富士時報 Vol.78 No.5 2005 新型サーボシステム「FALDIC-W シリーズ」 津崎 加代(つざき かよ) 特 集 伊藤 彰浩(いとう あきひろ) 成田 篤史(なりた あつし) まえがき 基本仕様 近年,サーボシステムでは,機械性能の向上による生産 W シリーズの外観を図 1 に示す。 性アップを目的に,搬送機械,印刷機械,繊維機械,射出 W シリーズは,定格回転速度 3,000 r/min のローイナー 成形機などの一般産業機械分野,さらには半導体製造装置 シャシリーズ,定格回転速度 2,000 r/min および 1,500 r/ 分野へと適用を広げている。その中で,従来の高性能・高 min のミドルイナーシャシリーズの 3 シリーズで構成され 精度の要求に加え,より厳しい使用環境への適用,簡単な ている。これらのシリーズの基本仕様を紹介する。 セットアップやメンテナンスなどが求められている。 こ れ ら の 要 望 に 応 え る た め, 高 性 能 サ ー ボ シ ス テ ム 「FALDIC-βシリーズ」に続いて, 「FALDIC-αシリーズ」 図 FALDIC-W シリーズの外観 「FALDIC-W シリーズ」 (以下,W シリーズという)を開 発した。このサーボシステムは性能・精度を向上させるた めに制振制御を装備し,厳しい使用環境に適応するために 保護等級 IP67 モータを実現した。また,イージーチュー ニング機能,パラメータ一元管理機能によりセットアップ やメンテンスなどユーザーの使いやすさに配慮した。 以下,このサーボシステムの仕様・特徴について紹介す る。 表 サーボモータの基本仕様 型 式 項 目 GYG□□□CC2-T2△ GYS□□□DC2-T2△ 500 101 201 401 751 501 751 102 GYG□□□BC2-T2△ 152 202 501 851 132 0.05 0.1 0.2 0.4 0.75 0.5 0.75 1.0 1.5 2.0 0.5 0.85 1.3 定格トルク(N・m) 0.159 0.318 0.637 1.27 2.39 2.39 3.58 4.77 7.16 9.55 3.18 5.41 8.28 最大トルク(N・m) 0.478 0.955 1.91 3.82 7.17 7.2 10.7 14.3 21.5 28.6 9.50 16.2 24.8 定格出力(kW) 定格回転速度(r/min) 3,000 最大回転速度(r/min) 5,000 慣性モーメント ×10−4(kg・m2) 2,000 1,500 3,000 0.0192 0.0371 0.135 0.246 0.853 7.96 11.55 15.14 22.33 29.51 11.55 15.15 22.33 定格電流(A) 0.85 0.85 1.5 2.7 4.8 3.5 5.2 6.4 10.0 12.3 4.7 7.3 11.5 最大電流(A) 2.55 2.55 4.5 8.1 14.4 10.5 15.6 19.2 30.0 36.9 14.1 21.9 34.5 6.4 7.5 9.8 屋内,1,000 m以下 使用場所,標高 −10∼+40 ℃,90 %RH以下(結露なきこと) 周囲温度,湿度 49 耐振動(m/s2) 質 量(kg) 0.45 0.55 伊藤 彰浩 1.2 24.5 1.8 3.4 5.3 6.4 7.5 津崎 加代 9.8 12.0 成田 篤史 サーボシステムの開発・設計に従 サーボシステムの開発・設計に従 サーボシステムの開発・設計に従 事。現在,富士電機機器制御株式 事。現在,富士電機機器制御株式 事。現在,富士電機機器制御株式 会社機器事業部インバータ開発生 会社機器事業部インバータ開発生 会社機器事業部インバータ開発生 産センター設計部。 産センター設計部。 産センター設計部。 389( 69 ) 新型サーボシステム「FALDIC-W シリーズ」 富士時報 Vol.78 No.5 2005 表 サーボアンプの基本仕様 型 式 特 集 項 目 101 0.05 0.1 201 相数 0.2 入 751 501 751 0.4 0.75 0.5 0.75 制御電源 501 1.5 2.0 0.5 851 132 1,500 三相 0.85 単相,三相 1.3 三相 AC200∼230 V −15∼+10 %(三相使用時) 50/60 Hz 単相 電圧 AC200∼230 V −10∼+10 % 50/60 Hz 全ディジタル正弦波PWM方式 制御方式 キャリヤ周波数 力 過負荷耐量 10 kHz 300 %/3秒 直流中間回路への回生制動,回生抵抗は外付け(内蔵せず) 制御方式 インクリメンタル17ビットエンコーダ(1回転分解能17ビット) フィードバック 境 202 相数 出 環 1.0 単相,三相 周波数 機 能 ・ 性 能 RYC□□□B3-VVT2 152 AC200∼230 V −10∼+10 %(単相使用時) 周波数 力 102 2,000 単相 電圧 主電源 401 3,000 モータ定格回転速度(r/min) 