日本語参考資料 最新版英語アプリケーション・ノートはこちら AN-1318 アプリケーション・ノート 電流検出アンプ用差動過電圧保護回路 著者: Emmanuel Adrados および Paul Blanchard VIN _ MAX − VRATED _ MAX はじめに ほとんどの電流検出アンプは高い同相電圧(CMV)に対処でき ますが、高い差動入力電圧には対処できません。ある種のアプ リケーションでは、シャントの差動入力電圧がアンプの規定最 大電圧を超えるような故障状態が発生することがあります。こ のような状態はアンプに損傷を与える恐れがあります。このア プリケーション・ノートでは、電流検出アンプ用の 2 種類の基 本的過電圧保護回路を紹介し、これらの回路が 2 種類の電流検出 アーキテクチャ、つまり電流検出アンプ(一例として AD8210 を 使用)と差動アンプ(一例として AD8418 を使用)のデバイス性 能に与える影響を検討します。 R = 3 mA (1) ここで、 VIN_MAX は予想される最大差動電圧、 VRATED_MAX は最大定格電圧(0.7 V)、 R は合計直列抵抗(R1 + R2)です。 たとえば、予想される最大過渡入力電圧が 10V の場合、式は次 のようになります。 10 V − 0.7 V R = 3 mA (2) 過電圧保護回路 R = 3.1kΩの場合は、式 1 に基づき R1 および R2 は 1.55kΩです。 電流検出アンプの過電圧保護用の基本的接続を図 1 に示します。 差動入力電圧がアンプの最大定格値を超えると、アンプは内部 保護ダイオードに電流を流し始めます。追加直列抵抗 R1 と R2 は、入力ピン間に大きな差動電圧信号が加わった場合に、内部 保護ダイオードに大電流が流れるのを防ぎます。 これらの R1 および R2 の値は、アンプの入力インピーダンスに よってはかなり大きな値であり、システムの全体的性能に大き な誤差を生じさせる可能性があります。R1 と R2 の値は、誤差 を最小限に抑えるためにできるだけ低くします。R1 と R2 の値 を小さく抑えるひとつの方法は、図 2 に示すように、電流容量 の大きい外付け保護ダイオードを入力ピンに追加することです。 +5V +5V VS R1 VS R2 GND 10Ω VREF2 D2 IN GND GND 12582-001 GND D1 VCM 図 1. 基本的過電圧保護回路 保護回路によって許容される最大定格電圧と最大入力電流は両 方ともデバイスごとに異なります。一般には、内部差動保護ダ イオードに流れる電流を 3mA に制限します。この値に基づき、 式 1 を使って R1 と R2 の値を計算します。 Rev. 0 OUT R2 VREF2 VCM VREF1 V1 OUT V1 VS 12582-002 VREF1 VS IN 10Ω R1 図 2. 外付けの入力差動保護ダイオードを追加した 過電圧保護回路 たとえば、最大 500mA の順方向電流を流すことのできる DigiKey B0520LW-7-F ショットキー・ダイオードを使用すると、R の値を 20Ω に減らすことができます。 アナログ・デバイセズ社は、提供する情報が正確で信頼できるものであることを期していますが、その情報の利用に関して、あるいは利用によって 生じる第三者の特許やその他の権利の侵害に関して一切の責任を負いません。また、アナログ・デバイセズ社の特許または特許の権利の使用を明示 的または暗示的に許諾するものでもありません。仕様は、予告なく変更される場合があります。本紙記載の商標および登録商標は、それぞれの所有 者の財産です。※日本語版資料は REVISION が古い場合があります。最新の内容については、英語版をご参照ください。 。 ©2015 Analog Devices, Inc. All rights reserved. 本 社/〒105-6891 東京都港区海岸 1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル 電話 03(5402)8200 大阪営業所/〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原 3-5-36 新大阪トラストタワー 電話 06(6350)6868 AN-1318 アプリケーション・ノート 過電圧に対する保護に加えて、図 3 に示すようにコンデンサを 追加すれば、R1 と R2 を使用して電磁干渉(EMI)フィルタを 構成することができます。