(No.32, 2006年度)偏光縦スリットを用いた多層ディスク読み出し技術(8P/742KB)

偏光縦スリットを用いた多層ディスク読み出し技術
Novel Read-out Technology
Longitudinal Device
for
Multi-layer
小形 哲也*
大内田 茂*
北林 淳一*
萩谷 利道**
横井 研哉*
Tetsuya OGATA
Shigeru OHUCHIDA
Junichi KITABAYASHI
Toshimiti HAGIYA
Kenya YOKOI
要
Optical
Disc
using
Polarization
旨
大容量多層ディスクの読み出し技術を開発した.多層ディスクの任意の記録層から情報を読み
出す場合,読み出し層以外の記録層で反射した迷光が層間クロストークと呼ばれるノイズになる.
層間クロストークは,信号光を集光しその集光点にピンホールを配置することで低減できるが,
信号光量の低下,ピンホールの配置精度や,光学系の大型化などの欠点がある.そこで我々は,
信号光と迷光の集光点のずれを利用して偏光操作を行い,信号光のみを抽出する偏光縦スリット
を開発し,ピンホール光学系の課題を克服した.そして,大きな層間クロストークが発生する中
間層厚の薄いHD DVD-ROM 2層ディスクを使って,偏光縦スリットによる信号特性の改善を実機
で確認した.
ABSTRACT
New readout technology of the multi-layer optical disc was developed. When a multi-layer disc is read
by a normal optical system, the signal light that reflects at the read-out layer contains stray light from the
adjacent recording layers, which is called layer cross-talk (LCT). It is impossible to reduce the LCT by
using a pihole at focus spot. But this system has some problems which are decrease of signal light, a large
size of optical pass, and decrease of tolerance for a device shift. Then we developed the new optical
system which called “Longitudinal Slit”. It uses the segmented polarization device, and changes signal
light and stray light into a different polarized state. As a results, this system can detect signal light
without the LCT. Using this technology, we confirmed improvement of the signal performance using HD
DVD dual layer disc which has a thin spacer layer thickness.
* 研究開発本部 先端技術研究所
Advanced Technology R&D Center, Research and Development Group
** 研究開発本部 実用化開発センター
Advanced Prototyping Center, Research and Development Group
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合が生じ,逆に径を大きくすると迷光の漏れ量が増加すると
1.背景と目的
1-1
いった不具合が生じる.
層間クロストーク
Multi-layer disc
光ディスクの1枚当たりの容量を増加させる方式として,
OL
情報記録層を複数積層する多層ディスクがある1).多層ディ
QWP
スクは,各記録層の中間層厚を厚くすると球面収差が発生し
Detector lens
BS
MTFが低下して信号劣化が生じる.このため,多層ディス
PBS
クは中間層厚を薄くする必要がある.
しかしFig.1に示すように,光ディスクにおいて中間層厚
PD for FE signal
を薄くすると,隣接記録層からの迷光が光検出素子に混入し
Focus lens
て生じる層間クロストーク2)によって,信号劣化を引き起こ
LD
Pinhole
す.層間クロストークは,多層ディスクだけでなく,2層
PD for HF signal
ディスクでも発生する不具合である.
Fig.2
Optical pickup using a pinhole.
Multi-layer disc
Spacer layer
thickness
Signal light
そこで我々は,信号光・迷光を完全に分離し,読み出し
信号とフォーカスエラー信号を一つの光路で検出でき,信号
Stray light
光の光量低下が生じない光学系の開発を進めてきた.
Photo
detector
2.縦スリットの原理
Fig.1
1-2
Occurrence principle of the layer cross-talk.
2-1
縦スリット
ピンホール光学系の不具合は,集光点で層間クロストー
ピンホール
ク対策を行なうことに起因している.そこで我々は発想の転
多層ディスクを読み出すには,何らかの層間クロストー
換を行い,Fig.3に示すような層間クロストーク対策を集光
ク対策が必要とされる.その代表的なものにFig.2に示すピ
点からずれたところに配置する,“縦スリット”を考案した.
ンホール光学系がある.ピンホール光学系は,信号光を一度
集光し,その集光点にピンホールを配置することで隣接記録
層からの迷光を遮光するものである.
