FEJ 73 08 423 2000

富士時報
Vol.73 No.8 2000
富士電機の IC の現状と展望
古森 敏夫(こもり としお)
まえがき
る。 耐圧 30 ∼ 60 V の CMOS および C/DMOS プロセス
が主力で,デザインルールは 0.6 μm までをそろえている。
富士電機の IC は,パワーとインテリジェンスとアナロ
代表的 なプロセスは 図2 に 示 すとおりである。 電源 IC
グをキーワードとして,電源 IC を中心に特長ある技術を
では,1 μm ルールの 30 V 級 C/DMOS を主力とし,トリ
基に製品展開を実施している。パワーに関しては,高耐圧
ミング技術や高精度プロセスにより高精度・高機能な製品
C/DMOS(Complementary/Double Diffused MOS)技術
設計を可能としている。また,従来広く使われてきたバイ
や IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)混載プロセ
ポーラ IC プロセスを 省電力化 に 効果 の 大 きい CMOSIC
スを有し,インテリジェンスに関しては,高機能ディジタ
プロセスへと急速に移行させている。高耐圧技術では,電
ル制御やセンサ内蔵 IC を可能とし,アナログに関しては,
源 IC として 700 V C/DMOS プロセスを 1 μm ルールベー
高精度基準電圧(+
−0.5 %)や高周波 PWM(Pulse Width
Modulation) 制御技術 , 低消費電力技術 などを 特長 とし
図1 富士電機の IC のめざす技術
ている(図1参照)。
アプリケーション 分野 でいえば, 電源 IC は, AC アダ
高耐圧
大電流
センサ
ディジタル制御
プタなどの AC-DC 電源分野から最近の発展めざましい携
帯機器,パーソナルコンピュータ(パソコン)ならびに関
パワー技術
連機器用 DC-DC 電源分野までをカバーしている。また,
インテリジェンス
CMOSアナログ技術
高耐圧技術を生かしたフラットパネルディスプレイドライ
バ IC(プラズマディスプレイ,小型液晶)やセンサ技術
低消費電力
高精度
を生かしたカメラ用オートフォーカス IC,自動車用圧力
センサ分野などにも製品展開している。
半導体技術の進展はめざましく,超微細加工技術を用い
図2 富士電機の IC のプロセス技術
たシステム IC やディジタル ULSI の高集積化・高機能化
は目を見張るものがあるが,一方システムには必要不可欠
な電源を中心としたパワーマネジメントにおいてはアナロ
グ技術の重要性もますます高まっている。
このような 背景 のもと 富士電機 では, CMOS デバイ
ス・プロセス技術を基本としたアナログ技術で小型,低消
費電力,高機能化の探求を進め,電源 IC を中心に強化・
拡充を図り,顧客のニーズに適合するユニークな IC 製品
を提供していく考えである。
1998年
1999年
2000年
バイポーラIC:8
2
mルール 20∼40V
mルール 20V
Bi-CMOSIC:2
mルール 20V
2001年
CMOSIC:1 mルール 5V(ロジック系),
30V(アナログ系)
0.8 mルール 5V(ロジック系)
0.6 mルール 5V(ロジック系)
C/DMOSIC:1 mルール 30∼60V(アナログ系)
1 mルール 150V
1 mルール 250V(SOIプロセス)
1 m
ルール
富士電機の IC の現状
700V
(ワンチップ
パワーIC)
0.6 m 30V
(アナログ系)
ルール
2.1 IC デバイス・プロセス技術
富士電機のデバイス・プロセス技術の特長は,高耐圧,
バンプ:金(Au)
はんだ(Pb-Sn)
鉛レス化
低消費電流と高精度アナログ・ディジタルの共存技術であ
古森 敏夫
CMOSIC のプロセス 開発 に 従事 。
現在 , 松本工場半導体開発 セン
ター IC 開発部長。
423( 3 )
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スで開発中で,品質を含めて自信を持ってお勧めできるワ
図3 IC 製品例
ンチップパワー IC を近々製品化する予定である。また,
250 V 耐圧,SOI(Silicon on Insulator)基板を用いた IG
BT 出力段を内蔵できるディスプレイドライバ用 C/DMOS
デバイス・プロセスも実現し,小型化・高出力化に対応し
ている。電源 IC 向けに特別に開発し,量産に適用中の高
耐圧アナログ C/DMOS デバイス・プロセス技術について
は本特集号の別稿を参照いただきたい。
2.2 アナログ IC 設計技術
アナログ 設計 が 主 となる 電源 IC は,ディジタル IC と
TSSOP-8 ピンで出力短絡保護回路内蔵,ソフトスタート
は違い自動化が難しい。それは回路図から IC のレイアウ
と 最大 デューティ( Dmax) 制限設定可能 など 特長 のある
トパターン設計に移るとき微妙なレイアウトパターンの引
1チャネル PWM 制御 IC を開発した。また,オンボード
き回しが IC 特性に影響することが多いからで,依然とし
用 としてはマルチチャネル( 6 チャネル) 同期整流対応
て技術者の経験がものをいうマニュアル設計が多く取り入
