富士時報 Vol.74 No.10 2001 充電機能内蔵携帯電話用電源 IC 荒井 裕久(あらい ひろひさ) 吉田 豊(よしだ ゆたか) 藪崎 純(やぶざき じゅん) まえがき 図1 FA3694R の外観 近年,携帯電子機器の小型化,軽量化,高機能化が進ん でおり,その代表である携帯電話は,小型化の進展および 低消費電力化による待受け時間や通話時間の伸びにより, いつでも,どこでも連絡可能という携行性,利便性が一層 進み,多くの消費者の支持を受け,現在の高い普及率となっ ている。 富士電機では,低消費電力化〔IC(Integrated Circuit) 消費電力の削減〕 ,小型化(各機能の集積化)に対応した 携帯電話用電源 IC として,48ピンの小型パッケージを適 用した「FA3694R」を開発,製品化したので概要を紹介 する。 特 長 図2 FA3694R のチップ写真 FA3694R は携帯電話用に開発したシステム電源 IC で, 高精度充電制御回路(スタンドアローン) ,6 個の 2.85V 出力電圧,最大 150mA 出力電流の LDO(Low Drop Out) レギュレータ,音声用スピーカアンプ,各種ドライバ 〔LED(Light Emitting Diode) ,ブザー,バックライト〕 , 各種検出回路,基準電圧出力回路などを内蔵している。 また,各 LDO レギュレータ,スピーカアンプ,各ドラ イバはシリアルインタフェースを介しておのおの個別にオ ン・オフが可能で,必要に応じて電源のオン・オフを行い, バッテリーパワーのセーブを可能にし,携帯電話の低消費 電力化に対応している。 特長を以下にまとめる。 (1) 充電制御回路内蔵(Battery Charger) ™予備充電(Pre-Charge) ™急速充電(Fast Charge) 定電流充電(CC Mode) 時における定電圧充電の電圧を,4.2 V+ −30 mV の高精度で 定電圧充電(CV Mode) 本 IC は,バッテリーの満充電(携帯電話の使用時間を 実現している。 伸ばす) ,安全に充電する(過電圧によるバッテリーの損 (2 ) LDO レギュレータ 6 個内蔵 傷を防ぐ)ことを目的に,充電の最終段階である急速充電 (3) スピーカアンプ内蔵(32 Ωスピーカ駆動) 荒井 裕久 吉田 豊 藪崎 純 電源 IC の開発,設計に従事。現 電源 IC の開発,設計に従事。現 電源 IC の開発,設計に従事。現 在,松本工場 IC 開発部。 在,松本工場 IC 開発部プリンシ 在,松本工場 IC 開発部。 パルエンジニア。電気学会会員。 570(26) 富士時報 充電機能内蔵携帯電話用電源 IC Vol.74 No.10 2001 (4 ) 各種ドライバ内蔵 表2 主要電気的特性 LED,ブザー,バックライト 項 目 (5) 各種検出器内蔵 条 件 標 準 単 位 充電制御 レギュレータ,メインパワー,バッテリー検出 予備充電 R s=0.4 Ω 100 mA (6 ) 基準電圧回路内蔵 急速充電(定電流充電) R s=0.4 Ω 1,000 mA (7) CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconduc- 急速充電(定電圧充電) R s=0.4 Ω 4.20 V tor)シリコンゲート 1 μm プロセス AC アダプタ過電圧検出 6.0 V (8) 低消費電流: 100 μA(待機時) AC アダプタ低電圧検出 3.65 V (9) 48 ピン QFN(Quad Flat Non-lead)パッケージ バッテリー過電圧検出 4.55 V バッテリー低電圧検出 2.90 V FA3694R の外観を図1に,チップ写真を図2に示す。 0 ℃ 高温度検出 (予備充電停止) 43 ℃ 高温度検出 (急速充電停止) 50 ℃ 充電最大時間 (予備充電) 140 min 充電最大時間 (急速充電) 140 min 低温度検出 仕 様 表1に絶対最大定格を,表2に主要電気的特性を示す。 IC の概要 4.1 充電制御 充電回路は,リチウムイオンバッテリー用に開発を行っ た。図3に充電部ブロック図を示す。 