10Gbit/s小型トランスポンダの開発 藤咲 芳春 横山 修司 曽野 昌樹 堀尾 丈夫 q橋 智和 北脇 仁史 q木 秀樹 近年,インターネットに代表されるデータ通信の急速 OAT1041,OAT1043,OAT104B,OAT1049である。 な普及により,大容量のネットワークインフラの整備が OAT1041,OAT1043,OAT104Bの各トランスポンダ 急務になっている。基幹系の伝送速度は2.5Gbit/sから は,業界で主流になっているSFF(Small Form Factor) 10Gbit/sへと達しており,小型かつ安価な高速光トラン サイズ(2.2×3×0.53 inch)を実現している。特に スポンダの供給が望まれている。 OAT1041,OAT1043の2×3 inchフットプリントは世 なかでも10Gbit/sトランスポンダは最も活況な分野の 一つであり,2001年の300pinMSAを皮切りに, 界最小である。 以下,各トランスポンダについて個別に詳述する。 XENPAK,XPAK,X2,XFPなど,さまざまなMSAが 発表されている。このようなMSAが普及することにより, OAT1041(SR-1トランスポンダ) 他社製品との互換性が確保され,開発スピードが上がる OAT1041はSR-1準拠(SR: Short Reach)のトラン 利点があるが,反面競合が激しくなるため,我々ベンダ スポンダである。最大伝送距離は12kmとなっており,主 サイドとしてはいかに差別化を図るかが鍵となる。 に基地局の内部配線,短距離伝送への用途を想定している。 シグマ・リンクスではこれまでSONET/SDH系の事実 上の業界標準となっている300pinMSAに注力してきた。 その仕様を表2に,ブロック図を図1にそれぞれ示す。 OAT1041では,送信部に直接変調レーザを使用して 300pinMSA準拠のトランスポンダは,光送受信機能に加 いる。直接変調は波長分散に弱いために長距離伝送には え16:1のMUX,1:16のDEMUXを内蔵しており, 向かないが,波長分散の小さい1.31μm帯の波長を採用 622Mbit/s×16のパラレルインタフェースを備える特徴 することで,12kmの伝送距離を確保している。またペル を持つ。現在,我々は距離・用途に応じて4種の300pin チェ冷却素子を使用しないタイプのレーザを採用してい トランスポンダを開発している。そのラインナップを表1 るため,低消費電力を実現している。 に,写真を写真1にそれぞれ示す。写真は左から順に 表2 OAT1041(SR-1トランスポンダ)の仕様 表1 品名 OAT1041 OAT1043 OAT104B OAT1049 10Gbit/s 300pinトランスポンダラインナップ SONET GR-253 区分 SR-1 IR-2 LR(EA) LR(LN) 距離 サイズ 12km 40km 80km 80km 2×3×0.45 (inch) 2×3×0.53 (inch) 2.2×3×0.43 (inch) 3.5×4.5×0.69 (inch) 全体 ビットレート 電源 消費電力 動作温度範囲 サイズ 送信部 光出力パワー 波長 消光比 受信部 最小受光感度 最大受光感度 伝送距離 9.95328∼10.709Gbit/s +3.3V, +1.8V, -5.2V 3.8W typ. 4.8W max. 0∼70℃ 2×3×0.45 (inch) -6∼-1dBm 1290∼1330nm 6.0dB min. -14dBm max. -1dBm min. 12km (40ps/nm) MSA(Multi Source Agreement) 写真1 トランスポンダのラインナップ 106 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 マルチ・ソース・アグリーメント。複数の企業が集まり統一した仕様 を策定し, それに準拠した製品を提供する形態を指す。 ネットワーク特集 ● 表3 OAT1043(IR-2トランスポンダ)の仕様 622Mbit/s ×16ch 16:1 MUX Driver 1:16 DEMUX TIA 16 622Mbit/s ×16ch 16 Tx DFBレーザ Rx PIN フォトダイオード 300pin コネクタ 図1 ブロック図(OAT1041) 全体 ビットレート 電源 消費電力 動作温度範囲 サイズ 送信部 光出力パワー 波長 消光比 受信部 最小受光感度 最大受光感度 伝送距離 9.95328∼10.709Gbit/s +3.3V, +1.8V, -5.2V 4W typ. 7.5W max. -5∼70℃ 2×3×0.53 (inch) -1∼+2dBm 1530∼1565nm 8.2dB min. -15dBm max. +1dBm min. 40km (800ps/nm) EA 0℃ 25℃ 図2 70℃ 送信波形 (OAT1041) 16 16:1 MUX 16 1:16 DEMUX 622Mbit/s ×16ch 10-4 Tc= 0degC Tc=25degC Tc=70degC -5 10 ビット誤り率 622Mbit/s ×16ch Tx DFBレーザ Driver Rx TIA PIN フォトダイオード 300pin コネクタ 10-6 図5 ブロック図(OAT1043) -7 10 10-8 OAT1041 Spec. -9 10 -10 10 -11 10 -12 10 -20 -18 -16 -14 SR-1 Spec. -12 -10 受信強度 (dBm) 図3 25℃ 図6 70℃ 送信波形 (OAT1043) 受信特性(OAT1041) -4 10 OAT1043(IR-2トランスポンダ) Tc= 0degC Tc=25degC Tc=70degC -5 10 ビット誤り率 -5℃ OAT1043はIR-2準拠(IR: Intermediate Reach)の -6 トランスポンダである。