FEJ 77 05 0000 2004

昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 16 年 9 月 10 日発行(年 6 回 1,3,5,7,9,11 月の 10 日発行)富士時報 第 77 巻 第 5 号(通巻第 828 号)
昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 16 年 9 月 10 日発行(年 6 回 1,3,5,7,9,11 月の 10 日発行)富士時報 第 77 巻 第 5 号(通巻第 828 号)
ISSN 0367-3332
Sept. 2004
特集1 半導体
特集2 放射線システム
本誌は再生紙を使用しています。
雑誌コード 07797-9
定価 735 円(本体 700 円)
Sept. 2004
高精度,
高 信 頼 性で皆 様のお役に立ちます 。
原 子 力 施 設 および 放 射 線 利 用 施 設 の 安 全 管 理に 欠 か せない 各 種 放 射 線 測 定 機 器と
計 算 機システムの 開 発に積 極 的に貢 献しています 。
特集 1 半導体
特集 2 放射線システム
目 次
特集 1 半導体
307( 1 )
パワー半導体デバイスへの期待
松瀬 貢規
308( 2 )
半導体の現状と展望
金田 裕和 ・ 松田 昭憲
313( 7 )
U シリーズ IGBT モジュール
γ線の線量率を測定する検出器
宮下 秀仁
放射線の外部被ばく線量を測定する個人線量計
U シリーズ IGBT-IPM(600 V)
関川 貴善 ・ 遠 藤
317(11)
弘 ・ 脇本 博樹
新絶縁基板を用いた次世代 IGBT モジュール技術
321(15)
西村 芳孝 ・ 望月 英司 ・ 高橋 良和
パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術
326(20)
環
境
の
放
射
線
測
定
松本 良輔 ・ 加藤 博久
330(24)
ワンチップ技術による高圧センサ
上柳 勝道 ・ 篠 田
茂 ・ 芦野 仁泰
電源二次側整流器用ダイオード「低 I R-SBD シリーズ」
334(28)
掛布 光泰 ・ 一ノ瀬正樹
60 V 耐圧 MOSFET 内蔵型降圧同期整流電源 IC
藤井 優孝 ・ 米 田
342(36)
PDP 用中耐圧 MOSFET
原
表紙写真
338(32)
保
幸 仁 ・ 井上 正範
346(40)
汎用 PDP スキャンドライバ IC
小林 英登 ・ 多 田
元 ・ 澄田 仁志
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
350(44)
澄田 仁志
中性子の線量率を測定する検出器
特集 2 放射線システム
355(49)
放射線機器の可能性について
中村 尚司
356(50)
放射線システムの現状と展望
個
人
の
線
量
測
定
身体内部の汚染レベルを
測定するホールボディカウンタ
河野 悦雄
358(52)
個人線量モニタリングシステム
青 山
電子機器や電気機械,自動車などには,時
敬 ・ 上 田
高木 俊博 ・ 木 村
機能化がますます強く要求されてきている。
環境放射線測定器
それらの製品の進化には,半導体技術が無く
小林 裕信 ・ 酒 巻
の米といっても過言ではない。
富士電機は,産業,自動車,情報・電源分
野向けの半導体に注力し,パワーエレクトロ
ニクスを支えるパワー半導体,パワー IC な
どについて研究開発から生産販売までを一貫
して手がけている。
表紙写真では,IGBT モジュール,パワー
MOSFET,圧力センサ,電源 IC を示し,ま
た,それらが用いられる産業,自動車,情報
通信,家電分野をイメージ的に表現している。
364(58)
環境放射線モニタリングシステム
代の進展とともに省エネルギー,小型化,高
てはならないものであり,半導体は正に産業
治 ・ 河村 岳司
修 ・ 皆 越
敦
剛 ・ 増 井
馨
369(63)
373(67)
放射性物質汚染検査装置
長谷川 透 ・ 橋本 忠雄 ・ 橋 本
学
大規模放射線監視システム
380(74)
藤本 敏明 ・ 伊藤 勝人 ・ 中島 定雄
放射線管理計算機システム
385(79)
三保谷英一 ・ 田辺 健一 ・ 明石 倫雄
RI 利用施設向け放射線管理システム
放射性物質が放出されていないかを
調べるサンプルラック
身体表面の汚染レベルを測定する体表面モニタ
389(83)
佐藤 正昭 ・ 水野 裕元 ・ 籔谷 孝志
放射線応用機器
門野 浅雄
392(86)
富士の放射線管理システム
お問合せ先:富士電機システムズ株式会社 電力営業本部 放射線営業部 電話(03)5435-7007
特集 1 半導体
パワー半導体デバイスへの
期待
特
集
1
松瀬 貢規(まつせ こうき)
明治大学理工学部教授 工学博士
IEEE Fellow
清華大学客座教授
最近,太陽電池,燃料電池や風力発電など小形分散電源
パワー半導体デバイスの高性能大容量化,電力変換ドライ
の普及,電力自由化による電力託配,およびユビキタスコ
ブ制御技術の確立,さらに CPU,DSP,ASIC など制御用
ンピュータや IP 電話などが話題になっている。これらの
電子デバイスの高速・低価格化にともない,最新制御理論
背景には社会のニーズにすばやく応えている IGBT などの
を取り入れた実用化が可能になり飛躍的な発展を遂げてい
高耐圧パワー半導体デバイス,および MOSFET などの低
る。
耐圧デバイスの高度化技術がある。
今年の夏は異常に暑く,東京で 30 ℃を超える日が 40 日
また,最近の電力変換器の主回路方式では,マルチレベ
ルインバータ方式,マトリクスコンバータの開発実用化,
も続きエアコン稼動による電力消費量も過去に例を見ない
瞬時電圧低下時の運転継続機能の付加などがある。さらに,
ほど上がっている。世界では約 20 %に上昇している 1 次
クリーン電源と環境対応への要求として高力率・高調波低
エネルギーを電気エネルギーとして使う割合の電力化率が,
減機能つき電力変換器,制御機能向上にオートチューニン
現在 41 %を超えている我が国ではさらに高くなりそうだ。
グ技術,センサレスベクトル制御方式の導入などがある。
電力エネルギー有効利用を促進しているパワーエレクト
マトリクスコンバータは,①変換回路が単純でコンパクト,
ロニクス技術の進歩発展は,地球規模のエネルギー環境問
②任意の電圧と周波数の供給,③入力と出力電流の正弦波
題を解決し,ユビキタス情報社会のニーズに応える重要な
化,④任意の負荷に対して電源力率 100 %が可能,⑤電源
要素でもあり大きな期待が寄せられている。とくに,我が
への電力回生が可能であるなどの性質を持っているが残さ
国では電力の約 65 %が電動力に消費されており,パワー
れた課題も多い。しかし,最近注目されてきた理由は,回
エレクトロニクスの主要技術であるパワー半導体デバイス
路解析と制御技術の進展,過電圧保護回路の向上,逆阻止
は,電力変換装置や各種電源の小形・軽量,高性能化や製
IGBT などパワー半導体デバイスの性能向上などが挙げら
品の高品質化のためだけでなく高効率による省エネル
れ,現在 10 kVA 程度以下の中小容量の電力力行・回生が
ギー・省資源のためにも重要な技術である。
繰り返し行われる交流電動機駆動に実用化が始まってきた。
そのため,パワー半導体デバイスの開発はきわめて活発
低電圧エネルギー分野では,移動体通信や無線 LAN な
であり,高耐圧デバイスでは,6.5 kV/600 A の HVIGBT,
どの無線通信機器のマイクロ波パワー MOSFET が携帯端
4.5 kV/2 kA の縦形 MOSFET,6 kV/6 kA の GCT,さら
末信号処理用や基地局用のパワーアンプに適用されている。
に 4 kV のダイオードなどが次々に開発されており,低耐
また,携帯電話や PHS,ノート形パソコンの電池入力形
圧デバイスではディスクリートでもパワー IC でも MOS
携帯端末機器には同期整流用パワー MOSFET が使われて
FET を主体として開発実用化が進んでいる。また,Si パ
いる。0.5 V/200 A の低電圧大電流用電源や小形・軽量化
ワー半導体デバイスの限界性能を超える SiC デバイスは,
による携帯性の向上,動作時間の長時間化,マルチメディ
600 V/50 A のショットキーバリアダイオードが市販され
ヤ機能化には DT-MOSFET の適用も始まった。自動車用
ており,スイッチング電源分野を対象に実用化が始まると
電源システムの 42V 化も進んでおり,低耐圧パワー半導
共に,並列接続および直列接続による大容量化の研究も進
体デバイスの高性能化には大きな期待が寄せられている。
んでいる。
世界的に電力化率が上昇している状況で再生可能エネル
大電力応用の主要な技術分野のひとつは,電動機可変速
ギー利用の普及などエネルギー環境問題の解決に向けた高
駆動システムであるが,その応用は電力,産業,搬送,輸
耐圧パワー半導体デバイスの絶え間ない開発努力と,ユビ
送,家電や新エネルギー関連など多岐にわたっており,そ
キタス情報社会のニーズにすばやく応える低耐圧デバイス
れぞれの分野でパワー半導体デバイスに要求される機能と
の技術開発に社会的な要請と期待はますます高まっている。
性能もさまざまである。可変速駆動システムでは,高耐圧
307( 1 )
富士時報
Vol.77 No.5 2004
半導体の現状と展望
特
集
1
金田 裕和(かねだ ひろかず)
松田 昭憲(まつだ あきのり)
まえがき
図1 IGBT チップ技術のロードマップ
21 世紀になりブロードバンド・ユビキタス情報社会の
1985年
進展が大きな潮流となっている。これを支える重要な技術
第一
世代
の一つがエネルギーの供給と制御技術である。パワーエレ
クトロニクス技術は,まさにこれからの社会を支える重要
1990年
第二世代
(L,Fシ
リーズ)
1995年
2000年
第三世代
第四世代
(J,Nシ
(Sシ
リーズ) リーズ)
PT型(エピタキシャルウェーハ,
ライフタイムコントロール)
技術といっても過言ではない。
富士電機の半導体事業は,この「パワーエレクトロニク
2005年
第五世代
(T,Uシ
リーズ)
次世代
薄ウェーハ技術
微細加工技術
ス」をキーワードとして事業ドメインを定めて市場セグメ
ントを絞り込み,そこに富士電機独自の半導体技術を開発
トレンチ技術
して製品を提供するビジネスを展開してきている。富士電
NPT型(FZウェーハ)
機では,電池電源のような低電圧・小容量領域から数千
V ・数百 A を超える高電圧・大容量領域にわたって,そ
FS型(FZウェーハ)
れぞれのアプリケーションに応じて,IGBT(Insulated
Gate Bipolar Transistor)
,MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)
,ダイオード,制御 IC
(Integrated Circuit)などのパワーエレクトロニクス用半
トロールの最適化,および加工技術の微細化により特性の
改善を行ってきた。第四世代からは設計コンセプトを大き
導体デバイスを開発し製品展開している。
本稿では,主な用途分野ごとに,富士電機の半導体製品
く進化させ,それまでの PT(Punch Through)構造から
ライフタイムコントロールを行わないで輸送効率を上げる
とその技術の動向について概括する。
NPT(Non Punch Through)構造とすること,および
産業用半導体
100 µm 近くまで薄ウェーハ化した FZ(Floating Zone)
ウェーハを使用するプロセス技術革新を行ったことにより,
(1)
2.1 富士電機の IGBT
大幅な低損失化を実現した。
インバータに代表される産業用分野では,パワーエレク
さらに最新の第五世代においては,FS(Field Stop)構
トロニクスの根幹を支えてきた半導体デバイスは IGBT で
造を採用したことと,トレンチゲート構造により表面セル
あるといえる。IGBT は,1980 年代後半から従前のバイ
密度を大幅に増加させたことで,低損失化と高速スイッチ
ポーラトランジスタ以上の電圧・電流容量を有すること,
ング化の双方を達成している。図2,図3に 600 V および
高速スイッチングが可能なことから,パワーエレクトロニ
1,200 V IGBT を例としてデバイス構造の変遷を示す。
(2 )
クスの代表デバイスとして発展してきた。
富士電機では 1988 年から製品化を始め,以降一貫して
2.2 IGBT の高性能化
独自の最先端技術を開発して,低損失化と高速スイッチン
今後も IGBT は産業用の主流パワーデバイスとして進化
グ性能を実現した製品を市場に送り出してきた。図1に第
していくと考えられる。富士電機では IGBT の高性能化の
一世代から第五世代までの IGBT の製品経緯と主要なデバ
要請に対し,次の四つの観点から技術開発を精力的に進め
イス技術を示す。第一世代から第三世代においては,エピ
ている。第一のポイントは最先端のプロセス技術の適用で
タキシャルウェーハを用い,注入効率とライフタイムコン
ある。トレンチゲート構造などの微細表面構造は,オン電
308( 2 )
金田 裕和
松田 昭憲
MOSFET,IGBT を中心とするパ
電源 IC を中心とする CMOS パ
ワー半導体の製造技術に従事。現
ワー IC 技術の研究開発に従事。
在,富士電機デバイステクノロ
現在,富士電機デバイステクノロ
ジー
(株)
半導体事業本部半導体工
ジー
(株)
半導体事業本部半導体工
場長。
場副工場長。電気学会会員。
富士時報
半導体の現状と展望
Vol.77 No.5 2004
圧とターンオフ損失のトレードオフ特性を飛躍的に改善す
ることができる。IC で開発された技術との融合を進め,
自動車用半導体
さらに微細な加工プロセス技術を適用することにより特性
の改善を図っていく。第二のポイントは微細化を採用する
ことにより負荷短絡などの耐量低下を引き起こす問題と,
高速スイッチングにより顕在化してきているノイズ問題に
特
集
自動車の電子化は,エネルギー効率向上および低排出化, 1
3.1 富士電機の自動車用半導体
安全性・快適性向上などの目的から急速に進んでおり,こ
対するブレークスルーである。これに対しては,チップだ
れに伴って自動車への半導体使用量は拡大の一途をたどっ
けでなく,IGBT モジュールとして材料,配線構造,冷却
ている。自動車用半導体は,その使用環境の過酷さと安全
( 3)
(4 )
,
構造を含めた総合的な技術が必要になる。故障なし・ノイ
性の観点からきわめて高い信頼性が要求されると同時に,
ズフリーを究極の目標として,お客様にとってより使いや
小型・軽量・小面積・低コスト化が強く求められる。
いデバイスを実現・提供していくことを目指している。第
富士電機では自動車用半導体として,使用目的に合わせ
三のポイントは,次の世代に向けたパワーエレクトロニク
て各種の製品を提供してきている。エンジン系統向けには,
ス技術の革新に寄与できる新しいコンセプトのパワーデバ
吸気制御・大気補正用の圧力センサ,イグナイタ用スマー
イスを創出していくことである。例えば,これまでの電力
ト IGBT やハイブリッド IC,過早着火防止用高圧ダイ
変換方式をまったく新しく変革できる可能性を持つ逆阻止
オードなどを製品化している。シャーシ系統では,トラン
( 5)
IGBT についても積極的な研究開発を進めている。
スミッションコントロール,トラクションコントロール,
これにより,今後もより高度なパワーエレクトロニクス
ブレーキコントロール,サスペンションコントロール,パ
の進展を具現化するデバイスを提供していく計画である。
ワーステアリングなどの用途に,MOSFET,スマート
MOSFET,ダイオードを提供している。ボディー系統で
は,パワーウィンドウ,パワーロック,オートミラー,ワ
イパなどに富士電機の MOSFET,ダイオードが使用され
ている。
図2 600 V IGBT チップ断面構造の推移
3.2 自動車用半導体のインテリジェント化
E
G
GE
GE
GE
自動車用 MOSFET は,デバイス構造の革新と微細加工
p
n+
n−
n+
プロセス技術の進展により性能改善を行ってきた。図4に
n−
n+バッファ
n−
n−
C
Tシリーズ
NPT構造
C
Uシリーズ
トレンチ構造
n+バッファ
p+基板
富士電機の自動車用 MOSFET のロードマップを示す。パ
ワーステアリングやエアコンなど多くの用途に使用され,
p+基板
今後も用途が広がる可能性がある低耐圧クラス品では,ト
レンチゲートの採用と微細加工技術により,現在では単位
面積あたりのオン抵抗が 0.8 mΩと従来比約 40 %にまで改
善している。また,ハイブリッド車の DC-DC コンバータ
や電子バラスト用の高耐圧クラス品では,擬平面接合構造
C
Nシリーズ
の開発により,単位面積あたりのオン抵抗とスイッチング
C
Sシリーズ
微細化
(6 )
時間はともに従来の 1/2 以下と飛躍的に改善してきた。
一方,より高度な電子制御が求められるに従い電子制御
ユニットは大規模化・複雑化すると同時に,搭載スペース
の制約から温度環境は年々上昇しており,半導体デバイス
図3 1,200 V IGBT チップ断面構造の推移
に対してはより高い信頼性の達成がますます求められてい
E
G
G E
G E
る。富士電機ではこの要請に対し,従来の MOSFET と周
p
n+
辺保護回路,状態検出・出力回路,ドライブ回路をワン
n+
n−
n−
n−
のインテリジェント化を実現することで応えてきた。
n+バッファ
p+基板
チップに集積するスマート MOS 技術を開発し,デバイス
C
Sシリーズ
NPT構造
C
Uシリーズ
FSトレンチ構造
縦型構造のパワー MOSFET と制御回路を集積したイン
テリジェントデバイスでは,その分離構造が重要となる。
富士電機では安定した分離を最小のコストで実現できる技
術として,独自の自己分離型 CDMOS(Complementary
MOS/Double-diffused MOS)技術を開発し適用している。
図5,図6に代表的な構造を示す。自己分離方式では,出
C
Nシリーズ
力段となるパワー MOSFET と同一シリコン上に低・高耐
圧 MOSFET,保護用ツェナーダイオードなどが各デバイ
309( 3 )
富士時報
半導体の現状と展望
Vol.77 No.5 2004
図4 自動車用 MOSFET の技術推移
1985年
特
集
1
1990年
デバイス
技術
2000年
第二世代
(FAP-3Bシリーズ)
(FAP-2Aシリーズ)
第一世代
(FAP-3Aシリーズ)
(FAP-2シリーズ)
製品変遷
デザイン
ルール
1995年
2005年
第三世代
(FAP-T1シリーズ)
(SuperFAP-Gシリーズ)
トレンチゲート
擬平面接合 超接合
プレーナ型DMOS
6 m
性能指数
60 V
R
on A
R
on Q
gd
4 m
3.5 mΩ・cm2
800 mΩ・nC
600 V
R
on A
R
on Q
gd
3 m
1.5 m
2.3 mΩ・cm2
540 mΩ・nC
0.8 m
0.8 mΩ・cm2
175 mΩ・nC
1.4 mΩ・cm2
260 mΩ・nC
125 mΩ・cm2
15 Ω・nC
130 mΩ・cm2
20 Ω・nC
0.5 m
0.35 m
0.65 mΩ・cm2
125 mΩ・nC
76 mΩ・cm2
5.5 Ω・nC
0.5 mΩ・cm2
90 mΩ・nC
24 mΩ・cm2
3 Ω・nC
図5 自己分離方式パワー IC の断面構造(制御回路部)
低耐圧NMOS
n+
低耐圧PMOS
n+
p+
中耐圧NMOS
p+
n+
pウェル
中耐圧PMOS
n+
p+
pウェル
pツェナー
nツェナー
nオフセット
nウェル
ツェナーダイオード
p+
n+
pウェル
p+
pウェル
pツェナー
pエピタキシャル
p基板
図6 自己分離方式パワー IC の断面構造(パワー MOSFET 部)
情報機器・電源システム用半導体
出力段MOSFET
縦型パワー
ツェナーダイオード
n+
n+
p+ n+
pウェル
4.1 富士電機の情報機器・電源システム用半導体
IT 化の進展に伴い,パソコンをはじめとするディジタ
nウェル
ル家電・携帯情報機器が急速に普及している。省資源,省
nツェナー
エネルギーの観点から低消費電力化がますます重要となっ
nウェル
nツェナー
pエピタキシャル
ており,これらの機器に搭載される電源システムは高効
p基板
率・低損失かつ小型化・薄型化・軽量化が強く求められて
いる。富士電機では電源システム用半導体として,ACDC お よ び DC - DC 電 源 制 御 用 IC, MOSFET, SBD
(Schottky Barrier Diode)
,LLD(Low Loss fast recovery Diode)を製品系列化し提供してきた。
スの pn 接合により分離・集積される。この構造は誘電体
富 士 電 機 の IC は 高 耐 圧 パ ワ ー 技 術 , 高 精 度 CMOS
分離構造や接合分離構造などの他方式に比べ,既存の
(Complementary Metal Oxide Semiconductor)アナログ
MOSFET に容易に周辺回路を集積でき,かつ大幅に低コ
技術,CMOS ディジタル技術をコアとして,これらをワ
スト化ができる優位性がある。
ンチップに集積するアナログ・ディジタル・パワー混載技
今後,自動車用半導体では,さらに小型化が進展すると
術を特徴としている。比較的小容量の AC-DC 変換用には,
考えられる。富士電機では横型 MOSFET を用い多チャネ
700 V 耐圧のパワー MOSFET を集積したパワー IC によ
ル集積を実現できる統合 IC 技術,搭載面積をさらに低減
り,最小部品点数で小型の AC アダプタを構成できる製品
できるチップオンチップ技術や CSP(Chip Size Package)
を提供している。また,より大きな容量の AC-DC 変換に
技術を積極的に開発し市場要求に応えていく。また,重要
は,電圧モードおよび電流モード制御が可能な CMOS 制
性が高まっている環境対応として,これら半導体製品の鉛
御用 IC と MOSFET,SBD など,電源システムを構成す
( 7)
フリー化を先行して進めていく計画である。
310( 4 )
るのに必要な半導体デバイスをトータルに提供している。
富士時報
半導体の現状と展望
Vol.77 No.5 2004
DC-DC 変換用では,各種の携帯機器アプリケーション
とオン抵抗損失の双方を同時に低減する必要がある。さら
ごとに専用 IC 化が進んでいる。これらの機器ではシステ
に,スイッチング電源の小型化要求に応えるためスイッチ
ムブロックごとに異なる電源電圧を必要とすることが多く,
ング周波数は高周波化していくため,今後はターンオフ損
複数出力をワンチップに集積したマルチチャネル IC が多
失に代表されるスイッチング損失低減がますます重要にな
用されている。
ると考えられる。
また,情報機器用としては,今後の伸長が期待できる
富士電機では,このニーズに応えるため,独自の低損
FPD(Flat Panel Display)に向け,液晶バックライト制
失・超高速パワー MOSFET 技術を開発し「Super FAP-G
御 IC,PDP(Plasma Display Panel)ドライバ IC を製品
シリーズ」として製品化してきた。
「Super FAP-G」では
化している。
擬平面接合(Quasi-Plane-Junction)技術により,シリコ
ン限界値に対して 10 %以内のレベルにまで低オン抵抗化
(6 )
を達成している。
4.2 パワー IC 技術
携帯情報機器では電池が電源となる。また,画像表示や
富 士 電 機 の 「 Super FAP-G」 に よ り 高 耐 圧 パ ワ ー
高速なマイクロプロセッサが搭載されており,内部の回路
MOSFET の性能はほぼ理論限界近くに到達したといえる
によって必要な電源電圧が異なっている。したがって,携
が,SJ-MOSFET(Super Junction MOSFET)技術はシ
帯情報機器の電源では,多種類の電源を,高効率に,かつ
リコンを使いながらシリコン限界を超えるブレークスルー
最小面積・体積で実現できることが重要となる。
技術として注目されている。富士電機ではこの SJ-MOS
これに対し富士電機では,いち早く独自の横型 CDMOS
FET 技術についても精力的に研究開発を進めており,近
(10)
く製品化の計画である。
構造の開発に取り組み,複数のパワー MOSFET と CMO
S 回路をワンチップ化できるアナログ・ディジタル・パ
ワー混載技術を実現し,各種の製品を提供してきた。図7
に富士電機のパワー IC の技術ロードマップを示す。微細
加工技術の採用と独自の横型 DMOS 構造により,パワー
MOSFET のオン抵抗の低減と大規模な制御回路搭載を可
図8 トレンチ横型パワー MOSFET 集積パワー IC
能として,マルチチャネル化と高機能化に応えてきている。
今後さらにパワー MOSFET のオン抵抗低減と高速ス
デバイスピッチ
イッチング性能向上を目指したデバイス技術として,図8
電極
に示すようなシリコン上に三次元的にデバイスを形成する
技術や,受動部品を制御 IC と一体化して DC-DC コン
D
S
D
ゲート
ポリシリコン
酸化膜
バータの飛躍的な小型化を図る研究開発を進めており,近
n+
( 8)
( 9)
,
く製品への適用を図っていく予定である。
pベース
nウェル
4.3 MOSFET の低損失化
n+
AC-DC 変換を行うスイッチング電源では,パワー MO
拡張ドレイン
SFET のターンオフ損失とオン抵抗損失が全損失の大半を
占める。したがって,スイッチング電源の高効率化・低損
p基板
失化を実現するには,パワー MOSFET のターンオフ損失
図7 電源用パワー IC の技術推移
1985年
デバイス技術
1990年
1995年
2000年
2005年
バイポーラ
Bi-CDMOS(エピタキシャルウェーハ)
CDMOS(ノンエピタキシャルウェーハ)
トレンチ横型MOS
デザイン
ルール
性能指数
30 V
R
on A
4 m
2 m
1.5 m
300 mΩ・mm2
1 m
0.6 m
0.35 m
60 mΩ・mm2
20 mΩ・mm2
10 mΩ・mm2
311( 5 )
特
集
1
富士時報
半導体の現状と展望
Vol.77 No.5 2004
ceedings of ISPSD’02. 2002, p.281.
あとがき
(3) Otsuki, M. 1200 V FS- IGBT Module with Enhanced
Dynamic Clamping Capability. Proceedings of ISPSD’04.
特
集
1
富士電機は,
「パワーエレクトロニクス」をキーワード
2004, p.339- 342.
として,独自のパワーデバイス,IC 技術を開発し,顧客
(4 ) Nishimura, T. et al. New Generation Metal Base Free
と一体になってソリューション提案型のスマート化・イン
IGBT Module Structure with Low Thermal Resistance.
テリジェント化を実現した製品を開発し提供している。本
Proceeding of ISPSD’04. 2004, p.374- 350.
稿では富士電機の半導体の取組みについて,用途分野別に
(5) Naito, T. et al. 1200 V Reverse Blocking IGBT with
概括的に紹介した。それぞれの技術・製品の詳細について
Low Loss for Matrix Converter. Proceedings of ISPSD
は本特集号の各稿をご参照いただきたい。
’04. 2004, p.125- 128.
今後,ロボットやブロードバンドがますます個人の生活
(6 ) Kobayashi, T. et al. High-Voltage Power MOSFETs
に広く浸透した社会になることは確実視されており,それ
Reached Almost to the Silicon Limit. Proceedings of ISP
に伴いパワーエレクトロニクスの重要性はますます高まっ
てくる。富士電機ではこれからも,先進的で独自の半導体
技術を開発することにより,パワーエレクトロニクスの基
SD’01. 2001, p.435- 438.
(7) 小山正晃ほか.自動車用パワー半導体の鉛フリー化技術.
富士時報.vol.76, no.10, 2003, p.634- 637.
幹となる半導体デバイスを製品化していく。加えて,われ
(8) Fujishima, N. A Low On-resistance Trench Lateral
われは「Quality is our message」をポリシーに据え,将
Power MOSFET in 0.6 µm Smart Power Technology for
来にわたってお客様に確かな品質の製品を提供していく所
20- 30 V. International Electron Devices Meeting. 2002.
存である。
(9) Hayashi, Z. et al. High Efficiency DC- DC Converter
Chip Size Module with Integrated Soft Ferrite. Proceed-
参考文献
(1) 関康和.IGBT の開発動向.電気学会論文誌 C.vol.122- C,
no.6, 2002, p.174.
(2 ) Otsuki, M. et al. Investigation on the Short-Circuit Ca-
pability of 1200 V Trench Gate Field Stop IGBTs. Pro-
312( 6 )
ings of 2003 IEEE International Conference Symposium.
2003.
(10) 大西泰彦,藤平龍彦.シリコン超接合デバイス.電子情報
通信学会論文誌 C.vol. J85- C, no.11, 2002, p.968- 977.
富士時報
Vol.77 No.5 2004
U シリーズ IGBT モジュール
特
集
1
宮下 秀仁(みやした しゅうじ)
2.2 NPT-IGBT
まえがき
NPT( Non Punch Through) -IGBT と PT( Punch
汎用インバータや無停電電源装置(UPS)などの電力変
換機器には,常に高効率化・小型化・低価格化・低騒音化
Through) -IGBT の単位セル構造の比較を 図 2 に示す。
NPT-IGBT は以下のような特徴を持っている。
が要求されており,そのインバータ回路に適用される電力
用半導体素子にも高性能化・低価格化・高信頼性が求めら
図1 プレーナ型 IGBT とトレンチ型 IGBT の構造比較
れている。近年,電力用半導体素子としてはその低損失性,
駆動回路の設計の容易さから IGBT(Insulated Gate Bipo-
G
E
G
E
lar Transistor)が最も普及している製品であり,富士電
n+
機においても 1988 年の製品化以来,さらなる特性改善や
p
p
高信頼性化が進められてきた。
R-ch
本稿では,第四世代 IGBT モジュール(S シリーズ)に
対して大幅に特性改善された第五世代 IGBT モジュール
(U シリーズ)について,その素子技術と製品系列を紹介
n+
R-acc
n−
R-JFET
R-ch
n−
R-drift
R-acc
R-drift
する。
V-pn
V-pn
p+
新型 IGBT の特徴
p+
C
C
(a)プレーナ型IGBT
(b)トレンチ型IGBT
2.1 トレンチゲート IGBT
富 士 電 機で は ト レ ン チ型の パ ワ ー MOSFET(Metal
Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を生産し
図2 PT-IGBT と NPT-IGBT の構造比較
ており,高い信頼性を保証するための設計とプロセス技術
G
が適用されている。この技術を IGBT に応用したのがトレ
ンチ型 IGBT である。
E
G
p
図1にプレーナ型とトレンチ型のセル構造の比較を示す。
n+ n−
p
n+
トレンチ型 IGBT では,セル密度を大幅に増加させられる
また,プレーナ型 IGBT 特有のチャネルに挟まれた JFET
といわれる部分がトレンチ型 IGBT では存在しないのでこ
の部分の電圧降下を完全に削減でき,結果としてオン電圧
FZ-Si
ウェーハ
使用
n+バッファ
のでチャネル部の電圧降下を最低限に抑えることができる。
エピタキ
シャルSi
ウェーハ
使用
E
p+
n + n−
p+
100 m
n+
C
350 m
を大幅に低減することができる。
一方でトレンチ型 IGBT ではチャネル密度が高いため,
一般的には短絡耐量が低いことが短所となるが,今回富士
電機が開発した構造では,MOS の総チャネル長を最適化
することにより,オン電圧を損なうことなく高い短絡耐量
C
(a)PT-IGBT
(b)NPT-IGBT
を実現している。
宮下 秀仁
IGBT モジュールの開発・設計お
よび応用技術の開発に従事。現在,
富士日立パワーセミコンダクタ
(株)
松本事業所開発設計部チーム
リーダー。電子情報通信学会会員。
313( 7 )
富士時報
U シリーズ IGBT モジュール
Vol.77 No.5 2004
(1) コレクタ側からの注入が抑制されるのでライフタイム
性がなく,ターンオフ波形は高温でもほとんど変わらない
コントロールが不要であり,高温でもスイッチング損失
のでターンオフ損失はほとんど増加しない。以上から
が増加しない。
NPT-IGBT を使用することによりオン電圧とターンオフ
特 (2) 出力特性の温度依存性が正(高温でオン電圧が増加)
集
であるので並列使用に有利である。
1
(3) 負荷短絡耐量などの破壊耐量が高い。
損失のトレードオフが改善され,これらの低減が同時に達
成された。
また,NPT-IGBT は n−ドリフト層が厚く,負荷短絡時
(4 ) コストメリットのある FZ(Floating Zone)ウェーハ
にはこの厚い層で電圧を支えるので温度上昇が緩和され,
を使用でき,低結晶欠陥であるので信頼性も高い。
結果として高い短絡耐量を得ることができる。ウェーハの
また,NPT-IGBT ではコレクタ
薄い 600 V 耐圧品でも 22 µs の耐量が達成されている。
-
エミッタ(C-E)間
耐圧を確保しつつ,オン電圧を低くすることが重要である。
オン電圧はウェーハが薄いほど低くなるが,C-E 間に最
2.3 フィールドストップ(FS)構造
大定格電圧が印加されても空乏層端が広がりきらない厚さ
図 4 に NPT - IGBT と FS - IGBT の 断 面 図 を 示 す 。
とする必要があり,これが最小値となる。したがって,
NPT-IGBT ではオフ時に空乏層がコレクタ側に到達しな
C- E
間耐圧の低い素子ではその最適厚さは薄くなり,加
いように n−ドリフト層を厚くする必要があるが,FS-IG
工は困難となる。600 V 耐圧 IGBT チップにこの NPT 構
BT では空乏層を止めるための FS 層が形成されているた
造を適用するにあたり,富士電機はウェーハ仕様の見直し
め,NPT に対してドリフト層の厚さを薄くでき,オン電
と,バックグラインド加工技術の精度向上を図り,最適な
圧を低減することができる。また FS-IGBT ではドリフト
ウェーハ厚の製造を量産技術として確立し,オン電圧の低
層の厚さが薄いので過剰キャリヤが少なく,空乏層が伸び
減を達成した。
切った状態での中性領域の残り幅が少ないため,ターンオ
ウェーハ厚を薄くしたさらなる効果として,ターンオフ
フ損失を低減することができる。1,200 V と 1,700 V 耐圧品
損失の低減が挙げられる。ターンオフ波形の比較例を図3
にこの FS 構造を適用することにより,オン電圧とターン
に示すが,PT 型素子ではコレクタ側からの注入が多く,
オフ損失のトレードオフが改善され,これらの低減が同時
ターンオフ時のキャリヤの再結合を促す目的のためライフ
に達成された。
タイムコントロールを実施している。この効果は高温では
緩和してしまうため,電流下降時間が長くなってターンオ
新型 FWD の特徴
フ損失が増加する傾向がある。一方,NPT-IGBT ではラ
イフタイムコントロールを実施していないのでその温度特
インバータ回路に適用される IGBT モジュールには通常
IGBT とともに FWD(Free Wheeling Diode)も内蔵さ
れるが,IGBT の改善に伴いこの FWD にも改善がなされ
図3 ターンオフ波形の比較
るべきである。オン電圧による定常損失や逆回復損失の低
600 V/50 A素子
減はもちろん,特に IGBT の高速化に対する FWD のソフ
トリカバリー化は,サージ電圧の発生を抑制し,IGBT へ
VDC=300 V
VCE:100 V/div
VGE=±15 V
R G=51 Ω
I c =50 A
T j =125 ℃
のダメージ,周辺回路の誤動作などを抑制するうえで重要
な素子特性となる。富士電機ではこの FWD に使用する
ウェーハの仕様を最適化し,アノード側からの注入を抑制
する構造を採用し,さらに最適なライフタイムコントロー
ルの実施により,よりソフトなリカバリー特性を持つ新型
I c:25 A/div
0
t:200 ns/div
図4 NPT-IGBT と FS-IGBT の構造比較
(a)PT-IGBT
G
E
G
E
600 V/50 A素子
VDC=300 V
VCE:100 V/div
p
VGE=±15 V
n+
R G=51 Ω
p
n+
n+
n+
I c =50 A
n−
T j =125 ℃
n−
I c:25 A/div
0
FS層
t:200 ns/div
(b)NPT-IGBT
314( 8 )
p+
C
(a)NPT-IGBT
p+
C
(b)FS-IGBT
富士時報
U シリーズ IGBT モジュール
Vol.77 No.5 2004
図5 従来型 FWD と新型 FWD の構造比較
アノード
p
p
p
n−
1,200 V/50 A素子
p
n−
n+
n+
カソード
カソード
(a)従来型FWD
(b)新型FWD
特
集
1
12
ターンオフ損失 E off(mJ/pulse)
アノード
図7 オン電圧とターンオフ損失トレードオフ特性
10
T j=125 ℃
V DC=600 V
I c=50 A
R G=推奨値
V GE=±15 V
6
4
第五世代
Uシリーズ/
FSトレンチ
第四世代
Sシリーズ
Pシリーズ
2
0
1.4
図6 順方向電圧と逆回復損失のトレードオフ特性
Nシリーズ
8
1.6
1.8
2.0
2.2
2.4
2.6
2.8
3.0
3.2
3.4
オン電圧〔T j=125 ℃〕(V)
逆回復損失(mJ/pulse)
15
1,200 V/150 A FWDs
T j=125 ℃
図8 U シリーズ IGBT モジュールのパッケージ例
10
従来品
新型品
5
0
1.4
1.6
1.8
2.0
2.2
2.4
順方向電圧(V)
の FWD を開発した。
図5にそのセル構造の比較を示す。新型 FWD は,この
構造によりキャリヤの注入を抑制し,逆回復時のピーク電
シリーズ IGBT モジュールの開発を完了し,系列化した。
流が減少され,ソフトリカバリーのみならず逆回復損失も
図7にそのトレードオフ特性の 1,200 V 品の例を示す。オ
低減されている。図6に順方向電圧と逆回復損失のトレー
ン電圧とターンオフ損失が同時に低減され,トレードオフ
ドオフ特性の例を示す。従来品よりも逆回復損失が改善さ
特性が第四世代品に比べて飛躍的に改善されており,イン
れた良好な結果が得られている。また,順方向電圧は高温
バータ回路に適用された場合に約 20 %の素子発生損失の
で約 1.6 V(Tj = 125 ℃)となるように設計されており,
低減が期待できる。 図 8 に U シリーズ IGBT モジュール
従来品よりも低減されているため,インバータ回路適用時
のパッケージの代表例と, 表 1 にその系列内容を示す。
のオン電圧損失も低減可能となる。さらに,IGBT と同様
600 V, 1,200 V, 1,700 V の 3 種 類 の 耐 圧 系 列 に , 10 ∼
に正の温度特性が得られているため,並列接続時の電流ア
3,600 A という広範囲な電流容量,および多彩なパッケー
ンバランスが緩和されるので,大容量インバータ回路など
ジが準備されており,さまざまな電力変換機器に適用可能
への並列接続適用が容易となる。
となっている。また,今回の製品化において,ベクトル制
御インバータ用としてシャント抵抗を内蔵したモジュール
U シリーズ IGBT モジュールの系列
も系列化した。そのパッケージ外形と等価回路を図9に示
す。三相インバータブリッジの AC 出力端子にシャント抵
富士電機は,前述の IGBT 技術と FWD 技術を組み合わ
抗とその電圧検出端子を設けたものである。モータ出力電
せ , ま た パ ワ ー サ イ ク ル 耐 量 の 高 い 第 四 世 代 IGBT モ
流を外部電流検出器にて検知制御する従来の方式を電圧検
ジュールのパッケージ技術を引き続き適用し,第四世代 S
出で代替することが可能で,インバータ装置の簡素化・小
シリーズ IGBT モジュールに対し大幅に特性改善された U
型化が可能となる。
315( 9 )
富士時報
U シリーズ IGBT モジュール
Vol.77 No.5 2004
表1 UシリーズIGBTモジュールの系列
V CES
定格
特
集
1
I C 定格
10 A
パッ
(インバータ
ケージ
定格)
15 A
小容量
PIM
20 A
30 A
50 A
75 A
(5.5 kW)
100 A
150 A
(11 kW)
200 A
300 A
(22 kW)
400 A
600 A
800 A 1,200A 1,600A 2,400A 3,600A
(40 kW)
6 in1
EP2
PIM
EP3
600 V
NewPC3
6 in1
NewPC2
2 in1
M232
M233
M247
400 A
V CES
定格
10 A
I C 定格
パッ
ケージ (インバータ
定格)
15 A
小容量
PIM
25 A
35 A
(5.5 kW)
50 A
75 A
(11 kW)
100 A
150 A
(22 kW)
200 A
300 A
(40 kW)
450 A
600 A
800 A 1,200A 1,600A 2,400A 3,600A
(75 kW)
6 in1
EP2
PIM
EP3
NewPC2
6 in1
NewPC3
EconoPack-Plus*(6 in1)
1,200 V
M232
2 in1/
1 in1
M233
M234
M235
PIM/
6 in1
1,700 V
M247
M138
M249
M127
M142
M143
M142
M143
NewPC3
(シャントR入り)
ベクトル制御用
EconoPack-Plus(6 in1)
6 in1
2 in1
1in1
M248
汎用インバータ用
高機能インバータ用
*EconoPack-Plus:Eupec GmbH. Warstein の登録商標
図9 シャント抵抗内蔵 6 個組モジュール
あとがき
122
U シリーズ IGBT モジュールの IGBT,FWD 技術とそ
110
30
27 26
25 24
21
の特徴,および製品系列について紹介した。本製品は最新
20
の半導体技術とパッケージ技術を駆使し,より低損失な素
14 15
33 32
2
3
組み,さらなる技術のレベルアップを図るとともにパワー
4
5
6
7
8
9
エレクトロニクスの発展に貢献していく所存である。
10 11
参考文献
17
20.5
1
に大きく貢献できるものと確信する。
富士電機では今後も素子の高性能化・高信頼性化に取り
3.81
50
62
子となっており,インバータ回路装置の小型化・低損失化
(1) Laska,T. et al. The Field Stop IGBT (FS IGBT)A
New Power Device Concept with a Great Improvement
31,32
1
15,16
27
28 5
2
R1
3
4
33,34
6
U
29,30
7
8
21
22 9
17
18
10
V
R2 23,24
11
12
R3
W
19,20
Potential. Proc. 12th ISPSD. 2000, p.355- 358.
