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低電圧で動作するCMOSリファレンス電圧回路
Low Voltage Operation CMOS Voltage Reference Circuit
大石
秀伸*
大仁
Hidenobu OHISHI
正則*
Masanori DAININ
要
旨
渡辺
博文**
Hirobumi WATANABE
_________________________________________________
本論文は,不純物およびゲート長Lの異なるゲート電極を持った,2つのCMOSトランジス
タで構成されたリファレンス電圧(以下,Vref)回路にて,バックバイアス効果を利用した
新しいLow Voltage Vref回路が,既に実用化されているConventional Vref回路と比べて,低電
圧で動作可能であること,ウェハ面内ばらつきが良好なこと,温度特性が良好なこと,消費
電流が小さくなることを示した.
ABSTRACT _________________________________________________
This paper presents the low voltage operation CMOS reference circuit consisting of a pair of
transistors, which have different types of impurities and unmatched lengths of poly Si gates. The
measured results for the low voltage reference revealed that the voltage reference has a lower voltage
operation, good output voltage reproducibility, lower temperature coefficient, and lower current
consumption.
*
電子デバイス事業部
生産室
Production Department, Electronic Devices Divison
**
リコー技術研究所
Ricoh Institute of Technology
Ricoh Technical Report No.40
15
FEBRUARY, 2015
1.
2.
はじめに
電源ICなどのアナログ電子回路では,精度の高い
2-1
制御や低消費電力化が必要となっている.高精度化
理論
仕事関数差Vrefの理論
これまでにリコーで開発されてきたVref回路のう
に特に重要となる回路の1つに,リファレンス電圧
ち,代表的なものとして,ゲート仕事関数差を用い
(以下,Vref)回路がある.我々はこれまでVref回
たVref回路がある.この回路は,チャンネルの不純
路の高精度化の開発を行ってきた1).
物濃度は同じで,ポリSiゲート電極の極性が異なる
また近年,リコーが市場で大きなシェアを持つリ
2つのNチャンネル型CMOSトランジスタM1, M2で
チウムイオン電池保護ICにおいて,検出電圧を低電
構成されている (Fig. 1).ゲート酸化膜容量Cox,
圧化して検出回路を低消費電流化することが電池の
ゲート電極の長さL,ゲート電極の幅W等のパラ
長時間使用に貢献するため,低電圧化技術も重要に
メータはM1とM2で共通であるが,M1には高濃度N
なってきており,キー回路となるVref回路の低電圧
型ゲート電極,M2には高濃度P型ゲート電極を使用
化のニーズが高まっている.
している.そのためVrefは(1)式のように,ゲート電
Vref回路は,①バンドギャップリファレンス回
極の仕事関数φgateの差で表される.
路 2,3) ,②チャンネル不純物濃度を変えて閾値電圧
(以下,Vth)の差を利用した回路4),③ゲート仕事
Vref = VthM 2 - VthM1 =φgate p + -φgaten +
関数差を用いた回路が主に使用されているが 5),こ
=
れらのVref回路は,電源電圧を1V以下に下げること
が で き ない ( ①お よ び③) , 温 度特 性 が大 きい
(②),というように,今後の低電圧化にあたって
N p+
N n+
kT
kT
・ln
- ( - ・ln
q
Ni
q
Ni
) = kT・ln
q
N p・
+ N n+
Ni 2
(1)
ここで,VthM1はM1の閾値電圧,VthM2 はM2の閾
は,いずれも課題を抱えている.
値電圧,kはボルツマン定数,Tは温度,qは電荷,
我々は先に,一般的なCMOSプロセスを用いなが
Ni は真性半導体のキャリア濃度,Np+ は高濃度P型
ら,回路設計を工夫して,0.55 Vという低電圧で動
ゲート電極を使用したトランジスタM2のキャリア
作するLow Voltage Vref回路を実現した 6).このVref
濃度,Nn+ は高濃度N型ゲート電極を使用したトラ
回路は,ウェハ面内ばらつきが小さく,安定した温
ンジスタM1のキャリア濃度である.
度特性を持ち,消費電流が小さいこともわかった.
(1)式で示されるVrefは,正の温度特性を持つ.
本論文では,この低電圧で動作するLow Voltage
Vref回路にて,ウェハ面内ばらつき,温度特性,消
2-2
費電流を従来型のConventional Vref回路と比較し,
Conventional Vref回路
この温度特性を低減させるために,2つのトラン
性能の有意性について論じる.
