FEJ 81 06 415 2008

富士時報 Vol.81 No.6 2008
低待機電力擬似共振電源 IC「FA5571 シリーズ」
手塚 伸一(てづか しんいち)
特 集
丸山 宏志(まるやま ひろし)
渕先 寛教(ふちさき ひろのり)
まえがき
スイッチ機能も持っている。電源装置の起動時の動作を図
3 の評価用電源回路を例に説明する。電源装置をオンする
近年,地球規模の温暖化が世界的な問題としてクロー
と IC のスイッチングを開始させるために AC 入力からダ
ズアップされ,電気製品全般での省エネルギー化が重要と
イオード D3,抵抗 R11,IC の VH 端子を経由して VCC
なっている。特に常時コンセントに接続したまま使用する
端子に 500 V 起動素子を通して電流を供給する。スイッ
ことの多いテレビ,オーディオ製品,ノートパソコンやプ
チング開始後,トランスの補助巻線 6 からダイオード D4,
リンタなどの周辺機器では実使用時間以外の待機状態の時
抵抗 R13 を通して VCC 端子に電流が供給されるため,起
間が長く,この待機時消費電力の削減,および動作時にお
動素子をオフして高圧ラインからの起動電流を止めること
いても高効率化への要求が高まっている。国際エネルギー
で,簡単に起動電流での損失を削減できる。起動素子がな
〈注〉
スタープログラム を中心とした省エネルギー基準もより
厳しいものにバージョンアップされている。そのため,電
図
製品の外観(SOP-8)
図
FA5571 の回路ブロック図
源にとって新基準への対応が必須の課題となっている。
富 士 電 機 で は, 今 ま で に 商 用 交 流 電 源(AC100 V,
AC240 V)を直流電源に変換する AC-DC コンバータ用ス
イッチング電源の制御 IC の系列化を行ってきた。その中
でも低待機電力化に有効な起動素子内蔵タイプの製品系列
化を推進している。年々厳しくなる電源への要求に対し,
高効率化・低ノイズ化に優れている擬似共振方式の 8 ピン
電源制御 IC の新系列品として「FA5571 シリーズ」を開
発したので,その概要を紹介する。
製品の概要
.
ZCD
特 徴
ボトム
電圧検出
FA5571 シリーズは,擬似共振方式のスイッチング電源
用に開発した制御 IC で,
「FA5531/41 シリーズ」の後継
パルス
発生回路
タイム
アウト
VCC
最大
周波数
制限
IS
UVLO
機種である。 図 1 に製品の外観(SOP-8)を示す。パッ
ケージは SOP-8 と DIP-8 を用意した。 図 2 に FA5571 の
+
図 2 の右上にある VH 端子と VCC 端子の間にある定電
ドライバ
S
カレント
コンパレータ
Q
OUT
R
ZCD
+
−
FB
1/2
過負荷
−
+
+
−
OVP
−
−
ソフト
スタート
〈注〉国際エネルギースタープログラム:OA 機器の省エネルギーの
−
出力停止
−
流源が 500 V 耐圧起動素子である。商用の高電圧 240 V を
直接入力することが可能で,さらに電流をオンオフさせる
+
内部
バイアス回路
回路ブロック図を示す。
VH
起動電流
制御
OLP
タイマ
IS
+
OCP2
タイマ
A
タイマ
B
ラッチ
−
GND
ための国際的な環境ラベリング制度。経済産業省と米国環境保
護庁の相互承認の下で経営している。
丸山 宏志
手塚 伸一
渕先 寛教
スイッチング電源 IC の開発に従
スイッチング電源 IC の開発に従
スイッチング電源 IC の拡販に従
事。現在,富士電機デバイステク
事。現在,富士電機デバイステク
事。現在,富士電機デバイステク
ノロジー株式会社半導体開発営業
ノロジー株式会社半導体開発営業
ノロジー株式会社半導体開発営業
本部開発統括部ディスクリート・
