富士時報 Vol.74 No.1 2001 電子デバイス・半導体 IC パワー半導体 展 望 2000年の電子デバイス・半導体分野の市況は国内景気に アドレスドライバ IC を開発した。 曙光(しょこう)が見え始めたことに支えられ好調に推移 小型液晶コントローラドライバでは,キャラクタ表示用 した。従来ニーズに加え,社会環境の変化に伴う多様なニー ながらグラフィックスも表示可能な多彩な機能に特長のあ ズが拡大しており,なかでも,地球環境の保護に向けた省 る製品を開発している。 エネルギー,省資源へのニーズは加速している。富士電機 では長年培ってきた高耐圧,パワー技術をもとに製品単体 の高性能化を進めるとともに,インテリジェント機能を加 えることにより適用製品・システムトータルの省エネルギー, 省資源化を実現する製品群を提供し続けている。 自動車用圧力センサでは,電磁干渉対策内蔵形センサに 続き EPROM トリミングの新圧力センサを完成させた。 パワーモジュール分野ではより顧客ニーズに対応しうる 素子をめざして開発を進めてきた。例えば,整流ダイオー ドから成るコンバータと IGBT/FWD で構成されるインバー IC 部門では,上記の背景のもと,省エネルギー,省資 タ部とを同一パッケージに納めた PIM でコンバータとイ 源化に貢献するべく,パワーマネジメント技術に特長ある ンバータの間の直流ラインにサイリスタを追加し,従来の 電源 IC を中心に製品展開を図っている。すなわち,パワー 外部接続リレーを不要にした高信頼性パワーモジュールを とインテリジェント機能をアナログ CMOS 技術に集約し, 製品化した。また装置の小型化に対応すべく,新たに 高耐圧・高出力・低消費電流で高機能・高精度・高信頼性 IGBT モジュールパッケージとして EconoPACK-Plus を を実現した製品を提供している。 開発した。これは MW クラスの大容量インバータへの適 電源分野では,1999年度に続き AC アダプタや 用を目的とした 6 イン 1 モジュールで,従来のモジュール 汎用電源の低価格化へ貢献できる PWM 制御 IC をバイポー パッケージに対して約半分の厚さにまで小型化している。 ラから CMOS へと系列転換を図った。さらに高信頼性 ここでは内部の電流配線の引き回しなどその形状や構造な 700 V パワー MOS を内蔵したワンチップパワー IC 技術 どの最適化を図っている。 AC-DC を完成させ,携帯電話用 AC アダプタなどへの適用をめざ し順次製品化を進めている。 ディスクリート分野では,超高速・低 Ron の MOSFET として FAP-G シリーズを開発した。これは表面形状の微 DC-DC 電源分野では,新 CMOS シリーズとして FA7700 細化を用いた最適化設計により低比抵抗ウェーハの適用を 系列の DC-DC コンバータ制御 IC を発売した。これは従 可能とした結果によるものである。また低電圧動作,低消 来の76バイポーラ PWM 制御 IC に代わり,8 ピン高機能 費電力を実現させた高機能 MOSFET や,より高周波対応 の特長を受け継ぎ低消費電力化を図ったものである。また, を可能とした電子レンジ用高圧ダイオードを開発・製品化 ディジタルカメラや VTR カメラ向け 6 チャネル同期整流 した。さらにテレビやモニタ用電源に用いるスマートパワー 対応電源 IC はさらに高機能化を図って系列化した。 デバイスとして,M-POWER1 の製品系列化を進めた。こ その他の特定用途向け電源 IC としてプリンタ用,液晶 パネル用,携帯電話用などの新製品開発を完了した。 れは独自の回路を内蔵させ,低ノイズ,高効率,高力率, そして省電力モードまでも対応したものである。ディスク 富士電機独自のカメラ用オートフォーカス IC では,小 リートの新たなパッケージとして超薄型パワー SMD を製 型・低価格化を実現する独創的な広角モジュールを開発し 品化した。