この構成は、モバイル通信、モータ ー、送電線などの外部干渉源から回路への高周波干渉を防ぐの に役立ちます。 R1 AD8418 は、保護回路がある状態とない状態でテストしました。 このアンプの計算による追加ゲイン誤差と実際のゲイン誤差を 表 2 に示します。 VS C1 R2 C2 V1 VREF1 C3 OUT D1 VREF2 D2 GND 10Ω ゲイン誤差 通常、アンプのゲイン誤差はそのデバイスのデータシートで仕 様が規定されています。AD8210 の計算による追加ゲイン誤差 と実際のゲイン誤差を表 1 に示します。 +5V 10Ω 追加直列抵抗が ゲイン誤差、CMRR、およびオフセット電圧 の各デバイス・パラメータに与える影響を測定するために、 AD8210 と AD8418 の両方を評価します。 同相除去比 12582-003 VCM 図 3. EMI フィルタ付きの過電圧保護回路 この種の EMI フィルタ回路では考慮すべき 2 種類の帯域幅(差動 帯域幅と同相帯域幅)があります。これらの帯域幅は、それぞれ 式 3 と式 4 を使って決定できます。 差動フィルタ帯域幅(−3dB)= 1 C1× C2 2π × (R1+ R2) × + C3 C1+ C2 通常、電流検出アンプは CMV が高い環境にさらされるので、 CMRR は最も重要な仕様のひとつです。CMRR は、そのデバイ スの高 CMV 除去能力と、それによってどの程度の精度と性能を 実現できるかを示す値で、アンプの 2 つの入力端子に等しい電圧 を加えた場合に出力電圧がどのくらい変化するかを表わします。 CMRR は、差動ゲインと同相ゲインの比率として定義され、通 常はデシベルで表示されます。 両方のアンプの CMRR 値を求めるには、式 5 と式 6 を使用しま す。 (3) CMRR = 同相フィルタ帯域幅(−3 dB)= 1 2π × R1× C1 (4) システム性能に関するトレードオフ アンプの入力に直列抵抗を追加すると、一部の性能パラメータ 値が悪化することがあります。一部のアンプでは、R1 と R2 が 内部高精度抵抗と直列になります。その他のアンプでは、オフ セット電流と抵抗の作用でオフセット電圧が発生します。その 影響を最も受けやすいパラメータが、ゲイン誤差、同相除去比 (CMRR)、およびオフセット電圧です。 20∆VCM ∆VOUT CMRR = 20 log R1 結果は、AD8418 では追加外付け抵抗が CMRR 性能に影響を与 えますが、AD8210 ではあまり影響がないことを示しています。 HAMEG HMP4030 AGILENT 3458A METER VS 10Ω VREF1 OUT R2 10Ω D1 D2 VREF2 GND 図 4. ゲイン誤差、CMRR、およびオフセット電圧評価用の テスト・セットアップ Rev. 0 (6) AD8210 と AD8418 電流検出アンプの CMRR の測定結果を、それ ぞれ表 3 と表 4 に示します。 12582-004 YOKOGAWA GS200 PRECISION DC SOURCE (5) ここで、 ADM は AD8210 と AD8418 の差動ゲイン(ADM = 20)、 ACM は同相ゲインΔVOUT/ΔVCM です。 ゲイン誤差、CMRR、およびオフセット電圧の評価に使用する テスト・セットアップを図 4 に示します。このセットアップで は、デバイスへの 5V 単電源供給用に Agilent E3631A 電源、差 動入力電圧信号用に横河 GS200 高精度 DC 電源、CMV 設定用に HAMEG HMP4030、電流検出アンプの出力電圧測定用に Agilent 3458A 高精度マルチメータを使用しています。 