短余長光ファイバ接続部材 山 口 敬 1 ・ 松 田 貴 治 2 ・ 森 岡 寛 遵 1 ・ 瀧 澤 和 宏 3 光機器・コンポーネント事業部 Connecting parts for Short f iber T. Yamaguchi, T. Matsuda, H. Morioka, and K. Takizawa Fiber To The Home(FTTH)サービスの更なる拡大には,既設ビルやルーラルネットワークへの光 ファイバ敷設がかぎとなる.特に,小規模な既設住宅では,光インドアケーブルを敷設するためのスペ ースがほとんどないことが多い.このような環境においても,短い余長の光ファイバ同士を,特別な工 具を用いず,安価に接続できる技術が求められてきた.この目的のため,ルーラルネットワーク用の光 ファイバ接続部材を,専用の治具とともに開発し,接続部の光学特性,信頼性を評価した.その良好な 結果を報告する. It is essential for the further expansion of Fiber To The Home (FTTH) to install optical fiber cables in existing buildings in a city and houses in a rural area. Since there is often less space in a small house, it is not easy to deploy an indoor optical fiber cable. To solve the problem, we have developed new splicing parts and special tools for terminating short fibers in the limited space. This paper reports the excellent performance and reliability of the novel products. 2.既設小規模住宅およびルーラルエリアへの光 1.ま え が き 配線引込みに必要な接続物品の要求事項 日常的にインターネットが使われるようになり,動画 配信等の大容量データ通信を行うため,通信業者と一般 図 1 に既設小規模住宅の縦系の配線形態 3) を,図 2 家庭を光ファイバで結ぶ FTTH サービスが拡大してい にルーラルエリアのドロップケーブルの引落し形態を示 る.われわれは,FTTH を構築するための光ファイバ接 す.図中の接続点①および引込点部②への要求事項およ 1) 続技術としてメカニカルスプライス ,ケーブル外被把 び開発物品は以下のとおりである. 持型現場組立コネクタ 2)を開発してきた.FTTH をさら 縦系配線では,各階を繋ぐ配管や成端キャビネットの に普及させるためには,光ファイバケーブルの敷設をあ スペースがほとんど無いため,高密度に配線されたケー らかじめ想定していない既設小規模住宅やルーラルエリ ブルから短余長でのファイバ取り出しを行い,そこに接 アに導入する技術が望まれている.既設小規模住宅で 続する必要がある.ルーラルエリアでの接続も同様で高 は,光ファイバケーブルを敷設,接続するための十分な スペースが用意されておらず,接続部の小型化や短余長 での接続技術が要求されている.特に,ルーラルエリア の少心数引き落とし用小型クロージャでは更なる短余長 接続技術が要求される.今回,われわれは,これらの要 8 求に対応するため短余長でも接続を可能とする実用的な 8 ① メカニカルスプライスを開発したので,これを報告す る. 8 4 1 光機器開発部係長 2 光機器開発部 3 光機器開発部部長 8 図 1 既設小規模住宅の縦系配線形態 Fig. 1. Existing wiring in small multiple dwelling unit. 21 2013 Vol. 2 フ ジ ク ラ 技 報 第 125 号 密度に配線された架空ケーブルから小型のクロージャ内 れたメカニカルスプライスが取り付けられたピグテイル でファイバを取り出すため,短余長でファイバを接続し 構造となっている.治具は①挿入治具,②ファイバホル なければならない.また,これらの工事には施工性の良 ダ,③アタッチメントの三点から成る.メカニカルスプ さも必要とされる. ライス側はスライダと呼ぶ治具に予めセットされてい ① 中間/成端キャビネット る.