ジスタM1, M2のゲート電極の長さLをそれぞれ固有
の 値 とし た回 路 ( Conventional Vref回 路 ) が ある
(回路図はFig. 1と同じ).このVref回路では,仕
事関数差で発生する温度特性を,L長が異なるため
に発生する移動度μ(特にフォノン散乱に関わるμPH)
の温度特性の差で補正することができるため,さら
に温度特性の良いVrefを実現できる.
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16
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Vdd
Vdd
M1
M1
Vref
Vref
M2
M2
GND
GND
Fig. 1 (Conventional) Vref circuit.
Fig. 2 Low Voltage Vref circuit.
ここで,フォノン散乱に関わる移動度μPHは,以
ここで,VgsM1 = 0Vであり,ゲート酸化膜容量
下の(2)式で表されるように,L長に依存する電界効
Cox,ゲート幅Wは2つのトランジスタ間で同じであ
果移動度Eeffが温度特性に影響を与えることがわか
るため,CoxM1 = CoxM2およびWM1 = WM2となる.こ
7)
る .
れらを(4)式に代入すると,(5)式が導かれる.
μ PH ( phonon) =
M uephonon
(T / TNOM )
Vref =
MUETMP
MUEPH 0
・E eff
(2)
Fig. 1のConventional Vref回路において,M1とM2
2-3
には同じドレイン電流Idが流れるので,(3)式の関係
が成り立つ.
Id M 1 - Id M 2
-
μM ・
・VthM2 - μ M1・LM2・VthM1
2 LM1
μ M2・LM1
(5)
Low Voltage Vref回路
従来の方法では,Vrefの温度特性は向上するもの
の,電源電圧を1Vよりも下げることは難しかった.
WM1
1
(Vgs M 1 - VthM 1 )2
= Cox M・
1 μ M・
1
2
LM1
WM2
1
(Vgs M 2 - VthM 2 )2 = 0
Cox M ・
2 μM・
2
2
LM2
そこで電源電圧をさらに引き下げるために,2つの
トランジスタを組み合わせたVref回路を工夫した.
(3)
従来はM1のソースに接続していたM1のゲートを,
Fig. 2に示すように,グラウンドに接続すると,
Conventional Vref回路では,Vref = VgsM2であるこ
バックバイアス効果によって,ドレイン電流を減ら
とから,(3)式を変形すると,以下の(4)式が成り立
すことができる.その結果,M1とM2の動作点の電
つ.
圧が下がるため,最小動作電圧も下げられることに
なる.
Vref = Vgs M 2
= VthM 2
Low Voltage Vref回路では,VgsM1 = -Vrefとなるの
Cox M・
1 μ M・
1 LM ・
2 WM 1
・(VthM1 - Vgs M1 )
Cox M ・
μ
・
L
・
2
M2
M 1 WM 2
(4)
で,CoxM1 = CoxM2, WM1 = WM2と合わせて(4)式に代入
すると,Vrefは以下の(6)式で表される.
Vref =
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μM・
・VthM2 - μ M1・L M2・VthM1
2 L M1
μ M2・L M1 + μ M・
1 L M2
(6)
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3.
今回のLow Voltage Vref回路の最小動作電圧0.8 V
実験
は,以前の報告 6)の最小動作電圧0.55 Vと比較して
8 インチウェハの面内のConventional Vref回路お
高くなっているが,これは,前回のCMOSプロセス
よびLow Voltage Vref回路の特性ばらつきが測定で
テクノロジーがサブハーフミクロン世代で,今回は
きるパターンを設計し,一般的なハーフミクロン
ハーフミクロン世代という違いがあり,そのために
CMOSプロセスを用いてウェハを試作した.それぞ
2つのトランジスタのVthの値が異なることによる.
れのVref回路は,ウェハ面内268箇所に均等に配置
また,Vrefについても,Conventional Vref回路が
されており,ウェハ面内ばらつきの評価には全点の
1.4 Vであるのに対し, Low Voltage Vref回路では
測定結果を用いた.また,2つのトランジスタM1,
0.5 Vと,0.36倍に下げることができる.Vrefの低下
M2のL長の比 (Lratio = LM1/LM2) を0.25~0.75まで変
については,(6)式のVthM1がバックバイアス効果に
えたVref回路を用意した.評価として,Vref回路の
より上昇したことによる.
