WHITE PAPER 市場成長とベストプラクティスに見る HA ソリューションの

WHITE P APER
市場成長とベストプラクティスに見る HA ソリューションの新たな可能性
~事業継続、クラウド、新興国での加速~
Sponsored by: NEC
入谷 光浩
November 2013
IDC Japan(株)〒 102-0073 東京都千代田区九段北 1-13-5 Tel 03-3556-4761 Fax: 03-3556-4771 www.idcjapan.co.jp
IDC の見解
業務やサービスを支える IT システムの可用性の向上は、企業や組織にとって、重要
な課題として位置付けられる。アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアに
よる HA(High Availability:高可用性)ソリューションは、可用性を向上させるため
の 最 も 効 果 的 な 手 段 の 一 つ で あ る 。 NEC は 「 CLUSTERPRO ( 海 外 市 場 向 け は
EXPRESSCLUSTER)」による HA 戦略を推進していくことで、企業や組織により高
い信頼性をもたらしていくであろう。
本ホワイトペーパーのポイントを以下に示す。
 アジア太平洋地域(以下、APAC)におけるアベイラビリティ/クラスタリング
ソフトウェア市場は堅調な成長を続けており、HA に対する需要は拡大している。
2012 年におけるベンダー別売上額シェアでは NEC が 2009 年から 4 年連続となる
1 位を獲得している。
 Linux と Windows が搭載されている x86 サーバープラットフォームにおけるアベ
イラビリティ/クラスタリングソフトウェアの導入が拡大している。NEC は
APAC の Linux 向け市場と Windows 向け市場においてリーダーの地位を確立して
いる。特に Linux 環境における 2012 年のベンダー別売上額シェアでは 36.2%を獲
得し、シェアトップとなっている。
 仮想化、クラウドのような新たなプラットフォーム上に構築される IT システム
に対する可用性の向上が、今後重要な課題となる。NEC はすでにその課題に対
して取り組んでおり、パブリッククラウドサービスとアベイラビリティ/クラ
スタリングソフトウェアを組み合わせた HA ソリューションでコスト削減と信頼
性の向上の両立を実現した。
 NEC は HA のグローバル戦略を加速させている。特に IT 化が急速に進んでいる
新興国に対する HA ソリューションの展開に注力している。本調査レポートでは、
ネパールの銀行向けとサウジアラビアの保険会社向けの 2 つの NEC のディザス
ターリカバリー(DR)ソリューション事例について分析している。
 NEC の CLUSTERPRO による HA ソリューション戦略は、さまざまなプラットフ
ォームへの迅速な対応、コア機能の強化による信頼性の向上、DR やクラウドな
どへの適用範囲の拡大という 3 つの大きな方向性を軸に、HA ソリューションの
可能性を広げている。
 企業や組織は、顧客やパートナー、従業員からの信頼を向上させるために、IT
システムの HA 化に対して十分に投資していくことが必要である。そして、自社
のニーズに柔軟に対応でき、かつ信頼性の高い HA ソリューションを持つベンダ
ーを選択することが望ましいと IDC では考える。
最重要課題である IT システムの HA
企業や組織がさまざまな活動を行う上で、IT は重要な役割を担っている。多くの業
務が IT システムによって支えられ、今では 24 時間 365 日、国や地域を越えてサービ
スを提供することが当然のようになっている。言い換えると、企業や組織の活動は
それだけ IT システムに依存していることになる。その分、IT システムの信頼性に対
する要求レベルも日を追うごとに高まっており、IT システムの HA 化は IT 戦略にお
ける最も重要な課題の一つと言える。
IT 管理者にとって最も注意しなければならないのは、予期せぬシステムダウンであ
る。システムダウンによる業務やサービスの停止に伴うビジネス機会の損失はもち
ろんのこと、さらには顧客や取引先、株主などステークホルダーに対する信頼の失
墜など計りしれないものがある。IT 管理者はこのような事態にならないためにも、
突然発生するハードウェアや OS、アプリケーションの障害、そして地震や火災のよ
うな災害から、業務やサービスに必要不可欠なデータやアプリケーションの資産を
守っていかなければならない。特に財務会計や販売管理のような企業における基幹
業務、EC(Electronic Commerce)サイトやオンライン取引のような顧客向け Web サ
ービスなど、ミッションクリティカル性が求められるシステムでは高可用性の確保
が必須となる。
IT システムの可用性を高めるためにはさまざまな手段があるが、重要なことは、障
害の発生時に、業務やサービスを停止させることなく他のハードウェアにワークロ
ードを引き継げるかどうかである。これは HA クラスタリングソフトウェアを利用す
ることで実現できる。システムを稼働系サーバーから待機系サーバーへ引き継ぐフ
ェイルオーバーを始め、データのミラーリング、DR などソリューションも多様化し
ている。さらに仮想化とクラウドが急速に浸透しており、そうした新たなプラット
フォームにおける HA も今後より重要な課題となる。
IDC では、HA クラスタリングソフトウェアを含め、システムの可用性を高める機能
を有するソフトウェアをアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアと定義し
ている。本ホワイトペーパーでは、APAC におけるアベイラビリティ/クラスタリン
グソフトウェア市場の動向を整理し、今後の将来性について NEC の HA クラスタリ
ングソフトウェア CLUSTERPRO による HA ソリューション戦略を、そのユーザー事
例と共に考察する。
新たな成長機会が出てきた HA ソリューション
APAC アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場
動向
2012 年における APAC のアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場規模
は、前年比 4.5%増の 3 億 4,920 万ドルと堅調に推移した。各国において仮想化の導入
が進んでおり、アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアによって仮想基盤
の高可用化に取り組む動きが強まっている。また APAC は地震など災害が発生しや
すい地域でもあり、事業継続のためにアベイラビリティ/クラスタリングソフトウ
ェアを活用した DR システムを構築するケースが増えてきている。
2012 年における APAC のアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場のベ
