AN06 APEX – AN06 AN06P r超高出力PA03のア oduct Innovation From プリケーション 超高出力PA03のアプリケーション 概要 一般に技術者は、小信号オペアンプの使用に精通していま す。超高出力の PA03、小信号オペアンプの優れた性能を維 持したまま出力を大幅に増大させる目的で設計されています。 したがって、この新しいビルディング・ブロックは、従来のモ ジュールやラック・マウント型のデバイスでしか行えなかった精 密で複雑な役割を担うことができます。 この PA03 の主なアプリケーションとしては、 最大 1,000W を負荷に供給するシングル・エンド回路や、ブリッジ接続にして ピークで最大 2,000W を供給する必要があるモーター・サー ボ・システムがあります。直線運動制御、磁気偏向、プログラ マブル電源、および電力変換装置などが代表的なアプリケー ションです。フェーズド・アレイなどの大電力ソナーも、A/B 級出力段の正確な位相応答と直線性によって実現できる重要 なアプリケーションです。IC オペアンプは、従来取り扱える 電力に制限があったため、ロボット、運動制御、その他の大 電流アプリケーションへの実装が不可能でしたが、現在では PA03 をビルディング・ブロックとして使用することによって、 それが可能となっています。 現在市販されている最も強力な TO-3 型ハイブリッド IC は、 許容損失 125W、負荷の駆動能力は最大 250W(Apex Precision Power PA12)ですが、 市販されているモノリシッ ク IC では、より少ない処理しかできません。動的モーター制 御のためのピーク電力要件が 250W を超える場合、電力出 力を増大させるための一般的なアプローチは次の 3 つでした。 (1)2 つまたはそれ以上のパワー・オペアンプの並列駆動ま たはブリッジ駆動、 (2)外部ブースタ・トランジスタ、 (3)モ ジュールまたはラック・マウント型のパワー・オペアンプ これらのオプションによってパワー能力は拡大しますが、一 方で、主にコストの増加、重量オーバー、信頼性の低下など の不利な側面もあります。しかも、形状が大きくなることで、 面倒な設計の足かせになることがあります。システム設計者 は、最高の性能を維持しながら、小型で信頼性が高く、最大 1,000W の出力能力を持ったパワー・オペアンプを必要とし ています。PA03 は、この難しい要件に対応しています。 超高出力の PA03 を使用すると、多くのメリットが提供 されます。 許容可能な内部損失が最大 500W であるため、 PA03 の定格は、従来では最も強力だったオペアンプ(Apex Precision Power PA12)の 4 倍となる最高クラスとなり ます。また、1 個の PA03 では、出力が 4 分の 1 のパワー・ オペアンプと比較しても経済的であり、はるかに信頼性が高 くなっています。内部バイアス部品の温度への追従性により、 複数の部品を並列に使用するのに比べて、PA03 は異常状態 での使用に対してはるかに安全になっています。さらに、内部 の保護回路によって、 2,400W、 1ms の安全動作領域(SOA) を超えない範囲であれば、どのような出力レベルであろうと安 全が保証されます。このアンプは、過負荷時にシャットダウン して自己破壊を防止します。電流制限のための抵抗を内蔵し ているため、通常のパワー・オペアンプで必要とされる大型で 高価なミリオーム・クラスの外部抵抗を必要としません。コレ クタ接地の相補出力段は、12A 時であれば電源レールから 4V の範囲まで、30A 時でも 6V 以内までスイングでき、フル・ シャットダウン制御を備えています。これにより設計者は、繊 細で壊れやすい負荷の保護や、バッテリ動作時の電力消費を 最小化することができます。A/B クラスで動作することで、ク ロスオーバー歪(単一パッケージ構造が本来持っている温度 追従性なしでは実装が難しいという特徴)が低くなります。 