適用モータ出力(kW) RYC□□□C3-VVT2 RYC□□□D3-VVT2 500 位置制御,速度制御,トルク制御 制御機能 1.0 MHz(差動),200 kHz(オープンコレクタ) 最大入力パルス周波数 周波数応答 600 Hz( J L= J M のとき) 位置分解能 217(=131,072)/1回転 設置場所 屋内,標高1,000 m以下,じんあい,腐食性ガス,直射日光なきこと CEマーキング対応の場合:Pollution Degree=2,Over Voltage Category=Ⅲ 周囲温度 −10∼+55 ℃ 周囲湿度 10∼90 %RH(結露なきこと) 4.9 耐振動(m/s2) 19.6 衝 撃(m/s ) 2 UL/cUL(UL508c)準拠,CEマーキング(低電圧指令EN50178)第三者認定取得 対応規格 質 量(kg) 1.0 1.5 2.5 1.5 2.5 電源を装備し,非常時などに主電源を遮断するシステムで . サーボモータの基本仕様 サーボモータの基本仕様を表1に示す。W シリーズは 3 はセンサ位置のバックアップを可能にし,原点復帰を不要 にすることを可能にした。 系列の定格回転速度と出力容量ならびにブレーキの有無に 高性能化 より合計 26 機種で構成されている。 モータ構造では広範囲な用途に対応するため,軸貫通部, コネクタ部を除き,全機種で IEC 規格の保護等級 IP67 に . 制振制御 適合した防じん・防水構造を実現した。 生産性の向上のため,タクトタイム短縮の要求がますま 新容量系列であるミドルイナーシャシリーズでは,定格 す高まっている。W シリーズでは,FALDIC-βシリーズ 回転速度が同一の従来機種の比較で 2.5 〜 3.5 倍の慣性モー から継承した富士電機独自の技術である制振制御機能によ メントを実現した。これにより負荷慣性モーメント比が大 りタクトタイムの短縮を図っている。制振制御とはサーボ きい機械および剛性の低い機械への適合性が向上し,適用 アンプに多慣性の機械モデルを内蔵し,ロボットアームの 分野を拡大した。 先端のような剛性の低い機械の振動を低減できる機能であ る。近年では,液晶用ガラスパネルの搬送ラインなどでも, . サーボアンプの基本仕様 機械の振動を抑制しながらのタクトタイム短縮を要求され サーボアンプの基本仕様を 表 2 に示す。W シリーズは ており,制振制御機能の適用範囲が広がっている。 制御機能を位置制御,速度制御,トルク制御の 3 種類に切 制振制御機能は,機械振動の周波数をパラメータに設定 り換えることができる。 して使用する。最大 4 種類の周波数が設定可能で,動作や アンプ構造では配線接続のコネクタをすべて前面と底 搬送物によって振動の周波数が変化するような機械にも対 面に配置して横方向の密着配置を可能にし,400 W で幅 応できる。また,ユーザーが設定すべき周波数を簡単に調 45 mm ×高さ 160 mm の小型化を実現した。また,制御 査できるように,機械に固有の振動周波数を解析するサー 390( 70 ) 新型サーボシステム「FALDIC-W シリーズ」 富士時報 Vol.78 No.5 2005 動作に関するパラメータの調整なども上位コントローラの ローダからの操作で,サーボアンプが自動的に解析用の運 準備が完了するまで行えなかった。 転を行い,解析結果をパソコン画面に表示する。表示画面 W シリーズでは,自動的に往復運転を行うパターン運 から直接パラメータへの設定ができるなど,ユーザーの使 転機能を搭載した。 図 3 にパターン運転のイメージを示 いやすさに配慮した。 す。パターン運転は,上位コントローラがない状態でもパ ラメータによりストローク量や速度を設定し,繰返し往復 . モデルトルク演算機能による高応答化 運転による機械系との組合せ動作を可能にした。動作中の 機械動作のタクトタイム短縮の要求に応えるため,W 各種データをモニタすることで上位コントローラの完成度 シリーズではモデルトルク演算機能を搭載した。モデルト に影響されずに過負荷レベルなど,モータの適否や運転パ ルク演算は,指令から必要なトルク値を直接演算すること ターンの適否などを早期に判断できる。また,イージー で指令に対する追従性を高め,整定時間を短縮する。これ チューニングによる調整や動作確認を行うことで,セット により,半導体製造装置分野で特に高性能が求められるダ アップ時間の短縮を可能にした。 イボンダへの適用が可能となる。 . . 17 ビットシリアルエンコーダ イージーチューニング 従来のオートチューニングは,ゲインと負荷慣性比に応 W シリーズでは低速で安定した回転に対応するため, じて,関連するパラメータを自動計算する。負荷慣性比は モータに新開発のシリアルエンコーダを搭載した。このエ 自動的に推定演算されるが,ゲイン自体はユーザーが設定 ンコーダの分解能は 17 ビット(131,072 パルス相当)であ していた。機械の応答はゲインの調整で決まるが,機械が るうえ,高速シリアル通信にてデータをアンプに伝送する。 