保による電界の緩和
600
40
1235
1315
40
50
25
50
電力ケーブル
600
図4 絶縁ボードによる相配置変換
適用箇所
断路器コンタクト
主回路導体
電極から直接荷電粒子が出ない。
被覆絶縁
等電位線が押し出されることで曲率
が大きくなり,電界が緩和される。
母線ブッシング
取付コンタクト
最大電界点が電極表面でなく
絶縁物表面となる。
バリヤ絶縁
放電路が長くなる。
バリヤの帯電により平等電界に
近づく。
半固体絶縁
被覆絶縁に同じ
VCB
母線断路器ーVCB
間の導体
る,あるいは空間距離を確保することにより,裸電極のま
まで絶縁性能を確保できる構造とした。
(2 ) 被覆絶縁
続する導体を一体注型したボード)を介して接続すること
で,省スペースで絶縁を確保した。図4に絶縁ボードによ
る相配置変換の状況を示す。
被覆絶縁は導体の表面に絶縁層を形成することにより耐
電圧を上げる方法である。気中盤で従来から実績があるが,
今回,加圧したドライエア中での効果について基礎から検
証し,最適な方法を採用している。
(3) バリヤ絶縁
3.2 気密性能の確保
ドライエアを採用するにあたり,密閉容器の気密性をい
かに確認するかが課題となる。従来,漏れの確認は空気中
に存在しない SF6 ガスの検出によっていたが,ドライエ
バリヤ絶縁は導体の相間あるいは対地間に絶縁板を挿入
アは外部の気体と同一であるため,その方法はとれない。
することにより耐電圧を上げる方法である。バリヤの位置
本製品では,空気中に存在せず,分子径がドライエアよ
によって耐電圧に影響が出るが,本製品ではバリヤを遮断
り小さいヘリウム(He)により,漏れ確認を行うことと
器本体に取り付けることで精度を確保している。
している。
(4 ) 半固体絶縁
母線断路器下部の主回路導体においては,前後に三相が
各気体の分子径を以下に記す。
。
He:2.18 A
。
配置される母線断路器と左右に配置される遮断器との接続
O2 :3.64 A
部における交差部の絶縁確保に困難が予想された。第 1 相
N2 :3.75 A
および第 3 相導体を,絶縁ボード(前後から左右へ直接接
。
。
SF6 :6.0 A
487(49)
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に封入した密閉容器内と大気圧開放下に試験片を保持し,
3.3 加圧したドライエア中での絶縁物の安定性の検証
170 ℃で 1,000 時間まで検証した。時間に対する曲げ強さ
加圧したドライエア中では,酸素濃度が大気圧〔0.1
の低下特性を図5に示す。なお,図中に示した曲線は,大
MPa(abs)
〕中より高くなる。酸素濃度の絶縁物への影
気圧下の劣化に拡散の近似式を,高圧力下にべき乗の近似
響を確認するため,大気圧下と高圧力〔0.2 MPa(abs)
〕
式をあてはめている。
下にてエポキシ樹脂とポリカーボネート樹脂について,加
137 時間までの初期段階では,高圧力下における低下率
速劣化検証を行った。
検証の結果,エポキシ樹脂における 1,000 時間後の曲げ
表3 ポリカーボネート樹脂の検証結果
強さの低下率は高圧力下と大気圧下で同等であり,加圧に
加熱温度 125 ℃
条 件
より強度低下が加速されないことを確認した。また,ポリ
カーボネート樹脂についても,1,200 時間経過後の絶縁破
絶縁破壊強さ
(kV/mm)
壊強さは低下しておらず,実用上まったく問題にならない
ことが分かった。個々のケースにおける詳細を以下に述べ
大気圧開放
500 h 後
1,200 h 後
30
29.6
30.7
30.1
0.042
0.037
0.036
0.034
30.9
2 気圧密閉
大気圧開放
tanδ
(%)
る。
初 期
0.069
2 気圧密閉
(1) エポキシ樹脂の検証
エポキシ樹脂については,ドライエアを 0.2 MPa(abs)
図6 DS ケースの応力解析例
図5 エポキシ樹脂曲げ強さの低下特性
応力
大
1.2
:2気圧
:大気圧
Max
曲げ強さ(保持率)
1.0
Min
0.8
0.6
恒温槽:
170℃
0.4
0.2
0
200
400
600
800
時間(h)
1,000 1,200
小
図7 常用・予備受電(2CB,1VCT)の構成例
常用
予備
常用受電 予備受電
VCT
フィーダ フィーダ
3×CT
VD
VD
ES
ES
3×LA
DS
DS
VCB
VCB
DS
DS
2300
3×CT
VCT
3×LA
固体絶縁母線
600
600
W
600
600
VCT
正面保守型 正背面保守型
DS
DS
東京電力
(株)
管内
VCB
VCB
W*1(mm) 関西電力
(株)
管内
ES
ES
その他
盤奥行寸法(mm)
3×CT
488(50)
3×CT
*1:気中接続VCTの場合
