富士時報 Vol.78 No.4 2005 小容量 IGBT モジュール 特 集 小松 康佑(こまつ こうすけ) 早乙女 全紀(そうとめ まさゆき) まえがき 井川 修(いかわ おさむ) 表1 Small-Pack,Small-PIMの製品系列および特性 電圧定格 (V) 電流定格 (A) 型 名 10 6MBI10UE-060 15 6MBI15UE-060 20 6MBI20UE-060 30 6MBI30UE-060 50 6MBI50UF-060 な 市 場 の ニ ー ズ に 応 え , 高 機 能 ・ 高 信 頼 性 の IGBT モ 10 7MBR10UF060 ジュールを市場に提供してきた。また,従来は産業用途で 15 7MBR15UF060 あった IGBT モジュールも,省エネルギー化の要求から家 20 7MBR20UF060 電製品などに適用範囲を拡大しており,小容量分野での 30 7MBR30UF060 ニーズは非常に高くなっている。小容量の電力変換装置に 10 6MBI10UF-120 おいては,高効率・低価格・軽量・コンパクトが強く求め 15 6MBI15UF-120 25 6MBI25UF-120 にも要求される。これらの市場要求に対して,小容量 35 6MBI35UF-120 (インバータ用モジュー モジュール「Small-Pack」 10 7MBR10UF120 15 7MBR15UF120 近年,インバータや無停電電源装置(UPS)などの電力 パッケージ 変換装置には,電力用半導体デバイスとして主に,低損失 性,高破壊耐量,駆動回路の設計の容易性を兼ね備えた Small-Pack1 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が適用されて いる。 600 富士電機においても,1988 年の製品化以来,さまざま Small-PIM Small-Pack2 られ,その要求は装置に適用される電力用半導体デバイス IGBT Small-Pack2 1,200 Small-PIM ル)および「Small-PIM」(ブレーキ付インバータ/コン バータ用モジュール)を開発し系列化した。 特性面に関しては駆動の容易性に加えて,その低損失性 から,トレンチ IGBT を採用している。構造面に関しては, Diode)にはコストと特性のバランスを考慮し,従来から 実績のある,PiN 構造のダイオードを適用している。 1,200 V 系は,IGBT にトレンチ FS(Field Stop)構造 従来の IGBT モジュール製品に採用されている放熱用銅 ベースを使用しないことによって,大幅な軽量化を実現し を採用し,VCE(sat)の低減と,ターンオフスイッチング損 〈注〉 た。また,環境規制への対応として,欧州の RoHS 指令に 失(Eoff)の大幅な低減を達成している。FWD は 600 V 対応した鉛フリーパッケージとした。 と同様に PiN 構造のダイオードを適用している。 Small - Pack で は , 600 V 系 で 電 流 定 格 10 ∼ 50 A, 本稿では,これらのデバイスの特徴と製品系列について 1,200 V 系で電流定格 10 ∼ 35 A まで系列化した。 紹介する。 Small-PIM では,600 V 系で電流定格 10 ∼ 30 A,1,200 Small-Pack, Small-PIM の系列・特性 V 系で電流定格 10 ∼ 15 A まで系列化し,さらに 600 V 系 列では単相コンバータ仕様にも対応可能である。このよう 表1 に Small-Pack,Small-PIM の製品系列・特性を示 な豊富なラインアップから,顧客の用途に合わせた製品を す 。 600 V 系 は , IGBT に ト レ ン チ NPT( Non Punch 提供可能としている。また,Small-Pack,Small-PIM す Through)構造を採用し,コレクタ−エミッタ間飽和電圧 べての系列に NTC(Negative Temperature Coefficient) (VCE( sat))の低減を図っている。FWD(Free Wheeling サーミスタを内蔵している。このため,モジュール内部の ケース温度をリアルタイムに確認することが可能となり, 〈注〉RoHS :電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限 異常時のより確実な保護を可能にしている。 小松 康佑 早乙女 全紀 井川 修 IGBT モジュールの開発・設計に IGBT モジュールの開発・設計に IGBT モジュールの開発・設計に 従事。現在,富士日立パワーセミ 従事。現在,富士日立パワーセミ 従事。現在,富士日立パワーセミ コンダクタ株式会社松本事業所開 コンダクタ株式会社松本事業所開 コンダクタ株式会社松本事業所開 発設計部。 