アタッチメントは被覆除去,ファイバカット時に 限られたスペースに設置された中間/成端キャビネッ ファイバ処理長を調節するために使用する. トが小型のため,ケーブルを引き裂いて取り出すファ 従来は,くさびが備え付けられた工具にメカニカルス イバ長は短い.短余長のファイバを低コストで簡便に プライスをセットし,端末処理済みの光ファイバをファ 接続できるメカニカルスプライス接続が要求される. イバホルダに固定した状態で,ホルダごと工具上をスラ 開発物品:メ カニカルスプライス型短余長ピグテイ イドさせてメカニカルスプライスに挿入していた.これ 3) に対して,新しいメカニカルスプライス型短余長ピグテ ② 少心数引き落とし用小型クロージャ イルでは,端末処理済の光ファイバを,ファイバホルダ ルーラルエリアでは,架空ケーブルから引き落と に固定した状態で挿入治具にセットし,メカニカルスプ す心線数は 1 ~ 2 心と少なく,使用するクロージャ ライスを固定されたファイバに対してスライドさせて挿 も小型のため,余長の短いファイバを施工性良く接続 入する点が大きく異なっている(図 5).今回は更なる できるメカニカルスプライスが要求される. 評価を行い,本工法で良好な結果を得たので報告する. ル (図 6 参照) 開発物品:小 型クロージャ用短余長メカニカルスプ ライス 今回の開発物品と従来のメカニカルスプライスの概要を 表 1 に示す. メカニカルスプライス くさび 3.短 余 長 接 続 基 礎 技 術 スライダ 3.1 メカニカルスプライス型短余長ピグテイル 4) 3.1.1 構造および工法 図 3 に開発されたメカニカルスプライス型短余長ピ グテイルを,図 4 に組立に使用する治具を示す.片端 図 3 メカニカルスプライス型短余長ピグテイル Fig. 3. Mechanical splice - type short f iber slack - use pigtail. に SC コネクタ,反対側に片端だけ光ファイバが挿入さ ② ① 挿入治具 図 2 ルーラルエリアの引落し形態 Fig. 2. Rural area drop cable deployment. ② ファイバホルダ ③ アタッチメント 図 4 工具一式 Fig. 4. Tool Set. 表 1 メカニカルスプライスの種類と接続余長 Table 1. Types of mechanical splice and required f iber length. ① 中間/成端キャビネット メカニカルスプライス型 短余長ピグテイル ② ルーラルエリア用小型クロージャ 小型クロージャ用短余長 メカニカルスプライス 約 60 mm 約 40 mm (参考) 従来メカニカルスプライス 概要 接続余長 22 約 80 mm 短余長光ファイバ接続部材 裸ファイバ 本体 ファイバホルダ レバー メカニカルスプライス ② 外被把持部材(2 個) クサビ ① 本体 図 5 作業状況 Fig. 5. Pigtail assembly in operation. ③ ケーブルホルダ 図 7 外被把持型メカニカルスプライスおよび治具 Fig. 7. Cable grip - type mechanical splice and jigs. 90 80 70 60 頻度 50 1.31nm 40 1.55nm 30 20 10 0 0.00 0.05 0.10 0.15 図 8 外被把持型メカニカルスプライス接続状態 Fig. 8. Cable grip - type mechanical splice assembled. 0.20 0.30 0.40 0.50 0.25 0.35 0.45 挿入損失 (dB) 図 6 メカニカルスプライス型短余長ピグテイル Fig. 6. Histogram of Insertion Losses (Mechanical splice - type short f iber slack - use pigtail). 穴があけられずドアや窓サッシから引込む隙間配線光 ファイバ 6) との接続に用いられる. 従来,工具によりファイバ挿入のガイドを行っていた ケーブル側のファイバはすでにメカニカルスプライス のに対して,新しい方式では,メカニカルスプライスの 内部で固定されており,ファイバホルダによって挿入さ 両側に外被把持部材を設け,全体の補強を兼ねたハウジ れたファイバと突き当たることで,ファイバホルダ側の ングにガイド機構を持たせた構造をとっている.