R1A R1B R2A 200K 50K +88V 50K C1 1.0nF +88V R2B +88V 50K +88V C2 3.3 nF R2E 50K R2C 50K +88V DRIVE NODE R7 250K A2 A1 R3 1K R1C R1D 200K 50K R5 .05Ω 50W ±50A ±70V 1.4Ω 1 R6 .05Ω 50W 2 M R10A 50K C4 10nF REFERENCE NODE(+44V) +88V R16 250K R13A 200K R8A R8B 200K R2F 50K +88V 50K C5 3.3 nF R14 1K R8C R8D 50K +15V +15V R13B +88V A4 R10B 200K C6 3.3nF R15 1K R17 R10C R10D 50K 200K 82K ±1.25V 50K R13C A5 R9 2.4M R11 .05Ω 50W R12 .05Ω 50W A3 200K R2D 50K R4 1K C3 3.3nF –15V 50K R13D –15V 200K 図1. 超高出力PA03のアプリケーション AN06U www.cirrus.com Copyright © Cirrus Logic, Inc. 2009 (All Rights Reserved) 2009年5月 27 APEX − AN006UREVC AN06 外部バランス・コントロール・オプションによって、元々低かっ たオフセット電圧をゼロにすることができます。PA03 は総合 的な精度が高いため、フォトダイオードへの直接接続、長期 間用の積分器の構築、12 ビット以上の分解能を持つプログラ マブル電源の設計などに最適です。 超高出力の PA03 は、革新的な Power-Dip(デュアル・ インライン・パッケージ)に納められたハイブリッド IC です。 直径 0.060 インチのピンが 0.200 インチの間隔で配置さ れているため大電流に対応し、標準の 0.100 インチ格子上 にレイアウトできます。PA03 の Power-Dip における銅製 基板は、従来の鉄製 TO-3 型パッケージに比べて、8.5 倍の 熱伝導率、3 倍の面積を確保しています。 図 3 に、基準電圧ノードに関連した電流についての詳細を 示します。R2E と R2F は基本的な分圧器を構成しています。 駆動レベルがゼロのとき、R13A と R13B を流れる電流は R7 を流れる電流に等しくなります。R1、R8、R9、R10 に加わる電圧は、44V の基準電圧に対してすべてゼロとなり、 回路はバランスがとれています。記載されている電圧は、 フル・ スケールの駆動レベルに相当します。R7 は、DAC からの入 力である +1.25V を含めて、R13A と R13B を流れる電流 と大体バランスをとっています。R10A、R10B に流れる電 流と R10C、R10D に流れる電流の合計は、R1C、R1D に流れる電流と、R8A と R8B に流れる電流の合計に近い値 になります。ここまでで、その差は 15µA となっており、こ の電流は R9 を通して供給され、基準電圧ノードを 44V に維 持しています。 超高出力トルク・モーター駆動 図 1 の並列ブリッジ回路は、1 つのアプリケーションにお いて可能な出力の強化技術のいくつかを示しています。これ はトランスインピーダンス・モードで動作し、トルク・モーター を駆動します。これにより、モーターのトルクが電機子電流 に正比例するため、発生するトルクに対して D/A コンバータ (DAC)を直接プログラムすることができます。このブリッジ は、安価で効率の良い単一出力の電源を使用し、電流の駆動 能力を増すことによって、出力する電力レベルをさらに 2 倍 にしています。このオプションが不要の場合は、A3 と A4、 および関連する部品を削除してください。 このブリッジ構成を見てみると、A2 と A4 は A1 と A3 の 出力を電源中点の基準電圧ノードに対して反転しています。 したがって、A2 と A4 は A1 と A3 に対して同じ大きさで駆 動しますが、極性は電源中点の基準電圧ポイントに対して反 対になります。基準として電源の中点ノードを使用するため、 アンプが簡単に飽和することはありません。図 2 は、トルク・ モーターに対してフル・スケールの出力電流を流しているとき の A1/A3 と A2/A4 の実際の出力電圧を示しています。 +80.25V (+7.75V) A1 +7.75V (+80.25V) .05Ω +79V (+9V) M +7.75V (+80.25V) 880µA (36.25V) (36.25V) R10B 200K R10D 200K R13A 200K R1C 200K R8A 200K (42.75V) (35V) (35V) R13B 50K R1D 50K R8B 50K +1.25V 171µA +9V 140µA +9V 140µA R9 2.4M (36.25) +7.75V 165µA 図 4 は、駆動ノードに関係する電流を示しています。この 駆動ノードでは R2C と R2D によって基本的な分圧器が構成 されています。 駆動ゼロのとき、R17、R1、R8 には電圧 がかからず、A5 の出力はゼロになり、駆動ノードの電圧は 44V になります。これは、R2C と R2D の電流が等しいと いうことです。R16 を流れる電流は、R13C と R13D を流 れる電流と均衡を保ちますので、残りの抵抗に流れる電流は ゼロとなります。A/D コンバータからのフル・スケール入力 である +1.25V に対して A5 は約 +10V を出力します。駆 動ノードの電圧が 49V に上昇しているため、R16 を流れる 電流と R13C、R13D を流れる電流は均衡しなくなります。 R1A、R1B を流れる電流と R8C、R8D を流れる電流によっ て、駆動ノードの均衡が崩されます。R17 は、電流の不均 A2 A4 A5(図 1)は、ゲイン 4 のレベル・シフターとして構成さ れており、DAC からの± 1.25V 入力を受け、基準ノードに 対して駆動ノードを± 5V にスイングさせます。A1 と A3 は、 それぞれこの差動の 5V 信号を増幅し、モーターの駆動端子 1 に± 25A レベルの電流を出力します。A4 は、A2 の出力 電圧のユニティ・ゲイン・フォロアとなっています。A2 と A4 は、同じ出力電圧であり、電流制限抵抗も同じなので、合計 50A の電流を均等に分担します。 PA03 の FET 入力段のバイアス電流が極めて低いため、 比較的大きな値の精密抵抗を使用することができ、電力損失 を低く抑えることができます。このことによって、 抵抗ネットワー クにおける温度変化を最小限にするだけでなく、A5 における 電力損失も減らすことができます。駆動電圧に依存して発生 する高インピーダンス・ノードのレベル・シフトを防止するため に、基準電圧ノードと駆動ノードの両方について電流バランス をとる必要があります。駆動電圧レベルが基準電圧ノードに対 して対称になっているので、この作業は容易です。 R10C 50K 図3. 基準ノードの電流バランス 図2. フルスケール駆動電圧 28 145µA +80.25V R10A 50K R7 250K (44V) R2F 50K (44V) .05Ω +80.25V (+7.75V) 145µA +80.25V REFERENCE NODE (44V) +9V (+79V) 2 176µA +88V R2E 50K (44V) .05Ω 1 .05Ω A3 880µA +88V 780µA +88V 156µA +88V R2C 50K (39V) 381µA +80.25V R16 250K (39V) R17 82K (31.25V) DRIVE NODE (49V) R2D 50K +9.44V 791µA R13D 200K R1A 200K R8C 200K (49V) (41.25V) (41.25V) R13C 50K R1B 50K R8D 50K 196µA +7.75V 165µA +7.75V 165µA AN06U 図4. 駆動ノードの電流バランス AN06 衡を少し過剰補償するように選ばれています。差動回路であ る A5(図 1)が駆動ノードの電圧を制御するので、トータ ルの電流アンバランス分の 12µA を補正して、公称スイン グは 9.44V になります。R17 による過剰補償のおかげで、 A5 は、部品の許容差のために定格の 10V を超えてスイン グする必要がなくなります。 この回路には多くの抵抗ネットワークがありますが、それ ぞれに重要な役割があります。抵抗比は、ゲインの精度を 保証するために最も重要です。また、抵抗比のマッチング によって、コモン・モード除去と差動電圧の増幅が実現しま す。