.
(2 ) 百田聖自ほか.T, U シリーズ IGBT モジュール(600 V)
富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.559- 562.
.
(3) 小野澤勇一ほか.U シリーズ IGBT モジュール(1,200 V)
13,14
富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.563- 566.
.富
(4 ) 星保幸ほか.U シリーズ IGBT モジュール(1,700 V)
士時報.vol.75, no.10, 2002, p.567- 571.
316(10)
富士時報
Vol.77 No.5 2004
U シリーズ IGBT-IPM(600 V)
関川 貴善(せきがわ きよし)
遠藤 弘(えんどう ひろし)
特
集
1
脇本 博樹(わきもと ひろき)
まえがき
今回,さらなる低損失化を目的に,トレンチ NPT 構造
を適用した IGBT の開発により定常損失の低減を図るとと
IPM(Intelligent Power Module)は駆動回路,保護回
もに,新構造 FWD(Free Wheeling Diode)の開発を行
路などの機能をモジュールに組み込んだインテリジェント
いスイッチング損失とノイズのトレードオフの改善を行っ
型パワーデバイスであり,モータ駆動(汎用インバータ,
た。この二つの技術を適用した U シリーズ IGBT-IPM
(U-IPM)の開発を行ったので紹介する。
サーボ,エアコン,エレベータなど)や電源(UPS,太陽
光発電など)などに広く適用されている。
U-IPM の開発コンセプトと製品系列
これらの装置では小型化,高効率化,低ノイズ化,長寿
命化,高信頼性化などが要求されている。
U-IPM の開発コンセプトは,以下のとおりである。
このような要求に対し富士電機では,1997 年に業界で
(1) 低損失化の実現
初めて IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)チップ
過熱保護機能を内蔵するとともに,オールシリコン化によ
新型パワー素子の開発とドライブ能力の最適化により低
る部品点数の削減により高信頼性化を目的とした R-IPM
損失化を実現し,装置の高キャリヤ周波数化による制御性
シリーズを開発した。
能向上に寄与する。また,同一キャリヤ周波数動作時にお
2002 年 に は , IGBT チ ッ プ 構 造 を こ れ ま で の PT
いては,装置の高出力化が可能となる。
(Punch Through)からキャリヤライフタイムコントロー
(2 ) 従来品のパッケージ継承
ルが不要な NPT(Non Punch Through)に変更すること
従来品と同一パッケージであることにより,装置設計を
により高温時のターンオフ損失を低減し,なおかつプレー
変更せず,IPM の置換えにより装置性能のアップが可能
ナゲートの微細化と薄ウェーハプロセス技術の確立を行い,
となる。
(1)
定常損失の低減を実現した R-IPM3 シリーズを開発した。
表1に 600 V 系 U-IPM の製品系列,特性および内蔵機
表1 U-IPMの製品系列,特性および内蔵機能
インバータ部
素子数
6 in1
型 式
V DC
V CES
(V) (V)
ブレーキ部
IC
PC
IC
PC
(A) (W) (A) (W)
内蔵機能
上下アーム共通
上アーム
パッケージ
型式
下アーム
Dr
UV
TjOH
OC
ALM
OC
ALM
TcOH
6MBP 20RUA060
20
84
ー
ー
○
○
○
×
×
○
○
×
P619
6MBP 50RUA060
50
176
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
P610
80
283
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
P610
6MBP100RUA060
100
360
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
P611
6MBP160RUA060
160
431
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
P611
7MBP 50RUA060
50
176
30
120
○
○
○
○
×
○
○
○
P610
7MBP 80RUA060
80
283
50
176
○
○
○
○
×
○
○
○
P610
7MBP100RUA060
100
360
50
176
○
○
○
○
×
○
○
○
P611
7MBP160RUA060
160
431
50
176
○
○
○
○
×
○
○
○
P611
6MBP 80RUA060
7 in1
450
450
600
600
Dr:IGBT 駆動回路,UV:制御電源不足電圧保護,TjOH:素子過熱保護,OC:過電流保護,ALM:アラーム出力,TcOH:ケース温度
※6MBP20RUA060は,Nラインでシャント抵抗による過電流検出方式を採用
関川 貴善
遠藤 弘
脇本 博樹
インテリジェントパワーモジュー
インテリジェントパワーモジュー
パワーデバイスの研究・開発に従
ルの開発に従事。現在,富士日立
ルの開発に従事。現在,富士日立
事。現在,富士電機アドバンスト
パワーセミコンダクタ
(株)
松本事
パワーセミコンダクタ
(株)
松本事
テクノロジー
(株)
デバイス技術研
業所開発設計部。
業所開発設計部。
究所。電気学会会員。
317(11)
富士時報
U シリーズ IGBT-IPM(600 V)
Vol.77 No.5 2004
図1 U-IPM の外観
表2 IGBT技術の推移
R-IPM
R-IPM3
U-IPM
N-IGBT
T-IGBT
U-IGBT
IGBT技術
特
集
1
ウェーハ厚
P610
約350
構 造
約100
m
m
NPT
PT
ゲート構造
P619
FZ
エピタキシャル
ウェーハ
プレーナ
トレンチ
あり
なし
キャリヤ注入
高注入
低注入
輸送効率
低効率
高効率
ライフタイムコントロール
P611
図3 600 V IGBT チップ断面の推移
図2 プレーナ型 IGBT とトレンチ型 IGBT の構造比較
G
エミッタ
電極
n+
n+
ソース
ゲート
酸化膜
p−
チャネル
V-pn
n−シリコン
基盤
p+ 層
V-pn
R-drift R-acc
R-ch
R-JFET
R-drift
n+
ソース
p+基板
n−
n−
p
p
C
C
R-IPM3
U-IPM
プレーナNPT構造 トレンチNPT構造
表面微細化
C
R-IPM
プレーナPT構造
コレクタ
電極
(a)プレーナ型
n+
n+バッファ
ゲート電極
p−
チャネル
R-acc
p
GE
G E
n−
層間絶縁膜
R-ch
E
(b)トレンチ型
能を示す。U-IPM は従来の R-IPM シリーズと内蔵機能,
ロールなどの新設計により,逆回復時のピーク電流の低減,
パッケージで互換性を維持し,定格電流は 6 個組で 20 ∼
発生損失の低減とともにソフトリカバリーな特性を実現し
160 A,7 個組(ブレーキ用 IGBT 内蔵)で 50 ∼ 160 A を
た。
ラインアップしている。図1にパッケージの外観を示す。
U-IPM の損失
パワー素子の特徴
4.1 発生損失比較
パワー素子としては第五世代である U シリーズ IGBT
IPM の新製品に対する市場要求として低損失化がある。
(U-IGBT)を適用している。U-IGBT はこれまでに培っ
これは,①装置の制御性向上を狙った高キャリヤ周波数化,
た FZ(Floating Zone)ウェーハ,薄ウェーハプロセス技
②同じキャリヤ周波数での出力電流アップの二つを実現さ
術,キャリヤの注入抑制,輸送効率の向上を基本設計とし
せることを目的としている。ここでは,既存機種と U-
たうえで,トレンチゲート技術を融合させている。
IPM の発生損失について述べる。
図2は従来のプレーナ型 IGBT とトレンチ型 IGBT の構
図4に U-IPM と,既存素子である R-IPM,R-IPM3 を
(2 )
造を比較したものである。トレンチゲートを採用したこと
キャリヤ周波数 4,8,16 kHz,電流 50 Arms(1/3 定格)
により,表面セル密度の増加によるチャネル部の電圧降下
で使用した場合の損失比較を示す。この図から分かるよう
(R-ch)の低減,およびプレーナ型デバイス特有の JFET
に,今回開発した U-IPM は,トータル損失において対
部分(R-JFET)がなくなることよる電圧降下低減によっ
R-IPM で約 22 ∼ 28 %,対 R-IPM3 で約 11 ∼ 12 %の低
て低オン電圧が実現した。また,短絡耐量の確保は表面構
損失化を実現している。特に,R-IPM との比較で見た場
造設計の最適化により実現している。 図3 は U-IGBT と
合では,R-IPM をキャリヤ周波数 4 kHz で使用した場合
( 3)
従来の IGBT の断面構造の推移を示したものであり,表2
の損失よりも,U-IPM をキャリヤ周波数 8 kHz で使用し
は適用技術を比較したものである。
た場合の損失の方が低くできるため,同一パッケージを使
FWD は U-IGBT に合わせて,ウェーハ仕様の最適化,
用している U-IPM へ置き換えることにより,キャリヤ周
アノード側からの注入抑制,最適なライフタイムコント
波数を 4 kHz から 8 kHz にすることが可能である。また,
318(12)
富士時報
U シリーズ IGBT-IPM(600 V)
Vol.77 No.5 2004
図4 シリーズごとの発生損失(U-IPM,R-IPM3,R-IPM)
100
80
=125
℃, T
E d =300 V
j
V
cc =15 V, I o =50 Arms
力率=0.85,λ =1
R-IPM:6MBP150RA060
R-IPM3:6MBP150RTB060
U-IPM:6MBP160RUA060
発生損失(W)
5.37
4.12
71.67
P rr
Pf
P off
P on
P sat
60
6.38
27.9
63.08
4.89
2.68
4.12
1.34
4.12
40.55
7.01
3.90
3.03
14.0
1.59
6.13
3.89
59.80
45.50
40
特
集
1
88.79
1.22
3.89
5.76
50.90
3.18
3.90
44.57
12.3
15.3
2.44
3.89
6.04
35.37
3.89
12.1
24.7
23.2
7.68
11.6
17.0
3.85
8.46
4.21
20
26.9
26.3
R-IPM
R-IPM3
f c =4 kHz
22.2
26.7
26.2
R-IPM
R-IPM3
f c =8 kHz
22.1
26.7
26.1
R-IPM
R-IPM3
f c =16 kHz
22.0
0
U-IPM
図5 電流と発生損失(U-IPM,R-IPM3,R-IPM)
U-IPM
図6 I C-VCE(sat)特性(U-IPM,R-IPM3,R-IPM)
150
150
=125
℃, T
E d =300 V
j
f =4
kHz, V cc =15 V
c
力率=0.85,λ =1
R-IPM:6MBP150RA060
R-IPM3:6MBP150RTB060
U-IPM:6MBP160RUA060
100
=125
℃,
T
j
V
cc =15 V
IPM端子での V CE(sat)
R-IPM
R-IPM3
R-IPM
R-IPM3
100
U-IPM
U-IPM
I C(A)
発生損失(W)
U-IPM
50
50
53 A
58 A
66 A
0
0
20
40
60
80
I o(Arms)
100
と同等損失とした場合,U-IPM
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
V CE(sat)
(V)
図 5 に示した fc = 4 kHz における電流と発生損失の関係
では,R-IPM
0
120
は
R-IPM
とが分かる。これは,
章で紹介したトレンチ型 IGBT に
よる VCE(sat)低減効果である。
に対して 24.5 %,R- IPM3 に対して 13.7 %の出力電流
アップが可能である。
4.3 ターンオン損失と放射ノイズ
今回の損失低減の改良ポイントは,全体損失の 50 %以
図7にターンオン時の電流と電圧の模式図を示す。この
上を占める定常損失と,R-IPM3 のスイッチング損失の中
図のように一般的には,dv/dt を大きくすることにより損
に占める割合の大きいターンオン損失の低減である。次に,
失の低減ができ,di/dt を小さくすることにより放射ノイ
このおのおのの低減に関して述べる。
ズの低減ができる。しかし,ターンオン動作を一般的な手
法であるゲート抵抗のみで制御した場合,表3のようなト
レードオフの関係となってしまい両立化することは困難で
4.2 定常損失低減
図 6 に U-IPM と R-IPM3 の IC-VCE( sat) 特性を示す。
ある。
この図から,U-IPM は IC = 150 A において対 R-IPM で
今回,U-IPM では,ゲート抵抗を小さくし di/dt を大
で 0.55 V VCE(sat)が低くなっているこ
きくした際に増える放射ノイズを下記の二つの技術の適用
0.45 V,対
R-IPM3
319(13)
富士時報
U シリーズ IGBT-IPM(600 V)
Vol.77 No.5 2004
図7 ターンオン波形と損失,放射ノイズの関係
により抑え,放射ノイズを増やすことなく di/dt を大きく
してターンオン損失を低減することができた。
(1) ソフトリカバリー化した新規 FWD の適用により,
dv/dt を抑制した。
V GE
(2 ) ゲート抵抗が小さくなったことにより大きくなった
V CE
di/dt をゲート - エミッタ間の容量を最適化することに
より dv/dt を小さくすることなく最適化した。
IC
低ノイズ
この適用により,全電流領域を同一のゲート抵抗で制御
しても, 図 8 のように放射ノイズを R-IPM3 と同等レベ
ルで維持し,さらなる低損失化を行うことができた。この
ため,製品全体の発生損失は,電流に対して直線的になっ
ており,実使用するにあたり容易に発生損失・温度上昇の
低損失
推定を行うことが可能である。
t1
t2
t 1 :電流ピークまで
t 2 :電流ピークから電圧ゼロまで
あとがき
di /dt を小さくして t 1が長くなる→低ノイズ
dv /dt を大きくして t 2が短くなる→低損失
NPT トレンチ構造である U シリーズ IGBT チップを用
いた 600 V U-IPM の紹介を行った。この U-IPM は,さ
らなる低損失化を必要とする市場において十分に適用でき
るものと考える。今後も富士電機では,市場要求を満足す
表3 ゲート抵抗とターンオン特性
特 性
ゲート抵抗
RG
る新しい IPM の開発を行っていく所存である。
ターンオン
di /dt
ターンオン
dv /dt
損失
大
小さい
小さい
増える
減る
小
大きい
大きい
減る
増える
区 分
ノイズ
参考文献
(1) 渡辺学ほか.インテリジェントパワーモジュール「R-
IPM3, Econo IPM シ リ ー ズ 」. 富 士 時 報 . vol.75, no.10,
図8 放射ノイズ
2002, p.572- 576.
.
(2 ) 百田聖自ほか.T, U シリーズ IGBT モジュール(600 V)
測定条件:サーボアンプ-アンテナ間=2 m,垂直方向,励磁動作
100
富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.559- 562.
(3) 重兼寿夫ほか.パワー半導体の現状と動向.富士時報.
ノイズレベル(dB)
vol.75, no.10, 2002, p.551- 554.
50
30
80
130
周波数(MHz)
(a)R-IPM3(150RTB)
100
ノイズレベル(dB)
特
集
1
50
30
80
周波数(MHz)
(b)U-IPM(160RUA)
320(14)
130
富士時報
Vol.77 No.5 2004
新絶縁基板を用いた次世代 IGBT モジュール技術
西村 芳孝(にしむら よしたか)
望月 英司(もちづき えいじ)
特
集
1
高橋 良和(たかはし よしかず)
まえがき
される。
熱を効率よく冷却フィンに伝えるためには,フィンとモ
近年,電機製品の省エネルギー化の要求により IGBT
ジュールを,薄いサーマルコンパウンドを用いてすきまな
(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールは従来の
く埋める必要がある。実際はねじ止めにより,フィンとモ
産業用途から,家庭用電気製品など,適用範囲が拡大して
ジュール間の面圧を確保することが重要であり,ねじ止め
いる。この家庭用電気製品を中心とする低容量帯では低価
の際,モジュールの破損を防ぐために,モジュール自身の
格,軽量・コンパクトな IGBT モジュールの要求が高い。
機械的強度を確保する必要がある。現行の放熱用ベースフ
富士電機はこの需要に応えるべく,Small Pack シリー
リー構造は,この機械強度を確保するために,DCB 基板
ズの開発を完了し,生産を開始している。このシリーズで
のアルミナセラミックス部分を厚くすることで対応してい
は,放熱用金属ベースを持たない放熱用ベースフリー構造
る。この結果として放熱用金属ベース付き構造に比べ,熱
を用い低価格,軽量の IGBT モジュールを実現している。
抵抗が大きくなってしまう。放熱用ベースフリー構造の適
本稿では,新絶縁基板を用いることにより熱抵抗をさら
に 30 %改善した放熱用ベースフリー構造について紹介す
用を制限している原因である。
図2に富士電機の 6 in 1 IGBT モジュールを示す。各構
(a)
の放熱用金属ベース付き構造
造による電力容量は,図2
る。
では,IGBT モジュールの単位面積あたり 4.7 W(max)/
(2 )
(1)
,
設計コンセプト
(b)
の放熱用ベースフリー構造は 3.5
mm2 容量に対し,図2
W(max)/mm2 までの容量での使用である。
一般的に放熱用ベースフリー構造は放熱用金属ベース付
このような背景から,IGBT モジュールの単位面積あた
き構造と比較し熱抵抗が大きく,産業用途など過酷な使用
りの,使用可能な電力容量を大きくすると同時に,軽量・
条件下では適用が難しく,現状では,電力容量の小さな領
コンパクト,低コストを実現するための検討,具体的には
域でのみ使用され,新しい技術アプローチなしでは,中・
低熱抵抗・高強度の DCB 基板開発を行った。
大電力容量への展開は厳しい状況である。
図1に,一般的な IGBT モジュールの断面図を示す。図
1
(a)
の放熱用金属ベース付き構造では,DCB 基板(セラ
図2 6 in 1 IGBT モジュール
ミック絶縁基板)が放熱用金属ベースにはんだ付けされ,
(b)
の放熱用ベー
ベースが冷却フィンに取付けされる。図1
PC2
Small Pack
スフリー構造では,DCB 基板が直接冷却フィンに取付け
図1 IGBT モジュールの断面図
IGBTチップ
DCB基板
IGBTチップ
(a)放熱用金属ベース付き構造
22 kW(75 A 1,200 V)
面積 107×44(mm)
22 kW/4,708 mm2=
4.7 W
(max)
/mm2
DCB基板
冷却フィン
放熱用金属ベース
(a)放熱用金属ベース付き構造
冷却フィン
(b)放熱用ベースフリー構造
西村 芳孝
望月 英司
(b)放熱用ベースフリー構造
(低容量帯/低コスト)
7.5 kW(35 A 1,200 V)
面積 63×34(mm)
7.5 kW/2,142 mm2=
3.5 W
(max)
/mm2
高橋 良和
IGBT モジュールの構造開発に従
半導体パッケージのコア技術開発
パワー半導体の設計・開発に従事。
事。現在,富士日立パワーセミコ
に従事。現在,富士日立パワーセ
現在,富士日立パワーセミコンダ
ンダクタ
(株)
松本事業所開発設計
ミコンダクタ
(株)
松本事業所開発
クタ
(株)
松本事業所開発設計部グ
部。
設計部チームリーダー。エレクト
ループマネージャー。工学博士。
ロニクス実装学会会員。
321(15)
富士時報
新絶縁基板を用いた次世代 IGBT モジュール技術
Vol.77 No.5 2004
BT チップの温度を効率的に下げることができる。また,
新アルミナ絶縁基板の設計
銅はくの厚みを厚くすることにより,DCB 基板自体の機
械強度の向上が見込まれる。
特
集
1
3.1 IGBT モジュール構造の違いによる特性比較
表1に現行の放熱用ベースフリー構造,放熱用金属ベー
3.3 FEM 解析結果
ス付き構造における特性を示す。放熱用ベースフリー構造
次に効果の検証を行うために第 1 ステップとして,FE
では,IGBT モジュールの機械強度を確保するために厚さ
M(有限要素法)による定常熱解析を実施した。解析条件
0.635 mm のアルミナセラミックスを用いている。一方,
は,IGBT チップサイズ 9.25 mm 角,DCB セラミックス
十分な機械的強度を持つ放熱用金属ベース付き構造では,
サイズ 33 × 30(mm),DCB 表面の銅回路サイズ 25 ×
アルミナセラミックス厚を 0.32 mm まで薄くすることが
17(mm)の三次元 1/2 モデルに DC 80 A 印加とした。定
可能である。
常熱解析においてアルミナセラミックスの厚み,銅はく厚
この違いによる熱抵抗は,放熱用ベースフリー構造では
みを変化させ,IGBT チップ温度との影響解析を実施した。
放熱用金属ベース付き構造の 1.6 倍である。
結果を図4に示す。
3.2 熱伝達阻害要因のメカニズムと改善策
ら 0.32 mm に減少させることにより,IGBT チップ温度は
この結果から,アルミナセラミックス厚を 0.635 mm か
図3に,放熱用ベースフリー構造 IGBT モジュールの断
23 ℃下がることが分かる。さらにアルミナセラミックス
面図を示す。IGBT チップの接合部から発生した熱は,
厚 0.32 mm のまま銅はく厚を 0.25 mm から 0.6 mm に増加
DCB 基板を通り放熱フィンに抜ける。DCB 基板絶縁部の
させることで,チップ温度がさらに 32 ℃下がることが分
アルミナセラミックスの熱伝導率は 20 W/(m・K)で,電
かる。
気回路として使用されている銅の熱伝導率は 390 W/(m・
次に,IGBT チップ温度を 126 ℃に固定して定常熱解析
K)であるので,DCB 基板のアルミナセラミックス層は
を実施し,銅はくの厚みと熱広がりの関係について解析を
IGBT チップから発生した熱が通過しにくい熱抵抗層に
行った。この結果を図5に示す。
なっている。
熱を通過しやすくする方策は,
「熱抵抗層を少なくする」
「単位面積あたりの熱流量(熱密度)を下げる」ことが有
図4 放熱用ベースフリー構造と熱特性のシミュレーション結果
(DC 80 A 定常状態)
効となる。この具体的な改善案としては次の二つがある。
(1) アルミナセラミックス層の厚みを薄くする。
(2 ) 銅はくを厚くすることで,熱を分散させ,アルミナセ
ラミックスの単位面積あたりの熱流量を小さくする。
現行の放熱用
ベースフリー構造
アルミナ厚
0.32 mm
銅回路厚
0.6 mm
T
=
158 ℃
j
T
=
126 ℃
j
Δ 23deg
Δ 32deg
IGBTチップ 表面銅はく
これらにより,DCB 基板の熱抵抗を下げることで,IG
T
=
181 ℃
j
表1 IGBTモジュール構造比較
DCB
基板特性
アルミナ厚み
曲げ強度
現行の放熱用
ベースフリー構造
放熱用金属
ベース付き構造
0.635 mm
0.32 mm
108 N
53 N
ー
3.0 mm
100
62
金属ベース厚み
熱抵抗比 R th(j-c)
①セラミックスを薄く
②銅回路を厚く
アルミナ厚 0.635 mm
0.32 mm
0.32 mm
銅回路厚
0.25 mm
0.6 mm
0.25 mm
図5 DBC 基板銅回路厚と熱伝導面積の関係のシミュレーショ
ン結果
図3 放熱用ベースフリー構造断面模式図と熱特性
銅 390 W /
(m・K)
アルミナ 20 W /
(m・K)
(チップ温度
126 ℃定常状態)
IGBTチップ
銅回路厚み
0.25 mm
銅回路厚み
0.6 mm
表面銅はく
IGBTチップ
熱広がり
t :0.25 mm
厚く
薄く
IGBTチップ
t :0.635 mm
厚く
t :0.25 mm
T
=126
℃
j
印加電力
サーマルグリース
放熱フィン
(a)現行の放熱用
ベースフリー構造
322(16)
(b)新構造
T
=126
℃
j
109 W
150 W
アルミナ厚み
0.32 mm
0.32 mm
銅回路厚み
0.25 mm
0.6 mm
富士時報
新絶縁基板を用いた次世代 IGBT モジュール技術
Vol.77 No.5 2004
図6 DCB 基板回路厚と IGBT チップ温度の関係
図7 通電時間と IGBT チップ温度の関係
220
180
160
アルミナセラミックス厚
0.635 mm
140
120
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
DCB基板回路厚(mm)
0.7
180
現行の放熱用
ベース
フリー構造
160
↓①
140
120
アルミナ厚
0.32 mm
100
↓②
200
80
銅回路厚
0.6 mm
60
40
20
0.001
0.32 mm
100
0.1
IGBTチップ温度(℃)
IGBTチップ温度(℃)
200
0.01
0.1
1
10
放熱用金属
ベース
付き構造
通電時間(s)
0.8
図8 サーモグラフ写真(定常状態)
DCB 基板銅はく厚 0.6 mm において通常の銅はく厚 0.25
mm と比較し熱が広がっていることが分かる。この結果か
現行の放熱用
ベースフリー構造
開発品
放熱用金属
ベース付き構造
186 ℃
124 ℃
120 ℃
ら,銅はくを厚くすることでアルミナセラミックスを通過
している熱流密度は小さくなっていることが分かる。
さらに,アルミナセラミックス厚 0.32 mm,0.635 mm
の 2 種類について,銅はく厚とチップ温度の相関関係につ
いて定常熱解析を実施した。この結果を図6に示す。
アルミナセラミックス厚の減少,銅はく厚の増加は
IGBT チップ温度を下げるために有効な手段であることが
分かる。また,同条件による定常熱解析において,放熱用
mm に,かつ銅はく厚を 0.6 mm に増加させると銅回路厚
金属ベース付き構造での場合,IGBT チップ温度が 125 ℃
0.25 mm(図7の②)と比較し IGBT チップ温度は 66 ℃下
であった。放熱用ベースフリー構造で IGBT チップ温度
がることが分かる。
125 ℃を実現させるためには,アルミナセラミックス厚
さらに第四として,セラミックス厚を 0.32 mm,銅はく
0.32 mm,銅はく厚 0.6 mm を選択することで,同等の熱
厚を 0.6 mm にすることにより,現行の放熱用ベースフ
抵抗性能を得られることが分かった。
リー構造と比較し IGBT チップ温度が 86 ℃下がることが
分かる。
実機による実験・検証結果
この値は,放熱用金属ベース付き構造の IGBT チップ温
度とほぼ同じ値である。以上のことから DCB 基板のアル
以上の解析結果の検証をするため,DCB テストピース
ミナセラミックス厚を薄くすること,銅はく厚を厚くする
による過渡熱抵抗,定常熱抵抗の実測,および DCB 基板
ことは過渡熱抵抗の改善にきわめて有効であることを検証
の機械特性の測定を実施した。
した。
4.1 過渡熱抵抗
4.2 定常熱抵抗
IGBT チップに DC 80 A を印加し,通電時間と IGBT
過渡熱抵抗測定と同一条件にて,定常熱抵抗の測定を実
チップ温度の関係について,DCB 基板 3 種類を用い調査
施した。図8に IGBT チップの定常状態におけるサーモグ
。
を実施した(図4の FEM シミュレーションと同条件)
ラフ写真を示す。アルミナセラミックス厚 0.32 mm,銅は
図7に通電時間とチップ温度の関係を示す。
く厚 0.6 mm を用いた新しい放熱用ベースフリー構造では,
第一に通電後 1 秒経過時において,現行の放熱用ベース
IGBT チップ温度は,現行の放熱用ベースフリー構造に比
フリー構造(アルミナセラミックス厚 0.635 mm,銅はく
べ,62 ℃下がり,放熱用金属ベース付き構造とほぼ同じ
厚 0.2 mm)では,放熱用金属ベース付き構造(DCB:ア
であった。この実験結果から DCB 基板のアルミナ厚を薄
ルミナセラミックス厚 0.635 mm,銅はく厚 0.2 mm,ベー
くすること,銅回路厚を厚くすることは,定常熱抵抗の改
ス厚 3 mm)と比較した場合,IGBT チップ温度は 85 ℃高
善においても有効であることを検証した。
いことが分かる。
第二として,放熱用ベースフリー構造のまま,DCB 基
4.3 DCB 基板の機械的特性
板のアルミナセラミックス厚を 0.635 mm から 0.32 mm に
図9に DCB 基板の断面写真を示す。
(a)
が現行の放熱用
減少させると IGBT チップ温度が約 20 ℃下がることが分
(b)
ベースフリー構造に用いられている DCB 基板,
が今回
。
かる。
(図7の①)
開発した厚銅はく DCB 基板である。
第三に,DCB 基板のアルミナセラミックス厚を 0.32
一般的な純度 96 %のアルミナセラミックスに銅はく厚
323(17)
特
集
1
富士時報
0.4 mm 以上接合の直接接合を行うと,アルミナセラミッ
だ劣化による熱抵抗変化,アルミナセラミックス割れがな
クスと銅の熱膨張係数差によりアルミナセラミックス接合
いことを確認した。
部にクラックが発生する。純度 96 %のアルミナセラミッ
また,パワーサイクル(断続運転)試験は試験条件
クスの曲げ強度は 400 MPa 程度であり,DCB 基板として
Δ Tj-c = 75 deg にて実施した。熱抵抗,その他の電気特
性についても 350 k サイクルまで変化が見られない。以上
厚銅回路を接合するのには不十分である。
そこでアルミナセラミックスにジルコニアを添加するこ
の結果から,新 DCB 基板を用いた IGBT モジュールは,
( 3)
とにより機械強度の向上を図り,曲げ強度を 700 MPa ま
従来と同等の信頼性特性を持つことが分かる。
で向上させることにより,銅はく厚 0.6 mm を接合するこ
製品評価結果
。
とに成功した(表2)
現行の放熱用ベースフリー構造と比較し,この新しい
DCB 基板を用いた構造は,アルミナセラミックスが薄い
にもかかわらず,銅はく厚を増したことによりトータルで
は機械強度は約 30 %向上した。
表3に新しい放熱用ベースフリー構造を適用した Small
Pack 評価結果を示す。
新しい放熱用ベースフリー構造を適用することにより,
銅はくを厚くすること,薄いジルコニア添加アルミナセ
現行の Small Pack と比較し熱抵抗を 30 %改善することが
ラミックスを用いることにより,現行の放熱用ベースフ
リー構造と比較しモジュールの機械強度向上,低熱抵抗化
表3 新DBCによるモジュール熱抵抗比較
を実現した新しい放熱用ベースフリー構造を可能とした。
4.4 信頼性試験評価と結果
現行の放熱用
ベースフリー構造
新構造
100
71
銅はくを厚くしたことにより,銅回路の見かけ熱膨張係
数が増加し,シリコンチップ下はんだの劣化,アルミナセ
熱抵抗比 R th(j-f)
ラミックスの割れなどが懸念された。ヒートサイクル試験,
パワーサイクル試験を実施し,新しい DCB 基板による,
図10 富士電機の IGBT チップ特性
放熱用ベースフリー構造における信頼性を調査した。
50
試験条件−40 ∼+125 ℃にてヒートサイクル試験を 500
45
サイクルまで実施し,IGBT チップ下はんだの劣化,はん
図9 DCB 基板断面写真
銅回路=0.25 mm
現行の放熱用ベースフリー構造
40
ΔT j-c(deg)
35
新構造
30
25
20
15
7.5 kWinv. 11 kWinv.
150 %
150 %
10
5
アルミナ=0.635 mm
0
銅回路=0.25 mm
0
10
(a)現行の放熱用ベースフリー構造DCB基板
20
30
I o(Arms)
40
50
図11 富士電機の 1,200 V IGBT モジュール系列
銅回路=0.6 mm
アルミナ=0.32 mm
銅回路=0.6 mm
100 A
(22 kW)
(b)開発品
75 A
表2 セラミックスの種類と銅はくダイレクトボンディングの
限界値
DCB基板回路厚(mm)
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
アルミナ
○
×
ー
ー
ー
ジルコニア
添加アルミナ
セラミックス
○
○
○
○
×
セラミックス厚:0.32 mm
○:可 ×:不可
324(18)
容量
特
集
1
新絶縁基板を用いた次世代 IGBT モジュール技術
Vol.77 No.5 2004
PC3
PC2
5.3 W/mm2
50 A
(11 kW)
4.7 W/mm2
35 A
(7.5 kW) 3.5 W/mm2
25 A
(5.5 kW)
10 A
放熱用金属ベース付き構造
放熱用ベースフリー構造
21.5 48.4 75.6(cm2)
モジュールサイズ
富士時報
できた。また,新しい放熱用ベースフリー構造を適用した
Small
新絶縁基板を用いた次世代 IGBT モジュール技術
Vol.77 No.5 2004
Pack において十分なモジュールの機械強度,信頼
性を持つことを確認した。
図10に,Small Pack に使用されている富士電機の IGBT
リー構造を適用した軽量・コンパクトかつ低コストの IG
BT モジュールを開発した。
以上,新 IGBT モジュール構造についての取組みを紹介
した。今後はこの技術の適用拡大を図り,さらに厳しさを
チップ特性( Δ Tj-c と出力特性)を示す。現行の放熱用
増す顧客ニーズ,新しいデマンドに合致できる IGBT モ
ベースフリー構造の Small Pack は最大 7.5 kW インバータ
ジュールを開発していく所存である。
システムに使用されている。この新 DCB 基板を適用する
ことにより最大 11 kW インバータシステムまで使用する
ことが可能になる。
参考文献
(1) Nishimura, Y. et al. Improvement of Thermal Resist-
図11に富士電機の 1,200 V 系 IGBT モジュール系列を示
ance in Metal Base Free Structure IGBT Modules by
す。放熱用ベースフリー構造において,新しい構造を適用
Thicker Cooper Foil Insulation Substrate. Publication in
することにより単位面積あたり印加電力は 3.5 W/mm2 か
Industry Applications Society ー Annual Meeting IAS’03.
2
ら 5.1 W/mm に増やすことができた。
Salt Lake City, USA, October 2003.
(2 ) Nishimura, Y. et al. New generation metal base free
あとがき
IGBT module structure with low thermal resistance. The
16th International Symposium on Power Semicon-ductor
DCB 基板のアルミナセラミックスにジルコニアを添加
し,アルミナセラミックス厚を薄くすること,加えて銅は
Devices & ICs(ISPSD’04)
. Kitakyushu, Japan, May 2004.
(3) US PAT. 5675181, 5869890.
