富士時報 Vol.82 No.5 2009 安全・安心に貢献する放射線管理用機器・システム 特 集 Radiation Monitoring Instruments and Systems that Contribute to Safety and Security 藤本 敏明 Toshiaki Fujimoto 石倉 剛 Takeshi Ishikura 伊藤 勝人 Katsuhito Ito 富士電機は放射線の利用とモニタリングに取り組んでいる。モニタリング分野では,新設・増設される原子力発電所や 増加する放射線利用職場に対応した個人線量管理システムや,サーベイメータなどを開発し,提供している。個人線量管 理システムでは,半導体式の個人線量計で検出した線量を無線でリアルタイムにモニタリングできる線量の状態監視シス テムや入退室時の体表面モニタを提供している。さらに,放射線取扱い施設周辺の環境放射線をサーベイメータで測定し, データを自治体と共有し公開することで,住民の安全・安心を実現するシステムおよびサーベイメータを提供している。 Fuji Electric is working to develop methods for utilizing and monitoring radioactivity. In the monitoring field, Fuji Electric is developing and providing personal dose monitoring systems, survey meters and the like for use at newly constructed nuclear power plants and at an increasing number of worksites that use radiation. As personal dose monitoring systems, Fuji Electric provides a dose monitoring system capable of wireless real-time monitoring of doses detected with a semiconductor-based personal dosimeter, and a body surface monitor for use when entering or exiting a radiation controlled area. Additionally, using a survey meter to measure the environmental radiation surrounding a radiation handling facility, and then sharing that data with local governments and disclosing it to the public, Fuji Electric also provides systems and survey meters for realizing safety and security for the local population. 1 まえがき 原子力発電は,年間を通して安定した電力が得られ,燃 2 放射線・原子力利用における安全の課題 電力供給にかかわる世界の原子炉の基数は 2009 年 4 月 料が再利用可能である。CO2 発生量も少ないことから低炭 現在,稼動中が 432 基,建設中が 52 基,計画中が 66 基 素社会のエネルギー供給源として再評価され,原子力発電 と増加傾向にある。国際原子力機関(IAEA)の 2008 年 9 ⑴ 所の新設・増設の建設計画が立案されている。また,放射 月の報告書でも原子力発電所の設備容量は,2007 年に対 線の利用においては,がん治療などの高度医療分野や工業, して 2030 年には約 30 〜 100% 増加し,特に東アジア,東欧, 農業分野で高エネルギー線として利用される分野が拡大し 中東・南アジアでの新設の伸びが大きいと予測している。 ている。 