富士時報 Vol.71 No.8 1998 6 チャネル DC---DC コンバータ用 IC 遠藤 和弥(えんどう かずや) まえがき 制御機能が入っており,この IC を用いることで電源装置 の小形化・軽量化・高密度実装に大きな効果がある。 携帯電話機,ノート形パーソナルコンピュータ,ビデオ カメラなどの携帯形電子機器には,搭載される内部電源装 置の小形・軽量化と,バッテリーによる長時間動作が求め られている。これに伴い,バッテリーを入力電源とするス (a) FA3621F の 絶対最大定格 を 表1 に, 主 な 電気的特性 (b) を表1 に示す。 この IC の主な特長は次のとおりである。 (1) 6 チャネル出力 イッチング電源装置(DC-DC コンバータ)も,小形・軽 降圧形コンバータを構成: 5 チャネル 量・低消費電力化がますます要求されてきている。 昇圧形コンバータを構成: 1 チャネル 特に,ビデオカメラにおいては,高機能化に伴い電源系 統が,主制御系電源,テープ走行用と録画・再生ヘッド回 転用などのモータ制御系電源, CCD カメラ用電源, 液晶 パネル用電源など,電源電圧の異なる多系統電源が要求さ 第 3 ・第 4 チャネルは DC モータ制御に対応 (2 ) 広い動作電源電圧範囲 4.5 ∼18 V (3) CMOS アナログ技術による低消費電流 動作時: 4 mA(標準値) れている。 富士電機では,このようなビデオカメラ用の電源装置に スタンバイ時: 3 μA(標準値) 適 した, 6 チャネル 制御回路 を 1 チップに 納 め,さらに (4 ) CMOS(Complementary MOS)プロセスを用いて低消費 (5) 外部信号によるチャネルごとのオンオフ制御機能 電流化を図った,パルス幅変調(PWM)式スイッチング 電源用制御 IC「FA3621F」を開発したので,ここにその 概要を紹介する。 スタンバイ機能付き (第 3 チャネルと第 4 チャネルは共通) (6 ) チャネルごとのソフトスタート設定端子付き (第 3 チャネルと第 4 チャネルは共通) 制御 IC の概要 表1 FA3621Fの定格 (a)絶対最大定格 図 1 に FA3621F 項 目 定 格 電 源 電 圧 20V の 外 観 を 示 す。 LQFP( Low Profile Quad Flat Package)48ピンパッケージに 6 チャネル分の 出 力 電 流 全 図1 IC の外観 損 失 ±0.2A 550mW 動作温度範囲 −20∼+85℃ 保存温度範囲 −40∼+125℃ (b)電気的特性 項 目 遠藤 和弥 パワーエレクトロニクス製品の開 発を経て,スイッチング電源用制 御 I C の開発に従事。現在,松本 工場半導体開発センター IC 開発 部主任。 438(14) 定 格(標準値) 電源電圧範囲 4.5∼18V 発 振 周 波 数 50kHz∼1MHz タイミング容量 68∼1,000pF タイミング抵抗 6.8∼100kΩ 基 準 電 圧 1.0V 消 費 電 流 4mA/3 A(スタンバイ時) 富士時報 6 チャネル DC--DC コンバータ用 IC Vol.71 No.8 1998 第1チャネル 第2チャネル 第4チャネル 第3チャネル OUT6b OUT6a OUT5 OUT4 OUT3 OUT2 OUT1 VCC2 VDRV 図2 FA3621F の内部回路ブロック図 第5チャネル 第6チャネル ドライバへ pチャネル ドライバ ドライバ 用電源 pチャネル ドライバ pチャネル ドライバ pチャネル ドライバ pチャネル ドライバ nチャネル ドライバ Q1 pチャネル ドライバ VCC1 制御 電源 UVLO VREG コンパレータ 制御電源 UVLO 基準 電源 オ ン オ フ 制 御 ソ フ ト ス タ ー ト CNT1 CNT2 CNT3 CNT4 CNT5 CS1 CS2 CS3 CS4 CS5 タイマ ラッチ CREF 誤差増幅器 (7) タイマ・ラッチ式短絡保護機能付き (8) 過熱保護機能付き 内部回路 図2に FA3621F 過熱 保護 RT CP CT IN6− FB6 IN5+ IN5− FB5 IN4+ IN4− FB4 IN3+ FB3 IN3− FB2 IN2− FB1 発振器 IN1− VREF バッファ 表2 チャネル制御仕様 項目 出力仕様 チャ ネル 駆動 MOS 端子記号 オン 抵抗 構成 可能な コン バータ オンオフ 制御端子 ソフト スタート 設定端子 第1 OUT1 pチャネル 6Ω 降圧形 CNT1 CS1 CNT2 CS2 CNT3 CS3 の内部回路ブロック図を示す。