富士時報 Vol.80 No.5 2007 大規模・高速制御用拡張形 CPU モジュール 「SPH300EX」 石原 俊幸(いしはら としゆき) 永塚 一人(ながつか かずひと) まえがき モデルである SPH300 シリーズの中で最高性能を有するモ ジュールであり,モーション制御をはじめとする大規模シ シリーズ」では,最 ステムや高速制御システムを担う製品である。 特集⑵ 統合コントローラ「MICREX-SX 適な生産自動化・制御システムを構築するための革新的な . ハードウェアモジュールを数多く提供してきた。例えば, システムの中心となる CPU モジュールでは, 「SPH300 シ MICREX-SX シリーズの特徴を継承 SPH300EX は,MICREX-SX シリーズの持つ次のよう リーズ」と「SPH200 シリーズ」の 2 系列に加え,データ 処理系の機能を大幅に改善した「SPH2000 シリーズ」を 図 拡張形高性能 CPU モジュール SPH300EX 開発し,高度化・多様化・複雑化するシステム要求にバラ ンスよく応えられるよう,性能・容量・機能の向上と,価 格の両立を目指したシリーズ強化を図っている。 本稿では,SPH300 シリーズにおいて,多軸モーション 機械などで要求される大規模な入出力(I/O)容量の確保 と,これを高速に同期制御できる処理能力を備えた拡張形 高性能 CPU モジュール「SPH300EX」について紹介する。 SPH300EX の概要 . 製品の位置づけ 図 1 に MICREX-SX シリーズの CPU モジュールの機種 マップを示す。SPH300EX は,CPU モジュールの最上位 演算処理性能指標(PLC-MIX 値) 図1 MICREX-SX シリーズの CPU モジュール機種マップ 40 SPH300 シリーズ(NP1PS) 32 32R 20 74 74R 48R 48E 10 1 SPH300EX 74D 117 117R SPH2000 シリーズ(NP1PM) 16 8 16 245R 256E 256H データ処理機能 の強化 SPH200 シリーズ (NP1PH) 08 大規模・高速制御 の強化 32 64 プログラム容量(kステップ) 石原 俊幸 永塚 一人 プログラマブルコントローラの開 プログラマブルコントローラの開 発設計に従事。現在,富士電機機 発設計に従事。現在,富士電機ア 器制御株式会社生産本部システム ドバンストテクノロジー株式会社 機器事業部コントローラ開発生産 情報通信制御開発センター情報・ センター設計部主任。 制御システム部主任。 128 256 369( 65 ) 2 富士時報 Vol.80 No.5 2007 大規模・高速制御用拡張形 CPU モジュール「SPH300EX」 な特徴を継承している。 SPH300EX の特徴 SX バスを用いた高速制御システム ( 1) 国際標準言語 IEC61131-3 による効率のよいプログラ ( 2) 図 3 に SPH300EX の内部構成を示す。SPH300EX は, ミングとその実行 安価な大規模システム構築コスト ( 3) 高速処理能力を持つ SPH300 シリーズの 74 k ステップ品 CE マーキング・UL に標準対応 ( 4) を 1 モジュール内に 2 系統搭載し,通常のシーケンス制御 や高速同期制御などを基本 CPU と拡張 CPU で分担して . MICREX-SX シリーズの資産を継承 実行することにより,自由な処理分散が可能である。 SPH300EX の外観を図 2 に示す。SPH300EX は 2 スロッ SPH300EX と従来の SPH300 シリーズの主なシステム トモジュールであり,電源,ベースボード,I/O,機能, 仕様比較を表1に示す。 特集⑵ 通信などすべての SPH モジュールと SX バス接続機器が 使用可能である。また, プログラマブル操作表示器(POD) . SX バスを 2 系統搭載 MICREX-SX シリーズの特徴である SX バスは,16 ワー 2 「UG30 シリーズ」も,従来どおり接続することができる。 支援ツールとしては,SX-Programmer Expert Ver. 3 ドの I/O 領域を占有するサーボアンプや I/O モジュール 系列が SPH300EX をサポートしており,従来と同一の環 16 台(256 ワ ー ド ) を 1 ms で,32 台(512 ワ ー ド ) を 境下で支援可能である。また,SPH300EX は,MICREX- 2 ms でリフレッシュすることが可能な高速バスである。 SX シリーズと同一のアプリケーションソフトウェアが動 図 4 に 16 ワード占有のサーボアンプまたは I/O モジュー 作可能で,ユーザー資産であるプログラムや,ユーザー ルのリフレッシュ性能を示す。 