富士時報 Vol.77 No.1 2004 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 展 望 2003 年は 3 月に勃発(ぼっぱつ)したイラク戦争や, 新型肺炎 SARS(重症急性呼吸器症候群)の感染拡大など を図るとともに,ウェーハプロセスを 8 インチ化すること で安定供給を可能とした。 により世界経済に影を落としたが,半導体業界においては 富士電機独自のカメラ用パッシブオートフォーカスデバ 2002 年からの市況回復の兆しが引き続き継続した年で イスでは,クリアモールドパッケージに代わる特性のよい あった。従来からのパソコン,携帯電話,ディジタルスチ クリアゲル-SOP を採用し,センサピッチを大幅に縮小し ルカメラに加え,DVD レコーダ,薄型テレビなど新たな た高性能の小型モジュール3機種と,低価格の広角モ 需要を掘り起こす製品が立ち上がってきた。また,中国市 ジュールをラインアップしている。これにより,ディジタ 場などに支えられた産業用半導体も堅調に推移した。こう ルスチルカメラの小型・高性能化に貢献し,拡大を図る。 した背景下で富士電機の半導体は高耐圧,パワー技術を特 パワーデバイス分野では,顧客起点とした迅速な対応を 徴として,顧客の機器,システムの高機能化,省電力化, 最大限に重視し,顧客満足度を確実に向上させる施策を展 低コスト化などのニーズに応える製品群を提供してきた。 開中である。IGBT モジュールでは,すでにその低損失, AC-DC 電源 IC 分野では,低消費電力化が進んでいる 高信頼性そしてその使いやすさから,多くの支持を獲得し 電子機器・家電製品に向けて,待機電力 100 mW 以下の ている第五世代 IGBT モジュール「U シリーズ」を展開 要求に対応したカレントモード制御電源 IC を開発した。 中である。600 V,1,200 V,1,700 V での系列化を実施し, 軽負荷時に発振周波数を自動的に低減し,スイッチング損 量 産 供 給が 始 ま っ て い る 。 ま た , こ の優 れ た U- IGBT 失を低減する機能と,高耐圧の起動電流制御回路を内蔵し, チップを用いて,さらに小電流用途のお客様が使いやすい 起動後は高圧系からの電流を削減することで待機電力を低 ように,小容量 IGBT モジュールを開発製品化した。また, 減する。また,コストダウンに対応した SOT23 パッケー 対称的に大容量の用途のお客様には 2 個組の IGBT 大容量 ジの制御 IC も開発中である。 モジュールを開発し,1,700 V で 1,200 A までの大容量モ DC-DC 電源 IC 分野では,ディジタルスチルカメラ,V ジュール化を図っている。 TR カメラ,PDA などに最適な高効率マルチチャネル電 ディスクリート分野では,パワー MOSFET「Super 源 IC を開発した。幅広い入力電圧範囲,高精度の基準電 FAP-G シリーズ」が好調である。シリコン限界に近づけ 圧,充実した保護回路機能などの特徴のほかに,各アプリ た特性改善が多くのお客様に認められ実績を重ねている。 ケーションの要求に応じて,CPU に供給する電源電圧が これまで系列製品化した 900 V までの高耐圧系列に加えて, 動作モードにより変化することに対応した出力電圧可変制 今回は 300 V 耐圧の PDP のサステイン回路用シリーズを 御,CPU の待機時に消費電流を削減することを目的とし 開発した。また,ディジタルオーディオアンプ用として, た PWM/LDO 切換制御などを実現している。また,マル 100 ∼ 150 V 耐圧シリーズも開発した。いずれも高速ス チチャネルの各ソフトスタート機能を内蔵することにより, イッチング,低損失が厳しく求められる適用分野であり, 外付け部品を大幅に削減した。さらに,携帯電話やディジ SuperFAP-G のコンセプトを生かして製品化対応してい タルスチルカメラなど携帯電子機器のカラー液晶パネル用 る。 バックライト駆動 IC も開発した。 