富士時報 Vol.80 No.4 2007 電子式個人線量計 特集 布宮 智也(ぬのみや ともや) 山内 英嗣(やまうち ひでし) 柴田 鉄生(しばた てつお) まえがき となっている。多線種の同時計測が可能な電子式個人線量 計が開発された当初は,外来ノイズによる誤計数の発生が 富士電機は 1983 年に半導体検出器を用いた電子式個人 ( 1( )2) 多く,さらに精度のよい計測が必要となった。 線量計を開発して以来,現在まで改良を重ね,国内で初め て中性子の計測が可能な電子式個人線量計を開発した。現 図 電子式個人線量計の放射線特性(エネルギー特性,温度特 在では国内の原子力発電所の個人被ばく管理における電子 性,方向特性) 線及び中性子用電子式個人線量(率)計」および国際規格 IEC61526(1998)に準拠して開発を進めてきた。今後は, 海外の原子力発電所への展開を視野に入れた開発を進めて ( 3( )4) いく。 概要と特徴 相対レスポンス (%) (137Cs 基準) 式個人線量計としてシェア約 70 % を占めている。 これまで,国内規格 JIS Z 4312(2002) 「X 線,γ線,β 40 20 0 −20 −40 −60 エネルギー特性 −80 −100 10 100 1,000 10,000 γ (X)線エネルギー(keV) 電子式個人線量計は,作業者が胸ポケットに携帯して作 業中に受けた放射線の量をリアルタイムに測定・表示する 機器である。あらかじめ設定された作業線量の警報レベル を超過した場合に警報を発し,高音量にて作業者へすぐに 知らせることができる。 近年,電子式個人線量計の改良が進み,耐ノイズ性・耐 衝撃性をさらに改善して,信頼性が飛躍的に向上した機器 相対レスポンス (%) (20℃基準) 1 80 温度特性 60 40 20 0 −20 −40 −60 −80 −30 −20 −10 0 10 20 30 40 50 60 周辺温度(℃) 図 電子式個人線量計の外観 方向特性(137Cs) down15 ゜ 15 % down30 ゜ down45 ゜ 0゜ 0% up15 ゜ up30 ゜ up45 ゜ −15 % −30 % down60 ゜ up60 ゜ −45 % −60 % down75 ゜ up75 ゜ down90 ゜ up90 ゜ Dosemeter down105 ゜ up105 ゜ down120 ゜ up120 ゜ down135 ゜ NRF30021 〔γ (X)線〕 240( 8 ) up135 ゜ down150 ゜ NRF40021 〔γ (X)線,耐ノイズ・耐衝撃タイプ〕 up150 ゜ down165 ゜ 180゜ up165 ゜ 布宮 智也 山内 英嗣 柴田 鉄生 放射線検出器の開発・設計に従事。 放射線機器・システムのエンジニ 放射線機器・システムのエンジニ 現在,富士電機システムズ株式会 アリング業務に従事。現在,富士 アリング業務に従事。現在,富士 社生産本部東京工場放射線装置部。 電機システムズ株式会社制御シス 電機システムズ株式会社制御シス 工学博士。日本保健物理学会会員。 テム本部放射線システム統括部放 テム本部放射線システム統括部放 射線システム部主任。 射線システム部課長補佐。 電子式個人線量計 富士時報 Vol.80 No.4 2007 表 電子式個人線量計の仕様 型 式 NRF40021 測 定 線 種 特集 NRF30021 項 目 γ(X)線 エネルギー範囲 35 keV∼6 MeV エネルギー特性 ±20 %以内(50 keV∼1.5 MeV),±30 %以内(1.5∼6 MeV) 1 ±20 %以内 上下左右60°まで (137Cs) 方 向 特 性 ±50 %以内 上下左右60°まで(241Am) ±30 %以内 水平全周360° (137Cs) 線量指示誤差 ±10 %以内(0.02 mSv以上) 線量率直線性 ±10 %以内(0.1 mSv/h以上) 応 答 時 間 5秒以内(5 mSv/h以上) 耐静電気ノイズ 接触放電±8 kV,気中放電±15 kV 警 報 機 能 ブザー音量:85 dB以上(20 cm),80 dB以上(30 cm), 表示灯:赤色LED点滅 電 源 電池CR123 A,1個(連続2,880時間使用) 温 度 特 性 ±20 %以内 (−10∼+40 ℃) ±10 %以内 (−20∼+50 ℃) 耐 衝 撃 1.5 m落下(木板) 2.0 m落下(鉄板2 cm) 耐電磁波ノイズ PHS・携帯電話密着, 100 V/m,60 A/m PHS・携帯電話密着, 100 V/m,400 A/m 防 滴 JIS保護等級4級 JIS保護等級4級,耐水没,耐塩水噴霧 ケ ー ス 材 質 樹脂 マグネシウム合金+保護ゴム 質 量 約100 g (電池,クリップ含む) 約115 g(電池,クリップ含む) 寸 法 W60×H78×D27(mm) W62×H82×D27(mm) 電子式個人線量計の放射線特性に影響のないように筐体 (きょうたい)内部のシールド構造を改善し,外来ノイズ ② 低消費電力(一次電池 1 個で 1 年間使用可能) ③ 耐静電気(接触放電+ −8 kV,気中放電+ −15 kV) において,特に PHS(Personal Handyphone System)や ④ 耐温湿度(−10 〜+40 ℃,35 〜 95 %) 携帯電話などの電磁波ノイズに対して 100 V/m:100 kHz ⑤ 耐電磁波(100 V/m) 〜 500 MHz,400 A/m:50 Hz/60 Hz の耐ノイズ性を持た ⑥ 耐衝撃(2.0 m 落下:NRF40021) せることができた。