発設計部。 発設計部グループマネージャー。 電気化学会会員。 260(12) 富士時報 小容量 IGBT モジュール Vol.78 No.4 2005 図1 Small-Pack,Small-PIM の外形図 シリーズ名 Small-Pack パッケージ名 Small-PIM M716 M717 特 56.9 56.9 63.2 集 40.6 Gx Gw W T1 34 P T2 P Gu Gu P1 U U Ex Eb Ex Gb Gy Ey Gv Ey P P V V P Ez Gz Ey Gy Ex Gx P T1 Gv V T2 T1 T2 Gz U B 40.6 Gv 40.6 V 63.2 Gu 63.2 U R S T 外形図 Gx Ey Gy Ez Gz Ez Ez Gw W W N Gw W 20.5 20.5 20.5 Ex *定格10∼25 A/1,200 VはP端子2本 寸法 L63.2×W34×H20.5(mm) L56.9×W63.2×H20.5(mm) 質量 27 g 41 g 図2 600 V IGBT セル構造比較 図3 600 V IGBT 出力特性の比較 エミッタ電極 層間絶縁膜 300 n+ソース ゲート電極 250 ゲート酸化膜 Uシリーズ (トレンチNPT IGBT) p−チャネル R-JFET R-ch R-drift R-acc n−シリコン基板 J C (A/cm2) R- R-ch acc n+ソース p−チャネル Sシリーズ (プレーナNPT IGBT) 200 Uシリーズ 25 ℃ Uシリーズ 125 ℃ Sシリーズ 25 ℃ Sシリーズ 125 ℃ 150 100 R-drift 50 V-pn V-pn p+層 0 コレクタ電極 Sシリーズ プレーナNPT構造 0 0.5 1.0 Uシリーズ トレンチNPT構造 図1に Small-Pack,Small-PIM の外形図を示す。 1.5 2.0 2.5 V CE(sat)(V) 3.0 3.5 4.0 レンチ表面構造を採用することにより,VCE(sat)を大幅に 低減した。図3に VCE(sat)とコレクタ電流密度(JC)の出 パワー素子の特徴 3.1 600 V 系 力特性の比較を示す。 3.2 1,200 V 系 本製品は 600 V 系として,IGBT に U シリーズ IGBT 1,200 V 系には U シリーズ IGBT(トレンチ FS)を適用 (トレンチ NPT)を適用している( 図 2 )。トレンチ型 している。図4に従来品との構造比較を示す。また,図5 IGBT ではセル密度を大幅に増加することができるので, に VCE(sat) と JC の出力特性の比較を示す。図から,前世 チャネル部の電圧降下を最低限に抑えることができる。ま 代の S シリーズ(プレーナ NPT-IGBT)に対し,飛躍的 た,プレーナ型デバイス特有のチャネル間に挟まれた に特性が改善されていることが分かる。また,FS-IGBT JFET(Junction Field Effect Transistor)を構成する部 ではドリフト層の厚さが薄いために過剰キャリヤが少なく, 分がトレンチ型デバイスでは存在しないので,この部分の また,空乏層が伸びきった状態での中性領域の残り幅が少 電圧降下を完全になくすことができる。上記のように,ト ないため,ターンオフ損失を低減することができる。 261(13) 富士時報 小容量 IGBT モジュール Vol.78 No.4 2005 図4 1,200 V IGBT セル構造比較 パッケージ構造 G E G E 特 Small-Pack,Small-PIM は製品コンセプトとして,次 集 の 2 点に重点をおいて開発を行った。 n− n− 4.1 小型化・軽量化・低コスト化 小容量帯の製品として,トータルコストダウンのために 小型・軽量化が必須である。Small-Pack,Small-PIM は C これらを達成するために,従来の製品とは異なる方法で作 C られている。従来の富士電機製モジュールでは銅ベース付 Sシリーズ プレーナNPT構造 Uシリーズ トレンチFS構造 き構造を採っていたが,Small- Pack,Small- PIM では DCB(Direct Copper Bonding)の最適化により銅ベース レス化を達成した。これにより大幅な軽量化を達成し,コ スト低減にも貢献している。また,従来のモジュールは, モジュール本体に放熱フィンとの取付け部を構成している が,Small-Pack,Small-PIM では,クランプによる放熱 図5 1,200 V IGBT 出力特性の比較 フィンへの取付け方法を採っている。これは,本体の大幅 な小型化・軽量化に貢献し,さらにモジュールの低コスト 160 Uシリーズ (トレンチFS-IGBT) 25 ℃ 125 ℃ 較を示す。