共振した場合,ゲインを下げ,他のパラメータも合わせて これにより,回転むらの低減による滑らかな機械動作,高 調整するなど,調整に関する知識や経験が必要であった。 速応答を実現した。 W シリーズでは,ユーザーに代わってゲインを調整 するイージーチューニング機能を搭載した。 図 4 にイー セットアップの簡単化 ジーチューニングの動作を示す。イージーチューニングは, サーボシステムがチューニングに適した運転パターンで自 . パラメータの一元管理 動運転し,ゲインを上げていく。共振を検出した場合はゲ サーボシステムを使用するには,機械に合わせたパラ メータの設定が不可欠である。パラメータの設定はシリア 図 マルチドロップ接続 ル通信で行われるが,従来は上位コントローラとサーボシ ステムとの 1 対 1 通信方式であった。量産機械などで多軸 システム構成イメージ のサーボシステムを使用する場合は,人間の手で設定する RS-485 と,通信するサーボシステムごとに通信ケーブルを差し替 えるため手間がかかる。また,異なるサーボシステムのパ ラメータを誤って設定してしまうなどのミスも発生しやす い。 上位コントローラ W シリーズでは,局番により通信相手となるサーボシ サーボアンプ (最大31軸接続可能) ステムの区別ができる。また,RS-485 インタフェースを 2 ポート装備したことにより,複数台のサーボシステムと 図 パターン運転 のマルチドロップ通信を可能にした。図 2 にマルチドロッ プ接続のイメージを示す。最大 31 台のサーボシステムを 1 台の上位コントローラから接続でき,局番を指定するこ P84 と通信を可能にした。これにより,システムセットアップ P85 時のパラメータ設定も上位コントローラからの自動化が可 能で,セットアップ時間の短縮と誤設定を防ぐことができ る。 . パターン運転 装置全体をセットアップする際,サーボシステムを機械 に組み付けても,プログラマブルコントローラなど上位コ ントローラからの指令がなければ運転が行えない。そのた 速度 とで通信ケーブルを差し替えることなく各サーボシステム P35 P36 0 P86 P86 位置 P36 P35 P85 〈パターン運転の説明〉 �図中のP□□はパラメータ番号 �加速時間(P35)で加速し,速度設定(P85)でストローク設 定(P84)分移動し,減速時間(P36)で減速し,タイマ設定 (P86)の時間停止した後,同様の動作で開始位置に戻る。 �この往復運転を繰り返し行う。 め,運転パターンによるサーボシステムの負荷率の確認や, 391( 71 ) 特 集 ボアナライズ機能を搭載した。支援ツールであるパソコン 新型サーボシステム「FALDIC-W シリーズ」 富士時報 Vol.78 No.5 2005 図 要があり,調整作業工数が増大しユーザーの負担となって イージーチューニングの動作 いた。 特 集 ①共振を検出 スタート 完了 ゲイン ③再度上げる ②ゲインを いったん下げる ゲインの調整 速度 調整したゲインを パラメータに反映 確認運転 正転 W シリーズでは,Z 相の出力位置を電気的に調整する Z 相オフセット機能を搭載した。Z 相オフセットは,Z 相信 号が欲しい場所に機械を移動し,自動調整機能を作動させ るだけで,電気的な Z 相の位置を設定するため,Z 相の位 置調整作業の削減を可能にした。 0 逆転 自動的に25往復運転して完了 あとがき FALDIC-W シリーズについて特徴,仕様を紹介した。 インを下げ,ノッチフィルタを設定し,再度ゲインを上げ W シリーズは,モータバリエーションの拡大,性能の大 る動作をすべて自動で行う。イージーチューニングの完了 幅な改善を図り,広範囲な用途に対応できるように配慮し 時に設定したゲインはパラメータに反映され,その後の通 た。 常運転では設定されたゲインでの動作となる。ユーザーは 今後は,化学物質の使用を規制する欧州連合(EU)の イージーチューニングの実行ボタンを押すだけで,後の調 「RoHS 指令」の対応を進め,ユーザーの期待に応えられ 整はすべてサーボシステム任せとなり,非常に簡単なゲイ 〈注〉 るように一層の努力をしていく所存である。 ン調整を可能にした。 参考文献 . Z 相オフセット 機械のセットアップ時に,その機械に取り付けた原点セ ンサによって機械の原点位置を設定するが,この原点位置 とサーボモータの基準位置である Z 相との位置調整が必 金子貴之ほか.モーションコントロール技術.富士時報. ( 1) vol.75, no.8, 2002, p.472-475. ( 2) 中村和久ほか.超小型サーボシステム「FALDIC-βシリー .富士時報.vol.75, no.8, 2002, p.476-480. ズ」 要である。通常,この位置調整は,機械軸とサーボモータ 出力軸とのカップリングを機械的に行うが,近年,機械の コンパクト化によりこの調整をきわめて狭い範囲で行う必 392( 72 ) 〈注〉RoHS:電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。