FEJ 73 08 440 2000

富士時報
Vol.73 No.8 2000
携帯電話機用電源 IC
佐野 功(さの いさお)
加茂 宏明(かも ひろあき)
藪崎 純(やぶざき じゅん)
まえがき
図1 FA3678F のチップ写真
携帯電話機は,いつでも,どこでも,どこへでも,とい
う携行性,利便性を特長とし,小型化・低価格化の進展,
低消費電力化による待ち受け時間や通話時間の伸びにより,
多くの消費者の支持を得た結果,現在の高い普及率となっ
ている。
この小型化,低価格化,低消費電力化の実現のために,
大きな役割を果たしているのが各種 LSI である。
携帯電話機に用いられている電源 IC は,消費電力の大
きいバイポーラ品から,消費電力の小さい CMOS(Complementary MOS)品へ移行して省電力化が進んできてい
る。また,複数のレギュレータ回路を一つの IC にまとめ
るなどして小型化に対応している。
さらに,必要な電力を各電子デバイスに安定して供給す
ることはもちろんのことであるが,未使用時の待機電力の
™ 負電圧レギュレータ回路内蔵
削減などにも対応している。
™ 基準電圧回路内蔵
本稿 では, 携帯電話機用電源 IC として,8 個 の LDO
( Low Drop Out)レギュレータと, 送信用電力増幅器
™ 低消費電流: 1 μA(待機時の標準値)
(パワーアンプ)のゲートバイアス用負電圧レギュレータ,
™CMOS シリコンゲート 1 μm プロセス
™LQFP48 ピンパッケージ
演算増幅器 などを 内蔵 し, 48ピンのパッケージとした IC
「FA3678F」を開発,製品化したので概要を紹介する。
FA3678F のチップ写真を図1に示す。
周辺部のパッド近くに配置されている MOS トランジス
特 長
タが,レギュレータのパストランジスタとなる p チャネ
ル MOS である。配線は寄生直列抵抗を減らすようできる
FA3678F は携帯電話機用に開発したシステム電源 IC で,
だけ太く短くし,最適レイアウトとしている。
八つの 2.8 V 出力電圧,最大 90 mA の出力電流の LDO レ
ギュレータ,外部抵抗で出力電圧の設定が可能な負電圧レ
各回路要素は,図1に見られるようにセルブロックとし
て準備しており,設計期間の短縮を図っている。
ギュレータ,ALC(Automatic Level Control)回路用演
仕 様
算増幅器,基準電圧出力回路などを内蔵している。
また,各 LDO レギュレータと演算増幅器はおのおの個
別にオンオフが可能で,必要に応じて電源のオンオフを行
3.1 LDO レギュレータ
い,バッテリーパワーをセーブすることを可能にし携帯電
™リプル除去率:−40 dB
™ 消費電流: 40 μA(1 回路あたりの標準値)
話機の低消費電力化に対応している。
™ 出力電圧: 2.80 V+
−60 mV
特長を以下に簡単にまとめる。
™LDO レギュレータ 8 回路内蔵
佐野 功
440(20)
加茂 宏明
藪崎 純
電源 IC の開発,設計に従事。現
電源 IC の開発,設計に従事。現
電源 IC の開発,設計に従事。現
在,松本工場半導体開発センター
在,松本工場半導体開発センター
在,松本工場半導体開発センター
IC 開発部主任。
IC 開発部。
IC 開発部。
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携帯電話機用電源 IC
Vol.73 No.8 2000
プアウト電圧が小さいため,バッテリーの消費を抑え,か
つ低いバッテリー電圧での使用が可能である。
3.2 負電圧レギュレータ
™ 出力電流: 4 mA
この IC に 内蔵 している LDO レギュレータは, 20 kHz
™リプル除去率:−25 dB
ま で − 60 dB 以 上 の 高 リ プ ル 除 去 率 ( 図 3 ), 100 mV
™ 立上り時間: 5 ms(最大値)
(Io = 20 mA)の低ドロップアウト電圧(図4,図5),1
™チャージポンプ発振周波数:12 kHz(標準値)
回路あたり 40 μA の低消費電流といった性能に加え,1 μF