富士電機は,原子力の商用発電が始まった 1970 年代か ⑵ 内閣府の原子力委員会の 「 地球温暖化対策に貢献する原 子力の革新的な技術開発のロードマップ 」 (2008 年 7 月) ら放射線モニタリングの分野で放射線・原子力の安全にか では,主に次の 5 点の原子力発電にかかわる技術を挙げて かわってきた。その間,国内初の警報付個人線量計の開発, いる。 計算機を利用した国内初の被ばく管理システムの開発と個 ⒜ 耐震安全確保 人被ばく線量管理の自動化,国内初の表面汚染モニタによ ⒝ 原子炉の高経年化の対応 る表面汚染測定の自動化や,モニタリングポストなどによ ⒞ 原子力発電所の稼動率向上に向けた新検査制度改善 る環境放射線モニタリングの効率化など,放射線・原子力 ⒟ 原子力の国際協力の推進 利用の安全にかかわる機器・システムの開発と提供を続け ⒠ 燃料サイクルや高速増殖炉推進 てきた。放射線応用機器分野でも放射線の物質透過能力を 放射線防護(放射線安全)では,広島・長崎での被ばく 利用した厚さ計やレベル計などを開発し,鉄鋼,紙パルプ 生存者の実証的な疫学データの検討を元にした国際放射線 産業の工場ラインの自動化で使われている。放射線透過撮 防護委員会(ICRP)の勧告を受け,IAEA などが中心に 像検査が非破壊検査として最近利用され始め,貨物検査に なり具体的安全基準をまとめて安全体制の規範を国際的に よる輸配送の安全,飲食品や医薬品の異物検査による食・ 提供する。現在,ICRP の基本勧告の改訂(2007 年)を受 薬の安全,保守点検時の配管検査などによる施設の安全な けた各基準の見直しが進んでいる。 ど,オートメーション事業として推進する安全と安心のシ ステムでの利用も始まっている。 ⑶⑷ 日本でも「放射線障害防止法」などで ICRP の勧告にさ かのぼって安全基準の法令整備をしている。放射性物質の 本稿では,放射線・原子力の安全な利用,特に大きな比 輸送などの国際間にかかわる安全基準は,IAEA 基準を採 重を占める放射線取扱い施設を中心に放射線管理用機器・ 用し,国際的整合性を担保している。放射線障害に関する システムについて,最近の富士電機の状況を述べる。 技術基準は,放射線障害防止の技術的基準に関する法律に 基づき文部科学省の放射線審議会に諮問され,審議される。 したがって,放射線モニタリングでは,これら安全基準 が確認できる機器・システム開発を主に進めることとなる。 ( 42 ) 富士時報 Vol.82 No.5 2009 安全・安心に貢献する放射線管理用機器・システム 富士電機は,上記情勢と国の政策方針を背景に次に示す とで,個人線量管理が運営される。 入退域ゲートで一度に出入りする人が 100 人以上になる 項目などの開発を進める。 ことがあるため,入退域時の処理が長引くと大混雑になる。 管理のレベルをさらに上げる機器・システムの開発 一方で法律による検査であるので測定値は正確さが要求さ ⒝ 中性子や高エネルギー線利用など新放射線利用分野 れる。検出器の精度向上により検査精度を維持しつつ,処 (医療,工業など)に対応した検出器開発 理時間を短縮した線量管理システムを提供している。 ⒞ 海外の原子力施設などに向け,海外規格に対応した 機器・システムの開発 瞬停などの事故時でも測定データを保持するために, データの消滅防止や伝送の二重化など最新の安全対策を施 ⒟ ICRP の勧告にある航空・宇宙や鉱石での被ばくな ど自然起源の低被ばく管理に向けた検出技術開発 ⒠ 放射線防護の観点からクリアランスレベルを判定す している。人との接点であり使いやすさがシステムに求め られるため,エンドユーザコンピューティング機能も提供 している。 るための検出器やモニタの開発 ⒡ 燃料サイクルや高速増殖炉など新プロセスに対応し ₃.₁ 個人線量計 個人線量計は,放射線業務従事者の外部被ばく線量のモ た検出器およびシステムの提供 ⒢ 放射線を用いた検査装置,配管減肉検出装置の開発 ニタリング機器として,胸ポケットに携帯する。被ばく線 以降では,上記⒜〜⒞項の放射線防護(放射線安全)に 量がリアルタイムに表示されるのでいつでも確認できる。 管理値以上の被ばく時には警報を発して退避を促すため, かかわる機器・システムを紹介する。 計画外の被ばくからの安全が確保される。 3 最新の個人線量管理システム 個人線量計はγ線,β線,高速中性子,熱中性子用の 4 種類のセンサにより放射線を測定する。