富士時報 Vol.76 No.3 2003 小型 5 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC 山田谷 政幸(やまだや まさゆき) まえがき 表1 主要特性 項 目 ディジタルスチルカメラを中心とした携帯型電子機器は 条 件 最小 標準 最大 単位 電源電圧範囲 2.5 10 V 近年急速に市場が拡大している。これらの電子機器は高性 三角波発振周波数範囲 200 500 1,200 kHz 能・多機能化が進んでいるが,同時に小型・軽量・薄型化, 基準電圧(誤差増幅器) 0.09 1.00 1.01 そして低価格化も顕著である。電子機器内部を構成する部 ソフトスタート時間 0∼100% 内蔵最大デューティ 制限 DT=GND時 80 85 90 % DT=VREG時 65 70 75 % 1.9 2.1 2.3 V 15 23 Ω 7 11 Ω 2 10 4 6 品は多岐にわたり,これらが必要とする電圧の種類は多く なっているのが実情である。したがって,電子機器の電源 部分の基板に占める割合は比較的大きく,この削減要求が 次第に高まってきている。 低電圧誤動作防止動作 電圧 富士電機ではこれまでも携帯型電子機器向けに PWM OUT Hレベルオン抵抗 I out=10 mA (Pulse Width Modulation)方式のマルチチャネル出力 OUT Lレベルオン抵抗 I out=−10 mA DC-DC コンバータ制御 IC を数多く開発してきたが,今 待機電流 回これらの市場要求に応え,外付け部品を大幅に削減し 平均消費電流 36 ピン小型パッケージを採用した 5 チャネル出力 DC-DC 25 f osc=500 kHz V ms A mA 〈注〉特に条件のない限り,電源電圧3.3 V,常温(25℃)における定格。 コンバータ制御 IC「FA7716R」を開発したのでここにそ の概要を紹介する。 る。 (1) 36 ピン QFN(Quad Flat Non-lead)パッケージ 特 徴 (2 ) 動作電圧範囲:2.5 ∼ 10 V リチウムイオン電池(1 セル・ 2 セル) ,ニッケル水素 今回開発した FA7716R はこれまで富士電機で開発して きた 5 チャネル出力 DC-DC コンバータ制御 IC で構成で きる電源回路と等しい機能を維持しつつ,外付け部品の内 電池(4 セル) ,アルカリ乾電池(4 セル)に対応 (3) 発振周波数:200 kHz ∼ 1.2 MHz 高周波動作によりインダクタの小型化が可能 蔵化や小型パッケージの採用により PWM 方式の 5 チャ (4 ) IC 内蔵の基準電圧:1.00 V+ −1 % ネル出力 IC では従来に比べ大幅に小型化されている。ま (5) 5 チャネルの PWM 制御出力を内蔵 た,富士電機の IC の特徴である CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を用い,低消費電流を実現 している。 チャネル 1 ∼ 3 は n チャネル駆動用,チャネル 4 は p チャネル駆動用,チャネル 5 は n/p チャネル駆動選択可 (6 ) タイマ・ラッチ方式出力短絡保護回路,低電圧誤動作 5 チ ャ ネ ル の 出 力 は す べ て MOSFET( Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を直接駆動する ことができ,インダクタを用いた昇圧回路や降圧回路のほ 防止回路を内蔵 (7) 各チャネル独立オンオフ制御,ただしチャネル 4 と チャネル 5 は共通 か,トランスを用いたフライバック回路などの駆動にも適 (8) ソフトスタート回路内蔵,IC 内部にて固定 している。また各チャネル独立にオンオフ制御することが (9) チャネル 4 に対するチャネル 5 の起動時遅延時間の設 でき(一部チャネルは共通化) ,あらゆる電源シーケンス に対応できる。 FA7716R の主要特性を 表1 に示し,特徴を以下に挙げ 山田谷 政幸 電源 IC の開発に従事。現在,松 本工場 IC 第一開発部。 160(18) 定可能 (10) 最大デューティ制限を内蔵 チャネル 1 ・ 3 ・ 5(n チャネル駆動時)は 85 %,68 % 富士時報 小型 5 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC Vol.76 No.3 2003 のいずれかを選択可能,また任意の最大デューティ制限の 最大デューティ制限を設定することができる。IC には 設定も可能,チャネル 2 は 85 %に内部固定 85 %と 68 %の 2 種類の最大デューティ制限が内蔵され, DT 端子電圧を GND 側または VREG 側に固定することで 製品の概要 。また DT 端子に外部か 切り換えることができる(図2) ら電圧を印加することで任意の最大デューティ制限を設定 図1に FA7716R の内部ブロック図および応用回路例を することも可能である。チャネル 5 については p チャネ 示す。機能の概要は以下のとおりである。 ル駆動時のみ最大デューティ制限は一切無効となる。 3.1 PWM 制御系 図2 DT 端子電圧ー最大デューティ制限特性 チャネル 3 を除き誤差増幅器の非反転入力はいずれも内 100 部にて基準電圧に接続されている。チャネル 3 の誤差増幅 最大デューティ制限(%) 器は非反転・反転入力ともに外部にて設定できる。 チャネル 1 ・ 2 ・ 3 の出力は n チャネルドライバ,チャ ネル 4 の出力は p チャネルドライバ,チャネル 5 の出力 は n チャネル/p チャネルのドライバ切換が可能である。 