FEJ 71 08 434 1998

富士時報
Vol.71 No.8 1998
3 チャネル DC---DC コンバータ用 IC
山田谷 政幸(やまだや まさゆき)
まえがき
DC-DC コンバータの小形化,薄形化が実現できる。
表1に FA3629V
の定格を示す。
ノート形パーソナルコンピュータ(パソコン)を代表と
した携帯形の電子機器の普及に伴い,これらの製品は持ち
内部回路
運びやすさと搭載されるバッテリーの長寿命化が従来にも
まして重要なポイントとなってきている。
そのため電源として用いられる DC-DC コンバータも小
形化,軽量化,高効率化が必要不可欠になっている。
図1のチップ写真に示される FA3629V
の回路構成は図
2のとおりである。基本回路ブロックは CMOS(Comple-
mentary MOS)を, 内 蔵 MOSFET などの 高 電 圧 部 は
またこれら携帯形電子機器は近年,低動作電圧化が著し
DMOS(Double Diffused MOS)を用いている。
く, DC-DC コンバータを 制御 する 低電圧対応 の IC が 必
ここでは主な回路ブロックについて説明する。
要とされてきている。
そこで富士電機では,このような市場要求にこたえ,な
3.1 内蔵 MOSFET
かでもノート形パソコンなどに用いられる液晶ディスプレ
この IC は第 1 チャネルにスイッチング素子である n チャ
イ用電源を主用途とした,小形・軽量・薄形の 3 チャネル
ネル MOSFET を内蔵しており,昇圧回路を構成できる。
DC-DC コンバータ用 IC「FA3629V」を開発したので,こ
オン抵抗は最大 0.3 Ωで最大 1.8 A の電流の駆動が可能で
こにその概要を紹介する。
ある。そのため DC-DC コンバータを構成する際,外付け
スイッチング素子を削減することができ,また大きな出力
製品の概要
表1 FA3629Vの定格
今回開発 した DC-DC コンバータ 用 IC FA3629V は3
項 目
チャネルの PWM(Pulse Width Modulation)方式スイッ
電源電圧範囲(V)
チング電源を駆動,制御するもので,以下の特長を持つ。
OUT1印加電圧(V)
条 件
最 小
標 準
2.5
最 大
6.5
40
(1) TSSOP 16 ピンパッケージを採用
基準電圧(V)
(2 ) 昇圧回路× 2,極性反転回路× 1 の計 3 チャネルが同
三角波発振周波数(kHz)
480
550
620
CS充電ソース電流( A)
−1.2
−1.0
−0.8
0.8
1.0
1.2
時に駆動可能
(3) スイッチング 素子 として, n チャネルの MOSFET
( Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)
を 1 個内蔵
(4 ) 動作電圧範囲: 2.5 ∼ 6.5 V
(5) 発振周波数: 100 kHz ∼ 1 MHz
0.98
CS3充電シンク電流( A)
1.00
1.02
過電流検知電流(A)
1.6
2.0
2.2
過熱保護動作温度(℃)
125
135
145
低電圧誤動作防止動作
電圧(V)
1.95
2.05
2.15
0.275
0.3
(6 ) 全チャネルに最大デューティ制限内蔵
OUT1オン抵抗(Ω)
I OUT1=200mA
(7) タイマ・ラッチ方式出力短絡保護回路を内蔵
OUT2,3Hレベルオン
抵抗(Ω)
I OUT =150mA
2.6
4.0
5.5
OUT2,3Lレベルオン
抵抗(Ω)
I OUT =−150mA
2.0
3.5
5.0
平均消費電流(mA)
f OSC =500kHz
3.0
3.8
(8) ソフトスタート 回路 , 過電流制限回路 , 過熱保護回
路,低電圧誤動作防止回路を内蔵
FA3629V は16ピンに 3 チャネルおよび各種保護機能を
組み込んでおり,さらに MOSFET を内蔵しているため,
山田谷 政幸
電源用 IC の開発に従事。現在,
松本工場半導体開発センター IC
開発部。
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〈注〉特に条件のない限り,電源電圧3.0V,常温(25℃)における定格
