容積試料におけるγ線自己吸収の補正法 Correction Methods of γ-Ray Self-absorption in Bulk Sample 野口正安、 小峰隆志、 秋山正和 Masayasu Noguchi, Takashi Komine, セイコー・イージーアンドジー株式会社 SEIKO EG & G Co., Ltd. * Masakazu Akiyama 松戸市高塚新田 563 563, Takatsuka-Shinden, Matsudo-shi *日本分析センター Japan Chemical Analysis Center 千葉市稲毛区山王町 295-3 295-3, Sanno-cho, Inage-ku, Chiba-shi γ線スペクトロメトリーにおける容積線源の自己吸収補正法として、5 種類の方法について検討 した。線減弱係数がおよそ 0.1cm−1 より大きい場合は自己吸収補正係数に数%程度の相違が生 じることがあるが、4 種類の補正法に大きな差はなかった。その中の一つの方法では、標準線源の 測定が不要であり、簡単な計算にもかかわらず結果は妥当であった。減弱係数が大きい場合は、 自己吸収の割合はGe結晶の直径に多少依存することが示された。 Abstract Five methods of γ-ray self-absorption correction for bulk sample were investigated. It was clarified that there is no significant difference in quality among four methods, except for one method, while a few percents of discrepancy were observed in case of larger value of attenuation coefficient than 0.1cm-1. One of those methods is recommended for practical γ -ray spectrometry on account of the simple calculation method and no experimental data needed. Self-absorption for low energy γ-rays with high attenuation coefficient was a little dependent on Ge crystal diameter. 1 はじめに γ線スペクトロメトリーによる容積試料の放射能分析では、試料中でのγ線の減弱(自己吸収) が数10%にもなることがあり、その補正は不可欠である。自己吸収の割合は、γ線エネルギー、試 料媒体の元素組成および試料の幾何学的条件(量、形状など)に依存する。標準容積線源を測定 して得られるピーク効率(自己吸収を含む)をε、自己吸収を補正したピーク効率をε0 、自己吸 収の補正係数をfSA として、次のように表す。 ε0=ε/fSA (1) * したがって、標準容積線源と異なる媒体からなる試料に対するピーク効率ε は、その媒体に対す る自己吸収の補正係数を fSA *とすると、次のように表される。 ε*=ε×(fSA */fSA) (2) 後で述べるように自己吸収の厳密な補正は困難であるから、上式から明らかなように、一般的な試 料の媒体に近い元素組成をもつ媒体の標準線源を用いることが望ましい。その意味および媒体の -1- 均一性(密度、放射能分布)の点からみて水溶液(寒天も同様)の標準線源が最適である。 また、 基準とするγ線エネルギーとしては、通常測定するエネルギー範囲のほぼ中間、例えば一般の環 境放射能分析では 662keV(137Cs)がよい。なお、ここでは自己吸収以外の補正項(サム効果など) については言及しない。次に、自己吸収の補正に必要な光子減弱(衰)係数または相互作用断面 積および自己吸収補正のいろいろな方法について述べる。 2 光子減弱係数 容積試料の自己吸収補正に使われる光子減弱係数(μ)には、全相互作用断面積=光電効果 (τ)+コンプトン散乱(σ)+電子対生成(κ) が関与する。γ線エネルギーが変わらないコヒレン ト散乱については、等方散乱と広い線束のため、媒体からの散乱線の出入がほぼ等しいと仮定し て考慮しないことにする。 アボガドロ数をNA、原子量をA、媒体の嵩密度をρ(g/cm3)とすると、線減弱係数μ(cm-1)は次のよ うに表される。 μ=ρNA(τ+σ+κ)/A (3) 多元素物質の媒体では元素組成をAaBbCc 、原子量をAM、各元素に対してΣ=τ+σ+κ、と すると線減弱係数μ(cm-1)は次のように表される。 μ=ρNA(aΣA+bΣB+cΣC+,,,,,)/AM (4) 減弱係数または光子相互作用断面積の求め方には次のような方法がある。 1)元素ごとに与えられた数値データ1)を補間して求める。