FEJ 74 10 561 2001

富士時報
Vol.74 No.10 2001
LCD パネル用電源 IC
山田谷 政幸(やまだや まさゆき)
まえがき
表1 FA3686VとFA3687V 共通の主要特性
項 目
条 件
最小
標準
最大
単位
18
V
0.99
1.00
1.01
V
2.178
2.200
2.222
V
435
500
565
kHz
2.00
2.20
2.35
V
マルチメディア化の進行に伴い,電子機器はますます小
電 源 電 圧 範 囲
2.5
型,軽量,薄型,低消費電力が求められてきており,表示
基 準 電 圧
装置ではその特徴を生かした液晶ディスプレイ(LCD)
内部制御系電圧
が主流となっている。
三角波発振周波数
LCD パネルの駆動には一般的に 3 種類の電圧が必要と
されているが,LCD パネルへの入力電圧,その駆動に必
要な電圧構成および電源シーケンスはパネルメーカーや種
類により異なっているのが実情である。
また,電源回路の小型化を実現するには特にトランスや
コイルを小さくする必要があり,そのためには電源回路を
RT =12 kΩ
低電圧誤動作防止
動作電圧
OUT1,2
H レベルオン抵抗
I OUT =50 mA
10
20
Ω
OUT1,2
L レベルオン抵抗
I OUT =−50 mA
5
10
Ω
〈注〉特に条件のない限り,電源電圧3.3 V,常温(25℃)における定格
高い周波数で駆動することが求められている。
富士電機ではこれまでも LCD パネル用電源 IC(Integrated Circuit)を製品化してきたが,このたび新系列と
ポーラトランジスタのいずれも直接駆動可
FA3686V と FA3687V 共通の主要特性を表1に示す。
して 2 チャネルの PWM(Pulse Width Modulation)方式
スイッチング電源制御 IC「FA3686V」および「FA3687V」
FA3686V の特長
を開発したので,その概要を紹介する。
FA3686V は LCD パネル用電源 IC の中でも特に 3 出力
製品の概要
電源用途向けの製品である。2 チャネルの PWM 制御部に
加え,さらに誤差増幅器を 1 個追加し,シリーズレギュレー
今回開発した FA3686V と FA3687V はともに LCD パ
ネル用電源 IC であるが,LCD パネルが必要とする電源構
成や用途などの違いにより使い分けることができる。
タが容易に構成できるようになっている。
図 1 に FA3686V の内部回路を示す。FA3686V の特長
は次のとおりである。
これら二つに共通の特長は次のとおりである。
(1) TSSOP(Thin Shrink Small Out-line Package):16
ピンパッケージを採用
3.1 PWM 制御部
チャネル 1 およびチャネル 2 の誤差増幅器の非反転入力
(2 ) 動作電圧範囲:2.5 ∼ 18 V
はいずれも内部にて基準電圧(1.00 V+
−1 %)に接続され
(3) 発振周波数:300 kHz ∼ 1.5 MHz,外付け抵抗のみで
ている。チャネル 1 の出力は n チャネルドライバで昇圧
回路,チャネル 2 の出力は p チャネルドライバで極性反
設定可
(4 ) 基準電圧および内部制御系電圧の精度+
−1 %
(5) 2チャネルの PWM 制御出力を内蔵
転回路をそれぞれ構成することができる。
(6 ) タイマ・ラッチ方式出力短絡保護回路,低電圧誤動作
3.2 最大デューティ制限回路
防止回路,ソフトスタート回路を内蔵
昇圧回路および極性反転回路の駆動の際は出力が 100 %
(7) 外付けスイッチング素子は MOSFET(Metal Oxide
オンしないように最大デューティを制限する必要がある。
Semiconductor Field Effect Transistor) ま た は バ イ
FA3686V では最大デューティ制限回路を内蔵し,外部
山田谷 政幸
電源 IC の開発に従事。現在,松
本工場 IC 開発部。
561(17)
富士時報
LCD パネル用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
にて設定する必要なく約 85 %に制限されている。
力電圧を監視し,ある一定の遅延時間の間,誤差増幅器の
出力がスイッチングを広げるがわに振り切れ続けている場
3.3 ソフトスタート回路
合,異常状態と判断してスイッチングを停止する機能であ
FA3686V では各チャネル独立のソフトスタート回路を
る。この遅延時間を決める方法として,FA3686V では発
設けている。ソフトスタートを設定する CS1 端子,CS2
振周期をカウントする方法を採用している。時間は発振周
端子には内部電流源が備え付けられており,外部にコンデ
期の 2 16 倍または 2 17 倍のいずれかに設定可能で,外付け
ンサのみを接続することで機能が実現できる。
部品は一切必要ない。
3.4 タイマ・ラッチ回路
3.5 PGS
タイマ・ラッチ方式出力短絡保護回路は誤差増幅器の出
FA3686V で は 新 た な 機 能 と し て PGS( Power Good
Signal)を持っている。これは FA3686V が駆動している
電源の異常信号を外部に送る機能で n チャネル MOSFET
のオープンドレイン出力になっている。
図1 FA3686V の内部回路構成
入力電圧が規定に満たない場合(電圧上昇時 2.35 V,下
⑬ VREG
⑥ VCC
UVLO
基準電源
内部制御
系電源
⑫ RT
誤差増幅器1
+
⑭ IN1−
−
⑮ FB1
誤差増幅器2
+