Small-Pack は取付け面積で 25 %の低減,質量 I C(RATE) 120 J C (A/cm2) 化に寄与している。図6に従来製品と Small-Pack との比 で 87 %の低減を達成した。これにより,顧客装置の小型 25 ℃ 化・低コスト化に貢献できることが期待される。 125 ℃ 80 4.2 鉛フリー構造 Sシリーズ (NPT-IGBT) 40 近年,環境問題に対する意識が高まってきており,欧州 では RoHS 指令が 2006 年 7 月に発効する。本製品は当初 から RoHS 対応を視野に入れ,鉛フリー構造を前提として 0 0 0.5 1.0 1.5 2.0 V CE(sat)(V) 2.5 開発を行った。 3.0 本製品では Sn-Ag 系鉛フリーはんだのフラックス成分 の変更や,はんだ接合条件の最適化を図り,IGBT,FWD チップ接合部の鉛フリー化,およびピン端子めっき,サー ミスタなど,すべての部分で鉛フリー化を達成した。特に 図6 従来製品と Small-PIM の外形比較 シリーズ名 Small-Pack パッケージ名 Small-PIM 従来製品 EP2 M717 M711 M716 63.2 56.9 107.5 40.6 U 34 T2 P B T1 Gv V T2 R S T 8 7 外形図 22 Ez Gz Ey Gy Ex Gx P 23 T1 P 10 Gb Gw 45 W 40.6 Gv 63.2 V 9 Eb Gu 20 21 Gu P1 U Gw W Gz 20.5 1 20.5 Ez 20.5±1 Gx Ey Gy 24 N Ex 2 3 4 5 6 LABEL 寸法 L63.2×W34×H20.5(mm) L56.9×W63.2×H20.5(mm) L107.5×W45×H20.5(mm) 質量 27 g 41 g 180 g 262(14) 富士時報 小容量 IGBT モジュール Vol.78 No.4 2005 図7 Small-Pack,Small-PIM の回路構成 抵抗方法など) ,過電流などのトラブルに対し,より確実 な保護を可能にしている。 P1 Gu Gv Gw U V W Gx Gy Gz T1 T2 特 あとがき 集 Ex Ey 銅ベースレス構造による小型・軽量化および鉛フリー Ez パッケージをコンセプトとした小容量 IGBT モジュール (a)Small-Pack 「Small-PIM」の特徴,および製品系列に 「Small-Pack」 P P1 ついて紹介した。本製品は放熱用銅ベースレス構造,取付 R S T Gu Gv Gw B U V W Gb Gx Gy Gz T1 T2 け部にクランプを採用することによって,軽量・小型に加 えてコストダウンを実現しており,インバータ回路装置に 求められる小型・軽量・低コストに大きく貢献できるもの N Eb Ex Ey Ez (b)Small-PIM と確信する。 富士電機では,今後も素子の高性能・高信頼性を保ちつ つ,小型・軽量・低コストの市場要求を満足する小容量 端子めっき部には,端子形状・めっき組成を含む表面材料 IGBT モジュールの開発を行っていく所存である。 構成の検討を行い,ウィスカー対策を実施した。このよう に本製品は,鉛フリー化を達成しているため,RoHS 指令 参考文献 に対応した顧客の要求を満足することが期待できる。 (1) 百田聖自ほか.T,U シリーズ IGBT モジュール(600 V) . Small-Pack,Small-PIM の回路構成 . (2 ) 小野澤勇一ほか.U シリーズ IGBT モジュール(1,200 V) 富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.559- 562. 富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.563- 566. 図7 (b) (a) に Small-Pack の回路構成,図7 に Small-PIM (3) Nishimura, Y. et al. New generation metal base free の回路構成を示す。Small-Pack,Small-PIM ともに直流 IGBT module structure with low thermal resistance. The 中間電圧マイナス側を分離している。これにより,顧客装 16th International Symposium on Power Semiconductor 置での相ごとの電流検出を可能にし(電流コア,シャント Devices & ICs(ISPSD’04). Kitakyushu, Japan. 2004- 05. 263(15) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。