Front edge
ここで,光ディスクを読み出すには記録層の信号光の他
Multilayer disc QWP
に記録層の面ぶれを検出するフォーカスエラー信号が必要で
ある.しかしピンホール光学系は,デフォーカスした光を検
出できないので,信号検出とフォーカスエラー信号検出の光
PBS
学系を,二つ個別に配置する必要がある.このため,光学系
Fig.3
Focus lens
PD for
HF & FE signal
Back edge
Longitudinal slit.
が大きくなるという不具合が生じる.
また,ピンホールの径を小さくすると信号光の光量低
下・ピンホールの位置ずれ公差が厳しくなる,といった不具
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縦スリットは2枚の遮光板を信号光の集光点の前後に配置
透過型偏光縦スリットの動作についてFig.5を用いて説明
したものである.このため,信号光は2枚の遮光板の間で集
する.透過型偏光縦スリットで使われる分割波長板は,面内
光するので,半分だけ遮光板を抜けて受光素子で検出される.
が+1/4波長板と-1/4波長板の領域からなる.多層光ディスク
光ディスクの面ぶれによって信号光の集光点が若干ずれた場
で反射した信号光は,2枚の分割波長板の間で集光すること
合,2枚の遮光板の間に集光点がある限り,信号光量は変動
で+1/2波長,もしくは-1/2波長の位相差を受け偏光方向が90
することがないので,読み出し信号とフォーカスエラー信号
度回転する.他層で反射した迷光は,2枚の分割波長板の外
を1つの受光素子で検出することが可能になる.
側に集光するので位相差がキャンセルし,偏光方向が変わら
他層で反射した迷光は,2枚の遮光板の前側,もしくは後
ず透過する.2枚の分割波長板を透過した信号光と迷光は,
ろ側に集光するため,2枚の遮光板で構成された縦スリット
PBSによって分離され,信号光のみが受光素子へ向かう.
を抜けることなく,完全に遮光される.
Signal light
Stray light
この縦スリットは,次に紹介する偏光縦スリット,反射
PD
型偏光縦スリットの基本的な考え方になっている.
+λ/4 -λ/4
2-2
透過型偏光縦スリット
前述したように,縦スリットは遮光板により信号光の光
量が半減してしまう.そこで,次に開発したのが透過型偏光
FL
縦スリット3)である.
-λ/4 +λ/4
Fig.5
一般的な光ディスクの光学系は,光源の半導体レーザー
PBS
Flow of how TPLS works.
から光ディスクに向かう照明光と,光ディスクで反射し受光
素子へ向かう検出光を効率よく利用するため,偏光光学系と
このように,集光点の異なる光に対して旨く偏光を操作
呼ばれる方式を用いる.偏光光学系は,1/4波長板を利用す
することで,信号光の光量を低下させることなく,信号光と
ることで,照明光と検出光で直線偏光の偏光方向を90度変え,
迷光を完全分離することが可能になる.
偏光ビームスプリッター(PBS)で分岐する光学系を言う.
2-3
透過型偏光縦スリットは偏光光学系における検出光の直線偏
反射型偏光縦スリット
さらに,我々は2枚の分割波長板の間で光路を折り返す反
光を扱う.
射型偏光縦スリット4)を考案し,部品点数の削減,及び光路
Fig.4に透過型偏光縦スリットを用いた光学系を示す.偏
長の短縮を図った.
光縦スリットは,2枚の集光レンズ,2枚の分割波長板とPBS
Fig.6は,反射型偏光縦スリットを用いた光学系を示す.
で構成される(Fig.4の□内).
反射型偏光縦スリットは,一つの集積素子で構成される.集
積素子は,透過型偏光縦スリットにおける2枚の分割波長板
4-PD
の役割を果たす.また,透過型偏光縦スリットで用いた2枚
LD(660nm)
CL
ML-Disc
Segmented
wave-plate
1mm
の集光レンズ,及びPBSは,従来の光ディスクを読み出す光
学系で使われているコリメートレンズ,及びPBSとの共有化
DL
NA 0.17
を図ることで,光学系全体のさらなる小型化を達成した.
QWP
OL
NA0.65
Fig.4
CYL
PBS FL
NA0.13
PBS
Transmission-type polarization longitudinal slit.