く厚を厚くすることにより,低熱抵抗の放熱用ベースフ
325(19)
特
集
1
富士時報
Vol.77 No.5 2004
パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術
特
集
1
松本 良輔(まつもと りょうすけ)
加藤 博久(かとう ひろひさ)
まえがき
素が終端するので正孔トラップは低減しやすい。ウェット
酸化時に発生した H や H2O が酸化膜中に残留すると,
シリコンデバイスは年を追うごとに微細化し,ゲート酸
SiH や SiOH 結合を形成し電子トラップとなりホットキャ
化膜も最近では数 nm 程度の極薄酸化膜に注目が集まって
リヤ劣化を加速させる。さらに水素結合はストレス誘起
いる。しかし,スイッチング電源,インバータ,自動車な
リーク電流の原因ともされる。他の酸化方法に比べて最も
どの制御に用いるパワーデバイスでは,高耐圧,高速スイ
酸化速度が速い。
ッチング,低損失であることが求められるため,200 nm
ドライ酸化は,水分のない純粋な酸素を酸化種として用
(1)
程度までの非常に厚いゲート酸化膜がしばしば用いられる。
いる。水に起因したトラップがほとんどないため,電界な
また,ゲート酸化膜形成後に 1,100 ℃以上の高温アニール
どのストレスをかけた後の界面準位の発生を抑え,ホット
を必要とする場合もある。そのため,極薄ゲート酸化膜で
キャリヤ寿命を向上する。ただし正孔トラップ密度が大き
は見られないようなさまざまな特有の現象が生じる。
く な る 。 よ っ て , TDDB( Time Dependent Dielectric
そこで今回は,厚いゲート酸化膜について,電気的特性
により,酸化方法,および膜厚に対する高温アニールの影
Breakdown)寿命を短くするという欠点がある。3 種の酸
化方法の中で最も酸化に時間がかかる。
(1)
響の比較,検討を行った。
HCl 酸化は,水と塩素が発生する中で酸化を進行させる。
Na などの可動イオンの中和,揮発除去に用いられ,絶縁
サンプル作製条件
耐圧の向上,少数キャリヤライフライムの向上,界面準位
密度の低減がもたらされる。また,HCl 酸化は Cu などの
サンプル作製条件を表1に示す。酸化方法は,ウェット
重金属を蒸気圧の高い塩化物として除去する働きもあり,
O2 によるパイロジェニック酸化(以下,パイロ酸化と略
耐圧の向上,酸化誘起積層欠陥(OSF)の低減に効果があ
す)
,ドライ酸化,塩素雰囲気中の酸化(以下,HCl 酸化
る。
と略す)の 3 とおり,酸化膜厚は 30 nm,120 nm の 2 と
測定方法
おり,アニール条件は高温 N2 アニールのみ行う場合と,
高温 N2 アニール後に O2 アニールを行う場合の 2 とおり,
アニールフローはゲート酸化直後に行う場合と,ポリシリ
I-V 特性と Qbd 特性により,ゲート酸化膜の電気的特性
コン電極形成後に行う場合の 2 とおりでサンプルを作製し
た。
図1 印加方法
パイロ酸化は,Si を水蒸気雰囲気にさらして熱酸化す
(1)
る方法で,水素ガスと酸素ガスを接触させ燃焼させる。水
(n+)ポリシリコン
表1 サンプル作製条件
SiO2
酸 化 方 法
パイロ,ドライ,HCl
酸 化 膜 厚
30 nm,120 nm
アニール条件
™高温N2アニール
™高温N2アニール / O2アニール
アニールフロー
™ゲート酸化直後
™ポリシリコン電極形成後
松本 良輔
加藤 博久
MOS ゲート型パワー半導体のプ
MOS ゲート型パワー半導体のプ
ロセス開発に従事。現在,富士電
ロセス開発に従事。現在,富士電
機デバイステクノロジー
(株)
半導
機デバイステクノロジー
(株)
半導
体事業本部半導体工場デバイス・
体事業本部半導体工場デバイス・
プロセス開発部。応用物理学会会
プロセス開発部。
員。
326(20)
n型Si
富士時報
パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術
Vol.77 No.5 2004
を評価した。I-V 特性とは,電圧を徐々に増加させ,絶縁
ト酸化膜を形成した。図3,図5のサンプルの酸化膜厚は
破壊するまでに流れた電流変化を評価する手法である。
120 nm,図4は 30 nm である。
Qbd 特性とは,酸化膜に一定の電流を流し,絶縁破壊する
図3 , 図4 から,高温 N2 アニールを加えると,それが
までに酸化膜中を流れた総電荷量を評価する手法である。
効果的に作用し,膜厚に関係なく波形が下にシフトするこ
特性の印加パルスの上昇速度を 0.5 V/s,Qbd 特性の定
とが分かる。これは,界面準位が減ったことを示すと考え
I-V
(2 )
電流印加を 0.01 A/cm2 とした。また, 図1 に示すように,
られる。ただし,より低電界において F-N トンネル電流
ゲート電極側に正電圧を印加した。実験は室温(約 20 ℃)
から急峻(きゅうしゅん)にずれる波形になる。F-N ト
で行った。
ンネル電流とは,高電界が印加されたときに,電子がトン
ネル機構によって酸化膜に流れ込むことで生じる電流のこ
高温 N2 アニールおよび O2 アニールの影響調査
とである。また,図5から Qbd 特性も低下することが分か
図3 F-N プロット(酸化膜厚 120 nm)
4.1 サンプル作製プロセス
ゲート酸化直後に高温 N2 アニールを行い,さらに,O2
10−2
基板には n 型リンドープ FZ(Floating Zone)ウェーハ
を用いた。パイロ酸化,ドライ酸化,HCl 酸化の 3 種の方
(1) 条件①では,高温 N2 アニールを行わなかった。
J ox/E
その後のアニールは図2に示す三つの条件で行った。
アニールなし
N2(1,150 ℃
200 min)
→O2(1,000 ℃
1 min)
10−3
10−4
10−5
N2(1,150 ℃
200 min)
10−6
ox
2
法で 900 ℃のゲート酸化を行った。
(A/MV2)
アニールを行う場合のサンプル作製プロセスを図2に示す。
(2 ) 条件②では, 1,150 ℃ 200 min の高温 N2 アニールを
10
−7
N2(1,150 ℃ 200 min)
→O2(1,000 ℃ 3 min)
10−8
10−9
行った。
10−10
0.09
(3) 条件③では, 1,150 ℃ 200 min の高温 N2 アニールを
0.10
0.11
1/E
0.12
0.13
0.14
0.15
ox(cm/MV)
行った後,さらに,1,000 ℃ 1 ∼ 4 min の O2 アニールを
行った。
最後に,ポリシリコン電極を形成し,I-V 特性と Qbd 特
図4 F-N プロット(酸化膜厚 30 nm)
性を測定した。
プロット
(Fowler-Nordheim plot)で示したものを図3,図4に示
す。F-N プロットとは,電流密度と電界を用いた JOX/
2
EOX2(A/MV )と 1/EOX の二次元プロットであり,酸化
2
特性測定結果を
F- N
アニールなし
10−3
N2(1,150 ℃ 200 min)
10−4
10−5
10−6
ox
作製したサンプルの
I- V
J ox/E
4.2 測定結果
(A/MV2)
10−2
膜への電流の流れやすさを示す。また,Qbd 特性測定結果
10−7
N2(1,150 ℃ 200 min)
→O2(1,000 ℃ 1min)
10−8
10−9
を図5に示す。どのサンプルも 900 ℃のパイロ酸化でゲー
10−10
0.08
0.09
0.10
1/E
0.11
0.12
0.13
0.14
ox(cm/MV)
図2 サンプル作製プロセス1
①アニール
なし
②N2
アニール
③N2&O2
アニール
図5 Q bd 特性(酸化膜厚 120 nm)
10.5
n−リンドープ基板,FZウェーハ
N2(1,150 ℃ 200 min)
→O2(1,000 ℃ 3 min)
10.0
高温N2アニール,1,150 ℃,200 min
O2アニール
1,000 ℃
1∼4 min
E ox(MV/cm)
ゲート酸化(900 ℃)(パイロ,ドライ,HCI)
アニールなし
9.5
N2(1,150 ℃ 200 min)
→O2(1,000 ℃ 1min)
9.0
N2(1,150 ℃ 200 min)
8.5
ポリシリコン電極形成
8.0
0.01
測定
0.1
1
Q bd(C/cm2)
327(21)
特
集
1
富士時報
パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術
Vol.77 No.5 2004
図6 F-N プロット(酸化方法依存性,酸化膜厚 30 nm)
図7 バンドの概念図(界面準位が存在しない場合)
2
−
パイロ酸化,ドライ酸化,HCI酸化の
間でほとんど差異は見られない。
10−3
n型Si
10−4
10−5
10−6
ox
J ox/E
特
集
1
(A/MV2)
10−2
10−7
10−8
SiO2
10−9
10−10
0.08
0.09
0.10
1/E
0.11
0.12
0.13
0.14
(n+)ポリシリコン
ox(cm/MV)
る。これはホールトラップ密度が増大したことを示すと考
図8 バンドの概念図(界面準位が多数存在する場合)
( 3)
えられる。
一方, 図3 , 図4 から,O2 アニールを加えると,それ
−
が効果的に作用し,F-N トンネル電流からの急峻なずれ
n型Si
が高電界側にシフトすることが分かる。これはホールト
(2 )
ラップ密度が減少したことを示すと考えられる。図5から,
Qbd 特性も回復することが分かる。30 nm においては O2
アニールの時間が 1 min で十分であるのに対し,120 nm
SiO2
においては 1 min では不十分で,3 min の時間を要する。
(n+)ポリシリコン
4.3 酸化方法依存性
高温 N2 アニールに対する酸化方法依存性について調べ
た。酸化方法は,パイロ酸化,ドライ酸化,HCl 酸化の 3
種類である。酸化膜厚は 30 nm とした。また,ゲート酸
している Si が酸化された。そのため,過剰な Si が減少し,
化膜形成後に 1,150 ℃ 200 min の高温 N2 アニールを行い,
ホールトラップが大幅に減少したと考えられる。これは,
(2 )
さらに 1,000 ℃ 1 min の O2 アニールを行った。
図5において O2 アニール後に EOX が増大し,かつ,波形
I-V 特性測定結果を F-N プロットで示したものを 図6
がフラットになったことにより示される。また,厚膜にな
に示す。酸化方法が異なっても,高温 N2 アニール前の
るほど O2 アニール時間を伸ばす必要があったことから,
F-N プロットに見られた若干の差異はほとんど見られな
ホールトラップの緩和時間は膜厚に依存するといえる。
また,高温 N2 アニール処理を行うことで,ゲート酸化
くなる。
膜形成方法によらない,同等の電気特性を有するゲート酸
4.4 考 察
化膜が形成されることが分かった。
高温 N2 アニール,および O2 アニールの効果について
ポリシリコン電極形成後の高温 N2 アニールの
以下にまとめる。
高温 N2 アニールを行ったことで,SiO2/Si 界面が窒化
効果
(2 )
され界面準位が低減したと考えられる。図7,図8にバン
ドの概念図を示す。図7は界面準位がほとんど存在しない
場合のバンド図,図8は界面準位が多数存在する場合のバ
ンド図である。 図7 に比べて 図8 は Si 基板側の電位こう
配が急峻となり,より低電界で F-N トンネル電流が発生
する。そのため,図3,図4において波形が上にシフトし
ている。
ただし,ホールトラップ密度はアニール温度と時間に依
存するため,ホールトラップ密度が増大し,局所破壊が生
5.1 サンプル作製プロセス
ポリシリコン電極形成後に高温 N2 アニールを行う場合
のサンプル作製プロセスを図9に示す。
基板には n 型リンドープ FZ ウェーハを用いた。900 ℃
のパイロ酸化で 120 nm のゲート酸化を行った。
その後のアニールは図9に示す四つの条件で行った。
(1) 条件①では,アニールを行わなかった。
(2 ) 条件②では, 1,100 ℃ 30 min の高温 N 2 アニールを
( 3)
じた。これは,図5において高温 N2 アニール後に EOX が
低減し,Qbd の変動とともに,EOX が大きく変動するよう
になったことにより示される。
N2 アニール後に O2 アニールを行うことで,過剰に存在
328(22)
行った。
(3) 条件③では, 1,150 ℃ 200 min の高温 N2 アニールを
行った。
(4 ) 条件④では, 1,150 ℃ 200 min の高温 N2 アニールを
富士時報
パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術
Vol.77 No.5 2004
図11 Q bd 特性 (ポリシリコン電極形成後の高温 N2 アニール)
図9 サンプル作製プロセス2
①
②
③
④
10.5
E ox(MV/cm)
10.0
900 ℃,パイロ,120 nm
N2アニール
1,100 ℃,
30 min
特
集
1
条件による差異は
ほとんど見られない。
n−リンドープ基板,FZウェーハ
N2アニール
1,150 ℃,
200 min
9.5
9.0
8.5
O2アニール
1,000 ℃,
4 min
8.0
0.01
ポリシリコン電極形成
0.1
1
10
Q bd(C/cm2)
N2アニール,1,150 ℃,200 min
測定
異はほとんど見られない。
図10 F-N プロット(ポリシリコン電極形成後の高温 N2
アニール)
ポリシリコン電極形成後に高温 N2 アニールを行うと,
それまでのゲート酸化膜形成後の熱履歴によらない,ほぼ
(A/MV2)
10−2
条件による差異は
ほとんど見られない。
10−3
10−4
等しい電気特性を有するゲート酸化膜を形成できることが
分かった。
10−5
あとがき
10−6
J ox/E
ox
2
5.3 考 察
10−7
10−8
パワーデバイスに用いられる厚いゲート酸化膜の形成技
10−9
術について紹介した。パワーデバイスに対する高耐圧,高
10−10
0.10
0.11
0.12
1/E
0.13
0.14
0.15
ox(cm/MV)
速スイッチング,低損失化の要求は,今後ますます強くな
っていくと思われる。それらを実現するためには,ゲート
酸化膜のさらなる性能向上は必要不可欠な技術の一つであ
り,今後もゲート酸化膜形成技術の研究を推し進めていく。
行った後,さらに,1,000 ℃ 4 min の O2 アニールを行っ
そして,より高度なパワーデバイス製品を実現し,世の中
た。
に貢献していく所存である。
続いて,ポリシリコン電極を形成し,最後に 1,150 ℃
200 min の高温 N2 アニールを行った。その後,I-V 特性
と Qbd 特性を測定した。
参考文献
(1) 中西俊郎ほか.次世代 ULSI プロセス技術.REALIZE
INC. 2000, p.164- 172.
5.2 測定結果
図9に示す 4 種類の条件で作製したサンプルの電気特性
測定結果を 図10, 図11に示す。 図10が Qbd 特性, 図11が
F- N
プロットである。 図10, 図11ともに,条件による差
(2 ) Hori, T. Gate Dielectrics and MOS ULSIs. Springer.
1997, p.149- 207.
(3) 丹呉浩侑.半導体プロセス技術.培風館.1998, p.138-
164.
329(23)
富士時報
Vol.77 No.5 2004
ワンチップ技術による高圧センサ
特
集
1
上柳 勝道(うえやなぎ かつみち)
篠田 茂(しのだ しげる)
芦野 仁泰(あしの きみひろ)
まえがき
が多く故障確率が高いなどの問題点があげられる。
今回開発した高圧センサは,従来のワンチップ技術での
制御システムの電子化が進む中,環境対応のため高効率
メリットを最大限に生かして「小型・高信頼性の製品」を
を目指したシステムが要求され,高い圧力を測定する圧力
ターゲットとし,以下の基本コンセプトを基に開発した。
センサの需要が拡大している。
(1) “All in one chip”によるワンチップ構成
民生用や自動車用のエアコンにおいて,脱フロン化によ
る圧力媒体の制御性を高度化するために,これまで圧力ス
(2 ) 受圧面積最小構造による小型パッケージ
,
を最大限に生かした世界最小製品を実現
(2 )
(3)(1)
イッチが使われているが,アナログ信号を制御するため 1
(4 ) 独自のダイアフラム加工による高耐圧性
∼ 5 MPa の圧力体を検出する高圧センサへ切り替わりつ
(5) 相対圧またはゲージ圧で最大 5 MPa の用途
つある。
製品構成
また,自動車用ではサスペンションの姿勢制御やトラン
スミッションの潤滑油圧力制御,さらにブレーキに必要な
油圧制御などのアプリケーションの普及に伴い,圧力の高
図1に今回開発した高圧センサの検出体ユニットの概要
い油圧を検出するための高圧センサのニーズが拡大してい
を示す。ダイアフラム上に IC プロセスと同時に拡散配線
る。
からなるピエゾ抵抗を形成し,四つのピエゾ抵抗でホイー
富士電機はこれらの市場ニーズに対応するため,2002
トストンブリッジを構成している。
年 か ら CMOS( Complementary Metal-Oxide-Semicon-
また,ダイアフラムは富士電機独自の三次元エッチング
ductor)プロセスによるディジタルトリミング型自動車用
技術により高精度かつ丸みのあるダイアフラムが形成され
圧力センサの技術を用いて,世界最小の高圧センサを開発
ており,過大耐圧性を確保している。
した。
信号処理回路は 2002 年度に開発し量産化されている低
(1)∼(3)
本稿では今回開発した高圧センサ(相対圧用途,ゲージ
圧センサ(100 ∼ 400 kPa)の技術を高圧用にチューニン
グしたもので,ホイートストンブリッジから出力される電
圧用途)を紹介し,今後の展開について述べる。
圧信号を増幅する高精度増幅器と,センサ特性を校正する
富士電機の高圧センサの特徴
調整回路を形成している。また,自動車のエンジン制御系
から発生するサージ波形やアセンブリ工程内での静電気,
従来の高圧センサには,セラミック電極板を重ねた静電
容量タイプや金属ダイアフラム上にひずみゲージを蒸着し
図1 高圧検出体ユニット
たものを検出素子として利用しているものがある。これら
の高圧センサは受圧面積が大きいため,検出圧力に対する
ピエゾ抵抗
(ダイアフラム)
シリコンチップ
ダイアフラム
反力を確保する堅ろうなパッケージ構造を設計することが
必要で,最終的な製品寸法が大きくなってしまうというデ
メリットがあった。また,これらのセンサは,検出素子の
特性を調整する回路,EMC(Electromagnetic Compatibility)対策としての SMD(Surface Mounted Device)部
品(チップコンデンサやチップ抵抗など)を搭載するため
信号処理回路/
EMC保護素子
台座ガラス
圧力導入口
の回路基板などの部品が多い。さらには,電気的接続部分
上柳 勝道
330(24)
篠田 茂
芦野 仁泰
圧力センサの研究開発に従事。現
圧力センサの研究開発に従事。現
圧力センサの研究開発に従事。現
在,富士電機デバイステクノロ
在,富士電機デバイステクノロ
在,富士電機デバイステクノロ
ジー
(株)
半導体事業本部半導体工
ジー
(株)
半導体事業本部半導体工
ジー
(株)
半導体事業本部半導体工
場自動車電装開発部マネージャー。
場自動車電装開発部。
場自動車電装開発部。
富士時報
ワンチップ技術による高圧センサ
Vol.77 No.5 2004
さらには外部からの電磁波などから,CMOS で形成され
Pin ×(Ao + Ad)= Pr × Af ………………………………(1)
た内部回路を保護するための保護素子もすべてワンチップ
Pin :印加圧力,
上に備えている。
Ao :O リング内部面積,Ad :ダイアフラム面積,
また,相対的な圧力または大気圧力に対するゲージ圧力
Pr :固定圧力,Af :固定圧力面積
を測定するために,シリコンチップの裏面には貫通穴を形
(1)
式
から固定圧力 Pr = Pin ×(Ao + Ad)/Af と置き換え
成し,下部の金属ベースおよび接合層からの応力を緩和さ
られ,実際の構造において(Ao + Ad)/Af が非常に小さい
せるための台座ガラスを静電接合プロセスによって接合し,
ため,固定圧力 Pr を小さくすることができ,固定圧力を
信頼性の高い気密性を確保した。
発生させるアプリケーション側の構造を小型化することが
図2に今回開発した高圧センサセルの概要を示す。高圧
可能となる。
また,印加圧力が発生した際に各部材(センサユニット
検出体ユニットと金属ベースは高温時の強度を確保した接
合構造を用いており,自動車用途における厳しい環境にお
と金属ベースとの接合部材,金属ベース)に要求される機
いても高い信頼性を実現している。図3に高圧センサセル
械的強度はそれぞれ応力バランスを考慮した以下の式に
の外形を示す。検出機能と処理回路をワンチップで構成し
よって表すことができる。
た世界最小の高圧センサセルを実現した。
(2 ) 印加圧力に対する構造設計
Pin ×(Ao + Ad)<σm × Af ……………………………(2 )
耐圧設計と評価結果
σm :金属ベース弾性限界応力
Pin × Ad <σs × As ………………………………………(3)
σs :接合材破断応力,As :ユニット接着面積
4.1 耐圧設計
高圧センサの耐圧設計について述べる。図4に示すのは
また,自動車アプリケーションで使用される温度環境
高圧センサセルを模式化したもので,圧力を印加した際の,
は−40 ∼+130 ℃と広いため,熱膨張係数の違いによって
印加圧力受圧面積とそれに対する反力の面積を表したもの
発生する熱応力を考慮した設計が必要となる。特にセンサ
である。ここで示す筐体(きょうたい)とは,高圧センサ
ユニット−金属ベース間に発生する熱応力に関しては,接
セルを取り付ける側を表しており,後述のアプリケーショ
合材料,金属ベース材料の選定が重要なポイントとなる。
図5に高圧センサの FEM(有限要素法)解析モデル図
ン例で詳細に述べる。
この高圧センサセルは固定部から反力を支持して固定す
を示す。このモデルを用いて圧力 Pin を印加したときの変
るため,印加圧力と固定荷重との関係は以下のように表す
形・発生応力分布,温度を変化させた場合の熱応力変形・
ことができる。
応力分布を図6に示す。この計算結果を考慮して,各部材
(1) 印加圧力と固定荷重
図4 受圧面・反力面の関係
図2 高圧センサセルの概要
検出体ユニット
A S(ユニット接着面積)
センサユニット
金属ベース
固定圧力
Oリング
リード端子
A f(固定圧力面積)
筐体
A d(ダイアフラム面積)
金属ベース
A O(Oリング内部面積)
圧力 P
図3 高圧センサセルの外形
4.45
8.50
11
固定部
Oリング
Oリング
シーリング部
331(25)
特
集
1
富士時報
ワンチップ技術による高圧センサ
Vol.77 No.5 2004
および構造寸法を設計した。
4.3 圧力−出力特性
図8 に 5 MPa をフルスケールとした高圧センサセルの,
4.2 圧力限界試験結果
図7に各温度における圧力限界試験の結果を示す。いず
圧力−出力特性,圧力−出力誤差特性の一例を示す。ここ
れの破壊モードも,シリコンでの破壊であり,ここでの実
で圧力−出力特性はダイアフラムの厚さおよび回路の調整
験ではシリコンの感度を 5 MPa に適した厚さに設定した
によって,1 ∼ 5 MPa の特性までの広いレンジに対応する
ものである。したがって,5 MPa の使用圧力に対して破壊
限界圧力が 20 MPa 以上あることが確認された。
図7 圧力限界試験結果
シリコン
台座ガラス
圧力限界(MPa)
図5 FEM 解析モデル図
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
min
typ
max
圧力限界
0
50
100
150
温度(℃)
接合部材
図8 圧力ー出力特性
金属ベース
5,000
4,500
シリコン
4,000
ガラス
固定荷重領域
3,500
接合部材
出力(mV)
金属ベース
3,000
2,500
2,000
印加圧力領域
1,500
1,000
500
図6 FEM 解析結果
0
シリコン
0
1
ガラス
接合部材
金属ベース
2
3
圧力(MPa)
4
5
4
5
(a)出力電圧
100
80
60
40
(a)圧力印加時の応力分布
応力
小
シリコン
ガラス
熱応力による
最大応力発生箇所
出力誤差(mV)
特
集
1
20
0
−20
−40
−60
−80
金属ベース
大
(b)熱応力
332(26)
−100
0
1
2
3
圧力(MPa)
(b)圧力誤差
富士時報
ワンチップ技術による高圧センサ
Vol.77 No.5 2004
表1 高圧センサセルの基本仕様
ことが可能である。
項 目
単 位
仕 様
備 考
絶対最大電圧
V
16.5 V
<1 min
絶対最大圧力
MPa
10
保 存 温 度
℃
−30∼+125 ℃
使 用 圧 力
MPa(gauge)
1∼5
出 力 範 囲
V
0.5∼4.5
インタフェース
kΩ
PU300
PD100
ダイアグ領域
V
<0.2/>4.8
4.4 信頼性評価
信頼性試験として以下の項目について検証済みである。
(1) 高温放置試験:130 ℃/2,000 h
*1
(2 ) 低温放置試験:−40 ℃/2,000 h
(3) 液層熱衝撃試験:40 ∼ 150 ℃/1,000 サイクル
(4 ) 圧力サイクル試験:1,000 万サイクル(0 ∼ 1 0MPa)
*2
(5) サージ試験:ISO7637
LEVEL-Ⅳ
(6 ) EMI 試験:GTEMcell
100 V/m
*1:0∼1 MPa,0∼5 MPaまで任意設定可能
*2:配線断線時の出力範囲
4.5 基本仕様
図9 高圧センサアプリケーション例
今回開発した高圧センサの基本仕様は表1に示すとおり
である。
あとがき
今回開発した高圧センサセルのアプリケーションは,セ
ル単体での実装のほか,図9に示すような外装パッケージ
ねじ込みタイプ
ねじ止めタイプ
内部(ねじ込みタイプ,樹脂ねじ止めタイプ)へ組み込ん
で使うことが可能で,お客様の使い方に合わせた工夫を盛
外装パッケージへの
組込みアプリケーション
り込んでいる。富士電機では今後ともお客様に喜ばれる製
品開発を目指す所存である。
参考文献
(1) 上柳勝道ほか.ディジタルトリミング型自動車用圧力セン
高圧センサセル
サ.富士時報.vol.74, no.10, 2001, p.581- 583.
(2 ) 上柳勝道ほか.自動車用圧力センサ.富士時報.vol.76,
no.10, 2003, p.616- 618.
(3) 上柳勝道ほか.自動車用圧力センサの要素技術.富士時報.
vol.76, no.10, 2003, p.619- 621.
333(27)
特
集
1
富士時報
Vol.77 No.5 2004
電源二次側整流器用ダイオード「低 I R-SBD シリーズ」
特
集
1
掛布 光泰(かけふ みつひろ)
一ノ瀬 正樹(いちのせ まさき)
まえがき
図1 SBD チップの断面構造
ガードリング
近年,携帯機器の小型・高機能化やコンピュータの
ショットキー電極
(バリヤメタル)
CPU 高速化に代表されるように,電子機器の小型・軽量
酸化膜
化,高性能化が急速に進んでいる中で,電子機器の回路基
板やスイッチング電源では低消費電力,高効率,低ノイズ,
エピタキシャル層
高密度実装化が不可欠となっている。また,スイッチング
時のダイオードに印加されるサージ電圧および急峻(きゅ
Si基板
うしゅん)な dv/dt によるノイズを抑制するために,スナ
バ回路やビーズなどを適用しており,部品点数の増加,コ
ストアップなどを招いている。ノートパソコンの AC アダ
プタでは携帯性重視のため小型化が進む一方,消費電力の
増加傾向により内部は高温となり,ここに使用される半導
回のチップ設計に際しては,耐圧構造にはガードリング方
体デバイスの使用環境は厳しくなる一方である。このため
式を採用し,その濃度,エピタキシャル層(n−層)の比
半導体デバイスへの要求特性として,低損失,熱暴走温度
抵抗と厚さ,拡散深さ,およびバリヤメタルの最適化を図
抑制,使用温度限界の向上,低ノイズ化の要求が強い。特
ることで,低 IR かつ従来なみの VF を有する 40,60,100
に,スイッチング電源の 50 %弱の損失を占める二次側出
V 耐圧の低 IR-SBD シリーズを開発した。本製品は,従来
力整流ダイオードの特性改善が強く望まれている。
の同耐圧 SBD と比較して,IR を約一けた低減し,逆方向
損失を大幅に低減させることに成功し,熱暴走開始温度の
概 要
改善,使用温度限界の向上が図られた。また,高アバラン
シェ耐量特性を有し,電源起動時などの過渡サージ電圧へ
ショットキーバリヤダイオード(SBD)は,低順方向電
の対応が期待でき,スイッチング電源の高効率化,小型化,
,ソフトリカバリー性,低ノイズなどの性能を有
圧(VF)
より柔軟で幅広い回路設計に寄与できるものと考える。表
し,スイッチング電源の二次側整流用途に広く使用されて
1に低 IR-SBD シリーズの絶対最大定格と電気的特性,図
いる。富士電機では,従来の 20 ∼ 100 V 耐圧の SBD(低
2 にパッケージの外形を示す。電流定格は 10 A,20 A,
,120 ∼ 250 V 耐圧の SBD〔低逆漏れ電流(IR)
VF タイプ)
30 A,製品外形は TO-220,フルモールドタイプの TO-
タイプ〕の開発系列化を推進し,多岐にわたるパッケージ
220F,表面実装タイプの T-Pack(S)である。
にて各種出力電圧・電流容量に対応し,さまざまな電源ア
以下に今回開発した低 IR-SBD を紹介する。
プリケーションに最適なダイオードをシリーズ化してきた。
しかしながら,従来の低 VF タイプの SBD は,高温時の
素子特性
IR が大きいことにより逆方向損失が増大し,効率を低下
させ熱暴走を起こす可能性もあり,AC アダプタのような
図3に低 IR-SBD と従来品との順方向特性比較を,図4
に逆方向特性比較を示す。SBD の損失は,順方向と逆方
小型電源パッケージでの適用に難点があった。
今回,開発した低 IR−SBD は,スイッチング電源の二
向の損失の合計であり,特に実使用温度領域で,この損失
次側整流,特に高温環境下での整流用に最適なダイオード
を減らすことが課題である。特に高温時には IR 増加によ
と考えている。図1に SBD チップの断面構造を示す。今
る逆損失を実用上考慮に入れなければならない。しかしな
334(28)
掛布 光泰
一ノ瀬 正樹
パワーダイオードの開発・設計に
パワーダイオードの開発・設計に
従事。現在,富士日立パワーセミ
従事。現在,富士日立パワーセミ
コンダクタ
(株)
松本事業所開発設
コンダクタ
(株)
松本事業所開発設
計部。
計部。
富士時報
電源二次側整流器用ダイオード「低 I R-SBD シリーズ」
Vol.77 No.5 2004
表1 低 I R-SBDシリーズの絶対最大定格と電気的特性一覧
絶対最大定格
型 式
パッケージ
V RRM
(V)
V RSM
(V)
YG862C04R
TO-220F
45
YA862C04R
TO-220
TS862C04R
T-Pack
YG862C06R
YA862C06R
電気的特性
Io
(A)
I FSM
(A)
P RM
(W)
V FM(V)
I F=0.5× I o
(Tj=25 ℃)
I RRM
( A)
V R=V RRM
R th(j-c)
(℃/W)
45
10
125
330
0.61
150
3.50
45
45
10
45
45
10
125
330
0.61
150
2.00
125
330
0.61
150
2.00
TO-220F
60
60
TO-220
60
60
10
125
330
0.68
150
3.50
10
125
330
0.68
150
2.00
TS862C06R
T-Pack
60
60
10
125
330
0.68
150
2.00
YG862C10R
TO-220F
100
100
10
125
330
0.86
150
3.50
YA862C10R
TO-220
100
100
10
125
330
0.86
150
2.00
TS862C10R
T-Pack
100
100
10
125
330
0.86
150
2.00
YG865C04R
TO-220F
45
45
20
145
330
0.63
175
2.50
YA865C04R
TO-220
45
45
20
145
330
0.63
175
1.75
TS865C04R
T-Pack
45
45
20
145
330
0.63
175
1.75
YG865C06R
TO-220F
60
60
20
145
660
0.74
175
2.50
YA865C06R
TO-220
60
60
20
145
660
0.74
175
1.75
TS865C06R
T-Pack
60
60
20
145
660
0.74
175
1.75
YG865C10R
TO-220F
100
100
20
145
660
0.86
175
2.50
YA865C10R
TO-220
100
100
20
145
660
0.86
175
1.75
TS865C10R
T-Pack
100
100
20
145
660
0.86
175
1.75
YG868C04R
TO-220F
45
45
30
160
1,000
0.63
200
2.00
YA868C04R
TO-220
45
45
30
160
1,000
0.63
200
1.25
TS868C04R
T-Pack
45
45
30
160
1,000
0.63
200
1.25
YG868C06R
TO-220F
60
60
30
160
750
0.74
200
2.00
YA868C06R
TO-220
60
60
30
160
750
0.74
200
1.25
TS868C06R
T-Pack
60
60
30
160
750
0.74
200
1.25
YG868C10R
TO-220F
100
100
30
160
750
0.86
200
2.00
YA868C10R
TO-220
100
100
30
160
750
0.86
200
1.25
TS868C10R
T-Pack
100
100
30
160
750
0.86
200
1.25
図2 パッケージの外形
10
4.5
10
10
4.5
2.7
4.5
1.3
1.32
3
9.5
TS868C
1.5
15
YG868C
15
P矢視図参照
10
P矢視図
型式:YG868C□□R
型式:YA868C□□R
9.5
13.5
13
YA868C
型式:TS868C□□R
がら,VF と IR にはトレードオフの関係があり,一般に低
SBD においては,
IR 化を図ると,VF が増加する。今回の 40 ∼ 100 V 耐圧
ル採用と結晶仕様最適化により,定格電流で比較したとき
章で述べたように,新規バリヤメタ
335(29)
特
集
1
富士時報
電源二次側整流器用ダイオード「低 I R-SBD シリーズ」
Vol.77 No.5 2004
図3 順方向特性比較
特
集
1
10
1
順方向電流 (A)
IF
10
順方向電流 (A)
IF
順方向電流 (A)
IF
10
1
0.1
0.1
0.1
YG805C04R 100 ℃
YG805C04R 25 ℃
YG865C04R 100 ℃
YG865C04R 25 ℃
YG805C10R 100 ℃
YG805C10R 25 ℃
YG865C10R 100 ℃
YG865C10R 25 ℃
YG805C06R 100 ℃
YG805C06R 25 ℃
YG865C06R 100 ℃
YG865C06R 25 ℃
0.01
0.01
0.01
0
1
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
0
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
順方向電圧 (V)
VF
0
順方向電圧 (V)
VF
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
順方向電圧 (V)
VF
図4 逆方向特性比較
YG805C04R
T
=100
℃
j
=100
℃
j
YG805C06R T
=100
℃
j
YG805C10R T
103
YG805C04R
1
10
T
=25℃
j
103
YG865C06R
102
T
=25℃
j
YG805C06R
1
10
逆方向電流 ( A)
IR
YG865C04R
102
逆方向電流 ( A)
IR
逆方向電流 ( A)
IR
103
102
YG865C10R
YG805C10R
101
T
=25℃
j
100
100
0
10
YG865C06R
YG865C04R
10
20
30
逆方向電圧 (V)
VR
40
10
20
30
40
YG865C10R
50
60
10−1
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110
VR
逆方向電圧 (V)
VR
逆方向電圧 (V)
の VF を従来品の 10 %程度の増加に抑えつつ,IR は従来
品の方が損失は低く,Tj = 150 ℃においては従来品と比
品の約 1/10 にまで低減させ,高温時の損失の大幅な低減
較して約 76 %と大幅に損失低減が図られており,電源の
を実現した。
高効率化が期待できる。
発生損失検討
熱暴走温度検討
LCD( 液 晶 デ ィ ス プ レ イ ) テ レ ビ 用 24V 出 力 電 源
素子の温度は損失が大きいほど上昇し,高温での IR が
(Vdc = 380 V,I = 5 A)の条件にて,損失計算をシミュ
大きいほど顕著になる。IR は高温であるほど増大するた
レーションした。図5に 60 V/20 A 品の接合温度(Tj)−
め,IR 増大/損失増大/素子発熱/IR 増大・・・と悪循
推定発生損失(Wo)の関係を示す。比較のため従来の
環となり,最後には素子が熱破壊(熱暴走)を引き起こす
SBD も示した。Tj が低い領域では,従来品の方が損失は
場合がある。図6に 40 V/30 A 品の周囲温度−逆方向印加
小さいが,高温では IR が損失に大きく影響するため低 IR
電圧の熱暴走データを示す。比較のため従来の SBD も示
336(30)
富士時報
電源二次側整流器用ダイオード「低 I R-SBD シリーズ」
Vol.77 No.5 2004
表2 LCDテレビ用24 V出力電源実装熱暴走推定温度
図5 接合温度−推定発生損失(60 V/20 A)
条件:放熱フィン30 ℃/W取付け
23インチLCDテレビ電源
(+24 Vout/3.5 A)
8
YG805C06R
YG805C06R
YG865C06R
YG865C06R
推定発生損失 W
(W)
O
7
6
5
型 式
フォワード側
フライバック側
フォワード側
フライバック側
フォワード
新製品 YG865C06R
4
従来品 YG805C06R
3
30インチLCDテレビ電源
(+24 Vout/5.0 A)
フライバック フォワード
フライバック
従来品
YG805C06R
約74 ℃
約84 ℃
約72 ℃
約77 ℃
新製品
YG865C06R
約98 ℃
約108 ℃
約97 ℃
約100 ℃
2
1
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
接合温度 (℃)
Tj
電源(Vdc = 380 V,I = 3.5 A または 5 A)に 60 V/20 A
品を使用した場合の推定熱暴走温度を表2に示す。熱暴走
温度は従来品と比較して,23 インチ LCD ではフォワード
側 が 32 % 向 上 ( 98 ℃ ), フ ラ イ バ ッ ク 側 が 28 % 向 上
図6 熱暴走データ(TS868C04R,TS808C04R)
(108 ℃)し,30 インチ LCD ではフォワード側が 34 %向
上(97 ℃)
,フライバック側が 29 %向上(100 ℃)すると
45
推測され,動作限界温度が高く高温使用に適したデバイス
逆方向印加電圧 (V)
VR
40
35
1
DC
2
30
DC
となっている。
新製品 TS868C04R
あとがき
25
従来品 TS808C04R
20
低 IR-SBD の概要,スイッチング電源二次側整流用途へ
15
の適用などについて紹介した。
10
今後,電源のさらなる小型化・低損失化・高効率化の要
5
求が高くなることが予想され,それに対応するべく,SBD
0
の特性改善・小型パッケージ品の系列化を図り,製品系列
0
50
100
150
200
周囲温度 T
(℃)
a
の拡充とさらに高品質な製品の開発に向け,レベルアップ
を推進していく所存である。
した。低 IR 化が図られているため,従来品と比較して使
用温度範囲が広がっていることが分かる。また,より実装
条件に近い 23 インチ,30 インチ LCD テレビ用 24 V 出力
参考文献
(1) 北村祥司,伊藤博史.高耐圧ショットキーバリヤダイオー
ド.富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.589- 592.