ファンクションブロックを再利用できる。 SPH300EX は,この SX バスを 2 系統搭載することによ 図 図 SPH300EX の内部構成 SW RS-422 基本 CPU 拡張 CPU 74kステップ品 74kステップ品 プログラム メモリ データ メモリ カスタム プロセッサ LSI カスタム プロセッサ LSI SX バス プログラム メモリ データ メモリ メモリ インタ フェース バスインタフェース バスインタフェース 共有 メモリ P バス 2.0 32 台 1.5 23 台 1.0 16 台 0.5 4台 0 SX バス 背面:基本 SX バス 表 2.5 USB リフレッシュ時間(ms) CF カード SX バスのリフレッシュ性能 0 前面:拡張 SX バス 8 16 24 32 16 ワード占有のサーボアンプ または I/O モジュールの接続台数(台) SPH300EXとSPH300シリーズの主なシステム仕様比較 SPH300シリーズ SPH300EX 項 目 I/O部 SPH300EXシングルCPU構成 1系統 1系統 SXバス直結I/O容量(ワード) 512 512 0.5 ms∼ 可 可 不可 可 可 可 可(最大8台) 不可 可(最大8台) 可(最大8台) 可(最大8台) I/Oリフレッシュ時間 I/O・サーボ系 通信系 インタフェース方法 データ連携時間 演算性能(PLC-MIX値) 370( 66 ) マルチシステム構成 SXバス系統数 CPU(マルチCPU) 制御部 CPU1 拡張CPU 接続可能 モジュール CPU間 インタ フェース部 マルチCPU構成 CPU0 基本CPU システム0 システム1 1系統 1系統 1系統 512 512 512 0.5 ms∼ 1.0 ms∼ 1.0 ms∼ 1.0 ms∼ 可 可 可 可 専用共有メモリ (メモリ内蔵) 0.4 s∼ プロセッサバス (インタフェース内蔵) プロセッサ間リンク モジュール(別途必要) 約3 s∼ 数ms∼ 38.6(19.3×2) 19.3 19.3 19.3 19.3 プログラム容量(ステップ) 148 k(74 k×2) 32 k∼ 32 k∼ 32 k∼ 32 k∼ データメモリ容量(ワード) 256 k(128 k×2) 32 k∼ 32 k∼ 32 k∼ 32 k∼ 大規模・高速制御用拡張形 CPU モジュール「SPH300EX」 富士時報 Vol.80 No.5 2007 り,I/O 空間を 512 × 2 ワード(8,192 × 2 点)に拡張した。 に合致したシステム構成ツリーの表現を可能とした。図 5 これにより,2 倍の容量まで I/O モジュールの接続台数を に SPH300EX のシステム構成設定画面を示す。 増加できるのはもとより,拡張バス側に速い制御周期を必 要とするサーボアンプや I/O モジュールを集中させること で,システム拡張時でも速い制御周期の維持が容易である。 . タスク構成設定 MICREX-SX シリーズの CPU モジュールでユーザープ ログラムを実行させるためには,タスク構成設定によっ . 実行エンジンを 2 系統搭載 て,実行タイミングを規定するタスクを作成し,そのタス SPH300 シリーズの演算性能は,プログラマブルコント クに各プログラム(処理)を割り付けることで実行させる。 また,タスクには常時繰り返し実行を行う「DEFAULT」 , 指定した周期で実行する「FIXED_CYCLE」 ,指定した変 もの演算を実行することができる。 数の値が 0 から 1 に変化した場合に実行する「EVENT」 SPH300EX は,この実行エンジンを 2 系統搭載するこ の 3 種類が設定可能である。 とにより,1 ms の間に約 4 万回もの演算が実施可能となり, SPH300EX においてもタスク構成設定によって実行さ さまざまな対象機器のリアルタイム制御を実現することが せるユーザープログラムを設定する。基本 CPU で実行 できる。 する処理は従来どおりのタスクに割り付け,拡張 CPU で 実 行 す る 処 理 は, タ ス ク 種 類 の 先 頭 に“E_” を 付 加 し . 共有メモリによる基本 CPU と拡張 CPU の結合 た「E_DEFAULT」 「E_FIXED_CYCLE」 「E_EVENT」 SPH300・SPH2000 シリーズは,マルチ CPU モジュー のタスクに割り付けることで設定が可能である。 図 6 に ル構成が可能であり,大規模な制御の処理負荷分散および SPH300EX のタスク構成設定画面を示す。 機能単位ごとに CPU を割り当てる機能分散が可能である。 