DVD+RW メディア

DVD+RWメディア
DVD+RW Media
鳴海 慎也*
山田 勝幸*
Shinya NARUMI
Katsuyuki YAMADA
要
旨
書換え型DVDの中でも,ROMとの高い互換性を有し,普及が期待されているDVD+RWメディア
の商品化を世界に先駆けて行なった.リコーの開発したDVD+RWメディアの主な特徴は,以下の
通りである.
1)
記録材料にリコーオリジナルのAg-In-Sb-Te系相変化記録材料を使用しており,DVDROMと同容量の書換え記録が可能
2)
既存のDVD-ROMドライブおよびDVDビデオプレーヤーとの互換性が高い
3)
高速記録(2.4X),CAV記録が可能
4)
オーバーライト特性,保存性が良好であり,信頼性が高い
ABSTRACT
DVD+RW format is regard as defact standard of rewritable DVD (Digital Versatile Disc). Ricoh
released DVD+RW media firstly in the world.
Main features of the DVD+RW media are as follows:
1)
Rewritable DVD can be same capacity of DVD-ROM, that achieved using Ag-In-Sb-Te phase
change material at the recording layer.
*
2)
High compatibility with existing DVD-ROM drives and DVD-Video players.
3)
High speed (2.4X) recording, CAV (Constant Angular Velocity) recording.
4)
High stability based on high durability and good DOW (direct over write) characteristics.
パーソナルマルチメディアカンパニーMMP事業部SD開発室
SD Products Design Office, MultiMedia Printer Division, Personal MultiMedia Products Company
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比較をTable 1に示す.
1.背景と目的
DVD+RWの最も大きな特徴は,DVD-ROM互換に優れてい
DVD(Digital Versatile Disc)は,パーソナルコンピュータ
る点である.この高い互換性は,
(PC)アプリケーション,デジタルビデオ,家庭用ゲームなど,
・物理仕様がDVD-ROMと共通
幅広い分野で使用されており,CDおよびビデオテープに替
・論理フォーマットがDVD-ROMと互換
わる次世代メディアとして,世界中で急速に普及してきてい
・リンクロスがない書換え記録(ロスレスリンク)
る.
といった特徴を持つことにより,実現されている.
その中でも,ユーザー自身がPCデータやビデオ映像の保
このため,DVD+RWでは,例えば,DVD+RWビデオレ
存・編集を行なうことができる書換え型DVDに注目が集
コーダーでメディアに記録したビデオ映像を,PCに搭載し
まっている.現在のところ,DVD+RW,DVD-RW,DVD-
たDVD+RWドライブを用いて編集を行ない,そこで編集し
RAMなど複数のフォーマットが,書換え型のDVDとして,
たDVD+RWメディアを既存のDVD-ROMドライブやDVDビデ
規格化に至っている.
オプレーヤーで再生させることが可能となる.
このうち,DVD+RWは,リコーの他,Philips,Hewlett-
上記以外に,DVD+RWが他の書換え型DVDのフォーマッ
Packard,ソニー,三菱化学,ヤマハによって共同提案され
トと異なるところとしては,
た書換え型DVDのフォーマットである.この規格はROM互
・高速記録(2.4X:8.44m/s)が可能
換性を重視したものであり,記録済みのDVD+RWメディア
・CAV(角速度一定)記録が可能
は,既存のDVD-ROMドライブおよびDVDビデオプレーヤー
という点が挙げられる.
で再生することができる.その上,高速記録やランダムアク
2.4X記録時の転送レートは26Mbpsである.現在のところ,
セス記録も可能な優れたフォーマットとなっている.
書換え型DVDの記録速度としては,最速となっている.こ
本稿では,リコーが世界で初めて商品化することに成功
の記録速度で全周CLV(線速度一定)記録を行なった場合,所
したDVD+RWメディアについて,解説を行なう.
要時間は約25分となり,1X記録の場合(約60分)と比べて,35
分間も短縮される.
また,高速ランダムアクセスに有利であるCAV記録にも
2.製品の概要
対応できることから,PCデータ系の情報を取り扱う点にお
再生専用フォーマットのDVD-ROMと書換え型のフォー
いても,DVD+RWフォーマットは適している.
マットであるDVD+RW,DVD-RW,DVD-RAMの主な仕様の
Table 1
Specification of the DVD format.