DC-DC コンバータ 制御 IC を 系列化 している。これは 2
れられているのが現状である。しかし,設計期間の短縮や
チャネルの同期整流対応チャネルを持ち,各チャネルの独
設計品質の安定化のためには,CAD 技術による設計支援
立した出力オンオフおよびソフトスタート機能,タイマ・
は必要不可欠であり,富士電機でも CMOS アナログマク
ラッチ方式の出力短絡保護回路内蔵などの特長を持ち,動
ロセルによるセルベース設計の適用を図るとともにバック
作周波数も1MHz まで対応し電源の小型化に寄与してい
アノテーション手法を取り入れたアナログ自動配置配線設
る。さらに,パワーマネジメントの高度化に対応すべく電
計技術の実用化を強力に進めている。
源 IC へのディジタル制御回路や周辺機能の集積化も進め
2.3 IC パッケージ
そのほかに,電源 IC 技術として 3 MHz 以上の高周波スイッ
ており,その代表例として,携帯電話機用電源 IC がある。
図3に製品例を示す。電源 IC
など主力のプラスチック
チング動作を実現する DC-DC コンバータ技術,システム
パッケージでは, DIP( Dual In-line Package)はもとよ
電源対応のアナログ・ディジタル混載技術,そして高精度
り,最近の表面実装,狭ピッチ,薄型の要求に対応すべく
CMOS アナログ 技術 を 開発 している。これらについての
TSSOP(Thin Shrink SOP)や CSP(Chip Size Package)
,
詳細は,本特集号の別稿を参照いただきたい。
またノンリードタイプの QFN(Quad Flat Non-lead)な
ここに述べた電源 IC の適用分野は表2に示すごとく多
どを 準備 して 顧客 の 要求 に 対応 している。さらにオート
岐にわたり,各分野で小型化,省電力化などに貢献してい
フォーカス IC に適用しているクリアモールドパッケージ
る。
は光センサに適した性能を有し,富士電機固有の特長のあ
る技術として顧客から評価をいただいている。また小型化,
高耐圧 IC・センサ IC の現状
低価格化のためフレキシブル基板にベアチップを搭載した
モジュール 実装 ( COF:Chip on Film)も 系列化 してい
富士電機では,電源 IC のほかに,もう一つの柱である
高耐圧技術やセンサ複合化に特長ある製品を展開している。
る。
その一つは,プラズマディスプレイドライバ IC で,スキャ
電源 IC の現状
ン側ドライバは 250 V 耐圧 SOI プロセスを用いている。ま
た,アドレス 側 ドライバは 150 ∼ 85 V 耐圧 C/DMOS プ
表1に富士電機の汎用電源 IC
の型式と主な特長,機能
を示す。従来のバイポーラ IC から近年,エコロジーの観
ロセスを用い,実装方法としてベアチップをフレキシブル
フィルムへ搭載したモジュール化を実現している。
点から省資源,省エネルギーが求められる背景下,低消費
センサ複合化では,ホトセンサ内蔵に特長のあるカメラ
電力待機電源を実現できる CMOS 電源 IC に注目が集まっ
用オートフォーカス IC があり,距離データの演算処理を
ているが,富士電機は,これの先導的役割を担って積極的
行うディジタル方式とホトセンサの信号を出力するアナロ
に CMOS 化を推進し,系列化を図ってきた。
グ方式の 2 種類の IC を系列化し,カメラ構造,カメラ性
まず,AC-DC コンバータ用には,特に軽負荷時に動作
能 に 合 わせて 採用 いただいている。さらに, 光学系 と IC
周波数を低減することでスイッチング損失を減らして省電
を一体化して実装したオートフォーカスモジュールも提供
力化でき,かつ 8 ピンで過負荷遮断や低電圧誤動作防止な
しており,小型化,調整容易化を特長にパッシブ型センサ
ど各種保護機能を内蔵した PWM 制御 IC を開発した。こ
の代表として多くの実績を有している。
れにより待機時や無負荷時の低入力電力を要求される高効
率,省電力型電源の実現に大いに貢献している。
DC-DC コンバータ用には各種携帯機器電源用に最適な
424( 4 )
もう一方,ピエゾセンサの応用例としては,自動車用圧
力 センサがあり, 本特集号 の 別稿 にて, EMI 対策内蔵型
圧力センサを紹介しているので参照いただきたい。
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formation Technology)関連の携帯機器分野のパワーマネ
今後の展望
ジメントに注力し,高耐圧,アナログ CMOS 技術をコア
技術として,パワーとインテリジェンスを加え市場の要求
富士電機では,今後ますます発展が期待される IT(In-
に対応したユニークな製品を開発していきたいと考えてい
表1 汎用電源 IC 一覧
(a)AC-DC コンバータ分野(制御専用)
項目
フライバック
FA13842
96
○
FA13844
48
FA3641/47
70
○
46/70
○
FA5301B
100
○
FA5304A
46
○
FA5305A
46
○
FA5310B
46
○
FA5311B
70
FA5314
46
FA5315
70
FA5316
46
FA5317
70
FA5332
92
分類
M
O
S
I
C
適用回路
D max
(%)
型 名
(FA5510/11
