12.小型メモリーカードリーダー/ ライターの開発 技 術 紹 介

技 術 紹 介
12.
小型メモリーカードリーダー/
ライターの開発
Development of Small Memory Card Reader/Writer Module
森川 智宏 Tomohiro Morikawa システム機器事業部 技術二部
キーワード:リーダー/ライター、セキュリティー、SDメモリーカード、マジックゲートメモリー
スティック、USB
Keywords: Reader/writer, security, SD memory card, MagicGate Memory Stick, USB
要 旨
SUMMARY
フラッシュメモリーを搭載した小型メモリーカー
ドはデジタルスチルカメラでの利用を軸に、近年
急速に普及しており、中でも音楽や映像データの
コンテンツ配信に対応するために著作権保護機
能(セキュリティー機能)を搭載したSDメモリーカ
ードとマジックゲートメモリースティックが特に注
目されております。この2種のメモリーカードはそ
れぞれ独自のインフラを形成しているため、利用
者はこれらのメモリーカードを利用したデジタル
機器を手に入れる際、自分の持っている環境に合
わせた物を選択することが求められます。
そこで利用者にとってメディアに依存しないイン
フラを形成することを目的に、前述2種のメモリー
カードを同時にサポートしたパソコン周辺機器モ
ジュール(写真1:メモリースティック リーダー/
ライター、写真2:SDメモリーカード リーダー/
ライター)を開発しました。また、それぞれの著作
権保護機能にも対応したことにより次世代コンテ
ンツ配信事業にも展開できる仕様となっております。
Small memory cards with flash memory are
expanding at an amazing rate, for use in digital
still cameras, etc.
Especially, SD memory cards with copyright
protection capability (security) and MagicGate
Memory Sticks are drawing much attention to
support the delivery of music and video data
contents. Since these two types of memory
cards each have their own infrastructure, the
user has to choose the digital equipment conforming to the infrastructure on hand.
We have hereby developed a PC peripheral
module (photo 1: Memory Stick reader/writer;
photo 2: SD memory card reader/writer) to support both types of memory cards, with the objective of forming an infrastructure that does not
rely on media. It accomodates the copyright
protection features of both memory cards, and
is thus able to meet the demands of the nextgeneration contents delivery business.
SDモジュール
メモリースティックモジュール
写真1
航空電子技報 No.25 技術紹介
1
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
まえがき
デジタル機器にとって小型・軽量化は必須であり、また機器間の連携のために多様な
インターフェースを備えることも要求されます。特に拡張用メモリーのインターフェー
スは標準的に搭載されることが多いため、メモリー媒体自体の小型化が要求されます。
また、音楽用途で利用するためには楽曲データの著作権保護問題が生じるため、データ
を保護するシステムを実現することが求められ、ひいてはメモリー媒体自体にデータ保
護機能(セキュリティー機能)を搭載することが求められました。この小型化とデータ
保護機能搭載を実現したメモリー媒体が SD メモリーカードとメモリースティック※1で
す。
SD メモリーカードとメモリースティックはそれぞれ独自規格なため、形成しているイ
ンフラが異なり、各々に対応したデジタル機器間の連携は無い状況でした。この両メデ
ィアの同時サポートにより利用者の利便性を向上させるべく、開発したものが今回のリ
ーダー/ライターとなります。本開発に際し、リーダー/ライターの接続インターフェ
ースとして現在最も汎用性のある USB(Universal Serial Bus)を採用し、モジュール
(ハードウェア)のみならずドライバソフト(セキュリティー機能対応ドライバソフト)
までの一貫サポートを実現しました。
本紙面では主にリーダー/ライターの基本的仕様とセキュリティー対応技術を解説致
します。
※1
セキュリティー機能を搭載したものはマジックゲートメモリースティックです
