0.16μm低消費電力システムASIC 菊池 秀和 栗本 雅弘 田代 雅久 近年の微細化技術の進展に伴い,ASIC製品の開発も大 きく変化してきた。ASIC製品は高集積化を実現しミリオ ンゲート級のロジック搭載を容易に可能にしながらも,一 表1 MG73M/MG74M/MG75Mファミリ諸元 使用可能ゲート数 [KG] MG7XM シリーズ名 ベースアレイ名 パッド数 B06 037X037 B08 MG73M MG74M MG75M 148 287 416 471 047X047 188 445 594 676 B10 057X057 228 626 817 926 B12 067X067 268 843 1,044 1,196 B14 077X077 308 1,065 1,313 1,489 B16 087X087 348 1,297 1,549 1,775 B18 097X097 388 1,561 1,853 2,095 B20 107X107 428 1,784 2,165 2,461 B22 117X117 468 2,043 2,479 2,833 低消費電力化を実現した。本稿では,その製品概要,特 B24 127X127 508 2,361 2,859 3,277 B26 137X137 548 2,612 3,171 3,659 徴について述べる。 B28 147X147 588 2,840 3,472 4,035 B30 157X157 628 3,155 3,860 4,503 B32 167X167 668 3,471 4,252 4,981 方では,消費電力,配線遅延,信号ノイズの増大に苦し み,解決法を模索してきた。微細化に伴い従来の手法が 適用できなくなり,新たな手法が要求されている。 0.16μm ASIC製品では,ユニットセルの最適化やゲー テッドクロック手法,クロストーク対策などにより,一 世代前の0.25μmに比べて,3.5倍の高集積化と85%減の ASICファミリの概要 表1に,本製品の諸元を示す。本製品は,メタル3層品, 表2 DC特性 4層品,5層品で構成されMG73M/MG74M/MG75M ファミリと呼ばれる。本ゲートアレイは,4個のトランジ 項目 記号 条件 スタからなるユニットセルを全面敷き詰めたSOG(Sea Highレベル入力電圧 V IH Lowレベル入力電圧 VIL NOR等の基本セルは全て,ユニットセルを下地として配 シュミットトリガ Vt+ しきい値電圧 Vt- 線層で構成するため,ユニットセルの構造がロジック部, (ノーマルバッファ) D Vt Of Gate)タイプで実現される。インバータ,NAND, あるいはチップのサイズやスピードに直接影響する。 0.16μmプロセスを使用し,ユニットセルサイズをで きるだけ小さくすることに重点を置いて設計を行った結 果,一世代前のMG73P/MG74P/MG75P ファミリ (0.25μmプロセス)に比べて,約3.5倍の高集積化を実 Highレベル出力電圧 V OH (ノーマルバッファ) Lowレベル出力電圧 V OL (ノーマルバッファ) Highレベル入力電流 (ノーマルバッファ) I IH Lowレベル入力電流 (ノーマルバッファ) I IL 現した。使用可能ゲート数では,最大で約5百万ゲートま で対応可能である。 3-ステート 出力リーク電流 I OZH (ノーマルバッファ) 基本セル,I/Oセルの電気的特性 表2にDC特性を,表3にAC特性を示す。一世代前の I OZL 定格 最小 標準 最大 TTLノーマル入力 2.0 - VDDIO +0.3 TTLノーマル入力 -0.3 - 0.8 - 1.5 2.1 0.7 1.0 - 0.4 0.5 - VDDIO -0.2 - - TTLノーマル入力 Vt+ - VtI OH =-100mA I OH =-1∼-24 mA 2.4 - - I OL =100mA - - 0.2 I OL =1∼24 mA - - 0.4 VIH =V DDIO - - 10 VIH=VDDIO (50k pd) 10 66 200 VIL=VSS -10 - - VIL=VSS (50k pu) -200 -66 -10 VIL=VSS (3k pu) -3.3 -1.1 -0.3 - - 10 VOH=VDDIO (50k pd) 10 66 200 VOL =VSS -10 - - VOL =VSS (50k pu) -200 -66 -10 VOL =VSS (3k pu) -3.3 -1.1 -0.3 VOH =V DDIO 単位 V mA mA mA mA 電源電圧、温度条件:VDDCORE = 1.65∼1.95V , VDDIO = 3.0∼3.6V, VSS=0V , Tj=−40∼+85℃ 0.25μmプロセスでは,内部電源電圧は2.5Vであったが, 0.16μmプロセスでは同世代プロセスの業界標準である 1.8Vを採用している。内部電源電圧の低下と微細化によ り,0.25μmと比較して約85%減という,大幅な低消費 電力化を図っている。 マクロセルの取り揃え 表4にI/Oセルの取り揃えを示す。通常の3.3Vタイプの I/Oに加え,5VトレラントI/Oを準備した。