FEJ 77 05 346 2004

富士時報
Vol.77 No.5 2004
汎用 PDP スキャンドライバ IC
小林 英登(こばやし ひでと)
多田 元(ただ げん)
澄田 仁志(すみだ ひとし)
まえがき
パネル(LCD)
,40 型から 50 型までは PDP,それ以上は
アドレスドライバIC
FPD 市場は,その画面サイズによって 30 型以下では液晶
アドレスドライバIC
スプレイパネル(PDP)市場も,急速に伸びてきている。
アドレスドライバIC
への移行が進んでいる。FPD の普及に伴いプラズマディ
アドレスドライバIC
アナログ機器からディジタル家電への世代交代が始まり,
テレビは CRT からフラットパネルディスプレイ(FPD)
アドレスドライバIC
図1 PDP モジュールの駆動回路
アドレスドライバIC
スキャンドライバIC
プロジェクタとすみ分けがされていた。しかし,FPD の
サステインドライバIC
特
集
1
スキャンドライバIC
中での競争が激しくなり,画面サイズによるすみ分けがな
PDPパネル
スキャンドライバIC
くなりつつある。このような状況の中,PDP には消費電
流低減や発光効率などの性能向上と,低価格化が求められ
ている。
スキャンドライバIC
PDP ドライバ IC は,走査線を選択するスキャンドライ
バ IC とデータを選択するアドレスドライバ IC(または
データドライバ IC)の 2 種類がある。ドライバ IC はその
図2 スキャンドライバ IC の主な動作
特性が表示品質に影響し,一つのパネルに数多くの IC が
使用されていることより,高性能で低コストであることが
スキャンドライバIC
要求される。
富士電機では,スキャンドライバ IC とアドレスドライ
スキャンドライバIC
バ IC の開発を行っており,本稿では大電流でかつ出力オ
ン抵抗が低い汎用 PDP スキャンドライバ IC「FD3284F」
スキャンドライバIC
の技術について紹介する。
サステインドライバIC
PDP スキャンドライバ IC の特徴
スキャン動作
サステイン動作
PDP モジュールの駆動回路を 図1 に示す。スキャンド
ライバ IC は出力本数が 64 ビットで,XGA(eXtended
Graphics Array)パネルでは 12 個使用される。スキャン
ドライバ IC の主な動作を図2に示す。
この表示放電の繰返しで階調表示を行う。
スキャンドライバ IC は,高耐圧で,予備放電時や表示
(1) スキャン期間
放電時には大電流を流せることが要求される。
100 V の電圧で走査線を選択しアドレスドライバ IC の
PDP スキャンドライバ IC 技術
信号により,表示するセルに予備放電を行う。
(2 ) サステイン期間
160 V の電圧でサステインドライバ IC と交互に動作し,
スキャン期間に予備放電を行ったセルに表示放電を起こす。
富士電機では,従来から SOI(Silicon On Insulator)方
小林 英登
多田 元
PDP ドライバ IC の開発・設計に
高耐圧 IC のデバイス・プロセス
高耐圧デバイスの開発に従事。現
従事。現在,富士電機デバイステ
開発に従事。現在,富士電機デバ
在,富士電機デバイステクノロ
クノロジー
(株)
半導体事業本部半
イステクノロジー
(株)
半導体事業
ジー
(株)
半導体事業本部半導体工
導体工場情報・電源開発部プリン
本部半導体工場情報・電源開発部
場デバイス・プロセス開発部。工
シパルエンジニア。
グループマネージャー。電気学会
学博士。電子情報通信学会会員。
会員。
346(40)
3.1 プロセス・デバイス技術
澄田 仁志
富士時報
汎用 PDP スキャンドライバ IC
Vol.77 No.5 2004
式 誘 電 体 分 離 技 術 を 採 用 し て い る 。 SOI プ ロ セ ス で は
N1 の IGBT と N2 の IGBT が動作し選択波形や非選択
ウェーハコストが高いという欠点があるが,デバイス分離
波形を出力する。予備放電時には N1 の IGBT が大電流を
領域が小さく,寄生トランジスタフリーという特徴があり,
高耐圧・大電流を必要とするスキャンドライバ IC には,
SOI プロセスが適している。
供給する。
(2 ) サステイン期間