この場合、数値は限られたエネルギーに 対してのみ与えられているので、測定する光子エネルギーに近いエネルギーの3点以上の 値を用いて、補間計算によって求める。この方法では、コンピュータプログラムで計算するため に、全元素についての膨大な数値データのファイルを必要とする。 2)特定の物質に対する減弱係数の近似式2)、あるいは、物質の元素組成を入力することによって 計算する方法3)。前者では適用できる試料媒体の種類は限られており、その元素組成から外れ るほど、特に光電効果の寄与が大きい低エネルギー領域において誤差が大きくなる。後者では、 相互作用断面積が原子番号と光子エネルギーの関数として与えられているので、プログラムに 組み込むことによって任意の元素組成に対して減弱係数を求めることができる。 3 自己吸収補正法 自己吸収は、主としてγ線エネルギーと試料の媒体(元素組成、嵩密度)および試料の形状な ど幾何学的条件に依存するばかりでなく、Ge結晶の形状や大きさなどにも依存する。自己吸収は このように多くの要因が関係した複雑な事象であるので、補正法には必ずある種の仮定や近似が 必要となる。容積試料の自己吸収を厳密に補正するには、試料内のある位置から放出されたγ線 が試料中を通過する3次元距離を求めなければならない。モンテカルロ法6∼14)は個々のγ線につ いてこれを計算して吸収の確率を求めることができる唯一の方法である。しかし、膨大な数の計算 および測定する試料や検出器の多様性(サイズなど)のため、モンテカルロ計算を通常のパソコン -2- で日常的に行うことは困難である。そこで、容易に適用でき、且つよい結果が得られる方法(下記B のISDE法)および他の方法について以下に述べる。下記の方法による結果(Fig. 1, 3, 4, 6, 7) は、主に 4.8cmφのポリスチロール製試料容器(U-8)中の水の媒体に対するものであるが、他の種 類の媒体に対しては元素組成に応じた減弱係数を与えることによって同様な結果が得られる。 3.1 二種類以上の媒体の異なる標準容積線源を用いる方法2) :方法(A) 線減弱係数の異なる二種類以上の媒体(厚さ 0.5∼5cm、各媒体につき 5 個程度)からなる多核 種標準容積線源を測定し、γ線エネルギー、試料厚および減弱係数について補間計算をして自 己吸収を補正する。この方法は測定データを基にしているため不明確な仮定や近似は少ないが、 信頼性の高い多くの標準容積線源を必要とし、さらに測定およびデータ解析に多くの手間と時間 を要するので実用性にやや乏しいきらいがある。この方法についての詳細は省略するので、文献 2)および 4)を参照されたい。 3.2 面線源ピーク効率の積分による方法 一般に容積線源は円筒形容器に入れて測定されるので、容積線源は同一半径をもつ円形面 線源の集合と考えることができる4)。 容器の底面からhの距離におかれた面線源に対するピーク 効率をη(h)、hの関数であるγ線透過率をζ(h)とすると、厚さHの容積線源に対するピーク効率 ε(H)は次式のようにη(h)ζ(h) を試料の厚さに対して積分することによって求められる。 H ε(H)= ∫ η(h)ζ(h) dh (5) 0 したがって、自己吸収補正係数(fSA)は次のように計算される。 H fSA= H ∫ η(h)ζ(h) dh/ 0 ∫ η(h) dh (6) 0 以下、この原理に基づく幾つかの方法について述べる。 3.2.1 効率一定・平行線束法 (CEPB : Constant Efficiency Parallel Beam) 面線源に対するピーク効率η(h)はその位置(h)によって大きく異なるが、ここでは「hに依存し ない一定の値(ηc)であり、さらに検出器に入射するγ線は平行線束である」と仮定すると自己吸 収補正項(fSA)は次の式で表される。 H fSA= ∫ H ηce −μh dh / 0 ∫ ηc dh (7) 0 この式を解くと、次のようになる。 fSA =(1−e−μH)/μH (8) -3- ただし、μは線減弱係数(cm-1)、H は容積試料の厚さ(cm)である。この補正法ではピーク効率の実 測データが不要なため極めて簡単であるが、Fig. 3、4、7 に示されるように、「ηが一定である」とい う大まかな仮定のために、試料が厚くなると自己吸収補正係数には大きな誤差が生じる。 3.2.2 距離逆二乗法 (ISDE : Inverse Square Distance Efficiency) 厚さhを変数とする円柱形容積線源に対するピーク効率をε(h)として、次の実験的な近似式が よく使われる2)。同式のa、b、cはγ線エネルギー、検出器、線源などに依存する定数であり、媒体 中の自己吸収によっても異なる。 ε(h)=(a+b・h+c・h2)-1 (9) しかし、自己吸収がないと仮定した計算(下記 3DD法)結果によると、Fig. 1 に示されるように (9)式のcはほとんど 0 に等しく、ε(h)-1 はhの一次式として精度よく近似することができる。Ge結晶 の直径が 50mm、60mm、70mm の場合(試料容器:U-8)について計算してみると、いずれの場合 にもよい直線性が得られた。