充電部は,充電電流モニタ部,電源電圧モニタ部,充電 電圧・電流コントロール部(定電流充電および定電圧充 電) ,バッテリー電圧モニタ部,バッテリー温度モニタ部 (バッテリー有無モニタを含む) ,クロックモニタ部,シー レギュレータ 出力電圧 I load=150 mA 2.85 V リプル除去率 f =21 kHz −60 dB 負荷変動 I load=1∼150 mA 0.2 mV/mA 0.20 V ブザー NMOS オン電圧 I load=120 mA LED ケンスロジック部で構成している。 充電シーケンス(図4)は,アダプタ電圧,バッテリー 電圧,バッテリー温度,充電電流,充電時間をモニタし, 出力電流 V in=1.0 V 40 mA 出力電圧 V in=2.85 V 114 mA 待機時 100 A 消費電流 制御を行っている。 消費電流 図5に充電タイミングチャートを示す。 通常の充電動作を以下に述べる。 (1) 電池電圧が 3 V 以上で,アダプタ電圧が正常(3.75 V < VCHG < 6.0 V)のとき急速充電を行う。 (2 ) 急速充電では,充電電流およびバッテリー電圧に応じ 図3 充電部ブロック図 て,定電流充電あるいは定電圧充電のどちらかが行われ る。通常,1 A の定電流充電が行われ,その後 4.2 V の ACアダ プタから VCHG バッテ リーから 定電圧充電が行われる。 (3) 定電圧充電で充電電流が 150 mA 以下になった時点で 終了する。 MPWR RSNS 充電電流 モニタ (4 ) バッテリー電圧が 3.9 V 以下になったら再充電を開始 CHG_SNS RMOD する。 TRMOD CHG_ MOD 表1 絶対最大定格 項 目 定 格 VCHG 6.5 MPWR 6.5 電 源 電 圧 単位 VBAT V 入 力 電 圧 範 囲 −0.3∼+3.15 スピーカアンプ入力電圧範囲 −0.3∼+3.0 V 600 mW 動 作 温 度 範 囲 −30∼+85 ℃ 保 存 温 度 範 囲 −40∼+125 ℃ 全 損 失 (Ta=25℃) V RTMP BAT_ TMP CLK 充電 コント ロール 過電圧・ 低電圧検出 バッテリー 電圧モニタ バッテリー 温度検出 バッテリー 有無検出 シーケンス ロジック 発信器 停止検出 571(27) 富士時報 充電機能内蔵携帯電話用電源 IC Vol.74 No.10 2001 図4 充電シーケンス (5) 充電開始時に,バッテリー電圧が 3.0 V 以下の場合は 予備充電を行う。予備充電は 100 mA の定電流充電をバッ テリー電圧が 3.0 V を超えるまで行う。予備充電が 140 待機 N 分を超えた場合はバッテリーに異常があると判断し,充 V CHG>3.75 V? 電を終了する。 Y V BAT>3.0 V? N (6 ) 充電中,バッテリー温度が 50 ℃を超えるか,0 ℃未 予備充電 Y T BAT>43 ℃? 急速充電 (定電流充電) (定電圧充電1) タイムアウト? Y N V BAT>3.0 V? Y る。 N N (7) 次の場合は充電を停止する。 図5 充電タイミングチャート バッテリー有無 N または VCHG<3.65 V? Y Y 急速充電 (定電圧充電2) N 0 ℃以上または 43 ℃以下に戻った場合,充電を再開す T BAT<43 ℃? 異常 タイマリセット N T BAT>50 ℃ または T BAT<0 ℃? N Y Y Y I CHG<40 %? タイムアウト? 満になった場合には充電を停止する。バッテリー温度が 保留1 N タイムアウト? N T BAT>50 ℃ または T BAT<0 ℃? N Y N 予備 充電 定電流 充電 急速充電 定電圧 充電1 タイムアウト 定電圧充電2 I REG V FBAT Y V LBAT 保留2 Y 0< T BAT<43 ℃? N I TR バッテリー 電圧 Y I CHG<15 %? Y I STP I PC 充電電流 完了 Y V BAT<3.9 V? N 急速充電 最大時間 予備充電 最大時間 急速充電 最大時間 図6 FA3694R の回路ブロック図 VR3 MPWR Rs LED_VIN 28 27 26 25 LED_GND 24 電 流 