車載用プレスフィットコネクタ

技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
1
技術紹介
9
車載用プレスフィットコネクタ(MX17Pシリーズ)の開発
Development of Press-fit Connector for Automotive
戸谷 友之
Tomoyuki Totani
コネクタ事業部 技術三部 シニアマネージャー
田畑 公暢
Kiminobu Tabata
コネクタ事業部 技術三部
キーワード: コネクタ、プレスフィット、鉛フリー、自動車、ECU
Keywords : Connector, Press-fit, Pb-free, Automotive, ECU
要 旨
SUMMARY
端子の基板スルーホール挿入部に弾性構造を持た
せ、基板とコネクタの接触を維持する「プレスフィッ
ト端子」は、民生機器等では多く利用されていますが、
“Press-fit terminals,” which can provide flexible
structure to PCB's throughhole insertion part of
terminals and keep contact of PCBs and connectors,
are widely used for commercial appliances. But, for
automotive applications with severe environment,
use of the terminals in as-is condition has still many
problems. By clearing the problems while assuring
flexibility in PCB design, we developed the press-fit
connector (MX17P series) for automotive application.
The connector is usable for a relatively limited
automotive environment.
使用環境の厳しい車載機器ではそのまま流用するに
は多くの課題を持っています。基板の設計に自由度を
確保しつつこれらの課題 解決を行い、比較的限定さ
れた車載環境に適合する要件の中で使用可能な、車
載用プレスフィットコネクタ (MX17P シリーズ ) の開
発を行いました。
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)
技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
1 はじめに
近年において社会的に有害物質および環境負荷物質を低減する動きが活発となり、分
野を問わず、製造業にはこれらの物質を含まない製品を作ることが要求されています。
航空電子では車載用コネクタの鉛フリー化の要求に対する提案の一つとして、従来のス
ルーホール半田接続に代わるプレスフィット接続による基板接続の検討をして参りました。
プレスフィット接続は電話交換機やメインフレームコンピュータ等のいわゆる民生機器
において利用実績のある接続方法であり、以下のような特徴があります。
○ 端子の基板スルーホール挿入部に弾性構造を持ち、スルーホールに対して弾性構造
の復元力によって接触をする構造である。
○ 無半田接続であり、鉛フリーはもとより半田が不要である。
○ 半田付け用の熱源が不要となり、無駄なエネルギー消費が少ない。
一方、カーエレクトロニクス分野では、他の電子部品の SMD( 表面実装部品 ) 化が進
む中、コネクタは大きさや接続信頼性の面から従来のスルーホール半田接続が使用されて
きました。このため、コネクタを基板に実装するためだけの半田付け設備や工程を設ける
ことが必要となっています。これに対し、車載用コネクタのプレスフィット接続の利用は
これらの設備や工程を削減し、結果としてカーエレクトロニクス部品の無害化の促進以外
にも、製造コストの低減をもたらす効果も考えられます。
このような顧客ニーズに対応すべく、車載用プレスフィットコネクタ (MX17P シリー
ズ ) の開発を行うことになりました。
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)
2
技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
2 開発の要求事項
今回開発を行った車載用プレスフィットコネクタは、車室内に搭載される ECU(電子
コントロールユニット)に使用され、開発の要求事項は以下のとおりです。
○ プレスフィット接続が車載環境に耐えること。
○ 基板の製造を従来の製造技術で行えること。
○ コネクタの基板への実装工程を考慮した構造であること。
また、図 1 に ECU の概略の構造を示します。
ECU
�������
��������������
��
������
図 1 ECU の構造(概略)
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)
3
技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
3 製品構造
図 2 に車載用プレスフィットコネクタの構造を示します。
�������
��
(��������
����
��
(��������)
図 2 車載用プレスフィットコネクタの構造(背面斜視図)
各部品の機能は以下の通りです。
インシュレータ : 各端子の保持、外部や各端子間の絶縁および相手側コネクタとの接続
保持の機能を持ちます。
端子(コネクタ接続部): 相手側コネクタの端子と接触し、通電する機能を持ちます。
端子(プレスフィット部): 基板スルーホール部と接触し、通電する機能を持ちます。
ロケータ : インシュレータ背面側より基板に向けて伸びた端子の整列および変形防止の
機能を持ちます。
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)
4
技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
4 製品仕様
表 1 に車載用プレスフィットコネクタのプレスフィット部の仕様を示します。
表 1 プレスフィット部仕様(概要)
項目
端子の仕様
適用基板の仕様
接続性能仕様
規定
材料
リン青銅
めっき
Sn めっき
基板材質
FR4 または FR5 相当
基板厚
1.6 mm
スルーホール径
φ 0.94 mm ∼φ1.09 mm
( めっき後の仕上り径 )
スルーホールめっき
Cu めっき
接触抵抗
≦ 0.4 m Ω