図 7 ファイバがたわみ,接続されたことが確認できる.この の①からもわかるように,クサビは二つに分かれてお 工法は光ファイバ余長が短く自由にファイバホルダを取 り,ファイバを挿入した側からクサビを抜き,一本目に 回せない時に短余長での作業が可能になる.これら治具 挿入したファイバをメカニカルスプライスに固定する. は全て樹脂の成型品で構成されており従来の工具に対し これにより,現場付けコネクタと同様に,メカニカルス て非常に安価であり経済性に配慮している.これらの工 プライス内部で固定された光ファイバが,外被把持型光 法 に よ り, 従 来 工 具 で は 約 80 mm の 接 続 余 長 が 必 要 コネクタの内臓ファイバと同等な働きをし,二本目に挿 だったのに対し約 60 mm の短余長の心線にピグテイル 入した光ファイバが既に固定された一本目のファイバに 接続が可能となった. 突き当たることで,ファイバの曲がりにより接続に必要 本ピグテイルのケーブル側はケーブル外被把持型現場 な突合せ力の確保と突き当たりの確認が可能な構造と 組立コネクタと同様の構造をとっており,ケーブル側 なっている.従来の挿入時に,両ファイバの撓みの大き ファイバに現地で取り付ける現場付タイプのコネクタと さを調整して接続する方法に対して,ファイバを押し撓 しても使用することができる. み形状を確認するスペースが小さくすることができ,従 3.2 外被把持型メカニカルスプライス 5) 来のケーブル同士の接続の構成(外被把持コネクタ 2 3.2.1 構造および工法 個とアダプタ 1 個)と比較して,全長が短く部品点数 従来のメカニカルスプライスの接続確認方式を改良し を減らし経済的な構造となっている.実際の現場では, た結果,図 7 に示す外被把持型メカニカルスプライス ドロップケーブルと細径インドアケーブルの接続が想定 とその治具により,接続部材の小型化が達成された.本 されることから,外被把持部材は一つの構造で両ケーブ 接続部材は,メカニカルスプライス型短余長ピグテイル ルを把持可能なタイプを採用した.接続状態を図 8 に で引込まれたファイバを,各部屋へ敷設する際,壁等に 示す. 23 2013 Vol. 2 フ ジ ク ラ 技 報 第 125 号 クサビには,外被把持部材を特定の位置から前進でき リッパは,短余長施工時の作業性を向上させる.ファイ ないようストッパが付与されているが,クサビを抜いた バカットは,既存のファイバカッタを使用し,カットさ 時には,ファイバが固定しているストッパが無くなり, れたファイバを挿入治具にセットする.対向するファイ レバーと呼ぶ部材を閉めることにより外被把持部材が前 バの挿入は,このファイバをファイバホルダに固定した 進し,ファイバの良好な接続状態を維持するためのファ のち,前述のケーブル側ファイバが既にセットされた簡 イバたわみが発生する. 易接続メカニカルスプライス(メカスプ)を挿入治具上 光ファイバ被覆除去と光ファイバカット時に使用する をスライドさせて行う.メカニカルスプライス型短余長 専用のケーブルホルダは,プラスチックの一体成形品と ピグテイルや外被把持型メカニカルスプライスと異なる して,作製されており組み立て工具としても低コスト化 点は,先に挿入されたメカニカルスプライスのクサビを に配慮した. 片方づつ抜かないことである.本接続部材は両ファイバ がメカニカルスプライスに挿入された時にクサビが入っ た状態なので,ファイバ同士が押し合うことができる. 4.さ ら な る 短 余 長 接 続 技 術 の 開 発 ここで,押し合った時にファイバホルダ蓋部(心線側) 4.1 小 型クロージャ用短余長メカニカルスプライス とメカスプ部の間にはファイバがたわめるスペースを設 の構造および工法 けずファイバを固定し,ケーブル側にはメカスプ部との 図 9 に小型クロージャ用短余長メカニカルスプライ 間にたわめるスペースを確保する構造(図 10)を採用 スの構造を示す.メカニカルスプライス型短余長ピグテ した.この結果,必ずケーブル側でファイバが押し負け イルの現場付タイプと類似の構造を取るが,更に短余長 撓むことになり,外被把持型メカニカルスプライスで説 (約 40 mm)で接続ができる.手順は,ケーブル側の 明した環境変化に対して安定な接続が維持できる構造と フ ァ イ バ を 最 初 に 取 り 付 け, レ バ ー を 閉 め る. 次 に, なっている. 