ンダー別売上額シェアを Figure 1 に示す。CLUSTERPRO を開発および販売している
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NEC が 23.8%でシェア 1 位となり、2011 年から 1.2 ポイントシェアを拡大した。また、
2009 年から 4 年連続でシェア 1 位を継続している。
FIGURE 1
APAC アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場 ベンダー
別売上額シェア、2012 年
NEC (23.8%)
Others (26.3%)
HP (5.3%)
Microsoft (15.2%)
IBM (6.1%)
VMware (6.4%)
Symantec (6.5%)
Fujitsu (10.4%)
Total = US$349M
Note: APAC は、オーストラリア、中国(中華人民共和国)、香港、インド、インドネシア、日
本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、台湾、ベトナム、タ
イなどを含む
Source: IDC Asia Pacific, November 2013
APAC 主要国における HA ソリューション
APAC アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場における日本、中国、イ
ンド、アジア/オセアニア先進国(韓国、香港、台湾、オーストラリア、ニュージ
ーランド)、ASEAN 主要 5 か国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガ
ポール、タイ)、アジア新興国/その他 APAC(ベトナム、ミャンマー、ネパール、
ラオス、カンボジア、バングラデシュ、スリランカなど)の 2012 年~2017 年の年間
平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)予測を Figure 2 に示す。日本は
2.9%、中国は 7.4%、インドは 12.0%、アジア先進国は 4.5%、ASEAN 主要 5 か国は
4.1%、アジア新興国/その他 APAC は 8.4%となっている。以下に各国の市場動向を
説明する。
日本
日本の 2012 年の市場規模は前年比 4.4%増の 2 億 5,130 万ドルとなった。日本の市場
規模は APAC 全体の約 72%を占めている。サーバー仮想化の急速な浸透に伴い、
VMware vSphere と Windows Server Hyper-V の仮想環境上で HA 化に取り組む企業が増
加している。2011 年の東日本大震災以降、DR ソリューションとしてアベイラビリテ
ィ/クラスタリングソフトウェアを活用する事例が増えつつあり、今後も堅調な市
場成長が見込まれる。
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中国
中国の 2012 年の市場規模は 1,740 万ドルで、APAC の中で日本、オーストラリアに次
いで 3 番目に大きい市場である。2012 年の前年比成長率は 6.7%であった。銀行や証
券、通信、製造を始めとする大手企業において大規模なミッションクリティカルシ
ステムの構築が進められており、アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア
による HA 化の需要が拡大している。また、多くの企業でデータセンターの仮想化が
進められており、仮想環境上のミッションクリティカルアプリケーションの HA 化が
増加し、高い市場成長を後押ししている。こうした傾向は今後も続き、2012 年~2017
年の CAGR を 7.4%と予測している。
インド
インドの 2012 年の市場規模は 1,680 万ドルで、中国とほぼ変わらない規模である。市
場を牽引している業種は、金融と通信、政府、IT サービスである。インドでは電力
不足で停電となることが多く、IT システムの HA 化は必須となっている。インドで
は Windows サーバーが主流であるが、近年では中堅中小企業を中心に Linux サーバー
の採用が増加しており、Linux 環境の HA ソリューションにも注目が集まっている。
他の主要国に比べると仮想化の導入はやや遅れているが、今後の加速が期待され、
仮想環境での HA 化に対する需要も高まるとみている。インドの 2012 年~2017 年の
CAGR は 12.0%と予測している。これは APAC 主要国の中で最も高く、大きな市場成
長が見込まれる。
アジア先進国
オーストラリア、香港、韓国、ニュージーランド、台湾のアジア先進国の市場規模
は 2012 年で 4,690 万ドルとなり、前年比成長率は 4.9%である。APAC で日本に次ぐ 2
番目の市場規模を持つオーストラリアは仮想化の浸透が早く HA 化の需要が拡大して
おり、前年比で 6.3%成長した。デバイスメーカーが急成長している台湾では IT シス
テムの HA 化が急速に進んでおり、2012 年は 12.1%の成長を達成した。
ASEAN 主要 5 か国
ASEAN 主要 5 か国の 2012 年の市場規模は 1,620 万ドルである。ASEAN 主要 5 か国の
中で市場を牽引しているのは、構成比が約 60%であるシンガポールである。シンガ
ポールには多くのグローバル企業が進出し、データセンターが多く建設されている。
特にクラウドを志向したデータセンターが増え、可用性に対する意識も非常に高く
なっており、HA ソリューションのニーズが急速に拡大している。また、大手企業が
多く進出しているフィリピンは DR 対応を図る企業が増えており、2012 年は 7.3%の
成長となっている。
アジア新興国/その他 APAC
大手製造業の進出が増えているミャンマーや経済成長が著しいラオスなど、アジア
の新興国が今後の APAC 市場の新たな成長国として期待されている。現状ではアベ
イラビリティ/クラスタリングソフトウェアの市場規模はまだ小さいが、2012 年~
2017 年の CAGR は 8.4%と高い成長が見込まれる。IT 化は非常に速いペースで進んで
おり、それに伴い IT システムの HA に対する需要も高まるであろう。
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FIGURE 2
APAC アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場 2012 年~
2017 年の年間平均成長率予測
日本
2.9
中国
7.4
インド
12.0
アジア先進国
4.5
ASEAN主要5か国
4.1
アジア新興国/その他APAC
8.4
0
2
4
6
(%)
8
10
12
14
Notes
 アジア先進国は、韓国、香港、台湾、オーストラリア、ニュージーランドである
 ASEAN 主要 5 か国は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイであ
る
 アジア新興国/その他 APAC は、ベトナム、ミャンマー、ネパール、ラオス、カンボジア、
バングラデシュ、スリランカなどが含まれる
Source: IDC Asia Pacific, November 2013
x86 サーバープラットフォームにおける HA ソリューショ
ン:Linux と Windows の需要の高まり
APAC におけるアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場の 2012 年の
Linux 向けの市場規模は 1 億 2,922 万ドルで、前年比成長率は 9.8%である。Linux 向け
市場は年々成長を続けており、市場全体の成長率 4.5%を上回っている。この高い成
長の背景には、以前は UNIX が担っていた高可用性を必要とするミッションクリティ
カルシステムの役割を、現在では Linux が担っているということがある。たとえば、
ニューヨーク証券取引所、ロンドン証券取引所、東京証券取引所ではトレーディン
グシステムのプラットフォームに Linux を採用している。これは世界的に最も有名な
事例として知られているが、企業や組織においても Linux がミッションクリティカル
システムに採用されるケースは増加しており、そこにアベイラビリティ/クラスタ
リングソフトウェアを導入することで可用性を高めるソリューションが展開されて
いる。
2012 年の Windows 向けアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアの市場規模
は 1 億 3,739 万ドル、前年比成長率は 5.9%である。x86 サーバー向けの仮想化が増加
しており、その多くにおいてハイパーバイザー上で Windows とアプリケーションが
稼働している。ここに対して HA が求められるようになってきており、Windows 環境
においてアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアが使用される機会が増え
ている。
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上述した Windows 向けと Linux 向けにおけるアベイラビリティ/クラスタリングソフ
トウェア市場の成長は、x86 サーバーでの HA が増加していると捉えることができる。
x86 サーバーは企業の基幹業務システム、金融や EC サイトのオンラインシステム、
ソーシャルネットワーキングサービスのプラットフォームなど、停止が許されない
システムへの適用が拡大し続けている。それに伴って高い可用性が求められるケー
スが増えており、アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアに対する需要も
より高まっていくことになる。
また、Windows 環境と Linux 環境の混在を考慮する必要も出てくる。x86 サーバーを
使用している企業や組織は、Windows と Linux を併用していることが多い。また、現
在 Windows サーバーのみであっても、今後のコストや拡張性のことを考え、新たに
構築するシステムには Linux サーバーを採用することも想定しておかなければならな
い。そうした場合、同じハードウェアプラットフォームを利用する Windows と Linux
の可用性を個々に管理することは効率的ではなく、それらの統合的な管理によって
効率化を図っていかなくてはならない。
Linux 向けアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場のシェア
Figure 3 は、2012 年における APAC の Linux 向けアベイラビリティ/クラスタリング
ソフトウェアのベンダー別売上額シェアである。Linux 向け以外も含めた市場全体で
シェア 1 位の NEC が、Linux 向けでも 36.2%のシェアを獲得しマーケットリーダーに
なっている。NEC は早くから Linux 市場の成長性に着目しており、さまざまな Linux
ディストリビューションへの対応を図るなど、他のベンダーに先駆けて Linux 向け製
品の投入や強化を図ってきた。ミッションクリティカルなシステムで Linux の採用が
増えてきた金融での 100 ノード以上の大型導入を始め、通信や官公庁、製造業などさ
まざまな顧客層を獲得している。また、APAC の Windows 向けアベイラビリティ/ク
ラスタリングソフトウェアのベンダー別売上額シェアにおいても NEC は 26.5%のシ
ェアを獲得しており、2 位のポジションにある。NEC は APAC の x86 サーバープラッ
トフォーム向けアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場でリーダーの
地位を確立している。
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FIGURE 3
APAC Linux 向けアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場
ベンダー別売上額シェア、2012 年
Others (30.5%)
NEC (36.2%)
Symantec (4.9%)
IBM (6.1%)
SIOS Technology
(12.5%)
Fujitsu (9.8%)
Total = US$129M
Note: APAC は、オーストラリア、中国(中華人民共和国)、香港、インド、インドネシア、日
本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、台湾、ベトナム、タ
イなどを含む
Source: IDC Asia Pacific, November 2013
仮想化環境における HA の重要性
現在、ハイパーバイザーに代表されるバーチャルマシンソフトウェアを使用したサ
ーバー仮想化が急速に拡大している。サーバー仮想化が急速に導入されている背景
には、物理サーバーの統合によってハードウェアやそれにかかる運用保守のコスト
を大幅に削減できるというメリットがある。しかし、1 台の物理サーバー上に複数の
アプリケーションが集約されるため、物理サーバーにかかるリスクがその分大きく
なる。たとえば、物理サーバーが停止した場合、その上で稼働しているすべての仮
想マシンが停止してしまうことになる。サーバー仮想化を進めていくほどそのリス
クは増大していき、従来にも増して HA が求められるであろう。
ハイパーバイザーや仮想環境の管理機能モジュールが含まれる仮想化ソフトウェア
パッケージには、HA の機能モジュールが付加されていることもあるが、突発的な障
害への対応には機能が不十分であったり、ゲスト OS 上のアプリケーションを監視で
きないなど、HA として不足している部分も少なくない。したがって、サードパーテ
ィ製のアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアを活用することで、物理マ