制 御 CLK CLK BLR 23 STB 22 DATA 21 発振器 VIB_OUT CLK VIB 40 29 LED_OUT 30 充電制御 VBAT 39 MPWR 31 SCLK 20 MPWR 41 VR4 47 VR2 BG VR4 MPWR 48 1 VR1 2 3 MIC_ BIAS 4 VREF BUF 5 6 7 8 9 10 BAT_MON BG 46 RST 45 電圧 検出部 シリアル インタ フェース VR1 VR2 ス ピ SPOUT1 ー 15 カ ア GNDSP 14 ン プ SPOUT2 11 SHOCK MPWR 44 VCHG PWRHLD 18 DGND 17 MPWRSP 16 VR3 PWR_FAIL 43 PWRSW 19 MSW VR3 AGND VREF 42 AGND 保護 パワー コントロール ロジック MIC_ OUT バッテリー 12 AUDIN CHG_MOD 38 32 LEDs BLG 33 BZ2 AC アダプタ 572(28) 34 VCHG 37 GNDN 35 BZ1 36 CLK_CNT RST_IN BAT_TMP CHG_SNS MPWR 13 富士時報 充電機能内蔵携帯電話用電源 IC Vol.74 No.10 2001 ™アダプタ電圧が 3.65 V 未満あるいは 6.0 V を超えた場 合 ™バッテリー電圧が 4.55 V を超えた場合 ™バッテリーがない場合 (MPWR)の低電圧検知をしており,システム自身をシャッ トダウンできるよう,IC 端子から出力している。 また,バッテリーの残量を確認するために,バッテリー モニタは電圧変換したアナログ電圧を出力している。 ™クロックが停止した場合 4.6 シリアルインタフェース 4.2 LDO レギュレータ FA3694R は CMOS による LDO レギュレータを使用し 3線式シリアルインタフェースにより,各ブロックのオ ン・オフをコントロールする。 ている。バイポーラと比較して消費電流が小さく,ドロッ プアウト電圧が小さいため,バッテリーの消費を抑え,か つ低いバッテリー電圧での使用が可能である。この IC に 4.7 全体回路 FA3694R の回路ブロック図を図6に示す。 内蔵している LDO レギュレータは,20 kHz まで−60dB 以上の高リプル除去率を持ち,1回路あたり 40 μA の低 あとがき 消費電流を実現している。 以上,充電制御機能を内蔵した携帯電話用電源 IC とし 4.3 スピーカアンプ BTL(Balanced Transformer Less)構成でスピーカを て開発した FA3694R の概要について紹介した。 今後,携帯電話用 LSI(Large Scale Integrated circuit) 駆動するため, 2 個のプッシュプルアンプを内蔵している。 は,さらに統合化が進むと考えられるが,低消費電力,小 EN 端子を L レベルにすることにより,シャットダウンモー 型化の追求により,高性能なシステムが構築できる IC の ドになり,消費電流を 1 μA 以下にすることができる。 開発を行い,一層の拡大が期待される携帯電子機器市場の ニーズにこたえるとともに,電子機器の発展に貢献してい 4.4 各種ドライバ く所存である。 ブザー,バックライトを駆動するため,オープンドレイ ン構成の n チャネル MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を内蔵する。 LED 駆動は,IN 端子の入力電圧レベルにより駆動電流 を制御でき,複数の LED を駆動できるように電流を 120 mA まで供給できる構成としている。 参考文献 (1) 佐野功ほか.携帯電話機用電源 IC.富士時報.vol.73, no.8,2000,p.440- 442. (2 ) 芳尾真幸,小沢昭弥.リチウムイオン二次電池―材料と応 用―.日刊工業新聞社.1996,p.145- 151. 4.5 各種検出器 常時,内部レギュレータの低電圧検知(VR1) ,主電源 573(29) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。