プラズマディスプレイパネル(PDP)テレビの市場拡 大に伴い,PDP 駆動 IC に対しては低価格化と安定物量供 また,高効率,低損失が要求されるスイッチング電源の 二次側整流用として最適な製品をシリーズ化(40 ∼ 250 V)し,好評を得ている。 給が要求されているが,富士電機ではこれら要求に応える 今後も引き続き富士電機の半導体製品は特徴ある技術を ため,高耐圧デバイスの小型化によりアドレスドライバ 生かして,さらに多様化する顧客ニーズに迅速に対応する IC のチップサイズを当社従来 IC の 70 %とし低コスト化 所存である。 70 富士時報 Vol.77 No.1 2004 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 コストダウン型カレントモード制御 IC 家電・ OA 機器などに使用される AC-DC コンバータ 図1 コストダウン型カレントモード制御 IC の低価格要求に応え,カレントモード制御方式の PWM スイッチング電源制御 IC を 5 ピンの小型パッケージに搭 載したコストダウン型 IC「FA5520Y」を開発した。 この製品の主な特徴は次のとおりである。 (1) SOT-23,5 ピンパッケージ (2 ) 30 V 高耐圧 CMOS プロセス採用による低消費電流化, スタンバイ電流:2 mA,動作時:1 mA (3) 電源(Vcc)を監視する過電圧保護機能内蔵 (4 ) パルスバイパルス過電流制限 (5) 内部固定の発振器内蔵:f = 100 kHz (6 ) 最大デューティ:94 % 小型 5 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC ディジタルスチルカメラなどの携帯機器の小型化・薄型 図2 小型 5 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC 化に対応した 5 チャネル PWM 出力の電源 IC「FA7716R」 を開発した。 主な特徴は次のとおりである。 (1) 動作電圧範囲:2.5 ∼ 10 V (2 ) 5 チャネルの電源構成が可能 (3) チャネルごとのオンオフ制御,ソフトスタート機能 (4 ) ソフトスタート機能の内蔵(外付け部品なし) (5) ディジタル系出力シーケンスに対応 (6 ) 保護回路機能内蔵(低電圧誤動作防止,短絡保護) (7) QFN-36 パッケージ(鉛フリー対応)ボディサイズ 5 mm × 5 mm,ピンピッチ 0.4 mm,厚さ最大 0.95 mm の小型・薄型パッケージ採用 白色 LED ドライバ IC 携帯機器のカラー液晶パネルのバックライト光源として 図3 白色 LED ドライバ IC「FA3722Y」 白色 LED が使用されているが,白色 LED を高効率で駆 動するドライバ IC「FA3722Y」を製品化した。 本 IC は PWM 制御 DC-DC コンバータで最大 6 個の白 色 LED を定電流駆動し,90 %以上の効率と 1 µA 以下の スタンバイ電流により最適なバッテリー動作を提供する。 1.6 ∼ 6.0 V の入力電圧範囲で動作するため,1 セルのリ チウムイオンバッテリーや複数のアルカリまたは NiMH バッテリーで駆動される携帯機器に最適である。 主な特徴は次のとおりである。 ①発振周波数:1.2 MHz,②動作時回路電流:150 µA, ③効率:最大 90 %以上,④出力の過電圧保護回路,⑤小 型パッケージ:SOT23-5 ピン。 71 富士時報 Vol.77 No.1 2004 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 PDP 用スキャンドライバ IC PDP テレビ市場が本格的に立ち上がり,大画面化,高 図4 PDP 用スキャンドライバ IC 画質化,低価格化が急速に進んでいる。これに伴いドライ バ IC には,ドライブ能力の大電流化,動作電圧の高耐圧 化,IC のコストダウンが要求されている。これらの要求 に応えるため,PDP 用スキャンドライバ IC「FD3284F」 を開発した。