また,携帯中に作業者が誤って落下さ ⑦ CE マーキング取得 せてしまうことが電子式個人線量計の誤動作や故障の原因 リアルタイムに測定した電子式個人線量計は,赤外線通 となっていたが,内部の構造を改善し,1.5 m の高さから 信により外部のデータ処理装置との連携が容易であり,個 木板上への落下に耐えられる機器とすることができた。さ 人被ばく管理システムの高機能化を図ることができる。こ らに,筐体にマグネシウム合金製のケースを採用するとと の個人被ばく管理システムは,電子式個人線量計を主要機 もに衝撃保護部材を組み合わせることにより,2.0 m の高 器とし,データ通信を行う線量計リーダ(図 3 に外観を示 さから厚さ 2 cm の鉄板上への耐落下性能を持った電子式 す)を介し,上位の計算機サーバへデータ伝送を行い,作 個人線量計(NRF40021)を開発することができた。 図 1 業者の安全管理を効率的に実施している。また,電子式個 に電子式個人線量計の外観を示す。 人線量計の運用前準備として,運用時における線量および 本 線 量 計 は,JIS お よ び IEC(International Electro- 使用時間の警報値を設定するための設定器や電子式個人線 technical Commission)規格で示されている代表的な放射 量計の計測機能を校正する線量計簡易校正装置(図 4 に外 線特性であるエネルギー特性,温度特性,方向特性を満足 観を示す)により,高度で効果的なシステムを構築してい している( 図 2) 。エネルギー特性および温度特性は,γ る。 (X)線に対する感度のエネルギー依存性および温度依存 性を示しており,広いエネルギー範囲または広い温度範囲 において,線量の計測精度が+ − 20 % 以内または+ − 30 % 以 電子式個人線量計の種類 内になっている。同様に,放射線の入射方向に対して計測 この電子式個人線量計は,個人被ばく管理に大きくか 精度は+ − 15 % 以内になっている。 かわるγ(X)線を計測主体とし,β線および中性子の計 電子式個人線量計の特徴を以下に示す。また,仕様を表 1に示す。 ① 高性能〔JIS Z 4312(2002)準拠,IEC61526(1998) 準拠〕 測が可能である。 「γ線」の電子式個人線量計をベースに, 「γ線+β線」 「γ線+中性子」の製品を取りそろえている。 表 2 にβ線または中性子の計測機能を示す。 さらに,国内向けの電子式個人線量計では, 「γ線+β 241( 9 ) 富士時報 Vol.80 No.4 2007 電子式個人線量計 線量計リーダの外観 図 表 電子式個人線量計のβ線および中性子の計測性能 線量計簡易校正装置の外観 特集 図 1 測定線種 項 目 β線 中性子 エネルギー範囲 300 keV∼2.4 MeV 0.025 eV∼15 MeV エネルギー特性 ±30 %以内(500 keV∼2.4 MeV) ±50 %以内(100 keV∼4.5 MeV) 方 向 特 性 ±30 %以内,上下左右60°まで(90Sr/90Y) ±30 %以内、上下左右60°まで(241Am−Be) 線量指示誤差 ±15 %以内(0.02 mSv以上) ±15 %以内(0.5 mSv以上) 線量率直線性 ±20 %以内(0.1 mSv/h以上) ±20 %以内(0.5 mSv/h以上) 応 答 時 間 5秒以内(5 mSv/h以上) 5秒以内(100 mSv/h以上) 線 + 中性子」の 3 線種の同時計測が可能な線量計もある。 海外市場への展開ができるような競争力のある機器の製品 これは世界初の 3 線種線量計として開発され,現在も日本 化を進めていく所存である。 の原子力発電所内で使用されている。特に中性子計測が可 能な電子式個人線量計は,他社の電子式個人線量計に比べ 差別化した内容となっている。 参考文献 Sasaki, M. et al. Development and characterization of ( 1) real-time personal dosemeter with two silicons, Nucl. Instr. あとがき and Meth. A. no.418, 1998, p.465-475. 辻村憲雄.シリコン半導体式中性子個人線量計の特性評価 ( 2) JIS Z 4312(2002)は IEC61526(1998)の内容を反映 と標準較正.東北大学.修士論文.1993-2. したものであったが,近年,IEC61526(2005)が新たに Nunomiya, T. et al. Proceedings of 11th International ( 3) 制定され,海外展開においては,この 2005 年版 IEC に対 Congress of the International Radiat. Prot. Dosim. Protection 応した特性・機能を持った製品が必要となっている。 Association, Madrid, Spain, 2004-5, p.23-28. 今後,電子式個人線量計は,IEC61526(2005)に対応 Nunomiya, T. et al. Proceedings of the 10th. Neutron ( 4) するようにさらに改善していく必要がある。これらの改善 Dosimetry Symposium, Progress in dosimetry of neutrons を実施していくことにより,国内シェアの確保のみならず, and light nuclei, Uppsala, Sweden, 2006-6, p.12-16. 242( 10 ) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。