337(31)
特
集
1
富士時報
Vol.77 No.5 2004
60 V 耐圧 MOSFET 内蔵型降圧同期整流電源 IC
特
集
1
藤井 優孝(ふじい まさなり)
米田 保(よねだ たもつ)
まえがき
2.1 IC 全体の特長
本 IC は直流安定化電源として機能するためのPWM制
近年,電子機器はますます小型化・軽量化・高機能化が
御を行う基本機能のほか,電源の小型・高効率・高出力に
進んでおり,この電子機器を駆動するための電源において
有利となる以下の特長を有する。特に,電源電圧が 10 ∼
は小型・高出力・高効率の要求がなされている。
45 V で負荷電流を各 1.2 A まで出力することができ,電源
この要求に対し,富士電機ではこれまでも 60V 耐圧の
総合効率は最大で 90 %以上を実現することができる。こ
メインのパワー MOSFET(Metal Oxide Semiconductor
れは従来の富士電機製品 FA3685P に対して同期整流化す
Field Effect Transistor)と PWM(Pulse Width Modula-
ることによって電源総合効率で 5 ∼ 10 %以上の効率アッ
tion) 制 御 回 路 を ワ ン チ ッ プ 化 し た 1 チ ャ ネ ル パ ワ ー
プが可能となった。
MOSFET 内蔵の降圧型スイッチング電源制御用
DC-DC
コンバータ IC の開発および製品化を行い,出力負荷電流
(1) 低オン抵抗 60 V 耐圧のパワー MOSFET 内蔵の同期
整流方式で高効率を実現:電源総合効率 90 %以上
値による系列化を進めてきている。
本稿では,電源の小型化・高出力化・高効率化の要求を
図1 FA7726F および FA7730F の製品外観
さらに満足させるためにメイン側および同期整流側の高耐
圧パワー MOSFET を内蔵した 3 チャネル出力および 2
チャネル出力の降圧型 DC-DC コンバータ IC「FA7726F」
および「FA7730F」を開発・製品化したので,その概要
を紹介する。
製品の概要
図1に今回開発・製品化した IC の製品外観を示す。ま
た , 表 1 に 60 V 耐 圧 パ ワ ー MOSFET 内 蔵 の 降 圧 型 ス
イッチング電源制御用 DC-DC コンバータ IC の系列一覧
を示す。
表1 60 V耐圧パワーMOSFET内蔵の降圧型スイッチング電源制御用DC-DCコンバータICの系列一覧
入力電圧
出力
チャネル数
出力電圧
過電流保護
動作周波数
回路方式
10∼45 V
1
3.3 Vまたは1.5 V
ラッチ電流0.9 A
80 kHz
非同期MOS内蔵
PDIP8
FA7702P
10∼45 V
1
任意設定
ラッチ電流1.0 A
80 kHz
非同期MOS内蔵
PDIP8またはSOP8
FA3635P/S
10∼45 V
1
任意設定
ラッチ電流2.0 A
40 kHz
非同期MOS内蔵
PDIP8
FA3685P
10∼45 V
2
チャネル1:1.5 Vまたは5 V
チャネル2:3.3 V
パルスバイパルス
制限電流2.5 A
40∼200 kHz
同期整流MOS内蔵
E-pad TQFP48
FA7730F
10∼45 V
3
チャネル1:5 V
チャネル2:3.3 V
チャネル3:1.5 V
パルスバイパルス
制限電流2.5 A
40∼200 kHz
同期整流MOS内蔵
E-pad TQFP64
FA7726F
藤井 優孝
米田 保
スイッチング電源 IC の開発に従
スイッチング電源 IC の開発に従
事。現在,富士電機デバイステク
事。現在,富士電機デバイステク
ノロジー
(株)
半導体事業本部半導
ノロジー(株)半導体事業本部情
体工場情報・電源開発部。
報・電源事業部 TAC(テクニカ
ルアプリケーションセンター)
。
338(32)
パッケージ
型 名
富士時報
60 V 耐圧 MOSFET 内蔵型降圧同期整流電源 IC
Vol.77 No.5 2004
(2 ) 高出力負荷電流(∼ 1.2 A)
圧のオーバシュートを抑制する。ソフトスタート端子
(3) 電圧検出抵抗を内蔵し,高精度出力電圧を実現:各
チャネルとも+
− 2.5 %
™1.5 V,3.3 V,5 V の 3 チャネル出力:FA7726F
™3.3 V,1.5 V/5 V の 2 チャネル出力(SEL 端子で 1.5
(CS)には内部電流源を内蔵しているため外部にコンデン
サを接続して使用する。
特
集
1
(2 ) オンオフ回路(FA7730F のみ)
チャネルごとに出力を停止することができる。
(3) パルスバイパルス過電流制限回路
V/5 V 切換可能):FA7730F
チャネルごとにメイン MOSFET に流れる電流を監視し,
(4 ) 電源電圧範囲が広い:IC 電源入力 10 ∼ 45 V
2.5 A 以上の電流が流れるとメイン MOSFET のオン期間
(5) 動作周波数範囲が広い:40 ∼ 200 kHz
(6 ) チャネルごとのソフトスタート回路
を小さくすることでメイン MOSFET を流れる電流を制限
(7) チャネルごとのオンオフ機能内蔵(FA7730F のみ)
する。
(8) チャネルごとのタイマラッチ式出力短絡保護回路内蔵
(4 ) タイマラッチ式出力短絡保護回路
チャネルごとに誤差増幅器の出力電圧異常を監視し,タ
(9) 低電圧誤動作防止回路内蔵
(10) パルスバイパルス方式の 2.5 A 過電流制限機能内蔵で
イマラッチ式出力短絡保護回路にてある一定の遅延時間経
パワー MOSFET の保護,コイルの電流飽和防止および
過後,IC 出力を停止する。この遅延時間は内蔵の電流源
電源の過負荷保護
で充電されるタイマラッチ用端子(CP)に接続されるコ
ンデンサ容量で設定することが可能である。
(11) 過熱保護回路内蔵
(12) 小型・薄型・許容損失大の E-pad TQFP パッケージ
(5) 過熱保護回路
™TQFP64 ピン(FA7726F)
IC の温度異常を監視し,145 ℃以上の温度となると,
™TQFP48 ピン(FA7730F)
IC 出力を停止する。誤動作防止のために OHP 端子にはコ
ンデンサを接続する。
2.2 動作説明
(6 ) 低電圧誤動作防止用回路
図2に FA7726F の内部ブロック図を,図3に FA7730F
の内部ブロック図を示す。また,各種動作について以下に
述べる。
電源入力端子(VCC および PVCC)電圧が低下(5.5 V
以下)するとすべてのチャネルの出力を停止する。
(7) 三角波発振器
(1) ソフトスタート回路(共通)
三角波発振器の発振周波数はタイミング抵抗接続端子
チャネルごとのソフトスタート回路にて起動時にデュー
ティサイクルを徐々に広げ,入力電圧の突入電流と出力電
(RT)に 4.6 ∼ 24 kΩの抵抗を接続することで 40 ∼ 200
kHz の間で任意に設定できる。三角波の振幅は 0.6 ∼ 2.0
V であり,各チャネルの PWM コンパレータに入力され
る。
図2 回路ブロック図(FA7726F)
図3 回路ブロック図(FA7730F)
OSC
5V
内部
電源回路
VCC
PWM
誤差増幅 コンパ
器1
レータ1
−
FB1
IN1−
VIN1
1V
+
+
1V
FB3
IN3−
VIN3
+
1V
①
+
−
PWM
誤差増幅 コンパ
器3
レータ3
−
②
+
−
③
PVCC1
REG3
OUT1
FB1
IN1−
VIN1
デ P
ッ
ド
タ
イ N
ム ⑤
デ
ッ P
ド
タ
イ
ム N
④
PVCC2
PGND1
OUT2
3V
内部
電源回路
5V
内部
電源回路
VCC
1V
+
+
−
PVCC1
①
デ P
ッ
ド
タ
イ N
ム ③
PVCC2
②
デ P
ッ
ド
タ
イ N
ム ④
SEL
PWM
コンパ
レータ2
PGND2
PVCC3
FB2
IN2−
VIN2
誤差増幅
器2
−
+
OUT3
1V
+
−
PGND3
過電流制限信号
ch1
② ch2
UVLO_L
④
⑤
GND
③ ch3
OUT1
PGND1
OUT2
PGND2
過電流制限信号
①
ソフト
スタート
回路
REG5
基準
電圧
PWM
誤差増幅 コンパ
器1
レータ1
−
過電流
検出回路
CS1
CS2
①
UVLO_L
③
UVLO_H
FB検出
SQ
R
短絡保護
ラッチ
回路
CP
過熱保護
ラッチ
回路
OHP
ch1
過電流
② ch2 検出回路
ソフト
スタート
回路
ch3
CS3
デ P
ッ
ド
タ
イ N
ム ④
ch2
CS2
OSC
RT
+
−
PWM
誤差増幅 コンパ
レータ2
器2 −
FB2
IN2−
VIN2
CS1
REG5
基準
電圧
④
ch2
内部
電源回路
ch1
REG3
3V
ch1
RT
UVLO_H
FB検出
SQ
R
短絡保護
ラッチ
回路
CP
過熱保護
ラッチ
回路
OHP
GND
339(33)
富士時報
60 V 耐圧 MOSFET 内蔵型降圧同期整流電源 IC
Vol.77 No.5 2004
にもよるが 78 ∼ 91 %である。次に,図7および図8に入
応用回路例
力電圧 10 V 時および 40 V 時の動作周波数と電源総合効率
の関係をそれぞれ示す。入力電圧 10 V 時には出力負荷電
図 4 に FA7726F の応用回路例を, 図 5 に FA7730F の
流が 0.4 A,0.6 A および 0.8 A で 40 ∼ 200 kHz の全動作
応用回路例を示す。一例として,FA7730F は SEL 端子を
周波数領域にて電源総合効率が 85 %以上となっている。
GND 端子に接続しており,出力 5 V と 3.3 V の構成とな
入力電圧 40 V 時には動作周波数 40 ∼ 100 kHz で電源総合
る。また,SEL 端子オープンで出力 1.5 V と 3.3 V の構成
に切り替えることもできる。
図6 動作周波数 120 kHz 時の入力電圧と電源総合効率の
関係(FA7726F)
FA7726F の電源総合効率を 図6 ∼ 図8 に示す。出力電
圧は 5 V,3.3 V および 1.5 V の 3 チャネルである。図6に
f =120 kHz
95
示す。出力負荷電流は各チャネルとも 0.4 ∼ 1.0 A であり,
90
このときの電源総合効率は入力電圧および出力負荷電流値
85
効率(%)
動作周波数 120 kHz 時の入力電圧と電源総合効率の関係を
図4 応用回路例(FA7726F)
80
75
70
I o=0.4 A
I o=0.6 A
I o=0.8 A
I o=1.0 A
65
VIN
(10∼
45 V)
60
GND
50
55
0
10
20
30
40
50
39
CP
40
VIN1
41
VIN2
42
VIN3
22
21
20
19
18
17
(NC)
OHP
23
VCC
38
24
PVCC2
FB3
25
(NC)
37
26
VREG5
IN3−
27
CS1
36
28
(NC)
FB2
29
CS2
35
30
RT
FB1
IN2−
CS3
34
(NC)
31
IN1−
(NC)
32
33
VREG3
入力電圧(V)
15
OUT2
14
13
11
PGND2
10
FA7726F
8
PGND1
51
53
52
54
55
PVCC1
56
57
58
59
60
OUT1
3
2
(NC)
(NC)
PVCC3
(NC)
OUT3
(NC)
50
V in=10 V
95
4
PGND3
49
(FA7726F)
GND
7
(NC)5
GND
46
48
図7 入力電圧 10 V 時の動作周波数と電源総合効率の関係
6
44
47
Vo2
(3.3 V/
1.2 A)
9
43(NC)
45
16
(NC)
(NC)12
61
62
63
1
Vo1
(5.0 V/
1.2 A)
90
85
64
Vo3
(1.5 V/
1.2 A)
効率(%)
GND
GND
80
75
70
I o=0.4 A
I o=0.6 A
I o=0.8 A
I o=1.0 A
65
60
55
50
0
50
図5 応用回路例(FA7730F)
GND
16
VREG3
7
6
5
4
RT
46
42
PVCC2
PGND2
FB1
(NC)
FB2
(NC)
VIN2
GND
26
27
28
29
30
31
32
90
85
GND
(NC)40
OUT2
25
SEL
Vo1
(5.0 V/
1.2 A)
41
IN2−
24
44
33
34
39
38
37
35
36
V in=40 V
95
43
FA7730F
IN1−
23(NC)
47
(NC)45
VIN1
22
250
(FA7726F)
48
21(NC)
200
1
PVCC1
19(NC)
20
2
OUT1
17(NC)
18
3
150
図8 入力電圧 40 V 時の動作周波数と電源総合効率の関係
Vo2
(3.3 V/
1.2 A)
GND
効率(%)
VREG5
8
PGND1
OHP
15
9
(NC)
10
14
VCC
11
CS1
CS2
CP
(NC)
12
13
100
動作周波数(kHz)
VIN
(10∼
45 V)
(NC)
特
集
1
80
75
70
I o=0.4 A
I o=0.6 A
I o=0.8 A
I o=1.0 A
65
60
55
50
0
50
100
150
動作周波数(kHz)
340(34)
200
250
富士時報
60 V 耐圧 MOSFET 内蔵型降圧同期整流電源 IC
Vol.77 No.5 2004
図9 動作周波数 120 kHz 時の入力電圧と電源総合効率の
図11 入力電圧 40 V 時の動作周波数と電源総合効率の関係
(FA7730F)
関係(FA7730F)
95
90
90
85
85
80
80
75
70
I o=0.4 A
I o=0.6 A
I o=0.8 A
I o=1.0 A
65
60
55
効率(%)
効率(%)
f =120 kHz
95
10
20
30
40
75
70
I o=0.4 A
I o=0.6 A
I o=0.8 A
I o=1.0 A
65
60
55
50
0
V in=40 V
50
50
0
50
入力電圧(V)
100
150
200
250
動作周波数(kHz)
図10 入力電圧 10 V 時の動作周波数と電源総合効率の関係
(FA7730F)
と出力電圧の差が大きくなることでスイッチング損失が増
加し,電源総合効率は若干低下するが,電源総合効率は
V in=10 V
95
82 ∼ 87 %と比較的高い効率となっている。
90
効率(%)
85
あとがき
80
75
入力電圧が 10 ∼ 45 V の同期整流パワー MOSFET 内蔵
70
I o=0.4 A
I o=0.6 A
I o=0.8 A
I o=1.0 A
65
60
55
50
0
50
100
150
200
250
動作周波数(kHz)
の 3 チャネル出力および 2 チャネル出力の降圧型 DC-DC
コンバータ IC の概要を紹介した。
現在,電子機器はますます小型化・軽量化・高機能化が
進んでおり,この電子機器を駆動するための電源において
は小型化・高出力化・高効率化のほか低コスト化の要求が
高まっている。そこで,富士電機ではこうした市場要求に
応えるべく,今後パワー MOSFET のさらなる低オン抵抗
効率は 80 %以上と比較的高い効率となっている。
FA7730F の電源総合効率を 図9 ∼ 図11に示す。出力電
化,スイッチングスピードの高速化などにより,電源総合
効率の向上を図った高耐圧同期整流パワー MOSFET 内蔵
圧は 5 V と 3.3 V の 2 チャネルである。図9に動作周波数
の DC-DC コンバータ IC の系列化を進めていく所存であ
120 kHz 時の入力電圧と電源総合効率の関係を示す。出力
る。
負荷電流は各チャネルとも 0.4 ∼ 1.0 A であり,このとき
の電源総合効率は入力電圧および出力負荷電流値にもよる
が 84 ∼ 92 %と高効率を実現している。次に,図10および
図11に入力電圧 10 V 時および 40 V 時の動作周波数と電源
総合効率の関係をそれぞれ示す。入力電圧 10 V 時には出
力負荷電流が 0.4 A および 0.6 A で 40 ∼ 200 kHz の全動作
周波数領域にて電源総合効率が 90 %以上となっている。
入力電圧 40 V 時には入力電圧 10 V 時と比較して入力電圧
参考文献
(1) 野村一郎ほか.汎用 2 チャネル DC - DC コンバータ IC.
富士時報.vol.74, no.10, 2001, p.557- 560.
(2 ) 山田谷政幸.LCD パネル用電源 IC.富士時報.vol.74,
no.10, 2001, p.561- 563.
(3) 藤井優孝.液晶モニタ用 3 チャネル DC- DC コンバータ制
御 IC.富士時報.vol.76, no.3, 2003, p.153- 155.
341(35)
特
集
1
富士時報
Vol.77 No.5 2004
PDP 用中耐圧 MOSFET
特
集
1
原 幸仁(はら ゆきひと)
井上 正範(いのうえ まさのり)
まえがき
の SuperFAP-G を開発し系列化した。また,さらなる小
型化・高効率化の要求に対応するため,より低いオン抵抗
近年,ディジタル家電の「新三種の神器」の一つである
特性を実現できるトレンチ MOSFET の開発を行っている。
薄型テレビの中で,大画面で高精細画像を実現するプラズ
これらの製品を適用することで,サステイン回路部の MO
マディスプレイパネル(PDP)は高画質化・大画面化・低
SFET パラレル素子数削減による実装面積の縮小・実装の
価格化が進み,地上波ディジタル放送が一部で開始された
効率化,低損失化による高効率化および冷却体(ヒートシ
こともあり急速に普及している。
ンク)の小型化が期待できる。
以 下 , SuperFAP - G シ リ ー ズ お よ び ト レ ン チ MOS
PDP の 動 向 と し て , 低 電 力 化 ・ 高 輝 度 化 ・ 静 音 化
(ファンレス化)・薄型化が進んでいる。また,プラズマ
FET について,系列および特徴について紹介する。
発光を制御するサステイン回路も同様に,高効率化・小型
PDP 用パワー MOSFET の特徴
化・薄型化が求められている。図1に PDP の基本回路構
成を示す。サステイン回路はオンオフ回路,メイン回路
(X/Y サステイン回路)
,電力回収回路などから構成され
PDP サステイン回路に使用されるパワー MOSFET は
ており,数十個のパワー MOSFET(Metal Oxide Semi-
低オン抵抗特性が重要である。SuperFAP-G シリーズと
conductor Field Effect Transistor)が用いられている。
トレンチ MOSFET は以下の特徴を持っている。
このサステイン回路は瞬間的に大電流が流れるため,低オ
ン抵抗特性に対するニーズが大きい。また,小型化(パラ
2.1 SuperFAP-G シリーズの特徴
SuperFAP-G シリーズは従来の MOSFET と比較して,
レル素子数の低減)・薄型化(面実装化)も同時に求めら
オン抵抗とターンオフ損失を決める充電時定数であるゲー
れている。
富士電機では,PDP サステイン回路の要求に対応する
ため,高耐圧系を中心に系列化している
SuperFAP-G
技
ト
-
ドレイン間電荷量(Qgd)のトレードオフを改善し,
MOSFET の性能指数である Ron・Qgd を大幅に改善させ
(2 )
(1)
,
術を用い,新たに PDP サステイン用として 150 ∼ 300 V
た。これを実現するために,以下の技術を適用した 。
(1) QPJ 技術
MOSFET のオン抵抗はエピタキシャル層の比抵抗が支
図1 PDP 基本回路構成
配的であるが,単に比抵抗を下げるだけではドレイン
-
ソース間耐圧が低下する。従来の MOSFET はセル構造が
オサ
ンス
オテ
フイ
回ン
路
PFC
DC-DC
Y
サ
ス
テ
回イ
路ン
電
力
回回
路収
ス
キ
ャ
ン
ド
ラ
イ
バ
PDP
パネル
ス
キ
ャ
ン
ド
ラ
イ
バ
アドレス
ドライバ
X
サ
ス
テ
回イ
路ン
電
力
回回
路収
三次元的であり,部分的に電界の高い部分が存在していた。
こ れ を 改 善 す る た め , 図 2 に 示 す QPJ( Quasi-PlaneJunction)構造を開発し,従来の深い p+ウェル層に代え
て,低濃度の浅い p−ウェル層を密に配置することで,平
面的な接合のセルを実現した。これによりセル部の電界を
緩和させることができ,従来に比べ低比抵抗のエピタキ
シャル抵抗層を使用できるようになった。
信号処理
™インタフェース回路
™ロジック回路
QPJ 構造を適用することで n−型シリコンの幅(電流経
路)が狭く,かつ短くなり Qgd が低減できる。一方で n−
型シリコンの幅を狭くすることはオン抵抗の増加につなが
原 幸仁
井上 正範
パワー MOSFET の開発・設計に
宇宙用パワー MOSFET の開発・
従事。現在,富士日立パワーセミ
設計およびパワー半導体素子の開
コンダクタ
(株)
松本事業所開発設
発・設計に従事。現在,富士日立
計部。
パワーセミコンダクタ
(株)
松本事
業所開発設計部。
342(36)
富士時報
PDP 用中耐圧 MOSFET
Vol.77 No.5 2004
り,Qgd とはトレードオフの関係になる。オン抵抗の増加
できるようになった。しかし,従来設計の耐圧構造のまま
は n−型シリコンの電流経路が空乏層の広がりに狭められ
では耐圧構造部の方がセル部より電界が高くなり耐圧を確
ることが原因で,この空乏層の広がりを抑えるために
n−
保できない問題が生じる。セル部に対して耐圧構造部の電
型シリコン領域の不純物濃度の最適化を行い,トレードオ
界を低くすることが必須であり,電界を緩和できる耐圧構
フを改善した。この成果の適用により従来の富士電機製
造の開発が必要となった。低比抵抗のエピタキシャル層を
MOSFET と比較して約 60 %の Ron・Qgd 低減を実現した。
用いて耐圧構造部の電界を緩和させるために,不等間隔
表1に
ピッチの多段ガードリングを適用した。ピッチとガードリ
SuperFAP-G
と従来製品の特性比較を示す。
(2 ) ガードリング
ング本数は電界シミュレーションを行い,セル部より電界
QPJ 構造を適用することで,セル部の電界を緩和する
が低くなるように最適設計を行っている。また,信頼性を
設計となり,低比抵抗のエピタキシャル層を用いることが
確保するため電荷によるチャージアップの影響を受けない
設計とした。
図2 SuperFAP-G と従来製品のチップ構造比較
2.2 トレンチ MOSFET の特徴
ゲート
従 来 , 富 士 電 機 で は 低 オ ン 抵 抗 を 実 現 す る Super
ソース
FAP-G シリーズにて製品の系列化を進めてきた。しかし,
PDP 分野のさらなる低オン抵抗の要求に対応するため,
n+
p + p−
n+
p−
n+
p+
n+
p−
p−
n+
p+
次世代品の開発に注力しており,耐圧 60 V,75 V の自動
p−
車用にて実績のあるトレンチゲート構造技術をベースに,
トレンチ深さ,ウェーハ仕様の最適化などを行い,高性能
n−
化を図っている。
図3にプレーナチップ構造とトレンチチップ構造の断面
n+
比較を示す。トレンチチップ構造はチャネルを貫通した溝
ドレイン
(a)従来のパワーMOSFET
ゲート
表1 SuperFAP-Gと従来製品の特性比較
系列
型式
ソース
項目
n+ + n+
p
p−
n+ + n+
p
p−
n+ + n+
p
p−
n+ + n+
p
p−
n+ + n+
p
p−
n+
p+
p−
n+
n−
n+
ドレイン
(b)SuperFAP-G
SuperFAP-G
従来製品
2SK3535
2SK2254
V DS
250 V
250 V
ID
±25 A
±18 A
PD
270 W
80 W
V GS(th)
3∼5 V
2.5∼3.5 V
R DS(on)
(typ)
75 mΩ
130 mΩ
Qg
50 nC
52 nC
Q gd
16 nC
16 nC
1.20 Ω・nC
2.08 Ω・nC
性能指数
R on・ Q gd
図3 プレーナチップ構造とトレンチチップ構造
ゲート
ゲート酸化膜
n+
( R ch)
p+
ソース
n+
( R ch)
p
p+
p
( R jFET )
( R epi )
ソース
n+
n+
p
p
( R epi )
n+
n+
( R ch)
n+
p
ゲート酸化膜
トレンチ
n−
n−
( R sub )
p+
ゲート
( R sub )
n+
ドレイン
ドレイン
(a)プレーナチップ構造
(b)トレンチチップ構造
343(37)
特
集
1
富士時報
部(トレンチ)にゲート部を形成することで,セルを微細
FET チップの低オン抵抗化とともにパッケージ内部の配
化でき,図4に示すプレーナチップ構造では困難であった
線抵抗の低減が重要となる。特に,オン抵抗が低い 150 V
チャネル抵抗(Rch)成分と JFET 抵抗(RjFET)成分の低
クラスのチップになると,製品のオン抵抗に占めるチップ
減を図ることが可能となる。表2に富士電機の従来 MOS
表面のソース A1 電極が有するシート抵抗の割合が大きく
FET のオン抵抗とトレンチ MOSFET のオン抵抗比較を
なる。図5に T-Pack パッケージの内部構造を示す。ソー
示す。トレンチゲート構造とすることでオン抵抗を大幅に
スアルミワイヤをチップのソース電極の複数箇所にボン
低減できる。
ディング接続することで,シート抵抗の低減を図っている。
表3にシート抵抗の低減効果を示す。
2.3 内部配線抵抗の低減
PDP 用 MOSFET は低オン抵抗が必要なため,MOS
図4 プレーナチップオン抵抗成分(200 V クラス)
図5 MOSFET の内部構造(面実装タイプ)
ベース
フレーム
120
100
オン抵抗比率(%)
特
集
1
PDP 用中耐圧 MOSFET
Vol.77 No.5 2004
R ch+ R acc
エポキシ樹脂
R jFET
半導体チップ
R epi
リードワイヤ
80
60
40
20
R sub
0
プレーナMOSFET
トレンチMOSFET
表2 オン抵抗の比較
表3 シート抵抗(計算値:TO-220系)
オン抵抗 R on(mΩ)
耐圧
R on 低減率
従来MOSFET
トレンチMOSFET
200 V
66
50.6
23.3 %
250 V
100
84
16 %
φ=400 m×2本
φ=400 m×2本
ステッチボンディング
0.4 mΩ
0.2 mΩ
シート抵抗
計算値
表4 PDP用パワーMOSFETの系列一覧
耐圧
BV DSS
定格電流
ID
オン抵抗
R DS(on)
パッケージ
TO-220
TO-220F
T-Pack
(D2-Pack)
TFP
TO-247
TO-3PF
57 A
41 mΩ
2SK3590
2SK3591
2SK3592
2SK3593
ー
ー
65 A
28.5 mΩ
※FMP65N15T2
※FMA65N15T2
※FMB65N15T2
ー
ー
ー
92 A
26 mΩ
ー
ー
ー
ー
2SK3788
2SK3789
100 A
16 mΩ
ー
ー
ー
ー
2SK3882
ー
150 V
45 A
66 mΩ
2SK3594
2SK3595
2SK3596
2SK3597
ー
ー
49 A
50.6 mΩ
※FMP49N20T2
※FMA49N20T2
※FMB49N20T2
ー
ー
ー
200 V
73 A
36 mΩ
ー
ー
ー
ー
2SK3780
2SK3781
100 A
20 mΩ
ー
ー
ー
ー
2SK3883
ー
37 A
100 mΩ
2SK3554
2SK3555
2SK3556
2SK3535
ー
ー
38 A
84 mΩ
※FMP38N25T2
※FMA38N25T2
※FMB38N25T2
ー
ー
ー
59 A
53 mΩ
ー
ー
ー
ー
2SK3778
2SK3779
250 V
300 V
※:開発中
344(38)
100 A
30 mΩ
ー
ー
ー
ー
2SK3884
ー
32 A
130 mΩ
2SK3772
2SK3773
2SK3774
2SK3775
ー
ー
53 A
72 mΩ
ー
ー
ー
ー
2SK3776
2SK3777
86 A
40 mΩ
ー
ー
ー
ー
2SK3885
ー
富士時報
PDP 用中耐圧 MOSFET
Vol.77 No.5 2004
図6 パッケージ系列の外観
イン回路の薄型化に貢献できる面実装品の T-Pack(D2Pack)と TFP も系列化している。
特
集
1
あとがき
富 士 電 機 が PDP 向 け に 系 列 化 し た SuperFAP - G シ
リーズと開発中の中耐圧トレンチ MOSFET の特徴につい
て紹介した。今後も PDP に最適化された製品の開発を行
い,PDP 分野の発展に貢献していく所存である。
参考文献
(1) 山 田 忠 則 ほ か . 低 損 失 ・ 超 高 速 パ ワ ー M O S F E T
「 SuperFAP- G シ リ ー ズ 」. 富 士 時 報 . vol.74, no.2, 2001,
p.114- 117.
(2 ) 徳西弘之ほか.パワー MOSFET「SuperFAP- G シリー
ズ」とその適用効果.富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.593597.
系列および外観
(3) 堀 内 康 司 ほ か . 自 動 車 用 パ ワ ー MOSFET. 富 士 時 報 .
vol.76, no.10, 2003, p.601- 605.
表4 に PDP 用パワー MOSFET の系列一覧を示す。ま
(4 ) Kobayashi, T. et al. High-Voltage Power MOSFETs
た,そのパッケージの外観を 図 6 に示す。耐圧は 100 ∼
Reached Almost to the Silicon Limit. Proceedings of
300 V クラスを系列化しており,パッケージは TO-220 系,
ISPSD’01. 2001, p.435- 438.
TO-3PF 系,TO-247 系を系列化している。また,サステ
345(39)
富士時報
Vol.77 No.5 2004
汎用 PDP スキャンドライバ IC
小林 英登(こばやし ひでと)
多田 元(ただ げん)
澄田 仁志(すみだ ひとし)
まえがき
パネル(LCD)
,40 型から 50 型までは PDP,それ以上は
アドレスドライバIC
FPD 市場は,その画面サイズによって 30 型以下では液晶
アドレスドライバIC
スプレイパネル(PDP)市場も,急速に伸びてきている。
アドレスドライバIC
への移行が進んでいる。FPD の普及に伴いプラズマディ
アドレスドライバIC
アナログ機器からディジタル家電への世代交代が始まり,
テレビは CRT からフラットパネルディスプレイ(FPD)
アドレスドライバIC
図1 PDP モジュールの駆動回路
アドレスドライバIC
スキャンドライバIC
プロジェクタとすみ分けがされていた。しかし,FPD の
サステインドライバIC
特
集
1
スキャンドライバIC
中での競争が激しくなり,画面サイズによるすみ分けがな
PDPパネル
スキャンドライバIC
くなりつつある。このような状況の中,PDP には消費電
流低減や発光効率などの性能向上と,低価格化が求められ
ている。
スキャンドライバIC
PDP ドライバ IC は,走査線を選択するスキャンドライ
バ IC とデータを選択するアドレスドライバ IC(または
データドライバ IC)の 2 種類がある。ドライバ IC はその
図2 スキャンドライバ IC の主な動作
特性が表示品質に影響し,一つのパネルに数多くの IC が
使用されていることより,高性能で低コストであることが
スキャンドライバIC
要求される。
富士電機では,スキャンドライバ IC とアドレスドライ
スキャンドライバIC
バ IC の開発を行っており,本稿では大電流でかつ出力オ
ン抵抗が低い汎用 PDP スキャンドライバ IC「FD3284F」
スキャンドライバIC
の技術について紹介する。
サステインドライバIC
PDP スキャンドライバ IC の特徴
スキャン動作
サステイン動作
PDP モジュールの駆動回路を 図1 に示す。スキャンド
ライバ IC は出力本数が 64 ビットで,XGA(eXtended
Graphics Array)パネルでは 12 個使用される。スキャン
ドライバ IC の主な動作を図2に示す。
この表示放電の繰返しで階調表示を行う。
スキャンドライバ IC は,高耐圧で,予備放電時や表示
(1) スキャン期間
放電時には大電流を流せることが要求される。
100 V の電圧で走査線を選択しアドレスドライバ IC の
PDP スキャンドライバ IC 技術
信号により,表示するセルに予備放電を行う。
(2 ) サステイン期間
160 V の電圧でサステインドライバ IC と交互に動作し,
スキャン期間に予備放電を行ったセルに表示放電を起こす。
富士電機では,従来から SOI(Silicon On Insulator)方
小林 英登
多田 元
PDP ドライバ IC の開発・設計に
高耐圧 IC のデバイス・プロセス
高耐圧デバイスの開発に従事。現
従事。現在,富士電機デバイステ
開発に従事。現在,富士電機デバ
在,富士電機デバイステクノロ
クノロジー
(株)
半導体事業本部半
イステクノロジー
(株)
半導体事業
ジー
(株)
半導体事業本部半導体工
導体工場情報・電源開発部プリン
本部半導体工場情報・電源開発部
場デバイス・プロセス開発部。工
シパルエンジニア。
グループマネージャー。電気学会
学博士。電子情報通信学会会員。
会員。
346(40)
3.1 プロセス・デバイス技術
澄田 仁志
富士時報
汎用 PDP スキャンドライバ IC
Vol.77 No.5 2004
式 誘 電 体 分 離 技 術 を 採 用 し て い る 。 SOI プ ロ セ ス で は
N1 の IGBT と N2 の IGBT が動作し選択波形や非選択
ウェーハコストが高いという欠点があるが,デバイス分離
波形を出力する。予備放電時には N1 の IGBT が大電流を
領域が小さく,寄生トランジスタフリーという特徴があり,
高耐圧・大電流を必要とするスキャンドライバ IC には,
SOI プロセスが適している。
供給する。
(2 ) サステイン期間
N1 の IGBT と D1 のダイオードが動作し,表示放電の
出力デバイスは,IGBT(Insulated Gate Bipolar Tran-
電流を N1 と D1 の両デバイスから供給する。
sistor)をトーテムポールで使用している。スキャンドラ
表示パネルが大きくなると予備放電や表示放電の放電電
イバ IC では,出力回路が 6 割を占めるため出力デバイス
流を多く必要とするため,デバイスのオン抵抗が問題とな
サイズがコストに大きく影響する。IGBT は小さな面積で
る。このデバイスのオン抵抗が高いと発熱量が多くなり,
も大電流を流せるため,スキャンドライバ IC の出力デバ
温度上昇によるデバイス特性の低下,またそれに伴う表示
イスとして最適である。今回は図3および表1に示すよう
品位の低下を招くことになる。N1 の IGBT と D1 のダイ
に,従来より小型化し,従来よりさらに駆動能力を向上さ
オードのオン抵抗を比較すると,D1 のダイオードのオン
せた第三世代の SOI-IGBT デバイスを開発した。
抵抗が 1.4 V/400 mA であるのに対して,N1 の IGBT は
6.0 V/400 mA と高い。N1 の IGBT は,スキャン期間とサ
ステイン期間ともに動作することから,N1 の IGBT のオ
3.2 回路技術
図 4 にスキャンドライバ IC の出力段回路を示す。n
ン抵抗が発熱の影響に対して支配的である。よって,N1
チャネルの IGBT がトーテムポール出力として接続されて
の IGBT デバイスが高い駆動能力を出せるかがスキャンド
いる。ハイサイド側の IGBT(図の N2)は,レベルシフ
ライバ IC 開発の鍵となる。
タによって制御されるが,IGBT のゲートは 5.5 V で駆動
するため,5.5 V のツェナーダイオードをゲート - ソース
3.3 IGBT のゲート制御技術
IGBT は,小さな面積で多くの電流が取れるようにデバ
間に入れて保護している。
次に出力段回路の動作について簡単に説明する。
(1) スキャン期間
イスの電流密度を上げると,安全動作領域が狭くなるため,
予備放電や表示放電時に異常放電が起き過負荷短絡状態と
なると,デバイスが安全動作領域を超えデバイス破壊に至
る。
図3 IGBT デバイス比較
また,出力端子間に金属性のくずが付着して,予期せぬ
過負荷状態に陥った場合も同様に,デバイスが安全動作領
域を超えデバイス破壊に至る。
面積比率90 %
一方,安全動作領域を広げようとして電流密度を下げる
とデバイス面積が大きくなり,コスト的に高くなるという
電流密度と安全動作領域との間にはトレードオフの関係が
存在する。
この電流密度と安全動作領域のトレードオフの問題を解
決するため,N1 の IGBT のゲート電圧を出力の動作タイ
図4 出力回路動作図
N2(IGBT)
従来の第二世代IGBT
今回の第三世代IGBT
アドレス期間時
電流経路
レベルシフタ
(ツェナー
ダイオード)
表1 FD3284Fの特性
項 目
従来品
FD3284F
最大電源電圧(ロジック)
7.0 V
7.0 V
最 大 電 源 電 圧 (高圧)
165 V
165 V
動 作 電 圧 (ロジック)
5.0 V
5.0 V
30∼130 V
30∼130 V
ド ラ イ バ 出 力 電 流
−200 mA/ +1,000 mA
−200 mA/ +1,500 mA
ダイオード出力電流
−1,000 mA/ +1,000 mA
−1,200 mA/ +1,500 mA
動
作
電
圧
(高圧)
サステイン
期間時電流経路
N1(IGBT)
ゲート
コントローラ
D1
(ダイオード)
347(41)
特
集
1
富士時報
汎用 PDP スキャンドライバ IC
Vol.77 No.5 2004
図5 アドレス期間予備放電動作
図7 FD3284F のブロック図
7.0 V
OC1
N1 ゲート電圧
OC2
100 V
LE
CLK
N1 IGBT出力電圧
VDH1
0V
500 mA
1A
DA
N1 IGBT出力電流
スキャン動作
CLR
A/B
図6 FD3284F のローレベル出力オン抵抗(N1)
DB
CLK
LE
DATA Q1 Q1
L1
64
ビ Q2 Q2
ッ
64
ト Q3 Q3 ビ
シ
ッ
CLR
フ
ト
ト
ラ
レ
ッ
ジ
チ
A/B
ス
タ
DATA Q64 Q64 L64
セ
レ
ク
タ
DO1
∼
DO32
GND
VDH2
セ
レ
ク
タ
DO33
∼
DO64
GND
ゲート制御あり
1.6
VDL
1.4
出力電流(A)
特
集
1
4.4 V
GND VDH1 VDH2
1.2
1.0
ゲート制御なし
0.8
0.6
図8 FD3284F のパッケージ外観
0.4
0.2
0
0
5.0
10.0
裏面
(エクスポーズドパッド)
15.0
出力電圧(V)
ミングに合わせて制御する技術を開発した。図5にその動
作を示す。
スキャン動作時,電源電圧 VDL が 5 V のとき,出力を
立 ち 下 げ る に 十 分 な 電 流 だ け を 供 給 す る た め , N1 の
IGBT のゲートに 4.5 V 程度を印加して出力電圧を 100 V
表面
から 0 V に変化させ走査線を選択する。
表面
予備放電が始まり,より多くの電流が必要となると N1
の IGBT のゲート電圧を 7 V へ上げることによって,N1
の IGBT の電流供給能力を引き上げる。
予備放電が終わると,ゲート電圧を再び 4.5 V まで下げ
駆動能力を絞る。さらに,スキャン期間の 1.5 µs を過ぎる
と N1 の IGBT ゲートを徐々に下げ,やがてオフする。こ
れは,N1 の IGBT の正常動作期間以外で動作しないよう
4.1 特 徴
(1) 64 ビット双方向シフトレジスタ(15 MHz CLR 機能
付き)
制御することで,異常放電や端子間短絡などによる,予期
,7 V(ロジック部)
(2 ) 絶対最大電圧: 165 V(高耐圧部)
せぬ過負荷状態による破壊を防止することができる。
(3) 出力動作電圧: 30 ∼ 130 V
ゲート制御を取り入れた N1 の IGBT 特性を図6に示す。
従来の N1 の IGBT より 10 %面積が小さくても,ゲート
(4 ) ロジック電圧: 5 V
(5) ドライブ電流:−0.2 A/+1.5 A(ソース/シンク)
制御することによって,ゲート制御しない場合と比較して
(6 ) ダイオード電流:−1.2 A/+1.5 A(ソース/シンク)
出力電流能力を 2 倍にすることができた。
(7) 外形: TQFP 100 ピン(エクスポーズドパッド)
汎用 PDP スキャンドライバ IC への適用
4.2 回路構成
図7 にブロック図を示す。回路構成は,64 ビット双方
デバイスやゲート
向シフトレジスタ回路部,64 ビットラッチ回路部,デー
制御回路技術を適応した PDP スキャンドライバ IC FD
タセクタ回路部,トーテムポールの出力駆動回路部から構
3284F について以下に紹介する。
成される。
今回開発した,第三世代
348(42)
SOI-IGBT
富士時報
汎用 PDP スキャンドライバ IC
Vol.77 No.5 2004
スキャンドライバ IC 技術とスキャンドライバ IC FD3284F
4.3 従来 IC との特性比較
の特徴について説明した。
表 1 に従来のスキャンドライバ IC と FD3284F の主な
これからさらに激化する FPD 内の競争において,PDP
特性の違いを示す。ドライバの出力電流とダイオードの出
の高性能化と低価格に向けて,今後ともデバイス技術や回
力電流能力が大きく向上している。これは,FD3284F が
路技術・プロセス技術を進化させて市場の要求に応えてい
大型の PDP パネルでも駆動できるように対応しているた
く所存である。
めである。また,FD3284F のパッケージを 図8 に示す。
放熱に適したエクスポーズドパッドの TQFP100 ピンを採
用している。
参考文献
(1) 澄田仁志ほか.PDP スキャンドライバ IC 技術.富士時報.
vol.76, no3, 2003, p.169- 171.
あとがき
(2 ) 多田元ほか.PDP アドレスドライバ IC 技術.富士時報.
vol.76, no3, 2003, p.172- 174.