センサは,シリコ 放射線・原子力を利用する放射線障害防止法適用事業所 ン(Si)ウェーハ上にアモルファス Si を成膜して pn 接合 は,該当放射線業務を実施する区域を放射線管理区域とし, を形成し,空乏層で放射線を検出する構造になっている。 入退域する放射線業務従事者の線量の管理を義務付けられ γ線は空乏層内で発生した電子で検出し,β線は入射窓を ている。また,放射線業務従事者の被ばく量とその履歴は, 薄くして直接検出する。高速中性子は図₂のようにセンサ 財団法人放射線影響協会内の放射線業務従事者中央登録セ 上部のポリエチレンで発生した反跳陽子で検出し,熱中性 ンタで一元的に管理されている。 子はセンサ上部のボロン膜で発生したα線で検出する。 図₁に個人線量管理システムの例を示す。 管理区域入口のゲートで入域する人は,入域許可の有無 核燃料の再処理施設や加速器施設では中性子線量の計測 が重要で,新たに中性子個人線量計を開発した。 と許可者本人であるかの確認が実施され,貸与した線量計 IEC 規 格(IEC 61526) で は,100 keV か ら 4.5 MeV の と入域者との対応をとったのち入域が許可される。退域時 エネルギー範囲の中性子線に対し,線量計のエネルギー依 は,個人線量計で測定した管理区域内の被ばく線量が管理 存性が従来の-50 〜+150 % を + −50 % に改善することが 用計算機に読み込まれ,入域者個人の被ばく履歴に記録さ れる。 求められる。中性子線は高エネルギー成分を高速中性子線 センサで,低エネルギー成分を熱中性子センサで測定し, 退域時に,従事者や持ち出し物品の表面に放射性物質に 合算して測定している。各センサのエネルギーレスポンス よる汚染がないことを体表面モニタなどで確認し,区域外 に基づき,中性子吸収フィルタと以下に示す新しい演算処 への放射能汚染拡大が防止される。体表面モニタの測定 理方法を開発して,エネルギー依存性を IEC 規格に対応 データも同様に管理用計算機に送られ,記録される。一方, した。 管理用計算機は放射線管理区域から送られる入退域時の測 定データや作業環境の測定データから,法律に基づく報告 H(10) =Hfast+Hslow=aCfast+bCslow …………………⑴ p 書や放射線管理区域の管理に用いる資料を自動作成するこ 図₂ 高速中性子センサの構造 図₁ 個人線量管理システム 高速中性子 ● 弾性散乱 線量計の貸出し ポリエチレン アルミ電極 アモルファス シリコン 放射線管理区域 空乏層 入域 作業 退域 ゲート キャリア キャリア 反跳陽子 シリコン アルミ電極 体表面モニタ ( 43 ) 特 集 ⒜ 速報性(異常時の警報発報)があり,被ばく線量の 富士時報 Vol.82 No.5 2009 Cfast=Cfast1-cCfast2 安全・安心に貢献する放射線管理用機器・システム ……………………………………⑵ a= dE E) φ ( E) p 8 h(10, 1MeV dE φ (E) 8 R fast(E ) 性子エネルギー範囲でエネルギー依存性(相対レスポン ⑸⑹ ス)を IEC 規格の満足する-49 〜+41 % とした。 この中性子センサを用いて製品化した個人線量計の外観 …………………………⑷ を図₄に,中性子計測性能を表₁に示す。また,低消費電 流化を図り,電池寿命を 3,000 時間(従来比 2 倍)と長寿 命化した。 1Mev dE φ (E) E) p 8 h(10, 1Mev b= thermal 1Mev dE φ (E) 8 R slow(E ) ₃.₂ 個人線量の無線モニタリングシステム ………………………⑸ 従来の個人線量管理システムは,従事者の被ばく情報を 管理区域からの退域時に確認・記録するもので,退域時点 thermal のみの被ばく管理になっていた。近年,作業時の被ばく管 H:中性子線量 理レベルを向上させるために,作業中もリアルタイムで被 E:中性子エネルギー ばく情報を連続監視する要求が出てきた。このため,無線 :個人線量当量 H(10) p モニタリングシステムを開発し,個人被ばくの状態監視に φ (E) :中性子フルエンス よる被ばく低減と作業管理の円滑な運用を可能にした。 