富士時報 Vol.76 No.3 2003 0.6μmアナログ C/DMOS デバイス・プロセス技術 北村 明夫(きたむら あきお) まえがき 図1 パワー IC 微細化トレンド 10 術と高耐圧技術との融合が特徴であり,電源 IC,ドライ バ IC などのパワー IC(181 ページの「解説」参照)の分野 に適用されている。この分野では小型化・軽量化・低消費 電力化・高機能化が望まれており,具体的には部品点数の 削減のため外付けデバイスのワンチップ化,電源電圧の低 下に伴う低電圧駆動化,高性能なアナログ回路技術などが 最小ゲート長( m) 富士電機の IC のデバイス・プロセス技術は微細加工技 要求されている。さらに近年,これらに加え,CPU など パワーIC 富士電機製 1 m 1 富士電機製 0 . 6 m ロジックLSI 0.1 0.01 1985 1990 の高集積ディジタル制御による高機能化の要求も高まって 1995 2000 2005 2010 年 おり,デバイス・プロセス技術はこれらの高耐圧アナログ デバイス,微細 CMOS デバイスの混載が求められている。 本稿ではこの電源 IC 用途に適した,アナログ CMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)と高耐圧 スリスト, 表 2 にプロセスフローを示す。本プロセスは 横型 DMOS(Double Diffused Metal Oxide Semiconduc- 0.6 µm プロセスをベースとしている。ディジタル回路用に tor) ,さらに 0.6 µm ディジタル CMOS を搭載した,0.6 µm はゲート長の縮小を図るためのパンチスルーストッパ層が ルールアナログ C/DMOS デバイス・プロセス技術につい 形成されたディジタル CMOS を,アナログ回路用にはし て紹介する。 きい値電圧の低減を狙い上記パンチスルーストッパ層を遮 へいしたアナログ CMOS を用意している。また,高耐圧 パワー IC 微細化トレンド MOS(HV-MOS)としては 30 V 耐圧保証の HV-MOS と 出力段 DMOS を用意している。 図1 にパワー IC 微細化トレンドを示す。ロジック LSI に対して約 6 年ほど遅れているが,着実に微細化が進んで いる。ロジック LSI の分野での DRAM ・システム LSI 混 載の方向性からもインタフェースとなるパワー部の集積化 が望まれており,今後急激に微細化の必要性が増すと予想 されている。このような情勢の中,富士電機も 1999 年に は 0.6 µm プロセスを開発し,製品適用を図っている。 表3にデバイス特性一覧を示す。また,図3にデバイス I-V 特性を示す。 本デバイスの特徴は次のとおりである。 (1) 高 集 積 ロ ジ ッ ク 回 路 用 0.6 µm CMOS と ア ナ ロ グ CMOS,高耐圧 MOS の混載技術 (2 ) アナログ CMOS,高耐圧 MOS の低しきい値電圧化技 術 用途として,携帯用電子機器に使用されるリチウムイオ ン電池などのバッテリー充電を制御するバッテリーチャー ジャ IC などがある。 3.1 ディジタル・アナログ・高耐圧混載化技術 富士電機では電源 IC 分野をメインに,1 µm ルールベー スのアナログ・高耐圧混載プロセスを 1996 年から量産展 要素デバイス構造と主要特性 開してきた。近年,これらアナログ・高耐圧回路をディジ タル的に制御することで高機能化を図る動きがあり,さら 図2に要素デバイスの断面を示す。また,表1にデバイ 北村 明夫 高耐圧 C/DMOS デバイス・プロ セスの研究開発に従事。現在,松 本工場 IC 第二開発部主任。 178(36) には CPU などを取り込むことによりさらなるインテリ 富士時報 0.6μmアナログ C/DMOS デバイス・プロセス技術 Vol.76 No.3 2003 図2 要素デバイス断面構造 NMOS PMOS NLDD ゲート スペーサ PLDD ゲート nプラグ n+ チャネル pパンチスルーストッパ pウェル pフィールド pプラグ スペーサ p+ チャネル nパンチ スルース トッパ nウェル p基盤 低V th NMOS 低V th PMOS NLDD nプラグ ゲート チャネル スペーサ PLDD n+ ゲート pプラグ チャネル スペーサ p+ pフィールド pウェル pフィールド nウェル p基盤 NDMOS PDMOS NLDD + nプラグ n PLDD ゲート n+ nプラグ チャネル nオフセット pオフセット pウェル nウェル p基盤 p基盤 p+ pプラグ pオフセット HV-PMOS PLDD ゲート + nプラグ n チャネル n+ nプラグ nオフセット pオフセット ゲート + pプラグ p チャネル nオフセット pウェル nウェル p基盤 p基盤 表1 デバイスリスト p+ pプラグ pオフセット 表2 プロセスフロー 能動素子 受動素子 NMOS 高抵抗ポリシリコン抵抗 PMOS 低温度係数ポリシリコン抵抗 低 V th NMOS 拡散抵抗 低 V th PMOS ポリシリコン容量 デプレションNMOS チャネル nオフセット HV-NMOS NLDD + pプラグ p ゲート MOS容量 低オン抵抗 30 V NDMOS 低オン抵抗 30 V PDMOS 低 V th 30 V NMOS 低 V th 30 V PMOS NPN PNP ツェナーダイオード プロセスフロー 標準プロセス nウェル拡散 ○ pウェル拡散 ○ pオフセット拡散 ○ nオフセット拡散 ○ nツェナー拡散 ○ フィールド酸化膜形成 ○ チャネル拡散 ○ デプレション拡散 ○ ゲート電極形成 ○ LDD拡散 ○ スペーサ形成 ○ ソース・ドレイン拡散 ○ パンチスルーストッパ拡散 ○ 高抵抗・低温度係数ポリシリコン形成 ○ ジェント化を図りたいという要求もある。これらを踏まえ, コンタクト形成 ○ 0.6 µm ディジタル CMOS との混載化に着手してきた。 第1金属形成 ○ ディジタル CMOS はゲート長の縮小のために,通常の LDD(Lightly Doped Drain)スペーサ構造に加えて, オプション プロセス 第2金属形成 パッシベーション形成 ○ ○ ウェル濃度の高濃度化,パンチスルーストッパ層の追加が 必須となる。しかし,高耐圧 MOS にとっては上記追加が 本プロセスでは,高耐圧 MOS 部へはパンチスルース RESURF(Reduced Surface Field)構造のバランスを乱 トッパ層の形成を遮へいし,かつウェル高濃度化に対して すことになる。 はオフセットドレインの RESURF 条件の最適化を図るこ 179(37) 富士時報 0.6μmアナログ C/DMOS デバイス・プロセス技術 Vol.76 No.3 2003 表3 デバイス特性一覧 CMOS(W/L=25/0.6) 電気 特性 低 V th CMOS(W/L=25/25) 30 V DMOS(W/L=25/2.0) 低 V th 30 V MOS(W/L=25/25) 低オン抵抗 30 V PDMOS 低 V th 30 V NMOS 低 V th 30 V PMOS 1.1V 0.7 V 0.8 V NMOS PMOS 低 V th NMOS 低 V th PMOS 低オン抵抗 30 V NDMOS V th 0.6 V 0.7 V 0.7 V 0.9 V 0.8 V BV dss 10 V 10 V 11V 10 V 40 V 35 V 65 V 55 V R on A − − − − 0.05 Ωmm2 0.17 Ωmm2 − − 図3 デバイス I -V 特性 NMOS(W/L=25/0.6) 1.2×10−2 −3 4.0×10 −3 6.0×10 4.0×10−3 0 1.0 3.0 4.0 V ds(V) (a)NMOS - 特性 I V 5.0 6.0 2.5×10−4 8.0×10−4 6.0×10−4 −4 2.0×10−4 5.0×10−5 8.0×10−3 −3 7.0×10 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 V ds(V) (c)低VthNMOS - 特性 I V 0 6.0 NDMOS(W/L=25/2.0) 4.5×10−3 V g=6 Vmax 0.5 Vstep −3 4.0×10 I ds(A) I ds(A) 6.0×10−3 −3 5.0×10 4.0×10−3 3.0×10−3 3.0 4.0 V ds(V) (b)PMOS - 特性 I V 5.0 6.0 低V thPMOS(W/L=25/25) V g=−6 Vmax −0.5 Vstep 0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 V ds(V) (d)低VthPMOS - 特性 I V 6.0 PDMOS(W/L=25/2.0) V g=−6 Vmax −0.5 Vstep 3.5×10−3 3.0×10−3 2.5×10−3 2.0×10−3 1.5×10−3 1.0×10−3 5.0×10−4 2.0×10−3 1.0×10−3 0 2.0 1.5×10−4 1.0×10−4 0 1.0 