1
航空電子技報 No.25 技術紹介
2
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
SD メモリーカードの特徴
SD メモリーカードは松下電器産業株式会社、株式会社東芝、サンディスク株式会社に
よって開発された横 24[mm]×縦 32[mm]×厚さ 2.1[mm]と切手サイズのメモリーカードで
す。カード内部にはフラッシュメモリーと専用コントローラーを搭載しており、音楽デ
ータ等の著作権保護に対応するためのセキュリティー機能を持っております。
SD メモリーカードで実現しているセキュリティー機能は CPRM(Content Protection
for Recordable Media)と呼ばれる技術で、カード内部の制御回路と外部機器との整合
性が確認した時にのみ保護データ領域の読み出し/書込みが行えます。CPRM で行う外部
機器の認証時にはデバイスキーと呼ばれる鍵データを使用します。
また SD メモリーカード用アプリケーションソフトとのソフトウェアインターフェー
スとして API 層(SD Secure API と呼ばれる)が規格化されております。
3
メモリースティックの特徴
メモリースティックはソニー株式会社が独自に開発した横 21.5[mm]×縦 50[mm]×厚
さ 2.8[mm]の長方形をしたメモリーカードです。カード内部には SD メモリーカードと同
様、フラッシュメモリーと専用コントローラーを搭載しております。メモリースティッ
クにはノンセキュリティーのメモリースティック(紫色)とセキュリティー機能にも対
応したマジックゲートメモリースティック(白色)の2種類があります。
マジックゲートメモリースティックで実現しているセキュリティー機能は SD メモリ
ーカードと同様、カードと外部機器との整合性を確認するためにデバイスキーを使いま
す。専用アプリケーションソフトとしては OpenMG Jukebox という音楽データを取り扱う
ためのソフトが用意されており、CD リッピング(音楽データの取り込み)や、インター
ネット経由で WEB サイトから音楽データをダウンロードしたり、外部機器を通してマジ
ックゲートメモリースティックへのデータのチェックイン/チェックアウト等が出来ま
す※2。
※2 CD リッピング/WEB サイトとの連携/チェックイン・チェックアウト等の機能は SD
メモリーカード用アプリケーションソフトも持っております。
2
航空電子技報 No.25 技術紹介
4
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
機能概要
4.1
USB デバイスとしての機能概要
本開発品では SD メモリーカード及びメモリースティック(マジックゲートメモリース
ティック含む)へのリード/ライトを USB デバイスとして実現しております。PC との接
続で自動的に USB マスストレージクラスデバイスとして認識され、ディスクドライブと
して扱うことができます。ファイルエクスプローラー上ではリムーバブルディスクとし
て表示され、フロッピーディスクと同じような使い方が出来ます。
USB デバイスとしてはマスストレージクラスに属し、OS 標準のクラスドライバ※3で動
作します。転送速度はフルスピード
12[Mbps]のレートで行われ、ファイルのリード/
ライトのために SCSI コマンドを使用します。エンドポイントとしては基本的なデバイス
制御用に使われるコントロールエンドポイントとデータ転送に用いられるバルクエンド
ポイントを内蔵しております。対応 OS としては Microsoft Windows2000 / Me / Xp に対
応しております。電源仕様に関しては USB バスパワーデバイスに準拠した動作消費電流
500[mA]、USB サスペンド時消費電流 100[μA]を満足します。
※3 Windows2000 以降の OS で標準搭載されている USB マスストレージクラスドライバ
4.2
SD メモリーカードのセキュリティー機能概要
SD メモリカードのセキュリティー機能としては CPRM に対応しており、東芝製アプリ
ケーションソフト(音楽データ編集用ジュークボックスソフト)AudioManager との接続
可能なドライバソフト(SD Secure API 対応ドライバソフト)を開発し、著作権保護デ
ータのリード/ライトを実現しましております。対応 OS については、現状 Windows Me /
Xp 版を用意しました。
4.3
マジックゲートメモリースティックのセキュリティー機能概要
マジックゲートメモリースティックのセキュリティー機能に対応しており、SONY 製ア
プリケーションソフト(音楽データ編集用ジュークボックスソフト)OpenMG Jukebox に
接続して著作権保護データの取扱いを可能にしました。OpenMG Jukebox へ接続するため
のソフトウェアは、ソニー株式会社殿に所有権があります。対応 OS については Windows
Me / Xp 版を用意しました。
3
航空電子技報 No.25 技術紹介
4.4
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
SD メモリーカードモジュールのマルチメディアカード※4対応