本部開発統括部ディスクリート・
本部営業統括部西日本支社。
IC 開発部。
IC 開発部。
415( 35 )
富士時報 Vol.81 No.6 2008
図
低待機電力擬似共振電源 IC「FA5571 シリーズ」
評価用電源回路
特 集
F1
C4
1
AC85∼
264 V
R3 C7
∼ +
NF1
R1
3
DS1
C2
1
+
DS2
C6
R2
5
P3
T1 10,11,12
1
C1
C3
D1
P2
∼ −
+
C16 C17
3
FB1
CN1
P1
HS1
4
7,8,9
4
C23
P4
TR1
D3
C8
R6
19 V/5 A
2
+
CN2
R20
HS2
R22
R10
R11
R7
D2
8
VH
R14
FB4
ZCD
FB
IS
GND
1
2
3
4
R13
R5
D4
PC1A
R21
6
R23 C22
+
7
6
5
(NC) VCC OUT
FA5571/72
IC1
R4
C13
C14
5
IC2
R24
C9
C12
C10 PC1B
表
C11
FA5571シリーズと従来機種の比較
項 目
FA5571
軽負荷動作
FA5572
FA5573
FA5531
FA5532
間欠動作
周波数低減
0.4 V
─
0.34 V
─
─
自動復帰
ZCD端子のOVP検出
FA5542
FA5541
周波数低減
周波数低下開始FB電圧
VCC端子短絡時の
VH端子電流低減
FA5574
間欠動作
間欠動作開始FB電圧
過負荷動作
従来機種
FA5571シリーズ(新開発品)
1.15 V
タイマラッチ
自動復帰
─
タイマラッチ
自動復帰
1.3 V
タイマラッチ
自動復帰
タイマラッチ
VCC端子電圧が低い場合,VH端子電流を制限
VH端子電流=1.6 mA(VCC端子電圧が0 Vのとき)
VCC端子短絡時7.6 mA
(電流制限抵抗必要)
VCC端子短絡時8 mA
(電流制限抵抗必要)
外部ラッチ機能 プルアップ後57 sでラッチ
+ターンオフから2.3 s後でラッチ検出
外部ラッチ機能
プルアップ後48 sでラッチ
外部ラッチ機能
プルアップ後48 s でラッチ
IS端子短絡保護機能の追加
VCC端子のUVLOレベル
内部ソフトスタート
2.0 V
なし
なし
上側18 V/下側8 V
上側10.2 V/下側9.0 V
上側9.85 V/下側9.1 V
2.6 ms (起動時のみ)
1 ms (起動時のみ)
1 ms (起動時のみ)
なし
28 V
28 V
VCC端子のOVP検出
い場合は,高圧ラインから IC の VCC 端子へ常時起動電
様に待機時の動作と過負荷保護の動作の組合せで,4 機種
流を流し続けるため 0.2 W 程度の損失が常に発生し,待機
の系列品をラインアップした。軽負荷時に間欠動作に移行
電力 1W 以下の実現が難しくなる。
する方式の FA5571/72 と,間欠せずにスイッチング周波
そのため低待機電力と擬似共振の低ノイズ性がメリット
数を低減する方式の FA5573/74 がある。また,過負荷保
となるインクジェット用プリンタ,液晶テレビ,AV 製品
護の動作が FA5571/73 は自動復帰,FA5572/74 はタイマ
などの待機電源に適している。
ラッチ動作となっており,電源用途に応じて機種を選択で
IC の主要特性は,以下のとおりである。
最大定格:VCC 端子 30 V
(a)
(b)
出力ピーク電流:シンク側+0.5 A,ソース側−0.25 A
最大スイッチング周波数:120 kHz
(c)
きる。
VCC 端子短絡時の VH 端子電流の低減
( 2)
図 4 に,電源起動時に VH 端子から VCC 端子の電解コ
ンデンサへ供給される充電電流(VH 端子シンク電流)と
VCC 端子電圧の関係を示す。従来機種は,アブノーマル
.
