FEJ 76 03 166 2003

富士時報
Vol.76 No.3 2003
マイクロ DC-DC コンバータチップサイズモジュール
林 善智(はやし ぜんち)
片山 靖(かたやま やすし)
江戸 雅晴(えど まさはる)
まえがき
内部構成
携帯電話,携帯情報端末を代表とする携帯用電子機器に
搭載される内部電源装置には,小型・薄型・軽量化とバッ
以下に本モジュールの各構成素子とその特徴,モジュー
ル化プロセスの概要などを述べる。
テリーによる長時間動作が絶えず求められ続けている。
また近年,LSI を動作させるための電源電圧は,その処
3.1 制御 IC
理データ量の増加とデザインルールの微細化に伴い年々低
本 IC の回路構成は 図 1 のとおりである。電圧制御は
下する傾向にあり,現在では 1.5 V ないし 1.2 V が主流と
PWM(Pulse Width Modulation)方式を採用しており,
なっている。
制御部の基本回路は CMOS(Complementary Metal Ox-
一方,携帯機器用バッテリーの主流であるリチウムイオ
ide Semiconductor)によって構成されている。1 ∼ 2.5 MHz
ン二次電池の出力電圧は 3.6 V であり,このバッテリー電
の高い周波数でスイッチングを行うため,DC-DC コンバー
圧と使用電圧の電圧変換比の拡大,消費電流の増加により
タの回路構成に必要な受動素子の小型化と,出力電圧の高
電源回路の変換効率がクローズアップされるようになって
速応答を可能としている。また,スイッチング素子を内蔵
きた。このため,従来電圧変換に多く使用されてきたシ
し,同期整流方式での動作が可能であるため,ディスク
リーズレギュレータに比べて変換効率の点で有利なスイッ
リートの半導体部品の外付けが不要となり,DC-DC コン
チング方式の DC-DC コンバータへの置換えの検討が進ん
でいる。しかしながら,従来の
DC-DC
コンバータは,シ
リーズレギュレータに比べると外形寸法が大きくなってし
まうため,さらなる小型化・薄型化が求められている。
バータ回路全体としての小型化・薄型化を可能にしている。
表1にこの IC の電気的特性を示す。
出力部は MHz オーダーの高い周波数のスイッチングに
最適化された低損失のメインスイッチ用,同期整流用の二
このような携帯用電子機器の市場要求に応えるため,超
つの MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect
コンバータモ
Transistor)と,LDO(Low Drop Out)レギュレータを
小型・薄型のスイッチング方式
DC - DC
ジュールを開発したので,その概要を紹介する。
図1 IC 回路ブロック図
開発品の概要
CE
この DC-DC コンバータモジュールは制御用の IC とイ
(Vin)VDD
ンダクタを一体化した単一出力の降圧型スイッチングレ
Cin
LDO,SW
レベルシフト,イネーブル
PVDD (Vin)
LDO_5 mA
UVLO
ギュレータの構成になっている。1 W 以下の出力条件にお
いて,最小のサイズで最高の変換効率を実現するための工
Vref
OSC
Cpvdd
ドライバ
Rfb0
夫と最適化が図られており,以下の特徴を持つ。
Vref
PGND
Vref
Vint
(3) 効率:最高 93.4 %
C01
Rfb1
(1) モジュールサイズ: 3.5 × 3.5 × 1.0(mm)
(2 ) 最大出力:1 W
(Vout)
OUT
+
PWM
−
Vref
タイマ・
ラッチ
IN
エラー
アンプ
Cint
Rpc
Vint
GND
FB
Cpc
166(24)
林 善智
片山 靖
江戸 雅晴
超小型スイッチング電源の開発に
パワーエレクトロニクス製品の開
マイクロマシンの研究およびマイ
従事。現在,
(株)富士電機総合研
発を経て,スイッチング電源制御
クロインダクタの開発に従事。現
究所デバイス技術研究所。日本応
IC の開発に従事。現在,
(株)富
在,
(株)富士電機総合研究所材料
用磁気学会会員。
士電機総合研究所デバイス技術研
技術研究所。日本応用磁気学会会
究所。電気学会会員。
員。
富士時報
マイクロ DC-DC コンバータチップサイズモジュール
Vol.76 No.3 2003
備えており,出力負荷条件に応じて切換が可能になってい
有体積の大きかったインダクタを薄膜技術によりフェライ
る。本 IC の特徴を以下にまとめる。
トウェーハに形成する技術を開発した。
(1) 同期整流 PWM バックコンバータ(500 mA)
あらかじめスルーホールをマトリックス状に形成した厚
(2 ) 軽負荷時には内蔵 LDO へ切換が可能
さ 525 µm のフェライトウェーハ上に電解めっきでソレノ
(3) 外付け抵抗にて出力電圧の調整が可能
イド巻線構造のマイクロインダクタを形成している。図2
(4 ) 高精度出力電圧(+
−4 %)
(5) 保護回路〔短絡保護 UVLO(Under Voltage Lock-
にインダクタ特性を,図3に切り出したマイクロインダク
タの電子顕微鏡による外観写真を示す。
マイクロインダクタにはコイル配線とともに表面と裏面
out)
〕
(6 ) 発振器内蔵(1 ∼ 2.5 MHz)
を,スルーホールを介して接続するためのペリフェラル
(7) スリープモード/シャットダウンモード
キャスタ構造の端子電極も同時形成されており,これによ
りモジュール形成時の小型化を可能にしている。
3.2 マイクロインダクタ
従来,DC-DC コンバータ回路の構成部品の中で最も占
3.3 モジュール化プロセス
新しいモジュール構造として,IC チップと同等のサイ
表1 主要電気的特性
ズにモジュール化するチップサイズモジュール(CSM)
特性値
技術を開発した。インダクタの磁心となるフェライト基板
2.7∼5.0(V)
にモジュールの支持基板としての機能を持たせ,シンプル
外付け抵抗にて可変〈±4%〉
な構造としたことにより,斬新(ざんしん)な小型・薄型
項 目
電源電圧範囲
出力電圧〈電圧精度〉
出力電流
化を可能とした。図4に CSM の構造概念図を示す。
∼500(mA)
スイッチング周波数
1.0∼2.5(MHz)
1( A)max.