シン、仮想マシン、アプリケーションの各レイヤーに対して HA 化を行うことが重要
になる。
現在、VMware vSphere、Windows Server 2008 Hyper-V と Windows Server 2012 Hyper-V、
オープンソースの Xen や KVM など複数のハイパーバイザーが選択肢として存在する。
機能や性能、価格など、それぞれに特徴を持っており、ユーザーがシステムの用途
などによって使い分けるケースも出てきている。今後は Windows と Linux の混在環境
と同様、ハイパーバイザーの混在環境が増えるであろう。その際、異なるハイパー
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バイザーで構築された仮想環境の可用性を統合的に管理することも視野に入れてお
く必要がある。
低コストで実現する DR
2011 年に日本で発生した東日本大震災を始め、大災害は APAC そして世界各地域ど
こでも十分に起こり得る可能性がある。企業活動は、地震を始めとする自然災害、
テロ、暴動、戦争など、多くのリスクと隣り合わせになっていることを認識する必
要がある。特にアジアは地震が頻発する地域である。建物の崩壊に加え、電力のよ
うなライフラインの遮断など、災害の 2 次的な被害を受ける可能性も考慮する必要が
ある。企業の情報システム部門は、あらゆる災害のリスクを回避するため、データ
センターの DR システムを構築しなくてはならない。
DR システムを構築する上で最も重要なことは、災害発生時にダウンタイムの時間を
極力減らすことである。つまりバックアップなどによってデータやアプリケーショ
ンを他のデータセンターに移動してデータを失わなかったとしても、通常業務がで
きるようになるまでシステムの復旧に時間がかかっては意味がなく、その間の機会
損失も取り戻すことはできない。ダウンタイムなく他のデータセンターでも業務を
継続できるような仕組みが必要である。
このような DR の仕組みを構築するために、アベイラビリティ/クラスタリングソフ
トウェアによる HA ソリューションを活用できる。遠隔地のデータセンターとフェイ
ルオーバーによるクラスタリングシステムによって、プライマリーのデータセンタ
ーで稼働する本番環境のシステムを構築することが可能である。DR にはさまざまな
ソリューションがあるが、この方法は低コストで実現できる信頼性の高いソリュー
ションの一つであり、導入する企業が増えている。
NEC の HA ソリューション
アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアの
リーディングカンパニー
NEC は x86 サーバーでは国内市場でトップシェアを誇り、2013 年 5 月に IDC が発表
したレポートでは、国内における x86 サーバーの出荷台数でシェア 24.7%を獲得し 1
位であったと報告されている(注 1)。
前述したように、HA クラスタリングソフトウェア CLUSTERPRO を開発および販売
している NEC は、APAC のアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場に
おいて 2012 年のベンダー別売上額シェアで 1 位になっている。特に国内で豊富な実
績を持ち、Windows 市場と Linux 市場、そして全体市場においてシェア 1 位を獲得し
ている(注 2)。
 注 1: 『 国内 サ ーバ ー市 場 2012 年 の 分 析 と 2013 年 ~ 2017 年 の 予 測 ( IDC
#J13230104、2013 年 4 月発行)』
 注 2:『国内システムソフトウェア市場 2012 年の分析と 2013 年~2017 年の予測
(IDC #J13310103、2013 年 7 月発行)』
HA ソリューションの中核をなす CLUSTERPRO
NEC は HA ソリューション戦略をグローバルに展開する上で、コア製品となる
CLUSTERPRO について、以下に示す 3 つの方向性を軸に開発を進めている。
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 OS と仮想基盤の混在化に向けたサポートプラットフォームの拡大:企業や組織
の IT システムでは、Linux や Windows など種類の異なる OS や、Windows Server
2003 と 2008、2012 などバージョンの異なる OS が混在するケースが増えていくと
みられる。さらに IT システムの管理を複雑化させる可能性があるのは、仮想環
境も異なるハイパーバイザーで構築されることである。NEC は、OS と仮想基盤
が複合的に混在するプラットフォーム環境に対応すべく、CLUSTERPRO でサポ
ートするプラットフォームを拡大していく。現段階ではクラウドコンピューテ
ィングのプラットフォームは何が主流になっていくかが不透明である中、NEC
はどのような選択肢にも対応することが可能となる。
 ミッションクリティカル領域における信頼性の向上:システム障害の原因は多
種多様である。発生元がハードウェアなのか OS なのか、あるいはアプリケーシ
ョンなのか、まず常に広範囲に監視を行い、障害を確実に検出することが重要
である。そして障害発生時には確実でなおかつ迅速にフェイルオーバーを実行
することで、初めてシステムの可用性を維持できる。さらに、近年増加してい
る高い可用性が要求される Windows と Linux ベースのミッションクリティカルシ
ステムに対しては、CLUSTERPRO MC(HA シリーズ)による高信頼性 HA ソリ
ューションを提供している。障害の予兆検知や予防を行うことにより、ダウン
タイムを大幅に短縮し、極限まで可用性を向上できる。
 クラスター適用領域の拡大:NEC は HA クラスタリングソフトウェアを使用し
て、高付加価値な HA ソリューションの展開を目指している。特に注力している
のが DR である。CLUSTERPRO は遠距離にあるサイト間をクラスター化し、災
害が発生したときにデータとアプリケーションの両方を復旧できる機能を備え
ている。また、近年では企業が IaaS(Infrastructure as a Service)のようなクラウド
サービスを利用することが非常に増えており、NEC はそのクラウド上で構築さ
れたシステムに対して CLUSTERPRO による HA ソリューションの提供を可能と
している。NEC はさらなるクラスタリングの適用範囲の拡大に向けて継続して
開発を進めており、より付加価値の高い HA ソリューションの提供に取り組んで
いる。
製品の新たな強化
NEC は CLUSTERPRO において、継続的にラインナップの追加および機能強化を図っ
ている。主な新ラインナップを以下に示す。
 CLUSTERPRO MC(HA シリーズ):基幹業務や社会インフラなど、非常に高
い可用性が求められるミッションクリティカルシステムに対して、障害の予兆
検知と予防を行い、システムの可用性を極限まで高めることができる。用途別