*2:モールドタイプVCTの場合
1,400
1,500*2
1,600
1,315
1,750
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図8 常用・予備受電(2CB,2VCT)の構成例
常用
常用受電
予備
3×CT
VCT
VCT
フィーダ フィーダ
予備受電
VD
ES
ES
3×LA
H
3×CT
VD
3×LA
DS
DS
VCB
VCB
VCT
固体絶縁母線
600
VCT
VCT
VCT
W
600
DS
DS
DS
VCB
VCB
ES
W
600
正面保守型 正背面保守型
東京電力
(株)
管内
DS
600
1,400
W*1(mm) 関西電力
(株)
管内
1,500*2
その他
1,600
盤奥行寸法(mm)
ES
H(mm)
3×CT
3×CT
1,750
1,315
2,300*2
関西電力
(株)
管内
その他
2,650
*1:気中接続VCTの場合
*2:モールドタイプVCTの場合
〈注〉
図9 常用・予備受電(1VCT,バイパス DS)の構成例(〈注〉バイパス DS:2 回線受電,1VCT の場合で VCT の交換を無停電で行える方式)
常用
3×CT
VD
予備
常用受電 予備受電
VCT
EVT,LA フィーダ フィーダ
3×CT
VD
ES
H
ES
VCT
DS
DS
VCB
VCB
DS
DS
固体絶縁母線
600
600
W
600
600
600
DS
VCT
DS
正面保守型 正背面保守型
東京電力
(株)
管内
DS
W*1(mm) 関西電力
(株)
管内
DS
DS
VCB
VCB
ES
その他
盤奥行寸法(mm)
3×LA
ES
3×EVT
3×CT
3×CT
H(mm)
関西電力
(株)
管内
その他
1,400
1,500*2
1,600
1,315
1,750
2,300*2
2,650
*1:気中接続VCTの場合
*2:モールドタイプVCTの場合
が大気圧下よりも大きく,劣化が早く進行している兆候が
ンプル板の絶縁破壊強さと tan δの測定結果を示す。tan
認められたが,その後の 1,000 時間までの低下率を比較す
δ値は時間経過とともに徐々に低下しており,熱劣化の影
ると,大気圧下の低下率と同等であり,加圧条件により劣
響が認められ,高圧力下の低下がやや速い傾向にある。一
化スピードが継続して加速されることはないものと判断さ
方,絶縁破壊強さはまったく低下しておらず,実用上問題
れる。
にならないと判断できる。
これは,ドライエアの加圧による酸素分子の増加は,樹
脂表面には直接的に影響するが,樹脂内部への影響は少な
3.4 内部事故時の圧力上昇対策
いことによるものと考えられる。
密閉容器内におけるアーク事故時の圧力上昇は,空気中
(2 ) ポリカーボネート樹脂の検証
のほうが SF6 ガス中に比べ大きくなることが知られてい
ポリカーボネート樹脂については,125 ℃において大気
る。理由としては,空気は比熱が SF6 ガスに比べ 1/4 と
圧下と高圧力下で検証を行った。表3に,厚さ 1 mm のサ
小さく,温まりやすく膨張しやすいこと,さらにアーク電
489(51)
富士時報
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圧が高いことがあげられる。
密閉容器をこの内圧上昇に耐えるようにすることは困難
あとがき
であり,経済的にも得策でない。
C-GIS 2100 では,この万一の内部事故に対し放圧装置
以上,SF6 ガスの極少化を実現した C-GIS 2000 に新た
を設け,事故の拡大を防止するようにしている。断路器室
な技術を付加し,脱 SF6 ガス化を達成した地球環境に優
との区画を行う絶縁物容器(DS ケース)は,放圧装置動
しい 24 kV 脱 SF6 形ガス絶縁スイッチギヤ C-GIS 2100 に
作までの遮断器室内部圧力上昇に耐え,遮断器室での事故
ついて紹介した。
が母線へ波及しないようにしている。図6に DS ケースの
応力解析例を示す。
なお,放圧装置は安全を考慮し密閉容器天井部に設け,
ガスを盤天井部から放出するようにしている。
構成例
今回開発した製品は,地球温暖化防止という社会の要求
にマッチした製品であり,ユーザーに十分満足いただける
ものと考えている。今後とも,地球環境に優しい製品の開
発に取り組んでいく所存である。
参考文献
(1) 山岸泰彦ほか.加圧乾燥空気の雷インパルス絶縁特性検証.
常用・予備受電における標準スケルトンと構成例を図7
∼図9に示す。
490(52)
平成 13 年放電・開閉保護・高電圧合同研究会.ED- 01- 185,
SP- 01- 30,HV- 01- 84,2001.
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。