本稿では,汎用 PDP スキャンドライバ IC として,PDP
349(43)
特
集
1
富士時報
Vol.77 No.5 2004
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
特
集
1
澄田 仁志(すみだ ひとし)
まえがき
図1 PDP 駆動システム
アドレスドライバIC
家庭用テレビのフラットパネルディスプレイ(FPD)
化が目を見張るスピードで進んでいる。この FPD 化を牽
1
2
m
3
スキャンドライバIC
引(けんいん)しているパネルの一つがプラズマディスプ
1
レイパネル(PDP)である。PDP は 2000 年から 2001 年
X
サ
ス
テ
イ
ン
2
にかけて 30 型以上の画面サイズで日本のテレビ市場を立
PDPパネル
ち上げ,その市場は伸び続けている。そしてこの市場拡大
n
を受け,発光効率の向上や低消費電力化,また低コスト化
(1)
など PDP 技術の開発にますますの拍車がかかっている。
1
(2 )
PDP ではパネルの周辺回路が占めるコスト比率が高く,
2
3
m
アドレスドライバIC
PDP を駆動するドライバ IC に対するコストダウンの要求
は年々厳しくなっている。また,ドライバ IC はパネルの
発光を制御するため,ドライバ IC の性能が PDP の性能
レスドライバ IC には,次の性能が求められている。
に直接影響を及ぼす。そのため,ドライバ IC に対しては
(1) 高速出力スイッチングスピード
低コスト化とともに,高性能化が常に求められている。
(2 ) 40 MHz 以上の高速データ転送
PDP はスキャンドライバ IC とアドレスドライバ IC の
二つのドライバ IC で駆動されている。富士電機では両ド
また,スキャンドライバ IC には,次の特徴がある。
(1) 1 出力あたり 400 mA 以上の大電流駆動
( 3)
ライバ IC を 1980 年代から製品化してきた。そして,パ
ネルメーカーからの上記要求に応えるべく,現在も PDP
(2 ) 150 V 以上の高電圧スイッチング
PDP ドライバ IC に搭載する出力回路構成用の高耐圧デ
ドライバ IC の形成に必要な要素技術の開発を進めている。
バイスは,IC の性能を大きく左右する。富士電機では,
本稿では,富士電機で開発した PDP ドライバ IC の要
各ドライバ IC の上記性能を実現するデバイス・プロセス
素技術である,デバイス・プロセス技術について説明する。
技術を IC 別に開発を進めている。現在保有する PDP ド
あわせて,開発技術の動向についても触れる。
ライバ IC 用高耐圧デバイスの性能を図2に示す。
アドレスドライバ IC 向けには 90 ∼ 110 V の耐圧と,3
PDP ドライバ IC の特徴
∼ 80 mA の駆動電流をカバーする性能のデバイスを開発
している。スキャンドライバ IC 向けには耐圧が 140 ∼
PDP 駆動システムを 図1に示す。PDP を駆動するドラ
イバ IC はアドレスドライバ IC とスキャンドライバ IC に
230 V,駆動電流が 5 ∼ 600 mA の性能を備えたデバイス
を開発している。
大別される。XGA(eXtended Graphics Array)クラスの
アドレスドライバ IC では出力回路部を高耐圧の CMOS
PDP では 1 台のパネルに 2 種類の IC がそれぞれ 10 個以
(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)回路で構
上搭載されている。
PDP ドライバ IC の特徴として,80 V 以上の高電圧出力
成可能なため,搭載する高耐圧デバイスは p チャネル
MOS(PMOS)と n チャネル MOS(NMOS)だけでよい。
特性を備えていること,また一つの IC に 64 以上の出力
一方,スキャンドライバ IC では大電流駆動を要すること
端子を有していることが挙げられる。さらに,各 IC には
から出力部には二つの横型 n チャネル IGBT(Insulated
それぞれ固有の性能が求められる。前記の特徴以外にアド
Gate
澄田 仁志
高耐圧デバイスの開発に従事。現
在,富士電機デバイステクノロ
ジー
(株)
半導体事業本部半導体工
場デバイス・プロセス開発部。工
学博士。電子情報通信学会会員。
350(44)
Bipolar
Transistor)を組み合わせたトーテムポー
富士時報
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
Vol.77 No.5 2004
ル回路の構成が不可欠であり,上アーム側の IGBT を駆動
めている。
するための高耐圧 PMOS と NMOS の搭載も必要となる。
章で説明したとおり,アドレスドライバ IC の高耐圧
また,IGBT に並列に接続する高耐圧ダイオードも搭載さ
出力回路部は横型 PMOS と NMOS で構成されている。一
れている。このように,スキャンドライバ IC では搭載す
方,スキャンドライバ IC では横型 IGBT,横型 PMOS と
る高耐圧デバイスの種類と数がアドレスドライバ IC に比
NMOS,そして横型ダイオードによって出力回路部が構
べて多く,それぞれの駆動電流も回路適用部によって異な
成されている。両 IC ともロジック回路部は低耐圧 PMOS
る。そのため, 図 2 に示したとおり,スキャンドライバ
と NMOS で構成されている。
IC 用高耐圧デバイスの仕様はアドレスドライバ IC に比べ
て広範になる。
富士電機では PDP ドライバ IC の高性能・低コスト化
を目指し,アドレスドライバ IC 向けに第四世代デバイ
ス・プロセス技術を開発した。また,スキャンドライバ
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
IC 向けに第三世代デバイス・プロセス技術を開発した。
以下,それぞれの概要について説明する。
表 1 に,2003 年度に開発した PDP ドライバ IC 用デバ
イス・プロセス技術の要素技術を示す。
3.1 アドレスドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
富士電機ではアドレスドライバ IC 用技術を,8 インチ
3.1.1 素子間分離技術
埋込みエピタキシャル基板を用いた pn 接合分離技術を
章で述べたとおり,アドレスドライバ IC 用デバイ
ベースにして開発している。一方,スキャンドライバ IC
ス・プロセス技術のベース技術は埋込みエピタキシャル基
用技術は 6 インチはり合わせ SOI(Silicon On Insulator)
板を用いた pn 接合分離技術である。pn 接合分離技術適
基板を用いた誘電体分離技術をベース技術として開発を進
用の背景は,アドレスドライバ IC の駆動電流が 80 mA と
図2 富士電機製の PDP ドライバ IC 用高耐圧デバイスの性能
積技術が豊富なことにある。そして,2002 年に 8 インチ
小さいことと,高性能・低コスト IC を実現するための蓄
(4 )
ラインへの移行が完了し,8 インチ埋込みエピタキシャル
1.0
基板を用いた製品の供給を開始している。
PDP には電力回収動作があり,アドレスドライバ IC は
駆動電流(A)
電力回収時において無効電力の発生源となる。電力回収の
効率を上げるためには無効電流の発生を抑える必要があり,
そのためには IC に搭載された高耐圧出力デバイスとエピ
0.5
アドレスドライバIC用
高耐圧デバイス
タキシャル基板間で構成される寄生トランジスタの動作を
スキャン
ドライバIC用
高耐圧
デバイス
阻止しなければならない。
富士電機では長年の経験から,この寄生トランジスタの
動作防止ノウハウを蓄積している。第四世代デバイスでは,
0
0
50
100
150
200
250
300
第三世代デバイスよりもデバイス面積の縮小を達成しつつ
寄生トランジスタの注入効率低減も図り,製品仕様を満足
耐圧(V)
する値に制限できている(素子間分離技術は 354 ページの
「解説」参照)
。
表1 2003年度に開発したPDPドライバIC用要素技術
アドレスドライバIC
スキャンドライバIC
分離方式
接合分離
誘電体分離
基板
埋込み エピタキシャル
はり合わせSOI
ウェーハサイズ
8インチ
6インチ
配線
3層メタル/ 1層ポリシリコン
2層メタル/ 1層ポリシリコン
ゲート駆動電圧
ロジック部:5 V
出力回路部: max 90 V
ロジック部:5 V
出力回路部: max 165 V
ロジック部
(低耐圧部)
PMOS/NMOS
要素技術
分離技術
プロセス
表2に第四世代デバイスの基本 DC(直流)特性を示す。
基本仕様ならびに素子構造は第三世代デバイスと同等であ
(4 )
る。第四世代デバイスの製造上の特徴は,次のとおりであ
る。
(1) 微細ルールの採用
(2 ) 3 層メタル配線の適用
表2 第四世代アドレスドライバIC用デバイスの主要DC特性
PMOS/NMOS
B V(V)
デバイス
V th(V)
ダイオード
横型PMOS
横型nチャネルIGBT
デバイス
出力回路部
(高耐圧部)
3.1.2 デバイス・プロセス技術
横型NMOS
横型PMOS
横型NMOS
ダイオード
ロジック部
(低耐圧部)
出力回路部
(高耐圧部)
R on(Ω・cm)
第四世代
第三世代
PMOS
12
0.8
NMOS
13.5
0.6
PMOS
110
3
7.1
10.5
NMOS
115
0.5
5
9.6
351(45)
特
集
1
富士時報
これら二つのアイテムともに IC のチップサイズシュリ
進めてきた。この分離技術には,狭い分離面積と適用デバ
ンクによる低コスト化の実現が採用の大きな狙いである。
イスが無制限といった大きな利点がある。この利点を生か
微細ルールの採用には高速データ転送の実現も目的として
すことにより,高耐圧・大電流・多出力の特徴を備えたス
ある。
キャンドライバ IC にはコストと性能の面から最適な分離
( 5)
第四世代デバイスの特性上の改良点は,次のとおりであ
る。
技術となる。
第三世代スキャンドライバ IC 用デバイス・プロセス技
(6 )
(1) 高耐圧 PMOS の低しきい値電圧化
術では,第二世代と同一の誘電体分離技術を適用している。
(2 ) 高耐圧 NMOS の低オン抵抗化
現在,IC の低コスト化を狙いとして,素子間分離形成工
(1)
に関しては,しきい値電圧調整用イオン注入工程の最
程の簡略化を実現できる改良誘電体分離技術の開発に取り
適化により実現している。また,
に関しては微細ルール
(2 )
組んでいる。
の採用によるデバイスシュリンクと,拡散層形成条件の最
3.2.2 デバイス・プロセス技術
表3に第三世代デバイスの主要 DC 特性を示す。第三世
適化により実現した。
図 3 に出力デバイス用の高耐圧 PMOS と NMOS の電
代デバイスの開発における高性能化のキーワードは,高破
流・電圧波形を示す。図の縦軸は単位チャネル幅あたりの
壊耐量化と高速化である。以下,この二つのアイテムに焦
電流値を示している。 表2 のとおり,第四世代 PMOS の
点を絞って第三世代の技術について説明する。
オン抵抗は第三世代デバイスの約 70 %,NMOS では約
(1) 高破壊耐量化
第二世代までは IC のチップシュリンクを狙いとしたデ
50 %の値を達成している。
バイスシュリンクを主目標としてきたが,駆動能力向上に
3.2 スキャンドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
よるデバイス電流密度の増加がデバイスの破壊耐量に影響
3.2.1 素子間分離技術
を与えるようになってきた。そこで,第三世代においては
富士電機では SOI 方式誘電体分離技術をスキャンドラ
イバ IC のベース技術として,デバイス・プロセス開発を
破壊耐量の向上を重点目標にして取り組んだ。
具体的には IGBT に対して第二世代なみの電流駆動能力
表3 第三世代スキャンドライバIC用デバイスの主要DC特性
図3 第四世代アドレスドライバ IC 用高耐圧 PMOS と
NMOS の電流・電圧波形
電流駆動能力
B V(V) V th(V)
デバイス
第三世代
第二世代
ドレイン ソース間電流(A/cm)
3
ゲート電圧:60 V
2
ロジック部
(低耐圧部)
ゲート電圧:50 V
ゲート電圧:40 V
1
出力回路部
(高耐圧部)
ゲート電圧:30 V
PMOS
12
0.8
NMOS
13.5
0.6
ダイオード
5∼10
nチャネル
IGBT
230
1.2
600 A/cm2 600 A/cm2
PMOS
230
13
13 Ω・cm
22 Ω・cm
NMOS
230
1.2
6.5 Ω・cm
6.5 Ω・cm
ダイオード
190
1.2 V/ 400 mA
1.2 V/ 400 mA
ゲート電圧:20 V
0
0
20
40
60
80
図4 第三世代 IGBT と第二世代 IGBT の負荷短絡耐量破壊時
ドレイン ソース間電圧(V)
間と電流の関係
(a)PMOS
3
25
2
ゲート電圧:5 V
ゲート電圧:4 V
1
ゲート電圧:3 V
ゲート電圧:2 V
0
0
20
40
60
ドレイン ソース間電圧(V)
(b)NMOS
352(46)
80
短絡破壊に至るまでの時間( s)
ドレイン ソース間電流(A/cm)
特
集
1
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
Vol.77 No.5 2004
20
第三世代IGBT
15
10
5
0
500
第二世代IGBT
1,000
短絡開始時の電流(A/cm2)
1,500
富士時報
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
Vol.77 No.5 2004
図5 第三世代スキャンドライバ IC 用高耐圧 PMOS の電流・
図6 PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術の開発動向
電圧波形
アドレスドライバIC用
デバイス・プロセス
ドレイン ソース間電流(mA)
15
★第五世代
0.35 mルール
高精度アナログ
★第四世代
3層メタル
ゲート電圧:170 V
10
★第三世代
8インチ
ゲート電圧:150 V
ゲート電圧:130 V
★第二世代
低 R on
ツインゲート
2005年
★第五世代
8インチ
微細化
新構造
デバイス
2003年
★第四世代
改良誘電体分離技術
相補型IGBT
ゲート電圧:110 V
5
2001年
★第二世代
低 R on
大電流駆動
ツインゲート
0
0
50
100
150
200
ドレイン ソース間電圧(V)
★第三世代
高破壊耐量
高速スイッチング
スキャンドライバIC用
デバイス・プロセス
を維持しつつ,3 倍以上の負荷短絡耐量の確保を目標とし
た。図4に第三世代 IGBT と第二世代 IGBT の負荷短絡耐
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
量の結果を示す。図の横軸は負荷短絡開始時の電流を示し,
の将来動向
縦軸は素子が破壊するまでの時間を示す。
この結果から,第三世代 IGBT は第二世代 IGBT に比べ
図6は富士電機における PDP ドライバ IC 用デバイス・
て同一電流での破壊時間は長く,電流 1,000 A/cm2 では 3
プロセス技術の開発ロードマップである。図中には各世代
倍以上の破壊時間を確保できていることが分かる。すなわ
における重点開発アイテムと,その開発完了年度を示して
ち,第三世代 IGBT は第二世代 IGBT よりも優れた破壊耐
いる。
量を備えている。
富士電機では,2003 年までに第四世代アドレスドライ
破壊耐量の向上は高耐圧 NMOS および PMOS に対して
バ IC 用デバイス・プロセス技術と,第三世代スキャンド
も実施し,各端子に絶対最大電圧が DC 的に印加されても
ライバ IC 用デバイス・プロセス技術を開発完了した。
破壊することがないように設計されている。特に,PMOS
2004 年は第四世代スキャンドライバ IC 用デバイス・プロ
ではゲート端子とドレイン端子に絶対最大電圧が同時に印
セス技術の開発完了を目指し,取り組んでいる。
加される状態が存在し,この電圧印加状態での安全動作領
PDP ドライバ IC に対する低コスト化への要求は一層厳
域を確保しなければならない。第三世代デバイスでは素子
しくなることが明らかであり,技術開発の狙いとするとこ
のソース・ゲート領域の構造を最適化することで安全動作
ろはチップシュリンク可能技術の実現になる。その一つの
領域の確保を可能とした。
ソリューションが微細化であり,第五世代ではスキャンド
図5 に PMOS の電流・電圧波形を示す。第三世代デバ
イスの絶対最大電圧は 165 V である。図のとおり,ゲート
電圧が 170 V の状態においてドレイン - ソース間電圧が
170 V でも素子は正常に動作しており,絶対最大電圧であ
る 165 V 印加時の安全動作領域を問題なく保証できること
ライバ IC も含めてより一層の微細化を進める予定である。
また,第五世代の重要開発アイテムとして,下記が挙げ
られる。
(1) アドレスドライバ IC では,センシング機能の搭載を
可能とする高精度アナログ技術の開発
が分かる。
(2 ) スキャンドライバ IC では,パネルの大画面化に伴う
(2 ) 高速化
大電流駆動化の要求を背景に,さらなる電流密度の向上
高速化においては出力用 IGBT に並列に接続するダイ
と高破壊耐量を実現する新構造デバイスの開発
オードに対して実施した。近年,PDP ドライバ IC におい
ても逆回復特性の優れたダイオードの搭載要求が強くなっ
あとがき
ており,第三世代デバイスの開発においては逆回復特性の
性能向上を図った高速ダイオードの開発に取り組んだ。
富士電機における PDP ドライバ IC 用デバイス・プロ
高速ダイオードの実現にあたってはカソード領域とア
セス技術について,現状技術と今後の取組みを紹介した。
ノード領域のパターンを最適化することにより,第二世代
PDP ドライバ IC にはアドレスドライバ IC とスキャンド
ダイオードに対して 0.2 V 程度の順方向電圧の増加で 1/2
ライバ IC があり,それぞれの IC を形成するために開発
の逆回復時間,逆回復電荷量で 1/5 の性能を達成している。
した素子間分離技術とデバイス技術,そしてプロセス技術
を概説した。
353(47)
特
集
1
富士時報
40 型以上の大画面用 FPD 市場は液晶パネルとの熾烈
(しれつ)な競争が起こっている。液晶パネルとの差異化
を図るために,PDP の高性能化と低価格化に向けた技術
特
集
1
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
Vol.77 No.5 2004
開発が息をつく間もなく進められている。今後ともパネル
メーカーからの要求を満足する PDP ドライバ IC をタイ
ムリーに提供できることを使命とし,その要素技術となる
高耐圧デバイス・プロセスの技術力を魅力あるものに高め
ていく所存である。
p.89- 97.
(2 ) 大久保聡ほか.フラットパネル・ウォーズ艶やかさで競う.
日経エレクトロニクス.no.835, 2002, p.89- 125.
(3) 石川弘之ほか.プラズマディスプレイ駆動用 IC.富士時
報.vol.61, no.7, 1988, p.478- 481.
(4 ) 多田元ほか.PDP アドレスドライバ IC 技術.富士時報.
vol.76, no.3, 2003, p.172- 174.
(5) Sumida, H. et al. A high performance plasma display
panel driver IC using SOI. Proceedings of the 10th
参考文献
ISPSD. 1998, p.137- 140.
(1) 田中直樹ほか.FPD が開くテレビ新機軸大画面,モバイ
ルが離陸.日経マイクロエレクトロニクス.no.209, 2002,
解 説
(6 ) 澄田仁志ほか.PDP スキャンドライバ IC 技術.富士時報.
vol.76, no.3, 2003, p.169- 171.
素子間分離技術
パワーデバイスとその制御・駆動回路をワンチップ
可能なため,搭載デバイスには主にユニポーラデバイ
上に搭載するパワー IC の開発が盛んに行われている。
スが適用される。一方,電気的な完全分離を達成でき
パワー IC の要素技術の一つとなるのが素子間分離技
る誘電体分離技術を適用した場合には搭載デバイスに
術である。これは,隣接するデバイス間で電気的な相
制限はなく,デバイス選択の自由度は無制限である。
互作用が起こることを防止すための技術であり,パ
誘電体分離技術は他の分離技術と比べてコスト的に
ワー IC ではパワーデバイス部と制御・駆動回路部の
不利であった。しかし,その特徴を生かすことにより
分離,あるいはパワーデバイス同士の分離を行うため
コストメリットが見いだされるようになり,最近では
に用いられる。
パワー IC への適用が積極的に試みられている。
素子間分離技術には自己分離技術,pn 接合分離技
術,誘電体分離技術の三つがある。右表は分離技術の
素子間分離技術の性能比較
性能を比較したものである。右表のとおり各分離技術
とも長所と短所があり,パワー IC への要求性能とコ
項目
分離技術
分離性能
分離面積
コスト
ストをかんがみて,適用する分離技術が選ばれている。
自己分離
△
○
◎
素子間分離技術と密接に関係するのがパワー IC に
pn接合分離
○
○
○
誘電体分離
◎
◎
△
搭載する高耐圧横型デバイスの選択である。自己分離
技術および pn 接合分離技術は電気的な完全分離が不
354(48)
*優劣の順は◎>○>△である。
特集 2 放射線システム
放射線機器の可能性
について
特
集
2
中村 尚司(なかむら たかし)
東北大学名誉教授 工学博士
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター研究教授
放射線の利用は現在,工業,農業,医療等と非常に多方
簡単に設置できる小型加速器の開発も様々に進められてい
面にわたっていて,いまや,その経済効果は原子力エネル
る。また,電子蓄積リングからの放射光を用いた,リソグ
ギー利用と匹敵するようになっている。放射線利用の進展
ラフィーなどのマイクロ加工技術,蛋白質等の構造解析な
に伴い,放射線利用機器と放射線測定器への要求は今後と
どの利用も非常に盛んになっている。これらの放射線を利
もますます増えていくものと思われる。
用するところでは,様々なモニタリングのために適した
特に医療の分野での利用は,FDG(フルオロ・デオキ
様々な放射線機器が必要である。
シ・グルコース)の保険適用や I-125 の永久刺入線源の治
一方,今回の BSS(国際基本安全基準)免除レベルの取
療が認められたことや IMRT(強度変調放射線治療)の開
り入れによる法令改正と近々予定されているクリアランス
発も相まって最近急速に進んでおり,X 線 CT,X 線癌治
の導入により,ごく低レベルの放射能や線量を検認する測
*
*
療,PET (陽電子断層撮影)や SPECT(単一光子断層撮
定装置が今後の開発課題になるであろう。さらに,NORM
影)
,粒子線(陽子,重イオン)癌治療,BNCT(ボロン
(自然起源放射性物質)の法令規制が検討されており,昨
中性子捕捉療法)
,ガンマナイフ,サイバーナイフなど,
今のテロ対策や地雷検知など,広く一般市民にも放射線検
広く利用されている。この分野では放射線分布の画像化と
出器の利用が進む可能性が十分考えられる。現在,富士電
そのための良好な位置分解能が必要とされ,それぞれの目
機が製造している簡易線量計が市民対象の教育や PA 活動
的に適した様々な放射線検出器システムが次々と開発され
に利用されているが,これがもっと小型軽量化,低価格化
ている。また,放射線治療においては,被験者の体内外や
されていくと,将来たとえば,スーパーマーケットなどの
人体模擬ファントム内の線量分布の高精度測定が極めて重
店頭で市民線量計などとして販売されるようになる日が来
要であり,小型で人体組織等価な特性を持つ検出器が必要
るかも知れない。そうなると,一般国民の放射線アレル
とされている。
ギーも随分良くなって,放射線に対する正しい理解が進む
また,宇宙環境利用の進展,特に国際宇宙ステーション
ことが期待される。
*
(ISS )での放射線計測が注目され,また最近マスコミ等で
このような状況にかんがみて,今後の放射線機器は,放
航空機乗務員の宇宙線被ばくの問題が取り上げられている。
射線レベルの位置分布の画像化が進むであろうし,また現
一方,地上における宇宙線中の中性子成分が半導体集積素
在のシリコンを中心とする素材から,新しい素材,例えば
子(DRAM,SRAM など)のソフトエラーを引き起こす
今注目を集めている有機半導体素材に移っていくことも十
ことが近年大きな問題となりつつあり,地上における宇宙
分考えられる。このような様々な放射線利用に対応して,
線中性子測定の重要性が増している。宇宙環境においては,
新しい機器の開発に意欲的に取り組んでいくことが非常に
荷電粒子(電子,陽子,α線,重イオン)
,特に陽子が多
重要であろう。この技術開発への取り組みに最も重要なの
く存在し,それと弁別して,非荷電粒子(γ線,中性子)
,
が人材であることは言うまでもない。中堅や若手の技術者
特に中性子を測定することが必要になる。宇宙環境での使
が臆することなく伸び伸びと力を発揮出来て,次代を荷う
用には,小型,軽量の測定器の開発が必要となる。
技術者を次々と育て上げる職場環境を作るとともに,直ぐ
加速器の医療利用に加えて,産業利用として,非破壊検
に儲けにつながらなくても新しい事に積極的に取り組める
査,X 線 CT,滅菌,排ガス処理,イオン注入による材料
ような雰囲気,まさに「プロジェクト X」を組めるような
改質,放射化分析,ラジオグラフィー,PIXE(粒子生成
状況にすることが不可欠である。
特性 X 線分析)
,AMS(加速器質量分析)
,放射性医薬品
製造なども急速に進展し,より安価で,工場や病院などに
( * 印 の PET, ISS, NORM の 詳 細 は 368 ペ ー ジ の
「解説」参照)
355(49)
富士時報
Vol.77 No.5 2004
放射線システムの現状と展望
河野 悦雄(こうの えつお)
まえがき
図1 放射線計測器の生産高の実績と今後の予測
1895 年にドイツの科学者レントゲンが X 線を発見して
250
総合機器
放射線モニタ
放射線応用機器
その他
から 100 年以上が経過し,その間放射線は理工学分野,医
学分野において利用が進められてきた。工業において放射
線計測技術が応用されたのは,主として放射線の物質透過
200
32
27
能力を利用したものであり,鉄鋼や紙・フィルムなどの製
37
22
32
20
造ラインに組み込まれて,対象物の厚さや液面を非接触か
用されてきた。近年,鉄鋼・化学繊維などの生産の海外移
転が進んだことや海外を含めた生産量が伸びないことから
放射線応用計測器の需要は低下傾向が継続している。
一方,放射線モニタは,原子力発電所・原子力関係研究
21
17
37
18
つ高精度で迅速に計測する厚さ計や鋳鉄レベル計として利
21
生産高(億円)
特
集
2
17
19
18
150
17
149 149
142
132 136
133 136
130
100
123
117 110
120
115
機関と大学・病院・薬品工業などラジオアイソトープ利用
108
110
施設に納入されている。原子力発電所の建設が始まると放
射線モニタリング機器としての需要が増加し,次第に放射
50
線機器市場の大部分を占めるようになってきた。病院にお
21
ける放射線診断装置の導入が進んでおり,患者に投与する
25
28
30
29
26
医療用放射性同位元素の使用・管理に合わせて放射性排水
21
11
処理設備とともに放射線モニタの設置が進められている。
図1に
(社)
日本電気計測器工業会で作成した放射線計測
0
10
11
9
16
20
13
29
8
13
18
25
18
14
20
14
15
18
18
15
16
20
20
’
93 ’
94 ’
95 ’
96 ’
97 ’
98 ’
99 ’
00 ’
01 ’
02 ’
03 ’
04 ’
05 ’
06 ’
07
予測
(年度)
器の生産高の実績と今後の予測を示す。放射線モニタの需
要は,原子力発電所の新規建設計画に大きく依存しており,
建設計画の延期が市場規模に影響している。
が使われている。病院における検査にラジオアイソトープ
放射線診断装置の利用が増加しており,放射性同位元素を
放射線システムの現状
体内投与された患者が環境モニタリング装置に近づいたり,
放射性元素運搬車がそばを通過するなどでモニタの指示値
放射線モニタは,環境放射線モニタリング,個人線量モ
ニタリング,表面汚染モニタリング,放出放射性物質モニ
タリング,エリアプロセスモニタリングに分類される。
の変動する機会が増えるようになってきた。最近では,低
レンジモニタにエネルギースペクトル測定機能を持たせて,
通常の測定状況下では予想されないような指示変動がある
環境放射線モニタリングの測定対象は空間γ線線量率,
場合に放射線源の特定ができるようにしている空間γ線モ
ガス状放射性物質濃度および空気中浮遊放射性物質濃度で
ニタリング機器が増えている。この機能と相まってエネル
ある。空間γ線線量率測定には,バックグラウンド線量率
ギー特性補償方式は,計数精度のよいディジタルエネル
から 10 µSv/h までの低レンジモニタと,10 µSv/h から 10
ギー荷重補正になってきている。
mSv/h まで測定する高レンジモニタがある。放射線検出
施設内外の定点連続γ線モニタリングの積算線量測定に
器は NaI(Tl)シンチレーション検出器と球形加圧電離箱
おいては,素子の加熱など測定に関係した処理が必要とな
河野 悦雄
放射線機器の開発・設計,放射線
モニタリングシステムのエンジニ
アリング業務に従事。現在,富士
電機システムズ(株)e- ソリュー
ション本部放射線システム統括部
長。電気学会会員。
356(50)
富士時報
放射線システムの現状と展望
Vol.77 No.5 2004
る熱ルミネセンス線量計などのパッシブ型線量計から線量
の時間変化が履歴として記録できる電子式線量計への移行
技術動向
が進んでいる。
個人線量モニタリングの外部被ばく線量測定では,γ
放射線モニタリング機器には高い信頼性が要求される。
線・β線・中性子が測定できる電子式線量計が実用化され
今後は,小型軽量化・低価格化・長寿命化・高信頼化を目
て線量記録用線量計として使用されるようになってきた。
指して技術開発が進められていく。
特にγ・β線量測定は近い将来,電子式線量計に置換され
放射線検出器については,ガス入り計数管などの有寿命
ていく。線量計と線量リーダとの通信は,赤外線通信から
放射線検出器やパッシブ型検出器は,小型化・軽量化が可
次第に無線通信に移行しており,近距離通信によって線量
能な半導体検出器に置き換えられていく。半導体素子の中
計を作業服などのポケットに着用した状態でのデータ通信
でもシリコン半導体は,常温で安定して動作し,かつ比較
が可能となりつつある。
的人体組織に近い成分を持っているので線量測定に適した
表面汚染モニタリングは,測定対象物に対応して,全身
表面モニタ,物品モニタ,ランドリモニタなどがある。広
素子であり,主要な放射線検出素子として今後も使用され
ていく。
い範囲を短時間で測定することから放射線検出器には,β
核燃料再処理施設や加速器施設の建設が進んでおり,こ
線検出用のプラスチックシンチレーション検出器が使われ
れらの施設では中性子線量計測が重要になってくる。特に
ている。
加速器施設では測定対象とする中性子のエネルギーが 10
エリアプロセスモニタリングに使用されるダストモニタ
MeV を超過し,高エネルギーで低下する中性子検出器の
では, 1 台の放射線検出器でβ線とα線を同時・個別に検
感度を向上させる物質を従来の減速材に加えるなどの新し
出できる放射線検出器が採用されて,ラドン・トロン娘核
い中性子検出器の開発が進められていく。
種などの天然放射性同位元素から放出される放射線の影響
を低減できるようになってきた。核燃料取扱施設では,α
あとがき
線のエネルギー分別ができる大面積の半導体検出器を使い,
プルトニウムの分離測定ができるダストモニタが導入され
ている。
富士電機としては,主として半導体放射線検出器を搭載
し,さまざまな測定条件に最適な特性を持った各種放射線
モニタリング機器の製品化を進めていく所存である。
357(51)
特
集
2
富士時報
Vol.77 No.5 2004
個人線量モニタリングシステム
青山 敬(あおやま けい)
特
集
2
上田 治(うえだ おさむ)
河村 岳司(かわむら たけし)
まえがき
電子式線量計
原子力分野や放射線利用施設の放射線安全管理において
電子式線量計は,従事者が胸のポケットに携帯して作業
は,国際放射線防護委員会(ICRP Pub.60)の勧告を取り
中に受けた放射線の量をリアルタイムで測定・表示し,設
入れた放射線障害防止法令などが 2001 年 4 月に改正され,
定値以上の線量を被ばくした場合に警報を発する機能を持
個 人 被 ば く 線 量 限 度 は 従 来 の 50 mSv/年 に 加 え て 100
つ。センサには小型・低消費電力という特徴からシリコン
mSv/5 年の限度が追加され,管理レベルは厳しくなった。
半導体検出器を使用している。
線量管理に用いる個人線量計は 2001 年から従来のフィ
個人線量計は構造がシンプルで耐久性・信頼性が高い
ルムバッチに変わって蛍光ガラス線量計,OSL(Optically
フィルムバッジなどのパッシブ線量計が従来から広く用い
Stimulated Luminescence)線量計が使用されるように
られてきたが,これらの線量計は線量データを直読できな
なった。これらの線量計は測定値を直読できないため,線
いうえ,月間積算線量データを得るのに時間がかかるとい
量値を直読できかつアラーム機能を備えた電子式線量計が
う欠点があった。そのため国内の原子力発電所では,パッ
近年線量管理用に採用されつつある。
シブ線量計と併用して作業中の線量監視用
(アラーム機能)
海外でも電子式個人線量計の採用が増えており,IEC 規
格においてはγ線,β線および中性子測定可能な電子式線
量計の規格が制定されている。
として電子式線量計を用いていた。
近年では電子式線量計の開発が進み,耐ノイズ・耐衝撃
性を改善して信頼性が向上し,X 線・γ線はもちろんβ線,
国内の電子式個人線量計の規格としては 2002 年に IEC
中性子の測定が可能になってきている。さらに,電子式線
規格と整合を図り,JIS Z 4312「X 線,γ線,β線及び中
量計のデータ通信機能は赤外線・無線方式により外部の
性子用電子式個人線量(率)計」が改定された。
データ処理システムとの連携が容易であり,迅速な測定記
富士電機は 1980 年に半導体検出器を用いた警報付線量
計を開発して以来,現在まで改良を重ねてきている。この
電子式線量計を高機能化し,入退域管理装置を組み合わせ
た富士電機の個人線量管理システムは現在,国内の原子力
施設で約 70 %のシェアを持っている。
録の管理,入退域管理,トレンドデータ測定などシステム
の高機能化が図れる。
電子式線量計の主な特徴を以下にまとめる。
(1) 多線種を同時測定
X 線,γ線に加えてβ線,中性子の同時測定が可能であ
る(世界初)
。
システムの概要
(2 ) データの信頼性
従来の法定線量計(パッシブ線量計)と同等性能である。
個人線量モニタリングシステムは,原子力発電所などの
放射線管理区域内に入域する際に電子式線量計を従事者が
携帯して作業中に受けた放射線の量を測定し,退域時に入
これは実際に原子力発電所で並行運用した測定データの評
価から確認済みである。
(3) 国際規格にも準拠
退域管理装置で線量データを読み取り,計算機システムで
国際電気標準会議(IEC)の電子式線量計の規格(IEC
個人ごとの線量や作業ごとの線量を管理するものである。
61526)
,および国内 JIS 規格(JIS Z 4312)を満足してい
図1にシステムの概要を示す。図中の線量計は電子式線量
る。
計の略である。
(4 ) 無線通信による操作性改善,時間短縮
電子式線量計と入退域管理装置のデータ通信は無線通信
を採用し,ポケットに入れたままでも通信でき,入退域の
青山 敬
上田 治
河村 岳司
放射線モニタリングシステムの開
放射線検出器の開発・設計に従事。
放射線汚染測定装置の開発・設計
発,エンジニアリング業務に従事。
現在,富士電機システムズ
(株)
機
に従事。現在,富士電機システム
現在,富士電機システムズ(株)
器本部東京工場ファインテック機
ズ
(株)
機器本部東京工場放射線装
e-ソリューション本部放射線シス
器部。
置部。
テム統括部放射線システム部担当
課長。原子力学会会員。
358(52)
富士時報
個人線量モニタリングシステム
Vol.77 No.5 2004
図1 個人線量モニタリングシステムの概要
計算機システム
サーバ
作業情報入力
作業エリア
線量計
10cm
作業
A
P
D
特
集
2
無線通信
ポケットに入れたままで,
線量計と無線交信
入退域
管理装置
ポケットに入れた
ままでデータ通信
線量計貸出
線量計
線量計
MULTI
DOSEMETER
I Dカード
線量チェックの自動化
設定値
mSV
γ
時 間
β
APD充
123
A
電器
4 5 6
789
10
B
C
D
線量計貸出
E
F
線量計
入域
G
H
I
I Dカード
J
線量計貸出装置
入退域
管理装置
管理区域
I Dカード
線量計返却
線量計
管理区域内
退域
図2 γ・β線量計
管理区域外
表1 γ・β線量計の仕様
線 量 計 型 式
NRN64311
半導体
検 出 器
検 出 線 種
γ(X)線
β線
検出エネルギー
50 keV∼6 MeV
300 keV∼2.3 MeV
エネルギー特性
±20 %以内
方 向 特 性
±15 %以内
上下左右60°まで
137Cs基準
最近ではこの無線通信機能を拡大して遠隔無線モニタリ
ングにも適用し,システム化を実現している。
Cs基準
±30 %以内
90
Sr/90Y基準
±30 %以内
上下左右60°まで
90Sr/90Y基準
表 示 範 囲
0∼999.99 mSv
0∼999.9 mSv
指 示 精 度
±10 %以内
0.1∼999.9 mSv
±15 %以内
0.1∼999.9 mSv
警 報
操作性が改善され,かつ処理時間を短縮できる。
137
音:100 dB以上,表示灯:LED点滅(赤)
通 信 方 式
無線(LF)および接点
電 源
NiCd充電池(連続12時間以上)
使 用 温 度
0∼50 ℃
国内の多くの原子力発電所では線量管理の合理化,作業
寸 法
110×57×17(mm)
者の負担軽減を目的として,一つの電子式線量計だけを用
質 量
120 g
いる管理に移行している。これらの要求を受けて開発した
γ(X)線・β線用線量計(以下,γ・β線量計と略す)
およびγ(X)線・中性子線量計(以下,γ・中性子線量
計と略す)について以下に紹介する。
γ線用センサはシリコンセンサチップを耐環境性向上の
ためにセラミックパッケージに封止し,入射方向に数種類
の金属から成るエネルギーフィルタを備えてエネルギー特
3.1 γ・β線量計
γ・β線量計はγ(X)線用とβ線用の二つのセンサを
搭載し,それぞれの放射線を同時に計測することができる。
γ・β線量計を図2,主な仕様を表1に示す。
性(γ線のエネルギーによる感度の違い)を補正している。
エネルギー特性を図3,方向特性を図4に示す。
β線用センサは,β線がアルミ板 1 枚で止まるほど透過
力が弱いため,セラミックパッケージの入射方向を厚さ数
359(53)
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個人線量モニタリングシステム
Vol.77 No.5 2004
図3 γ(X)線のエネルギー特性
相対レスポンス(90Sr-Y;30 cm 基準)
図5 β線のエネルギー特性
特
集
2
相対レスポンス(137Cs基準)
1.4
1.2
±30 %
60 keV∼
1.5 MeV
JIS規格
(EP2形)
1.0
0.8
±20 %
50 keV∼
6 MeV
(製品仕様)
0.6
0.4
0.2
0
0.01
0.1
1
1.2
±30 %
500 keV∼
2.3 MeV
(製品仕様)
1.0
0.8
0.6
JIS規格
(EB1形)
500 keV∼
2.2 MeV
0.4
0.2
0
0.1
1
10
β線残留最大エネルギー(MeV)
10
X・γ線エネルギー(MeV)
図6 β線の方向特性
図4 γ(X)線の方向特性
上
基準
0゜
上
基準
0゜
下15゜ 20 %
下30゜
10 %
10 %
下
下60゜
上60゜
−40 %
下80゜
−60 %
−70 %
−50 %
(a)方向特性(β線 上・下)
上90゜
−60 %
137
(a) 線方向特性(
γ
Cs 上・下)
基準
0゜
左15゜ 20 %
10 %
基準
0゜
右
10 %
左40゜
右15゜
−40 %
左60゜
−20 %
−60 %
右60゜
−30 %
右60゜
−40 %
左80゜
−50 %
右80゜
−60 %
右75゜
−70 %
−50 %
左90゜
右40゜
−10 %
右45゜
−30 %
左75゜
右
0%
右30゜
−20 %
左
右20゜
20 %
−10 %
左60゜
30 %
左20゜
左
0%
左45゜
上80゜
−50 %
上75゜
−40 %
左30゜
上60゜
−20 %
−30 %
−30 %
下90゜
下
−10 %
上45゜
−20 %
下75゜
上40゜
0%
上30゜
−10 %
下60゜
上20゜
20 %
下40゜
上15゜
0%
下45゜
30 %
下20゜
右90゜
(b)方向特性(β線 左・右)
137
(b) 線方向特性(
γ
Cs 左・右)
図7 γ・中性子線量計
十 µm の樹脂膜で製作している。エネルギー特性を図5に
示す。
改定された JIS Z 4312 に準拠するため, 図 6 に示すよ
うにβ線方向特性を改善している。これはβ線入射方向の
立体角を拡大して,β線入射窓を大口径化したことによる。
β線入射窓の破損防止については補強材により,通常の取
扱いでは破損しない構造にしている。
3.2 γ・中性子線量計
γ・中性子線量計はγ(X)線用,中性子用の二つのセ
ンサを搭載し,それぞれの放射線を同時に計測することが
。γ・中性子線量計の主な仕様を 表2に示
できる( 図7)
子から 15 MeV まで測定エネルギー範囲が広いため,低エ
す。
ネルギー用に熱中性子センサ,高エネルギー用に高速中性
γ(X)線用センサはγ・β線量計と同様であり,ここ
では省略する。
中性子用センサは,中性子が電離作用を持たないためこ
子センサの 2 種類を搭載している。熱中性子センサは表面
にボロン薄膜を形成したシリコンセンサチップをセンサ
パッケージで封止している。
10
れを直接検出することはできず,水素やボロンと中性子が
ボロン膜中の B 原子は低エネルギーの中性子との反応
反応して発生する荷電粒子を検出している。また,熱中性
断面積が大きく,中性子と反応して発生したα線と Li 原
360(54)
富士時報
個人線量モニタリングシステム
Vol.77 No.5 2004
図8 中性子のエネルギー特性
子核をシリコンセンサで検出している。
高速中性子センサはセンサパッケージ内のシリコンセン
3.0
相対レスポンス(252Cf基準)
サ上にポリエチレン(CH2)を配置し,ポリエチレン中の
水素と中性子が反応して発生したリコイルプロトンをシリ
コンセンサで検出している。
中性子センサの校正は
252
Cf 線源(平均エネルギー 2.3
MeV)を用いている。実際の運用にあたっては,作業環
(1)
境の放射線場に適した校正定数を事前に取得しておくこと
が重要であり,そのために熱中性子センサと高速中性子セ
ンサの計数値の重み付けを変えられる補正定数を内部に設
け,実作業環境下に応じた加重計算を行い,適正な線量値
2.5
2.0
−50∼+150 %
0.025 eV∼15 MeV
(製品仕様)
1.5
特
集
2
1.0
0.5
0
0
0.5
1.0
を表示できるように工夫している。
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
中性子エネルギー(MeV)
エネルギー特性を図8に,方向特性を図9に示す。
図9 中性子の方向特性
表2 γ・中性子線量計の仕様
線 量 計 型 式
NRY50312
検 出 器
半導体
基準
0゜
上
下15゜ 20 %
検 出 線 種
検出エネルギー
エネルギー特性
γ(X)線
中性子
50 keV∼6 MeV
±20 %以内
137
下30゜
−50∼+150 %
(熱中性子場および
241
Am-Be線源:252Cf基準
上30゜
下45゜
0.025 keV∼15 MeV
Cs基準
上15゜
0%
上45゜
下
−20 %
下60゜
上60゜
−40 %
−60 %
下75゜
上75゜
−80 %
方 向 特 性
±15 %以内
上下左右60°まで
137Cs基準
±50 %以内
上下左右60°まで
252
Cf基準
表 示 範 囲
0∼999.99 mSv
0∼999.99 mSv
指 示 精 度
±10 %以内
0.1∼999.9 mSv
下90゜
上90゜
−100 %
(a)中性子方向特性(252Cf 上・下)
基準
0゜
左15゜ 20 %
±20 %以内
0.3∼999.9 mSv
左30゜
右15゜
左45゜
警 報
音:100 dB以上,表示灯:LED点滅(赤)
通 信 方 式
無線(LF)および接点
右45゜
右60゜
−40 %
−60 %
左75゜
NiCd充電池(連続12時間以上)
右
−20 %
左60゜
電 源
左
右30゜
0%
右75゜
−80 %
使 用 温 度
0∼50 ℃
左90゜
寸 法
110×57×17(mm)
質 量
120 g
右90゜
−100 %
(b)中性子方向特性(
252
Cf 左・右)
表3 入退域管理装置
納入先
A社
B社
C社
D社
特 徴
線量計貸出装置と一体型
線量計台数:150台
小型・軽量化で省スペース化
警報表示は大きなLEDを採用
IDカードは無線交信(胸ポケット)
仕 様
対象線量計:NRY1,NRN1
通過方式:フラッパゲート
通過時間:約15秒
寸法(H,W,D):
約1,440×1,350×300(mm)
質量:約300 kg
外 観
対象線量計:NRY4
通過方式:フラッパゲート
通過時間:約7∼8秒
寸法(H,W,D):
約1,300×1,100×300(mm)
質量:約160 kg
対象線量計:NRY5,NRN5
通過方式:ポールゲート
通過時間:約7∼8秒
寸法(H,W,D):
約1,700×1,120×420(mm)
質量:約210 kg
対象線量計:NRY6,NRN6
通過方式:ゲートなし
通過時間:約7∼8秒
寸法(H,W,D):
約1,600×780×400(mm)
質量:約200 kg
361(55)
富士時報
個人線量モニタリングシステム
Vol.77 No.5 2004
ザーのニーズに応えて,電子式線量計貸出装置と一体型の
入退域管理装置
構造をしたものやゲートを設けたものなどがある。いまま
で原子力関連施設に納入した装置の特徴,仕様などについ
て表3に紹介する。外観写真を見ると分かるように,装置
入退域管理装置は管理区域の境界に設置し,入退域の資
格審査を自動で行うものであり,下記の特徴を有する。
ゲートの有無,装置デザイン,カラーなど設置場所ごとに
(1) 電子式線量計と装置間は無線でデータ(線量データや
特色を出して,多種多様のニーズに対応した製品作りを
線量計番号,立入時間,警報値など)を交信する。
行っている。
特 (2) 作業番号の入力を簡素化し,入域時,画面に最新作業
集
件名を表示して選択可能として通過時間の短縮を図って
2
電子式線量計の校正
いる。
電子式個人線量計の校正は JIS Z 4511 に示されている
(3) 装置全体を薄型化・高機能化している。
(2 )
装置の主要構成は,操作画面,線量計交信部,ID カー
図10の体系で行う必要がある。計量法上の認定事業者にて
ド読取部,人検知センサ,状態表示灯などである。ユー
電子式個人線量計をファントム付きで校正し,これを実用
図10 線量計の校正体系
校正装置
照射線量(率)基準
校正区分
照射線量(率)
国家標準
線量当量
換算係数
特定標準器
線照射装置
γ
X線照射装置
一次照射線量(率)
基準
基準校正
特定二次標準器
二次照射線量(率)
基準
線照射装置
γ
X線照射装置
基準測定器
実用照射線量(率)または
実用空気カーマ(率)基準
線照射装置
γ
X線照射装置
基準 線源
γ
ICRUスラブ線量
当量(率)基準
実用基準測定器
ファントム
校正
ICRUスラブ線量
当量(率)基準
実用 線照射装置
γ
実用校正
実用基準 線源
γ
ファントムを
用いない校正
個人線量計
個人線量計
図11 γ線・β線校正装置
6スロット中の任意の
γ線源を選択する。
γ線源収納ケース
音量計
β線照射部
(測定完了ごとに回転し
50台の線量計を校正
する。)
7.2°
γ線源照射用
シリンダ
M
線量計50台同時照射
A7169-18-489
362(56)
富士時報
個人線量モニタリングシステム
Vol.77 No.5 2004
図12 中性子校正装置
カセットを固定する。
カセットの有無を検知する。
線量計(4台)
252
252
Cf 線源
Cf 線源が,測定位置
まで上昇し線量計の
校正を開始する。
特
集
2
線量計ロッカー
(5カセット収納)
制御盤
アームロボット
A7203-18-255
基準測定器として他の同一形式の電子式個人線量計を置換
式線量計を開発し,利用の拡大を図っていく所存である。
( 3)
法によってファントムを用いずに校正することができる。
最後に電子式個人線量計の開発,製品化にあたり,多く
この方法は JIS 規格の実用校正に対応しており,γ線のみ
のご指導・ご協力をいただいた電力会社,原子力施設,各
ならずβ線および中性子についても同じ方法で実用校正が
研究機関などの関係各位に深く感謝する次第である。
可能と考えている。電子式線量計の実用校正は多数の電子
式線量計を校正する必要から,富士電機ではパノラマ照射
装置やロボットアームによる自動化装置などの実用校正装
置を開発している。γ線・β線用と中性子用の校正装置の
例をそれぞれ図11,図12に示す。
参考文献
(1) 被ばく線量の測定・評価マニュアル5.3.3.原子力安全
技術センター.2000.