DVD-ROM
DVD+RW
(Ver1.0)
DVD-RW
(Ver1.1)
DVD-RAM
(Ver2.0)
メディアタイプ
再生専用
書換え型(相変化)
書換え型(相変化)
書換え型(相変化)
ディスク構造
0.6mm基板貼り合わせ
0.6mm基板貼り合わせ
0.6mm基板貼り合わせ
0.6mm基板貼り合わせ
ディスク直径
120mm
120mm
120mm
120mm
メディア形態
ベア・ディスク
ベア・ディスク
ベア・ディスク
カートリッジ
記録容量(/面)
4.7 GB(1層)
8.5 GB(2層)
4.7 GB
4.7 GB
4.7 GB
記録方式
CLV
1X~2.4X CLV / CAV
1X CLV
2X ZCLV
転送レート
11 Mbps (1X)
11~26 Mbps
11 Mbps
22 Mbps
リンクロス
-
なし(ロスレスリンク)
あり
あり
既存DVD-ROMとの互換性
-
あり
一気書きのみ互換性あり
なし
主な用途
ビデオ/PC
ビデオ/PC
ビデオ
PC
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録層以外の各構成層についても,以下のような材料設計を行
3.技術の特徴
3-1
なっている.
誘電層と反射層については,メディアの光学および熱設
メディア作製
計を行ない,材料および層構成を最適化している.
リコーのDVD+RWメディア(片面タイプ)の層構成は,厚さ
貼り合わせ接着層には,接着剤硬化後のディスクの変形
0.6mmの案内溝付きポリカーボネート基板(情報基板)の上に,
や割れを低減することができる紫外線硬化型樹脂材料を使用
誘電層,相変化型記録層,誘電層,反射層,オーバーコート
している.
層を順に積層し,この上に接着層を形成して0.6mm厚のポリ
ポリカーボネート基板,オーバーコート層,印刷層につ
カーボネート基板(カバー基板)を貼り合わせて,更にその上
いては,基板の変形およびディスクのアンバランスを低減さ
に印刷層を形成した構造をとっている(Fig.1).
せるように,材料および膜厚の最適化を行なっている.
印刷層
スタンパ
作製
基板成形
スパッタ
成膜
初期化
(記録層の
結晶化)
ディスク
貼り
合わせ
印刷
ポリカーボネート基板
(カバー基板)
オーバー
コート
塗膜
貼り合わせ
接着層
オーバーコート層
反射層
上部誘電層
記録層
(Ag-In-Sb-Te 系相変化材)
Fig.2
下部誘電層
Process flows of the DVD+RW media.
ポリカーボネート基板
(情報基板)
入射レーザー光
DVD+RWメディアの作製プロセスのフローをFig.2に示す.
案内溝
大部分のプロセスは,CD-RWメディアと共通であるが,
Fig.1
Structure of the DVD+RW media.
ディスク貼り合わせが,新規なプロセスとして導入されてい
る.
案内溝付きポリカーボネート基板を作製するスタンパ作
DVD+RWメディアは,
・微小マーク(最小マーク長:0.4μm)の形成が可能
製および基板成形プロセスでは,CD-RWメディアの作製時
・幅広い線速度領域(1X:3.49m/s~2.4X:8.44m/s)での記
と比べて,非常に精密な加工技術を導入している.それによ
り,厚さ0.6mmのポリカーボネート基板上に,深さ約0.03μ
録・消去が可能
であることが要求される.リコーのDVD+RWメディアでは,
m,幅約0.3μmの微細な案内溝の作製を実現している.
ディスク貼り合わせは,新規プロセスであるので,新た
これらの条件を満たす記録層の材料として,リコーオリジナ
に開発を行なっている.このプロセスでは,基板の変形を低
ルのAg-In-Sb-Te系相変化材料を採用している.
減させる紫外線照射技術と,接着層に空気泡が入らないよう
このAg-In-Sb-Te系相変化材料は,CD-RWメディアに採
にした貼り合わせ技術を導入している.
用されており,記録マーク(アモルファス相)の周辺部に粗大
結晶粒が出来ないため,マークの境界部がシャープになると
これ以外の各プロセスでは,基板の厚さがCD-RWメディ
いう特徴を持っている.そのため,記録マーク長の制御を行
アの半分であることから,基板変形を抑えるためのプロセス
ないやすく,微小マークの形成もしやすくなっている.
