三次元有限要素法を用いた小形コアレスモータの特性解析 3-D Finite Element Analysis of a Miniature Coreless Motor 中橋 鮎香∗ 中嶋 乃* 遠山 和久∗∗ Ayuka NAKAHASHI Osamu NAKASHIMA Kazuhisa TOUYAMA 要 旨 近年,携帯機器の発達に伴って,小形モータの更なる小形化・高性能化が望まれている.しか し,小形コアレスモータにおいては,各部位の形状・サイズの制約が多く,形状やサイズ変更に よる高性能化が困難である. そこで本報告では,ペンタゴン結線のコイルを用いた小形コアレスモータを解析対象とし,三 次元有限要素法を用いて磁界解析を行った.各部位を構成する材質を変えることによって高性能 化が望めるかどうかを検証した. ABSTRACT Recently, it is desired to miniaturize and improve capabilities of miniature motors, accompanied by development of portable devices. However, it is strongly difficult to develop of miniature coreless motors by changing parts shape or size with constraint. In this paper, Miniature coreless motor with the pentagon connection is analyzed using the 3-D finite element method. The effects of the material of the parts on the characteristics of the torque and the current are clarified. ∗ リコーエレメックス株式会社 技術統括室 Technology Management Office, Ricoh Elemex Corp. ∗∗ リコーエレメックスエーティー株式会社 製造部 Engineer Section, Ricoh Elemex AT Corp. Ricoh Technical Report No.35 113 DECEMBER, 2009 コイルと3つのコイルが並列に接続された回路となる. 1.背景と目的 その5つのコイルの組み合わせは,整流子によって回転 近年,携帯機器の発達に伴って,小形モータの更な 子 の 回 転 に と も な っ て 変 化 す る . Fig.1(a) に 示 す る小形化・高性能化が望まれている.一方,弊社は精 pattern1では,コイルa,bの直列接続とコイルe,d,c 密加工技術を得意としており,その技術力を活かして, の直列接続が並列に接続された回路となり,このとき 多方面に応用展開可能な小形モータの開発に取り組む の電圧に関する方程式は次式で表される. 事となった. E ab = V0 − ( Ra + Rb ) I ab − ここで,超細型の小形モータとして,コアレスモー タがよく使用されている.コアレスモータとは,コイ dΨ a dΨ b − =0 dt dt E edc = V 0 − ( R e + R d + R c ) I edc ル鉄芯がなく,ハウジングにて磁気回路を構成し,界 磁用永久磁石より発せられる磁束と,コイルへの通電 I 0 = I ab + I edc (2) dΨ e dΨ d dΨ c − − − =0 dt dt dt より生じる磁界の磁気的吸引力・反発力により回転す ここで,Ra~Reはそれぞれコイルa~eの巻線抵抗, る. 1) Ψa~Ψeはそれぞれコイルa~eの総鎖交磁束数,I0は電 しかし,小形コアレスモータ においては,各部位 の形状・サイズの制約が多く,形状やサイズ変更によ 源電流,V0は電源電圧,Iabはコイルa,bを流れる電流, る高性能化が困難である. Iedcはコイルe,d,cを流れる電流,Eabはコイルa,b間 にかかる電圧,Eedcはコイルe,d,c間にかかる電圧で そこで本報告では,ペンタゴン結線のコイルを用い ある. た小形コアレスモータを解析対象とし,三次元有限要 素法を用いて磁界解析し,各部位を構成する材質を変 回転子が回転すると,Fig.1(b)に示すpattern2のよう えることによって高性能化が望めるかどうかを検証し に,左側のブラシはpattern1同様に整流子Cに接続され た. たままであるが,右側のブラシは整流子Aから整流子E に切り替わる.この場合,コイルe,a,bの直列接続と コイルd,cの直列接続が並列に接続された回路となり, 2.技術 2-1 電圧に関する方程式は次式で表される. E eab = V 0 − ( R e + R a + R b ) I eab 解析手法 − 2-1-1 有限要素法による磁界解析 E dc = V0 − ( Rd + Rc ) I dc 永久磁石を考慮した磁界の基礎方程式は,マクス I 0 = I eab + I dc ウェルの電磁方程式より磁気ベクトルポテンシャルA を用いて次式で表される2). rot( ν rot A ) = J 0 + ν 0 rot M さらにFig.1(c)に示すpattern3では,右側のブラシは pattern2同様に整流子Eに接続されたままであるが,左 .............. (1) 側のブラシは整流子Cから整流子Bに切り替わる.この ここで,ν は磁気抵抗率,J0は強制電流密度,ν 0は 場合,コイルe,aの直列接続とコイルd,c,bの直列接 真空中の磁気抵抗率,Mは永久磁石の磁化である. 