④ IN2−
−
電圧検出
UVLO
三角波
発振器
⑦ CS2 ⑩ CS1
降時 2.25 V)
,低電圧誤動作防止(UVLO)回路が動作し
VPGS
た場合,タイマ・ラッチ回路が動作した場合のいずれかの
ソフト
スタート
場合に n チャネル MOSFET がオンする。
最大
デューティ
制限
PWM
コンパ
レータ1
3.6 応用回路例
+
nチャネル
ドライバ
−
図2に FA3686V を用いた応用回路例を示す。
⑨ OUT1
チャネル 1 にて昇圧回路,チャネル 2 にて極性反転回路
PWM
コンパ
レータ2
−
pチャネル
ドライバ
+
を駆動している。さらにチャネル 1 のスイッチングを用い
⑧ OUT2
てチャージポンプ回路を作り,これとシリーズレギュレー
③ FB2
誤差増幅器3
タを組み合わせてもう一つ電圧を作っている。
+
−
② IN3−
FB検出
⑤ PGS
VPGS UVLO
① FB3
負荷電流の少ない電圧生成にはコンデンサで構成できる
チャージポンプ回路が部品サイズやコストの面で有利であ
タイマ・
ラッチ
(カウンタ)
り,FA3686V はその駆動に適している。
⑯ TL
⑪ GND
図2 FA3686V の応用回路例
10 V/5 mA
90 kΩ
0.1 F
0.1 F
4.7 F
0.1 F
0.1 F
2.9∼3.6 V
10 kΩ
1,000 pF
10 F
15 F
5.0 V/200 mA
4 kΩ
470 Ω
1 kΩ
GND
−5.0 V/100 mA
47 kΩ
4,700pF
562(18)
FB3 IN3− FB2 IN2− PGS VCC CS1 OUT2
10 kΩ
FA3686V
12kΩ
1 F
TL
0.022 F
FB1 IN1− VREG RT GND CS1 OUT1
1,000 pF
10 F
470 Ω
12 kΩ
0.047 F
2.4 kΩ
0.47 F
PGS
33 kΩ
10 kΩ
2,200pF
4,700pF
4.7 kΩ
富士時報
LCD パネル用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
ブ切換が可能である。これにより降圧,昇圧,極性反転,
FA3687V の特長
フライバック,フォワードのあらゆる回路が構成できる。
FA3687V は LCD パネル用電源の中でも特に汎用性を
4.2 ソフトスタート回路
重視した製品である。2 チャネルの PWM 制御部にはすべ
FA3687V では各チャネル独立のソフトスタート回路を
て n チャネルまたは p チャネル駆動の切換があり,駆動
設けている。ソフトスタートを設定する CS1 端子,CS2
することのできる電源構成の幅が広い。
端子にて抵抗およびコンデンサを用いて設定を行う。また
図 3 に FA3687V の内部回路を示す。FA3687V の特長
CS1 端子,CS2 端子の電圧を設定することで最大デューティ
は次のとおりである。
制限を設定することも可能である。
4.1 PWM 制御部
4.3 タイマ・ラッチ回路
チャネル 1 の誤差増幅器の非反転入力は内部にて基準電
FA3687V ではラッチまでの遅延時間を決める方法とし
圧(1.00 V+
−1 %)に接続されている。チャネル 2 の誤差
てコンデンサ充電方式を採用している。CP 端子にコンデ
増幅器は非反転・反転入力ともに外部にて設定できる。い
ンサを接続すると内部電流源によりコンデンサが充電され,
ずれのチャネルの出力も n チャネル/p チャネルのドライ
一定電圧に達するとスイッチングを停止する。
図3 FA3687V の内部回路構成
4.4 応用回路例
図4に FA3687V を用いた応用回路例を示す。これは全
⑦ CS2 ⑩ CS1
⑥ VCC
⑬ VREG
UVLO
基準電源
チャネル降圧回路を駆動している例である。
FA3687V は n チャネル,p チャネル駆動切換が可能な
ソフト
スタート
内部制御
系電源
ことから,応用回路例以外にも降圧,昇圧,極性反転など
三角波
発振器
⑫ RT
あらゆる回路の組合せが可能で汎用性が高い。
PWM
誤差増幅器1 コンパ
レータ1
+
⑭ IN1−
⑮ FB1
⑤ IN2+
④ IN2−
+
−
−
n/pチャネル
ドライバ
⑨ OUT1
n/pチャネル
ドライバ
⑧ OUT2
PWM
誤差増幅器2 コンパ
レータ2
+
⑯ SEL1
−
−
あとがき
+
LCD パネル用電源 IC である FA3686V および FA3687V
の概要を説明した。
③ FB2
② SEL2
FB検出
現在,LCD パネル分野では低価格化,小型化が年々進
んできており,富士電機では市場要求にこたえるべく LCD
パネル用電源 IC のさらなる系列化を進め,魅力ある製品
タイマ・
ラッチ
(充電式)
の開発を進めていく所存である。
① CP
⑪ GND
図4 FA3687V の応用回路例
5 V/500 mA
7∼18 V
40 kΩ
10 F
10 F
10 kΩ
GND
1 F
0.01 F
10 kΩ
FA3687V
6.2 kΩ
CP SEL2 FB2 IN2− IN2+ VCC CS2 OUT2
0.1 F
100 kΩ
SELI FB1 IN1− VREG RT GND CS1 OUT1
0.1 F
GND
100 kΩ
3.3 V/500 mA
0.01 F
100 Ω
0.47 F
22 kΩ
10 F
11 kΩ
10 kΩ
0.01 F
1 MΩ
10 kΩ 10 kΩ
0.068 F
563(19)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。