制御電 第2 OUT2 pチャネル 10Ω 降圧形 源回路,基準電源回路,三角波発振回路,低電圧誤動作防 第3 OUT3 pチャネル 10Ω 降圧形 ,過熱保護回路などの共通部分と,チャ 止回路(UVLO) 第4 OUT4 pチャネル 10Ω 降圧形 第5 OUT5 pチャネル 10Ω 降圧/ 反転形 CNT4 CS4 OUT6a nチャネル 10Ω 昇圧形 CNT5 CS5 ネルごとの誤差増幅器(エラーアンプ) ,PWM コンパレー タ,ソフトスタート回路,出力ドライバ回路などで構成さ れている。 表2にチャネル制御仕様を示す。この表を基に出力制御 第6 OUT6b VCC2端子との間に1Ωのpチャネルパワー MOSFETを内蔵 について説明する。 3.1 出力回路 6 チャネル出力すべて,外部のパワー MOSFET( MetalOxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)を 直接高 チャネルの MOSFET の 代 わりに pnp トランジスタを, また n チャネル MOSFET の 代 わりに npn トランジスタ を外部スイッチング素子として使用することができる。 速スイッチング駆動できるように考慮してあり,スイッチ ング MOS のゲート蓄積キャリヤを高速に充放電するため に大きな瞬時電流を流すことのできるプッシュプル形のド ライバ回路となっている。 3.2 出力制御 6 チャネルの 出力 はそれぞれ 専用 のオンオフ 制御端子 (CNT 端子)と,ソフトスタート制御端子(CS 端子)を 各チャネルのオン抵抗は,プッシュプル出力段の p チャ 備えており,独立してコンバータ出力の起動・停止を機器 ネル 側・ n チャネル 側 ともに, 第 1 チャネルは 6 Ω ,そ の使用状態に応じてきめ細かく制御することができ,省電 の 他 のチャネルは 10 Ω となっており, 出力電流 は 最大 + − 0. 2 A まで流せる。 力化に対応している。 これらの出力端子に電流制限抵抗を接続することで,p 5 個のオンオフ制御端子(図2の CNT1 ∼ 5)をすべて オフ設定(0 V 設定)にすると,IC はスタンバイモードに 439(15) 富士時報 6 チャネル DC--DC コンバータ用 IC Vol.71 No.8 1998 図3 デューティ制限回路 図4 昇圧コンバータ回路 FA3621F VCC L VREG Q RS1 RS2 CS + G 制御 IC CS4 (CS5) D D C VOUT S (a)昇圧コンバータの基本回路 FA3621F なり,内部制御電源を遮断するとともに,第 1 チャネルか ら第 5 チャネルまでの出力端子は入力電源電圧レベル,第 6チャネル出力は GND レベルになり,外部 MOSFET を pチャネル ドライバ と第 4 チャネルは共通にそれぞれ 1 端子となっている。ビ デオカメラにおいては,テープ走行系とヘッド駆動系のモー VCC OUT6b L6 nチャネルドライバ OUT6a オフ状態にする。 オンオフ制御とソフトスタート制御とも,第 3 チャネル VCC2 Q61 D G D6 + VOUT C62 PWMパルス チャネル6オンオフ信号 S (b)電源スルー防止を行った昇圧コンバータ回路 タ制御電源は同時に起動・停止するので,第 3 チャネルと 第4チャネルはこれらの DC モータの速度制御に対応させ て制御端子を共通にしてある。また,両チャネルの誤差増 が遮断状態になった場合,電源からリアクトル(L)とダ 幅器は反転入力端子のほかに,非反転入力端子も外部に出 イオード(D)を通してコンバータ出力端子(VOUT)に 力してあり,非反転入力端子に DC モータの速度設定信号 電源電圧 VCC が出力され,コンバータ出力が 0 V になら を入力することでモータ制御系を構成できる。 ない,いわゆる電源スルー現象がある。FA3621F では外 第 1 チャネルと第 2 チャネルは降圧形コンバータ専用の 部部品なしでこれを防止できる。図2のブロック図に示す 制御回路であり,誤差増幅器の非反転入力端子は IC 内部 ように, IC 内部 の VCC2 端子 と OUT6 b 端子間 に 低 オン で 1.0 V の基準電源に接続してある。 抵抗の p チャネルパワー MOSFET(Q1)を備え,このパ 第 5 チャネルは降圧形または極性反転形コンバータを構 ワー MOSFET を第 6 チャネルの起動・停止制御に合わせ 成できるように,誤差増幅器の非反転入力端子を外部に出 てオンオフさせて,第 6 チャネルがスイッチング制御して してある。 いるとき, OUT6 b 端子 に VCC2 端子 の 電圧 が MOSFET 第 6 チャネルは 2 個の出力端子 OUT6 a と OUT6 b を備 を通して出力されるようにしている。 えている。