従来機種との機能比較
表1に,FA5571 シリーズと従来機種の仕様を比較でき
るように示す。
系列品
( 1)
FA5571 シリーズは,従来の FA5531/41 シリーズと同
416( 36 )
試験で VCC 端子の GND 端子短絡試験をすると,7.6 mA
の電流が高圧(AC ライン電圧)の VH 端子から VCC 端
子に流れ続ける。その状態を長時間継続すると IC の発熱
が過大となる問題があった。
FA5571 では VCC 端子電圧が 6.5 V 以下になると,この
低待機電力擬似共振電源 IC「FA5571 シリーズ」
富士時報 Vol.81 No.6 2008
図
VCC-GND 短絡時の VH 電流制限
図
ZCD 端子での過電圧検出タイミング
ZCD 端子電圧
VH 端子シンク電流
特 集
7.6 mA
遅延
2.3 s
1.6 mA
ターンオフ
6.5 V
時間
VCC 端子電圧
図
動作波形(パワー MOSFET のドレイン電圧波形)
電流が VCC 端子電圧に比例して低下するように設定され
ており,VCC 端子電圧=0 V 時に 1.6 mA まで制限される。
その結果,IC の発熱を抑えることができる。
例:70 kHz
V DS
ターン
オン
ZCD 端子での過電圧検出
( 3)
ターン
オフ
従来機種では,二次側出力の過電圧(OVP)を間接的
に VCC 端 子 で 検 出 を 行 っ て い た。FA5571 で は, こ の
時間
機能を精度・応答時間向上のため ZCD 端子で行ってい
る。図 5 に示すように,パワー MOSFET(Metal-OxideSemiconductor Field-Effect Transistor)のターンオフか
(a)定格負荷時(FA5571-74 共通)
例:30 kHz
V DS
ら 2.3 µs 後のタイミングで ZCD 端子電圧が過電圧レベル
を超えているとラッチ停止する。従来機種と同様に,外部
プルアップでのタイマラッチ機能も内蔵している。
時間
IS 端子のラッチ機能
( 4)
(b)周波数低減動作(FA5573-74)
FA5571 では,トランス巻線の短絡・飽和による異常電
間欠周波数 例:100 Hz
流が流れた場合にラッチ停止させるため,IS 端子がリミッ
ト電圧である 1 V の 2 倍の 2 V 以上となった場合にラッチ
停止させる短絡保護機能を追加した。
オン
オフ
オン
V DS
電源回路への応用
時間
(c)間欠動作(FA5571-72)
.
評価用電源
この IC を使用したスイッチング電源の特性を,図 3 に
基づき説明する。この電源の主な仕様を以下に示す。
小点でパワー MOSFET をターンオンするように制御を行
™入力電圧:AC85 〜 264 V
う方式が擬似共振動作である。これによりドレイン電流ゼ
™電源出力:DC19 V,95 W(max)
ロ,かつ低いドレイン電圧のタイミングでターンオンする
™過負荷保護,過電流制限,過電圧ラッチ保護
ため,スイッチング損失を低減し高効率・低ノイズ化がで
™最大スイッチング周波数:120 kHz
きる〔図 6(a)
〕
。
従来は,電源が軽負荷の場合には二次側に供給するエネ
.
擬似共振動作
ルギーが小さいため,パワー MOSFET のオン幅およびト
図 6 に擬似共振電源のパワー MOSFET TR1 のドレイ
ランスのエネルギー放出期間が短くなりスイッチング周波
ン電圧 VDS 波形を示す。パワー MOSFET がターンオンす
数が高くなる。その結果,スイッチング損失が増加し効率
るとトランス T1 の一次側に電流を流すことでトランスに
が悪化する。
エネルギーが蓄積される。パワー MOSFET がターンオフ
この課題を改善するために FA5573 では軽負荷時にス
すると蓄積したエネルギーをトランスの二次側に電流を流
イッチング周波数の上限値を負荷に応じて低減させること
して放出する。このとき,ドレイン電圧には整流電圧(C6
でスイッチング周波数を下げる動作を行う。図 6(b)
の波形
電圧)とトランス T1 のフライバック電圧が印加される。
にそれを示す。パワー MOSFET のドレイン電圧の共振波
そしてエネルギーを放出し終わった後,トランスのインダ
形が極小点となっても,IC 内蔵のタイマで 3 番目の極小
クタンスとパワー MOSFET に並列接続されたコンデンサ