今回の測定には,いずれもLratio = 0.5のVref回路
Vdd - Vref特性,Vrefばらつき,温度特性,消費電流
を使用しているので,2 LM1 = LM2である.また,M1
の比較を行った.
とM2はフォノン散乱の移動度の項が異なるものの,
チャンネルの不純物濃度は同じなので,μM1 = μM2と
4.
実験結果と考察
4-1
Vdd - Vref特性
する.これらをConventional Vref回路の(5)式に代入
すると,以下の(7)式のようになる.
Vref = Vth M 2 - 2・VthM 1
(7)
Conventional Vref回路とLow Voltage Vref回路のそ
れぞれの動作電圧VddとVrefとの関係をFig. 3に示す.
Low Voltage Vref回路の(6)式に代入すると,以下
バックバイアス効果を利用したLow Voltage Vref回
の(8)式のようになる.
路 で は , 最 小 動 作 電 圧 が 0.8 V と な っ た .
Vref = (
Conventional Vref回路の最小動作電圧2.0 Vに比べ,
0.40倍に低電圧化できた.ここで,最小動作電圧と
は,Vdd = 5VのときのVrefに対し,95%のVrefとなる
1+ 2
) ( VthM 2 - 2・VthM1
・
)
(8)
Vrefが出力されている動作点でのVthをそれぞれ
Vddの値である.
(7)式および(8)式に代入すると,Conventional Vref
回路,Low Voltage Vref回路のVrefはそれぞれ1.26 V,
1.6
0.46 Vとなり,実測値とおよそ一致する.
1.4
1.2
Vref [V]
1
Conventional
1.0
4-2
Low Voltage
0.8
Vrefばらつき
Conventional Vref回路およびLow Voltage Vref回路
0.6
0.4
の面内268箇所のVref測定結果を Table 1に示す.こ
0.2
こでは,標準偏差σでの比較を行っている.また,
0.0
0
1
2
3
4
それぞれのヒストグラムを,Fig. 4 a)およびb)に示す.
5
これより,Low Voltage Vref回路では,Conventional
Vdd [V]
Vref回路に比べVrefのσが小さくなっていることがわ
Fig. 3 Vref vs Vdd.
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かる.
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なっている理由について,(5)式および(6)式から考
察する.
Vref回路では,L = 10 μm以上の十分大きいL長を
使用しているため,LM1, LM2は,σへの影響は十分小
さい.今回の測定結果から,トランジスタの移動度
1.400
1.398
1.396
1.394
1.392
1.390
1.388
1.386
1.384
1.382
1.380
1.378
1.376
1.374
1.372
1.370
1.368
1.366
1.364
1.362
1.360
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
以下,Low Voltage Vref回路の方が,σが小さく
μのばらつきは,Vthのばらつきの1/4程度であり,
Vref [V]
a) Conventional Vref.
Vrefのばらつきに支配的なのはVthM1, VthM2であるこ
とがわかった.
Conventional Vrefと比較すると,分母に μ M ・
1 L M2
が追加されているので,係数全体の絶対値は小さく
なる.以上の理由で,各Vthのσが同等であっても,
Low Voltage Vref回路の方が,Vrefのσは小さくなる.
σが小さくなることは,リチウムイオン電池保護
0.520
0.518
0.516
0.514
0.512
0.510
0.508
0.506
0.504
0.502
0.500
0.498
0.496
0.494
0.492
0.490
0.488
0.486
0.484
0.482
0.480
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
Low Vloltage Vref の 各 Vth に か か る 係 数 は ,
Vref [V]
ICの場合,検出電圧の微調整を行うトリミング工程
b) Low Voltage Vref.
において有利である.Vref回路を使用して狙いの検
Fig. 4 Deviation of Vref.
出電圧を得るには,Vref回路に接続した抵抗の比を
変えることで,狙いの検出電圧に変換しているが,
4-3
Vrefに応じてトリミング工程にて抵抗につながる配
Vref温度特性
線をレーザーで切断し,抵抗の比を微調整すること
Vrefの温度特性は,2つのトランジスタのLratioに
で,製造工程で発生するVrefのばらつきを打ち消す
依 存 す る た め , Conventional Vref 回 路 お よ び Low
ことができる.しかし,抵抗体自体にもばらつきが
Voltage Vref回路それぞれについて,各Lratioでの温
あるので,Vrefのσを小さくできれば,微調整に用
度と,25℃のVrefからの変動率との関係について評
いる抵抗体の本数を削減することができるため,検
価した.測定温度Taでの変動率 (ΔVref %) は,以下
の(9)式で表される.