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(a)
PD
Photo detector
y
L0123
z
LD
PBS
CL
λ/4
x
LD
PBS
OL ML-Disc
λ/4 OL
Flat
Mirror
λ/2
(b)
Photo detector
(c)
Photo detector
ML-disc
Integrated parts
Integrated parts
Fig.6
reflection-type polarization longitudinal slit.
反射型偏光縦スリットについてFig.7とFig.8を用いて詳細
に説明する.反射型偏光縦スリットに用いる集積素子は,平
坦領域と1/2波長板領域からなる入射面と,反射面から構成
される.
(a)
光源である半導体レーザーからは紙面に対して垂直な
方向に偏光した直線偏光が出射され,PBS,1/4波長板
を透過することで右回り円偏光になり,多層ディスク
の記録層L2に集光する.
(b)
記録層L2で反射した信号光は,再び1/4波長板を透過
し紙面に対して平行な直線偏光になって,カップリン
Fig.7
グレンズで収束しながらPBSで反射する.その光は集
Flow of how TPLS works (Signal light).
積素子の1/2波長板領域もしくは,平坦領域を透過し
て反射面に集光する.
(c)
(d)
(f)
反射面で反射した信号光は平坦領域もしくは,1/2波
に対して平行な直線偏光になり,カップリングレンズ
長板領域を透過することで偏光方向が90度変わる.こ
で収束しながらPBSで反射する.その光はPBSと集積
のため,信号光は紙面に対して垂直な直線偏光になり,
素子の間で集光し,集積素子の1/2波長板領域もしく
PBSを透過して検出素子へと向かう.
は,平坦領域を透過して反射面に到達する.
記録層L2より対物レンズ側の記録層L1で反射した迷光
(g)
反射面で反射した迷光は再び1/2波長板領域もしくは,
は,紙面に対して平行な直線偏光になり,カップリン
平坦領域を透過する.従って,この迷光も偏光方向が
グレンズで収束しながらPBSで反射する.その光は集
変わることなくPBSで反射されるため,受光素子へ向か
積素子の1/2波長板領域もしくは,平坦領域を透過し
わない.
て反射面に到達する.
(e)
記録層L2より奥側の記録層L3で反射した迷光は,紙面
なお,各迷光は最終的には半導体レーザーに戻るが,デ
反射面で反射した迷光は再び1/2波長板領域もしくは,
フォーカスした状態であるため光量が小さく,発振安定性を
平坦領域を透過し,集積素子とPBSの間で集光する.
損なうことはない.
従って,迷光の偏光方向は変わらずPBSで反射されるた
め,受光素子へ向かわない.
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(d)
Photo detector
3.評価結果
フォトニック結晶の適用
3-1
透過型偏光縦スリットや反射型偏光縦スリットで用いる
波長板は,信号光の集光点と迷光の集光点の間に配置する
(Fig.5,7,8参照).このとき,波長板上の信号光のビー
ム径は集光点に近いので50-70umと小さい.集積素子の1/2
(e)
波長板領域と平坦領域の間の位相遷移領域(Boundary)が広
Photo detector
いと,信号光の偏光状態が乱れ,受光素子で検出される光量
が低下する.Fig.9は,遷移領域の幅と検出される信号効率
の関係をシミュレーションしたものである.液晶素子のよう
な一般的な波長板を使うと遷移領域が5um程度になので,
6%の効率低下が生じる.効率低下を2%以下にするには
1.7umという遷移領域の狭い高精細な遷移領域を持つ波長板
が必要となる.
(f)
Photo detector
㪈㪇㪇
㪐㪏
㪐㪍
㪐㪋
㪐㪉
㪐㪇
㪏㪏
㪏㪍
㪫㪸㫉㪾㪼㫋 㻢 㪐㪏㩼 㩿㪈㪅㪎㫌㫄㪀
㪜㪽㪽㫀㪺㫀㪼㫅㪺㫐 㩿㩼㪀
㪥㫆㫉㫄㪸㫃
㫎㪸㫍㪼㪄㫇㫃㪸㫋㪼
㪇 㪈
(g)
Photo detector
Fig.9
㪉 㪊 㪋 㪌 㪍 㪎 㪏 㪐 㪈㪇
㪮㫀㪻㫋㪿㩷㫆㪽㩷㪹㫆㫌㫅㪻㪸㫉㫐 㩿㫌㫄㪀
Calculated influence of boundary width.