無線モニタリングシステムは図₅に示すように,個人線 R (E) :エネルギーレスポンス h(10,E) :ICRP 74 のフルエンスの個人線量換算 p 量計,個人線量計に接続する無線アタッチメント(無線子 機) ,複数の無線親機,監視装置から構成される。 係数 C1:ディスクリミネータ 1 のカウント数 被ばく情報を,短時間(1 分程度)の周期で不特定数の C2:ディスクリミネータ 2 のカウント数 無線子機の全数から効率的に収集するには,無線親機の要 c:高速中性子センサのレスポンス補正係数 求で複数の無線子機が同時に応答し,電波の衝突による受 d:熱中性子センサのレスポンス補正数 信不能の発生を抑制する必要がある。このため,複数の 添え字の fast は高速中性子センサ,slow は熱(thermal) 中性子センサであることを示す。 チャネル(通信周波数)と複数の受信タイミング(スロッ ト)を無線親機側に設定した。無線子機は設定されるすべ ての周波数とスロットの組合せから任意の設定を選択して 通信することで他の無線子機との衝突を減らす方式にして 図₃ 中性子に対するエネルギー依存性 ⑺ いる。また,作業域で設備などに遮られ電波が届かない場 相対レスポンス(252Cf 基準) 特 集 Cslow=Cslow1-dCslow2 …………………………………⑶ この結果,図₃に示すように,100 keV 〜 4.5 MeV の中 2.0 IEC 61526:±50%(100 keV∼4.5 MeV) 表₁ 個人線量計の中性子計測性能 1.5 1.0 0.5 0.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 スペクトル平均中性子エネルギー(MeV) 5.0 測定線種 中性子 エネルギー範囲 0.025 eV ~ 15 MeV エネルギー依存性 ±50%(100 keV ~ 4.5 MeV) 方向特性 ±30%(上下左右 60° ,241 Am-Be) 指示誤差 ±15%(0.5 mSv 以上) 線量率特性 ±20%(0.5 mSv/h 以上) 図₅ 個人線量の無線モニタリングシステム 図₄ 個人線量計の外観 監視装置 無線親機 無線親機 無線親機 無線 アタッチメント + 作業領域 ( 44 ) 個人線量計 富士時報 Vol.82 No.5 2009 安全・安心に貢献する放射線管理用機器・システム 所をなくすために,無線親機は複数台で作業域をカバーす る。富士電機はこれまで測定対象の形状や α線・β線な る配置としている。 どの放射線種に応じて,さまざまな形状のプラスチックシ ンチレーション検出器を開発し,それらを組合せニーズに 務環境を想定した構成によるランニング試験の通信成功率 適合した表面汚染モニタを提供してきた。今回,人体表面 は,100 % 近い結果であった。 の測定部位を拡大し,かつ高感度で自動測定する新型体表 現在,無線規格は日本規格(無線周波数 429.5 MHz)ま たは米国規格〔FCC(Federal Communications Commis- ⑻ 面モニタ(ポータルモニタ)を開発した。 国内では 図₆ に示すように体の 15 部位以上を一回で測 sion)PART15:無線周波数 915 MHz〕に対応可能である。 定し,退域処理時間が短縮できるタイプが主流である。一 ₃.₃ 体表面モニタ 分けての測定となるが,設備費を安価にできるタイプが主 方,海外では図₇で示すように,体の前面・背面の 2 回に 体表面モニタは放射線管理区域境界に設置され,区域外 への放射能汚染を防ぐために厳格な出入管理用に使用され 流になっている。測定状態を図₈に示す。 モニタの正面には 310×200(mm)の有感部をもつプ ラスチックシンチレーション検出器を 8 個上下に配置し 図₆ 体表面モニタ(全身同時測定型) た。検出器からの計数信号は信号処理部に入力され,それ ぞれ上下に隣り合った検出器の計数信号を合算処理するこ とにより,各検出器間の境目の不感部分をなくした。検出 器間の境目の検出効率は約 25 % とし,垂直分布性能を飛 躍的に向上させた。正面検出器の検出感度は 表₂のとおり で,基準値(4 Bq/cm2)を十分に達成する性能を実現した。 表₂の検出感度は⑹式,⑺式による。 