電源電圧の変動によって基準電圧が変化した場合でも、 特に A5 周辺にある 4 個入りの R13 によって、駆動ノード のスイングがその基準電圧に対して +5V に調整されます。 同様に、4 個入りの R1 と R8 によって、センス抵抗 R5 と R11 の両端電圧が± 1.25V でフル・スケールになるよう設 定されます。トルク・モーターのインピーダンス両端にかか る± 35V の出力スイングは、コモン・モード信号として相殺 され、電流伝達の目的のために設定された電圧が保たれま す。したがって、モーターの巻き線と関連する連結部のイン ピーダンスの変化は精度に影響しません。A4 については、 入力ピンがアンプの出力電圧よりも約 4V ほど基準電圧に近 く保たれている限り、 R10 によってゲイン 1 に固定されます。 出力は電源レールから約 7V の範囲までスイングするので、 コモン・モード電圧の要件である± Vs –10V を満たしてい ます。 PA03を使用したプログラマブル電源 図 5 に、PA03 のシャットダウン機能を利用したシンプル で信頼性の高いプログラマブル電源を示します。D/A コン バータの電流出力に対する電流 / 電圧変換をパワー・オペア ンプ自体で行うため、校正はほとんど必要なく、12 ビット の DAC80 も調整を必要としないほどの高い精度を持って います。 16K +39V +39V 0/-2mA DAC80 +5V SHTDN+ SHTDN– PA03 3R –10V +5V FAULT D.U.T. .05Ω 3R 1.8nF R +15V +15V 18.5V 15A OP07 CMOS LATCH COMP RESET –15V ANALOG OUT CLEAR 力は 0.5% 以内の精度を確保する必要があり、また不測の 短絡(対接地)に耐える必要があります。 OP07 の差動アンプ回路が被試験装置(D.U.T.)の電 流を 4 端子のシャント抵抗で検出し、0.333V/A の信号を コンパレータに与えます。このコンパレータは 18A の電流 で作動してラッチをセットします。次に、ラッチは、問題が取 り除かれるまで PA03 をシャットダウンし、その後ラッチは リセットされます。この安全回路により、試験ソケットにおけ るアーク放電の危険が抑えられます。 16K Ωの帰還抵抗により、DAC 出力が 2mA のときに 必要とされる 32V のフル・スケール出力が可能になります。 0.05 Ωの電流センス抵抗によって、15A のフル・スケー ル出力電流時に 0.75V の信号が作り出されます。この振 幅は、センス抵抗に極端に大きな電力定格のものを使用せ ずに、正確な電流をモニターするという相反する条件の妥 協点になります。ただし、15A での電力消費は 11.25W で、 内蔵された電流制限の最大値である 42A では 88W にも なる可能性があるため、センス抵抗はヒートシンク上に取り 付ける必要があります。 必要な電源電圧を得るには、オペアンプが必要とするヘッ ドルーム(電源と出力の電圧差)に、センス抵抗における 0.75V の電圧降下分を加える必要があります。PA03 の 仕様(30A 時 7V、12A 時 5V の電圧降下)によれば、 15A 時での 6V の電圧降下を想定しておけば良いことにな ります。39V の正電圧を選択した場合、0.25V の余裕が あります。リモート・センシングを使用しない場合は、電線 に大電流を流したときに、その抵抗による電圧降下が生じる ため、可能な限り確実な方法を使用してください。負電源に 対しては、入力のコモン・モード電圧の仕様を満足するため に、10V の最小動作電圧が必要です。 4 種類のパワー・レベルを分析して、ワースト・ケースで のパワー・オペアンプの最大消費電力を算定する必要があり ます。最初の 3 つは最大電流 15A の場合の被試験装置へ の出力電圧レベルです。3 つの計算は、すべて最悪のシナ リオとなる 18.5V 出力を示しています。出力の 18.5V に センス抵抗の両端電圧である 0.75V を加えると、PA03 の出力段の両端には 19.75V が残ります。15A 出力時、 306W(9.8W の自己消費電力を含む)の内部電力損失 が生じ、ケースに対する接合部の温度は 92℃上昇します (PA03 =0.3℃ /W) 。 