SPH300EX の基本 CPU と拡張 CPU では,高速なアク . グローバル変数設定 セスが可能な 6 k ワード(2 k ワード× 3 種)の専用共有 MICREX-SX シ リ ー ズ の CPU モ ジ ュ ー ル で は,CPU メモリにより結合することで,二つの CPU の密結合によ 内 の ユ ー ザ ー プ ロ グ ラ ム 間 で 使 用 す る 変 数 や I/O な ど る処理分散によってシステム設計の容易化と自由度の向上 をグローバル変数設定する。また,マルチ CPU 構成時 を実現した。 の CPU 間で使用する変数や,マルチシステム構成時の プロセッサ間リンクモジュール経由のメモリ変数は,各 . 基本 CPU と拡張 CPU の外部インタフェースを共有 CPU・各システムでそれぞれグローバル変数を記述する SPH300EX のコンパクトフラッシュ(CF)カード,ス 必要がある。 イッチ(SW) ,RS-422,USB(Universal Serial Bus)な SPH300EX においても,基本 CPU 内のユーザープログ どの外部インタフェースは,基本 CPU と拡張 CPU で共 ラム間で使用する変数や I/O などを,従来どおりグロー 有している。ユーザー ROM 機能使用時には,1 枚の CF バル変数設定し,拡張 CPU 内のグローバル変数設定では, カードで 2 台分の各 CPU を賄うことが可能である。 変数の末尾に“_E”を付加する。また,基本 CPU と拡 張 CPU 間で共有する変数は,共有メモリのアドレスを記 SPH300EX の支援ツール SPH300EX の 支 援 ツ ー ル で あ る SX-Programmer 述した変数を 1 回記述することで設定を完了することがで 図 SPH300EX のシステム構成設定画面 Expert Ver. 3 系列は,1 台のモジュールに内蔵される 2 系統の CPU と SX バスを,現行の CPU・SX バスと同一 のプログラミング環境として,違和感なく支援することが 可能である。 . 基本 SX バスに 接続する機器を 設定 システム構成設定 MICREX-SX シ リ ー ズ で は, シ ス テ ム で 使 用 す る モ ジュールをシステム構成設定にて登録し,システム立上げ 時の各モジュールの存在・稼動状態を確認し,意図したシ 拡張 SX バスに 接続する機器を 設定 ステム構成においてのみ運転を開始する機能を持っている。 SPH300EX においてもシステム構成設定によって,基 本 SX バス,拡張 SX バスの 2 系統に使用するモジュール を登録する。一つのシステム構成で 2 系統を表現するた めに,拡張 SX バスの構成ツリーを SPH300EX の CPU モ ジュールアイコンから展開することで,実際の物理的接続 371( 67 ) 特集⑵ ローラ(PLC)言語に特化した高速なカスタムプロセッサ LSI を実行エンジンとすることで,1 ms の間に約 2 万回 2 富士時報 Vol.80 No.5 2007 図 大規模・高速制御用拡張形 CPU モジュール「SPH300EX」 SPH300EX のタスク構成設定画面 図 SPH300EX のグローバル変数設定画面 基本 CPU 内で 使用する変数を 定義 基本 CPU に 割り付ける処理 を設定 拡張 CPU 内で 使用する変数を 定義 特集⑵ 拡張 CPU に 割り付ける処理 を設定 2 図 CPU 間で 共有する変数を 定義 SPH300EX のシステム適用例 プロセッサ間リンク(PE リンクなど) 従来システム SX ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 SCPU32 APS30 RUN TERM TERM PWR SLV SLV STOP STOP ONL ERR ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL コンフィグレーション CH1 EMG +OT -OT ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR CH2 RUN ALM BAT ALM CPU CPU No. No. ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 SCPU32 APS30 SX RUN TERM TERM PWR SLV SLV STOP STOP ONL ERR ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL CH1 EMG +OT -OT ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR CH2 RUN ALM BAT ALM CPU CPU No. No. 20 20 LOADER LOADER LOADER LOADER 1 B/A 1 B/A HP2 I/O モジュール HP2 I/O モジュール SX バス POD SX バス SX ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 APS30 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL CH1 EMG +OT -OT 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR ERR 8 9 101112131415 ERR CH2 PWR ALM 20 1 B/A HP2 サーボアンプ I/O モジュール コンフィグ レーション サーボアンプ システムコストのミニマム化 システム設計の容易化 SPH300EXシステム SX ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 SCPU32 APS30 RUN TERM TERM PWR SLV SLV STOP STOP ONL ERR ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL CH1 EMG +OT -OT ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR CH2 コンフィグレーション 基本 SX バス SX RUN ALM BAT ALM ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 APS30 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL CH1 EMG +OT -OT ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR CH2 PWR ALM CPU CPU No. No. 20 20 LOADER LOADER 1 B/A 1 B/A HP2 I/O モジュール HP2 POD 拡張 SX バス SX ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 APS30 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL 0 1 2 3 4 5 6 7 ONL I/O モジュール CH1 EMG +OT -OT ERR ERR 8 9 101112131415 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR 8 9 101112131415 ERR CH2 PWR ALM 20 1 B/A HP2 サーボアンプ きる。図 7 に SPH300EX のグローバル変数設定画面を示す。 SPH300EX の適用例 I/O モジュール サーボアンプ SPH300EX のシステム適用例を示す。 . 用途に合わせた専用コントローラ 拡張 CPU を専用コントローラとして再設計し,装置へ . 大規模・高速制御システムへの適用 の指令・状態の通知などの専用インタフェースを共有メモ 従来,高速な I/O モジュールが 512 ワードを超える大 リに実装したり,基本 CPU を汎用 PLC として,エンド 規模なシステムと,これを高速制御するシステムの構築に ユーザーに開放することで,多様な設備に柔軟に対応でき は,複数のシステム構成(コンフィグレーション)に分割 る高速な汎用装置などへの適用を検討している。 する必要があった。そのため,各システム間のデータ交換 を実現するためにプロセッサ間リンクモジュールを必要と あとがき し,システムコストの増加,システム設計の複雑化などの 課題があった。 「SPH300EX」の概要,特徴,支援ツール,および適用 SPH300EX の 適 用 に よ り こ の 課 題 を 解 決 し,512 × 2 例について紹介した。今後も高速化・多様化・複雑化する ワード内の大規模・高速制御システムを構築時には,一 ユーザーニーズに,迅速に対応できる PLC を提供できる つのシステム構成で実現可能となり,システムのミニマ よう,研究開発を進めていく所存である。 ムコスト化,システム設計の容易化を実現した。 図 8 に 372( 68 ) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。