そこで、面線源に対するピーク効率η(h)は、容積線源ピーク効率ε (h)の微分によって求められるので、次のように近似することができる。 dε(h)/dh=η(h)ζ(h)=b(a+b・h)-2ζ(h) (10) -1 また、ε(h) =0 となるhの値(cEC=-a/b)はγ線エネルギーにほとんど依存しない一定値となる (Fig. 1)。 線源媒体中におけるγ線の通過距離をd とすると、透過率はζ(h)=e−μd と表される ので、(6)式より自己吸収補正係数は次の式で表される。 H fSA= ∫ H (cEC+h) e 0 ● -2 −μd dh/ ∫ (cEC+h)-2 dh (11) 0 cECについて : この値は面線源からの広い線束に対する検出器の見かけの実効中心に相当 するものであるが、細い線束に対する実効中心(エネルギー依存性がある)のような明確な意味は ない。直径が 5cm から 7cm のGe結晶に対して3DD法で計算した結果によると、Ge結晶の直径(R D )に対して、cEC=0.35RD+0.25 なる関係が見出された。なお、cEC がfSAに及ぼす影響はそれほ ど大きくはないので、標準的なGe結晶(∼6cmφ)では、cEC=2.4cm としてよい。Fig. 3 および 4 に示された結果は、cEC=2.4cm として計算されたものである。また、近年、結晶の直径は大きくな る傾向にあり、上記の関係は7cmφ以上にも適用できるであろう。 ● 試料中のγ線通過距離 : 媒体中における個々のγ線(広い線束)の通過距離(d)を計算する ことは極めて困難であるので、次の2通りで計算してみた。 1)平行線束(ISDP ; ISD Parallel)の仮定 : (11)式において、d=h とする。明らかな根拠はない が、cEC=3.0cm とすると、ISDPとして Fig.3 と 4 に示されるように他の平行線束法とよく一致した。 しかし、薄い厚さ(およそ、1∼2cm)では補正がやや足りない傾向を示す。 2)平均通過距離(ISDC ; ISD Convergent)の近似 : 線源の中心軸からGe結晶(半径:R)に入 射するγ線に対する実効半径(r=R/√2)を仮定して、(12)式(Fig. 2 参照)のような平均的な 通過距離を用いる。 -4- d={ h/(cEC+h) }・{ r2 +(cEC+h)2 }1/2 (12) ISDCとして Fig. 3 と 4 に示されるように、後で述べる3DD法による結果とよく一致した。 ● 線源サイズ依存性 : 容積線源の直径が 5∼7cm の範囲における3DD法の計算結果によ ると、直径が大きくなるほど自己吸収補正係数は小さくなるが、Fig. 5 に示されるように その差は最大(E=88keV, H=5cm)でも±1%程度以内である。そのため、(12)式におい ては線源の直径については考慮しない。 ● Ge結晶サイズ依存性 : 同じ長さをもつGe結晶の直径を 6cm, 6.5cm,7cm と変えた場 合、3DD法およびISDC法(6cmφのみ)によって計算された自己吸収の補正係数を Fig. 6 に示す。同図の上側曲線は 662keV、下側曲線は 88keV に対する結果である。結晶の直径 が大きいほど斜め方向に入射するγ線の寄与が多くなり、特に減弱係数が大きい低エネル ギーγ線においては、結果として自己吸収が大きくなると考えられる。しかし、一般的な Ge検出器(6±0.5cmφ)では、その違いは±1%程度以内である。なお、(11)式の積分 はシンプソンの公式(20 分割)で計算された。 50 250 4 CEC 3 2 40 200 1 0 4 5 6 Detector 7 8 9 320keV φ(cm) 30 150 1332keV ε−1 ε−1 H 88keV d 100 20 h Sample 662keV R 50 10 cEC r Ge crystal 0 −3 −2 −1 1 Thickness CEC Fig. 1 0 2 3 4 0 H(cm) Inverse peak efficiency (ε−1) for volume 5 Fig. 2 Effective transmission length (d) through sample matrix source -5- 3.2.3 容積線源微分効率法 (VSDP : Volume Source Differential Efficiency Parallel Beam) 厚さの異なる 5 個程度の標準容積線源を測定して、最小二乗法などによってピーク効率関数ε (h)を作成する。ε(h)の関数形としては任意のものでよいが、例えば、線形最小二乗法によって簡 単に決定できる(9)式がよく使われる関数である。得られたε(h)を解析的あるいは数値的に微分 し、減弱を補正することによって面線源ピーク効率η(h)が得られる。例えば、(9)式の場合は次のよ うに表される。 