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)
5
技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
5 製品特徴
5.1 プレスフィット部の構造
プレスフィット接続の原理は、端子のプレスフィット部分と基板スルーホールとのはめ
あい関係が“しまりばめ”となるように設計することで、締め代によって発生する復元力
により接触、通電をします(図 3)
。
�D1
(�����)
���������
�����E1
������
(������
� ������)
�������
E = 1 / ( 1/E1�1/E2 )
����F
�D2
���������
�����E2
�����D=D1-D2
��������
図 3 プレスフィット接続の原理
しかし、外形を打ち抜いただけの中実断面の端子をプレスフィット接続に利用した場合、
スルーホールの製造精度を極めて高精度にしなければ、スルーホールめっきの断線や基板
の破損、復元力不足による接続不良が発生してしまいます。これは基板の製造に高度な
製造技術を要することになり、基板のコストアップや供給不安定を引き起こします。
これに対し車載用プレスフィットコネクタでは、プレスフィット部の形状を図 4 に示すよ
うに端子の中心部を打ち抜いた形状(アイレット形状と呼ばれる)にすることで、弾性構
造を持たせ、φ 0.94 ∼φ1.09 のスルーホール径に対して電気的接続、機械的接続を十
分に維持できる接触性能を持った形状としました。この対応可能なスルーホール径の範囲
は IEC 規格に準拠しており、従来の製造技術で製造可能な精度になります。図 5 にスルー
ホール径に対する接触力の特性を示します。
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)
6
技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
������
����
������
����
����
図 4 プレスフィット部の形状
�������������
��
��
�������
��
��
0.06mm�����
�������
����
��0.94��1.09�
��
��
��
����
����
����
����
����
����
����
����
����
�
0.17mm�����
��������
�����
�����
�����
�����������
����������������
���
���
���
������
���
���
��
�������
����
��0.94��1.09�
��
��
��
�����
�����
�����
�����
�����
�����
�����
�����
�����
�����
�
�������
図 5 スルーホール径 - 接触力特性
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)
7
技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
5.2 車載環境に対する耐久性能
自動車は、自身が熱源や振動源を持ち、様々な走行環境で利用されるため、カーエレ
クトロニクス部品にも相応する耐久性能が求められます。
車載用プレスフィットコネクタでは表 2 に示すような各耐久試験やこれらを組み合わせ
た複合耐久試験により、接続性能の評価を行いました。
試験に使用した基板サンプルは、仕様である適用スルーホール径の範囲 ( φ 0.94 ∼
φ1.09) に対し、φ 0.92、φ1.015、φ1.11 の 3 水準のスルーホール径のサンプルを
製作しました。これらの基板に車載用プレスフィットコネクタを実装し耐久試験を行うこと
で、製造誤差に対する評価も併せて行いました。
表 2 プレスフィット部評価の試験項目および確認項目
試験項目
初期確認
耐久試験
高温放置試験
低温放置試験
サーマルショック試験
湿度試験
電流サイクル試験
振動試験
コネクタ繰り返し挿抜試験
コネクタこじり試験
耐油性試験
耐塵性試験
耐腐食ガス性試験
複合耐久試験
確認項目
端子単体挿入力 ( 初期確認のみ )
端子単体保持力
接触抵抗
温度上昇
また、カーエレクトロニクス部品は自動車の搭載箇所により、要求される耐久性能が異
なります。例えば、人が搭乗する車室内に搭載される場合とエンジンルームに搭載される
場合とでは、後者の方がより厳しい温度条件、振動条件に対する耐久性能が要求されます。
車載用プレスフィットコネクタは、その使用用途から車室内の搭載環境で要求される耐久
性能を有しております。
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)
8
技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
5.3 コネクタの基板への実装方法
車載用プレスフィットコネクタは、ECU メーカーにて基板へ実装され、ECU の組立が
行われます。
実装方法は図 6 に示すように、コネクタを下にして基板を上から実装する方法と、基板
を下にしてコネクタを上から実装する方法の 2 通りがあります。ただし、前者の方法では、
作業者から見てコネクタが基板で覆われるため、コネクタの端子をスルーホールに挿入す
ることが難しくなります。そこで、車載用プレスフィットコネクタでは端子がスルーホール
に案内されるように、コネクタにガイド用のボスを加え、適用基板にそれに対応するガイ
ド用の穴を加えました。これにより、基板への実装作業の作業性を確保しました。
�������
����
���
���
�����������
���������
図 6 コネクタの基板への実装方法
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)
9
技術紹介 9 車載用プレスフィットコネクタ(MX17P シリーズ)の開発
10
6 むすび
車室内のカーエレクトロクス部品に使用できる車載用プレスフィットコネクタを開発致し
ました。
これによりカーエレクトロニクス部品の無害化の促進など、人、環境に対し無害な製品
の提供に貢献できます。
今後は他のカーエレクトロニクス部品への展開検討のほか、製品性能および信頼性の更
なる向上を検討していく所存です。
7 謝辞
このたび 製 品を開 発するにあたり、本田技 研工 業
(株)
殿、
(株)
本田技 術 研究 所殿をは
じめとする、有益なご教示を頂いた皆様方に深謝致します。
Copyright c 2006, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.29(2006.3)