本接続物品はファイバがたわまないよう ファイバホルダにセットしたファイバを簡易ストリッ に,メカニカルスプライスとファイバホルダが近接して パ いることから,余分なファイバ処理長を排除し,さらな 7) で被覆除去を行う.スライドレール部が短い本スト る短余長(40 mm)での接続が可能となった(図 10). この時のたわみ形状は,外被把持型メカニカルスプライ ③ クサビ スで得られた実績のある曲げ半径以下にならないように ② 外被把持部材 ④ スライダ ケーブル部 たわみ部 メカスプ部 ファイバホルダ蓋部 ① 本体 ⑧ 簡易スリッパ ⑦ ケーブルホルダ 外被把持部材 ⑥ ファイバホルダ ファイバホルダ 本体 ⑤ 挿入治具 図 10 小型クロージャ用短余長メカニカルスプライス接 続時の内部構造 Fig. 10. Internal structure of a mechanical splice for easy f iber connection in a small closure. 図 9 小型クロージャ用短余長メカニカルスプライス Fig. 9. Mechanical splice for easy connection in a small closure. 表 2 信頼性試験結果 Table 2. Reliability test results. 評価結果 環境試験 機械試験 試験項目 試験条件 1.31 1.55 接続損失 測定波長 1.31±0.01 um,1 . 55±0.02 um の任意の一点で測定すること. Ave 0.05 Ave 0.06 反射減衰量 測定波長 1.31±0.01 um,1 . 55±0.02 um の任意の一点で測定すること. Ave 52.3 Ave 52.5 温度サイクル試験 −40 ℃〜 75 ℃ 21 サイクル ≦0.05 ≦0.05 温湿度サイクル試験 −10 ℃〜 65 ℃,95 % RH,14 サイクル ≦0.05 ≦0.05 引張特性(外被把持部) 5 kg 1 min ≦0.02 ≦0.04 曲げ特性(外被把持部) 500 g 10 回 ≦0.02 ≦0.03 24 接続損失変動量(dB) 短余長光ファイバ接続部材 100 0.4 50 0.3 0 0.2 −50 0.1 −100 −150[℃] 0.0 [dB] −0.1 60 頻度 −0.3 0 70 −200 −0.2 −250 20 −300 60 80 100 120 140 160 180 Time [hrs] 40 被覆除去後の破断力 80 温度 接続損失変動 0.5 50 40 金属ストリッパ 30 樹脂ストリッパ 20 図 11 温度サイクル試験結果(波長 1550 nm) Fig. 11. Temperature cycling test for a new mechanical splice. 10 0 0 0.8 1.6 2.4 3.2 4 ファイバ破断強度 (kg) 4.8 5.6 図 12 簡易ストリッパストリップ後のファイバ破断強度 Fig. 12. Fiber strength after cladding removal by Easy Stripper. 設計している.各種信頼性試験を実施したところ良好な 結果を得た(表 2).環境試験の代表として温度サイク ル試験の結果を図 11 に示す. 簡易ストリッパによるファイバ被覆除去後のファイバ の引張強度を図 12 に示す.破断強度が 4 kgf 以上と金 属ストリッパと同等以上の結果から,簡易ストリッパの 参 考 文 献 性能を確認できた. 1) 棚 瀬ほか:1997 年電情通学会ソサイエティ大会 B - 10 - 38 2) 小 林ほか:2005 年電情通学会ソサイエティ大会 B - 10 - 2 5.む す び 3) 倉本ほか:2012 年電情通学会総合大会 B - 10 - 3 既設小規模住宅やルーラルエリアへの光配線引込み時 4) 山口ほか:2012 年電情通学会総合大会 B - 13 - 5 の課題であった短余長接続を可能とするメカニカルスプ 5) 山口ほか:2012 年電情通学会総合大会 B - 13 - 4 ライスを製品化した.光学特性,機械特性,および,環 6) 伊藤ほか:2012 年電情通学会総合大会 B - 10 - 13 境特性ともに良好なことを確認した. 7) 松田ほか:2012 年電情通学会ソサイエティ大会 今後とも,FTTH の布敷環境に適合する光ファイバ接 続関連物品の開発を進めていく予定である. 25