青色/DVD/CD互換光ピックアップの開発

青色/DVD/CD互換光ピックアップの開発
Development of BLUE/DVD/CD Compatible Optical Pick-Up
平井 秀明*
寺嶌 隆雄*
横井 研哉*
井上 浩之*
Hideaki HIRAI
Takao TERASHIMA
Kenya YOKOI
Hiroyuki INOUE
要
旨
青色半導体レーザを用いた大容量光ディスクおよびDVD/CDの3世代の記録再生が可能な「青
色/DVD/CD互換光ピックアップ」を開発した.青色大容量ディスク用に設計された対物レンズを
波長や基板厚の異なるDVDやCDに用いると球面収差が生じ良好な記録再生特性が得られない.そ
こで,DVDの赤色波長にのみ作用する収差補正機能を備えるとともに,CDは結像倍率を最適化し
て収差補正した.また,ディスク種類に応じて開口数(NA)を設定するため,CDは赤外波長の
み作用する開口制限フィルタを備えてNAを0.5にするとともに,青色とDVDのNAをそれぞれ0.67,
0.65にして,開口を共通化した.これらの機能を維持する光学レイアウトと組付調整を採用し,3
波長のディスク仕様に対して良好な信号特性を確認した.
ABSTRACT
A BLUE/DVD/CD compatible read/write optical pick-up has been developed for 3 generations of
high-density optical disk systems using blue, red and near-infrared laser diode. The objective lens, which
is designed for blue laser optical disk systems, causes spherical aberration in DVD or CD with different
laser wavelength and different disk substrate thickness and the recording and reproducing quality is
damaged. Wave front correction functions, which are effective for only red laser wavelength of DVD, are
added and aberration of objective lens is corrected for CD optimizing magnification value. In order to
change numerical aperture (NA) according to disks, a wavelength self-selective filter, which is effective for
only infrared laser wavelength of CD, is attached. NA of CD, BLUE and DVD is determined 0.5, 0.67 and
0.65 respectively and aperture is common between BLUE and DVD. The optical layout and adjusting
method are adopted to achieve these functions and it is confirmed that servo error signals and RF-signals
satisfy each specifications of BLUE/DVD/CD.
* 研究開発本部 光メモリー研究所
Optical Memory R&D Center,Research and Development Group
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1.背景と目的
Table 1
Specifications.
Disc type
BLUE
DVD
CD
テムの開発が進められている.一方,コンシューマの手元に
Wavelength
405nm
660nm
785nm
Focal length
3.00mm
3.11mm
3.17mm
は,従来の光ディスクであるDVD,CDが存在するため,次
NA
0.67
0.65
0.50
Working distance
1.65mm
1.75mm
1.57mm
Substrate thickness
0.6mm
0.6mm
1.2mm
Magnification
0
0
-0.062
近年,青色半導体レーザを用いた大容量光ディスクシス
世代光ディスクシステムは青色/DVD/CDの3波長互換が必須
となる.異なる種類のディスク間の互換を実現するには,球
面収差の補正と対物レンズの開口数(NA)の制御を行うこ
とが課題となり,各社から様々な方法が提案されている1)-3) .
対しては倍率0(平行光入射)で用いる.またCDに対しては
我々は,波長選択性の球面収差補正および開口制限の2つの
球面収差が最小になる倍率(発散光入射)を採用している.
機能を備えた互換素子を搭載した「青色/DVD/CD互換光
対物レンズの手前には互換素子を配置しており,この互換素
ピックアップ」を開発したので紹介する.
子はDVDの赤色波長にのみ作用する収差補正機能と,CDの
赤外波長にのみ作用する開口制限機能を有している.青色と
DVDのNAをそれぞれ0.67,0.65にして,青色とDVDの開口
2.技術
2-1
(絞り)は共通化している.DVD HOE(Holographic Optical
element)モジュールとCD HOEモジュールは,レーザと,
光ピックアップ構成
ディスクからの反射光を検知する受光素子と,ディスク反射
光ピックアップの光学系の構成をFig.1に,主要仕様を
光を受光素子に偏向するホログラム素子が一体化されている.
Table 1に示す.DVD/CD光学系と青色光学系がトリクロ
波長板は,3波長に対して1/4波長板として機能する広帯域波
イックミラーを介して構成された2層構成となっている.