η(h)=(dε(h)/dh)/ζ(h)=(b+c・h)(a+b・h+c・h2)−2/ζ(h) (13) (9)式および(13)式の係数(a,b,c)はγ線エネルギーによって異なるが、662keV に対して得ら れた係数を用いて計算した fSAと、88keV に対して得られた係数を用いて計算した fSAにはほとんど 差はなかった。したがって、あるエネルギーについて求められた係数を他のエネルギーのγ線に 適用することができる。Fig. 3 と 4 の VSDPは、平行線束の仮定で得られた結果である。VSDP の 結果は次に述べる PFPB とほとんど一致しており、薄い厚さ(H=1∼2cm)において補正係数がや や大きくなる傾向にある。図には示さなかったが、(12)式の平均的な通過距離を用いた結果では、 2cm 以上厚くなると補正係数が他の方法に比べて小さくなる傾向があった。 3.2.4 パラメータ フイッティング法4) (PFPB : Parameter Fitting Parallel Beam) 容積線源の実測ピーク効率を次の(14)式にフイッティングし、関数の未知パラメータを決定する。 この関数は、hを変数とする 2 個の指数関数からなる面線源ピーク効率および平行線束の減弱を 仮定してつくられたものである。計算過程は異なるが、原理的には前項のVSDP法と同じである。 以下に、その概要を述べる。 はじめに、厚さ(H)の異なる 5 個程度の標準容積線源を測定し、それぞれのピーク効率(ε)を 求める。これら実測ピーク効率のデータを用いて、非線形最小二乗法によって、(14)式の未知パラ メータ(C,α、β)を決定する。その際、線減弱係数μ(cm-1) としては、標準線源の媒体に対する 値を代入する。例えば、137Csからのγ線(662keV)の水に対するμは 0.086 cm-1 である。 C 1−e-A・H ε(H)= 1−e-B・H A=α+μ、 B=β+μ + H A (14) B C、α、β: 非線形最小二乗法で決定される定数 H : 標準線源(または試料)の厚さ(cm) 決定された(14)式を他の試料の自己吸収補正に適用するときは、その試料媒体に対する線減 弱係数μ(cm-1) を代入する。 前項で述べたVSDP法と同様に、(14)式の係数(C、α、β)はエ ネルギーによって異なるが、あるエネルギーについて求められた係数を用いても自己吸収補正係 数に大きな違いは生じない。Fig.3 および 4 に示された結果は、662keV の標準線源で決定された 係数を用いて他のエネルギーに対して計算されたものである。 -6- 3.3 三次元透過距離法 5) (3DD : 3 Dimensional Distance) 容積線源は点線源の集合体と考える。試料内の任意の位置から放出されるγ線について、3次 元通過距離から計算される透過率を容積線源の空間にわたって積分する。線源を透過したγ線 に対しては、Ge検出器の物理的パラメータから計算される結晶中の3次元通過距離によって、ピ ーク効率(ε)が計算される。γ線が放出される点の座標(h,r)と放出角(θ,φ)について積分す ることによって容積線源に対するピーク効率が計算される。Ge検出器に関するパラメータは、Ge 結晶の直径と高さ、検出器入射窓および不感層の厚さ、エンドキャップ上面から結晶表面までの 距離、検出器相対効率などである。また、試料に関するパラメータは、媒体の直径と高さ、媒体の 元素組成と嵩密度(減弱係数μが計算される)などである。 この方法の特徴は次のとおりである。1)自己吸収補正のみの場合は、ピーク効率などの実測デ ータを必要とせず、上記のパラメータを与えるだけで計算できる。 2)計算に使われている仮定や 近似が fSAに与える影響は小さい。 3)それぞれのγ線の通過距離は三次元距離で計算される。 媒体内における個々のγ線に対して計算される通過距離は実際の場合の通過距離にほぼ等し いので、先に述べた他の方法に比べて、最も確からしい補正係数の値を求めることができる。しか し、計算プログラムの作成、特に既成のスペクトル解析プログラムにこの方法を組み込むことは必 ずしも容易ではない。 1.05 CEPB PFPB VSDP ISDP ISDC 3DD 1 0.95 0.9 fSA 0.85 0.8 0.75 0.7 0.65 0.6 0 1 2 3 4 5 Thickness H(cm) Fig.3 Self-absorption correction factors by different methods for attenuation coefficient μ=0.178 cm-1(Water : E=88keV) -7- CEPB PFPB VSDP ISDP ISDC 3DD 1.05 1 0.95 0.9 fSA 0.85 0.8 0.75 0.7 0.65 0.6 0 1 2 3 4 5 Thickness H(cm) Fig. 4 Self-absorption correction factors by different methods for attenuation coefficient