富士時報 Vol.84 No.5 2011 第 4 世代擬似共振制御 IC「FA5640 シリーズ」 丸山 宏志 Hiroshi Maruyama 陳 健 Ken Chyen 山田谷 政幸 Masayuki Yamadaya 液晶 TV の電源制御 IC として,低スタンバイ電力化と音鳴り防止を両立した第 4 世代擬似共振制御 IC「FA5640 シリー ズ」を開発した。スイッチング周波数を調整するボトムスキップ機能に乱れがあると音鳴りとなるため,軽負荷時に負荷レ ベルの検出にヒステリシスを付けることで安定化させ,音鳴りを防止している。さらに負荷の軽いスタンバイ時はバースト 動作となるが,音鳴りしない小さな電力以下でバースト動作を行うように最適化し,外部調整回路が不要で使いやすい製品 となっている。 The FA5640 Series of 4th-generation quasi-resonant control ICs have been developed for power supply control ICs of LCD TVs, which can deliver low standby power while also preventing audible noise. Audible noise in switched mode power supplies occurs because of irregularities in the bottom-skip function that adjusts switching frequency. To prevent it, these ICs introduce hysteresis in the detection of load levels under light load conditions. A further optimization adjusts burst operation under light load standby conditions so that burst operation is performed at low power where audible noise is not produced. This eliminates the need for external circuits, making these chips easy to use. まえがき 製品の概要 近年,液晶 TV が世界規模で普及し,待機電力の低減や 擬 似 共 振 方 式 は, パ ワ ー MOSFET(Metal-Oxide- 低価格化で各社がしのぎを削り,LED バックライトパネ Semiconductor Field-Effect Transistor)のターンオフ後 ルや超薄型 TV など,次々と大手メーカーから新モデルが の 1 次側トランスの共振ボトムで次のサイクルのターンオ 市場に投入される状況となっている。 ンを行うことにより,スイッチングノイズを抑えることが 画面にノイズを出さないようにするために,液晶 TV 用 特徴である。最大負荷時に最小スイッチング周波数となり, のスイッチング電源は,65 W を超える大型パネルの液晶 負荷が軽くなるに従ってスイッチング周波数が上昇する。 TV では高効率を特徴とする電流共振方式が,65 W 以下 そのため,制御 IC には軽負荷時に周波数が上昇しすぎ の小型液晶 TV では部品コストが低い擬似共振方式が多 ないように,ターンオンする共振ボトムの回数を遅らせる 用される。65 W 以下の 32 インチ液晶 TV は価格的に安く, ボトムスキップ機能を内蔵している。このボトムスキップ 販売数も多いため,今後も擬似共振電源制御 IC の需要が の乱れが軽負荷時に音鳴りとなる場合があり,今回開発 大きい。 した第 4 世代擬似共振制御 IC「FA5640 シリーズ」では, 富 士 電 機 で は,IC の 起 動 電 流 を AC100 V や AC230 V ボトムスキップの安定化を行っている。 図 1 に FA5640 シ リ ー ズ の 代 表 的 な 型 式 で あ る の商用交流電源から直接供給し,起動後はこの電流をオフ できる高耐圧起動素子を内蔵した 8 ピンの擬似共振制御 IC の系列化を推進している。今回,軽負荷時の低電力化 VH と音鳴り対策を強化した第 4 世代の擬似共振制御 IC を開 ZCD 発したので,その概要を紹介する。 