点が来るまでパワー MOSFET のターンオン動作を遅らせ
C8 との間で直列共振振動を発生する。この共振電圧の極
ている。
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富士時報 Vol.81 No.6 2008
図
低待機電力擬似共振電源 IC「FA5571 シリーズ」
効率の出力電流依存性
図
待機時の AC 入力電圧依存性
0.2
効率(%)
90
FA5571
入力電力(W)
特 集
100
80
FA5573
70
FA5573
0.1
FA5571
60
50
0.01
0.1
1
0
50
10
100
出力電流(A)
(a)効率(AC 入力電圧 115 V)
1.0
250
300
FA5573
FA5571
入力電力(W)
効率(%)
200
(a)入力電力(出力無負荷時)
100
90
150
AC 入力電圧(V)
80
FA5573
70
0.9
FA5571
0.8
60
50
0.01
0.1
1
10
0.7
100
150
200
250
出力電流(A)
AC 入力電圧(V)
(b)効率(AC 入力電圧 230 V)
(b)入力電力(出力 0.7 W 時)
また,FA5571 の場合は図 6(c)
に示すように,軽負荷時
に負荷があるレベル以下に下がるとスイッチングをいった
ん停止させ,二次側電源出力電圧が低下するとまたスイッ
チングを開始する動作を繰り返し,間欠動作を行う。
300
FA5571 は出力電流が 2.4 A のポイントで間欠動作モード
に移行するため改善効果が出てくる。
出力電流が 0.1 A まで低下すると,AC 入力電圧 230 V
時 に FA5571 は 効 率 81.5%,FA5573 で は 76.7% と な り
周波数低減方式は,周波数が数 kHz まで低下するとド
5 % 程度の差が現れる。間欠動作方式の場合,間欠周期を
レイン電圧の共振振動が減衰し,ターンオン時のドレイン
長くすることで単位時間あたりのスイッチング回数を極端
電圧が高くなり 1 回あたりのスイッチング損失が増加する。
に下げることができるため,出力電流が小さい場合により
間欠動作方式は,間欠動作時も低いドレイン電圧でターン
効果的となる。ただし,間欠方式は前述のように音鳴りに
オンさせる擬似共振動作を継続させるためスイッチング損
ついての注意が必要である。
失は少ない。しかし,間欠動作方式は間欠動作の周波数が
図 8 に待機時の入力電力と AC 入力電圧の関係を示す。
可聴域になると,トランスが音鳴りしやすいという課題が
出力無負荷時は全 AC 入力電圧範囲で入力電力 160 mW
ある。
以下,出力負荷条件 0.7 W の場合でも周波数低減,間欠動
作の両方式ともに全 AC 入力電圧範囲で入力電力 1 W 以
.
効率・待機電力特性
下に抑えられており,負荷が軽い待機時に周波数低減方式
図 7 に電源出力電流を 0.01 A から定格 5 A まで変化さ
でも最終的に間欠動作タイプと同じスイッチング回数まで
のグラフが AC 入力電圧
せたときの効率を示す。 図 7(a)
下がるように調整することで低待機電力の電源を構成する
115 V, 図 7(b)
のグラフが AC 入力電圧 230 V 時の特性と
ことができる。
なっており,FA5571 と FA5573 を比較している。
出力電流 5 A の定格負荷の場合は,FA5571 と FA5573
あとがき
は同じ動作状態のため 87% 以上の高効率で差は見られな
い。
低待機電力擬似共振電源 IC「FA5571 シリーズ」につ
し か し, 出 力 電 流 が 小 さ い 軽 負 荷 の 場 合 に は 前 述 の
いて紹介した。これらの IC は低ノイズ・低待機電力を重
ように間欠動作を行う FA5571 の方が周波数低減動作の
視したスイッチング電源に適しており,今後も低待機電力
FA5573 よりも高い効率を維持できることが分かる。 図
化への要求は高まってくると考えられるため,市場要求に
7(b)
の AC 入 力 電 圧 230 V の 効 率 特 性 で は,FA5573 は
対応した電源 IC の製品開発,系列化を進めていく所存で
出力電流が小さいと直線的に効率が低下するのに比べ,
ある。
418( 38 )
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。