20( A)max.
用いた。インダクタ基板と IC チップの間にできるすきま
LDOモード
100( A)max.
に,はく離強度補強のためのアンダーフィルを充てんし接
スイッチングモード
(1.8 MHz)
500( A)max.
シャットダウンモード
スリープモード
消費電流
インダクタ基板と IC チップの接合には,Au スタッド
バンプの接合による超音波フリップチップボンディングを
着した後,最後にダイシングによりモジュール間のスルー
ホールを二分割するようにカットして個片化する。図5に
図3 マイクロインダクタの外観
図2 マイクロインダクタの特性
2.4
2.2
2.0
1.8
L( H)
1.6
1.4
f =1 MHz
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
100
200
300
400
I dc(mA)
500
600
700
(a)インダクタンス
1.2
R ac(Ω)
1.0
図4 CSM の構造概念図
f =2 MHz
0.8
ICチップ
0.6
スタッドバンプ
f =1 MHz
0.4
インダクタ
0.2
0
フェライト基板
0
100
200
300
400
I dc(mA)
(b)交流抵抗
500
600
700
アンダーフィル
端子
167(25)
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マイクロ DC-DC コンバータチップサイズモジュール
Vol.76 No.3 2003
図5 DC-DC コンバータモジュールの外観
図6 DC-DC コンバータ効率特性
100
V out=3.0 V
f =1.8 MHz
V in=3.6 V
効率η(%)
90
V out=1.5 V
80
V out=1.2 V
70
60
50
0
100
200
300
400
出力電流 I o(mA)
500
600
参考文献
開発した CSM タイプの DC-DC コンバータモジュールの
外観拡大写真を示す。チップサイズが 2.9 × 2.9 × 0.27
(1) 林善智ほか.高周波 DC- DC コンバータ用 IC 技術.富士
時報.vol.73,no.8,2000,p.443- 445.
(mm)の IC を用いて外形 3.5 × 3.5 × 1.0(mm)のモ
(2 ) 片山靖ほか.薄膜インダクタを集積化した 1 W 級モノリ
ジュールサイズを実現した。これにより,従来品と比べて
シック DC/DC コンバータの開発.電気学会全国大会.2-
実装スペースの大幅な低減と薄型化が可能となる。
S11- 5,2000,p.877.
(3) 江戸雅晴ほか.携帯端末用マイクロ電源チップへの挑戦.
DC-DC コンバータ特性
電気学会全国大会.2- S8- 5,2001,p.839.
(4 ) 林善智ほか.薄膜インダクタを集積した完全ワンチップ
図6はこのモジュールによる DC-DC コンバータの入力
電圧 3.6 V,出力電圧をそれぞれ 1.2 V,1.5 V,3.0 V とし
たときの効率特性を示す。最高で 93.4 %の高効率を得て
いる。
DC- DC コンバータ.日本応用磁気学会誌.vol.25,no.8,
2001,p.1457- 1461.
(5) Sato, T. et al.A magnetic thin film inductor and its
application to a MHz switching DC- DC converter.IEEE
Tran. Magn.vol.30,no.2,1994,p.217- 223.
あとがき
(6 ) Mino, M. et al.A compact buck-converter using a thin
film inductor.Proc. Appl. Power Electronics Conf.1996,
電源回路の超小型・軽量・薄型化を狙ったマイクロ
DC-DC コンバータチップサイズモジュールの開発概要を
紹介した。
富士電機では,この高周波スイッチングによる超小型電
源技術をベースに,今後さらなる躍進が期待される携帯機
p.422- 426.
(7) Sugahara, S. et al.Characteristics of a Monolithic DC-
DC Converter utilizing a Thin-film Inductor. IPECTokyo2000.2000,p.326- 330.
(8) Katayama, Y. et al.High-Power-Density MHz-Switching
器市場のニーズに応えるとともに,技術革新の手伝いをさ
Monolithic DC- DC Converter with Thin-Film Inductor.
せていただき,社会の発展に貢献していく所存である。
PESC’
00.2000,p.1485- 1490.
168(26)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。