N1 の IGBT と D1 のダイオードが動作し,表示放電の
出力デバイスは,IGBT(Insulated Gate Bipolar Tran-
電流を N1 と D1 の両デバイスから供給する。
sistor)をトーテムポールで使用している。スキャンドラ
表示パネルが大きくなると予備放電や表示放電の放電電
イバ IC では,出力回路が 6 割を占めるため出力デバイス
流を多く必要とするため,デバイスのオン抵抗が問題とな
サイズがコストに大きく影響する。IGBT は小さな面積で
る。このデバイスのオン抵抗が高いと発熱量が多くなり,
も大電流を流せるため,スキャンドライバ IC の出力デバ
温度上昇によるデバイス特性の低下,またそれに伴う表示
イスとして最適である。今回は図3および表1に示すよう
品位の低下を招くことになる。N1 の IGBT と D1 のダイ
に,従来より小型化し,従来よりさらに駆動能力を向上さ
オードのオン抵抗を比較すると,D1 のダイオードのオン
せた第三世代の SOI-IGBT デバイスを開発した。
抵抗が 1.4 V/400 mA であるのに対して,N1 の IGBT は
6.0 V/400 mA と高い。N1 の IGBT は,スキャン期間とサ
ステイン期間ともに動作することから,N1 の IGBT のオ
3.2 回路技術
図 4 にスキャンドライバ IC の出力段回路を示す。n
ン抵抗が発熱の影響に対して支配的である。よって,N1
チャネルの IGBT がトーテムポール出力として接続されて
の IGBT デバイスが高い駆動能力を出せるかがスキャンド
いる。ハイサイド側の IGBT(図の N2)は,レベルシフ
ライバ IC 開発の鍵となる。
タによって制御されるが,IGBT のゲートは 5.5 V で駆動
するため,5.5 V のツェナーダイオードをゲート - ソース
3.3 IGBT のゲート制御技術
IGBT は,小さな面積で多くの電流が取れるようにデバ
間に入れて保護している。
次に出力段回路の動作について簡単に説明する。
(1) スキャン期間
イスの電流密度を上げると,安全動作領域が狭くなるため,
予備放電や表示放電時に異常放電が起き過負荷短絡状態と
なると,デバイスが安全動作領域を超えデバイス破壊に至
る。
図3 IGBT デバイス比較
また,出力端子間に金属性のくずが付着して,予期せぬ
過負荷状態に陥った場合も同様に,デバイスが安全動作領
域を超えデバイス破壊に至る。
面積比率90 %
一方,安全動作領域を広げようとして電流密度を下げる
とデバイス面積が大きくなり,コスト的に高くなるという
電流密度と安全動作領域との間にはトレードオフの関係が
存在する。
この電流密度と安全動作領域のトレードオフの問題を解
決するため,N1 の IGBT のゲート電圧を出力の動作タイ
図4 出力回路動作図
N2(IGBT)
従来の第二世代IGBT
今回の第三世代IGBT
アドレス期間時
電流経路
レベルシフタ
(ツェナー
ダイオード)
表1 FD3284Fの特性
項 目
従来品
FD3284F
最大電源電圧(ロジック)
7.0 V
7.0 V
最 大 電 源 電 圧 (高圧)
165 V
165 V
動 作 電 圧 (ロジック)
5.0 V
5.0 V
30∼130 V
30∼130 V
ド ラ イ バ 出 力 電 流
−200 mA/ +1,000 mA
−200 mA/ +1,500 mA
ダイオード出力電流
−1,000 mA/ +1,000 mA
−1,200 mA/ +1,500 mA
動
作
電
圧
(高圧)
サステイン
期間時電流経路
N1(IGBT)
ゲート
コントローラ
D1
(ダイオード)
347(41)
特
集
1
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図5 アドレス期間予備放電動作
図7 FD3284F のブロック図
7.0 V
OC1
N1 ゲート電圧
OC2
100 V
LE
CLK
N1 IGBT出力電圧
VDH1
0V
500 mA
1A
DA
N1 IGBT出力電流
スキャン動作
CLR
A/B
図6 FD3284F のローレベル出力オン抵抗(N1)
DB
CLK
LE
DATA Q1 Q1
L1
64
ビ Q2 Q2
ッ
64
ト Q3 Q3 ビ