2.0×10−4 4.0×10 0 0 3.0×10−4 V g=6 Vmax 0.5 Vstep I ds(A) I ds(A) 2.0 5.0×10−4 0 低VthNMOS(W/L=25/25) 1.2×10−3 1.0×10−3 3.0×10−3 2.5×10−3 2.0×10−3 1.5×10−3 1.0×10−3 2.0×10−3 0 PMOS(W/L=25/0.6) V g=−6 Vmax −0.5 Vstep 3.5×10−3 8.0×10−3 I ds(A) I ds(A) 1.0×10−2 4.5×10−3 V g=6 Vmax 0.5 Vstep 0 5 10 15 20 25 30 V ds(V) (e)NDMOS - 特性 I V 35 40 0 0 5 10 15 20 25 30 V ds(V) (f)PDMOS - 特性 I V 35 40 とにより,ディジタル CMOS と高耐圧 MOS との混載化 を可能とした。 3.2 低しきい値電圧化技術 ディジタル LSI の動作電圧の低下や,携帯機器に使用 される電池電圧の低下により,低電圧駆動が要求されてい 機種適用例 図4に今回この 0.6 µm C/DMOS プロセスを適用した機 種例を示す。本 IC はリチウムイオン電池の充電機能を制 御する IC で,電源電圧定格は 18 V である。 る。 そこで,アナログ回路を構成する CMOS,高耐圧 MOS あとがき の低しきい値電圧化を図った。具体的には上記のパンチス ルーストッパ層の遮へいとチャネルイオン注入の打ち分け パワー IC の分野では,高性能な高耐圧アナログ回路技 を行い,表3のデバイス特性に示すように低しきい値化を 術とディジタル回路技術との融合のニーズが高まっており, 実現し,IC として 2 V 以下の低電圧駆動が可能となった。 デバイス・プロセスとしてもこの要求に応え,かつその先 180(38) 富士時報 0.6μmアナログ C/DMOS デバイス・プロセス技術 Vol.76 No.3 2003 図4 リチウムバッテリー充電制御 IC を見据えた開発が必要である。富士電機は高耐圧・低オン 抵抗技術をベースとし,さらに特徴あるデバイス・プロセ ス技術を開発し,社会に貢献していく所存である。 高耐圧・アナログ部 参考文献 (1) 北村明夫ほか.Surrounding-Body 領域を有する自己分離 型高性能横型 DMOSFET 構造.電子情報通信学会総合大会. C- 561,1995,p.154. ロジック部 (2 ) Kitamura, A. et al.Self-Isolated and High Performance Complementary Lateral DMOSFETs with SurroundingBody Regions.Proceedings of ISPSD’ 95.1995,p.42- 47. (3) 北村明夫ほか.Surrounding-Body 領域を有する DMOS FET の電気的特性.電気学会研究会.EDD- 95- 93,1995, p.75- 80. (4 ) 多田元,北村明夫.高耐圧 IC プロセス技術.富士時報. vol.69,no.8,1996,p.410- 416. (5) 北村明夫,佐々木修.アナログ C/DMOS デバイス・プロ セス技術.富士時報.vol.73,no.8,2000,p.456- 459. 解 説 パワー IC パワー IC は高耐圧パワー素子と駆動回路,制御回 かに追加プロセスなく,駆動能力の高いパワー素子を 路,保護回路などをワンチップ化したもので,システ 作れるかにかかっており,各社独自の技術でしのぎを ムの小型・軽量化,部品点数の削減要求に応える手段 削っている。 として近年ますます注目されてきている。 最近の動向としては,上述のような回路だけではな パワー素子は至るところで使用されているが,特に く,CPU,マイクロプロセッサ,不揮発性メモリ,ア 携帯用電子機器などでは小型・軽量化の点からパワー ナログ回路,A-D コンバータなどをワンチップ化し IC 化が望まれている。 たものが開発されており,ベースプロセスである パワー IC の難しいところは,従来の CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor) ,あるいは CMOS も本特集号 178 ページの 図 1 のように微細化 が進んできている。 Bi-CMOS(Bipolar CMOS)プロセスをベースに,い 181(39) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。