チャネル 3 は誤差増幅器の非反転入力が設けられている ことから,ディジタルスチルカメラなどで使用される LED バックライトの駆動に使用することができる。 80 60 40 20 0 0 3.2 最大デューティ制限回路 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 2.2 DT端子電圧(V) チャネル 1 ・ 3 およびチャネル 5 の n チャネル駆動時は 図1 内部ブロック図および応用回路例 3.3 V RT + CT VREG VCC ONOFF ⑥ 電 池 15.2 V 10 mA −7.7 V 10 mA 電圧 レギュ レータ 基準 電圧 IN1− IN2− + − + − + − FB4 IN5− + − + − FB5 OUT2 7V 80 mA ③ PGND + − PGND + − PGND + − PGND OUT3 15.5 V 10 mA PVCC4 13.0 V 10 mA OUT4 ② PVCC5 OUT5 1.8 V 220 mA SEL5 ④ タイマ・ ラッチ 3.3 V 150 mA ソフト スタート デューティ 制御 3.3 V VREG ⑤ PGND CP GND ⑤ + − FB3 IN4− ④ + − ① PGND + − RDLY ③ FB2 IN3+ IN3− + − 5.1 V 50 mA PVCC OUT1 DT1 DT3 DT5 ② ⑥ + − FB1 VCC UVLO + − CNT1 CNT2 CNT3 CNT45 ① + − OSC 161(19) 富士時報 小型 5 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC Vol.76 No.3 2003 図3 ソフトスタート信号 ←CNT1∼3 信号投入 図4 パッケージの外観 IC内部 比較電圧 三角波 チャネル1∼3 ソフト スタート信号 ←CNT45 信号投入 三角波 チャネル4 ソフト スタート信号 チャネル5 ソフト スタート信号 3.5 出力ドライバ電源入力端子の分割 トランスを駆動する際など,耐圧の高い MOSFET によ 遅延時間(可変) る駆動が必要となる場合がある。この際,MOSFET のし きい値電圧は高くなる傾向にあり,電池電圧では能力不足 ということもあり得る。 この対策として昇圧回路で生成した電圧をドライバの電 源入力端子に帰還することにより,より高い電圧で MOS FET を駆動することが可能になり効率改善も期待できる。 3.3 ソフトスタート回路 一般に各チャネルの起動は任意のタイミングで行われる しかしチャネルによってはこの昇圧した電圧を帰還する ため,ソフトスタートは各チャネルに対し独立に設定する と不都合が生じる場合もあるため,FA7716R ではドライ 必要があり,チャネル分の外付け部品が必要である。 バ電源入力端子を三つに分割し,自由度が高い電源回路設 FA7716R ではソフトスタート機能すべてを内蔵化し,外 計を可能としている。 付け部品を不要とした。またこれにより IC のピン数削減 を実現した。 3.6 パッケージ IC 内部のソフトスタート信号はコンパレータに三角波 と比較電圧を入力することで得ている。比較電圧は数 ms の緩い時間傾斜を持つため,発振器,カウンタ,および D- A コンバータを用いて生成している。カウンタと D- A コンバータを各チャネルが持つことで,各チャネルのオン オフを行う CNT 端子に信号が投入されるとソフトスター FA7716R の小型化に際してはピン数の削減のほか, パッケージ自身の小型化にも大きく寄与している。 36 ピン QFN パッケージにてピン間隔 0.4 mm を採用し た結果,ボディサイズ 5 mm × 5 mm を実現した。また厚 さは最大 0.95 mm であり,薄型化を図っている。 パッケージの表面および裏面の外観を図4に示す。 。 トの信号が発生する(図3) なお,チャネル 4 とチャネル 5 は同一の CNT45 端子に て制御され,後述の遅延時間を持っておのおの独立のソフ トスタート信号が発生する。 3.7 応用回路例 FA7716R を用いた応用回路例を 図1 に示した。本例以 外にもいろいろな組合せの電源回路を構成することが可能 である。 3.4 チャネル 5 遅延回路 チャネル 4 とチャネル 5 はディジタル系に電圧を供給す あとがき ることを目的とし,共通の CNT45 端子で制御される。 ディジタル系は一般に 2 種類の電圧についてシーケンスが 定められており,起動時に一方の電圧がもう一方の電圧を 追い越してはならないとされている。 そこで FA7716R ではチャネル 4 の起動に対しチャネル 5の起動に遅延時間を設定できるようにした。使用する入 新たに開発した小型 5 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC について製品紹介を行った。 ディジタルスチルカメラを中心とした携帯型電子機器は 今後も発展を続けることは間違いない。その中で電源回路 は多チャネル化と少チャネル化に二極化する動きが見られ, 力電圧範囲や負荷条件により各チャネルの起動にかかる時 将来その構成比率がどうなるのかは現在のところまったく 間は異なるため,セットに組んだ際に最適な状態に調整で 予測がつかない状況である。 きるよう,遅延時間は外付け抵抗にて可変とした。 チャネル4とチャネル5の起動時の関係は図3に示すと おりである。 162(20) 富士電機では今後の動向をにらみ,さらなる外付け部品 の内蔵化,そして電源回路の高効率化を目指し,新たな魅 力ある新製品の開発を迅速に推し進めていく所存である。 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。