に製品が用意されており、データベース、業務アプリケーション、ディスク、
OS の各特性に合わせたソリューションを選択できるようになっている。
 SAP NetWeaver 向 け 専 用 パ ッ ケ ー ジ : SAP の 認 定 制 度 「 SAP HA Interface
Certification」を CLUSTERPRO が取得し、SAP NetWeaver のクラスタリングに必
要なモジュールと手順書をパッケージ化している。NetWeaver の各コンポーネン
ト単位でフェイルオーバーを可能としているため、停止時間を最小化できる。
また運用面でも SAP のマネージメントコンソールと連動することにより、ERP
(Enterprise Resource Planning)を始めとした企業の基幹業務を担う SAP ソリュー
ションの可用性と運用操作性を高められる。
 FileMaker Server の障害対策:ユーザーが開発しやすく使いやすいことで著名な
データベースである FileMaker Server 専用の CLUSTERPRO をラインナップに追加
した。フェイルオーバーなど CLUSTERPRO に標準で搭載されている機能によっ
て FileMaker Server システムの HA 化を実現できる。また、FileMaker Server に利用
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を限定することで、販売価格が標準版に比べると約 50%安くなるというコスト
メリットも出る。
グローバル戦略
NEC は日本での実績を基に、北米や欧州など世界の各地域に EXPRESSCLUSTER と
いうブランド名で製品を展開し、HA ソリューションの拡大を進めている。近年では
特に APAC での販売に注力しており、中国やインドで販売実績を拡大している。ま
た、ネパールやミャンマーなどアジア新興国に対しても積極的に展開している。さ
らに今後は、市場の拡大が期待される中南米や中東、アフリカへの展開も進める。
また、世界全地域において、NEC のグローバルネットワークを活用し、海外進出を
している日本企業のサポートを行っている。主な国/地域における NEC の戦略を以
下にまとめる。
アジア太平洋地域
 中国:NEC は通信事業者、金融、政府、医療、教育を中心に HA ソリューショ
ンを展開し、実績を積み上げてきている。さらに小売業など、その他の業種で
の実績も増えてきている。NEC は 24 時間サポート体制の確立、中堅中小企業向
けパッケージの提供、営業とサポート地域の拡大を図り、中国における事業体
制をより強固なものにしている。また、国土が広大な中国において NEC はパー
トナー協業を重視しており、既存の現地のハードウェアベンダーやソフトウェ
アベンダー、システムインテグレーターなどのソリューションベンダーとの協
業強化と共に、新規パートナーの拡大にも努めていく。
 インド:NEC は EXPRESSCLUSTER の英語圏向けのサポート部隊をインドのオ
フショア開発拠点に置き、24 時間保守体制を整備している。販売は NEC の販売
会社が行っているが、サポート部隊と連携することによって顧客への販売から
サポートまで一貫したソリューション提供を地域密着で実施している。
 アジア新興国:近年、経済の成長が著しく IT 化が急速に進んでいるアジア新興
国に対して、後述するネパールの銀行業界の事例のように、現地の業界に強い
ISV(Independent Software Vendor)パートナーと組みソリューションを展開して
いる。また、バングラデシュやスリランカでは、EXPRESSCLUSTER を搭載した
低価格のクラスター構成アプライアンスの提供を行っている。その他、ミャン
マー、ラオス、カンボジア、モンゴルなど、多くの国で EXPRESSCLUSTER を展
開している。
欧州/中東地域
 欧州:NEC は、2012 年 10 月に同地域の ISV である SAP の認定制度「SAP HA
Interface Certification」を、EXPRESSCLUSTER が取得し、SAP NetWeaver のクラス
タリングに必要なモジュールと手順書をパッケージ化してグローバルに販売開
始している。今後も引き続き、ISV パートナーシップを強化し、欧州展開を図っ
ていく。
 中東:NEC はサウジアラビアとカタールを中心とした中東地域への展開を進め
ている。後述するサウジアラビアでのユーザー事例にもあるように、地球温暖
化の影響により、無防備で不慣れだった水害などの災害対策について政府が対
策を義務化したことから、特に DR ソリューションを強化していく。
アメリカ地域
 北米:NEC は北米において、現地の ISV パートナーとの連携を強化している。
例として、フィジカルセキュリティベンダーの持つアプリケーションと、
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EXPRESSCLUSTER を組み合わせて DR ソリューションを、高可用性を求める顧
客などに展開している。NEC は引き続き同様の ISV パートナーシップを強化し
ていく。
 中南米:NEC はブラジルにおいてネットワーク領域で多くの実績がある。それ
らの顧客向けに HA ソリューションの展開を図っていくと共に、現地のソフトウ
ェアベンダーとのパートナーシップを図っていく。また、アルゼンチンやメキ
シコなどの中南米諸国についても今後の展開を検討している。
ユーザー事例
NEC の CLUSTERPRO(海外市場向けは EXPRESSCLUSTER)を活用した HA ソリュ
ーションを導入したユーザー企業の事例を紹介する。
クラウド上に構築された基幹業務システムの可用性向上:
株式会社ライドオン・エクスプレス(日本)
株式会社ライドオン・エクスプレス(REX)は全国 350 店舗以上ある宅配寿司「銀の
さら」や全国 150 店舗以上ある宅配御膳「釜寅」など、多彩な宅配料理店を展開し、
業界トップクラスの売上を誇っている。
課題:拡張性と信頼性の向上
宅配事業では日々の売上データや顧客データの動向が次のマーケティング施策を大
きく左右するため、REX は、大量データの分析/活用に着目し、顧客を見える化で
きるデータベースシステムへの刷新を目指した。REX では寿司や御膳に限らずとん
かつやカレーなど多くの業態で宅配料理を展開しているため業務システムが複雑に
入り組んでおり、業態が増えてもシステムの追加が容易にできなかった。そこで容
易にシステムを追加できる柔軟な拡張性と、宅配事業の必須要件である 24 時間 365
日止まらないシステムを実現できる信頼性を兼ね備えたシステムが必要となった。
クラウドとオープンソースソフトウェアの活用
REX は高い拡張性を持たせるため新たなプラットフォームとして IaaS(Infrastructure
as a Service)型クラウドサービスを検討し、IDC フロンティアの NOAH プラットフォ
ームサービスの利用を決めた。クラウド上に構築するシステムはコストを抑えるた