(2 ) JIS Z 4511 照射線量測定器,空気カーマ測定器,空気吸
収線量測定器及び線量当量測定器の校正方法.日本規格協会.
あとがき
2004.
(3) 南賢太郎,村上博幸.実用測定器校正の現状と今後の展開
個人線量モニタリングシステムにおける富士電機の取組
Ⅲ,JIS Z 4511 の改正と実用測定器校正に関する現状と今
みについて電子式個人線量計を中心に紹介した。今後は多
後 の あ り 方 に つ い て . RADIOISOTOPES. vol.53, no.4,
くの施設で使用できる安価で,使いやすくかつ正確な電子
2004.
363(57)
富士時報
Vol.77 No.5 2004
環境放射線モニタリングシステム
高木 俊博(たかぎ としひろ)
特
集
2
木村 修(きむら おさむ)
皆越 敦(みなごし あつし)
まえがき
ステムを紹介する。
システム構成
原子力発電所などでは,周辺監視区域境界近傍の状況把
握を目的として,環境放射線モニタリングシステムにより,
本システムは,原子力発電所の周辺監視区域境界近傍な
連続的に環境γ線の線量率の測定を行っている。
また,近年においては,原子力発電所の運転に対する一
どに設置されるモニタリングポストや気象観測設備,測定
般公衆への理解を得ることを目的として,測定データを一
データを原子力発電所の中央制御室に送信するテレメータ
般公開するとともに,地方自治体の原子力環境監視施設に
装置,中央側で測定データと警報を表示・管理するデータ
データ伝送するなど,設備として重要な位置づけにある。
監視装置で構成される。図1にシステム構成の例を示す。
本稿では,富士電機の最新の環境放射線モニタリングシ
図1 システム構成(例)
モニタリングポスト局舎(周辺監視区域境界)
発電所内設備
感雨計
NaI
検出部
中央制御室監視盤
計測部
警報
表示灯
テレ
メータ
装置
子局
MO
IC
検出部
計測部
MO
光ケー
ブル
光コン
バータ
通話装置
UPS
空調機,蛍光灯,ファンなど
光コン
バータ
テレメータ装置
親局A系
テレメータ装置
親局B系
表示・監視
制御装置
警報表示
線量率表示
通話装置
分電盤,
耐雷トランス
線量率記録
外部電源
放射性ダストモニタ
気象観測設備
モニタリングポスト局舎(周辺市町村)
PR用ディジタル表示器
NaI
検出部
計測部
警報
表示灯
テレ
メータ
装置
子局
MO
IC
検出部
伝送監視盤
計測部
MO
公衆
回線
伝送部
テレメータ装置
親局A系
通話装置
UPS
空調機,蛍光灯,ファンなど
計算機室
データ
監視装置
分電盤,
耐雷トランス
放射線管理
システム
プロセス
コンピュータ
伝送部
テレメータ装置
親局B系
通話装置
データ
伝送装置
地方自治体への
伝送設備
緊急時対策所
端末
装置
大型
プラズマ
表示装置
外部電源
364(58)
高木 俊博
木村 修
皆越 敦
原子力関連施設の放射線管理シス
原子力施設向けの放射線管理シス
原子力発電所向けの放射線管理シ
テムのエンジニアリングに従事。
テムのエンジニアリング業務に従
ステムのエンジニアリングに従事。
現在,富士電機システムズ(株)
事。現在,富士電機システムズ
現在,富士電機システムズ(株)
e-ソリューション本部放射線シス
(株)e-ソリューション本部放射
e-ソリューション本部放射線シス
テム統括部放射線システム部担当
線システム統括部放射線システム
課長。
部課長補佐。
テム統括部放射線システム部。
富士時報
環境放射線モニタリングシステム
Vol.77 No.5 2004
ている。
モニタリングポスト
低レンジ測定系の検出部は,NaI(Tl)シンチレータ,
フォトマル,アンプ回路,高圧回路,温度補償回路を実装
モニタリングポストは,環境γ線の線量率を連続測定す
し,検出器からは温度に依存しない規格化されたパルス信
るための線量率測定装置をその局舎内に収納する。また,
号を出力できる。計測部は,約 6 インチの TFT(Thin
線量率測定装置と空気中の放射性ダスト濃度を連続測定す
Film Transistor)カラー液晶表示器,エネルギー補償回
る放射性ダストモニタを備える局舎は,モニタリングス
路を含む計測用の CPU 基板と,測定データの表示・伝
テーションと呼ばれる。一般的にモニタリングポスト,モ
送・保存を行う CPU 基板の 2 枚を実装している。本測定
ニタリングステーションは,原子力発電所の周辺監視区域
系では,エネルギー補償方式に DWM(Digital Weighting
境界近傍に 3 ∼ 9 基,周辺市町村に 3 ∼ 22 基設置される。
Method)方式によるスペクトル荷重計算方式を採用する
ことで,計数精度を落とすことなく線量率に換算するとと
3.1 環境γ線の線量率測定装置
環境放射線モニタリングに関する指針に基づき,環境γ
もに,スペクトルデータ分析機能によりγ線エネルギー情
報から放射性同位元素の同定が行える。また,スペクトル
線の線量率バックグラウンド(BG)レベル(数十 nGy/h)
データは定周期で中央側に伝送し,現場に行かなくても解
∼ 10 8 nGy/h の広範囲にわたる測定範囲を低レンジ測定用
析が可能である。
の NaI(Tl)シンチレーション検出部(図2参照)と高レ
高レンジ測定系の検出部は,電離箱,アンプ回路,電圧
ンジ測定用の球形電離箱検出部(図3参照)を組み合わせ
周波数変換回路,高圧回路を実装し,計測部は検出部から
て測定している。
のパルス信号を計数することにより線量率データを表示し
線量率測定装置は,ディジタル化と小型高密度実装技術
ている。本測定系では,球形電離箱検出器の材質を従来の
により,基本構成を検出器と約 21(W)× 23(H)× 30
ステンレス鋼材から比重の小さいアルミニウム製にし,
(D)cm の計測部(図4参照)の組合せによるシンプルな
400 keV 以下の低エネルギー領域のγ線測定精度を向上さ
構成にまとめ,大幅な省スペース化と高い信頼性を実現し
せたタイプも備えている。
測定データの現場での記録方式は,従来の記録計による
図2 NaI(Tl)シンチレーション検出部
データ記録方式から,測定値をディジタル化して光ディス
クに保存することにより,測定値変化の把握,機器の状態
記録,データ保存期間の拡大を図るとともに,パソコンを
利用して簡単にデータ解析ができるようにしている。
通常,高レンジ測定系には,球形電離箱検出器を採用し
ているが,低レンジ測定系に事故時測定の補助機能を付加
することを目的として,BG レベル∼ 10 8 nGy/h の領域を
測定することができるワイドレンジ NaI(Tl)シンチレー
ション検出器を開発し,システム構築している。本システ
ムは,BG レベル∼ 10 5 nGy/h の低レンジ領域は検出器か
らのパルス信号を計測処理し,パルス計測ができなくなる
10 5 nGy/h 以上の高レンジ領域は線量率に比例した電流信
図4 線量率測定装置の計測部
図3 球形電離箱検出部
365(59)
特
集
2
富士時報
環境放射線モニタリングシステム
Vol.77 No.5 2004
ネルで紹介するとともに,高輝度 LED(Light Emitting
号を計測処理する方式を採用している。
低レンジ測定系,高レンジ測定系,ワイドレンジ NaI
測定系の主要仕様を表1に示す。
Diode)式表示器により,環境γ線の線量率をディジタル
。
表示している(図6参照)
局舎内に設置する監視盤は,監視盤の背面を壁に近接し
て設置できるフロントメンテナンス方式の監視盤を採用す
3.2 放射線ダストモニタ
放射線ダストモニタは,空気中の放射性ダスト濃度を連
続測定する装置で,ろ紙に集じんしたダスト濃度を測定す
特
集
2
ることにより,従来必要とした背面メンテナンススペース
をなくし局舎内の小スペース化を図っている。
るダストモニタとダストサンプラを一体型とし,検出器に
ラドン・トロンによる線量変動対策としては,送風ファ
はβ線測定用のプラスチックシンチレーション検出器を採
ンにより検出部の空気を換気するとともに,温度変化を発
用している。また,環境γ線の線量率が警報設定値を超過
生させないよう局舎内の換気を行う熱交換式換気装置を設
した場合にチャコールカートリッジに放射線よう素を自動
置している。
サンプリングする機能も付加している。
また,局舎内には,局舎屋上に設置される検出器を室内
サンプリングポンプは,ろ紙の目づまりなどで流量変動
に取り出す機構を取り付けている。特に,球形電離箱検出
が発生した場合でも,250 L/min の一定流量で連続サンプ
器は重量物のため,昇降装置の設置により,作業性と安全
リングができるようにインバータによる定流量制御を行っ
性を向上させている。
ている。
テレメータ装置
3.3 局 舎
局舎( 図 5 参照)は,ALC(Autoclaved Lightweight
モニタリングポストから中央制御室の監視盤へのデータ
Concrete)板組立局舎を採用し,局舎建設工事期間の短
伝送は,24 時間連続運転に対して高い信頼性と使用実績
縮と低コストを実現している。
のあるプログラマブルコントローラ(MICREX シリーズ)
発電所周辺の市町村に設置する局舎には,環境放射線測
をテレメータ装置とした伝送システムで構築している。伝
定データの一般公開を目的として,モニタリングポストの
送路は,発電所の周辺監視区域境界近傍のモニタリングポ
役割と付近のモニタリングポストの配置をグラフィックパ
ストについては,雷などの外来ノイズ混入による誤信号の
表1 主要仕様
項 目
低レンジ測定系
高レンジ測定系
ワイドレジNaI測定系
検 出 器
NaI(Tl)シンチレーション検出器
球形電離箱検出器
NaI(Tl)シンチレーション検出器
(エネルギーフィルタ付き)
検 出 器 サ イ ズ
直径2インチ×高さ2インチなど
約14.5 L
直径2インチ×高さ2インチ
5
8
BGレベル∼10 nGy/h
BGレベル∼108 nGy/h
測 定 範 囲
BGレベル∼10 nGy/h
指 示 誤 差
±10 %以内
±10 %以内
±20 %以内
エネルギー依存性
50 keV∼3 MeV:±10 %以内
50∼400 keV:±15 %以内
0.4∼3 MeV :±10 %以内
50∼100 keV :±20 %以内
50 keV∼3 MeV:±10 %以内
方 向 依 存 性
±10 %以内
±3 %以内
±10 %以内
±3 %以内
±5 %以内
±5 %以内
温度特性(20 ℃基準)
図5 局舎の外観
366(60)
図6 ディジタル表示器
富士時報
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防止を目的とした光ファイバケーブルを使用し,周辺市町
図7 線量率マップ表示
村のモニタリングポストについては,伝送路確保を容易と
するため,公衆回線を使用している。
テレメータ装置の伝送プロトコルは,アプリケーション
ソフトウェアによるデータ送受信の確認が不要なブロード
キャスト伝送であり,モニタリングポストの測定データを
1 秒周期リフレッシュすることもでき,高速かつ信頼性の
特
集
2
高い伝送を実現している。
モニタリングポストのテレメータ装置は,伝送路の障害
発生時を考慮して,メモリカードに 30 秒値で最大 14 日分
の測定データを保存する機能を有している。保存データは,
伝送路の障害復旧後に中央側のデータ監視装置などから収
集することも可能である。
各モニタリングポストの測定データを収集する中央制御
室のテレメータ装置(親局)は,機器故障による欠測を回
避することを目的に二重化を図り,信頼性を向上させてい
感雨データを同時表示させることにより,降雨に伴う線量
る。
率の変動を一目で把握することができる。なお,グラフの
また,テレメータ装置は,モニタリングポストからの測
定データを線量率に換算する演算機能も有していることか
ら,従来,計算機システムの機能であった警報設定値や測
定データの工学値への換算を可能とし,システムの簡素化
縦軸スケールは自動変更が可能である。
(4 ) 警報履歴表示
システムで発生した警報の発生・復帰を表示する。
(5) 警報表示パネル
システム構成機器の運転状態を一目で把握できるように
が実現できる。
さらに,テレメータ装置は,PE リンク伝送(富士電機
独自の LAN)によりコントローラの拡張が可能であり,
システム構成模式図上に緑(正常)
,赤(警報発生)を表
示する。
〈注 1〉
かつ,シリアル通信,Ethernet などの通信インタフェー
スを備えていることから,地方自治体の原子力環境監視施
設への測定データ伝送についても容易に実現が可能である。
(6 ) スペクトルデータ表示
スペクトルデータを局別または 10 分ごとに時系列に表
示する。
(7) 運用定数設定
データ監視装置
警報設定値や測定データの工学値への換算定数を設定す
る。本設定画面は,パスワード管理者,設定変更者,設定
モニタリングポストの測定データを収集・保存し,デー
閲覧者の分類でセキュリティ管理している。
タ集計処理を行うことにより,データ表示,システム運転
状況の監視,帳票作成などを行うデータ監視装置を中央側
5.2 帳票出力
〈注 2〉
に配置している。データ監視装置は,UNIX サーバ,FA
パソコンなどがあり,システム規模により選定し 24 時間
連続監視を考慮した設計としている。
データ監視装置に UNIX サーバを使用した場合の主要
機能の一例を以下に記す。
(1) 日報
指定日のモニタリングポストごとの線量率など(1 時間
値)を印字する。
(2 ) 月報
指定月のモニタリングポストごとの線量率(1 時間値)
や管理水準値(前年度 1 時間値の平均+
−3σ)を印字する。
5.1 画面表示
(1) 現在線量率一覧
(3) 線量率トレンド
指定期間の線量率などのトレンドを印字する。
線量率データ,気象データの現在値一覧を表示する。
(2 ) 線量率マップ表示(図7参照)
線量率データ,気象データの現在値を地形図上のモニタ
リングポスト位置に表示する。
(3) 線量率トレンド表示
線量率データ,感雨データをトレンドグラフに表示する。
5.3 緊急時対策所でのデータ表示機能
原子力発電所の緊急時対策所には,緊急時のプラント状
態を的確に把握するため大型のプラズマディスプレイ表示
装置が設置され各種プラント情報が表示できる緊急時シス
テムが構築されており,環境放射線のデータも緊急時の重
要データと位置づけられている。
〈注1〉Ethernet :米国 Xerox Corp. の登録商標
〈注2〉UNIX :X/Open Company Ltd. がライセンスしている米国
ならびに他の国における登録商標
本システムでは,この緊急時システムと連携するために
データ監視装置に LAN 接続することで容易に環境放射線
データを出力できる機能を有している。
367(61)
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伝送,計算機システムによる管理などの総合的な技術を駆
あとがき
使して,より信頼性の高いシステムを構築することにより
顧客ニーズに応えていく所存である。
環境放射線モニタリングシステムは,システム保守時を
特
集
2
最後に,本システムの開発設計にあたり,多大なるご指
除いて,原子力発電所の周辺の環境放射線を欠測なく 24
導をいただいた関西電力
(株)
大飯発電所をはじめとする電
時間連続監視しなければならないことから,非常に高い信
力会社,研究施設などの関係各位に対し,厚く謝意を表す
頼性が求められている。最近では,原子力発電所周辺地方
る次第である。
自治体の原子力環境監視施設に環境放射線モニタリングシ
ステムの測定データを伝送され,また,各発電所のホーム
ページにも公開されている。
参考文献
(1) 木村修ほか.環境放射線監視システム.FAPIG. no.163,
こうした状況の中,富士電機では,放射線計測,データ
解 説
放射線関連用語
(1) PET(Positron Emission Tomography:陽電子
断層撮影)
11
13
2003- 3.
15
大な有人の実験研究施設である。1998 年から建設が
始まり,2010 年に完成予定であり,ここには日本の
18
C, N, O, F
等生体を構成する元素で,β+壊
変により陽電子を放出する核種で標識した放射性薬剤
を人体に投与し,それから反対方向に 2 本放出される
実験棟「きぼう」も設置され,研究者が長期滞在して
様々な実験が予定されている。
(3) NORM(Naturally Occurring Radioactive Mate-
511 keV 消滅γ線を人体を取り巻く多数の検出器で測
rials:自然起源放射性物質)
地球誕生以来地殻に存在するウラン,トリウム,40K
定して,体内の蓄積放射能分布を 3 次元的に求め,そ
の結果から生体機能や病気の診断を行うものである。
等の放射性核種を含む物質,モナザイト,チタン鉱石,
脳,心臓,癌の診断等によく使われている。
石炭他や,宇宙線により生成される放射性核種 3H,
(2 ) ISS(International Space Station:国際宇宙ス
テーション)
14
C 等を含む物質をいう。これらは産業用や一般消費
材として生活環境中に広く存在している。現在これら
アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心となり,ロシ
は放射線防護の対象外とされているが,BSS 免除レベ
ア,日本,カナダ,ヨーロッパ連合(EU)が協力し
ルより高い濃度や数量の NORM もあるので,対応が
て進めている,地上から約 400 km 上空に建設中の巨
検討されている。
368(62)
富士時報
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環境放射線測定器
小林 裕信(こばやし ひろのぶ)
酒巻 剛(さかまき つよし)
増井 馨(ますい かおる)
まえがき
測定可能とした機器であり,後者は環境レベルの低線量率
から高線量率まで一つの検出器で測定できるワイド NaI
(Tl)シンチレーション検出器を用いた機器である。
環境放射線測定器は,原子力発電所,研究所,病院など
で環境放射線の測定および管理のため多く用いられおり,
低線量環境線量計
富士電機は用途に応じたさまざまな環境放射線測定器を供
給している。環境放射線測定器は近年,小型化,感度向上
および省力化を求められており,これらニーズに対応した
3.1 概 要
低線量環境線量計は,2000 年から日本原子力発電
(株)
新製品の開発が急務となっている。
ここでは環境放射線測定器の概要と近年開発した新機種
敦賀発電所と共同開発を開始し,2004 年 3 月に製品化を
について紹介する。
完了した。今回開発した低線量環境線量計は従来に比べ検
出器感度を約 100 倍高くすることにより,従来 1 µSv 以上
放射線測定器の種類と用途
の線量に対してしか測定範囲がなかったものを 0.01 µSv
まで測定できるようにした。また,トレンドデータ量は従
富士電機の放射線測定器は,大別すると放射線管理用機
来 1 週間分のデータであったのに対し,ポスト内設置の外
器,放射線監視装置,それらの装置に組み込まれる検出器
部バッテリーにより 3 か月間連続測定を可能にした。これ
に分類できる。表1に主な製品とその用途を示す。
により従来,原子力発電所周辺の環境モニタリングにおい
放射線管理用機器はサーベイメータに代表され,事業所
て使用していた熱ルミネセンス線量計と同様に 3 か月線量
内での放射線漏えい,表面汚染,線源の探索などのため簡
データの収集が可能となった。また,熱ルミネセンス線量
便に使用される。ここで紹介する近年開発した放射線測定
計よりデータ収集が容易なことから作業者のランニングコ
器は,パソコンと組み合わせてデータ処理が行える簡単な
スト低減となり,熱ルミネセンス線量計の代わりに使用す
システム構成で,かつ可搬型のため場所を選ばず環境の放
ることが可能となった。システムの流れを図1に示す。
射能測定ができる「低線量環境線量計」と「可搬式モニタ
ポスト」の 2 機種である。前者は従来に比べ感度を約 100
3.2 特徴と仕様
(1) 低線量環境線量計
倍(当社比)に高めた半導体検出器で低レベルの線量まで
表1 主な放射線測定器
種 類
測定線質
測定範囲
放射線
管理用機器
電離箱式サーベイメータ
シンチレーション式サーベイメータ
GM式サーベイメータ
中性子レムカウンタ
個人線量計
製品名
1 cm線量当量,X瞬間線量測定
低レベルの放射線監視,探索
γ線漏えい線量,β線表面汚染の測定
中性子漏えい線量の測定
原子力施設などの個人被ばく管理
用 途
γ(X)線,β線
α線,β線,γ線
β線,γ線
中性子
中性子,β線,γ線
1 Sv/h∼30 mSv/h
1∼104カウント/s
1∼105カウント/m
0.1 Sv/h∼9.999 mSv/h
0.01∼1,000 mSv
放射線
監視装置
可搬式モニタポスト
低線量用環境線量計
野外での環境放射能測定
環境放射能測定
γ線
γ線
10∼108 nGy/h
0.01∼999,999.99 Sv
検出器,
その他
半導体エリアモニタ検出部
ダストモニタ半導体α線・β線検出器
シンチレーション検出器
γ線電離箱検出器
RIキャリブレータ
放射線施設での空間γ線の監視測定
空気中のじんあいに含まれるα線・β線の測定
プロセスモニタなどに使われる検出器
放射線施設での空間γ線の監視測定
病院で用いるRIの放射能量の測定
γ線
α線,β線
γ線
γ線
γ線
0.1 Sv/h∼10 mSv/h
1∼105カウント/m
用途により各種用意
用途により各種用意
0.1 MBq∼99.99 GBq
小林 裕信
酒巻 剛
増井 馨
放射線検出器,測定器の設計・開
放射線測定器の設計・開発に従事。
放射線検出器,測定器の設計・開
発に従事。現在,富士電機システ
現在,富士電機システムズ
(株)
機
発に従事。現在,富士電機システ
ムズ
(株)
機器本部東京工場放射線
器本部東京工場放射線装置部主任。
ムズ
(株)
機器本部東京工場放射線
装置部グループマネージャー。
装置部課長補佐。
369(63)
特
集
2
富士時報
環境放射線測定器
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特徴を以下に記す。
①
④
本体は結露や水の飛沫(ひまつ)にも耐えられる防
滴構造である。
②
⑤
検出器感度が高いためバックグラウンド(BG)レ
測定データは不揮発メモリに記憶されており,万一
故障した場合でも測定データを読み出すことができる。
概略仕様を表2に示す。
ベルの変動をモニタリングできる。
③
データ収集ターミナルとの非接触通信機能(赤外線
通信)を装備している。
(2 ) データ収集ターミナル
3 チャネルのエネルギー情報データが収集できる。
データ収集ターミナルは,低線量環境線量計の測定結果
特
集
2
を収集するための機器である。特徴を以下に記す。
図1 低線量環境線量計システムの流れ
データ収集
①
小型・軽量で,肩掛けベルトで携帯できる。
②
最大 20 台,3 か月分の低線量環境線量計のデータ
を収集することができる。
データ処理
③
ポストで・・・・
万一,電池切れが発生した場合でもデータを保持で
きる。
(3) データ処理装置
データ収集ターミナルに保存したデータは,RS-232C
でデータ処理装置(パソコン)に伝送される。収集データ
室内で・・・・
は, 1 時間間隔の積算線量値および各エネルギーごとのカ
ウント値を一覧表示する。また,各トレンドデータに大幅
LAN
な変動が認められた場合,その時間における 1 分トレンド
データが採取され詳細にデータ分析ができる。
(4 ) 低線量環境線量計用ポスト
線量計を設置する際の専用ポストで内部にはバッテリー
が搭載でき,低線量環境線量計を 3 か月以上連続動作でき
る。ポストは,直射日光を受けた場合の内部温度上昇を抑
表2 低線量環境線量計の仕様
える通気性,および雨の浸入を防ぐ防滴性を備えた構造と
項 目
内 容
測 定 対 象
γ(X)線
測定エネルギー
50 keV∼6 MeV
測 定 線 量
0.01∼999,999.99
指 示 誤 差
±10 %(
137
なっている。また,低線量環境線量計をポストに設置した
状態でデータ収集ターミナルと通信できるよう配慮されて
いる。
Sv
Cs)
3.3 低線量環境線量計の特性データ
方 向 特 性
±30 %(不感帯を除く)
使 用 温 度
−10∼+50 ℃
外 形 寸 法
W80×D140×H29(mm)
質 量
約300 g
137
Cs 基準での相対感度で+
−10 %以内で
ある。また,低線量環境線量計をポストに設置した際の方
線量率直線性は
向特性は,上下左右ではバッテリーによる不感帯を除けば
137
Cs 基準で+
−30 %以内である。方向特性を図2に示す。
図2 ポストに設置した場合の低線量環境線量計方向特性
条件:137Cs 10 Sv
0°
330° 100 %
0°
330° 100 %
30°
80 %
80 %
60 %
300°
60°
120°
150°
(a)水平方向
370(64)
20 %
120°
150°
180°
(b)上方向
0%
90° 270°
240°
210°
60°
40 %
0%
90° 270°
240°
180°
60 %
300°
20 %
0%
210°
60°
40 %
20 %
30°
80 %
60 %
300°
40 %
270°
0°
330° 100 %
30°
90°
240°
120°
210°
150°
180°
(c)垂直方向
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図3 モニタリングポストとの比較データ
図4 可搬式モニタポストの外観
200
1,800
環境線量計(カウント)左軸
1,600
180
160
1,200
140
1,000
局舎(nGy/h)右軸
800
600
120
100
(nGy/h)
(カウント)
1,400
400
特
集
2
80
200
60
10/29
10/30
10/30
10/31
10/31
11/1
11/1
11/2
11/2
11/3
11/3
11/4
11/4
11/5
11/5
11/6
11/6
11/7
11/7
11/8
11/8
11/9
11/9
11/10
11/10
11/11
11/11
11/12
11/12
11/13
16:27
4:27
16:27
4:27
16:27
4:27
16:27
4:27
16:27
4:27
16:27
4:27
16:27
4:27
16:42
4:42
16:42
4:42
16:42
4:42
16:42
4:42
17:29
5:29
17:29
5:29
17:29
5:29
17:29
5:29
0
日時
図5 環境放射線量率マップ例
3.4 フィールドにおける比較データ
低線量環境線量計とモニタリングポスト(NaI 検出器)
との比較データを図3に示す。モニタリングポストの指示
値(nGy/h)の変動に伴い低線量環境線量計の指示値(カ
ウント値)も追従して変動していることから,BG レベル
での測定で本線量計が高精度で測定可能なことが分かる。
可搬式モニタポスト
4.1 概 要
可搬式モニタポストはワイド NaI(Tl)シンチレーショ
ン検出器を使用し,BG レベルから 10 8 nGy/h までの広い
範囲の空間γ線線量率を測定することができる。小型・軽
量であり運搬・測定が容易に行える。また,内部に GPS
(Global Positioning System)装置,データ送信端末を内
蔵することにより,線量率,位置情報を携帯電話などで送
表3 可搬式モニタポストの仕様
項 目
仕 様
線量率測定範囲
10∼108 nGy/h
低レンジ領域:10∼5×105 nGy/h
高レンジ領域:3×105∼108 nGy/h
線量率測定精度
±10 %(基準:137Cs照射線量率に対して)
信することができる。そのため,非常時における環境放射
線監視用機器として用いられる。外観を図4に示す。
線量率,位置情報を用いた環境放射線量率マップ例を図
5に示す。
方 向 特 性
±20 %(0∼±90 °)
エネルギー特性
低レンジ領域:
±20 %(50 keV以上∼100 keV未満)
±10 %(100 keV以上∼3 MeV以下)
高レンジ領域:
−50∼+25 %(50 keV以上∼100 keV未満)
−10∼+20 %(100 keV以上∼400 keV未満)
±10 %(400 keV以上∼3 MeV以下)
4.2 特 徴
特徴を以下に記す。
(1) 固定式環境放射線モニタのバックアップ測定が可能で
ある。
(2 ) 小型軽量で,運搬・設置が容易である。
指 示 値 変 動
変動係数0.1以下
(3) 全天候型で,野外設置が可能である。また,AC 電源
温 度 特 性
±5 %(20 ℃基準)
がない場所では外部バッテリーにて動作可能である。
(4 ) 測定値は内部メモリに 1 週間(1 分間値にて)の記録
が可能である。
(5) エネルギー特性補償回路および温度補償回路を装備し
ている。
4.4 特 性
10 ∼ 10 8 nGy/h の測定範囲を一つの検出器で測定する
ために,検出器は低レンジ領域,高レンジ領域で使用方法
を変えている。低レンジ領域では,パルス出力型として使
4.3 仕 様
仕様を表3に示す。
用し,高レンジ領域では,電流出力型として使用している。
それぞれの領域でのエネルギー特性を図6,図7に示す。
371(65)
富士時報
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図6 低レンジ領域のエネルギー特性
図7 高レンジ領域のエネルギー特性
1.9
1.3
1
JIS許容範囲
0.7
0.4
0.1
10
レスポンス比
特
集
2
レスポンス比
1.6
1.3
1
JIS許容範囲
0.7
0.4
100
1,000
10,000
エネルギー(keV)
0.1
10
100
1,000
10,000
エネルギー(keV)
同等の性能を持ち,かつ,より多くの放射線データを収集
あとがき
でき,今後の活用が期待される。今後は,低エネルギーお
よび方向特性改善の性能向上を図っていく所存である。
今後,放射線管理の目指す方向は,さらなる被ばく線量
最後に,低線量環境線量計の開発にあたりご指導ならび
の低減と線量測定の省力化・高機能化である。低線量環境
にデータ提供をいただいた日本原子力発電
(株)
敦賀発電所
線量計や可搬式モニタポストは従来の大型の測定器とほぼ
環境保安課の各位に謝意を表する。
372(66)
富士時報
Vol.77 No.5 2004
放射性物質汚染検査装置
長谷川 透(はせがわ とおる)
橋本 忠雄(はしもと ただお)
橋本 学(はしもと まなぶ)
まえがき
の退出を促し,汚染がある場合は非管理区域側へ退出させ
ないようにしている。装置の外観を図1に示す。
原子力発電所では,管理区域外へ放射性物質による汚染
が広がるのを防止するため,管理区域境界に表面汚染検査
2.2 特 徴
モニタを設置し,管理区域から外へ移動されるすべての物
(1) 検出感度
品の表面汚染を監視している。主な表面汚染検査装置とし
β線を 0.4 Bq/cm2 の感度で測定できる。条件を 表 1 に
て,作業者の身体の表面汚染を測定する体表面汚染モニタ,
足場板などの大物から作業員が携帯する工具などの小物ま
図1 体表面汚染モニタ
での表面汚染を測定する物品表面汚染モニタ,管理区域内
で着用する作業服などの表面汚染を測定するランドリモニ
タがある。
さらに,管理区域内で作業する人の体内被ばく(内部汚
染)を測定するホールボディカウンタ,また主に病院など
で使用され,手足および着衣の表面汚染を測定するハンド
フットクロスモニタがある。
富士電機はこれらの装置を,大面積放射線検出器,高速
で演算処理可能な信号処理部,最適な条件で測定可能にす
る機構部,さらに音声案内や大型カラー液晶を採用した
ヒューマンマシンインタフェースを用いて,放射性物質の
高感度・高速な測定を実用化し,全国の原子力発電所に納
入してきた。加えて,これらの装置は自己診断機能を備え,
さらにデータ処理装置とつなげることによって,汚染検査
測定データの一括管理が可能である。
表1 体表面汚染モニタの仕様
本稿では,これらの装置の概要・特徴について説明する。
体表面汚染モニタ
2.1 概 要
体表面汚染モニタは,管理区域の出口に設置され,管理
区域から退出する人の身体表面の汚染の有無を検査する装
項 目
仕 様
検 出 器
プラスチックシンチレーション検出器
検 出 器 数
15∼18面
検 出 感 度
<条件>
BG
測定時間
線源
距離
置である。本装置は,全身表面をカバーできるように検出
器を配置しており,効率よく短時間で測定が行える。また,
頭部は感度よく測定するため頭上検出器が自動昇降する。
昇降範囲は小学生から外国人まで検査が受けられるように,
1,300 mm から 2,000 mm までとなっている。
検査の結果,汚染がない場合は出口側(非管理区域)へ
長谷川 透
0.4 Bq/cm2
0.1 Sv/h
10 秒
U3O8 100×100(mm)
手・足 密着
頭 50 mm
その他 100 mm
処 理 能 力
約20 秒
外 形 寸 法
W860×D1,000×H2,250(mm)
測定室内寸法
W500×D700×H2,000(mm)
質 量
780 kg
橋本 忠雄
橋本 学
汚染モニタ,放射線装置などの開
汚染モニタ,放射線装置などの開
汚染モニタ,放射線装置などの開
発・設計に従事。現在,富士電機
発・設計に従事。現在,富士電機
発・設計に従事。現在,富士電機
システムズ
(株)
機器本部東京工場
システムズ
(株)
機器本部東京工場
システムズ
(株)
機器本部東京工場
放射線装置部。
放射線装置部。日本機械学会会員。
放射線装置部。
373(67)
特
集
2
富士時報
放射性物質汚染検査装置
Vol.77 No.5 2004
示す。
(2 ) 検出器
付け,パイプなどの内面汚染(γ線)を測定できる。
(3) 上面検出器の移動
β線用の大面積プラスチックシンチレーション検出器
を採用している。
図2 大物物品搬出モニタ
(3) 最適測定時間運用機能
通常は一定時間(運用により設定可能)で測定を行う
が,モニタのタイプによっては処理時間短縮の目的で,
特
集
2
バックグラウンド(BG)計数率から検出感度を満足する
最適な測定時間を算出し,自動設定することにより最短の
測定時間でも測定できる。
(4 ) 見学者対応機能
最近は見学者も増加しており,測定時に扉開状態で操作
説明ができる。
(5) 装置の小型化
幅 860 mm,奥行 1,200 mm のタイプ,および限られた
図3 小物物品搬出モニタ
ス ペ ー ス で 設 置 台 数 を 増 や す 目 的 で 幅 800 mm, 奥 行
1,200 mm のタイプもある。測定室の内寸法幅は前者が
400 ∼ 500 mm,後者が 400 ∼ 440 mm で設定できる。
(6 ) メンテナンス性の向上
非管理区域側のオープンスペースでメンテナンスするこ
とができる。
(7) 案内機能
作業者が測定するときは LCD(Liquid Crystal Display)
表示および音声による操作案内を行っているが,外国人へ
の対応として表示および音声を英語に切り替える機能を装
備したタイプもある。
(8) データ処理装置との接続
データ処理装置とのインタフェースは LAN またはシ
リアル伝送が選択できる。データ処理装置では,動作状況
図4 可搬型小物物品搬出モニタ(タイプ 1)
のリアルタイム監視,測定結果表示,帳票,トレンドグラ
フの作成および測定データの長期保存ができる。
(9) デザイン性の向上
開放感のある構造になっているため,被測定者に圧迫感
を与えず測定することができる。
物品表面汚染モニタ
3.1 概 要
物品表面汚染モニタは,管理区域から搬出する物品の表
面および内面が汚染していないことを検査するための装置
で,大物物品搬出モニタ,小物物品搬出モニタ,可搬型小
図5 可搬型小物物品搬出モニタ(タイプ 2)
物物品搬出モニタ,PHS(Personal Handyphone System)
搬出モニタ,クリアランスレベル測定装置がある。それぞ
れの外観を図2∼7に示す。
3.2 共通の特徴
(1) 検出感度
β線は 0.4 Bq/cm2,γ線は 1.1 Bq/cm2 の感度で測定で
きる。条件を表2に示す。
(2 ) β+γ線検出器の採用
β線用とγ線用シンチレータを一体化した検出器を取り