ワースト・ケースでのパワー要求は 500ms しかないの で、平均電力と熱時定数を算定することで、ヒートシンクの 大きさを小さくすることができます。図 6 は、全体の試験 計画と PA03 に必要とされる電力損失レベルを作り出す個 別の試験手順を示しています。32V の出力レベルの場合、 500ms に対して 103.6W(電源電圧 39V から出力電圧 32V を差し引いて、センス抵抗の両端電圧 0.75V を足し 306 W .999 R 28V 1A .019R 5V = 15A .333V/A OV OA .001R 28V 15A 164 W 20.8W 32V 15A 28V 1A 104 W 20.8W 9.8W 図5. 高出力プログラマブル電源アプリケーション 4.0 このプログラマブル電源は、15A まで取り出すことので きる DC/DC コンバータを試験するために設計されていま す。試験の大部分は 28V で行われます。下限値(18.5V) と上限値(32V)が 500ms の時間、印加されます。 出 AN06U P (W) AVG 3.92 .5 2.0s .5s 2.5s .5s 15.3 4.16 8.2 5.2 5.15 41.93W 図6. プログラマブル電源の内部電力損失 29 AN06 たものに 15A を掛け、自己消費電力の 9.8W を合計)を必 要とします。28V の出力レベルの場合、同じ 500ms に対 して 163W(電源電圧 39V から出力電圧 28V を差し引い てセンス抵抗の両端電圧 0.75V を足したものに 15A を掛 け、自己消費電力の 9.8W を合計)になります。 試 験 の 残 り 時 間 4.5s の 場 合、 最 大 1A の 電 流 で は 20.8W になります。最低必要な着脱時間 4s の間、電力損 失は自己消費電力の 9.8W のみです。このことから、消費 される平均電力はわずか 41.9W だということがわかります。 熱時定数が 10 秒のヒートシンクを使用した場合、最高ピー ク(306W、500ms)は、 時 定 数 の 5% の 時 点になり、 306W を連続的に消費した場合の温度上昇の 4.9% になり ます。スパイク相当の平均電力 15 ~ 41.9W を合計すると、 ピークの短時間に相当する電力は 57.23W と算定されます (厳密にタイミングを測ると若干変わる可能性があります)。 信頼性を確保するため、ピークの接合温度を 150℃、最 大の周囲温度を 38℃と想定した場合、ヒートシンクに許され る温度上昇は 18℃ (150℃– 38℃– 92℃) となります。ピー クの短時間相当の電力が 52.2W の場合、0.35℃ /W の ヒートシンクが必要になります。Apex Precision Power の HS06(0.6℃ /W 自由大気)を 500ft/min の空気速度で 強制空冷することで必要な定格が得られます。 このアプリケーションにおいて、誤ったタイミングやテスト・ ユニットの不具合が原因で異常状態が発生した場合、306W レベルの短時間の動作であれば、サーマル・シャットダウンが 機能して温度上昇を制限するため、PA03 を壊すことはあり ません。ワースト・ケースは、テスト・ソケット内での短絡です。 この状態では、PA03 の電流制限の最大値である 42A ま で達する可能性があります。この電流では、PA03 の両端が 36.9V のままで、センス抵抗(R s)の電圧降下が 2.1V に なります。この電流と電圧のレベル(1.55KW)は、PA03 の安全動作領域(SOA)カーブの 1ms ブレークダウンの線 の内側に完全に入っています。したがって、PA03 のサーマ ル・シャットダウン回路の高速応答により、パワー・オペアンプ を保護し、短絡を取り除くのに必要な時間を稼ぐことができま す。 構築が容易になります。 図 7 に示す D/A コンバータは位置データを電圧に変換し ます。この電圧は、帰還コンデンサ C1 と入力抵抗 R1 によっ て積分器を構成している PA03 の反転入力に印加されます。 精密な基準電圧源とポテンショメータによって実際の位置に相 当する帰還電圧が非反転入力に印加されます。