弾性表面波デバイス ■ 用語の説明 ■ 弾性表面波(SAW)フィルタに用いられる主な用語について、ご紹介致します。 公 称 周 波 数:中心周波数の公称値をいい、関連規格の基 準周波数として用います。 通 過 帯 域 幅:中心周波数を中心にして、フィルタとして 信号を通過させる帯域(通過帯域)の幅の ことで、通常、帯域内の最小損失点から減 衰量がある一定量(例えば 1dB や 3dB)増 加する幅(1dB 帯域幅、3dB 帯域幅)を指 します。 リ ッ プ ル:通過帯域内にて減衰量の極大値がある場合、 その極大損失と極小損失との差のうち最大 の値をいいます。 挿 入 損 失 :フィルタを挿入したときと、しないときの ( 挿 入 減 衰 量 ) 減衰量の差をいい、定損失と最小挿入損失、 最大挿入損失に区別されます。定損失は、 公称周波数における挿入損失の値をいい、 最小挿入損失は挿入損失の帯域内での最小 値、 最大損失はその最大値をいいます。 なお、 IEC( 国 際 電 気 標 準 ) で は 挿 入 減 衰 量 (Insertion attenuation)と呼ぶように定め ていますが、業界では挿入損失という表現 が圧倒的に使用されています。 減 衰 量:通常、最小挿入損失を基準とした減衰帯域 での相対減衰量のことを言いますが、無線 機などでは、スルーレベル(0dB)を基準 とした絶対減衰量を指すこともあるので、 注意が必要です。 減 衰 帯 域 幅:相対減衰量が規定減衰量と同値かそれ以上 であることを保証する値での周波数幅をい います。 保証減衰量と保証減衰帯域:減衰帯域にて保証する相対減衰量と その周波数帯域をいいます。 終端インピーダンス:フィルタ側からみた使用回路側のインピー ダンスを表します。通常、回路の負荷イン ピーダンスをそのまま表す(50 Ωや 150 Ω など)場合と、回路との間に整合回路を介 して、SAW 側のインピーダンスの共役条件 を表す場合があり、後者の場合は一般に抵 抗とマイナス符号の並列容量(共役条件) で表します。 群 遅 延 時 間:位相変化量を角周波数で微分した値をいい ます。 群遅延時間リップル:規定した通過帯域幅における群遅延時間の 極大値と極小値の差のうち最大の値をいい ます。 ■ 解 説 弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)は、弾性体の表面付近 にエネルギーが集中して伝搬する波で、この波を応用した電子デバ イスを SAW デバイスと呼びます。 NDK ではフィルタ、共振子、遅延線、発振器等を開発製造しており ます。 ここでは SAW フィルタと SAW 共振子について説明します。 ダンパー材 リード線 すだれ状電極 出力 入力 表面波 ● SAW フィルタ 図1に SAW フィルタの基本構造を示します。 SAW フィルタは圧電基板上に、表面波を励振及び受信するすだれ 状電極を設けた構造になっています。 すだれ状電極に交流電圧を印加すると圧電効果により、隣り合う 電極間の圧電基板にひずみが生じ表面波が励振されます。 すだれ状電極は図2のように周期的に配置されており、表面波は その波長λと電極周期が等しい場合に最も強く励振されます。 中心周波数 f0 と表面波の伝搬速度νとの間には f0 =ν / λ の関係があります。 SAW フィルタには遅延型の電極構造を用いたものと、共振型の電 極構造のものがあります。 圧電基板 図1 SAWフィルタの基本構造(トランスバーサル型) 交 叉 幅 電極幅h 電極空隙a 波長 λ v v fo= = λ 2(a+h) V:表面波の伝搬速度 図2 すだれ状電極の基本構造(トランスバーサル型) sa03_100909_terms_j 弾性表面波デバイス ■ 解 説 ■ ● SAW 共振子 図3に、SAW 共振子の基本構造を示します。すだれ状電極間に定 在波を発生させ、電極数を増やすことによって高いQの共振子を実 現することができます。 SAW 共振子は図4に示すように (a) 1ポート形共振子と、(b) 2ポー ト形共振子があります。 