374(68)
プリンタ
AC供給
ユニット
富士時報
放射性物質汚染検査装置
Vol.77 No.5 2004
物品の形状に合わせて上面検出器を下降させて測定を行
自動設定できる。自動設定では,設置場所の BG によって,
うため,物品により近い距離での測定が可能であり,物品
最適のコンベヤ速度を演算して自動設定することができる。
の形状によらず効率のよい測定が行える。
(5) 装置の移動
(4 ) 安全対策
装置には,移動台車(タイヤ付き)を取り付けており,
装置の可動部分であるコンベヤや扉には,測定者が指や
腕をはさまれないように,触れると停止するバースイッチ
や光電スイッチを取り付けている。
バッテリー付きの自走式の移動台車の場合には,一人で装
置を移動させることができる。
(6 ) 横方向への移動
装置を切り返すスペースのない場所で,装置を任意の位
3.3 大物物品搬出モニタ
置に移動させるため,横方向移動用の横向きの車輪を取り
大物物品搬出モニタは,大物物品搬出口に設置し,定期
付けている。
検査時に管理区域から大量に搬出する足場板やパイプなど
の大型で平面状の物品の汚染を効率よく測定するための装
3.4 小物物品搬出モニタ
小物物品搬出モニタは,出入管理室付近に設置し,作業
置である。
者が手持ちで管理区域に持ち込んだ筆記具,工具など小型
(1) 処理能力
検出部の幅が 1,500 mm あるので,足場板やパイプなど
をまとめて測定できる。例えば,パイプ(長さ 4 m)は,
の物品の汚染を効率よく測定するための装置である。
(1) 検出器の配置
汚染測定を行う測定物の形状に対応するため,測定物の
1 時間に 150 本以上測定することができる。
上下,前後,左右の全周囲に検出器を取り付けたタイプと,
(2 ) 測定方法
足場板,パイプなどの長い物品は,コンベヤ上に直接載
せ測定する。一方,クランプ,ボルトなどの小型物品は,
測定物の上下の 2 面に検出器を取り付けたタイプを製作し
ている。
(2 ) 測定物の保管機能
測定皿に並べてコンベヤに載せ測定する。
測定物は測定後非管理区域側のコンベヤに搬出されるが,
(3) 搬出票の作成
測定物品,数量を登録して測定することによって,モニ
タ内蔵プリンタにて搬出票を作成することができる。
測定物を収納するストッカも接続することができる。ス
トッカの収納数は,測定物高さ 100 mm のものを 8 段,測
定物高さ 300 mm のものを 4 段など運用によって選択する
(4 ) コンベヤ速度
コンベヤ速度は,10 ∼ 100 mm/s まで 10 mm/s 単位で
ことができる。
表2 モニタの仕様
モニタ名称
大物物品搬出モニタ
小物物品搬出モニタ
可搬型小物物品搬出
モニタ(タイプ1)
可搬型小物物品搬出
モニタ(タイプ2)
PHS搬出モニタ
検 出 器
プラスチックシンチ
レーション検出器
プラスチックシンチ
レーション検出器
プラスチックシンチ
レーション検出器
プラスチックシンチ
レーション検出器
プラスチックシンチ
レーション検出器
検出器の配置
被測定物の上下
被測定物の上下左右前奥
被測定物の上下
被測定物の上下
被測定物の上下
項 目
検出感度(β線)
<条件>
BG
移動速度または
測定時間
線源
距離
検出感度(γ線)
<条件>
BG
移動速度または
測定時間
線源
距離
0.4 Bq/cm
2
0.1 Sv/h
20 mm/s
0.4 Bq/cm
2
0.1 Sv/h
10 s
0.4 Bq/cm
2
0.1 Sv/h
10 s
0.4 Bq/cm
2
0.1 Sv/h
10 s
0.4 Bq/cm2
0.1 Sv/h
10 s
U3O8 100×100(mm) U3O8 100×100(mm) U3O8 100×100(mm) U3O8 100×100(mm) U3O8 100×100(mm)
30 mm
30 mm
30 mm
30 mm
30 mm
1.1 Bq/cm2
1.1 Bq/cm2
0.1 Sv/h
20 mm/s
0.1 Sv/h
10 s
60
Co 100×100(mm) 60Co 100×100(mm)
30 mm
30 mm
被測定物の寸法
W1,500 mm
D 4,000 mm
H 300 mm
W 500 mm
D 500 mm
H 300 mm
W 420 mm
D 300 mm
H 120 mm
W 310 mm
D 220 mm
H 120 mm
W160 mm
D 60 mm
H 30 mm
被測定物の質量
200 kg
20 kg
5 kg
5 kg
PHSなどの軽量物
被測定物の例
™ビディ足場
™足場用機材
™足場板
™パイプ
™書類
™工具
™筆記具
™小型測定器
™書類
™工具
™筆記具
™書類
™工具
™筆記具
™PHS
外 形 寸 法
W4,550 mm
D 2,110 mm
H 1,950 mm
W1,000 mm
D 1,900 mm
H 1,600 mm
W 550 mm
D 450 mm
H 600 mm
W 400 mm
D 315 mm
H 470 mm
W 260 mm
D 350 mm
H 270 mm
質 量
4,000 kg
1,800 kg
50 kg
18 kg
15 kg
375(69)
特
集
2
富士時報
放射性物質汚染検査装置
Vol.77 No.5 2004
図6 PHS 搬出モニタ
どの廃止措置に伴って発生する金属廃棄物の放射性物質濃
度の放射能レベルを測定し,放射性物質として扱う必要が
ないクリアランスレベル以下であることを確認するもので
ある。本装置は財団法人電力中央研究所が開発した校正手
法を適用した初の実用規模の装置であり,以下の特徴を有
している。
(1) 構成
特
集
2
本装置は,形状計測部,重量計,本体部,検出測定部,
信号処理部で構成される。形状計測部は,不定形状の金属
廃棄物の形状をレーザ光によって三次元的に計測する。検
出測定部はγ線を測定する大面積のプラスチックシンチ
レーション検出器を採用し,金属廃棄物の上下各方向から
図7 電中研式クリアランスレベル検認装置
測定している。また,検出器全体を鉛で遮へいして,高感
度に測定できるようにしている。
(2 ) 機能
金属廃棄物の形状データおよび質量データを用いてモン
テカルロ計算を行い,検出器の放射能測定値を形状を考慮
した値に補正する。質量を測定後,金属廃棄物から放出さ
れるγ線を検出測定することにより,放射能レベルを測定
している。
ランドリモニタ
4.1 概 要
ランドリモニタは,管理区域内で使用した衣類などを洗
濯前,または洗濯後に衣類表面の汚染の有無を効率よく検
査するための装置である。測定対象は,つなぎ服・下着類
3.5 可搬型小物物品搬出モニタ(タイプ 1)
可搬型小物物品搬出モニタは,測定対象をノートや用紙
などの衣類,帽子・手袋・靴下などの小物,ヘルメット・
靴などの成形品である。
のみに限定しており,駆動機構を取り付けていないため,
前モニタは,洗濯前の衣類などで洗濯に適さない高汚染
質量約 50 kg の小型の装置である。また,設置スペースが
品を選別するための装置であり,小物前モニタなどがある。
小さいので,搬出品の多い時期を対象として臨時に設置す
後モニタは,洗濯後の衣類などに汚染が残っているかどう
る運用にも対応できる。
上面検出器の取付け高さを物品搭載面から 40,70,100,
かを検査する装置であり,衣類モニタなどがある。折りた
たみ機,仕分け機は汚染品と正常品を自動的に分別する装
130(mm)の 4 段階から選択して手動設定することがで
置であり,折りたたみ機は分別と同時に正常品の衣類を自
きる。
動的に折りたたむ装置である。これらをモニタと連動させ
ることにより作業の省力化と高速化が実現できる。ここで
3.6 可搬型小物物品搬出モニタ(タイプ 2)
前述の可搬型小物物品搬出モニタをさらに軽量化(約
は特に前モニタ,小物前モニタ,衣類モニタを中心に紹介
する。
18 kg)したもので,付属の肩掛けベルトを使用すること
で,作業員一人で容易に移動させることができる。また,
オプションのバッテリーユニットを使用すると,電源の供
給ができない場所でも運用することができる。
4.2 特 徴
(1) 衣類,小物,成形品などのモニタや前モニタなど,検
査目的と対象物に対応したモニタが完備している。
(2 ) 衣類,小物前モニタは管理区域から持ち出す法令基準
3.7 PHS 搬出モニタ
PHS などの小物の測定に特化したモニタである。装置
外形が 260 × 350 × 270(mm)と小型であるため,カウ
ンタの上の空きスペースを利用して設置することができる。
値の 1/10 を満足する検出感度を有している。
(3) 処理能力が高く,衣類モニタではつなぎ服を 1 時間に
250 着程度処理できる。
(4 ) 衣類モニタの搬送部では従来の金網コンベヤに替わり,
最近では低コスト,低騒音,高寿命の樹脂性丸ベルトも
3.8 電中研式クリアランスレベル検認装置
電中研式クリアランスレベル検認装置は,原子炉施設な
376(70)
採用している。
(5) 除電器を搭載することにより,作業員を静電気の
富士時報
放射性物質汚染検査装置
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ショックから守る。
始し一定時間測定後結果を表示する。汚染ありと判定され
(6 ) 測定系の動作については豊富な自己診断機能を持って
たときには警報を出す。また,バケット部は除染を考慮し,
おり,健全性の確認が容易にできる。
図9 小物前モニタ
4.3 機 能
(1) 衣類モニタ
測定対象は洗濯後の衣類,小物であり,折りたたみ機と
特
集
2
連動して使用するときは衣服だけを対象とする。モニタに
投入された測定対象物は上下のコンベヤで挟み,上下に配
置された検出器の間を移動することによって汚染検査され
る。搭載している大面積β線検出器はコンベヤ全幅にわた
って不感体部分がなく,従来に比べて全体を小型・軽量化
している。折りたたみ機を接続する場合は正常品と汚染品
は自動的に分別され,正常品は折りたたまれる。衣類モニ
タの外観を図8,仕様を表3に示す。
(2 ) 小物前モニタ
測定対象物を洗濯前の小物専用とし,測定方式は衣服モ
ニタと同様で,本体後部に仕分け機を搭載し正常品と汚染
表4 小物前モニタの仕様
品の分別をしている。また,運用方法の違いで,汚染品を
項 目
挿入部に戻すことにも対応している。また,ぬれた小物に
測定線種
γ線
対応可能な耐久性の高いベルトを採用している。小物前モ
検 出 器
プラスチックシンチレーション検出器
ニタの外観を図9,仕様を表4に示す。
(3) 前モニタ
洗濯前の衣類などをステンレス鋼製バケット
(ウェル部)
に投入し,汚染検査を行う。投入すると自動的に測定を開
内 容
検出感度
1.0 Bq/cm2 以下
(移動速度100 mm/s,使用線源
処理能力
下着相当 約250着/h以上
外形寸法
約H1,420×W950×D2,500(mm)
質 量
約1,600 kg
図8 衣類モニタ,折りたたみ機
図10 前モニタ
表3 衣類モニタの仕様
表5 前モニタの仕様
60
内 容
項 目
測定線種
β線
測定線種
γ線
検 出 器
プラスチックシンチレーション検出器
検 出 器
NaI(Tl)シンチレーション検出器
検出感度
1.0 Bq/cm2 以下(使用線源 60Co)
0.37 Bq/cm2 以下(使用線源 U3O8)
検出感度
項 目
Co)
内 容
37 Bq/cm2 以下(使用線源
60
Co)
処理能力
300 kg/h以上
(収集袋1袋あたり5 kg処理時間60 秒/回で評価)
約H1,350×W1,000×D2,500(mm)
突起物含まず。
外形寸法
約H1,000×W800×D950(mm)
突起物含まず。
約3,000 kg
質 量
約2,500 kg
処理能力
約250着/h以上
外形寸法
質 量
377(71)
富士時報
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簡単に取外しできる構造となっている。従来に比べ全体を
小型化し設置スペースが小さい。前モニタの外観を図10,
仕様を表5に示す。
(3) 被検者への配慮
被検者は遮へい体内部に入って受検しなければならない
が,音声や表示により測定案内を行い被検者が戸惑うこと
のないように配慮している。また,角の少ない柔らかいデ
ホールボディカウンタ
ザインにすることで遮へい体の威圧感を軽減している。
さらに,測定中にビデオなどの映像を提供するなど,被
5.1 概 要
特
集
2
検者の測定中の負担を軽減する事例もあり,受検時の快適
ホールボディカウンタ(WBC)は,管理区域内で作業
を行う放射線業務従事者の体内汚染有無の判定および体内
汚染時の定性・定量分析,預託実効線量当量(内部被ばく
さの向上を図っている。
(4 ) 管理者の負担軽減
被検者への測定案内から測定までを自動的に実施するこ
線量当量)算出に必要な体内放射性物質量の把握のために,
とができ,測定終了と同時に測定データは上位計算機に伝
体内の放射性物質から放出されるγ線を体外から測定する
送される。このデータは,管理区域入域の際に実施される
装置である。
WBC 受検有無のチェックなどに使用される。
5.2 特 徴
で確認することができる。データ処理装置のソフトウェア
また,測定結果はデータ処理装置に保存され,その画面
〈注〉
に Windows を採用したことにより視認性が向上し,測定
(1) 目的に合わせた測定系
体内汚染有無判定のための測定をスクリーニング測定,
体内汚染時に実施する測定を精密測定といい,それぞれス
結果の確認チェックを容易にしている。
さらに,夜間や休日でも ID カードがあれば測定できる
クリーニング測定用 WBC,精密測定用 WBC を製作して
いる。
〈注〉Windows :米国 Microsoft Corp. の登録商標
スクリーニング測定用 WBC,精密測定用 WBC のベッ
ド型の仕様を表6,表7に示す。
図11 ベッド型ホールボディカウンタ
(2 ) 形状
WBC は測定時の被検者の姿勢により,ベッド型とチェ
ア型に分類される。ベッド型では被検者が寝たベッドを遮
へい体内に進入させることで測定を実施する。チェア型で
は被検者が開放型の遮へい体の中のいすに座って測定を受
けるようになっている。また,部屋全体を 200 mm 厚さの
鉄板で囲った密閉型の遮へい体を使用した場合もある。出
入口は扉を使用したタイプと迷路にしたタイプとがあり,
低 BG で精密な測定が行えるという特徴がある。
それぞれの外観を図11,図12に示す。
表6 スクリーニング測定用ホールボディカウンタの基本仕様
検 出 器
プラスチックシンチレーション検出器
またはNaIシンチレーション検出器
遮 へ い 方 式
シャドウシールド方式(ベッド型)
測 定 時 間
30 秒∼2 分
エネルギー範囲
0.1∼2.0 MeV
BG 値
約2,500∼4,000 m−1(30 分測定)
検 出 感 度
約150∼250 Bq(137Cs)
約50∼100 Bq(60Co)
表7 精密測定用ホールボディカウンタの基本仕様
検 出 器
高純度ゲルマニウム検出器
またはNaIシンチレーション検出器
遮へい方式
シャドウシールド方式(ベッド型)
測定時間
BG 値
検出感度
378(72)
約10 分
約2,500∼4,000 m
−1
(0.1∼2.0 MeV:30 分測定)
約120∼150 Bq(137Cs)
約60∼90 Bq(60Co)
図12 チェア型ホールボディカウンタ
富士時報
放射性物質汚染検査装置
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ことから,管理者の負担低減に大きく貢献している。
図13 ハンドフットクロスモニタ
(5) データ管理方法多様化への対応
データ処理装置にエンドユーザーコンピューティング
(EUC)機能を付加し,管理内容に応じて必要なデータを
抽出でき,要求に応じた画面帳票レイアウトにすることが
可能である。
(6 ) 無人化対応
特
集
2
入力作業の省力化から無人化までに対応するために,
ネットワークを有効活用して,上位計算機と入力データを
共有し,さらに関連部門,関連会社に対する該当測定デー
タの送信,WBC 受検スケジュール管理などのシステム化
を実施している。そして,定期利用者には,無人で測定が
可能になるようなシステムも進めている。
ハンドフットクロスモニタ
6.1 概 要
ハンドフットクロスモニタは,研究所,病院,原子力発
表8 ハンドフットクロスモニタの仕様
項 目
内 容
電所など,放射性物質を取り扱う施設の汚染検査室などに
測定線種
β線
設置し,作業者の手・足,衣服などに付着した放射性物質
検 出 器
プラスチックシンチレーション検出器
検出感度
1.0 Bq/cm2 以下(使用線源 36Cl)
0.2 Bq/cm2 以下(使用線源 U3O8)
の表面汚染を検知するモニタである。放射性物質から放出
される放射線のうち,β線を検出し,あらかじめ設定され
た警報レベルを超えると警報音を発し,手・足および衣服
測定時間
15 秒(1∼999 秒で任意設定可能)
の汚染部位を表示する。
外形寸法
H1,350×W630×D730(mm)以下
質 量
約80 kg
ハンドフットクロスモニタの外観を図13,仕様を表8に
示す。
6.2 特 徴
(1) 手・足を測定位置に載せるだけで,自動的に測定・汚
染判定・表示を行う。
定の場合は BG 測定を優先し,設定回数の BG 測定が終了
した後で汚染測定が可能になる。通常は BG 測定を行い最
新の BG 値に更新する。
(2 ) 定期的に BG を自動測定し,最新 BG 値による減算を
汚染測定は,手・足汚染測定と衣服汚染測定の 2 種類が
行い,BG の変動による影響を少なくして正確な汚染の
あり,それぞれ単独で行う。手・足汚染測定は手・足検知
測定を行うことができる。
(3) 最新 BG 値により検出限界を算出し,測定時間を自動
的に変え,短時間で汚染測定ができる。
(4 ) 汚染発生時は,カラー表示器に汚染部位がグラフイッ
クで表示され,測定結果が容易に確認できる。
(5) プラスチックシンチレーション検出器を使用している
ので寿命のある GM 管と違い,交換の必要がない。
用のセンサがすべて検知した時点で測定を開始し,測定終
了後に判定結果を画面で表示する。衣服汚染測定は備え付
けのプローブ形の検出器を使用し,衣服表面をサーベイし
ながら測定する。結果はリアルタイムで画面に表示される。
汚染測定が終了した後,測定結果が異常の場合には,測定
者の汚染かモニタの異常か否かを判定できる BG 確認の設
定も可能である。
(6 ) 衣服汚染測定用の検出器はプラスチック製で軽い。
(7) 足台が低いので,測定時に乗りやすい。
あとがき
(8) 背面側の車輪を利用すると,一人でモニタを移動させ
ることができる。
今後は,①最近の表面汚染検査装置類の JIS 制定に伴う
(9) 3 分割が可能であり,搬入・設置が簡単にできる。
装置の開発,②海外拡販に向けた,IEC 規格に対応した低
(10) 足測定部の汚染防止膜の巻取り,交換が容易である。
価格機種の開発,という課題を推進し,さらなる市場拡大
(11) オプションでプリンタ印字も可能である。
を図っていく所存である。
最後に,ご指導・ご協力をいただいた電力会社の関係各
6.3 機 能
位に深く感謝する次第である。
BG 測定と汚染測定の二つを繰り返し行う。BG が未測
379(73)
富士時報
Vol.77 No.5 2004
大規模放射線監視システム
藤本 敏明(ふじもと としあき)
特
集
2
伊藤 勝人(いとう かつひと)
中島 定雄(なかしま さだお)
まえがき
設に分散配置されたような大規模な放射線監視システムで
はシステム構成上大きな制約を受けることとなる。
原子力施設では,施設に従事する者および周辺住民の放
近年,原子力施設の放射線管理の高度化が進む中で,放
射線防護の観点からさまざまな法令,基準に基づいて適切
射線監視システムに対して,より一層の信頼性の向上や保
な放射線管理を行っている。放射線監視システムは,施設
守・点検の省力化,監視機能の向上が求められてきた。
内の作業環境の放射線状況や施設外に放出する気体,液体
の放射能濃度の監視を 24 時間連続で行うためのものであ
り,非常に重要なシステムに位置づけられている。
一方,技術開発面においては,IC などの半導体技術,
情報処理技術の開発の進歩が目覚ましい。
このような背景のもと,富士電機は,最新技術を取り入
放射線監視システムは,各作業場所に放射線検出部を設
れた大規模放射線監視システムを開発したので紹介する。
置し,そこから得られた信号を中央制御室に伝送し,放射
大規模放射線監視システムの概要
線監視盤にて放射線レベルや警報発生の有無を集中監視す
るとともに,放射線管理用計算機にてデータ処理を行い,
放射線監視システムの開発は, 図 1 に示す方針により
画面や帳票を出力するものである。
従来のシステムは,放射線というごく微弱な信号を電気
行った。
信号に変換しその信号を増幅,伝送しなければならないこ
(1) 新しい放射線センサの開発を行う。
と,また,測定する放射線の種類により検出機構が異なっ
(2 ) 放射線検出部をインテリジェント化し,信頼性,保守
ており,それに起因して後段の信号伝送方法が異なってい
性を向上するとともに,従来現場と中央に分散していた
ることから,各作業場所に設置された放射線検出部と中央
放射線計測特有の機能を放射線検出部に集約し,伝送イ
制御室に設置の放射線監視盤とは 1 対 1 にケーブル接続さ
ンタフェースの汎用化を図る。
れた構成となっていた。この基本的システム構成は,従来
(3) 放射線検出部から中央制御室までの信号伝送に最新の
から大きな変化がみられず,多数の放射線モニタが複数施
情報伝送技術を取り入れ,大量データの高信頼・高速伝
図1 放射線監視システムの開発方針
ー現場ー
ー中央制御室ー
放射線モニタの高機能化
(信頼性・保守性向上)
(性能<応答速度など>向上)
情報処理技術の開発
Web技術
セキュリティシステム
リモートメンテナンス
情報伝送技術の取入れ
新しい放射線
センサの開発
汎用インタ
フェース化
高信頼,大量リアルタイム伝送
イントラネット化
半導体センサ,
高エネルギーセンサ
など
380(74)
藤本 敏明
伊藤 勝人
中島 定雄
放射線管理システムのエンジニア
放射線管理システムのエンジニア
放射線管理システムのエンジニア
リング業務に従事。現在,富士電
リング業務に従事。現在,富士電
リング業務に従事。現在,富士電
機システムズ
(株)
e-ソリューショ
機システムズ
(株)
e-ソリューショ
機システムズ
(株)
e-ソリューショ
ン本部放射線システム統括部放射
ン本部放射線システム統括部放射
ン本部放射線システム統括部放射
線システム部担当部長。
線システム部担当課長。
線システム部課長。
富士時報
大規模放射線監視システム
Vol.77 No.5 2004
る Web 技術を採用し,関係者および関連部門全体で監視
送化を図る。
(4 ) 放射線管理用計算機には,最新の情報処理技術の開発
を適用する。
情報の共有化を行い,リアルタイム監視機能強化や情報公
開を可能とした。
これらの開発方針に基づき開発したシステムの構成を図
放射線モニタ
2に示す。
放射線モニタには,放射線計測に必要なすべての機能を
集約し,信号処理結果をディジタルコード化情報として出
放射線検出部の機能構成を図3に示す。従来の放射線モ
力を可能とした。この伝送インタフェースは,モニタの種
ニタは,現場にセンサ,プリアンプのみが設置され,残り
類によらず IEEE-488 規格(GP-IB)と IEEE-802.3 規格
の機能はすべて放射線監視盤に収納されていた。従来は,
〈注 1〉
(Ethernet )の 2 種類を用意した。また,常時自己診断機
各センサの種類に応じ専用のハードモジュールを複数個組
能,遠隔自動点検機能を付加し,保守・点検の大幅な省力
み合わせてモニタループを構成していたが,今回ワンチッ
化を実現した。なお,放射線センサは,従来のセンサに加
プマイコンを使用し,これらすべての機能を 1 枚の CPU
えて,新しく大面積半導体センサを開発した。
ボードにまとめて検出部に収納した。
情報伝送システムは,検出部接続台数や施設規模に応じ
放射線検出部は,センサ部と計測部から構成されており,
て自由に構築できる。図2は IEEE-802.3 規格(Ethernet)
モニタの種類によらず共通している機能は計測部に持たせ,
を伝送インタフェースとした場合の大規模システムの概念
測定対象放射線に応じて異なる部分はセンサ部側に機能を
図で,各放射線検出部からは IEEE-802.3 規格(Ethernet)
持たせている。
に規定される
100BASE-TX
で出力され,メディアコン
バータを介して中央の放射線監視盤へ多量の情報を光伝送
放射線検出部は,以下の常時自己診断機能を有しており,
異常時は自動で中央へ通知できる。
する。
放射線管理用計算機には,最新の情報処理システムであ
〈注1〉Ethernet :米国 Xerox Corp. の登録商標
①
ディスクリレベル常時監視
②
バイアス電圧常時監視
③
CPU チェック(RAM,ROM)
④
DO/AO 常時監視
図2 放射線監視システムの概念
放射線モニタ
情報伝送システム
エリアモニタ
検出部
メディア
コンバータ
情報処理システム
光Ethernet
計算機
システム
放射線
監視盤
Ethernet
Ethernet
ダストモニタ
検出部
ガスモニタ
検出部
図3 放射線検出部の機能構成
センサ
プリアンプ
波形整形
セレクタ
SCA
計数回路
時定数処理
物理量変換処理
電気パルス
テスト
回路
光パルス
発生器
警報
判定部
警報設定値保存
警報判定
(HH,H,L)
自己
診断部
自己診断
回路
故障警報判定
テスト結果判定
センサ部
バイアス
電源
低圧
電源部
計測部
測定値
など
演算
処理部
外
部
入
出
力
部
警報
内容
ディジタル化
情報
故障
内容
テスト
結果
供給電源
+24 V
SCA:シングルチャネルアナライザ
381(75)
特
集
2
富士時報
⑤
大規模放射線監視システム
Vol.77 No.5 2004
温度異常常時監視
②
さらに,中央からの遠隔指令を受け,以下のテストを自
伝送項目:放射線測定値,警報内容,故障内容,テ
スト結果など
動で実施し,結果を中央へ通知できる機能を有している。
信号伝送システム
(1) 光パルステスト
内蔵光パルス発生器から光パルスを発生させ,センサを
放射線モニタの開発により,後段の中央への信号伝送シ
含めたモニタループ全体の健全性の確認を行う。光パルス
ステムは,施設の規模に応じてシステム構築が可能であり,
周波数は,放射線監視盤にて任意に設定可能である。
特 (2) 警報テスト
集
内蔵警報回路の健全性を確認するもので,入力データを
2
その一例を紹介する。図5にシステム構成を示す。
本システムは, 1 ループが最大 30 チャネルの放射線モ
ニタが接続可能であり,複数ループ構成とすることで大規
アップダウンさせ,警報出力を確認する。
模システムの構築が可能である。各放射線モニタからの信
(3) 上下限校正
内蔵テスト回路により電気パルスを発生させ,測定範囲
号はスイッチングハブ(HUB)に入力され,メディアコ
ンバータ(MC)を介して光 Ethernet で放射線監視盤に
上限および下限まで計数することを確認する。
放射線検出部の主な仕様を表1に示す。また,一例とし
て n 線エリアモニタを図4に示す。
伝送される。HUB には最大 3 チャネルの放射線モニタが
接続され,施設のレイアウトから適した場所に設置される。
また,中央への伝送のためのインタフェースの仕様は以
放射線監視盤では,プログラマブルコントローラ(PLC)
下のとおりである。
①
伝送方式:IEEE-488 規格(GP-IB)または IEEE-
図4 n線エリアモニタ
802.3 規格(Ethernet)
表1 放射線検出部の種類と主な仕様
主要仕様
モニタ種類
検出器
γ線エリアモニタ
測定範囲
−1
∼105 Sv/h
半導体検出器
10
He比例計数管
10−2∼104 Sv/h
α線ダストモニタ
半導体検出器
10−2∼104 S−1
β線ダストモニタ
半導体検出器
10−1∼105 S−1
プラスチックシンチレーション
検出器
10−1∼105 S−1
NaI(Tl)シンチレーション
検出器
10−1∼105 S−1
3
n 線エリアモニタ
β線ガスモニタ
よう素モニタ
計測部
センサ部
図5 放射線監視システムの構成
合計モニタ数max.30チャネル
放射線監視盤
光Ethernet
MC
MC
各モニタ
HUB
HUB
MC
上位計算機
Ethernet
(max.15チャネル)
PLC/A系
Ethernet
(max.30チャネル)
(max.15チャネル)
接続ボックス1
HUB
PEリンク
MC
Ethernet
Ethernet
各モニタ
HUB
HUB
MC
接続ボックスn
光Ethernet
警報表示灯
MC:メディアコンバータ
382(76)
PLC/B系
(max.30チャネル)
(max.15チャネル)
MC
ディスプレイ
HUB:スイッチングハブ
(max.15チャネル)
PEリンク
SXバス
PLC/C系
メンテナンス
パソコン
HUB
記録計
Ethernet
(バックアップデータ)
富士時報
大規模放射線監視システム
Vol.77 No.5 2004
が A 系,B 系の 2 セット収納され,光 Ethernet の両端と
MC を介して接続している。放射線モニタのデータは,こ
れら両系に 1 秒周期に伝送され,現場 LAN 機器および監
視盤 LAN 機器の故障時でもデータの収集を可能としてい
る。
た,個別チャネルごとに数値表示
(4 ) 警報設定変更:タッチ操作により,個別チャネルごと
に設定・変更可能
(5) 個別点検機能:タッチ操作により,以下のテストを個
別チャネルごとに行える。
HUB は,システム共通とし,故障時には簡単に交換可
能としている。
放射線監視盤
™光パルステスト
™上下限校正
™警報テスト「HH」
™リニアリティテスト
™警報テスト「H」
™外部信号テスト
特
集
2
™警報テスト「L」
(6 ) モニタ状態:タッチ操作により個別チャネルごとにバ
放射線監視盤は,放射線モニタから送信される放射線
データ,警報信号などを受信し,表示・記録するとともに,
イアス電圧値,ディスクリレベルなどのモニタの詳細
データを表示する。
放射線管理用計算機にデータを伝送する機能を有する。
また,放射線モニタの遠隔自動点検指令,警報設定・変
放射線管理計算機
更操作などをタッチ式フラットディスプレイ上から行える
機能を有している。
さらに放射線管理用計算機の故障を考慮し,数日間の
データバックアップを行っており,放射線管理用計算機の
故障復旧時にオンラインでバックアップデータの送信が行
放射線管理計算機は,放射線監視盤から伝送されたデー
タを受信し,放射線管理に有効な形にデータ処理を行い,
画面や帳票を出力している。
放射線管理用計算機のハードウェア構成例を図8に示す。
える。なお,万一,放射線管理用計算機の復旧が数日間以
各施設の放射線監視盤から基幹 LAN を介して放射線管理
上にわたる場合には,外部接続のパソコンにデータセーブ
用サーバにデータが伝送され,データベースに一括保管さ
を行える機能を有している。
れる。放射線管理用サーバは二重化している。また,ハー
図6に放射線監視盤の例を示す。この例は,タッチ式フ
ドディスクは各サーバ内でミラー構成としており,サーバ
ラットディスプレイを 27 台組み込んだものであり,約
間,ハードディスク間の健全性のチェックを実施している。
300 チャネルの放射線モニタを監視できるようにしたもの
サーバのオペレーティングシステムには Solaris を,デー
〈注 2〉
〈注 3〉
である。
タベースには ORACLE を採用している。
タッチ式フラットディスプレイは,最大 30 チャネルの
各施設端末では,ブラウザソフトウェアをインストール
放射線モニタのデータを表示できるものであり,カラー
することで画面を見ることができ,特別なソフトウェアや
LCD ディスプレイが使用可能である。図7にカラー LCD
設定作業が不要なため,端末増設が容易である。
ディスプレイ上に表示した例を示す。
タッチ式フラットディスプレイ上で行う主な機能を以下
に記す。
放射線管理用計算機が行う主な機能を表2に示す。放射
線監視盤からのオンラインデータやその他のバッチデータ
は,施設内のマップ画面や施設外への放出系統図画面上に
(1) 放射線データ表示機能:ディジタル表示および対数
バーグラフ表示機能
(2 ) 警報表示機能:各チャネル個別に以下を表示
「HH」:放射線高高,
「H」:放射線高,
「L/TBL」:
〈注2〉Solaris:
(株)
サンマイクロシステムズ製のオペレーティング
システム
〈注3〉ORACLE:米国オラクル社製のリレーショナルデータベース
放射線低・モニタ故障
(3) 警報設定表示:バーグラフ右側に設定レベル表示。ま
図7 フラットディスプレイの表示例
図6 放射線監視盤の例
383(77)
富士時報
大規模放射線監視システム
Vol.77 No.5 2004
図8 放射線管理用計算機のハードウェア構成例
A施設
放射線監視設備
光
Ethernet
スタック
モニタ
屋内・屋外
エリアモニタ
特
集
2
指示
・
記録
・
警報
D棟
集中監視システム
放射線
情報表示
放射線
端末
監視盤 管理用端末
HUB
ギガ
スイッチ
ギガ
スイッチ
放射線管理用
サーバ
放射線
管理用端末
情報表示
端末
HUB
室内空気
モニタ
E施設群
B施設
放射線
放射線
情報表示
監視盤 管理用端末
端末
放射線監視設備
光
Ethernet
スタック
モニタ
屋内・屋外
エリアモニタ
指示
・
記録
・
警報
(将来計画対応)
F施設群
HUB
室内空気
モニタ
(将来計画対応)
ギガ
スイッチ
G棟
C施設
放射線
情報表示
放射線
端末
監視盤 管理用端末
放射線監視設備
光
Ethernet
スタック
モニタ
屋内・屋外
エリアモニタ
ギガ
スイッチ
指示
・
記録
・
警報
情報表示端末
H棟
HUB
室内空気
モニタ
HUB
ギガ
スイッチ
HUB
情報表示端末
ギガ
スイッチ
基幹LAN
表2 放射線管理用計算機が行う主な機能
機能名
機能概要
シ ス テ ム 管 理
™二重化管理 ™警報メッセージ管理
™セキュリティ管理
モ ニ タ 管 理
™プロセスモニタデータ収集
(周期:2.5 秒または10 秒ごと),データ表示
™プロセスモニタ状態監視(警報機能) ™帳票編集・出力 時監視が可能である。
あとがき
本稿では,原子力施設向けに開発した大規模放射線監視
システムについて報告した。これまでのシステムは,放射
線という非常に微弱な信号を取り扱うという点で,大規模
な放射線監視システムを構築するうえで問題があった。今
気 象 管 理
™気象データ収集,データ表示
™周辺公衆の線量評価 ™帳票編集・出力 デ ー タ 管 理
™モニタサーバのデータ管理
(1分値,10分値,1時間値,1日値)
て出力できるようにしたことにより,システムを構築する
区 域 管 理
™区域区分管理
うえでの制約がほとんど解消でき,今後ますます発展して
固体廃棄物管理
™廃棄物データ管理(封入データ,線量データなど)
™貯蔵庫搬出入管理
™帳票編集・出力
放 出 管 理
™放出放射能管理(気体・液体廃棄物など)
定期サーベイ管理
™定期サーベイ条件登録 ™定期サーベイ測定値登録 ™定期サーベイオンラインデータ登録
™定期サーベイ報告書 回開発したシステムは,放射線計測特有の機能を放射線検
出部に集約し,信号処理結果をディジタルコード情報とし
いくであろう情報処理技術の取込みを容易にしたものと考
えている。
また,放射線管理用計算機については,Web 技術を採
用したことによりデータの共有化を可能とした。一方,セ
キュリティ対策が重要な課題となってきており,信頼性の
高いシステムを開発していく所存である。
参考文献
表示するとともにトレンド出力も行える。マップは,測定
場所の変更に対して,ユーザーが簡単に測定点の追加や変
更を行えるようにしている。トレンド出力は,複数モニタ
の組合せ表示やリアルタイム表示が行え,関係部署での同
384(78)
(1) 青木勝則ほか.NUCEF 放射線管理システム.FAPIG.
no.135, 1993, p.25- 32.
(2 ) 田辺健一.原子力発電所における放射線管理システムの開
発.FAPIG, no.165, 2003, p.3- 8.