最大伝送距離は40kmとなって -7 おり,主にメトロ系の用途を想定している。その仕様を -8 表3に,ブロック図を図5にそれぞれ示す。 10 10 10 -9 10 -10 10 -11 10 -12 10 OAT1043では,送信部にDFBレーザ集積型のEA変調 器を使用している。波長分散に強い外部変調器を採用し -20 -18 -16 -14 -12 -10 受信強度 (dBm) 図4 伝送後の受信特性(OAT1041) たことで,800ps/nmの分散耐力(1.55μm帯の波長で 40km)を確保している。 図6はローパスフィルタ通過後の送信波形である。消光 比は典型値で10dB程度,また全ての温度において,10% 図2はローパスフィルタ通過後の送信波形である。消光 比は典型値で7.0dB程度,また全ての温度において5%以 上のマスクマージンを確保している。 以上のマスクマージンを確保している。 図7は受信特性である。最小受光感度は−18dBm以下 と,IR-2のスペックに対して十分のマージンを確保して 図3は受信特性である。ビット誤り率=10-12 を満たす いる。また図8に40km伝送後の受信特性(800ps/nm相 受信強度(最小受光感度)は−17dBm以下と,SR-1の 当)を示す。パスペナルティは0.4∼0.7dBと,スペック スペックに対して十分なマージンを確保している。また (2dB)を満たしている。 図4に12km伝送後の受信特性(40ps/nm相当)を示す。 パスペナルティは0.1dB以下と,スペック(1dB)を満 たしている。 OAT104B(LRトランスポンダ) OAT104BはLR準拠(LR: Long Reach)のトランス 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 107 10-4 Tc=-5degC Tc=25degC Tc=70degC -5 -6 10 -5℃ 図10 10-8 IR-2 Spec. -9 10 -10 10 -11 10 -12 10 70℃ OAT1043 Spec. -20 -18 -16 図7 -12 -10 受信特性(OAT1043) 10-6 OAT104B Spec. -7 10 10-8 LR Spec. -9 10 -10 10 -11 10 -12 10 10-4 Tc=-5degC Tc=25degC Tc=70degC 10 Tc=-5degC Tc=25degC Tc=70degC -5 10 -14 -5 送信波形 (OAT104B) 10-4 受信強度 (dBm) -30 -28 10-6 -7 10 図11 10-8 表4 受信特性(OAT104B) 10 Tc=-5degC Tc=25degC Tc=70degC -5 10 -20 -18 -16 -14 -12 -10 受信強度 (dBm) 図8 -24 -4 -9 10 -10 10 -11 10 -12 10 -26 受信強度 (dBm) ビット誤り率 ビット誤り率 25℃ -7 10 ビット誤り率 ビット誤り率 10 伝送後の受信特性(OAT1043) -7 10 10-8 -9 10 -10 10 -11 10 -12 10 OAT104B(LRトランスポンダ)の仕様 全体 ビットレート 電源 消費電力 動作温度範囲 サイズ 送信部 光出力パワー 波長 消光比 受信部 最小受光感度 最大受光感度 伝送距離 10-6 9.95328∼10.709Gbit/s +3.3V, +1.8V, -5.2V 4.5W typ. 8W max. -5∼70℃ 2.2×3×0.43 (inch) -30 -28 -26 -24 受信強度(dBm) 図12 -2∼+2dBm 1530∼1565nm 10dB min. 伝送後の受信特性(OAT104B) 実現している。 受信部では,ファイバ80km分のロスに対応するため, -26dBm max. -5dBm min. 80km (1600ps/nm) PINフォトダイオードと比べて感度の良いアバランシェ フ ォトダイオード(APD)を使用し,ロスバジェット 24dBを確保している。 EA 622Mbit/s ×16ch 16:1 MUX 16 622Mbit/s ×16ch 16 1:16 DEMUX Tx DFBレーザ 光比は典型値で10.5dB程度,また全ての温度において, Driver 10%以上のマスクマージンを確保している。 図11は受信特性である。最小受光感度は−26.5dBm以 Rx TIA APD 下と,LRのスペックを満足している。