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も得られる。
MOSFET のドレーンが OUT1 端子 ,ソースが PGND
3.3 基本動作部(誤差増幅器,PWM コンパレータ)
端子になっている。OUT1 端子耐圧は40 V である。
PWM 方式スイッチング電源であるため,基本構成は各
チャネルにより駆動された出力電圧を誤差増幅器に帰還し,
その出力を PWM コンパレータにてパルス信号に変換,こ
3.2 駆動段出力(OUT2,OUT3 端子)
れをスイッチング素子の駆動信号としている。
第 2 チャネル( OUT2)は n チャネル MOSFET, 第 3
チャネル(OUT3)は p チャネル MOSFET を駆動する端
全 チャネルとも 誤差増幅器 の 反転入力端子 ( IN1−,
子でプッシュプル構造になっている。それぞれ昇圧回路お
IN2−,IN3−)および出力端子(FB1,FB2,FB3)を備
よび極性反転回路を構成することができる。
えている。
このほか,スイッチング素子としてバイポーラトランジ
第 1,第 2 チャネルは昇圧回路,第 3 チャネルは極性反
スタの駆動も可能である。
転回路が構成でき,この組合せは液晶ディスプレイの電源
として最適である。
なお,第 3 チャネルは他チャネルに対して逆相スイッチ
ングを採用している。これにより 3 チャネル同時駆動時の
図1 FA3629V のチップ写真
電源負荷の集中を回避できる。
3.4 三角波発振器
この IC は三角波発振器の発振周波数を基本周波数とし
ている。温度補償された内蔵電流源から,CT 端子に接続
されたタイミングコンデンサへの充放電を行うことで動作
し, 容量 により 100 kHz から 1 MHz まで 発振 することが
できる。周波数は 150 pF にて 550 kHz である。
3.5 ソフトスタート回路
DC-DC コンバータ起動時に電源回路の貫通電流を防ぐ
図2 FA3629V の回路構成
(15)CS3
(16)CS
(11)VCC
クロック
基準電源
三角波
発振器
(13)REG
2.20V
内部制御系
の電源へ
(216回)
FB1
CS
FB2
CS
FB3
CS3
タ
イ
マ
・
ラ
ッ
チ
最大デューティ
制限
低電圧
誤動作防止
ソフトスタート・
デューティ制限
(14)CT
sftst3
REF 1.00V
(4)GND
誤差増幅器
+
(2)IN1−
<第1チャネル>昇圧
過熱保護
sftst
(12) OUT1
VCC
PWM
コンパレータ
+
−
過電流
保護
nチャネル
駆動段
−
(1)FB1
VCC
+
(3)IN2−
<第2チャネル>昇圧
+
−
内蔵NMOS
nチャネル
駆動段
(10) OUT2
−
(6)FB2
VCC
+
+
(7)IN3−
<第3チャネル>極性反転
pチャネル
駆動段
(9) OUT3
−
−
(8)FB3
(5) PGND
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ためにソフトスタート回路を内蔵している。
機能である。
ソフトスタート 用 コンデンサ( CS, CS3 端子 に 接続 )
スイッチングごとに内蔵 MOSFET のオン電圧から過電
への充電電圧に比例した幅のパルス信号により,起動時の
流状態を検出し,過電流状態時はオフする機能で,検出点
スイッチング幅を徐々に広げることで,起動時の貫通電流
は 電源電圧 3.0 V の 場合 , 2.0 A である。この 機能 ではス
イッチングは停止しないが,過電流状態が長い時間継続さ
を制限する。
CS 端子は第 1,第 2 チャネル共用,CS3 端子は第 3 チャ
れた場合は,タイマ・ラッチ回路(後述)により停止され
ネル用で,それぞれ単独で制御できる。
る。
3.6 最大デューティ制限
3.9 過熱保護回路
昇圧回路ならびに極性反転回路ではスイッチングがオン
この IC は MOSFET を内蔵し,また外付けスイッチン
状態のままになると大電流が流れ,回路の破壊に至る場合
グ素子の駆動段を備えているため,大電流が流れると発熱
がある。それを防ぐためにスイッチングの周期ごとに強制