めに、OS に Linux、データベースに MySQL というオープンソースソフトウェア
(OSS)をベースとしたシステムを採用した。
ソリューション:まるで空気のような存在
REX はもう一つの目的である高い信頼性を実現するために、CLUSTERPRO による
HA ソリューションを採用した。CLUSTERPRO は Linux や MySQL を始めとする OSS
の豊富な稼働実績と、クラウド環境での検証実績の多さが高く評価された。さらに、
注文が集中する年末年始などの繁忙期ではシステムを止めることはできないので、
NEC による 24 時間のサポート体制も選定の大きな理由となった。構築においては、
従 来 使 っ て い た Oracle デ ー タ ベ ー ス の ク ラ ス タ リ ン グ 機 能 か ら MySQL と
CLUSTERPRO の組み合せによるクラスタリングに変更することによる操作の複雑性
が懸念されたが、結果として操作性は非常に良くなり、開発を担当したユニバーサ
ルソリューションシステムズ株式会社の担当者は「CLUSTERPRO はまるで空気のよ
うな存在」と述べている。
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導入効果:クラウドと CLUSTERPRO の組み合せは大きな効果を発揮
従来の UNIX 上での Oracle データベースによるクラスタリングシステムの構築に比
べ、CLUSTERPRO では約 10 分の 1 のコストとなった。クラウドを利用したことで、
ストレージなどハードウェアのコストを大きく削減できている。また、クラウド上
のすべての仮想マシンに対して、CLUSTERPRO は一度で設定変更が可能となり、さ
らに設定ファイルのインポート・エクスポート機能によって異なる複数の設定状態
を保存し任意で切り替えることが容易にできる。クラウドと CLUSTERPRO の組み合
せは、コスト面と運用管理面において大きな導入効果をもたらした。
銀行業界向け HA/DR ソリューション:Mercantile(ネ
パール)
Mercantile グループは、IT を始め、住宅、金融、メディア、出版、環境など、ネパー
ルで多角的に事業を展開している。その中の Mercantile グループ最初の事業である
Mercantile Office Systems Pvt. Ltd.(MOS)は、銀行業務向けアプリケーションソリュー
ション Pumori の提供を行っている。
銀行業界で義務化された HA/DR
ネパールの企業では近年急速に IT 化が進行している。特に金融業界では業務やデー
タの管理を IT システムに高く依存している。そのため、システムの障害や自然災害
などで IT システムが停止してしまうことが大きなリスクとなっている。その中でも
銀行においては、データやアプリケーションが特に重要となる。さらに 24 時間 365
日の可用性が求められるため、Nepal Rastra Bank(ネパール中央銀行)はネパールの
銀行に対して適切な HA/DR ソリューションを持つことを義務化した。
課題:従来の HA/DR 手法からの脱却
ネパールの多くの銀行では、HA/DR の手法として、バックアップのような従来型
の単純な手法が使われており、バックアップしたデータは銀行の倉庫に保管されて
いるというものであった。しかし、サーバー障害は、数時間あるいは数日に渡って
続くことがしばしばあり、従来の手法ではほとんど効果が出ていない状況であった。
ネパールの銀行業界にとって、これではコンプライアンスの要件を満たすことがで
きず、その改善が非常に重要な課題となっていた。
ソリューション:300 キロ離れた DR の実現
ネパールの多くの銀行を顧客に持つ IT ソリューションベンダーの Mercantile は、銀行
向けの優れた HA/DR ソリューションを探した。複数の HA/DR 製品を評価した結
果、NEC の EXPRESSCLUSTER の採用を決定した。EXPRESSCLUSTER によって、シ
ステムの障害発生時に、300 キロ離れた Mercantile のデータセンターに迅速なフェイ
ルオーバーを実現できるようになった。さらに運用は非常にシームレスになり、運
用効率を向上させることができた。これによって、Mercantile は顧客に対して 24 時間
365 日、銀行業務アプリケーションを稼働させるソリューションを提供することが可
能となった。
導入効果:銀行業務の可用性の最大化
Mercantile は EXPRESSCLUSTER と MOS の銀行業務向けアプリケーションによる高信
頼性銀行ソリューションを複数の銀行に導入している。ACE Development Bank は、業
務の可用性の最大化、言い換えると業務停止時間の最小化を目指し、このソリュー
ションによって実現させた。システム停止につながる停電発生時には、300 キロ離れ
たところにある Mercantile のデータセンターによって業務が引き継がれるようになっ
ている。ACE Development Bank の IT 責任者である Pradip Nepal 氏は「我々にはサーバ
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ー障害がつきものである。しかし、EXPRESSCLUSTER がビジネス損失を防ぐことに
よって、我々はすべての投資を回収できる」と述べている。また、同じくソリュー
ションを導入した NMB Bank の IT 責任者は「EXPRESSCLUSTER は HA 製品として非
常に効果的である。さらに、高機能にもかかわらず使いやすく、構築も短期間でで
きる」と評価している。そして Mercantile の開発担当者は「どのような銀行において
も良い DR ソリューションになるであろう」と述べ、EXPRESSCLUSTER に大きく期
待している。
停止が許されない保険システムの DR:UNITED
COOPERATIVE ASSURANCE COMPANY(サウジアラ
ビア)
UNITED COOPERATIVE ASSURANCE COMPANY(UCA)はサウジアラビアで有数
の保険会社であり、サウジアラビア証券取引所(Tadawul)にも上場している。1974
年の設立以来、資産、損害、賠償、海上貨物、船舶、航空、生命、医療、信用など、
あらゆる保険サービスを展開している。
課題:ゼロダウンタイムの実現に向けて
UCA が展開するビジネスは保険という特性上、どのようなことが起きても止まるこ
とが許されないビジネスであり、災害時にこそ大きな役割を果たす。そして UCA が
保有している顧客に関わるさまざまな個人情報データは、慎重に扱わなければなら
ず、データの損失は許されない。UCA は約 200 の販売店を支えるオラクルのアプリ
ケーションで構築されたシステムのゼロダウンタイムを実現すべく、DR を備えた
HA ソリューションを探す必要があった。さらにその HA ソリューションは、プライ
マリーサイトのみならず、リカバリー先となるセカンダリーサイトの運用管理を容