2-1-2 dΨ e dΨ a dΨ b − − =0 dt dt dt (3) dΨ d dΨ c − − =0 dt dt 続が並列に接続された回路となり,電圧に関する方程 式は次式で表される. 電気回路方程式との連立 本報告で解析したモータのコイルはペンタゴン結線 であり,Fig.1に示すように常に直列接続された2つの Ricoh Technical Report No.35 114 DECEMBER, 2009 E ea = V0 − ( Re + Ra ) I ea − dΨ e dΨ a − =0 dt dt E dea = V 0 − ( R d + R e + R a ) I dea E dcb = V 0 − ( R d + R c + R b ) I dcb dΨ d dΨ c dΨ b − − − =0 dt dt dt I 0 = I ea + I dcb − (4) dΨ d dΨ e dΨ a − − =0 dt dt dt E cb = V0 − ( Rc + Rb ) I cb − (5) dΨ c dΨ b − =0 dt dt I 0 = I dea + I cb さらにFig.1(d)に示すpattern4では,左側のブラシは pattern3同様に整流子Bに接続されたままであるが,右 以上のように,回転子が1回転する間に切り替えが 10回行われる. 側のブラシは整流子Eから整流子Dに切り替わる.この 場合,コイルd,e,aの直列接続とコイルc,bの直列接 2-1-3 続が並列に接続された回路となり,電圧に関する方程 式は次式で表される. トルクの算出法 回転子に働くトルクは節点力法を用いて求めた.節 点力法は,磁性体内の各節点に働く力の和を求めるこ とにより磁性体全体に働く力を計算する方法であり, Direction of rotation 電磁力Fは次式で表される. B CΨb Rb Ψa Iab Rc Ψc D Re RdΨd V0 Rb Ψe Iedc Ψa Ra A B A Ra Ψb Rc C E II00 n , F n = − ∫ ( T grad N n )dV ........ (6) V ここで,Ωは力を求めたい物体に含まれる全節点で Ψd E Ψc ∑F Ω Re Idc ある.Fnは有限要素法における各節点nに働く力であり, Rd Vは節点nを含む要素の総体積,Tは応力テンソル,Nn D V0 (a) pattern1 F = Ψe Ieab (b) pattern2 は節点nを含む要素の補間関数である. I0 節点力法は,マクスウェルの応力法のような閉曲面 の設定が不要で,局所的な電磁力の検討が容易である A BΨa Ra Rb Ψb C Ψe E Re Iea Ψd Idcb Rd Rc Ψc D A Ψ R e e Ra B Rb Rd Icb Ψb Rc 2-2 Ψd Idea Ψa という利点を有する3). E 解析モデルおよび解析条件 Fig.2に解析モデルを示す.図は空気とコイルを除き Ψc D 1/2領域で示しているが,実際の解析領域は1/1領域で ある.回転子領域は,コイル,コミュテータプレート C およびシャフトである.Fig.3に三次元分割図を示す. V0 I0 (c) pattern3 V0 I0 2-1-2節で述べたように,機械角36°毎に電圧(定格電 (d) pattern4 圧3.0V)を印加するコイルの組み合わせを切り替えた. Fig.1 Pentagon connection. Ricoh Technical Report No.35 永久磁石には,x軸方向に一様に0.6Tの磁化を与えた. 115 DECEMBER, 2009 shaft housing shaft bearing (case part) bearing (case part) bearing (magnet part) 7.0 S N magnetic non-magnetic bearing (magnet part) permanent magnet commutator plate end flange z y z z y x y x (a) Case1 (b) Case2 φ 2.8 (mm) Fig.2 Analyzed model. x Fig.3 3-D finite element mesh. Fig.4に本報告で検討した材質条件を示す.ハウジン グはどの条件においても磁性体であり,シャフト,軸 受ケース部および軸受磁石部の材質を図に示す5パター ンの条件において解析を行い,電流特性およびトルク (c) Case3 特性を比較した. (d) Case4 (e) Case5 Fig.4 Material conditions. Table 1に解析条件を示す. Table 1 Analysis conditions. Number of pole pairs 1 Magnetization of parmanent magnet (T) 0.6 -1 2-3 Rotation speed (min ) 30,000 Voltage (V) 3.0 Coil resistance (Ω/coil) 66.7 Number of coil turns (turn/coil) 77 解析結果と検討 Fig.5に磁束密度ベクトル分布(y=0mm断面)を示す. Case1,2では磁束がシャフト中を横切るのに対し, Case3~5では磁束がシャフト中を横切らないことがわ かる.これは,Case3~5では磁性体である軸受磁石部 を磁束が通るためである.なお,Case4,5ではシャフ トが磁性体であるがシャフト中を磁束が横切らないの Ricoh Technical Report No.35 116 DECEMBER, 2009 は,軸受磁石部とシャフトの間にギャップがあるため である. y = 0mm また,Case3,4ではCase1,2,5と比較して,軸受 ケース部が磁性体であるため軸受ケース部の磁束密度 が高くなる.