μ=0.086cm-1(Water : E=662keV) D48E88 D60E88 D70E88 D48E662 D70E662 ISDE88 ISDE662 1.05 1 0.95 0.9 0.85 fSA 0.8 0.75 0.7 0.65 0.6 0 1 2 3 4 5 Thickness H(cm) Fig. 5 Self-absorption correction factors dependent on sample diameter for 88keV and 662keV Dotted : 3DD method Solid : ISDE method -8- 3DD60 3DD65 3DD70 ISD60 3DD60 3DD70 ISD60 1.05 1 0.95 0.9 fSA 0.85 0.8 0.75 0.7 0.65 0.6 0 1 2 3 4 5 Thickness H(cm) Fig. 6 Self-absorption correction factors dependent on Ge crystal diameter (60, 65, 70mm) Dotted : 3DD method Solid : ISDE method CEPB CEPB ISDE ISDE 3DD 3DD 1.05 1 fR 0.95 0.9 0.85 0 1 2 3 4 Thickness H(cm) Fig.7 Ratio of self-absorption correction factors for soil and water fR=fSA(soil)/fSA(water) Dotted : 88keV Solid : 662keV -9- 5 4 考察および結論 5種類(CEPB, ISDE, VSDP, PFPB, 3DD)の自己吸収補正法について検討した結果、次のよう なことが判った。なお、実測データを用いる方法(VSDP, PFPB)では、測定データおよびフイッティ ング関数の信頼性・精度による影響については検討されていない。 a)平行線束の仮定を用いる方法(ISDP, VSDP, PFPB)では、試料が比較的薄いときには自己吸 収の補正が足りない傾向を示す。これは、γ線の媒体内での通過距離が実際の通過距離と大 きく異なるためである。 b)CEPB 法を除く他の方法では、どれを用いても、通常の環境試料に対して問題となるほどの差 は生じない。しかし、標準線源の測定に基づく補正法(VSDP, PFPB)では、平均的な試料の減 弱係数とあまり違わない減弱係数をもつ標準線源(例えば、137Cs、水溶液)がよい。 c)試料の直径が大きくなるほど自己吸収補正係数は小さくなるが、その影響はあまり大きくない。 直径がおよそ 5∼7cmφの範囲では±1%未満であった。 また、自己吸収補正係数はGe 結晶の直径に依存し、直径がおよそ 6∼7cmφの範囲では差は最大で 2%程度であった。 d)一般の環境試料(水、土壌、灰化物等)は主成分として原子番号の高い元素を含まないので、 水溶液の標準線源を用いてピーク効率を求めるならば、媒体の違いによる自己吸収の差はそ れほど大きくはない。Fig. 7 は、水の試料を基準として、土壌(アルミナで模擬、ρ=1.3g/cm3 と した)の自己吸収の割合を3種類の異なる方法(CEPB、ISDE および 3DD)で計算した結果で ある。 自己吸収補正法は、用いる仮定の確かさ、近似の精度、試料および検出器への適用範囲、 測 定に用いる標準線源(STD)の個数や入手の難易さ、計算プログラムの作成または導入の容易さな どで判断される。上に述べた 6 種類の方法について、それらをTable 1 にまとめて示す。以上のこ とを総合的に判断して CEPB 法以外の方法に優劣の大きな差はないが、どれか一つの方法を選 ぶとすると次の理由によって平均通過距離を用いるISDC法が推奨できる。 1)3DD 法による結果 を基準にして、1∼5cm の厚さにわたって平均的に偏差が小さい。 2)標準線源による実測データ を必要としないので、容易に適用できる。 3)計算プログラムの作成が簡単であり、また、既存のγ 線スペクトル解析ソフトに組み込みやすい。 Table 1 各種補正法のまとめ 方法 確かさ 精度 範囲 容易さ STD 数 その他 A ◎ * * × 10∼20 標準線源の入手に難 CEPB × × × ◎ 不要 2cm 以上で誤差が大 ISDE □ ○ □ ◎ 不要 平行線束、平均通過距離 VSDP □ △ □ □ ∼5 PFPB □ △ □ △ ∼5 同上 3DD ◎ ◎ ◎ × 不要 プログラム作成に難 実測データの最小二乗法計算 仮定の確かさ、近似の精度 ◎高、 ○中高、 □中、 △中低、 ×低 - 10 - 適用の範囲、容易さ ◎大、 ○中大、 □中、 △中小、 ×小 * 使用する標準線源の種類、個数、放射能検定値の確かさ、等に依存 参考文献 1) E. 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