6 チャネルのうち OUT6 a 端子のみ n チャネル 昇圧コンバータ回路の電源をこの OUT6 b 端子出力を用 MOSFET 駆動用出力であり,昇圧形コンバータを構成で いることで,オフ時の電源スルー現象を防止できる。この きる。OUT6 b 端子については別途述べる。 (b) 機能 を 用 いた 昇圧回路構成 を 図4 に 示 す。なお,この OUT6b 出力端子は最大連続 0.25 A の電流が流せる。 3.3 オンデューティ制限 極性反転形および昇圧形コンバータ回路では外部スイッ 3.5 三角波発振器 チング素子がフルオン状態になるとリアクトルを通して電 三角波発振器の発振周波数は,タイミングコンデンサ接 源短絡となり,機器の破壊に至る可能性がある。FA3621F 続端子 CT とタイミング抵抗接続端子 RT に外付けのコン では,第 5 チャネルと第 6 チャネルのソフトスタート設定 デンサと抵抗を接続することで任意に設定できる。 端子 CS4 と CS5 の端子電圧に制限を掛けることで,これ 三角波信号の振幅は 0.8 V から 1.3 V に設定されている。 を防止できる。図3に示すように二つの外部抵抗 RS1,RS2 この信号は各チャネルの PWM コンパレータに供給され, でコンデンサ CS の充電完了電圧を設定することで,外部 全チャネルが一つの三角波信号で同期運転される。 スイッチング素子の最大オンデューティを設定することが できる。 応用回路例 なお他のソフトスタート設定端子 CS1,CS2,CS3 は, デューティ制限が不要であるので,外付けコンデンサだけ で構成できるように定電流出力特性となっている。 図5に FA3621F の応用回路例を示す。この例では外部 スイッチング素子に MOSFET を使用している。第 1 チャ ネルから第 4 チャネルまでは,p チャネル MOS を用いて 3.4 昇圧回路の電源スルー防止 降圧形コンバータを構成し,第 5 チャネルは極性反転回路 図4 (a) に示すように,昇圧形コンバータでは,オンオフ を構成している。第 3 チャネルと第 4 チャネルの誤差増幅 制御またはスタンバイモードにより外部スイッチング素子 器の非反転入力端子には IC 内の基準電圧(VREF 端子出 440(16) 富士時報 6 チャネル DC--DC コンバータ用 IC Vol.71 No.8 1998 図5 FA3621F の応用回路例 Q11 VCC S L1 D + C12 G C11 + D1 CH1 R12 C1 Q21 S VCC1 IN1− OUT4 FB5 D3 CH3 R32 CNT2 CNT3 CS1 L4 D + C42 G C41 D4 R41 CH4 R42 OUT5 VDRV SYN Q51 CDRV CS1 CS2 CS3 CS5 Q41 S S D5 D + C52 G C51 CH5 L5 RS51 CS5 RS52 CS4 RS41 RS42 CS2 OUT6a CS3 GND1 VCC2 OUT1b CNT4 OUT1a IN6− FB6 CS4 + C32 R31 C31 GND2 IN5− OUT6b C60 L3 D G OUT2 FA3621F IN5+ R52 S CH2 R22 OUT3 FB1 C50 CNT5 R54 R51 Q31 RT DT1 FB2 CNT1 C10 R53 D2 DT2 IN2− C20 + C22 R21 C21 RT CT1 CT1 CT2 CP CREF VREF CP CREF FB4 IN4+ IN4− IN3+ VREG FB3 C40 IN3− C30 L2 D G CREG GND オンオフ制御入力 オン:3V オフ:0V R11 L6 CNT5 CNT4 CNT3 CNT2 CNT1 力)を印加している。また第 6 チャネルは電源スルー防止 を実現した昇圧回路構成となっている。 Q61 D D6 + C62 R61 G S CH6 R62 概要を紹介した。 富士電機では,今後この FA3621F をベースに,動作電 このように, 6 回路 のスイッチング 電源 を 1 チップ IC 源電圧のさらなる低電圧化や,コンバータ出力電圧の 3.3 で構成することができる。また各チャネルのリアクトルの V 化に伴って高効率化に有利な同期整流方式に対応した制 代わりに多巻線の変圧器を用いることで,6 回路以上の多 御 IC を開発し,市場要求にこたえていく所存である。 出力電源を構成することも可能である。 あとがき ビデオカメラなどの多出力を要する電源装置に適した6 チャネル出力の DC-DC コンバータ用制御 IC FA3621F の 441(17) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。