Y= M1 Wsεs …………………………………………⑹ B B 0.05 B +3 + t M1 = T εa ……………………⑺* 1 ⑼⑽ * 1:JIS,IEC 規格準拠 図₇ 体表面モニタ(前面,背面の2回測定型) 2 Y:検出感度(Bq/cm ) M1 :最小検出表面放出率(s-1) Ws :線源面積(cm2) ( W s =100) εs :線源効率(εs=0.5) B:BG 計数率(s-1) t :BG 測定時間(s) ( t =200) T:測定時間(s) ( T=10) εa:機器効率 算出条件 ⒜ 線源〜検出器保護膜距離:5 cm ⒝ BG 線量率:0.25 µSv/h(60Co 照射) ⒞ 使用線源:10×10(cm)β線用面線源(60Co,36Cl, 90 図₈ 測定中の体表面モニタ(前面,背面の2回測定型) Sr) ₃.₄ 半導体式ハンドフットモニタ 容易に測定したい場所に移設可能で,手と足の汚染のみ を測定する簡易化した半導体式ハンドフットモニタを開発 した。従来のハンドフットモニタの GM 計数管方式より 長寿命かつメンテナンスフリーで,またプラスチックシン 表₂ 正面検出器の検出感度 対象核種 Co 60 検出感度(Bq/cm ) 2 約 0.7 Cl 36 約 0.5 Sr 90 約 0.4 ( 45 ) 特 集 無線親機 2 台,無線アタッチメント 25 台での実際の業 富士時報 Vol.82 No.5 2009 安全・安心に貢献する放射線管理用機器・システム 図₉ 半導体式ハンドフットモニタ 図₁₀ 開発品と従来品における中性子に対するエネルギーの依 存性の比較 特 集 相対レスポンス 2.0 NSN3(開発品) NSN2(従来品) 1.5 1.0 0.5 0.0 10−8 10−7 10−6 10−5 10−4 10−3 10−2 10−1 1 10 102 スペクトル平均中性子エネルギー(MeV) れる。 このため操作性を向上させた最新の環境放射線測定器 (サーベイメータ)を開発したので紹介する。 表₃ 半導体式ハンドフットモニタの効率と感度 ₄.₁ 中性子サーベイメータ 検出器 機器効率 検出感度 手用検出器 31% 0.14 Bq/cm2 足用検出器 17% 0.19 Bq/cm 2 原子力施設や加速器などで使用される中性子サーベイ メータは,測定のため高速中性子を減速させる減速材が 必要で,質量が 7 〜 10 kg と重かった。このため,測定や 運搬での作業者の負担が大きく,軽量化が求められてきた。 チレーション検出器方式より軽量(従来比 1/2 の質量)か 従来品は,減速材(ポリエチレン)で覆われた中性子検出 つ小型化した。また,外部出力端子から管理用計算機と接 器(3He ガス内封)から得られる計数を,線量に換算して 続可能である。外形を図₉に,JIS 規格に準拠した機器効 いた。開発品は,新しいガスの検出器からの弾性散乱反応 率と検出感度を表₃に示す。 および(n,p)反応による波高情報を中性子エネルギー ⑼ 表₃の検出感度の算出は前出の式⑹による。ただし,線 源面積 Ws は手用が 150 cm2,足用が 300 cm2 である。 算出条件 ⒜ 線源〜検出器保護格子距離:密着 ⒝ BG 線量率:0.1 µSv/h 36 ⒞ 使用線源:10×10(cm)β線用面線源( Cl) 4 環境放射線測定器(サーベイメータ)の高度化 技術 情報に変換して,G 関数によりパルスごとに線量の重み付 けを行い,線量に換算するようにした。 G H= 8 h (E) φ (E) dE= 8 P (L) (L) dL G h (E)= 8 R (E,L) (L) dL P (L) =8 R (E,L) φ (E) dE ……………⑻ …………………………⑼ …………………………⑽ H:中性子線量 E:中性子エネルギー h(E) :線量換算定数 原子力発電所などの放射線取扱い施設では,施設内およ φ(E) :中性子フルエンス び周辺の環境放射線量の管理が法令で義務付けられ,放射 L:パルス波高 能汚染などからの安全を環境放射線モニタリングで確認し P(L) :中性子波高分布 ている。また,原子力発電所周辺の値を地方自治体と共有 G(L) :G 関数 し,地元に公開することで施設周辺の住民の安全・安心を R(E,L) :中性子センサのレスポンス 醸成している。 