また、SD メモリーカードのリーダー/ライターでは SD メモリーカードと縦横のサイ
ズが全く同じ大きさで同一コネクタを利用可能なマルチメディアカードにも対応しまし
た。
※4
マルチメディアカードはサンディスク株式会社が開発したメモリーカードで、縦横の
寸法は SD メモリーカードと同形状しており、SD メモリーカードはこのマルチメディ
アカードの上位互換にあたる
4
航空電子技報 No.25 技術紹介
5
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
ハードウェア概要
USB Controller
Memory Controller
Protcol Engine
Memory Control
USB I/F
Memory I/F
Endpoint
Control(8B)
Bulk/In(64B)
Bulk/Out(64B)
Register
Bus I/F
Bus I/F
Buffer
16bit
16bit
16bit
CPU
図1
メモリーカードリーダー/ライター
ハードウェア概略構成図
メモリーカードリーダー/ライターのハードウェア構成を図1に示します。
基本的には CPU、USB コントローラ、メモリーコントローラーで構成され、CPU が USB
コントローラーとメモリーコントローラーを制御することでリーダー/ライター動作を
実現しております。
USB コントローラー部には USB プロトコルエンジン/エンドポイント/バスインター
フェースが内蔵されており、エンドポイントとしてはコントロールエンドポイントとバ
ルクエンドポイントを使用します。プロトコルエンジン部はフルスピードの 12[Mbps]の
通信速度でホストとの通信を行います。
メモリーコントローラー部ではメモリーインターフェース部が SD メモリーカード用、
メモリースティック用となり両メディアをサポートします。この2種のメモリーカード
ではデータの書込み/読み出し時、512 バイトのデータを1ブロック単位として行う特
徴があるためバッファを内蔵しております。
5
航空電子技報 No.25 技術紹介
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
USB インターフェースからの電源供給は 5[V]ですが内部回路は全て 3.3[V]で動作し、
動作時の消費電流が最大 100[mA]、USB サスペンド時で最大 100[μA]であり、USB バスパ
ワーデバイスのハイパワーデバイスに準拠する仕様となっております。
6
ソフトウェア概要
メモリーカードリーダー/ライターのソフトウェア構成を図2に示します。
File Explorer
Application
Mass Storage Driver
Secure Driver
USB Stack
Reader / Writer
USB Control
Memory Card Control
Secure Control
Memory Card
図2
6.1
メモリーカードリーダー/ライター
ソフトウェア概略構成図
USB 制御
まず始めにホストとの接続(認識)時、プラグアンドプレイによって本製品を USB ス
トレージデバイスとして認識させます。USB ではディスクリプタと呼ばれるデバイス属
性情報を使い外部デバイスを認識します。USB では外部デバイスをクラスと呼ばれるカ
テゴリーで分類しており、このデバイスクラスにはマウス、キーボード等の HID(Human
Interface Device)クラスやデータ通信機器用のコミュニケーションクラス、本製品で
使用しているマスストレージクラス等が数種類定義されております。マスストレージク
ラスに関して見れば、近年 USB 接続で使用するストレージ機器が増えたため Microsoft
社製 OS Windows シリーズに標準で USB マスストレージクラス用のドライバソフトが搭載
されるようになりました。今回の開発品ではこの Windows 標準のマスストレージクラス
6
航空電子技報 No.25 技術紹介
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
ドライバを利用するように設計しております。
マスストレージクラスとして認識された後は、コントロールエンドポイントとバルク
エンドポイントを利用してファイル I/O 動作を行います。I/O の制御は SCSI コマンドを
用いて行います。
6.2
メモリーカード制御
メモリーカードのイニシャライズ及び USB ホストからの要求でメモリーカードへのデ
ータ書込み/読み出しを行います。メモリーカードのファイル管理は FAT(File
Allocation Table)で行いますが、リーダー/ライター内部にファイルシステムは搭載
しておらず、ホスト(PC)のファイルシステムを利用します。
メモリーカードの転送プロトコルでは、データをブロックと呼ばれる 512 バイト単位
で取扱います。大量なデータの転送などでは転送レートを向上させるためのマルチブロ
ック転送と呼ばれるプロトコルを使用します。
SD メモリーカードモジュールではイニシャライズ工程で SD メモリーカードとマルチ
メディアカードの識別を行っております。識別の結果、SD メモリーカードと判断した時
はメモリーカードのインターフェースを転送レートの高い SD
4 ビットモードに切り換