その他,PCI バッファ,USBバッファ,発振回路も準備しており,多 32 沖テクニカルレビュー 2002年4月/第190号Vol.69 No.2 デバイス特集 ● 表3 AC特性 ドライブタイプ 項目 Inverter 2入力 NAND 表5 条件 標準値 1X 0.051 2X 0.044 4X 0.037 1X 0.062 2X 4X 0.044 0.074 2X 0.058 内部ゲート 4X 0.057 遅延時間 1X 0.261 2X 0.188 Inverter 4X 2入力 NAND 2入力 NOR 1X 0.314 2X 標準配線長 0.177 4X 0.108 1X 0.417 2X 0.269 4X トグル周波数 入力バッファ TTLレベルノーマル入力バッファ 遅延時間 TTLレベル5Vトレラント入力バッファ 出力バッファ 遅延時間 ns 1980 F/O=2 0.306 標準配線長 0.610 プッシュプル 4mA CL=20pF 2.153 ノーマル 8mA CL=50pF 2.077 出力バッファ 12mA CL=100pF 2.679 3ステート 4mA CL=20pF 2.261 12mA CL=100pF 3.737 (r) MHz ns 5Vトレラント出力バッファ 出力バッファ 遷移時間 プッシュプル 3.665 (f) ノーマル出力バッファ 3ステート 4mA 2.480 (r) CL=20pF 5Vトレラント出力バッファ 2.398 (f) 電源電圧、温度条件 : VDDCORE=1.8V ,VDDIO=3.3V,VSS=0V , Tj=25℃ 表4 I/Oセル取り揃え マクロセルタイプ Input Buffers Input Buffers with Pull Up/Pull Down Output Buffers I/O Buffers I/O Buffers with Pull Up PCI Buffers USB Buffer Oscillators Total 3.3V I/O 6 14 33 24 24 2 1 3 107 CBセル 16 2 6 21 8 6 9 21 21 21 9 9 9 12 44 38 6 18 18 18 5 7 12 4 3 5 2 21 32 3 2 4 16 22 14 8 4 2 4 7 331 24 8 203 NAND Gates NOR Gates AND Gates OR-AND/NAND Gates Multiplexers Decoders 0.201 F/O=1,L=0mm SOGセル 13 OR Gates Exclusive Gates AND-OR/NOR Gates 0.111 F/O=0 基本セルタイプ Inverters/Buffers/Drivers 3-State Internal Bus Drivers Clock Tree Drivers 0.050 F/O=2 , L=0mm 1X 2入力 NOR 単位 基本セル取り揃え 5VトレラントI/O 6 14 21 24 24 4 93 Arithmetic Elements Fixed Gates Delay Gates SR-Type Latches D-Type Latches D-Type Flip Flops Scannable Flip Flops JK-Type Flip Flops Toggle Flip Flops Counters Internal Pulse Generator Boundary Scan cells Total RAMマクロ 0.16μm 級のシステムLSIには,少ない場合でも数個, 多い場合には数十個以上のSRAM(スタティックRAM) が搭載されるのが一般的であり,LSIチップ上の半分以上 の面積を占有することも珍しいことではない。したがっ て,搭載されるSRAMのサイズ,パワー,スピードといっ 彩なインタフェースを実現可能としている。 た性能そのものが,システムLSIの性能を左右する重要な 表5に基本セルの取り揃えを示す。SOGタイプの基本 キーファクターとなる。今回0.16μmASIC用SRAMとし セルとして,331種類のセルを準備した。また,CB(Cell ては,クロック同期式のシングルポートSRAMおよびデュ Base)タイプの基本セルとして,203種類のセルを準備 アルポートSRAMを,多種多様な規模(ビット数)の要 した。CBタイプのセルは,各セルの特性に合わせて最適 求に応えられるように,ジェネレータタイプとして開発 化されたトランジスタで設計されているため,SOGセル した。 表6に本SRAMジェネレータで生成できるビット, に比べて高密度化できる利点がある。 ワード仕様を示す。トータルビット数として32ビットか 本製品では,このCBセルを使用して設計されたブロッ クをエンベデッドマクロとして搭載することが可能であ り,より柔軟性に富んだ設計環境を実現している。 これらの他,システムLSIを実現するための搭載マクロ として,PLL,メモリ,CPUマクロ等が準備されている。 ら512Kビットという広範囲な規模のSRAMを生成するこ とが可能である。 今回0.16μmASICでは沖のローパワー戦略に沿って, 小面積と低消費電力に重点を置いた設計を行った。 小面積SRAMを実現するためには,メモリセルそのも ののサイズを極力小さくすることが必要である。