シ
ッ
CLR
フ
ト
ト
ラ
レ
ッ
ジ
チ
A/B
ス
タ
DATA Q64 Q64 L64
セ
レ
ク
タ
DO1
∼
DO32
GND
VDH2
セ
レ
ク
タ
DO33
∼
DO64
GND
ゲート制御あり
1.6
VDL
1.4
出力電流(A)
特
集
1
4.4 V
GND VDH1 VDH2
1.2
1.0
ゲート制御なし
0.8
0.6
図8 FD3284F のパッケージ外観
0.4
0.2
0
0
5.0
10.0
裏面
(エクスポーズドパッド)
15.0
出力電圧(V)
ミングに合わせて制御する技術を開発した。図5にその動
作を示す。
スキャン動作時,電源電圧 VDL が 5 V のとき,出力を
立 ち 下 げ る に 十 分 な 電 流 だ け を 供 給 す る た め , N1 の
IGBT のゲートに 4.5 V 程度を印加して出力電圧を 100 V
表面
から 0 V に変化させ走査線を選択する。
表面
予備放電が始まり,より多くの電流が必要となると N1
の IGBT のゲート電圧を 7 V へ上げることによって,N1
の IGBT の電流供給能力を引き上げる。
予備放電が終わると,ゲート電圧を再び 4.5 V まで下げ
駆動能力を絞る。さらに,スキャン期間の 1.5 µs を過ぎる
と N1 の IGBT ゲートを徐々に下げ,やがてオフする。こ
れは,N1 の IGBT の正常動作期間以外で動作しないよう
4.1 特 徴
(1) 64 ビット双方向シフトレジスタ(15 MHz CLR 機能
付き)
制御することで,異常放電や端子間短絡などによる,予期
,7 V(ロジック部)
(2 ) 絶対最大電圧: 165 V(高耐圧部)
せぬ過負荷状態による破壊を防止することができる。
(3) 出力動作電圧: 30 ∼ 130 V
ゲート制御を取り入れた N1 の IGBT 特性を図6に示す。
従来の N1 の IGBT より 10 %面積が小さくても,ゲート
(4 ) ロジック電圧: 5 V
(5) ドライブ電流:−0.2 A/+1.5 A(ソース/シンク)
制御することによって,ゲート制御しない場合と比較して
(6 ) ダイオード電流:−1.2 A/+1.5 A(ソース/シンク)
出力電流能力を 2 倍にすることができた。
(7) 外形: TQFP 100 ピン(エクスポーズドパッド)
汎用 PDP スキャンドライバ IC への適用
4.2 回路構成
図7 にブロック図を示す。回路構成は,64 ビット双方
デバイスやゲート
向シフトレジスタ回路部,64 ビットラッチ回路部,デー
制御回路技術を適応した PDP スキャンドライバ IC FD
タセクタ回路部,トーテムポールの出力駆動回路部から構
3284F について以下に紹介する。
成される。
今回開発した,第三世代
348(42)
SOI-IGBT
富士時報
汎用 PDP スキャンドライバ IC
Vol.77 No.5 2004
スキャンドライバ IC 技術とスキャンドライバ IC FD3284F
4.3 従来 IC との特性比較
の特徴について説明した。
表 1 に従来のスキャンドライバ IC と FD3284F の主な
これからさらに激化する FPD 内の競争において,PDP
特性の違いを示す。ドライバの出力電流とダイオードの出
の高性能化と低価格に向けて,今後ともデバイス技術や回
力電流能力が大きく向上している。これは,FD3284F が
路技術・プロセス技術を進化させて市場の要求に応えてい
大型の PDP パネルでも駆動できるように対応しているた
く所存である。
めである。また,FD3284F のパッケージを 図8 に示す。
放熱に適したエクスポーズドパッドの TQFP100 ピンを採
用している。
参考文献
(1) 澄田仁志ほか.PDP スキャンドライバ IC 技術.富士時報.
vol.76, no3, 2003, p.169- 171.
あとがき
(2 ) 多田元ほか.PDP アドレスドライバ IC 技術.富士時報.
vol.76, no3, 2003, p.172- 174.
本稿では,汎用 PDP スキャンドライバ IC として,PDP
349(43)
特
集
1
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。