希望する位置 と実際の位置の差を積分した値に基づいて、PA03 がモー ターを駆動します。R2 はダンピング要素として機能し、積分 時定数を制限してオーバーシュートを最小限にします。 シャットダウン制御は毎回の位置更新の後 6 秒間だけ解除 されます。この時間は PA03 にとってアンテナを位置決めす るのに十分な時間であり、54 秒間(時間全体の 90%)の 待機電力を 2W に削減することができます。 このモーターの通常の必要電流は 8A ですが、強風時には 最大 17A 必要になる可能性があります。このアプリケーショ ンでは、アンプの出力は減衰パルスとなり、毎分 1 回、新し い位置までモーターを駆動します。このアンプは、ほとんど の時間で出力が最大の状態(飽和状態)になるため、最大出 力時の消費電力を計算しておく必要があります。 17A 出力時、PA03 は電源電圧(電源レール)から 5.5V の範囲までスイングし、93.5W の内部損失となります。アイ ドリング時の電流 0.2A にトータルの電源電圧 48V を掛けた 結果、9.6W が追加されることになり、トータル 103.1W が アンプで消費されることになります。最大周囲温度 45℃、最 大接合温度 140℃の場合、許容される温度上昇は 95℃とな り、ヒートシンクに必要とされる熱抵抗は次のようになります。 QHS= 95/103.1– 0.3 = 0.62°/W Apex Precision Power HS06 は、この基準を満たして います。 通常の弱風状態では、ピークの電池消耗は 201.6W にな ります。しかし、デューティ・サイクルが最大 10% であること、 および PA03 の省電力シャットダウン機能によって、平均の 消費電力は大きく減少し、次のようになります。 PAV = 0.1 (24*8+48*0.2) +0.9 (48 *0.040) = 22W さらに待機時の消費電力を 2W まで減らすには、通信が必 要なときだけシャットダウン機能を有効にすることができます。 遠隔地での月面反射用アンテナのモーター駆動 ユーザー・アプリケーションにおけるPA03の使用 太陽電池式のデータ収集には電力の節約が不可欠ですが、 一方で、40Ft(12m)のパラボラ・アンテナを位置決めす るには相当量の原動力が必要です。 ビーム角 3° 、位置決め精度 0.5° の場合、月の角速度は 14.4°/ 時なので、毎分 1 回の位置更新で済みます。シャッ トダウン中の位置を保持するためのウォーム・ギア駆動との組 み合わせによる間欠運転で使用される PA03 のシャットダウ ン制御によって、エネルギー効率の良い位置決めシステムの 効率を最大にするためには、要求する出力を生成するため に必要な最低電圧の電源を選択する必要があります。 たとえば、12A で± 45V の出力を得るためには、データ・ シートに規定された電源と出力の電圧差(± 5V)を加えて ± 50V とします。 デュアル電源であれば、 ± 75V もの高電圧が使用でき、 トー タルのレールツーレール電圧が 150V を超えないかぎり、 非対称動作または単電源動作が可能です。コモン・モード電 圧の仕様が電源電圧マイナス 10V となるため、入力電圧は、 常に電源電圧より少なくとも 10V 低い値である必要がありま す。 大電力レベルを取り扱うため、アンプの熱を逃がすための 熱経路は、PA03 のアプリケーションを成功させる上で特に 重要です。1℃ /W 定格のヒートシンクであれば 20 ~ 50W の熱を逃がすのに適当ですが、500W を取り扱うには不十分 です。PA03 に対して、約 0.1℃ /W クラスの熱抵抗を持つ ヒートシンクでは、次のようなことがよく必要とされます。き わめて広い表面積、強制空冷、場合によっては水冷などです。 幸いにも、不十分なヒートシンクが取り付けられた場合でも、 PA03 固有の安全回路によって、通常は、壊れることなくサー マル・シャットダウンを行います。破壊に至るようなパワー・レ ベルはかなり高いため、ほとんどのアプリケーションでは心配 する必要はありません。 大電流パワー・オペアンプを使用するときは、必ず予防策 を講じて、配線における電磁放射による電圧降下で起こる電 流帰還を避ける必要があります。