易にしつつ、サウジアラビア政府から要求される高い可用性を満たすものでなけれ
ばならなかった。
ソリューション:DR を備えた HA
UCA はメインデータベースとして稼働していたオラクルのデータベースと Windows
をバージョンアップし、同時に新しいサーバーに移行するタイミングで HA ソリュー
ションの導入を検討した。そこで NEC は、現地パートナーである NajTech と共に、
EXPRESSCLUSTER とフォールトトレラントサーバー(無停止型サーバー)を組み合
わせた、堅牢かつ低コストで運用が容易なクラスターソリューションを提案した。
そして UCA はこの提案を非常に魅力的と考え、さらに NajTech によるサポートを高
く評価し、採用に至った。ソリューション導入の際は、4 人の NajTech の NEC 認定エ
ンジニアと 2 人の NEC の中東地域担当エンジニアによって、わずか 3 か月で導入が
完了した。UCA は IT 部門の責任者と 2 人のシニアエンジニアの 3 人のみでプロジェ
クトを成功させることができた。
保険システムは、EXPRESSCLUSTER が実装されたフォールトトレラントサーバーと
SAN(Storage Area Network)ストレージで構成されている。本社から約 30 キロ離れて
いる支社を DR サイトとし、両サイトは社内 WAN(Wide Area Network)で接続され
ている。本番サイトで問題が発生した際にはフェイルオーバーされ、20 分以内に運
用を再開できる。また、DR サイトはファイルサーバーや電子メール、データベース、
バックアップなど、他のソリューション用途としても使用されている。
導入効果:洪水で効果が実証された NEC の HA ソリューション
UCA は NEC の DR を含む HA ソリューションを導入したことで、以下の効果が得ら
れた。
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 運用スタッフの生産性を 15%向上
 メインデータベースのダウンタイムを 90%削減
 ユーザーの満足度を 20%向上
2011 年にサウジアラビア有数の商業都市であるジェッダ(Jeddah)で洪水が発生した
際には、DR サイトを通して、わずか数分間でオンラインモードに切り替えることが
できた。UCA の IT 部門のマネージャーの Labib Assaf 氏は「この洪水によって、我々
が NEC とそのパートナーである NajTech が提案した HA ソリューションを選択した
ことが正解だったと証明された」と述べている。
将来の展望
アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場予測
APAC のアベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場は今後も引き続き高水
準で成長し、2012 年~2017 年の CAGR は 3.9%になると IDC では予測する。Figure 4
は 2013 年~2017 年の売上額前年比成長率予測を示している。ここでは日本と、日本
を除く APAC の成長率をそれぞれ示している。
日本を除く APAC は今後高い成長率になるとみている。2013 年以降は 6%台の成長が
続き、2012 年~2017 年の CAGR は 6.4%になると IDC では予測する。アベイラビリテ
ィ/クラスタリングソフトウェアによる HA 化のニーズは高く、中国やインド、アジ
ア新興国で導入が加速すると考えられる。また、自然災害の発生も多い地域のため、
DR システムでの活用も増えるとみられる。市場が成熟化している日本は、堅調な成
長を持続するとみている。APAC の全体的な傾向として、x86 サーバーをプラットフ
ォームとする Linux 向けと Windows 向け市場は高い成長を続けると IDC では考えて
いる。
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FIGURE 4
APAC アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場 売上額前
年比成長率予測、2013 年~2017 年
8
7
6
(%)
5
4
3
2
1
0
2013
2014
2015
2016
2017
APAC( 日 本 を除く)
日本
APAC
Source: IDC, November 2013
HA ソリューションの将来
広がる HA ソリューションの可能性
企業や組織において、ハードウェアやソフトウェアの障害、自然災害やテロなど、
予期せぬ事象によって発生するシステム停止は、常に向き合っていかなければなら
ない課題である。顧客や取引先、従業員に対するサービスの基盤となる IT システム
の信頼性は、今や企業や組織のパフォーマンスを示すものといっても過言ではない。
そのような中で、アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアによる HA 化は、
今後ますます重要な役割を果たすであろう。
アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアの最大のメリットは、さまざまな
HA ソリューションを柔軟に構築できる点にある。1 対 1 のフェイルオーバーから遠
隔地サイトへの DR まで、多様化するニーズに対応できる。さらにユーザーの予算や
システム構成、用途、そして導入後の運用などさまざまなケースに応じたソリュー
ションの選択肢を提供できる。さらに柔軟性だけでなく、高い信頼性を担保するこ
とができる。
ネパールとサウジアラビアの金融業界における 2 つの DR に関するユーザー事例は、
アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアによる HA ソリューションが高い信
頼性を実現しているということを実証している。金融の IT システムは他の業種に比
べて高い可用性が求められるため、これらのベストプラクティスは多くの業種にお
いても実現できる。そして多様化する HA のニーズに対して柔軟に対応できるアベイ
ラビリティ/クラスタリングソフトウェアは、地理、文化、習慣の異なるさまざま
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な国や地域の IT システムの HA 化あるいは DR において大きな役割を果たすとみら
れる。
仮想環境の信頼性向上に向けて
IT システムを取り巻く環境は、テクノロジーの進化と共に常に変化している。その
中で仮想化は大きな影響力を持ち、プラットフォームの在り方を大きく変えている。
それと共に仮想環境における可用性の向上は、取り組むべき大きな課題になってい
る。さらにミッションクリティカル領域においても仮想化が導入され始めており、
仮想環境での HA の重要性はますます高まっていく。
また、ハイパーバイザーのような仮想基盤の混在化やゲスト OS の混在化が進むと、
可用性の管理は複雑になっていく。そうなると、OS や仮想化ソフトウェアパッケー