ZCD ボトムスキップ 制御回路 オントリガ 回路 入力電圧 検出回路 高耐圧 起動素子 起動素子制御 11 V/9 V enb VinH FB端子電流 制御回路 − + 最大オン幅 検出回路 Reset − 14 V/ 8V Disable VthFB0 VinH − − 図 FA5640N の外観 348( 56 ) 図 OUT オフタイマ (4.5 µs) PWM 過電圧 検出 − ソフトスタート 回路 0.5 V enb FA5640N のブロック図 過負荷 保護回路 ZCD OVP1 + − 6V 過負荷 VthIS Driver R2 R1 電流検出 回路 + 1/6 enb S Q 0.45 V 0.35 V IS FB VCC UVLO VinH + 特 集 "FA5640 Series" 4th-Generation Quasi-Resonant Control ICs ラッチタイマ 60 µs GND 富士時報 Vol.84 No.5 2011 表 第 4 世代擬似共振制御 IC「FA5640 シリーズ」 「FA5640 シリーズ」と従来の「FA5571 シリーズ」との比較 FA5640シリーズ FA5641 FA5571シリーズ FA5642 FA5643 FA5644 FA5571 FA5572 ボトムスキップ オン−オフ幅切替え (ヒステリシスあり) 最大周波数制限 (ヒステリシスなし) 電圧ゲイン⊿FB/⊿IS 6倍 2倍 IS最大入力電圧 0.5 V±30 mV(AC100 V入力) 1.0 V±0.1 V 0.45 V(電流換算比:0.75,AC100 V入力) 0.35 V(電流換算比:0.58,AC230 V入力,FA5642は除く) パルス停止FB電圧 (バースト動作) 0.4 V (電流換算比:1.0) 過負荷動作 自動復帰 ラッチ停止 過負荷タイマ 200 ms 256 ms 自動復帰 ラッチ停止 200 ms 過電圧保護 ZCD>6 V±5 % ターンオフ後検出 60 µsタイマラッチ ZCD>7.2 V ターンオフ後検出 即ラッチ 外部信号ラッチ ZCD>6 V 60 µsタイマラッチ ZCD>7.2 V 57 µsタイマラッチ 最大オン幅制限 24 µs 最小周波数制限 なし 25 kHz IS端子過電圧ラッチ なし なし なし VCC端子UVLO* 電圧 14 V/8 V VH入力電圧切替え機能 25 kHz なし 0.97 V なし 10 V/8 V なし 2.0 V 14 V/8 V 18 V/8 V あり(FBバースト電圧など) なし *UVLO:Under Voltage Lock Out FA5640N の 外 観 を, 図 に ブ ロ ッ ク 図 を 示 す。 ま た, FA5640 シリーズと従来の「FA5571 シリーズ」との比較 を表 共振周期 に示す。 製品の特徴 ボトム オン幅 . オン−オフ幅 ボトムスキップ制御の安定化 従来の FA5571 シリーズでは,最大周波数を制限するこ 図 擬似共振パワー MOSFET ドレイン波形 とでボトムスキップ機能を実現している。スイッチング周 期が設定より短い場合に共振ボトムでのターンオンをス 5 キップする。 ヒステリシスの設定がないため,ボトムス 負荷増加 ターンオン時のボトム数 キップ数が増加すると周波数が低下し,スキップ数がまた 元に戻ることを繰り返す不安定動作が発生し,音鳴りする 場合があった。 そこで,FA5640 シリーズでは,スキップ数を安定化さ せ,音鳴り(可聴帯域のノイズ)を防止するために次のよ うな工夫を行った。ボトムスキップ機能は,図 のパワー 4 ヒステリシス 3 2 MOSFET のドレイン波形のターンオンからターンオフ 負荷減少 (オン幅)と,その後のフライバック期間が終わった最初 1 6 のボトムまでをオン−オフ幅として,このオン−オフ幅が 図 7 8 9 10 11 12 オン −オフ幅(µs) 13 14 15 に点線で示した移行パルス幅となるとスキップ数が切 り替わるようにした。さらに,図に示すように,この移行 図 ボトムスキップ移行時オン−オフ幅 パルス幅には,負荷が減少する場合と増加する場合とで移 行パルス幅を変化させてヒステリシスが生じるようにした。 チングを停止し,またこの電圧を超えるとスイッチングを 再開することでバースト動作を行う。 . バースト動作 FB 電圧がこのパルス停止電圧より低下すると,FB 端 電源の待機時など負荷が小さい場合には FB 端子への 子からのソース電流を小さい値に切り替えることで FB フィードバック信号量が低下する。FA5640 では,FB 端 電圧をパルス電圧より下側に振動させて停止期間を作る。 子電圧がスイッチングパルス停止電圧以下になるとスイッ FB 電圧が再びパルス停止電圧まで上昇すると,FB 端子 349( 57 ) 特 集 FA5640 富士時報 Vol.84 No.5 2011 第 4 世代擬似共振制御 IC「FA5640 シリーズ」 ソース電流を元に戻すことで FB 電圧をパルス停止電圧よ 源など,液晶 TV 以外の用途にも適した低ノイズの電源を り上側に振動させてスイッチングを再開する。このパル 構成できる。 バースト動作を実現する。 電源回路への適用効果 なお,バースト動作移行時の出力電力が大きい場合には, バースト時の音鳴りが問題となる場合がある。