長板を使用している.またトリクロイックミラーは,青色波
DVD/CD光学系は,現在当社で生産している記録型DVDド
長は透過し,DVDとCDの赤色および赤外の波長は反射する
ライブに搭載されている光学系と同等のものを採用している.
波長選択性コートがほどこされたミラーである.
対物レンズは青色で最適設計されており,青色,DVDに
Objective lens
Compatible device
Actuator
Wavelength plate
Dichroic mirror
DVD/CD unit
Collimator lens
Trichroic mirror
DVD HOE module
Coupling lens
Polarizing beam splitter
CD HOE module
Grating
Beam shaping prism
BLUE unit
Collimator lens
Mirror
Triplet lens
Convex lens
Blue Laser
Cylinder lens
Concave lens
Fig.1
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Photo detector
Optical layout of Pick Up.
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2-2
3波長互換方式
本光ピックアップは,青色レーザ用対物レンズにおいて,
DVD,CDの互換を可能にするため,Fig.2に示すように,互
換素子を対物レンズとともにアクチュエータに搭載している.
Fig.3に,互換素子の構成を示す.片面には,Fig.3a,Fig.3b
に示すような輪帯状の位相段差面が形成されており,DVD
Fig.3a Plane view of phase shift pattern.
の収差補正を行う.もう一方の面には,Fig.3b,Fig.3c,
Fig.3dに示すような波長選択性フィルタが形成されておりCD
Phase Shift Pattern
の開口制限を行う.
Compatible
Device
h
Lens Barrel
BLUE
DVD
A
B
CD
B
Wavelength Selective Filter Pattern ( Interference type )
Fig.3b Cross sectional view of phase shift pattern and
wavelength selective filter pattern ( interference
type ).
B
B
Objective
Lens
Fig.2
Wavelength Selective Filter
Patttern ( Diffractive type )
Schematic view of the objective lens assembly.
Fig.3c Cross sectional view of wavelength selective filter
pattern (diffractive type) .
2-2-1
DVDの球面収差補正
青色で最適設計した対物レンズを用いて,DVDに平行光
入射でスポットを形成させた場合,Fig.4の上側に示すよう
に波長の違いにともなう球面収差が発生する.互換素子の片
A
B
側に形成された輪帯状の段差形状を調整して,対物レンズに
光源側から入射する光束にFig.4の下側部分に示すような光
NA0.50 @CD
路長差を付加することにより,前記の球面収差を打ち消すこ
とができる.Fig.4の中央部分は,Fig.4の上側部分と下側部
NA0.67 @BLUE
NA0.65 @DVD
分の和であり,補正後の残留球面収差を示す.もとの球面収
Fig.3d Plane view of wavelength selective filter pattern.
差(Fig.4の上側の部分)よりも格段に小さくなっている.
この段差は,DVDの赤色波長のみに作用し,青色波長と
で与えられるためδ( 405nm ),δ( 785nm )が,各々4π,2π
CDの赤外波長には作用しない.基板材料の屈折率をn,段差
となるように,基板材料と高さhを選択した.例えば,基板
形状の1ステップの高さをh,点灯光源の波長をλとしたとき
材料にBK7を,高さhとして1.528umを選べば,青色とCDに
の1つの段差で発生する位相差:δ(λ)は,式(1):
対しては,光路長差は無視できる.一方,δ( 660nm )は
δ(λ)=2π (n-1) h/λ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
0.381π(=0.19λ@660nm)となり,2πの整数倍からずれ
るため,Fig.4の下側に示すように段差形状をコントロール
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することによりDVDで発生する球面収差を補正することが
の波面を有する対物レンズに,同一光束径の赤色波長の光を
可能となる.
平行光入射させた場合,屈折力が低下し,開口数が低くなる.
青色,DVDともに良好の信号特性が得られるNAと開口条件
として上記のNAの組み合わせを選んだ.
0.8
Targe t to
compe ns ate
0.6
2-2-4
0.4
青色対物レンズを用いて,CDに平行光入射でスポット形
Re s idual O PD
0.2
成させた場合,波長とディスク厚の違いに伴う球面収差が発
0.0
生する.本光ピックアップでは,CD光路の対物レンズ入射
-0.2
光を発散光にすることで球面収差を補正した.