このような高精細な遷移領域を持つ波長板として,我々
は自己クローニング型のフォトニック結晶5)を用いた.Fig.
10は,反射型偏光縦スリットを実現するフォトニック結晶の
模式図である.フォトニック結晶はSiO2とTa2O5の多層膜で
構成される.
Fig.8
Flow of how TPLS works (Stray light).
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ピンホール
1/2 λ
反射型偏光縦スリット
0.8
15
0.8
1
0.6
0.9
0.40.8 (b)
0.20.7
00.6
0.5
-0.2
0.4
-0.4
0.3
-0.60.2
-0.80.1
-15
-10
0
15
0.8
1
0.6
0.9
0.40.8 (d)
0.20.7
00.6
0.5
-0.2
0.4
-0.4
0.3
-0.60.2
-0.80.1
-15
-10
0
0.6
0.4
(a)
0.2
x 方向
nλ
(n=0,1,2,…)
0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-15 -10
Ta2O5
SiO2
-5
0
5
Shift x (um)
10
0.8
0.6
Boundary
0.4
(c)
z 方向
0.2
Fig.10 Segmented auto-cloned photonic crystal wave-plate.
0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-15 -10
Fig.11に実際に作成した集積素子の位相遷移領域の拡大写
-5
0
5
Shift z (um)
10
-5
0
5
Shift x (um)
-5
0
5
Shift z (um)
10
10
15
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
15
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
Fig.12 Tolerance of device shift.
真を示す.遷移領域の目標1.7umに対して,0.3um以下の高精
細な集積素子が得られた.
この結果から分かるように,反射型偏光縦スリットは,y
方向すなわち光軸方向に対して広い公差を持つ.このため,
反射型偏光縦スリットは,読み出し信号とフォーカスエラー
信号の同時検出が可能になっている.また,反射型偏光縦ス
リットは,z方向すなわち分割線方向のずれの影響を受けな
い.通常光ディスクを読み出す光学系は,光ディスクの偏芯
に追従するためように対物レンズを光ディスクの半径方向に
トラッキングする.このため,光学系に軸ずれが生じる.偏
光縦スリットを用いた光学系では,分割線方向を光ディスク
の半径方向に相当する方向に一致させることで,偏芯追従時
の光軸ずれに対しても,信号光の効率を損なうことなく,情
Fig.11 Detail SEM of wave-plate boundary region.
報を読み出すことができる.
3-3
3-2
位置ずれ
デフォーカス特性
多層ディスクの層間クロストークの大小を確認する目安
反射型偏光縦スリットは,設置位置がずれると信号光の
として,光ディスクのデフォーカス特性を用いる.デフォー
効率が低下する.Fig.12は,集積素子がずれたときの信号光
カス特性とは,対物レンズを光ディスクの多層積層方向に走
の効率をシミュレーションした結果である.x方向,z方向に
査して,その時に受光素子に入射する光量をモニターしたも
ついては,Fig.6に示したとおりである.ここでは,比較の
のである.層間クロストークが無い場合は,各層にフォーカ
ためにピンホールの位置ずれについてもシミュレーションし
スが合うと,光量がピークになり,デフォーカスするに従い
た.
低下する.層間クロストークがある場合は,迷光の混入に応
じてデフォーカス時の光量が低下しなくなる.
Fig.13は,層間クロストーク対策の無い状態,ピンホール
を用いた状態,偏光縦スリットを用いた状態で,4層ディス
ク(中間層厚20um)のデフォーカス特性を観測した結果で
ある.対策の無い状態では,デフォーカス時の光量低下が不
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十分で各記録層からの信号が混入しているのが分かる.ピン
層間クロストークは,多層ディスクの中間層厚を薄くす
ホールを用いた状態では,デフォーカス時の光量低下の効果
ることで増加する.Fig.14は,ジッター劣化量の中間層厚依
がある程度みられる.この時,測定条件として集光レンズの
存性である.