そのた 沖テクニカルレビュー 2002年4月/第190号Vol.69 No.2 33 表6 ジェネレータで生成可能なSRAM仕様 最小 4 16 2 32 アドレス入力本数 ワード数 ビット幅 トータルビット数 最大 14 16K 128 512K 成を行った後に,顧客に最終ネットリストと遅延情報を 戻す仕組みとなる。 次に,微細化に伴い新たにタイミング問題を引き起こ すクロストーク問題に対しては,並行配線に対する長さ の制限と配線経路へのリピータの挿入および配線間隔の メモリセルサイズ(μm2) 拡大などの手段を講じた。 6 増大する一方である回路規模に対する方策としては,従 5 来から採用しているフラットレイアウト手法,ボトムアッ 4 プレイアウト手法と,近年注目されているトップダウン 3 レイアウト手法があるが,顧客への設計制約を極力なく 2 し,かつ,チップサイズ増大のインパクトを押さえるた 1 め,最大サイズでもフラットレイアウト手法を選択できる ように構築した。また,設計TATが最優先となる場合に 0 OKI A社 B社 C社 D社 E社 は,階層設計手法も実現できるようシステムを構築した。 さらに,高集積化に伴いクロック系も複雑化し,複数 図1 SRAMメモリセルサイズ他社比 のクロックが使用されて来ている。複数クロックのス めメモリセル部分には,通常の設計基準よりも縮小した キュー調整を実現するために,遅延調整セルを用いた手 特殊設計基準を多数適用した専用設計を施し,シングル 法を提供する。 2 ポートSRAMで4μm 以下のセルサイズを実現した。図1 最後に,ロジック回路規模の増大に対して顕著に効果 に,SRAMメモリセルサイズの他社比を示す。本SRAM が期待できる低消費電力化の方策として,ゲーテッドク のメモリセルサイズは,このクラスのプロセス技術を用 ロック手法をシステム全体で扱えるようにした。これは, いたSRAMセルサイズとして世界最小レベルである。 ゲーテッドクロックセルを論理合成ツールで自動挿入し, また,SRAMの動作が終了した時点で速やかにパワー クロック終点を自動認識することで,レイアウト設計へ ダウンモードに入れるように,ダミーワード,ダミービッ の負荷が極力発生しない特徴を持つ。図3にクロック終点 トを使用したセルフタイミング回路を搭載し,低消費電 の認識例を示す。本手法では,顧客は従来通りRTL(機 力化を実現した。この回路により,本SRAMはクロック 能記述)で論理設計が可能であり,テスタビリティに影 に同期して動作を開始し,完了後は自動的にパワーダウ 響を及ぼすこともない。テストデータを用いた評価では, ンモードに戻る。このパワーダウンモードはDC電流がゼ 最大50%の消費電力を削減できた。 ロであり,電流消費をごくわずかなリーク分に抑えるこ とが可能である。 これら小面積,低消費電力設計を行った結果,一世代 ネットリスト 設計制約 前の0.25μmASIC搭載用のSRAMに比較して,面積で 1/3以下の小サイズを,消費電力で1/10以下のローパワー を実現できた。 レイアウトシステム 図2にレイアウトシステム概要を示す。レイアウトシス テムは,短TATでタイミング収束の問題を解決するため タイミングドリブン配置 タイミング調整 + 再合成 クロック生成 タイミングドリブン配線 に,ネットリストとともに設計制約を顧客から受け取り, 自動配置配線ツールでタイミング調整を行う方法でシス テムを構築した。 タイミング収束を実現するための機能としては,セル 性能のアップダウンとバッファ挿入/削除に加えて,レ 最終 ネットリスト 遅延情報 (SDF) イアウト段階での再合成機能を新たに追加した。本シス テムは,タイミングドリブン配置配線およびクロック生 34 沖テクニカルレビュー 2002年4月/第190号Vol.69 No.2 図2 レイアウトシステム概要 デバイス特集 ● クロックドライバ F/F F/F MUX F/F 図3 クロック終点の認識例 あ と が き 沖電気の最先端である0.16μmプロセスを用いたASIC 製品MG73M/MG74M/MG75Mファミリを開発した。 ロジックゲート部では,前世代の0.25μm比で3.5倍の 高集積化と85%減の低消費電力化を実現できた。 専用SRAMは,0.25μm比で1/3以下のサイズと1/10 以下のローパワーを実現しており,システムLSI向けの大 規模メモリ搭載に十分対応できる。レイアウトシステム は,設計TATとタイミング調整に主眼を置きながら,ロー パワー化とクロストーク対策に対応したシステム開発を 行った。 最大使用可能ゲート数は,約5百万ゲートまで対応して おり,SRAMや,メガセル等を搭載することで高性能な システムLSIを1チップで実現することが可能である。 ◆◆ ●筆者紹介 菊池秀和:Hidekazu Kikuchi.シリコンソリューションカンパニー LSI事業部 設計システム部 栗本雅弘:Masahiro Kurimoto.シリコンソリューションカンパニ ー LSI事業部 設計システム部 田代雅久:Masahisa Tashiro.シリコンソリューションカンパ ニー LSI事業部 設計システム部 沖テクニカルレビュー 2002年4月/第190号Vol.69 No.2 35