電流定格の大きい PA03 10V REF +24V +5V 1.8nF +S DAC 0/10V M PA03A –S SHT DN R1 –24V C1 R2 図7. 遠隔地での月面反射用アンテナのモーター駆動アプリケーション 30 AN06U AN06 を使用する場合は特に問題になる可能性があります。PA03 には、住宅用配線における分岐回路より大きな電流容量があ るため、電源と出力リードについては、12 番線(AWG)ま たはそれより太い電線で配線する必要があります。 電源を経由した帰還を避けるためには、ピーク出力電流 1 アンペア当たり 10µF のコンデンサ(最大 300µF)に 0.47µF 以上のセラミック・コンデンサを並列接続したもので バイパスする必要があります。また、これらのコンデンサは 電源ラインから 1.5 インチ(38.1mm)以内に取り付ける 必要があります。 高性能のバイパス部品を使用し、優れたレイアウト技術を駆 使し、高品質の電源を使用した場合でも、大きな AC リップル を簡単に引き起こすことがあります。リップルは、誤差の原因 のひとつと考える必要があります。電源が他の回路素子にも電 力を供給している場合は、正帰還が起こる可能性もあります。 電力損失の検討 直流回路における内部電力損失(P)は次のとおりです。 P = (Vs – Vo) Io +(I + Vs I + I –Vs I) IQ ここで : IO: 出力電流 IQ: 静止電流 VO: 出力電圧 VS:電源電圧 誤った電源電圧が使用された場合に、よく計算上の誤りが 生じます。電圧(V s)は、電流を「吸い込む」または「送り 出す」電源ピンにおける電圧である必要があります。ワースト・ ケースの状態(グラウンドまたは電源にショート)を間違って 選択すると、やはり誤りを生じます。 リアクティブ負荷を駆動する場合、出力電圧と電流の位相 差によって、電力損失は等価な抵抗負荷に対して数倍におよ ぶ可能性があります。これらはまったく異なるものですが、同 時に、正確な電力損失(P)を得るために使用できる次のよ うな簡単な方法があります。 P = Pi – Po ここで : Pi = 電源から取り出された電力 Po = 負荷に伝達された電力 純粋なリアクティブ負荷を使用するということは、電源から 取り出された電力はすべてがアンプ内で消費されるということ に留意してください。 8 11 12 +V BAL Q1 BAL D1 Q3 Q2 Q5 1 2 – Q6 Q7 Q12 Q17 Q20 A 4 +SHUT Q18 DOWN Q20 B + Q14 9 COMP Q21 Q22 3 –SHUT DOWN 10 Q31 D4 5 –V 図8. PA03と同等の回路図 接合温度 PA03 の絶対最大電力損失は 500W で、業界標準のディ レーティング手順に基づいています。これは、ケース温度 AN06U 25℃、最大接合温度 175℃での動作を前提としています。 アプリケーションにおける電力損失と最大周囲温度(T A) が既知である場合、パワー・トランジスタのケース(T C)と 接合(TJ)の動作温度は次のように決まります。 TC = TA + P • ѲHS ここで : Ѳ HS = ヒートシンクへの取り付け表面から周囲空 気までの熱抵抗 ѲJS = 内部熱抵抗、接合からケースまで 次のステップに従って、PA03 に適用してください。 1.最大内部電力損失(P)を計算します。 2.PA03 について、必要な信頼性を確保するために許容 できる最大接合温度を決定します。これは、175℃未満 である必要があります。Apex Precision Power では、 150℃以下を推奨しています。 3.接合温度が許容できる周囲温度からの温度上昇(TJ– TA) を計算します。 4.必要とするヒートシンクの熱抵抗を計算します。 ѲHS = (TJ – TA)/P – ѲJC たとえば、周囲温度 30℃で接合温度が 150℃を超えない という条件で 300W を消費する回路では以下のようになりま す。 Ѳhs = (150 – 30)/300 – 0.3 = 0.1°C/W PA03の動作 図 8 の回路図は、PA03 の入力段が、大多数の Apex Precision Power 製 FET 入力ハイブリッド・パワー・オペア ンプと類似していることを示しています。