する場合がある。この発熱を検出して IC の動作を停止さ
的にオフ期間を設ける,すなわちオン期間の最大デューティ
せるのが過熱保護回路である。
制限を行っている。
検出にはダイオードのオン電圧の温度変化を用い,チッ
各チャネルとも発振周波数 500 kHz にて86∼87%の最大
デューティ制限を行っている。内蔵機能のため特に外付け
プ温度が 135 ℃にてスイッチングを停止させ,温度低下に
より 85 ℃にて停止状態を解除させる。
部品は必要ない。
3.10 タイマ・ラッチ回路
出力短絡などが原因で,電源回路の出力電圧が規定値に
3.7 低電圧誤動作防止回路
IC の 電源投入時 , 内部制御系電源 が 確立 するまでの 間
スイッチングを停止させ,不正な動作を回避している。
達しない異常状態が続いた場合,これを検知してスイッチ
ングを停止させる機能である。
また,この回路の動作中はソフトスタート用コンデンサ
この異常を検知し,スイッチングを停止させるまでの時
は放電され,動作復帰時はソフトスタートにより起動する
間(以下,タイマ・ラッチ時間)は一般に外付けコンデン
ことができる。
サの充電時間を用いることが多いが,この IC では端子数
および外付け部品削減のため,内部にてカウンタを用いて
時間を定める方式を新たに採用した。
3.8 過電流制限回路
何 らかの 原因 で 内蔵 MOSFET の 電流 が 増加 した 際 ,
カウンタのクロックは三角波発振器からの周波数を利用
素子や回路の破壊を防ぐため,スイッチングの幅を狭める
し,2 16 回カウントしたところでラッチモードに入り,ス
図3 スイッチング動作の概略
FB1
2
電 圧
CS3
FB2
1
CS
FB3
0
時 間
(タイマ・ラッチ
カウント中)
A
B
C
D
E
A :CSタイマ・ラッチ起動
C :FB2タイマ・ラッチ解除
B :CS3タイマ・ラッチ起動
D :FB1タイマ・ラッチ解除
E :FB3タイマ・ラッチ解除
第1チャネル
MOSFETゲート波形
第2チャネル
駆動段出力波形
(OUT2)
第3チャネル
駆動段出力波形
(OUT3)
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図4 FA3629V の応用回路例
入力3.0∼4.5V
FA3629V
第1チャネル:5V/200mA
FB1
CS
IN1−
CS3
IN2−
CT
GND
REG
第2チャネル:20V/10mA
PGND OUT1
FB2
VCC
IN3−
OUT2
FB3
OUT3
第3チャネル: −20V/10mA
イッチング停止信号を送出する。
異常状態の検出には各チャネルの誤差増幅器の出力電圧
を利用している。この出力電圧は電源回路の出力電圧が不
ここでは第 1,第 2 チャネルで昇圧回路,第 3 チャネル
で極性反転回路を構成しており,一般的な液晶ディスプレ
イの電源仕様に適している。
足の場合,FB1 および FB2 は電源側へ,FB3 は接地側へ
n チャネル MOSFET を 内蔵 し,カウンタ 方式 のタイ
振り切れて,スイッチングのオン幅を最大にするためであ
マ・ラッチ回路を採用しているため,部品点数と実装面積
る。
の削減を図ることができる。
図3にスイッチング動作の概略を示す。
なお起動時や未使用チャネルがある場合は,誤差増幅器
あとがき
の出力電圧は異常時と同じ状態にある。そこでソフトスター
ト端子(CS,CS3)の端子電圧を検出することで電圧をタ
イマ・ラッチ回路へ入力することにしている。
小形・軽量・薄形を特徴とした 3 チャネル DC-DC コン
バータ用 IC FA3629V の概要を紹介した。
現在,富士電機では CMOS アナログ技術により電源用
応用回路例
IC の 開発 を 進 めており,なかでもさまざまな 要求 が 多 い
DC-DC コンバータ 制御用 IC は 市場 のニーズを 見極 めな
FA3629V を用いた応用回路の一例を図4に示す。
がら今後さらなる展開を図っていく所存である。
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*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。