出電圧のばらつき低減,およびチップの小型化に有
利である.
ΔVref (% ) =
Vref (Ta ) - Vref (T 25)
× 100
Vref (T 25)
(9)
Table 1 Comparison of Deviation of Vref.
Conventional
Low Voltage
AVE (V)
1.3776
0.4974
MAX (V)
1.3947
0.5044
MIN (V)
1.3608
0.4892
σ (V)
0.0057
0.0026
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1000
6
400
L=0.25
-50
0
50
100
-2
L=0.33
L=0.4
L=0.5
-4
Temperature [℃]
y = -494.7ln(x) - 332.87
0
-200
-400
-600
L=0.6
-6
y = -855.6ln(x) - 487.05
200
TC [ppm/℃]
Δ[email protected]=5V [%]
600
Lratio
2
0
Conventional
Low Voltage
800
4
L=0.67
-800
L=0.75
-1000
a) Conventional Vref.
0.0
0.5
1.0
1.5
Lratio
Fig. 6 TC vs Lratio.
6
Lratio
2
0
14
12
L=0.25
-50
0
50
100
-2
L=0.33
Idd @ Vdd = 5 V [µA]
Δ[email protected]=5V [%]
4
L=0.4
L=0.5
-4
L=0.6
L=0.67
-6
Temperature [℃]
L=0.75
b) Low Voltage Vref.
10
Conventional
Low Voltage
対数 (Conventional)
対数 (Low Voltage)
8
6
4
2
0
-50
Fig. 5 ΔVref vs Temperature.
0
50
100
Temperature [℃]
Fig. 7 Consumption current.
結果をFig. 5 a)およびb)に示す.また,Lratioと温
度係数TC (ppm/℃) との関係をFig. 6に示す.これよ
4-4
り,Conventional Vref回路とLow Voltage Vref回路で
消費電流
は温度係数TC = 0 ppm/℃となるLratioが異なってい
Conventional Vref回路およびLow Voltage Vref回路
ることがわかる.Conventional Vref回路およびLow
それぞれについて,Lratio = 0.5のときの消費電流の
Voltage Vref回路のLratioを,それぞれ0.57, 0.51に設
比較を行った.結果をFig. 7に示す.これより,
定すれば,TC = 0 ppm/℃の安定な温度特性を得るこ
Low Voltage Vref回路では,Conventional Vref回路に
とができる.
比べ消費電流が0.14倍に抑えられていることがわか
温度特性のLratio依存性(Fig. 6の傾き)は,Low
る.Low Voltage Vref回路の25℃での消費電流は,
Voltage Vref回路の方が,Conventional Vref回路より
1.7 μAであった.
も小さい.これは,バックバイアスにより電界効果
移動度Eeff が小さくなり,結果としてμPH の変動が
小さくなって,Vrefの温度特性も小さくなるためで
ある.
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5.
結論
仕事関数の異なる2種類のポリSiゲートを用いた
Vref回路にて,一般的なCMOS製造プロセスを変え
ることなく,一方のゲートをグラウンドに接続する
だけで,最小動作電圧を0.40倍,Vrefを0.36倍に低
下できることがわかった.また,消費電流を0.14倍
に小さくできるということもわかった.面内ばらつ
きや温度特性についても良好な特性が得られた.
Low Voltage Vref回路は,今後の電源ICにおいて,
低電圧化のコア技術となる.
参考文献 _________________________________
1)
H. Watanabe et al.: CMOS Voltage Reference Based
on Gate Work Function Differences in Poly-Si
Controlled by Conductivity Type and Impurity
Concentration, IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. 38,
No. 6, pp. 987-994 (2003).
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technique for CMOS bandgap reference with sub-1V operation, IEEE International Symposium on
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Operation, Symp. VLSI Circuits, pp. 96-97 (2007).
4)
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Nanopower Voltage Reference Generator, 32nd
European Solid-State Circuits Conference, pp. 307310 (2006).
5)
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polysilicon gate work function difference, IEEE J.
Solid-State Circuits, Vol. SC-15, No. 3, pp. 264-269
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6)
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Reference based on the Work Function Difference of
Poly Si Gates, IMFEDK2010, pp. 42-43 (2010).
7)
Hiroshima University & STARC: HiSIM HV 1.2.0
User’s Manual.
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