1ポート形共振子はすだれ状電極を中央部に、反射器を両側に配置 した構造で、すだれ状電極で励振された表面波を反射器で反射さ せて定在波を発生させ、共振子とします。従って高いQを利用し主 に発振子や狭帯域フィルタに応用されます。2ポート形共振子は、 構造からそれ自体狭帯域フィルタですが、高いQを利用し一般に1 ポート形共振子より高い周波数帯の発振子や狭帯域フィルタに用い られます。 すだれ状電極 Comb electrodes すだれ状電極 Comb electrodes IN Reflector 反射器 Reflector 反射器 OUT (a) 1 ポート形共振子 (a) One-port resonator GND OUT すだれ状電極 Comb electrodes 圧電基板 Piezoelectric substrate IN 反射器 Reflector 反射器 Reflector IN GND (b) Two-port resonator (b) 2 ポート形共振子 OUT 3 SAW 共振子の基本構造 Figure 3図 Basic structure of a SAW resonator 4 1structures ポート形、2 ポート形共振子の基本構造 Figure 4 図 Basic of one-port and two-port resonators ● 圧電基板材料 当社では右表にある SAW デバイス用圧電基板材料を、デバイス設 計方式に応じて使い分けております。基板材料は、古くから用いら れ設計自由度の高いレイリー波用基板と、移動体通信用を中心に設 計自由度が限られますが低損失特性が得られ高音速により高周波 化の容易なリーキ波用基板に大別されます。広帯域のフィルタなど には、リチウムナイオベート(LiNbO3)基板やリチウムタンタレー ト(LiTaO3)基板が使用され、フィルタ仕様に応じて材料やカット を使い分けています。携帯電話用の低ロスが必須な製品には、リー キ波の材料が主に用いられています。また、優れた低リップル・低 群遅延特性が必要な通信機器用途にはレイリー波の材料が主に用い られます。その中で、STカット水晶は最も温度特性が優れており、 結合係数が小さく周波数温度特性が二次曲線で常温付近に零温度係 数点を持つ圧電基板材料です。 レイリー波 リーキ波 温度係数 カット角 伝搬 方位 伝搬速度 結合 m/s kS2(%) ST–quartz 42.75°Y X 3 157 0.16 0 − 34 LiTaO3 X 112°Y 3 295 0.64 − 18 − LiNbO3 Y Z 3 488 4.82 − 94 − LiNbO3 128°Y X 4 000 5.56 − 74 − LiNbO3 64°Y X 4 742 11.3 − 79 − LiTaO3 36°Y X 4 178 4.8 − 33 − 波動モード 材料名 ● 周波数温度特性 一次 係数 二次 係数 10 − 6/K 10 − 9/K2 20 使用する圧電基板材料によって異なった周波数温度特性を持って います。図 5 に水晶基板の周波数温度特性を示します。 ∆F/Fo (×10–6) 0 –20 –40 –60 –80 –100 –25 0 25 Temperature (°C) 温度(℃) 50 75 Figure 5 Frequency-temperature characteristic 図 5 SAW デバイスの周波数温度特性(圧電基板:水晶) of a SAW device (piezoelectric substrate: crystal) sa04_111026_appnote_j 弾性表面波デバイス ■ 製造工程 ■ SAW デバイスの製造工程は、IC や LSI を製造する工程と類似しており、超微細なパタン加工が必要なため、クリーンルーム内で製造さ れています。 流 れ 圧電基板 圧電基板 ▼ 電極膜 圧電基板 フォトレジスト 蒸着 ▼ フォトリン グラフィ 電極膜 ▼ 圧電基板 切断 サポート・ ワイヤー ボンディング 封止 ▼ ▼ ▼ チップ 検査 sa83_100909_technote_j