えます。(マルチメディアカードでは 1 ビットのシリアル通信のみです。)
6.3
ドライバ仕様
ファイル I/O 動作では前述したように Windows 標準の USB マスストレージクラスドラ
イバを使用し、セキュリティーデータのリード/ライトでは図2に示すセキュアドライ
バを用いて実現します。このセキュアドライバはアプリケーションソフトと USB スタッ
クとの間に位置し、セキュリティーをリーダー/ライターに通す、パイプの役割を果た
します。
6.4
Windows ロゴの取得
本開発品では Microsoft 社が実施している WHQL※5テストをパスし、Windows ロゴを取
得しております。
※5 WHQL(Windows Hardware Quality Logo の略)
Microsoft 社が実施しているテストで Windows システムを塔載した PC 上でのハードウ
ェアの接続信頼性を確認する。パスすると Windows のロゴが取得出来る。
7
航空電子技報 No.25 技術紹介
7
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
製品仕様
7.1
SD メモリーカードリーダー/ライター仕様
電気的仕様
動作電圧
動作消費電流
スタンバイ消費電流(USB サスペンド
時)
USB インターフェース仕様
USB バージョン
5[V]±5[%]
Max 100[mA]
Max 100[μA]
Universal Serial Bus Specification
1.1
転送モード
Full Speed 12[Mbps]
電力仕様
バスパワーデバイス
(ハイパワーデバイス:Max 500[mA])
デバイスクラス
USB マスストレージクラス
サブクラスコード
SCSI
インターフェースプロトコル
Control/Bulk 転送
エンドポイント
EP0 : Control
EP1 : Bulk(In)
EP2 : Bulk(Out)
SD メモリーカードインターフェース仕様
SD メモリーカードバージョン
SD Memory Card Specification 1.0
インターフェース仕様
4bit SD モード/1bit MMC モード対応
(SPI モードは非対応)
転送速度
クロックレート Max 20[MHz]
転送モード
マルチブロック転送対応
(ストリームモードは非対応)
セキュリティー
CPRM
他のメディアサポート
マルチメディアカード対応
(セキュアマルチメディアカード対応
予定※6)
※6
セキュアマルチメディアカードは日立製作所が開発したメモリーカードで、マルチメ
ディアカードにセキュリティー機能を付加したものです。「ケータイ de ミュージッ
ク」と呼ばれる規格で採用されております。
8
航空電子技報 No.25 技術紹介
7.2
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
メモリースティックリーダー/ライター仕様
電気的仕様
動作電圧
動作消費電流
スタンバイ消費電流(USB サスペンド
時)
USB インターフェース仕様
USB バージョン
5[V]±5[%]
Max 100[mA]
Max 100[μA]
Universal Serial Bus Specification
1.1
転送モード
Full Speed 12[Mbps]
電力仕様
バスパワーデバイス
(ハイパワーデバイス:Max 500[mA])
デバイスクラス
USB マスストレージクラス
サブクラスコード
SCSI
インターフェースプロトコル
Control/Bulk 転送
エンドポイント
EP0 : Control
EP1 : Bulk(In)
EP2 : Bulk(Out)
メモリースティックインターフェース仕様
メモリースティックバージョン
Memorystick Specification 1.3
転送速度
クロックレート Max 20[MHz]
セキュリティー
マジックゲートメモリースティック対応
9
航空電子技報 No.25 技術紹介
8
12.小型メモリーカードリーダ/ライタ
むすび
今回の開発では小型メモリーカードのセキュリティー機能をサポートすることで他社
製品との差別化を図ることができ、ノートパソコンの付属品として採用して頂くことが
出来ました。また、これを機にデスクトップパソコンへの採用も頂くことが出来ました。
小型メモリーカードが持つセキュリティー機能は音楽や映像データのコンテンツ配信
サービス等これまでに無い新しい市場を創造するポテンシャルを秘めております。それ
に伴い本開発品も様々な形で展開出来るものと考えております。今後、技術的にも急速
に高速化が進んでいるフラッシュメモリーへの対応や USB インターフェースとして
USB2.0 の採用等、色々な課題も残っております。また技術面での進歩と共に低価格化を
推進するため、システム LSI 化への取組みも行っていきたいと考えております。
最後に今回の開発にあたり、ご指導、ご協力を頂きました関係者各位に深く感謝申し
上げます。
(注1)メモリースティック及びマジックゲートメモリースティック,OpenMG は、ソニ
ー株式会社の商標です。
(注2)Microsoft 及び Windows は米国 Microsoft Corporation の米国及びその他の国
における商標または登録商標です。
10