ジの機能でカバーするには、HA の信頼性や管理の効率性において十分ではない場合
が多く、クロスプラットフォームに対応したサードパーティ製のアベイラビリティ
/クラスタリングソフトウェアの価値が高まると IDC では考える。
多様なクラウド環境における HA の実現
企業におけるクラウドサービスの活用が急速に進んでいる。IDC の調査によると世界
パブリッククラウドサービス市場は 2012 年で 373 億ドル、2012 年~2017 年の CAGR
は 23.5%で 2017 年には 1,000 億ドルを超えると予測している。すべての地域において
高い成長が見込まれており、特に今後はアジアや南米などの新興国で大きく市場が
拡大する。
そのような中、株式会社ライドオン・エクスプレスのユーザー事例でも見られるよ
うに、クラウドサービスプラットフォーム上に企業の基幹となるシステムを構築す
る事例が増加している。今後クラウドサービスの利用が拡大していく中において、
そうした事例はさらに増えていくであろう。そこで最も重要な課題の一つが、クラ
ウド上で稼働するアプリケーションの可用性の確保となる。当然、クラウドサービ
ス上では最低限の可用性が担保されるが、さらに信頼性を向上させるためにはユー
ザー自身が HA 化を進めることが重要となっていく。
株式会社ライドオン・エクスプレスの事例は、パブリッククラウドサービスとアベ
イラビリティ/クラスタリングソフトウェアを組み合わせ、コスト削減と信頼性の
向上という対極にあるものを同時に実現したベストプラクティスである。また、企
業内のデータセンターで構築されるプライベートクラウドにおいても HA が担う役割
は大きい。そして将来的にはパブリッククラウド間、あるいはパブリッククラウド
とプライベートクラウドの間など、多様なハイブリッドクラウド環境における HA の
実現が不可欠なものとなってくるであろう。
結論
本ホワイトペーパーの結びとして、HA ソリューションビジネスにおける NEC の市
場機会と課題、ならびにユーザーへの提言を示す。
NEC の市場機会と課題
市場機会
 NEC は、今後さらなる拡大が予測される APAC アベイラビリティ/クラスタリ
ングソフトウェア市場の Windows 環境と Linux 環境において、すでにマーケット
リーダーのポジションを確固たるものにしており、同社の HA ソリューションは
さらなるビジネスの拡大が期待できる。また、可用性に対する要求レベルの高
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い日本での豊富な実績やノウハウをベースにした HA ソリューションは、世界で
も多くの顧客から信頼を獲得できると考えられる。
 先進国のみならず、アジアや南米など多くの新興国において IT システムを可用
化し、事業継続性を高める動きが活発になっている。特に自然災害が発生しや
すい国では、DR に対する需要が高まっている。NEC が提供する低コストかつ導
入が容易な HA/DR は、多くの顧客にとって魅力的なソリューションとして受
け入れられていくであろう。
 仮想化、クラウドは世界各国で急速に利用が進んでおり、今後システム環境は、
さまざまな環境が混在するクロスプラットフォームとなる。NEC が取り組んで
いるクラウドを始めとした多様なプラットフォームに向けた HA ソリューション
の開発は、大きな効果を顧客にもたらすことになるであろう。
課題
 OS や仮想化ソフトウェアパッケージに付加している HA 機能、あるいはクラウ
ドサービスに統合された HA ソリューションは、サードパーティ製のアベイラビ
リティ/クラスタリングソフトウェアにとって脅威になる可能性がある。NEC
には、これらの機能の補完、あるいは連携によって、ユーザーに対し、より価
値の高い HA ソリューションを提供することが求められる。
ユーザーへの提言
 信頼性への投資:IT システムに求める可用性のレベルは、企業の業態や規模、
業務やサービスによって異なる。その中で、高い可用性が必要なシステムに対
しては、決して HA 化を妥協してはならない。少しの妥協が大きな損失を招くこ
とも少なくない。信頼性を高めるためには、アベイラビリティ/クラスタリン
グソフトウェアを含め、HA に十分な投資を行うことが重要である。
 多様化する HA ソリューションの有効活用:いつ何が起こるか分からない。予
期せぬさまざまな事象に対する備えは常に用意しておく必要がある。DR を始め、
アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェアの適用範囲は広がっている。
その中には、他の手段よりも信頼性を損なわずに低コストで実現できる HA ソリ
ューションも多く存在することから、さまざまな可能性を試してみるべきであ
る。
 仮想化/クラウド環境における HA 対策:仮想環境あるいはクラウド上で稼働
するアプリケーションによっては、信頼性において非常に大きなリスクを抱え
ることになる。将来どのようなアプリケーションまでを仮想化していくか、ま
たはどのようなクラウドサービスを利用してシステムを構築していくかなど、
今後のプラットフォームの計画と共に仮想化/クラウド環境における HA 化を十
分に検討する必要がある。
参考資料
世界アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場
ベンダー別シェア
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TABLE 1
世界アベイラビリティ/クラスタリングソフトウェア市場 ベンダー売上額実績、2011 年~
2012 年
2011 年
売上額
(百万ドル)
2012 年
売上額
(百万ドル)
2012 年
売上額
シェア
2012 年
前年比
成長率
Microsoft
478
493
24.0%
3.3%
IBM
253
268
13.0%
5.7%
Symantec
209
217
10.5%
3.9%
HP
225
180
8.8%
-20.0%
VMware
132
158
7.7%
19.3%
Vision Solutions
116
137
6.6%
18.2%
NEC
77
86
4.2%
11.5%
EMC
46
49
2.4%
5.4%
Fujitsu
43
43
2.1%
0.2%
Red Hat
33
34
1.6%
4.3%
419
394
19.1%
-5.9%
2,029
2,058
100.0%
1.4%
Others
Total
Note: 『Worldwide Availability and Clustering Software 2012 Vendor Shares: Supporting Availability in the Virtualized
Computing World(IDC #241320、2013 年 5 月発行)』を基に作成
Source: IDC, November 2013
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