また図12に80km 伝送後の受信特性(1600ps/nm相当)を示す。パスペナ 300pin コネクタ 図9 図10はローパスフィルタ通過後の送信波形である。消 ブロック図(OAT104B) ルティは1.2∼1.8dBと,スペック(2dB)を満たして いる。 ポンダである。最大伝送距離は80kmとなっており,主に 長距離の単一波長システムへの用途を想定している。そ の仕様を表4に,ブロック図を図9にそれぞれ示す。 OAT1049(LRトランスポンダ) OAT1049はLR準拠のトランスポンダである。 送信部はOAT1043と同じ構成であるが,長距離用の OAT104Bと同様に最大伝送距離は80kmとなっているが, EA変調器を採用したことで,1600ps/nmの分散耐力を OAT1049ではWDMシステムへの用途を想定している。 108 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 ネットワーク特集 ● OAT1049(LRトランスポンダ)の仕様 全体 ビットレート 電源 消費電力 動作温度範囲 サイズ 送信部 光出力パワー 波長 波長安定度 消光比 受信部 最小受光感度 最大受光感度 伝送距離 9.95328∼11.1Gbit/s +3.3V, -5.2V 7W typ. 10W max. (Tunableは13Wmax.) -5∼70℃ 3.5×4.5×0.69 (inch) +4∼+7dBm ITUグリッド (1500.46∼1625.77nm) ±0.1nm (Tunableは±20pm) 10dB min. 10-4 Tc=-5degC Tc=25degC Tc=70degC -5 10 ビット誤り率 表5 10-6 -7 10 10-8 -9 10 -10 10 -11 10 -12 10 -24dBm max. -5dBm min. 80km (1600ps/nm) -30 LN 16 1:16 DEMUX 622Mbit/s ×16ch -24 受信特性(OAT1049) 10 Tx Tc=-5degC Tc=25degC Tc=70degC DFBレーザ -5 10 Driver Rx TIA APD 300pin コネクタ 図13 -26 -4 ビット誤り率 16 16:1 MUX OAT1049 Spec. 受信強度 (dBm) 図15 622Mbit/s ×16ch -28 LR Spec. 10-6 -7 10 10-8 -9 10 -10 10 -11 10 -12 10 ブロック図(OAT1049) -30 -28 -26 -24 受信強度 (dBm) 図16 伝送後の受信特性(OAT1049) -5℃ 25℃ 70℃ 図14 送信波形 (OAT1049) その仕様を表5に,ブロック図を図13にそれぞれ示す。 (300pinMSA)について紹介した。冒頭でも述べたよ うに,MSAビジネスは競合が激しく,顧客からの要求も 益々厳しいものになってきている。今後は更なる高性能 送信部はDFBレーザ+LN変調器の構成をとる。DFB 化,低価格化を進めるとともに,XENPAK,XFPなど他 レーザを交換することで,1500.46∼1625.77nmの幅広 のMSAへの展開も視野に入れ,市場要求にマッチした製 い波長に対応可能である。またチューナブルレーザに交 品開発をしていく予定である。 ◆◆ 換することで,50GHz間隔で8波の波長チューニング,波 長安定度の向上(±20pm)が可能になる。LN変調器は チャープ0.7のz-cutタイプを使用しており,1600ps/nm の分散耐力を実現している。 受信部ではOAT104Bと同様にAPDを使用し,ロスバ ジェット28dBを確保している。 図14はローパスフィルタ通過後の送信波形である。LN 変調器特有の高品質な波形が得られている。消光比は典 型値で12.5dB程度,また全ての温度において,10%以上 のマスクマージンを確保している。 図15は受信特性である。最小受光感度は−27dBm以 下と,スペックを十分に満足している。また図16に80km 伝送後の受信特性(1600ps/nm相当)を示す。パスペナ ルティは0.5∼1.0dBと,スペック(2dB)を満たしてい る。 ●筆者紹介 藤咲芳春:Yoshiharu Fujisaku.株式会社シグマ・リンクス 開 発部 第2プロジェクト 横山修司:Shuji Yokoyama.株式会社シグマ・リンクス 開発部 第2プロジェクト 堀尾丈夫:Takeo Horio.株式会社シグマ・リンクス 開発部 第2プ ロジェクト 曽野昌樹:Masaki Sono.株式会社シグマ・リンクス 開発部 第2 プロジェクト 0橋智和:Tomokazu Takahashi.株式会社シグマ・リンクス 開発部 第2プロジェクト 北脇仁史:Hitoshi Kitawaki.株式会社シグマ・リンクス 開発部 第2プロジェクト 0木秀樹:Hideki Takagi.株式会社シグマ・リンクス 開発部 第2 プロジェクトリーダ ま と め 弊社で開発している10Gbit/s小型トランスポンダ 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 109