制御を行ない,DVD+RWメディアを作製している.
また,CD-RWメディアの開発で培った高速記録材料設計
3-2
の技術を展開し,DVD+RWメディアの記録密度,記録速度
リコーのDVD+RWメディアの記録マークのTEM像をFig.3
に合わせて,各構成元素の組成の最適化を行なっている.
に示す.灰色の部分は,記録層がアモルファス状態であるこ
リコーのDVD+RWメディアでは,ここまで述べてきた記
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記録特性
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とを示しており,記録マークにあたる部分である.それ以外
15
のマーブル模様の部分は,記録層が結晶状態であることを示
1X
しており,ブランク部およびランド部の未記録部にあたる.
Jitter (σ/Tw) [%]
12
このメディアは,Ag-In-Sb-Te系相変化記録材料を用いて
いるため,前述したように,記録マークの周辺部に粗大結晶
粒が存在せず,記録マークと未記録部との境界はシャープに
2.4X
9
6
なっていることが分かる.
spec
3
0
1
10
100
1000
10000
DOW cycle [times]
Fig.5
Characteristics of DOW cycle at 1X and 2.4X.
記録したDVD+RWメディアに対し,70℃,80℃,90℃の
Fig.3
TEM image of recorded marks of the DVD+RW
media.
温度条件下における保存試験を行なった.この温度条件にお
DVD+RWメディアに最適記録・消去パワーで1X記録およ
70℃が1850時間,80℃が550時間,90℃が110時間であった.
び2.4X 記録したときの初期記録特性の結果をFig.4 に,
この時間を寿命として,アレニウスプロットを行なった結果
DOW(Direct Over Write)特性(ジッター)の結果をFig.5に示す.
をFig.6に示す.
いて,ジッターが規格仕様値の9%をオーバーした時間は,
1X記録および2.4X記録のいずれも,初期記録時のジッ
Fig.6のグラフから見積もられた室温(30℃)時のアーカイバ
ターが7%以下,反射率が約20%,変調度が約0.7であり,
ル保存寿命(記録した情報が保持される寿命)は,120~300年
DOW 5000回までのジッターが9%以下であった.従って,い
である.
ずれの記録速度においても,規格仕様を満足しており,良好
以上のように,リコーのDVD+RWメディアは,高速(2.4X)
な記録特性であった.
記録およびCAV(1X~2.4X)記録が可能であり,かつ,DOW
特性,保存性が良好であることから,高い信頼性を実現して
11
10
Reflectivity
24
spec:
<9%
9
spec
spec:
>0.6
0.7
spec
1E+03
0.6
18
6
30 ℃
1E+04
20
7
1E+02
1E+01
1E+00
70℃
80℃
90℃
1E-01
5
[%]
いる.
0.8
22
spec
8
spec:
18-30%
Modulation
Life [years]
Jitter (σ/Tw)
16
1X 2.4X
[%]
0.5
1X 2.4X
1E-02
1X 2.4X
1E-03
Fig.4
2.6
Recorded properties at 1X and 2.4X.
3.0
3.2
3.4
(1/T)x103 [1/K]
Fig.6
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2.8
149
Archival life of the DVD+RW media.
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4.今後の展開
これまで述べてきたように,DVD+RWメディアは,高い
ROM互換性や,高速記録,高信頼性といった特徴を持って
いる.
近い将来,ITインフラの整備は整い,PCと家庭電化製品
(CE)との融合は当たり前となると考えられる.大容量のデー
タを高速に取り扱うことができ,PCとCEのどちらにも互換
性を有するDVD+RWメディアは,次世代書換え型メディア
の本命ともいえる存在である.
このDVD+RWメディアをワールドワイド市場に拡販して
いくためにも,更に魅力のある商品としていくことが要求さ
れる.
そのためには,様々な用途での使用に対応できるものを,
ユーザーの要望に応じて提供できるように,準備していくこ
とが必要であり,更なる高速記録が可能なメディア,更なる
大容量化を実現したメディア,ビデオカメラや携帯用ビデ
オ・オーディオプレーヤーに使用しやすい形態のメディアな
どの開発を行なって,対応していく.
謝辞
最後に,本機種の開発・設計にあたり,研究開発本部な
らびにパーソナルマルチメディアカンパニーの多くの方々に
ご指導,ご支援を賜りましたことに深く感謝致します.
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