-0.4
O PD produce d
by Phas e Shift
-0.6
-0.8
2-2-5
-1.0
DVD平行光入射の選択
前記のとおり,DVDは互換素子で球面収差補正を行い,
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
CDは発散光入射の構成で球面収差補正を行っている.DVD
Radius [mm]
も発散光入射の構成で球面収差を補正することが可能である
Optical path difference at 660nm.
が,次に述べる理由により平行光入射の構成を採用している.
Wave Front Abbe ration [λrms ]
Fig.4
2-2-2
CDの球面収差補正
CD開口制限
互換素子の一方の面には,CD開口制限機能が形成されて
いる.開口制限をする面は,Fig.3dに示すように2つの同心
円状の領域から構成され,各領域の境界はCDのNA0.50に相
Wave Front Abbe ration [λrms ]
O PD ( O ptical Path diffe re nce ) [λ]
1.0
0.15
As tigma
Coma
0.10
0.05
0.00
0.0
当する円である.NA0.50より外側の領域Bは,CDの赤外波
0.5
0.15
As tigma
Coma
0.10
0.05
0.00
0.0
1.0
0.5
1.0
Le ns Tilt [de g]
Dis c Tilt [de g]
Fig.5a RMS wave front abberation of DVD infinit layout.
長の光に対して反射あるいは回折の効果を利用してCDディ
に対してはA,B両領域ともに不感帯透過する構成である.
反射を利用する場合は,Fig.3bに示すような波長選択性の
干渉フィルタパタンが形成されている.一方,回折を利用す
る場合は,Fig.3cに示すようなNA0.50より外側の領域にバイ
ナリー形状の回折格子が形成されている.溝深さは選択的に
0.15
As tig ma
Coma
0.10
0.05
0.00
0.0
透過させたい波長 ( 405nm,660nm ) において位相差を2π
Wave Front Abbe ration [λrms ]
Wave Front Abbe ration [λrms ]
スクに集光させず,一方の青色波長とDVDの赤色波長の光
0.5
Dis c Tilt [de g ]
1.0
0.1 5
As tig ma
Coma
0.1 0
0.0 5
0.0 0
0.0
0.5
1.0
Le ns Tilt [de g]
Fig.5b RMS wave front abberation of DVD finit layout.
の整数倍とすることで,405nm,660nmの光に対しては回折
効率を低く,785nmの波長に対しては回折効率を高くした.
回折した光はCDディスクの記録面に集光せずに周辺部に散
光ピックアップの他の課題として,光ディスクのチルト
乱させるようにした.
(傾き)によって発生するコマ収差がある.記録型DVDド
ライブにおいては,コマ収差補正機構が一般に搭載されてい
2-2-3
青色,DVDの開口
る.ディスクチルトによるコマ収差は波長に反比例して大き
青色とDVDのNAはそれぞれ0.67,0.65とすることにより,
青色とDVDの開口(絞り)を共通化した.青色波長で最良
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くなるため,青色ではさらに厳しくなる.そのため青色と
DVDにおいてはコマ収差補正機構が必要となる.
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コマ収差補正機構としては,レンズチルトアクチュエー
質を確保している.以上の調整により,同一の光ピックアッ
タがよく用いられる.通常のフォーカス,トラック方向への
プ姿勢にて3波長ともに良好なスポット品質が得られるよう
変位に加え,ディスクチルトに応じて対物レンズをチルトさ
にした.
せることでコマ収差を補正することが可能である.
2-4
一般に光ピックアップ用対物レンズの設計では,正弦条
測定評価結果
件を満足するように最適化することで軸外ではコマ収差を発
3波長それぞれの光ディスク記録面上のスポットと再生信
生させない.このように設計された対物レンズは,光ディス
号波形をFig.6に示す.上から,CD,DVD,青色の順にス
クが入射光線に対して傾いたときと,対物レンズ自体が入射
ポットと再生信号波形を示す.青色での記録変調方式は信号
光線に対して傾いたときに,ほぼ同等のコマ収差が発生する.