NA0.14,ピンホール径は50umのものを使用した.偏光縦ス
測定は,中間層厚の薄い(9,12um:通常15-25um)2層
リットは,デフォーカス時の光量低下が十分であり,各層か
HD DVD-ROMを用いて,反射型偏光縦スリットによるジッ
らの信号が完全に分離されているのが分かる.従って,偏光
ター劣化の改善効果を評価した.尚,本測定では,リミット
縦スリットを用いた光学系では,層間クロストークが生じて
イコライザーを用いた.
反射型偏光縦スリットが無い場合(○△)に比べ,反射
いない,と言える.
型偏光縦スリットがある場合(●▲)はジッター劣化を設計
目標どおりに改善した.以上のことから,反射型偏光縦ス
L0 L1 L2 L3
対策無し
検出光量
リットを用いることで,中間層厚を狭くしても層間クロス
トークを除去し,ジッター劣化を抑える効果があることが確
認された.
層間隔20um
デフォーカス
L0 L1 L2 L3
ピンホール
層間隔
20um
デフォーカス
Without RPLS L0
Without RPLS L1
With RPLS L0
With RPLS L1
improved
10
㼺Jitter (%)
検出光量
12
8
6
4
2
偏光縦スリット
0
検出光量
L0 L1 L2 L3
層間隔
20um
8
10
12
14
16
18
20
22
24
Spacer layer thickness (um)
Fig.14 Read-out performance using RPLS.
デフォーカス
3-5
Fig.13 Defocus performance.
分離限界値
反射型偏光縦スリットは,信号光と迷光の各集光点が,
3-4
集積素子の入射面を隔てている状態Fig.15-(a)では,各記録
ジッター評価
層からの信号を分離する.しかし,多層ディスクの中間層厚
光ディスクは,読み出し信号品質の評価としてジッターを
がさらに薄くなり,信号光と迷光の各集光点が近づき,両集
用いる.層間クロストークによるジッターの劣化量⊿Jitterは,
光点が集積素子の内部に存在する状態Fig.15-(b)では,各記
多層ディスクにおけるジッター測定値Jitterαと,単層光ディ
録層からの信号を分離できなくなる.従って,集積素子の入
スクの測定値Jitterstaを用いて,(1)式で定義される.
射面に信号光が集光している時に,同じ入射面上に隣接記録
層で反射した迷光の集光点が重なった時が,反射型偏光縦ス
2
∆Jitter = Jitterα − Jittersta
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2
(1)
リットにおける信号光と迷光の分離限界となる.
13
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4.まとめ
Stray
多層ディスクから迷光を除去する光学系として,偏光縦
Stray
スリットを開発し,デバイス手段としてフォトニック結晶を
応用した.偏光縦スリットを用いることで,多層ディスク特
有の層間クロストークを完全に除去し,情報を正確に読み出
Signal
せることを実機により確認した.
Signal
この偏光縦スリットを使うことで,例えばBlu-ray 8層
(a) Separated
(b) No sepatated
(200GB相当)といった大容量な光ディスクの再生装置も,
Fig.15 Model of limitation for RPLS.
簡易な光学系で実現できる.
本報告で紹介した偏光縦スリットの技術は,従来のピン
多層ディスクの中間層厚に対する分離限界値t1は,光学系
ホール光学系に無い,広い公差と,完全な迷光分離という優
のコリメートレンズと対物レンズにおける信号光と迷光の結
れた特性を実現する.現在我々は,この特性を利用した従来
像式を解いて求めることができる.分離限界値t1は,対物レ
にない新規なアプリケーションの検討にも取り組んでいる.
ンズの焦点距離f1,ディスクの基板及び中間層の屈折率n1,
コリメータレンズの焦点距離f2,集積素子の基板厚t2,集積
謝辞
素子の基板の屈折率n2,対物レンズとカップリングレンズの
間隔Lを用いて,(2)式で表される.
偏光縦スリットを実現する上で,株式会社フォトニック
ラティスの方々に,多大なるご協力をいただき,感謝いたし
ます.
(2)
参考文献
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1)
結果を示す.0.5mm基板を使うことで,Blu-rayでは6.1mm,
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2)
可能である.
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㫋㪿㫀㪺㫂㫅㪼㫊㫊㩿㫌㫄㪀
3)
㪉㪇
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㪏
㪍
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㪉
㪇
pp.2-3
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㪇㪅㪈
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Fig.16 Limitation dependence of integrated parts thickness.
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