さらに,Case5は他のモデルと比較して, 軸受ケース部と軸受磁石部との境界を通る磁束が少な いことがわかる.これは,軸受磁石部が磁性体であり, z かつ永久磁石の上面の高さと軸受磁石部の上面の高さ y が等しいため,軸受ケース部と軸受磁石部との境界に x z おいてz軸方向へ通る磁束が少なくなったためであると 考えられる. x y (a) Case1 z z (b) Case2 (c) Case3 z y (d) Case4 x y x y z x y x (e) Case5 Fig.5 Distributions of flux density vectors(y=0mm). Ricoh Technical Report No.35 117 DECEMBER, 2009 Fig.6に磁束密度ベクトル分布(永久磁石中央断面 (z = 4mm))を示す.Case1,2では磁束がシャフト 中を横切るのに対し,Case3~5は,軸受磁石部が磁性 体であり,かつ,シャフトと軸受磁石部間にギャップ z = 4mm があるため,シャフトを避けるように軸受磁石部を磁 束が通っている.また,Case3~5はCase1,2と比較し z y てハウジングの磁束密度が高い.これは,軸受磁石部 を磁性体にすることによって,永久磁石,ハウジング, y x (a) Case1 軸受磁石部を通る磁気回路の抵抗が小さくなったため であると考えられる. x z Fig.7に電源電流波形を示す.回転子が1回転する間 にコイルの切り替えが10回行われるため,電流波形の 周期は36°となる.また,電源電流の平均値は, Case1,2と比較してCase3~5の方が小さい.さらに, Case2が最も大きく,他の条件よりも逆起電力が小さい ことがわかる. Fig.8にトルク波形を示す.前述と同様に,回転子が 1回転する間にコイルの切り替えが10回行われるため, トルク波形の周期は36°となる.また,平均トルクは y y Case1,2と比較してCase3~5の方が大きく,Case2が (b) Case2 最も小さい.また,どの条件においてもトルクリップ (c) Case3 x z ルの大きさはほぼ同じである. x z Fig.7,8より,電源電流の平均値が小さく,平均ト ルクが大きいCase3~5が効率のよい条件であることが わかる.これは,Case3~5が他の条件と比較して永久 磁石,ハウジング,軸受磁石部を通る磁気回路の抵抗 が小さくなったためであると考えられる.また,電源 電流の平均値が最も小さいにもかかわらず,平均トル クが大きいことから,コイルによる磁界よりも,永久 磁石による磁界の方がトルクに及ぼす影響が大きいと 考えられる. y y (d) Case4 Table 2に解析諸元を示す. (e) Case5 z x z x Fig.6 Distributions of flux density vectors(z=4mm). Ricoh Technical Report No.35 118 DECEMBER, 2009 I Case1 Case2 Case3 Case4 流特性およびトルク特性に及ぼす影響について比較を Case5 行った.その結果,軸受磁石部を磁性体で構成するこ current (mA) とにより,電流値が小さくなり,平均トルクが大きく なることがわかった. 謝辞 本研究の実施において,共同研究先である岐阜大学 㫕 0 36 72 108 144 180 216 252 288 324 河瀬・山口研究室に多大なご指導,ご支援を頂きまし 360 たことを深く感謝いたします.また,関係者の方々に rotation angle (deg.) Fig.7 Waveforms of Current. 尽力いただきました.ここに深くお礼申し上げます. 参考文献 T Case1 Case2 Case3 Case4 1) 河瀬順洋,中橋鮎香,他:電気学会回転機研究会 Case5 資料,回転機研究会 RM-08-108~130,(2008) , torque (mN䊶m) pp.7-11. 2) 河瀬順洋,他:電気学会回転機研究会資料,回転 機研究会 RM-07-49~69,(2008) ,pp.49-52. 3) 伊藤昭吉,河瀬順洋:最新有限要素法による電 気・電子機器の CAE,森北出版,(2000) . 㫕 0 4) A. Kameari: Local force calculation in 3D FEM with 36 72 108 144 180 216 252 288 324 edge elements, International Journal of Applied 360 Electromagnetics in Materials, vol. 3, pp.231- rotation angle (deg.) Fig.8 Waveforms of Torque. 240 (1993). Table 2 Discretization data and CPU time. Number of elements 2,468,880 Number of nodes 422,455 Number of edges 2,913,054 Number of unknown variables 2,847,896 Number of time steps 241 Total CPU time (hours) 265 Computer used: Core2 Duo 2.66GHz ( 64bit )PC 3.まとめ 本報告では,ペンタゴン結線のコイルを用いた小形 コアレスモータを解析対象として,三次元有限要素法 を用いて磁界解析を行い,各部位を構成する材質が電 Ricoh Technical Report No.35 119 DECEMBER, 2009