FA5640 . では,1 次側電流の設定を,従来の FA5571 と比べて, AC100 V 入力においては 0.75 倍,AC230 V 入力において ボトムスキップ音鳴り対策 に FA5640 で内蔵しているオン−オフ幅でのボトム 図 スキップの動作を示す。図 ⒜に AC100 V 入力時,図 は 0.58 倍に切り替えることで,バースト時の音鳴りを防 ⒝に AC230 V 入力時の出力電力に対するスイッチング周 止している。 波数とオン−オフ幅をグラフ化した。 AC100 V 入力時,定格の 96 W 出力時に 50 kHz で動作 . しており,これが最低の動作周波数となる。出力電力が低 保護機能 ⑴ 過電圧保護 下するに従ってオン−オフ幅が狭くなり,スイッチング周 2 次側出力電圧のトランスの巻数比分の電圧が発生する 波数は増加していく。図中の負荷減少でプロットした下側 補助巻線電圧は,ZCD 端子で監視して過電圧保護をかけ のラインをたどって,オン−オフ幅が 9 µs になった時点で, る。パワー MOSFET のターンオフ後,ZCD 端子が過電 ターンオンする共振ボトムが 1 回目から 2 回目でターンオ 圧しきい値以上で検出し,タイマ期間 60 µs の間継続する ンする動作に切り替わる。このとき周波数は 110 kHz か とラッチ停止となる。 ら 80 kHz に低下し,オン−オフ幅が 9 µs から 10.5 µs に 従来の FA5571 に比べて検出電圧も+ − 5 % に高精度化し, 広がって動作する。ボトムスキップのオン−オフ幅切替え タイマの追加で瞬間のノイズによる誤動作を防止している。 の 2 回目から 1 回目に戻るパルス幅は 14 µs で,十分なヒ ⑵ その他の保護機能 ステリシスが設定してある。このため切替りポイントで不 表 に示すように,過負荷保護は,自動復帰タイプの 安定動作は発生せず,ボトムスキップでは音鳴りはしない。 FA5640 とラッチ停止タイプの FA5644 を系列化している。 また,MOSFET の保護のため最大オン幅制限を追加 さらに出力電力が低下すると,同様にオン−オフ幅が次 の切替りパルス幅になるごとにボトムスキップ数が増加し, し,さらに最低周波数制限(起動時に発生する異音対策) , 最大 4 回目でターンオンするまでボトムスキップを変化さ IS 端子過電圧ラッチ機能(部品短絡保護) ,別電源からの せる。その結果,軽負荷時のスイッチングの周波数は,60 VCC 供給用に UVLO を低電圧化したタイプも系列化した。 〜 110 kHz の範囲内となる。 また,AC230 V 入力時は,AC100 V 入力時に比べ全体 150 1 回目 100 3 回目 2 回目 110 kHz 80 kHz 4 回目 定格 96 W 50 負荷減少 負荷増大 0 0 20 40 60 80 スイッチング周波数(kHz) スイッチング周波数(kHz) 小電力のインクジェットプリンタから大型の事務機器用電 150 100 3 回目 負荷減少 負荷増大 100 0 20 40 60 80 100 出力電力(W) 25 負荷増大 オン−オフ幅(µs) 負荷減少 20 1 回目 2 回目 15 3 回目 14 µs 10.5 µs 9 µs 10 4 回目 5 0 20 40 60 80 出力電力(W) (a)AC100 V 入力時 図 1 回目 4 回目 0 25 0 2 回目 50 出力電力(W) オン−オフ幅(µs) 特 集 ス停止電圧を挟んで FB 端子の電圧を振動させ,安定した 出力電力とスイッチング周波数およびオン−オフ幅 350( 58 ) 100 負荷減少 20 負荷増大 15 1 回目 2 回目 3 回目 10 4 回目 5 0 0 20 40 60 出力電力(W) (b)AC230 V 入力時 80 100 富士時報 Vol.84 No.5 2011 第 4 世代擬似共振制御 IC「FA5640 シリーズ」 時のパワー MOSFET の電流を下げ,バースト時の出力 には AC100 V よりも出力電力の大きいレベルでボトムス 電力を約 50 % に最適化し,最大でも 9 W 以下に抑えてい キップが進む。このため全体的な周波数範囲は,AC100 V る。この結果,バースト時の音鳴りを問題ないレベルまで 入力時と同じ周波数範囲内(60 〜 110 kHz)での動作とな 低減し,かつ外部調整部品の削除を可能とした。図 る。 FA5640 の評価用電源の回路図を示す。 . バースト時音鳴り対策と部品削減 図 . に,バースト動作から通常のスイッチング動作に戻 待機時入力電力 に,30 mW 出 力 時 の 待 機 時 入 力 電 力 を 示 す。 図 る場合の出力電力を示す。 