14/15)
フォワード
○
○
○
(FA5501)
バ
イ
ポ
ー
ラ
I
C
力率改善
○
○
○
○
○
○
MOS
直接駆動
動作モード
ボルテージ
保護回路
カレント
OCP
OVP
外 形
○
○
8ピン
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
16ピン
○
○
○
8ピン
16ピン
(b)DC-DC コンバータ分野
電圧範囲
項目
チャネル
数
D max
(%)
FA3675F
6
任意設定
FA3676F
6
任意設定
FA3630V
2
任意設定
FA13843
1
96
FA13845
型 名
分類
M
O
S
I
C
バ
イ
ポ
ー
ラ
I
C
適用回路
外 形
○
○
48ピン
○
○
48ピン
ステップ
アップ
イン
バータ
フライ
バック
○
○
○
○
○
○
○
○
○
2.5∼
5.5 V 系
10∼
25 V 系
○
○
○
○
16ピン
○
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
16ピン
○
○
○
○
16ピン
○
○
○
○
8ピン
○
8ピン
○
○
○
8ピン
○
○
○
16ピン
○
○
16ピン
○
○
○
16ピン
○
○
○
16ピン
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
1
48
(FA3686V)
2
85
○
(FA3687V)
2
任意設定
○
(FA7700)
1
90
○
(FA7701)
1
100
○
FA7610C
1
64
○
FA7611C
2
任意設定
○
○
FA7612C
1
100
○
○
FA7613C
1
任意設定
FA7615C
2
任意設定
FA7616C
2
任意設定
FA7617C
1
67
○
FA7630C
2
任意設定
○
FA3629AV
3
○
○
FA3635P
1
任意設定
10∼
45 V 系
○
○
○
8ピン
FA3685P
1
任意設定
○
○
○
○
8ピン
○
○
チャネル2=87
8ピン
○
○
○
○
○
○
チャネル1=87
M
O
S
I
C
MOS
直接駆動
ステップ
ダウン
2.5∼
18 V 系
2.5∼
5.8 V 系
チャネル3=86
8ピン
○
20ピン
MOS 内蔵
16ピン
n チャネル
(1チャネルのみ)
〈注〉( )付きは開発中
425( 5 )
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富士電機の IC の現状と展望
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る。
表2 電源 IC の適用例
項目
分類
AC-DC
コンバータ
分野
DC-DC
コンバータ
分野
機 種
適用製品例
FA5301
CRT モニタほか
FA5304A/05A
FA531X
シリーズ
AC アダプタ,プリンタ,CRT モニタ,
ファクシミリ,ワードプロセッサ(ワー
プロ)サーバ,汎用インバータ,
据置 VTR,汎用電源,充電器 ほか
FA1384X
シリーズ
AC アダプタ,プリンタ,エアコンディ
ショナ(エアコン),CRT モニタ ほか
FA5332
CRT モニタ,汎用電源,エアコン,冷
蔵庫,ワークステーション,プラズマ
ディスプレイパネル,プロジェクタ,
監視カメラ,AC アダプタ ほか
FA3647/41
プリンタ,ファクシミリ,AC アダプタ,
普通紙複写機,ゲーム機 ほか
FA76XX
シリーズ
パソコン,ワープロ,液晶バックライト
インバータ,ディジタルカメラ,プリン
タ,カーナビゲーションシステム,据置
VTR,プロジェクタ,VTR カメラ ほか
FA3675/76
VTR カメラ,ディジタルカメラ ほか
FA3629/30
液晶パネル,ディジタルカメラ ほか
FA3635/85
プリンタ ほか
あとがき
電源 IC に 重点 をおき, 富士電機 の IC の 現状 と 展望 を
述べた。今後もお客様のニーズを先取りしたご満足のいた
だける特長ある製品を提供できるメーカーとして生き残り
をかけ,コア技術に磨きをかけて高品質な製品を提供して
いく所存である。
参考文献
(1) Sumida, H. et al.:“A high performance plasma display
panel driver IC using SOI”. The 10th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs. p.137- 140
(1998)
(2 ) Sumida, H. et al.:“Circuit Design and a High-Voltage
Device Structure for an Advanced PDP Scan Driver IC ”.
The 6th International Display Workshops. p.739-742(1999)
(3) 目黒謙:富士電機 の IC の 現状 と 展望 , 富士時報 , Vol.71,
No.8,p.427- 429(1998)
426( 6 )
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。