品質を簡易評価するため,ここではEFM+(DVD相当)を用い,
Fig.5aは,平行光入射における対物レンズが傾いたときに発
線密度0.275μm/3Tの相変化型ディスクで再生している.青
生するコマ収差と,光ディスクが傾いたときに発生するコマ
色とDVDの再生信号波形は波形等化後のものである.ボト
収差の様子を示す.Fig.5aのような場合,光ディスクと対物
ムジッタ値は青色が5%,DVDが5%,CDが10ns(4.5%)で
レンズを平行にすることによりコマ収差をキャンセルするこ
良好である.なお,青色での線密度0.240μm/3Tにおいても
とが可能である.
ジッタ8%を確保している.
しかし,このような対物レンズをDVDで,上述のごとく
発散光入射にして使用した場合,正常なスポットが得られな
い.青色で正弦条件を満足するように設計した対物レンズを
発散光入射で使用した場合のコマ収差および非点収差の様子
1/e2 CD Spot Size
Tan:1.27um Rad:1.38um
をFig.5bに示す.Fig.5bでは対物レンズチルトによるコマ収
Jitter 10ns : CD-ROM test disc
差と非点収差の発生が同等であり,光ディスクのチルトによ
るコマ収差をレンズチルトによるコマ収差で補正すると,反
対に非点収差が発生してしまい良好なスポット性能を得るこ
とができない.
Jitter 5% : DVD-ROM test disc、after Equalizer
1/e2 Spot Size
Tan:0.94um Rad:0.96um
そこで我々は,青色とDVDの2波長においてレンズチルト
アクチュエータでコマ収差を補正するために,DVDを青色
同様に平行光入射の構成とした.
2-3
Jitter 5% : Blue disc ( 3T length 0.275um、
1/e2 Spot Size
Track pitch 0.46um ) after Equalizer
Tan:0.56um Rad:0.52um
光ピックアップ組付調整
Fig.6
光ディスク法線に対して対物レンズの光軸やレーザ光軸
が,ずれていると収差が発生する.1波長専用の光ピック
Measured focused spot profiles and readout signal
waveforms.
アップではレーザ光軸が多少ずれていても対物レンズ姿勢を
また各波長におけるディスクチルトとジッタの関係を
スポット品質が最良になるように調整すれば許容値に収まっ
Fig.7に示す.いずれも良好なチルトマージンが得られてい
ていた.3波長互換光ピックアップでは,各軸ずれに対する
るが,ドライブシステムとしてはDVDと青色でのディスク
収差特性が波長により異なるため,1波長について対物レン
チルトに対してチルト制御を行う予定である.このとき各波
ズ姿勢を調整しても3波長全てを満足させることができない.
長ともジッタが最良になるチルト姿勢が,ほぼ同一に組付け
本ピックアップではDVD/CDユニットを組立てる際に,
られているので,波長間のオフセット補正が不要となってい
青の品質と両立するようにDVD光学系を調整し,組上がっ
る.
たDVD光学系に対してCDの画角を調整してCDスポットの品
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CD
50
20
40
15
30
10
20
5
10
0
0
-1.0
Jitte r @ B LUE, DVD [% ]
Jitte r @ CD [ns e c]
DVD
-0.5
0.0
Rad Tilt [de g]
0.5
1.0
25
50
20
40
15
30
10
20
5
10
0
Jitte r @ CD [ns e c]
Jitte r @ B LUE, DVD [% ]
B LUE
25
0
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
Tan Tilt [de g]
Fig.7
Jitter vs. Tilt.
3.まとめ
青色半導体レーザを用いた大容量光ディスクとDVD,CD
の 3 波 長 互 換 を 実 証 し た . 本 光 ピ ッ ク ア ッ プ は 既存 の
DVD/CD光学系,一般的なバルク構成の青色光ピックアップ
に互換素子を搭載することのみにより,3波長すべてにおい
て記録および再生が可能であることを確認した.
今後は,機能集約による部品点数の削減,光ピックアッ
プの小型化に関してさらなる検討を進める.
参考文献
1)
R.Katayama,Y.Komatsu:Proc of ISOM2001,(2001),p.3031.
2)
Kyung-Chan
Park
et
al. : Proc
of
ODS/ISOM2002 ,
(2002),.165-167.
3)
Kyu Takada et al. :Proc of ISOM2003,(2003),p.230-231.
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