Q21、D1、D4 は 基準電圧源を構成しており、このアンプの入力と出力の両方 にバイアスをかけています。Q31 は入力段への電流源となっ ており、この入力段は、入力 FET ペアの Q20A と Q20B、 カスケード・ トランジスタの Q17 と Q18、 ハーフ・ダイナミック・ ロードの Q2 と Q3 で構成されています。Q5 を流れる電流 は入力 FET ペアの動作電圧(ソース・ドレイン間)を決定し ます。Q12 は、高出力インピーダンスの入力段と出力ドライ バである Q6 の間で、インピーダンス・バッファとして動作し ます。 出力ドライバ Q6 のコレクタ負荷は、電流源、Q29、出力 段で構 成されており、 そ の出力段は、Q16、Q9、 Q24、Q26 で 構 成 さ れ Q4 ています。Q9 と Q26 の コレクタ接 地 構 成により Q9 D2 PA03 の出力を電源レー ル付近までスイングさせる ことができます。インバー + Q16 タの Q16 と Q24 は、局 7 OUT 所 帰 還 ネットワークを 構 Q19 6 成しているため、 出 力 段 – Q24 が、非常に高い入力イン ピーダンスを持つエミッタ・ D3 Q30 Q26 フォロ ア の ような、リニ Q29 Q32 アな特性になっています。 Q34 V BE マルチプライヤ Q19 は、Q16 と Q24 を 介し て出力トランジスタに DC バイアスを与えます。 ま た、出力段の電力を消費 するトランジスタに熱的に結合しています。さらに、この V be マルチプライヤはサーミスタを利用して出力トランジスタ Q9 と Q26 を流れる静止電流の温度安定性を高めています。こ の A/B 級出力段は、全温度範囲で静止電流の安定度が高く、 31 AN06 クロスオーバー歪が低く抑えられています。 D2 と D3 は高速ダイオードで、誘導キックバックを電源レー ルにバイパスすることで出力段を保護します。Q9 と Q26 の 18.6 ミリオームのエミッタ抵抗によって、アンプの出力電流 が検出されます。電流が 35 アンペアを超えると 0.65V が 発生し、それによって Q1 または Q34 がオンします。 その 結果、これらのトランジスタによって、Q6 または Q29 の ベースの駆動入力が阻止され、最終的に出力電流が 35A に 制限されます。Q4 と Q32 は PA03 の先進の安全動作領 域(SOA)保護用のセンサーです。これら 2 つのトランジ スタはパワー・トランジスタ Q9 と Q26 の上に直接取り付け られているため、温度勾配がなくなり、出力トランジスタの 接合部における温度変化への応答時間が最短になります。こ のセンサーのエミッタは、レベル変換器として動作する Q7 と Q30 に接続されており、電流制限トランジスタの Q1 と Q34 をオンにします。相補関係にある Q14 と Q22 のペア は、PA03 のシャットダウンを作動させます。コモン・モード 電圧は除去されますが、2 つのトランジスタ間に印加された 差動電圧によって Q1 と Q34 で構成される電流制限回路が オンし、それによって出力段全体がシャットダウンします。こ のシャットダウンモードでは、出力ピンは負荷に対してハイ・イ ンピーダンス状態になります。図 9 に、高速かつ高信頼性の サーマル・シャットダウンを実現する物理的配置を示します。 THERMISTOR EPOXY Q4,32 T A E COPPER HEADER H BeO F L F T A E O HEATSINK W H SOLDER POWER TRANSISTOR Q9,26 L O W Q19 JUINCTIONS: THE HEAT SOURCE 図9. サーマル・シャットダウンを実現する物理的配置 結論 PA03 は、多様な設計業務を簡略化することができる汎用 性の高い新型のビルディング・ブロックです。これを使用する ことで、従来、限られたスペースにおける線形電力制御の実 現を阻んでいた、サイズや重量の問題を克服することができ ます。パワー・レベルの大きな向上、保護回路の改善、小信 号特性の高性能化により、PA03 はきわめてコスト対効果の 高い技術革新のひとつとなっています。 32 AN06U