AGILENT E3631A +5V POWER SUPPLY 20× ∆VCM ADM = ∆VOUT ACM - 2/3 - AN-1318 アプリケーション・ノート 表 1. AD8210 のゲイン誤差 R1 (Ω) R2 (Ω) 0 0 10.2 10.2 Additional Gain Error (%) 0 0.497 Actual Gain (V/V) 19.9781 19.88059 Actual Gain Error (%) −0.1095 −0.59705 表 2. AD8418 のゲイン誤差 R1 (Ω) R2 (Ω) 0 0 10.2 10.2 Additional Gain Error (%) 0 0.013 Actual Gain (V/V) 19.99815 19.9955 Actual Gain Error (%) −0.00925 −0.0225 表 3. ゲイン 20 における AD8210 の CMRR 性能 R1 (Ω) R2 (Ω) CMV = 0 V and 4 V (dB) CMV = 4 V and 6 V (dB) 0 0 −92.77 −104.96 10.2 10.2 −94.37 −107.99 表 4. ゲイン 20 における AD8418 の CMRR 性能 R1 (Ω) R2 (Ω) CMV = 0 V and 35 V (dB) 0 0 −127.72 10.2 10.2 −88.89 CMV = 4 V and 65 V (dB) −121.49 −121.86 CMV = 35 V and 70 V (dB) −123.72 −104.35 CMV = 6 V and 65 V (dB) −123.35 −123.10 CMV = 0 V and 70 V (dB) −138.39 −93.05 表 5. 入力オフセット電流と外部インピーダンスによる AD8210 の追加オフセット電圧 R1 (Ω) R2 (Ω) VOUT (mV) Additional Offset Voltage (RTI) (ƒΚV) 0 0 5.598 17 10.2 10.2 5.938 17 表 6. 入力オフセット電流と外部インピーダンスによる AD8418 の追加オフセット電圧 R1 (Ω) R2 (Ω) VOUT (mV) Additional Offset Voltage (RTI) (mV) 0 0 −0.91 1.3 10.2 10.2 26.09 1.3 オフセット電圧 外付け抵抗にバイアス電流が流れると、デバイスの内部オフセ ット電圧と直列に電圧が発生します。この追加的なオフセット 電圧を計算するには、式 7 に示すように、2 つのバイアス電流 の差である入力オフセット電流(IOS)に、入力ピンの外部イン ピーダンスを掛けます。 オフセット電圧 = IOS × R (7) ここで、 IOS は入力オフセット電流、 R は追加外部インピーダンスです。 AD8210 および AD8418 の両方の電流検出アンプの実際の測定値 に基づくオフセット電圧の増加量を、それぞれ表 5 と表 6 に示 します。 結果は、AD8418 のオフセット電圧増加量の方が、AD8210 のオ フセット電圧増加量より大きいことを示しています。これは、 AD8418 の入力オフセット電流が約 100µA と非常に大きいため です。入力ピンの追加的なインピーダンスは、入力オフセット ©2015 Analog Devices, Inc. All rights reserved. Rev. 0 電流により追加オフセット電圧として現れます。したがって、 オフセット電圧への影響を最小限に抑えるために、AD8418 の直 列抵抗には値が小さいものを推奨します。 結論 電流検出アンプを過電圧から保護する最も簡単な方法として、 入力ピンに直列抵抗を追加します。この回路では許容入力電圧 に十分な余裕を持たせることができますが、追加コンポーネント の分だけコストがかかります。ゲイン誤差、CMRR、オフセッ ト電圧などの性能への影響の大きさは測定可能で、その値は外 付け抵抗の合計値と使用する電流検出アンプのタイプに関係しま す。 ロバスト性に優れたアンプを実現するための過電圧保護の詳細 については、アナログ・ダイアログの記事「Robust Amplifiers Provide Integrated Overvoltage Protection(ロバスト性に優れた過 電圧保護回路内蔵アンプ)」を参照してください。 商標および登録商標は、それぞれの所有者の財産です。 - 3/3 -