の出力コンデンサでも安定動作を実現している。
また,定格電流 90 mA の LDO レギュレータには,出力
3.3 消費電流
™ 全信号オフ時:1 μA(標準値)
がグラウンドレベルへ短絡した場合などの過電流による発
熱,破壊を防止するため,過電流制限回路を内蔵している。
主要回路特性
4.2 負電圧レギュレータ
FA3678F の回路ブロック図を図2に示す。
負電圧レギュレータは,チャージポンプ回路とレギュレー
タにより構成され,最大 4 mA の出力電流供給が可能で,
信号送信用 GaAs パワーアンプのゲートバイアス用電源と
4.1 LDO レギュレータ
FA3678F では CMOS による LDO レギュレータを 構成
している。バイポーラと比較して消費電流が小さく,ドロッ
して適している。
外部コンデンサ容量値によりチャージポンプ用発振周波
,チャージポンプによるボルテー
数の選択が可能で(図6)
図2 FA3678F の回路ブロック図
ALC IN
CMP OUT
SIN
SOUT
ALC OUT
GNDA1
図4 レギュレータのドロップアウト電圧(REG7)
GNDA2
GNDD
VCC2
VCC3
FBST
2.9
ALC回路用演算増幅器
ALC EN
IN1+
+
PA CNT
−
VCC1
DAREF
DAREF
BGR
VREF
−
IN2+
+
OUT3
IN3+
IN3−
+
ロジック
CNT1
CNT2
CNT3
CNT4
CNT5
CNT6
CNT7
−
DGOUT
C1P
負電圧
レギュレータ
C1M
VSS
出力電圧 V out(V)
OUT12
REG REG REG REG REG REG REG REG
2.8V 2.8V 2.8V 2.8V 2.8V 2.8V 2.8V 2.8V
2.8
2.7
無負荷
I o= 5mA
I o=10mA
I o=20mA
2.6
REG
OUT
RDD
DDCNT DDREG
CT
OUTC OUTP REG1 REG2 REG3 REG4 REG5 REG6 REG7 REG8
3.6 3.6
2.5
2.6
2.8
3.0 3.2 3.4 3.6
電源電圧 V in(V)
3.8
4.0
図3 レギュレータのリプル除去率(REG7)
(Vcc = 4 V,I o = 20 mA,C out = 4.7 F,C vref =1.0 F)
図5 ドロップアウト電圧の温度特性(REG7)
0
200
ドロップアウト電圧(mV)
−10
リプル除去率(dB)
−20
−30
−40
−50
−60
150
I o=20mA
100
I o=10mA
50
I o=5mA
−70
−80
10
無負荷
100
1k
10k
周波数 f(Hz)
100k
1M
0
−25
0
25
50
温 度(deg)
75
100
441(21)
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図7 負電圧レギュレータ出力の R DD 依存性
図6 チャージポンプ回路の発振周波数
−0.5
無負荷
I o=2mA
I o=4mA
−1.0
出力電圧Vout(V)
チャージポンプ用発振周波数 f DD(kHz)
50
10
−1.5
−2.0
−2.5
5
50
100
外部コンデンサ容量 C T(pF)
−3.0
500
100
200
300
400
500
600
外付け抵抗 R DD(Ω)
ジダブラにレギュレーション機能を付加し,簡単な外付け
今後 , 携帯電話機用 LSI は, 統合化 がますます 進 むと
抵抗により,出力電圧を変化させることができ,パワーア
考えられるが,より低消費電力で,より小さく,より高機
ンプの特性に応じて調整が可能である(図7)。
能なシステムが構築できる技術開発を行っていきたいと考
えている。
あとがき
参考文献
以上 , 携帯電話機用電源 IC として 開発 した FA3678F
の概要について紹介した。
442(22)
(1) 加茂宏明:小形 LCD コントローラ, 富士時報 , Vol.71,
No.8,p.452- 455(1998)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。