主な特徴は次のとおりである。 (1) 165 V 高耐圧 IGBT 出力 SOI 構造 (2 ) ドライブ電流:− 200 mA/+ 1,200 mA(ソース/シン ク) (3) ダイオード電流:− 1.2 A/+ 1.2 A(ソース/シンク) (4 ) ダイオード電圧降下:1.5 V(400 mA 時) (5) 出力動作電圧:30 ∼ 130 V (6 ) 64 ビット双方向シフトレジスタ(8 MHz) (7) 外形:Exposed Pad TQFP100 ピン PDP サステイン回路用パワー MOSFET「SuperFAP-G シリーズ」 薄型・大画面で高精細画像を実現するプラズマディスプ 図5 パワー MOSFET「SuperFAP-G シリーズ」 レイパネル(PDP)は今後大幅な成長が見込まれている。 PDP パネルの発光効率を向上させるため,サステイン回 路は高駆動電圧化と高効率が要求される。この回路用に最 適設計した 100 ∼ 300 V の低損失・超高速パワー MOS FET SuperFAP-G シリーズを開発した。主な特徴は次の とおりである。 (1) 低 オ ン 抵 抗 : TO - 220 系 パ ッ ケ ー ジ で 300 V/0.1Ω (代表値)を実現 (2 ) 低ゲートチャージ:従来比 60 %低減 (3) 高速スイッチング:従来比 65 %低減 (4 ) 小型・薄型パッケージ:TFP パッケージもライン アップ ディジタルオーディオアンプ用パワー MOSFET「SuperFAP-G シリーズ」 ディジタルオーディオアンプは,小型・軽量・高効率に 有利といった特徴からホームシアターに代表される大出 力・多チャネルの音響システムに多く利用され,今後もそ の用途は拡大が見込まれている。このディジタルアンプ用 パワー MOSFET へは,高速スイッチング・低損失が求め られており,これに対応したディジタルオーディオアンプ 用 SuperFAP-G シリーズを開発した。特徴と概略仕様は 次のとおりである。 (1) スイッチング時間:従来比 65 %低減 (2 ) ターンオフ損失:従来比 65 %低減 (3) 概略仕様 2SK3769-01MR : 150 V/23 A 2SK3770-01MR : 120 V/26 A 2SK3771-01MR : 100 V/29 A 72 図6 ディジタルオーディオアンプ用「SuperFAP-G シリーズ」 富士時報 Vol.77 No.1 2004 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 高精度オートフォーカスモジュール ディジタルスチルカメラ(DSC)の高倍ズーム化に伴 図7 AF モジュール「FM6271W37」 い,高速かつ高精度なオートフォーカス(AF)システム が一層求められている。富士電機では 4 倍以上の高倍ズー ム DSC への適用を目的として,7 µm ピッチ CMOS セン サを採用した高精度 AF モジュール「FM6271W37」を開 発した。 この製品の主な特徴は次のとおりである。 (1) 高精度(測距分解能:+ − 0.072/m) (2 ) 単電源駆動(3.0 ∼ 5.5 V) (3) アドレス指定による部分読出し可能 (4 ) 低消費電流(動作時:7 mA,スタンバイ時:1 µA 以 下) (5) 多点測距(マルチ AF)可能 600 V IGBT モジュール「U シリーズ」 産業用インバータなどの電力変換装置に使用される電力 図8 U シリーズ IGBT モジュール 用半導体素子には,さらなる低損失化,小型化,高信頼性, 使いやすさが求められている。これらの要求に応えて富士 電機は,第五世代 600 V U シリーズ IGBT モジュールの 開発を行い,製品化した。本系列は豊富なパッケージ系列 により市場ニーズの多様化に対応するとともに,IGBT ・ FWD チップの最適化設計により従来品に対して大幅な損 失低減を実現している。 (1) 定格:600 V/30 ∼ 600 A (2 ) パッケージ:Econo モジュール,2 個組および 7 個組 の豊富なパッケージ系列 (3) 低損失化:スイッチング損失の低減により,従来品比 較で約 20 %の発生損失低減を実現 小容量 IGBT モジュール「Small-pack」 近年,電力変換装置に使用されるパワーモジュールの適 図9 小容量 IGBT モジュール「Small-pack」 用範囲は家電製品から自動車まで広がり,さらなる低消費 電力化,小型化,軽量化が求められている。この要求に対 し,低出力の負荷に対応する第五世代のトレンチ構造 IG BT を用いた小容量の IGBT モジュール Small-pack1 & 2 の開発を進めている。現在はインバータ部のみの 6-pack を優先に開発を進めており,その後ブレーキ部,コンバー タ部も搭載した PIM への系列拡大を図る。 Small-pack 1 主な特徴は次のとおりである。 (1) 定格電圧・電流:600 V/10 ∼ 50 A,1,200 V/10 ∼ 25 A (写真左)/ (2 ) 小型・軽量化:W41 × D34 × H21(mm) W57 × D41 × H21(mm) (写真右) ,放熱用銅ベース レス構造 Small-pack 2 (3) 環境規制への対応(オール鉛フリーパッケージ) 73 富士時報 Vol.77 No.1 2004 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 2 個組大容量 IGBT モジュール 産業用電力変換装置に用いるパワーデバイスにおいては, 図10 2 個組大容量 IGBT モジュール 高耐圧・大容量・高性能・高信頼性を兼ね備えた製品の要 求が高まってきている。これに対応するため,耐圧 1,700 V クラスで,最大 1,200 A までの 2 個組大容量 IGBT モ ジュールの開発を進めている。この 2 個組大容量 IGBT モ ジュールは,第五世代の FS(Field-Stop)トレンチ構造 IGBT を適用し,従来の製品に比べ大幅な損失改善を達成 している。 主な特徴は次のとおりである。 (1) 大容量:600 A,800 A,1,200 A の電流容量 (2 ) 高性能:低オン電圧 VCE(sat) = 2.4 V(125 ℃,標準 値) (3) 高信頼性:内部構造の最適化による信頼性の向上 電源二次側整流用ダイオード「高耐圧 SBD シリーズ」 高効率,低損失化が要求されるスイッチング電源におい 図11 電源二次側整流用ダイオード「高耐圧 SBD シリーズ」 て,特に 12 V 以上の高電圧出力電源の二次側整流用に最 適な 120 ∼ 250 V の高耐圧ショットキーバリヤダイオード (SBD)を開発した。従来使用されている 200 ∼ 300 V の 超高速低損失ダイオード(LLD)と比較し,低順電圧 VF とソフトリカバリー性を有し,スイッチング電源の低損失 化と逆回復特性による跳ね上がり電圧の抑制,スイッチン グノイズの低減を実現する。 概略仕様は次のとおりである。 ™定格電圧 : 120 V,150 V,250 V ™定格電流 : 5 A,10 A,20 A,30 A ™パッケージ: TO-220,TO-220F,TO-274,T-Pack 電源二次側整流用ダイオード「低 I r SBD シリーズ」 高効率,低損失が要求されるスイッチング電源の二次側 整流用に最適な 40 V,60 V,100 V 耐圧ショットキーバリ ヤダイオード(SBD)を開発した。 従来の同耐圧 SBD に比べ,逆漏れ電流(Ir)を約 1 け た低減し,逆方向損失を大幅に低減した。特に高温での損 失低減により,熱暴走開始温度の改善が図られた。AC ア ダプタ内のような高温環境下での使用に最適なデバイスで ある。 概略仕様は次のとおりである。 ™定格電圧 : 40 V,60 V,120 V ™定格電流 : 10 A,20 A,30 A ™パッケージ: TO-220,TO-220F 74 図12 電源二次側整流用ダイオード「低 I r SBD」 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。