これは市場の強い要望にこたえたもので,主と た。 2 倍ズーム機など低価格帯カメラや今後のディジタル して携帯用電子機器対応のパッケージであり,内蔵素子と カメラへの採用拡大を図っていく。 して MOSFET やショットキーバリヤダイオードなどが搭 今後の市場拡大が期待される PDP(プラズマディスプ レイパネル)駆動 IC では,パネル特性の進展に合わせて 低価格化を図るべく,新規に 85 V DMOS プロセスによる 載されるものである。 今後もさらに多様なニーズに対し,富士電機は特徴ある 技術を生かしてこたえていく所存である。 73 富士時報 Vol.74 No.1 2001 電子デバイス・半導体 IC 汎用 PWM 電源制御 IC 家電・ OA 機器などに使用される AC-DC コンバータ 図1 汎用 PWM 電源制御 IC 用として,FA551x シリーズを開発した。本シリーズは従 来の FA531x シリーズを高耐圧 CMOS 技術により低消費 電流化した PWM スイッチング電源制御 IC である。 この製品の主な特長は次のとおりである。 (1) 30 V 高耐圧 CMOS プロセス採用による低消費電流化 スタンバイ電流:2 μA,動作時:1.9 mA (2 ) 電源(Vcc)を監視する過電圧保護機能内蔵 (3) パルスバイパルス過電流制限 (4 ) 最大デューティ FA5510/14:46% FA5511/15:70% (5) その他 FA531x シリーズと同じ保護機能内蔵 2 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC ノートパソコンなどの液晶画面に用いられる電源は近年 図2 2 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC 大容量化・小型化が進んでいる。これに伴い電源 IC の高 電圧対応や高周波化が求められている。そこでこれらの要 求にこたえ,FA3686 V/3687 V を開発した。主な特長は 次のとおりである。 (1) CMOS アナログ技術による低消費電流(3 mA) (2 ) 広い入力電源電圧範囲(2.5 ∼ 18 V) (3) 高い発振周波数(300 kHz ∼ 1.5 MHz) (4 ) FA3686V は PWM2 チャネルのほかにエラーアンプ を内蔵し,シリーズレギュレータの駆動が可能 (5) FA3687V は PWM2 チャネルの出力すべてが n チャ ネルまたは p チャネル駆動の切換が可能 (6 ) TSSOP-16 ピンパッケージ 充放電機能内蔵 6 チャネル電源制御 IC 近年,ビデオカメラの小型化,低消費電力化に伴い,そ の電源セットにも同様の機能が求められている。これらの 要求に対応して,二次電池充放電制御 IC と DC-DC 制御 IC を一体化した充放電機能内蔵 6 チャネル電源制御 IC を 開発した。主な特長は次のとおりである。 (1) 6 チャネル DC-DC 用出力 (2 ) 高スイッチング周波数(300 kHz ∼ 1.5 MHz) (3) シリアルデータによる各チャネルおよび機能を制御 (4 ) 二次電池用定電流・定電圧充電制御および放電機能 (5) 二次電池充電電流検出回路内蔵 (6 ) シリーズレギュレータ制御用エラーアンプ(2 回路) (7) スタンバイ機能およびパワーオフ待機機能 (8) LQFP-64 ピンパッケージ 74 図3 充放電機能内蔵 6 チャネル電源制御 IC 富士時報 Vol.74 No.1 2001 電子デバイス・半導体 IC 充電機能内蔵携帯電話用電源 IC 携帯電話の市場は,目覚ましいスピードで軽量化・小型 図4 携帯電話用電源 IC 化が進んでいる。これらの要求に対応するため,より集積 化したシステム電源 IC を開発した。リチウムイオン電池 の充電制御を,高精度の電圧制御回路により可能にした。 主な特徴は次のとおりである。 (1) スタンドアロン型充電制御 (2 ) 充電制御電圧の絶対精度:+ − 0.7 % (3) 低消費電流(スタンバイモード 70 μA) (4 ) 4 種 の LDO( Low Drop-Out) レ ギ ュ レ ー タ 内 蔵 (PSRR:−60 dB) (5) スピーカアンプ内蔵 (6 ) LED ドライバ内蔵 (7) バイブレータドライバ内蔵 (8) パッケージ:LQFP48 液晶表示コントローラ・ドライバ IC 情報機器の普及に伴い,表示装置として用いられる液晶 図5 液晶表示コントローラ・ドライバ IC 表示パネルのドライバ IC にも,高機能化が要求されてき ている。この要求に対応して,キャラクタ用ドライバ IC でありながら,漢字表示・グラフィックス表示・倍角表示 など多彩な機能を可能にした液晶コントローラ・ドライバ IC を開発した。主な特長は次のとおりである。 (1) 6 × 8(ドット)16けた 4 行キャラクタ表示に加えて, 48個のアイコンを独立制御可能 (2 ) 64文字分の CGRAM を使用して,漢字表示・グラ フィックス表示可能 (3) 2 倍角表示,白黒反転表示,行シフト,半行シフト, ラインブリンクなど豊富なインストラクション (4 ) COG 実装対応可能な金バンプ電極構造 EPROM 型圧力センサ 市場の低価格・高精度化の要求に対応ができる新型圧力 図6 EPROM 型圧力センサ センサとして,ワンチップディジタル調整型圧力センサを 開発したので紹介する。 (1) チップ CMOS ワンチップタイプで EMC フィルタ内蔵 特性調整は EPROM で行う。 (2 ) 構 造 樹脂パッケージ 8 ピン。20.4 × 13.5 × 6.8(mm) (3) 電気的特性 ™圧力範囲 :20 ∼ 120 kPa(最大 250 kPa) ™出力電圧範囲:0.5 ∼ 4.5 V(最大 0.4 ∼ 4.65 V) ™温度範囲 :−30 ∼+100 ℃ ™誤差精度 :25 ℃;+ − 1 % FS, −30/+100 ℃;+ − 1.5 % FS 75 富士時報 Vol.74 No.1 2001 電子デバイス・半導体 パワー半導体 低損失・高速パワー MOSFET「FAP-G シリーズ」 スイッチング電源の高効率化,低消費電力化,小型化の 図7 低損失・高速パワー MOSFET「FAP-G シリーズ」 市場ニーズに対応して,スイッチングデバイスのパワー MOSFET には高速かつ低オン抵抗,小型化が必要とされ ている。この技術課題に対し,微細加工技術,抵抗低減技 術,ゲート面積低減技術を適用することで低ターンオフ損 失の大幅低減と低ゲートチャージを実現した中高耐圧パワー 50 MOSFET(FAP-G シリーズ)を開発した。FAP-G シリー E off( J) ズの特長は次のとおりである。 (1) オン抵抗−ターンオフ損失のトレードオフを改善しター ンオフ損失を低減(従来比 1/4) 40 従来 30 (2 ) ゲート駆動損失を低減するためにゲートチャージを低 FAP-G シリーズ 減(従来比 1/3) 20 0.3 (3) 高アバランシェ耐量 (4 ) 低オン抵抗化,パッケージの小型化を実現 IGBT モジュールパッケージ「EconoPACK-Plus」 近年,産業用インバータなどの電力変換装置において, 図8 EconoPACK-Plus 40kW ∼ 1MW クラスの大容量品の需要が高まっており, これに使用される電力用半導体素子にはさらなる小型化, 高信頼性,使いやすさが求められている。この要求に対し 富士電機は,大電流定格の IGBT インバータブリッジを一 つの絶縁型パッケージに封入したモジュール EconoPACKPlus を製品化する。主な特長は次のとおりである。 (1) 定格: 1,200 V/225 ∼ 450 A,1,700 V/150 ∼ 300 A (2 ) 小型化:従来品使用時の約 2 分の 1 の容積 (3) 使いやすさ:プリント板実装型構造で大電流定格まで 6個組化 (4 ) 高信頼性:サーミスタ内蔵により温度保護精度が向上 (5) 大容量化:オン電圧の温度特性が正のため並列接続が 容易であり,電流定格の拡大が可能 電子レンジ用高圧ダイオード 富士電機では,新たに商用周波電子レンジ用 3 機種,高 周波インバータ電子レンジ用 1 機種の高圧ダイオードを開 発し製品系列の拡充を図った。いずれも電子レンジ用高圧 電源のトレンドである高周波出力の高出力化に対応した大 電流駆動・低損失設計を施しており,さらにマグネトロン の異常放電時に発生するサージ過電圧への耐量の向上も図っ ている。開発品の概要は次のとおりである。 (1) 商用周波用:型式,電圧/電流定格 ESJC15-10,10 kV/400 mA ESJC16-09,9 kV/480 mA ESJC16-12,12 kV/430 mA (2 ) インバータ用:型式,電圧/電流定格,逆回復時間 ESJC34-08,8 kV/350 mA,150 ns 76 図9 電子レンジ用高圧ダイオード 0.4 0.5 R DS(on)(Ω) 0.6 0.7 富士時報 Vol.74 No.1 2001 電子デバイス・半導体 パワー半導体 ハイサイド高機能 MOSFET 自動車電装システムの大規模化に伴う,半導体の小型・ 図10 ハイサイド高機能 MOSFET(F5045P) 薄型化要求に対応するため,自己保護機能を持つハイサイ ド高機能 MOSFET「F5045P」を開発した。 本製品の特徴を以下に述べる。最低動作電源電圧 3 V を 実現し,低温度条件下でバッテリー電圧が極端に低下した 場合でも,そのオンオフ動作を実現可能とした。さらに, 入力端子を 2 入力構成とし,第一入力側システムの異常発 生時でも,オン状態を保持するための第二入力端子を内蔵 している。定格,電気的特性および上記以外の主な特徴は 次のとおりである。 (1) 定格および電気的特性:50 V,1 A,オン抵抗 0.6 Ω, スタンバイ電流 100μA (2 ) パッケージ:SOP-8 (3) 自己保護機能:短絡,過熱,サージ電圧 スイッチング電源用マルチチップパワーデバイス「M-POWER」の系列化 スイッチング電源には低消費電力,高調波電流・ノイズ 図11 マルチチップパワーデバイス「M-POWER」 を低減など環境への配慮が求められている。この要求を満 足するスイッチング電源を実現し,制御 IC とスイッチン グデバイスを 1 パッケージにした従来 M-POWER に追加 し新たに次のような系列化を行った。 (1) より大容量な電源へ対応するため,電源最大出力 130 W 品に加え 170 W 品を系列化 (2 ) 電源の各種起動回路に対応するため起動電圧 10.0 V 品に加え,16.5 V 品を系列化 (3) テレビ用途向けにスイッチング時の放射ノイズをさら に低減した F9208L を製品化 超薄型パワー SMD 携帯用電子機器・通信機器・ OA 機器のより小型・軽 図12 超薄型パワー SMD 量化が進展するなか,半導体デバイスに対してはさらなる 高密度実装を可能とする小型・薄型パッケージが求められ ている。富士電機ではこれら要求にこたえるべく,超薄型 パワー SMD(表面実装デバイス)2 系列を開発・製品化 した。その内容と特長は次のとおりである。 (1) 2 端子 SD 型 SMD:SBD(ショットキーバリヤダイ 2 端子 SD 型 SMD オード)4 型式(3 A) ,製品高さが 1.2 mm と低くかつ 大電流,ノートパソコンなどの薄型化に最適 ,LLD(低損失超 (2 ) TFP 型 SMD:SBD 1 型式(30 A) 高 速 ダ イ オ ー ド ) 1 型 式 ( 20 A), MOSFET 2 型 式 (150 V/70 mΩ,250 V/105 mΩ) ,製品高さ 2.8 mm と低 く,大電流・低損失,オンボード電源などの薄型化に最 TFP 型 SMD 適 77 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。