に, FA5640 では FA5571 と比べて,全入力電圧範囲での低電 従 来 の FA5571 で は, バ ー ス ト 時 の 出 力 電 力 が 10 〜 力化を実現している。特に入力電圧 AC150 V 以上の高入 18 W と大きいため音鳴りが問題となる場合があり,外部 力電圧時には,バースト停止時の FB ソース電流の切替え 回路でのバーストレベル調整で対応する必要があった。こ 比率を大きくする機能を内蔵し,バースト時の FB 端子電 のため部品点数が増加するという欠点があった。 圧の振動幅を大きくして,バースト周波数をより遅くして 。この効果によって,高入力電圧時の待機電 いる(図 ) FA5640 では,パルス停止 FB 電圧の調整でバースト 160 出力 30 mW FA5571 15 140 入力電力(mW) バースト解除時出力電力(W) 20 10 FA5640 120 5 FA5571 100 FA5640 0 50 100 150 200 250 80 50 300 100 150 AC 入力電圧(V) 図 バースト解除時出力電力 図 AC80∼ 264 V N R1 R2 L C2 2200p 1M C1 0.47u 1M F1 L1 C4 0.22u 5 A 250 V + C6 DS1 R3 D1 EG01C 600 V 10 A 600 V 1A R11 R6 R12 FMV11N70E 700 V,11 A 4.7k TR1 22 47 R10 VH 47k PC1B 24k 1000p C11 + 1500u + 1500u DS2 C16 3IS VCC 6 YG906C2R×2 200 V,20 A C23 C8 220p 0.1u R20 C9 4GND OUT 5 SG 1.5k R33 PC18 100k 30k TLP421F GR C21 open 0.1 D4 C221 R22 open R21 4.7k R13 0.1u C19 C17 2200p R5 33u + FB4 T1 IC2 R23 C22 47k 47n HA17432HUP N p :N s :N aux =40:12:10 B-20F-38 4.7 FA5640 470p +24 V 0∼4 A C13 8 7 2FB 10p 22 CRH01 200 V, 1A 470 1ZCD R19 T1 1 kV 0.5 A R4 10k 4.7k C15 470p DS3 FB1 B-20F-38 DC 検出 D3 D1N60 FG 300 0.1u 100k AC 半波検出 R14 C12 R141 C10 C7 470u ∼ − 8 mH 4A 250 待機時入力電力 D10XB60H ∼ + C3 2200p 200 AC 入力電圧(V) C18 1u CMH05 400 V,1 A L p =240 H R24 15k CT-6ETP301 RV1 図 FA5640 評価用電源回路(24 V/4 A,96 W) 351( 59 ) 特 集 的にオン−オフ幅が狭くなり,出力電圧が低下した場合 富士時報 Vol.84 No.5 2011 第 4 世代擬似共振制御 IC「FA5640 シリーズ」 の製品化・系列化を進めていく所存である。 1,000 出力 30 W バースト周波数(Hz) 特 集 参考文献 800 ⑴ 丸山宏志ほか. 低待機電力擬似共振電源IC「FA5571シリー FA5571 ズ」 . 富士時報. 2008, vol.81, no.6, p.415-418. 600 FA5640 丸山 宏志 400 スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富 士電機株式会社電子デバイス事業本部松本工場技 200 50 100 150 200 250 300 術統括部ディスクリート・IC 技術部。 AC 入力電圧(V) 図 バースト周波数(入力電圧切替え) 陳 健 力を低減し,またバースト周波数を AC100 V 入力時より さらに下げることで,可聴範囲から外れ,音鳴りも抑える スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富 士電機株式会社電子デバイス事業本部松本工場技 術統括部ディスクリート・IC 技術部。 ことができる。 あとがき 山田谷 政幸 第 4 世代擬似共振制御 IC「FA5640 シリーズ」におけ る軽負荷時および待機時の低電力化と,音鳴りの低減につ いて紹介した。今後もさらなる低電力化要求に対応し,使 いやすさを追究し,市場の要求に貢献できる電源制御 IC 352( 60 ) 電源 IC の開発に従事。現在,富士電機株式会社電 子デバイス事業本部松本工場技術統括部ディスク リート・IC 技術部主査。工学博士。電気学会会員。 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。