富士電機は,測定器や伝送の 2 重化による測定データの G 関数の重み付けを工夫することで,約 4 kg あるポリ 信頼性向上,データ処理などの自動化を進める機器やシス エチレンをなくしても,ポリエチレンによる中性子減速効 テムの提供と開発を実施している。 果と同等の効果を得た。 また,日常使用する簡便な放射線測定器として持ち運び ⑾ これにより,図₁0 に示す従来品と同等の性能で,質量が 可能なポータブル放射線モニタが,原子力施設や放射線治 2 kg で従来比約 1/4 の中性子サーベイメータ( 図₁1 )を 療などで高エネルギー線利用が増加している医療施設など 製品化した。 ⑿⒀ で必要とされ,広く使用されている。オートメーション事 業として進める安全・安心のシステムでの放射線利用や放 ₄.₂ ワイドエネルギーレンジサーベイメータ 射線利用施設での環境放射線モニタリングの簡便なシステ X 線装置などからの低エネルギーの放射線を測定するた ム構成時の検出(測定)器として,需要が増えると予想さ め専用測定器が使用されていたが,医療の分野では低エネ ( 46 ) 富士時報 Vol.82 No.5 2009 安全・安心に貢献する放射線管理用機器・システム 図₁₃ ワイドエネルギーレンジサーベイメータ外観 図₁₂ 検出効率と G 関数 図₁₄ 半導体汚染サーベイメータ外観 特 集 図₁₁ 中性子サーベイメータ外観 100 100 10 10 1 1 0.1 0.001 0.1 0.01 0.1 1 G 関数(pSv/count) 検出効率(%) 1,000 0.01 10 エネルギー(MeV) ルギーから高エネルギーまで 1 台で測定可能な測定器の要 るために,原子力発電所や,放射線を取り扱う施設で使用 求が高まってきた。 する放射線測定器には,計測値への高い信頼性と計測器と NaI(Tl)シンチレーション検出器の入射窓を薄膜化し て低エネルギー(8 keV)を検出可能とした。また,8 keV 〜 1.5MeV までの広範囲のエネルギーを均一に測定する してのトレーサビリティが要求される。 富士電機は計量法,JIS Z 4511 などに規定される校正体 系を展開している。 ために,検出器の 8 keV から 1.5 MeV までのエネルギー レスポンスに応じた G 関数を式⑻より計算して設定した。 図₁2 に計算した G 関数と各エネルギーでの検出効率を示す。 開発した,8 keV の低エネルギー X 線から 1.5 MeV の γ 線まで測定可能な測定器の外観を図₁3 に示す。 ₅.₁ 放射線測定器校正装置 富士電機はさまざまな用途に応じた放射線測定器の校正 に対応するため,37Cs 4.44 TBq による 400 mSv/h の高線 量照射が可能なγ線校正装置をはじめ,下記に示すように 核種・照射強度の異なる 4 式の校正装置を備えた専用の放 ₄.₃ 半導体式汚染サーベイメータ 放射性物質の汚染サーベイメータではプラスチックシン チレータが主流である。真空管である光電子増倍管を使用 するので小型・軽量化が困難であった。現在,Si 半導体 センサを使用し, 図₁4 に示した外観の小型・軽量化した 汚染サーベイメータの開発をしている。前項で紹介した半 導体式ハンドフットモニタの検出技術を応用し,α線とβ 線を同時に測定できる製品である。 射線機器校正施設を継続的に維持管理している(表₄) 。 ⒜ γ線校正装置(高線量校正用) 主要校正機器:エリアモニタ,サーベイメータ ⒝ γ線校正装置(中線量校正用) 主要校正機器:個人線量計,環境線量計 ⒞ β線校正装置 主要校正機器:個人線量計 ⒟ 中性子校正装置 主要校正機器:中性子エリアモニタ,個人線量計 5 放射線機器校正施設 中性子サーベイメータ これらの校正装置は,照射線量基準測定器・実用標準器 施設の安全を管理・監視する法令のモニタリングに用い を用いて,国家標準からのトレーサビリティを確立させ, ( 47 ) 富士時報 Vol.82 No.5 2009 安全・安心に貢献する放射線管理用機器・システム 表₄ 各校正装置の測定範囲 線 源 特 集 校正装置 強 度 測定範囲 (mSv/h) 4.44 TBq 20 ~ 400 370 GBq 1 ~ 20 核 種 Cs 137 ガンマ線 校正装置 (高線量) Co 60 ガンマ線 校正装置 (中線量) Cs 137 37 GBq 0.2 ~ 2.5 3.7 GBq 0.02 ~ 0.25 370 MBq 0.001 ~ 0.025 37 GBq 0.55 ~ 14 370 MBq 0.02 ~ 0.12 370 GBq 69 37 GBq 6.9 3.7 GBq 0.7 370 MBq 0.07 Sr 74 MBq 100 Cf 200 MBq ベータ線 校正装置 90 中性子 校正装置 252 mSv/h 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000 nf 21 nth 0.35 自然放射線(BG)レベル - 放射線測定器(実用測定器)の測定精度を確保している。 また,校正用制御計算機が組み込まれ,操作の自動化に よる校正業務の省力化と効率化を実現している。 and light nuclei, Uppsala, Sweden, 2006-6, p.12-16. . ⑺ 松本栄治ほか.“個人被ばくモニタリングシステムの開発” 2008年電子情報通信学会総合大会. ⑻ Ito et al. DEVELOPMENT OF LARGE AREA PLASTIC 6 あとがき SCINTILATION DETECTOR FOR RADIOACTIVE CONTAMINATION MONITOR, IRPA12, 2008-6. 人や地域環境での放射線管理用機器・システムについて, 最近の成果を述べた。 ⑼ JIS Z 4388:2006. ⑽ IEC 61098:2003. 今後は,放射線の安全管理にかかわる国内の実績を踏ま ⑾ 特願2008-164588.(海外同時出願中) え,世界各地の原子力発電所などで働く人やその周辺住民 ⑿ 日本保健物理学会. 第43回研究発表会. の安全および広がる放射線利用にかかわる人の安全に積極 ⒀ 日本放射線安全管理学会. 第6回JRSMシンポジウム. 的に寄与し,原子力利用の信頼向上に貢献したい。 透過検査や物質検査など放射線特性を用いた新たなソ リューションの提供に貢献していく所存である。 藤本 敏明 最後に,電力会社をはじめ,放射線・原子力利用施設の 放射線機器・システムのエンジニアリング業務に 放射線安全管理関係者からのご助言とご指導に感謝する。 従事。現在,富士電機システムズ株式会社オート メーション事業本部エネルギーシステム統括部副 参考文献 統括部長。日本応用物理学会会員。 ⑴ 世界の原子力発電開発の動向. 日本原子力産業協会. 2009. ⑵ Energy, Electricity and Nuclear Power Estimates for the Period up to 2030. IAEA 2008. ⑶ 小佐古敏荘ほか.“放射線安全の考え方と関連する基準の国 際動向” . 日本原子力学会誌. 2008, vol.50, no4. ⑷ IAEAの安全基準, 石倉 剛 放射線モニタの開発・設計に従事。現在,富士電 機システムズ株式会社オートメーション事業本部 東京工場放射線装置部課長。日本保健物理学会会 員。 http://www.iaea.org/Publications/index.html,(参照 200906-29) . 伊藤 勝人 ⑸ Nunomiya, T. et al. Proceedings of 11th International Con- 放射線機器・システムのエンジニアリング業務に gress of the International Radiat. Prot. Dosim. Protection 従事。現在,富士電機システムズ株式会社オート Association. Madrid Spain, 2004-5, p.23-28. メーション事業本部エネルギーシステム統括部放 ⑹ Nunomiya, T. et al. Proceeding of the 10 th . Neutron Dosimetry Symposium, Progress in dosimetry of neutrons ( 48 ) 射線システム部主査。日本保健物理学会会員。 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。