富士時報
Vol.77 No.5 2004
放射線管理計算機システム
三保谷 英一(みほや えいいち)
田辺 健一(たなべ けんいち)
明石 倫雄(あかし みちお)
まえがき
ステムであるが,リアルタイム処理については,管理デー
タに相関のない個人被ばく管理用のサーバ(以下,個人管
放射線管理システムは,原子力施設の放射線管理区域で
理サーバという)と,施設内外の放射線データ管理用の
働く作業者の被ばく情報や,施設内外の放射線関連情報の
サーバ(以下,施設管理サーバという)は独立構成として
管理を行うためのもので,原子力発電所ではミニコン
負荷分散,危険分散化を図るとともに,おのおの二重化構
ピュータなどを用いたシステムが導入されている。最近で
は,放射線管理業務の合理化および高度化が進み,これに
成として処理の連続性を確保させている。
(1) 個人管理サーバ
伴い放射線管理システムの重要性も高まってきた。このた
個人管理サーバは,作業者の放射線管理区域の入域・退
め,放射線管理システムには,以前に増して高い信頼性や
域の制御や実績データの管理,退域時の汚染測定データな
操作性,リアルタイム処理性などが要求されている。
どの収集・管理を行っており,データを時系列で管理する
富士電機は作業者の被ばく情報を管理する個人被ばく管
必要があることから,異常時に運転系から待機系に機能お
理システム,主に施設周辺の放射線関連情報を管理する環
よびデータを引き継ぐデュープレックス方式としている。
境放射線管理システム,さらにこれらを統合化した総合放
系切替え中に発生した入退域実績データはソフトウェア的
射線管理システムにおいて,国内最多の納入実績を有して
に処理抜けを防止している。共有ディスクは筐体(きょう
おり,原子力発電所の放射線管理業務の合理化に資するシ
たい)自体を二重化しており,電源部異常(片系)を含め,
ステムをユーザーとともに構築し,提供し続けてきた。こ
装置異常による処理中断の発生を防止している。
のような放射線管理分野におけるシステム構築実績をもと
に,最近の計算機分野における新技術を積極的に取り入れ,
(2 ) 施設管理サーバ
施設管理サーバは,プロセス入力装置や施設内外の放射
ニーズの高度化・多様化に対応した総合放射線管理システ
線関連設備から各種データを収集・管理するとともに,自
ムを開発し,これを 2003 年 3 月,北海道電力
(株)
泊発電
治体や国に送信を行うデータ送信局装置への伝送を行って
所に納入した。
いる。本サーバは,系切替え時の欠測(データ収集の欠落)
このシステムでは,まず個人被ばく管理機能においては
を防止するため,データの収集処理を運用系・待機系の両
さらなる合理化や各種申請業務の迅速化のニーズに応える
系ともに行うデュアル方式としている。データベースへの
べく,申請業務における将来の電子化にも対応したワーク
書込みや送信処理は運用系のみで行うが,伝送相手が二重
フロー機能を付加した Web システム(395 ページ「解説」
化されている設備との伝送は,2 : 2 の伝送(相手側設備
参照)を開発した。また,施設の放射線関連情報の管理機
の両系からサーバの両系に伝送)とすることで,伝送異常
能においては監視機能の強化を中心にロギング機能向上
時のデータ欠測を極力回避させている。ディスクは個人管
ニーズが強まっていることに対応し,リアルタイムデータ
監視機能や警報監視機能を強化させた。
理サーバ同様,筐体を二重化している。
(3) 運用管理サーバ
本稿では,富士電機が開発した放射線管理計算機システ
ムの概要について紹介する。
これらのサーバと別に,非定型業務のサポート機能や,
業務スケジュール管理,電子文書管理機能などを行うため
に運用管理サーバを設けている。このサーバは,大量デー
システム構成
タや大量の電子文書データを取り扱うことなどから,負荷
分散化のため個人管理サーバおよび施設管理サーバと独立
図1に本システムの全体構成を,また図2に本システム
のサーバ群の外観を示す。本システムは総合放射線管理シ
の構成としている。
本システムは,画面機能をブラウザ方式とすることで,
三保谷 英一
田辺 健一
明石 倫雄
放射線管理システムの設計に従事。
放射線管理システムなどの設計お
放射線管理用計算機システムの応
現在,富士電機システムズ
(株)
電
よび製作とりまとめに従事。現在,
用ソフトウェアの開発・設計に従
力営業本部第二統括部放射線営業
富 士 電 機 シ ス テ ム ズ( 株 )e - ソ
事。現在,
(株)
エフ・エフ・シー
部課長。
リューション本部放射線システム
社会インフラソリューション部。
統括部放射線システム部。
385(79)
特
集
2
富士時報
放射線管理計算機システム
Vol.77 No.5 2004
図1 システム構成
北海道電力
LAN
北海道電力
LAN接続端子
SPDS
送信局装置
国(経済産業省)
受信局
北海道庁向け
送信局装置
北海道庁
受信局
ファイア
ウォール
特
集
2
放射線管理専用LAN
15台
個人管理
サーバ
運用管理
サーバ
施設管理
サーバ
専用端末
8台
UPS
並列冗長型
UPS
ゲート
モニタ
2台
ホール
ボディ
カウンタ
:放射線管理計算機
システム更新範囲
6台
退出
モニタ
3セット
1台
物品
搬出
モニタ
1セット
海水温
モニタ
プロセス
入力装置
排気筒
モニタ
プロセス
モニタ
4チャネル
19チャネル
エリア
モニタ
1セット
核種分析
装置
プラント
運転
データ
野外
モニタ
設備
51チャネル 108チャネル
図2 本システムのサーバ群
1セット
テレメータ
設備
・・・
全13局
野外
モニタ
設備
表1 個人管理機能の概要
業 務
機 能
機能概要
従事者登録管理
原子炉等規制法および障害防止法の従事者
登録およびデータの管理,申請書印字
外部被ばく管理
日々の線量データを収集,月線量とともに
管理。年度記録を自動作成
内部被ばく管理
ホールボディカウンタの測定データ管理,
期限管理帳票の自動配布
健康診断,
教育管理
健康診断,教育データの登録,管理。期限
管理帳票の自動配布
入退域管理
入退域管理装置での入退域資格チェック,
入域時間監視
身体汚染処理
全身表面汚染モニタの測定データを登録,
汚染記録作成
作業件名管理
作業件名を電子申請(作業者申請も電子申
請可能)
作業線量管理
管理区域入域実績をもとに,作業件名ごと
の被ばくを自動集計
一時立入
管理
一時立入管理
一時立入件名を電子申請。実績および人数
を管理
区域区分
管理
区域区分図処理
管理区域の区域区分図データを号機ごと,
プラント状態ごとに管理
物品情報
管理
物品データ管理
物品モニタでの汚染発生情報,放射性物品,
衣服モニタ運転状態を管理
定期検査報告書
作成
定期検査計画を登録し,実績データを集計。
対外報告用の定検報告書を作成
運転実績管理
プラントの運転状況などのデータを入力,
運転実績報告書を作成
対外報告書作成
経済産業省や労働基準監督署向け定期報告
書を自動作成
放射線管理手帳
印字
放射線管理手帳に従事者のデータを自動印
字
個人線量
管理
出入管理
ユーザーの LAN に接続された端末も利用可能としている。
放射線
作業管理
このため,端末装置としてユーザーの既存パソコンなどを
利用することも可能であり,また将来的にユーザーの
LAN に接続できる環境が整えばユーザーの自席のパソコ
ンを本システムの端末装置として利用することも可能とな
り,電子承認業務をはじめとした各種申請業務の大幅な合
理化が期待される。
システム機能の特徴
報告書
管理
(1) 個人管理機能
本システムの個人管理機能の概要を表1に示す。
本システムの最大の特徴は,ヒューマンマシンインタ
手帳印字
処理
フェースの Web 化により所内 LAN に接続された所員や
協力会社の端末での操作を可能にしたことと,申請業務の
ためのワークフロー機能を付加したことである。Web 画
に示す。ワークフロー機能は,放射線管理における各種申
面上で表示された本システムの画面例を 図 3 および 図 4
請業務に対応させるため,アプリケーションソフトウェア
386(80)
富士時報
放射線管理計算機システム
Vol.77 No.5 2004
により放射線管理システム専用に開発し,きめ細かい機能
に自動集計される。また,表形式で画面表示されたデータ
性・操作性を持たせている。以下にその概要を記す。
は,すべてワンタッチ操作で Excel に直接はり付けできる
〈注〉
従事者指定申請時には,過去の指定データを再利用でき
ため,その後のデータ加工が容易に行える。
る参照登録を可能とし,承認操作は申請ごとでも一括でも
なお,将来の申請電子化に伴うペーパーレス化に対応し,
可能である。健康診断受診情報や放射線防護教育受講情報
申請書や許可証は当該アドレスに電子メールで送付できる。
の申請は,所属ごとで同一日付のケースが多いため,所属
申請業務の合理化だけでなく,放射線管理の主管部署か
ごとにまとめて申請できる。指定解除申請機能では,解除
ら各所属や協力会社への通知書などの配布についても電子
が可能な者を自動抽出し,申請のための線量値などをデ
メールによる自動配信とし,受信側で必要に応じてデータ
フォルト表示するなど,申請操作の簡略化を図っている。
として保存または印刷する方式とすることで,配布業務を
作業件名の申請・登録機能についても,作業件名情報の事
不要とし,紙の削減化も図っている。
前台帳登録機能を設け,ここに事前登録しておくことで定
(2 ) 施設・環境管理機能
期検査ごとに毎回行う同じ作業件名の登録は容易に行える。
本システムの施設・環境管理機能の概要を表2に示す。
また,作業件名情報に付随する作業員情報の登録も,所属
本機能では,収集したデータから瞬時値,1 分値,10 分
ごとにリストアップされた中から選択して登録できる。放
値, 1 時間値などの集計値を作成する前に,収集した値が
射線管理の要領書や報告書など作業申請者側からの提出書
正常なデータの範囲内であることを判定しており,この範
類は,提出状況が確認できるようにしている。
囲を逸脱した場合は異常値として警報出力を行う。
さらに,申請用の HTML(Hyper Text Markup Lan-
本システムに登録された各種データは,一覧表形式や各
guage)フォーマットを外部媒体にダウンロードし,これ
建屋内の平面図に線量率値を表示した線量率マップ,施設
にデータを入力してのアップロード申請もできるようにす
,
周辺地図に環境管理情報を表示した環境マップ(図5)
ることで,所内 LAN に接続された端末を持たない協力会
時系列のトレンドグラフ(図6)など,管理目的に合致し
社でもフロッピーディスクなどを用いて容易に電子申請が
行えるようにしている。
〈注〉Excel :米国 Microsoft Corp. の登録商標
入退域管理装置から収集した線量実績情報は,必要な形
表2 施設・環境管理機能の概要
図3 従事者指定申請画面
業 務
機 能
機能概要
オンラインデータ
収集
所内放射線モニタのデータを収集,10
分値,1時間値などを演算
測定データ管理
トレンドグラフ,系統図,マップおよ
び表形式で画面・帳票に出力
オンラインデータ
収集
オフサイトモニタ,PAモニタのデータ
を収集,10分値,1時間値などを演算
空気吸収線量,
線量率測定
周辺環境データを端末から登録,帳票,
対外報告書を自動作成
測定データ管理
トレンドグラフ,マップおよび表形式
で画面・帳票に出力
オンラインデータ
収集
気象観測データを収集,10分値,1時
間値などを演算
測定データ管理
トレンドグラフ,マップおよび表形式
で画面・帳票に出力
オンラインデータ
収集
海水温度データを収集。また海水状態
をリアルタイム監視
測定データ管理
トレンドグラフ,マップおよび表形式
で画面・帳票に出力
計測器
スケジュール管理
計測器の貸出情報,部品情報,保守情
報などを管理
防護具在庫管理
防護具の在庫数量を防護具の種類ごと,
場所ごとに管理,帳票作成
気体廃棄物管理
排気筒モニタなどから放射性希ガス放
出量を算出,管理帳票作成
液体廃棄物管理
廃液測定データなどから液体廃棄物放
出量を算出,管理帳票作成
固体廃棄物管理
固体廃棄物管理システムと連携し廃棄
物管理帳票を作成
放射性同位
元素管理
線源情報管理
密封線源情報,チェッキングソース情
報などを登録
公衆被ばく
管理
公衆被ばく評価
気体廃棄物と液体廃棄物データから周
辺公衆被ばくを算出
所内放射線
管理
環境放射線
管理
気象データ
管理
海水管理
図4 定期検査の線量推移図画面
計測器管理
防護具管理
廃棄物管理
387(81)
特
集
2
富士時報
放射線管理計算機システム
Vol.77 No.5 2004
図5 環境放射線マップ画面
表3 共通機能の概要
業 務
システム
管理
特
集
2
業務支援
機能
図6 放射線モニタのトレンドグラフ画面
機 能
機能概要
システム管理
™システム状態を監視し,異常時は系切替え,
警報出力
™システム運用状態などをシステム系統図に集
約表示
™システム警報をメッセージ表示およびチャイ
ム鳴動
セキュリティ
管理
当該者が利用可能な機能をパスワードで制限
メンテナンス
管理
システム定数を管理,運用に合わせて変更可能
ヘルプデータ
管理
取扱説明書などを画面の「ヘルプ」で参照可能
緊急通報機能
システムの検出異常情報を指定箇所に自動通報
EUC検索
機能
任意様式でデータを高速検索,ExcelやCSV形
式で出力
文書配布機能
システムの出力帳票や,その他の電子文書を管
理,電子配布
データに制限を設けてセキュリティ管理を行っているため,
市販のデータ抽出用ソフトウェアと異なりデータの無用な
開示が回避できる。
本システムには緊急通報機能を設けており,システムの
異常時や,システムで収集したデータの異常を検出した場
合にはあらかじめ指定された電話に自動通報を行う。この
機能により,従来より迅速かつきめ細かくシステムの異常
検知が行え,重要障害を事前に回避することも可能になる。
また,本システムでは,システム内で発生した電子文書
やその他の文書を任意に管理できる文書管理機能として,
た表示が行える。このうちトレンドグラフでは,表示グ
チームウェアソフトウェアを放射線管理業務に適した形に
ループを任意に選択できるほか,グラフスケールの変更や
改良したものを導入している。また,管理業務に必要な各
リニア/ログの表示切替えが画面上で容易に行えるように
種スケジュールを登録し,期限に達するとアラームを発報
し,プラント異常時の監視機能に柔軟性を持たせている。
するスケジュール管理機能なども設けた。
表形式の表示データは,個人管理機能と同様,ワンタッ
チ操作で Excel に直接はり付けできる。
また,計測器の貸出し状況がスケジュール表形式で確認
できるなど,各種物品の管理機能も充実させている。
このような機能アップだけでなく,システムのランニン
グコストを低減させるべく,帳票はすべて Excel 様式とし,
よく行われる印欄や固定印字文字の変更など,帳票の固定
部の変更はユーザーにより行えるようにした。
さらに,対外報告書の出力機能や,周辺公衆被ばく評価
機能など,管理業務全般をサポートする機能を有すること
あとがき
で,放射線管理業務全般に関する総合管理システムとして
の機能を具備させた。
(3) 共通管理機能
本システムは,ヒューマンマシンインタフェース機能の
Web 化により発電所内の LAN に接続されたユーザー側
本システムにおける共通機能の概要を表3に示す。
の端末でも操作可能としたほか,非定型の各種集計業務な
富士電機が従来から開発・提供していた EUC(エンド
どに対応した機能の付加を行った。これにより,ユーザー
ユーザーコンピューティング)機能を Web システムに対
の申請から承認までの各種業務が大幅に合理化されただけ
応させ,本システムに取り入れた。本機能では,協力会社
でなく,帳票の軽微な変更をユーザーで行えるようにする
も必要なデータのみを必要な形式で取り出せるため,デー
など拡張性の向上や,非定型業務の支援機能によるランニ
タ加工や自社の管理システムとの連携も容易になった。ま
ングコスト低減など,実質的にメリットの大きいシステム
た,あらかじめデータ抽出日時を予約しておくこともでき
とすることができた。
るため,ルーチン業務で必要なデータは,その都度操作す
最後に,本システムの設計・製作および本稿執筆にあた
ることなく決められた時間に自動的に抽出させることがで
り,多大なご指導・ご協力をいただいた北海道電力
(株)
泊
きる。本機能は,協力会社にも開示するにあたり,出力
発電所殿に深く感謝する次第である。
388(82)
富士時報
Vol.77 No.5 2004
RI 利用施設向け放射線管理システム
佐藤 正昭(さとう まさあき)
水野 裕元(みずの ひろゆき)
籔谷 孝志(やぶたに たかし)
まえがき
放射線管理区域への入域・退域を管理する出入管理装置
(入退域者の管理,汚染の管理)およびこれらのデータを
大学・病院・研究所などのラジオアイソトープ(RI)
集約して統合管理するオペコン(リアルタイム監視,各種
(2 )
(1)
,
利用施設ならびに加速器使用施設では,放射線の安全管理
操作,データ処理)で構成されている。
放射線管理システムの代表的な構成を図1に示す。
が義務づけられている。これらの施設において放射線管理
をより確実に行うために,各種放射線測定装置(以下,モ
放射線測定装置
ニタという)と施設放射線管理設備(以下,設備という)
を設置している。モニタおよび設備とこれらを統合管理す
るオペレーションコンソール(以下,オペコンという)か
らなる放射線管理システムについて紹介する。
放射線測定装置(以下,モニタという)は,検出部と受
信部で構成する。
検出部には,放射線測定をするための機能をすべて持た
機器の構成
せたインテリジェント型の機器を使用している。検出部と
受信部のデータ伝送は双方向通信が可能な光ケーブルを使
放射線管理システムは RI 使用施設内の空間,空気,排
水中の各種放射線を検出する放射線測定装置と施設から環
用したシリアル伝送方式を採用し,長距離伝送を可能にす
るとともに耐ノイズ性を向上させている。
境に出ていく空気,水などを管理する施設放射線管理設備,
受信部はオペコン内に取り付けられ,パソコンと接続し
図1 放射線管理システムの代表的な構成
オペレーションコンソール
γ線エリアモニタ
γ線ガスモニタ
中性子エリアモニタ
β線ガスモニタ
施設管理設備
(フィルタ,ポンプ)
ルームガス,よう素モニタ
現場制御盤
出入管理
カードリーダ
γ線水モニタ
ハンドフットクロスモニタ
β線水モニタ
佐藤 正昭
水野 裕元
籔谷 孝志
放射線計測機器のエンジニアリン
放射線計測機器のエンジニアリン
放射線計測機器の品質保証業務お
グ業務に従事。現在,富士電機シ
グ業務に従事。現在,富士電機シ
よびエンジニアリング業務に従事。
ステムズ
(株)
e-ソリューション本
ステムズ
(株)
e-ソリューション本
現在,富士電機システムズ(株)
部放射線システム統括部営業技術
部放射線システム統括部放射線シ
e-ソリューション本部放射線シス
部。
ステム部。
テム統括部放射線システム部。
389(83)
特
集
2
富士時報
特
集
2
RI 利用施設向け放射線管理システム
Vol.77 No.5 2004
て検出部のデータを収集し,パソコンで測定データの処理
備にて放射能濃度を測定し法規制値以下であることを確認
をしている。検出部の測定に関する各種設定は,光ケーブ
後,一般排水として施設外へ放流する。
ルを通じてパソコンからの遠隔操作による設定が可能で,
排水設備は流入槽,貯留槽,希釈槽,ポンプ,バルブ,
オペコンによる集中管理を可能としている。保守作業など
水位計などにより構成される。放射性排水は,流入槽に集
の現場作業では,検出器側における設定も可能としメンテ
められ貯留槽に移し放射能を減衰させる。この貯留槽は複
ナンス性の向上を図っている。モニタは,常設して使用す
数設けられおり,水位が設定値に到達すると自動的に他の
るモニタと,作業場所に移動して使用するモニタがあり,
貯留槽に切替えを行う。放射性排水は貯留槽で RI の減衰
移動式モニタには,サーベイメータ,ルームモニタがある。
を待って放流する。放流前に当該貯留槽の水をサンプリン
これらのモニタは随時移動させて作業中の汚染を管理する
グし,モニタにより測定をして放射能濃度が法規制値以下
ために使用される。一例として水モニタの特性(表1)と
であることを確認し,一般排水に放流する。放射能濃度が
設備の例(図2)を示す。
法規制値以上の場合は,自動的に希釈槽に移し,必要量の
一般水(上水)を加えて希釈し放流する。
施設放射線管理設備
これらの一連の操作は,プログラマブルコントローラ
(PLC)を用いた排水制御装置で自動的に処理される。
RI を使用する施設では,放射性ガスおよび粒子(ダス
なお,制御装置は PLC とオペコンを専用伝送ケーブル
ト)が発生する可能性があるので専用の排気処理設備を設
で結び,オペコンに設置されたパソコン画面から遠隔操作
け,施設内の空気を清浄するとともに,施設外に汚染した
ができる構成にしている。モニタと排水処理をオペコンで
空気が漏出することを防止する必要がある。排気処理設備
一元管理することでオペレーターの作業を簡略化している。
は,RI フィルタユニット,排気ファン,排気フードなど
図 2 に排水処理設備の施工例, 図 3 にオペコンの排水制
により構成されており,最終排気口にモニタ検出部を設置
御・監視画面を示す。
しオペコンと接続してリアルタイムで放射能濃度を監視し
ている。一方,施設内で発生する放射性排水は排水処理設
表1 水モニタ感度データ
出入管理は,放射線業務従事者の管理区域への入退域を
(a)β線水モニタ検出感度
核種
感度係数
(min−1/Bq/cm3)
管理するものである。カードリーダと自動開閉扉で構成さ
最高検出感度
(Bq/cm3)
排水濃度限度
(Bq/cm3)
14
C
1.2×101
1.5×100
2×100
32
P
6.8×102
1.8×10−2
3×10−2
Sr
5.8×102
1.0×10−1
3×10−1
4.3×102
4.2×10−2
1×10−1
89
40
K
出入管理機器
れる。退域時は,ハンドフットクロスモニタで測定し,
RI による汚染を管理区域外に広げないようにしている。
出入管理は,オペコンで行っている個人管理と連携し,入
退域時に個人ごとの要件をチェックして入域あるいは退域
の要件が整っている場合のみ,出入口の自動扉を開く。入
退域時のチェック項目を表2に示す。
(b)γ線水モニタ検出感度
核種
67
感度係数
(min−1/Bq/cm3)
最高検出感度
(Bq/cm3)
排水濃度限度
(Bq/cm3)
3.0×103
5.0×10−3
4×100
7.6×103
1.9×10−3
4×101
Ga
99m
Tc
125
I
1.1×103
3.7×10−3
6×10−2
131
I
1.9×104
3.5×10−3
4×10−2
図2 排水設備(貯留槽)
390(84)
オペコン
オペコンは,モニタ,施設放射線管理設備,出入管理機
器などの管理を一括して行うもので,PLC,パソコンなど
図3 排水制御・監視画面
富士時報
RI 利用施設向け放射線管理システム
Vol.77 No.5 2004
表2 入退域処理チェック項目
表3 エリアモニタの仕様
(a)入域処理 管理区域入口チェック項目
線 種
γ線
中性子
測 定 範 囲
10−3∼103 mSv/h
10−2∼104 Sv/h
エネルギー特性
80 keV∼1.3 MeV
0.025 eV∼15 MeV
警 報 出 力
L,H
L,H
項 目
項目
No.
チェック内容
1
従事者,一時立入者として登録され,管理番号が登録済みであるこ
と。
2
教育受講要の人については,受講日から1年以内であること。
3
健康診断有効期間の設定期間内であること。
4
被ばく線量を超過していないこと。
5
立入開始日から立入終了日の期間内であること。
6
夜間立入資格があること。
7
休日立入資格があること。
8
1日および1か月在域時間を超えていないこと。
9
立入可能場所であること。
特
集
2
図4 エリアモニタ・表示器の外観
(b)退域処理 管理区域出口でのチェック項目
項目
No.
チェック項目
1
従事者,一時立入者登録の管理番号が登録済みであること。
2
汚染測定結果が汚染なしであること。
を収納した中央管理装置である。
PLC は,排気・排水処理設備の遠隔制御,各種サンプ
リングポンプの制御を行う。パソコンはモニタ検出部から
伝送されてくるデータを収集し,放射線レベルのリアルタ
イム表示とトレンド表示を行う。また,測定値を設定した
警報レベルと比較し,設定値を超えた場合にブザーと画面
ばく事故防止を可能にしている。エリアモニタの仕様を表
表示で警報を発信する。収集データは日,月,3 か月,年
3に,モニタの外観ならびに照射室出入口に設置した大型
などの管理単位で編集し,データの画面表示,管理用帳票
の線量率表示装置の例を図4に示す。この表示器は,作業
作成を行う。管理室に設置したオペコンで状態の監視,報
者が照射室などに入室する前に室内の線量率を確認してか
告データ作成など,ほとんどの管理業務を行うことができ
ら入室することを目的に設置してより安全性を向上させて
る。
いる。
最近の動向
近年,核医学の分野で,ポジトロン断層撮影(PET)
あとがき
RI 利用施設における放射線管理システムについて紹介
など,RI を用いた画像診断技術が注目されている。ここ
した。放射線管理システムは,業務従事者の被ばく低減な
で使用される RI は,短寿命の核種が多く,RI の製造と利
らびに施設からの環境への排出管理を目的とした統合した
用施設が近い場所であることが必須である。このため RI
システムである。従来から放射線の管理には多くの時間が
の製造を目的とした加速器施設が全国に多数建設されてい
費やされている。これらの管理業務に費やされる時間を少
る。また,PET 用以外にも研究用のシンクロトロンなど
なくし,かつより安全に放射線管理を実施できるシステム
の加速器,大線源を用いた照射装置(食品,生物照射)な
の構築により管理者の負担低減につなげられる製品を供給
どの施設では一般の RI 利用とは異なり,高線量率のγ線
していく所存である。
あるいは中性子の線量管理や個人被ばく線量の管理,イン
タロック装置などを必要とする。
富士電機では,これら施設に対応した放射線管理システ
最後に,放射線監視システムの設計にあたり多くのご指
導・ご協力をいただいている,大学,病院,研究所などの
関係各位に深く感謝する次第である。
ムを供給している。エリアモニタにはエネルギー特性なら
びに測定範囲の広い電離箱型エリアモニタ,中性子エリア
モニタがある。個人被ばく線量管理には警報機能付電子式
線量計と出入管理機能を組み合わせた管理機器があり,こ
れに加速器制御装置とモニタを関連させたインタロック装
置がある。インタロック装置は安全で確実な管理による被
参考文献
(1) 放射線障害防止法に基づく安全管理ガイドブック.原子力
安全技術センター.2002.
(2 ) 病院管理の手引.東京都衛生局医療計画部医療指導課.
2001- 3.
391(85)
富士時報
Vol.77 No.5 2004
放射線応用機器
門野 浅雄(もんの あさお)
特
集
2
まえがき
わち,熱,衝撃,大量の水,また酸化鉄粉,鉄片の付着,
落下などに耐えられる耐環境性能が必要であるのみならず,
ラジオアイソトープ(RI)を利用した工業計測器は,放
オフラインに引き出してのメンテナンスが不可能な場所に
射線により,厚さ,レベル,密度,水分などを測定する装
設置されているため,従来の厚さとは質的に異なる高度な
置である。その優れている点は,非接触,非破壊,オンラ
信頼性,あるいは遠隔保守性などを具備している必要があ
インリアルタイム高速応答などにあり,RI の物理的性質
る。
( 3)
から,熱,電気,振動など,ノイズ要因の影響を受けにく
検出器単体の性能に関しては,すでに発表しているので,
いため,鉄鋼圧延制御,化学プラント,プラスチック,製
ここでは装置の性能,システム構成,保守性などを紹介す
紙工業などの過酷な製造ラインで幅広く利用されている。
る。
これらの計器は,単に製品検査を目的に使用されるので
厚板ミル直近γ線厚さ計の主要諸元を表1に示す。現在
はなく,製造工程制御系のセンサ「目」の役割を担ってお
製作中のシステムの構成を図1に示す。出力としては,圧
り,各種製造工程に不可欠な特殊センサとして位置づけら
延制御用の 100 ms 程度のリアルタイム出力のほかに,10
れている。
ms の高速応答出力をし,よりきめ細かく板プロフィール
例えば,鉄鋼用熱間厚さ計は,プロセスコンピュータ下
を把握できるようにしている。圧延オペレーターには,厚
で自動運転し,圧延機のリアルタイム制御用出力として熱
さをディジタル表示するほかに,圧延パスごとの板厚プロ
寸測定値を 50 ms 程度の応答で伝送すると同時に,最終製
フィール画像をリアルタイム表示し,瞬間的な判断行動を
品の厚さ,すなわち冷寸測定値の出力,蓄積を行っている。
支援している。
富士電機では,鉄鋼向けγ線厚さ計,プラスチック・紙
遠隔保守としては,オンライン状態のまま,内蔵サンプ
用β線厚さ計,各種レベル計,水分計などを幅広くライン
ルにより,ゼロ点を含む多点校正を自動的にできるように
アップしている。
。このことと検出器の安
している(特許 広報平 4-43207)
( 3)
本稿では,厚板ミル直近厚さ計,シームレス鋼管熱間肉
厚計,および日立製作所製互換タイプの放射線応用計測器
定性により,計器校正のメンテナンスフリー化を実現して
いる。
を紹介する。
表1 厚板ミル直近γ線厚さ計の主要諸元
厚板ミル直近γ線厚さ計
線 源
137
Cs 1.11 TBq
検 出 器
プラスチックシンチレーション検出器
は前方)10 m 以上離れた場所にしか設置できないとされ
検出器アンプ
パルスアンプ方式(ディジタル計数方式)
ていた。
検出器安定方式
近紫外光参照スペクトル安定化方式
最大衝撃加速度
735 m/s2(75 G)
衝 撃 低 減 率
1/10以下
からγ線を照射し,測定を実施する。板が相当厚いスラブ
耐 熱 性
厚板圧延機内にて連続運転可能
の段階から,ミル制御の早期開始に寄与する。さらに,ミ
測 定 範 囲
約2∼150 mm
ル後方 10 m 以上の位置まで,板を搬送しなくても,圧延
短周期ノイズ
例:90 %信頼度で33 m at 20 mm,0.2 s応答
ド リ フ ト
実測例 5.5 m /8 h
計 器 応 答
10 ms∼
熱間厚板厚さ計は,従来,厚板熱間圧延機の後方(また
厚板ミル直近γ線厚さ計は,圧延機直近,具体的には圧
延機中心から,2 m 程度の搬送ロール間のわずかなすきま
(2 )
(1)
,
制御情報が得られるので,圧延能率が向上する。
これを,実現するために,圧延機内の過酷な環境,すな
門野 浅雄
放射線応用機器の研究開発,設計
に従事。現在,富士電機システム
ズ
(株)
e-ソリューション本部放射
線システム統括部放射線システム
部担当課長。計測自動制御学会会
員,日本機械学会会員。
392(86)
富士時報
放射線応用機器
Vol.77 No.5 2004
図1 厚板ミル直近γ線厚さ計のシステム構成
厚板工場プロセス
コンピュータ
PIO
圧延制御用DDC
リアルタイム出力100 ms
LAN#1
リアルタイム出力10 ms
リアルタイム出力100 ms
ミル直近制御盤
γ計数,検出部,高圧,温度,振動
操作用タッチパネル
特
集
2
プロセッサリンク
データハンドリング
HMI用FAパソコン
プリンタ
遠隔保守用
パソコン
ターミナルリンク
LAN#3
LAN#2
予防診断装置用
FAパソコン
HMD
速度信号など
γ計数,検出部,高圧,温度
加速度センサ
エア
検出部
ミルオペレーター
用HMI
スタンバイ系
スタンバイ
検出器
保守用
スタンバイ系
タッチパネル
γ線源
[操作パネル]
ミル内搬送
ロール
内蔵サンプル
PL
閉開 閉開
PBL
冷水装置
パソコン
19インチ
LCD
板プロフィール
表示など
ミルオペレーター用
操作パネル
γ線源
シャッタ駆動エア
また,予防診断機能の目的で独立のプロセッサを具備し,
スタンバイ系を含む検出系の各種保守情報,振動衝撃加速
度などをリアルタイムで計測,データベース化し,障害解
HMI:Human Machine Interface
表2 シームレス鋼管熱間肉厚計の主要諸元
137
線 源
検 出 器
感度均一化型 350 mm測定幅 プラスチックシンチレーション検出器
検出器アンプ
パルスアンプ方式(ディジタル計数方式)
検出器安定方式
近紫外光参照スペクトル安定化方式
測 定 範 囲
外径 φ25∼φ180 mm
肉厚 2∼45 mm 測 定 精 度
肉厚の±0.2 %以下
ド リ フ ト
実測例:0.2 m /12 h at φ81 mm t 9.21 mm
計 器 応 答
8 ms∼
析の診断,トラブル予防のための情報を提供している。
シームレス鋼管熱間肉厚計
シームレス鋼管は,油井掘削など過酷な条件下で使用さ
(4 )
れる高強度の鋼管である。シームレス鋼管熱間肉厚計は,
圧延ライン,特にストレッチレデューサ(肉厚を延伸し,
( 5)
Cs 1.11 TBq 長さ223 mm
径を絞る圧延機)における圧延制御の目的で,肉厚を 10
ms 程度の高速応答でリアルタイム出力すると同時に,管
端カットオフ位置を決定し,また,肉厚プロフィール情報
を記録・蓄積する自動運転の計測システムである。
シンチレーション光を均一に集光し光電子増倍管に導く,
圧延オペレーターに対するガイダンスとして,肉厚プロ
特殊なライトガイドを組み合わせることで解決している。
フィール画像を圧延ピースごとにリアルタイム表示すると
電子回路部は,ミル直近γ線厚さ計用と同一で,安定方式
同時に,任意の過去の肉厚プロフィールを随時表示させる
は近紫外光参照方式を用いている。
( 3)
ことができる。
本装置では,この検出器を 2 台用いて高計数を得,10
表2 に 2004 年度製作中の装置の主要緒元を, 図2 に装
ms の高速応答における統計変動誤差を低減している。
置の構成を示す。また,図3に従来器の外観を,図4に測
定原理を示す。走行に伴い,鋼管が上下左右に瞬間的位置
変動しても,誤差を生じない測定原理(特許 登
日立製作所製互換タイプ放射線応用計測器
1474136-
00)である。
この原理を実現するためには,γ線の照射場を均一にす
るだけではなく,検出器の感度を均一にする必要がある。
この課題を,約 350 mm 幅のプラスチックシンチレータと,
富士電機は,日立製作所製放射線応用計測器の完全互換
機を製造・販売している。
同機は,測定システム一式として互換性があるだけでは
なく,線源容器,検出器,電子回路部,ケーブル,付属品
393(87)
富士時報
放射線応用機器
Vol.77 No.5 2004
図2 シームレス鋼管熱間肉厚計のシステム構成
シームレス鋼管工場
圧延プロセスコンピュータ
LAN
速度信号
シームレス鋼管熱間
肉厚計制御盤
特
集
2
プロセッサリンク
制御盤HMI用
FAパソコン
中継箱
速度センサ
熱間肉厚計
ミルオペレーター用HMI
FAパソコン
肉厚プロフィール表示など
LAN
機側制御盤
冷却水装置
オペレーター
操作パネル
エア
図3 シームレス鋼管熱間肉厚計の測定機構部
図5 日立製作所製と互換タイプの放射線応用計測器
(a)γ線レベル計検出器
図4 シームレス鋼管熱間肉厚計の測定原理
γ線検出量
パイプが位置変動しても
γ線検出量は不変
(b)線源容器(遮へい容器)
検出器
絞り
など,要素単位での互換性を確保しており,部分更新にも
被測定パイプ
位置変動
対応できる。
特に線源容器は,線源カプセル,部品,製作図,製造方
法のすべてを完全同一品としているので,ユーザーにとっ
て法規制上大きなメリットがある。
本機は日立製作所と富士電機の綿密な協力の下,発売開
ライン線源
始以来すでに数十件の納入実績があり,いずれも安定稼動
をしている。
図5に互換機の一例を示す。
394(88)
富士時報
放射線応用機器
Vol.77 No.5 2004
立製作所製互換機の両メニューを有している。今後は,両
あとがき
者の長所を生かした製品開発を推進していきたい。
厚板ミル直近γ線厚さ計は,従来の富士電機製厚さ計に
比して,耐衝撃・耐熱性など耐久性能の飛躍的向上,安定
性・メンテナンスフリー化,高速応答,およびデータベー
参考文献
(1) 岩村忠昭.鉄鋼プラントにおけるセンシング技術.日本機
械学会誌.vol.92, no.842, 1989, p.38- 40.
ス機能の拡大を実現した。今後は,これら技術を富士電機
(2 ) 片山二郎ほか.厚板仕上げミル直近γ線厚さ計の開発.計
製厚さ計全般に適用し,より信頼性の高いシステムを提供
測自動制御学会第 27 回学術講演大会.JS13- 6. 1988, p.151-
していく考えである。
シームレス鋼管熱間肉厚計は,鋼管径が約 180 mm と,
比較的大きいサイズに対応しているなどの理由から,やや
152.
(3) 門野浅雄ほか.ライジオアイソトープ応用計測器.富士時
報.vol.72, no.6, 1999, p.348- 352.
大掛かりなシステムになっている。今後は,より小径サイ
(4 ) 鋼管製造技術の最近の進歩.日本鉄鋼協会.1978.
ズ向け,あるいはシンプルなシステム構成の,比較安価な
(5) わが国における最近の鋼管製造技術の進歩.日本鉄鋼協会.
装置にも取り組んでいく所存である。
1974.
レベル計,密度計に関しては,従来の富士電機製品と日
解 説
Web システム
従来は端末(クライアント)にもアプリケーション
プログラムを配置したクライアント・サーバ方式が主
(データ出力)の流れを自動化することで業務効率化
に寄与している。
流であったが,最近では WWW 技術を用いた Web シ
なお,個人情報を取り扱う Web システムでは,適
ステムに置き換わりつつある。Web システムではす
切なデータ提供を行うようにするためには,本体シス
べてのアプリケーションプログラムをサーバに配置し,
テムとのネットワーク分離,ファイアウォールの設置,
端末側にブラウザソフトウェアを配置するのみでシス
個人承認および認証に基づく機能制限・データ参照制
テムを利用できる特徴を持つ。すなわち,不特定多数
限を行うなどのセキュリティ対策が重要である。
のユーザーに対してサービスを提供するシステムでは
Web システムが優位である。
本システムではこの特徴を生かして各種申請業務
Web 方式を用いることにより,各種システムの操
作を一つのメニューから行うこともできるようになっ
た。
(データ入力)から承認結果や集計データの通知
395(89)
特
集
2
主要営業品目
富士電機システムズ
(株)
情報・通信・制御システム,水処理・計測システム,電力システム,放射線管理システム,FA・物流システム,環境シス
テム,電動力応用システム,産業用電源,車両用電機品,クリーンルーム設備,レーザ機器,ビジョン機器,電力量計,
変電システム,火力機器,水力機器,原子力機器,省エネルギーシステム,新エネルギーシステム,UPS,ミニ UPS
富士電機機器制御
(株)
電磁開閉器,操作表示機器,制御リレー,タイマ,ガス関連機器,配線用遮断器,漏電遮断器,限流ヒューズ,高圧受配
電機器,電力制御機器,電力監視機器,交流電力調整器,検出用スイッチ,プログラマブルコントローラ,プログラマブル
操作表示器,ネットワーク機器,インダクションモータ,同期モータ,ギヤードモータ,ブレーキモータ,ファン,クーラ
ントポンプ,ブロワ,汎用インバータ,サーボシステム,加熱用インバータ
富士電機デバイステクノロジー
(株)
磁気記録媒体,パワートランジスタ,パワーモジュール,スマートパワーデバイス,整流ダイオード,モノリシック IC,
ハイブリッド IC,半導体センサ,サージアブソーバ,感光体,画像周辺機器
富士電機リテイルシステムズ
(株)
自動販売機,コインメカニズム,紙幣識別装置,貨幣処理システム,飲料ディスペンサ,自動給茶機,冷凍冷蔵ショーケー
ス,カードシステム
富 士 時 報
第
77
巻
第
5
号
平 成
平 成
16 年 8 月 30 日
16 年 9 月 10 日
印 刷
発 行
定価 735 円 (本体 700 円・送料別)
編集兼発行人
原
嶋
孝
一
発
行
所
富士電機ホールディングス株式会社
技 術 企 画 部
〒141 -0032 東 京 都 品 川 区 大 崎 一 丁 目 1 1 番 2 号
(ゲートシティ大崎イーストタワー)
編
集
室
富士電機情報サービス株 式 会 社 内
「富士時報」編集室
〒151 -0053 東京都渋谷区代々木四丁目 30 番 3 号
(新宿コヤマビル)
電 話(03)5388 − 7826
FAX(03)5388 − 7988
印
刷
所
富士電機情報サービス株式会社
〒151 -0053 東京都渋谷区代々木四丁目 30 番 3 号
(新宿コヤマビル)
電 話(03)5388 − 8241
発
売
元
株 式 会 社
オ
ー
ム
社
〒101 -8460 東京都千代田区神田錦町三丁目 1 番地
電 話(03)3233 − 0641
振替口座 東京 6−20018
2004
Fuji Electric Holdings Co., Ltd., Printed in Japan(禁無断転載)
396(90)
富士時報論文抄録
半導体の現状と展望
U シリーズ IGBT モジュール
金田 裕和
宮下 秀仁
富士時報
松田 昭憲
Vol.77 No.5 p.308-312(2004)
富士時報
Vol.77 No.5 p.313-316(2004)
富士電機は,
「パワーエレクトロニクス」をキーワードとして,
汎用インバータや無停電電源装置に代表される電力変換機器は,
ダイオード,MOSFET などのディスクリート半導体,IGBT モ
常に高効率化・小型化・低価格化・低騒音化が要求されている。こ
ジュール,およびパワー IC など,パワーを制御するための半導体
のインバータ回路に用いられる電力変換素子にも高性能化・低価格
製品に特化して製品を提供してきている。本稿では,われわれが重
化・高信頼性が求められており,第四世代 IGBT モジュール(S シ
要な市場ととらえている産業分野,自動車電装分野,情報・電源機
リーズ)に対して大幅に特性改善された第五世代 IGBT モジュール
器分野の三つの用途分野の代表的な製品群について,その基盤とな
(U シリーズ)の開発を行った。本稿では,NPT,トレンチゲート,
る富士電機の半導体技術の特徴と今後の動向について概要を紹介す
フィールドストップおよび新型 FWD の構造といった最新の素子技
る。
術とその製品系列について紹介する。
U シリーズ IGBT-IPM(600 V)
新絶縁基板を用いた次世代 IGBT モジュール技術
関川 貴善
西村 芳孝
富士時報
遠藤 弘
脇本 博樹
Vol.77 No.5 p.317-320(2004)
富士時報
望月 英司
高橋 良和
Vol.77 No.5 p.321-325(2004)
600 V 系 U-IPM(20 ∼ 160 A)の開発を行った。トレンチゲー
近年,電機製品の省エネルギー化の要求により IGBT モジュール
ト構造の IGBT を使用することにより大幅に定常損失を低減した。
は従来の産業用途ばかりでなく,家庭用電気製品用途にまで幅広く
また,FWD チップにソフトリカバリー化を行った新規開発チップ
適用されている。したがって,IGBT モジュールへの市場デマンド
を使用することにより,ノイズを増やすことなくターンオン di/dt
は,低コストと高信頼性はもちろんのこと,さらなる軽量・コンパ
を大きくできたため,ターンオンロスに関しても低減することがで
クト化を強く望まれている。このようなニーズに対応するために,
きた。以上の損失低減を行ったことで実使用においては,R-IPM
低熱抵抗・高強度の絶縁基板を開発し,従来同等構造比で,熱抵抗
から U-IPM に置き換えることでキャリヤ周波数を 2 倍にすること
を約 30 %改善した新構造 IGBT モジュールについて紹介する。
が可能である。
パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術
ワンチップ技術による高圧センサ
松本 良輔
上柳 勝道
富士時報
加藤 博久
Vol.77 No.5 p.326-329(2004)
富士時報
篠田 茂
芦野 仁泰
Vol.77 No.5 p.330-333(2004)
シリコンデバイスの微細化に伴い,最近では極薄酸化膜に注目が
自動車用,産業用として用途の拡大が期待される高圧センサ分野
集まっている。しかし,MOSFET や IGBT などのパワーデバイス
に対応するため,富士電機では,世界最小のワンチップ技術による
では,非常に厚いゲート酸化膜や,高温アニールを必要とするなど
高圧センサセルを開発した。本稿では,製品の概要,耐圧設計検討,
特有のプロセスを用いる場合があるため,極薄酸化膜では見られな
製品性能,信頼性性能について検討した結果を報告する。開発した
いさまざまな現象が生じる。本稿では,パワーデバイス用ゲート酸
高圧センサセルは,基本仕様として 1 ∼ 5 MPa の圧力レンジの用
化膜における酸化方法,酸化膜厚,アニール条件の違いに対して,
途に適用可能で,エアコン用や油圧制御用の高圧センサへの適用に
電気的特性により比較,検討した結果について述べる。
最適である。
電源二次側整流器用ダイオード「低 I R-SBD シリーズ」
60 V 耐圧 MOSFET 内蔵型降圧同期整流電源 IC
掛布 光泰
藤井 優孝
富士時報
一ノ瀬 正樹
Vol.77 No.5 p.334-337(2004)
富士時報
米田 保
Vol.77 No.5 p.338-341(2004)
電子機器の小型・軽量化,高性能化が急速に進み,その中でも特
近年,電子機器はますます小型化・軽量化・高機能化が進んでお
に AC アダプタなどは小型化・高出力化傾向が顕著であり,半導体
り,この電子機器を駆動するための電源においては小型・高出力・
デバイスの使用環境は厳しくなる一方である。これを踏まえ,特に
高効率の要求がなされている。富士電機ではこの要求を満足するた
高温環境下でのスイッチング電源の二次側整流用に最適な低 IR-
めに,低オン抵抗の高耐圧パワー MOSFET をメイン側と同期整流
SBD を製品化した。その特長は,チップ比抵抗・厚さ,ガードリ
側にそれぞれ内蔵した 3 チャネル出力および 2 チャネル出力の降圧
ング濃度,拡散深さ,バリヤメタルの最適化を図ることで,従来の
型 DC-DC コンバータ IC「FA7726F」および「FA7730F」を開
SBD に比べ IR を約一けた低減し,さらに VF の増加を極力抑えた
発・製品化した。本稿ではこの制御 IC の特長および応用回路例を
ことであり,発生損失の低減による使用温度限界の向上が図られて
紹介する。
いる。
Abstracts (Fuji Electric Journal)
U-series of IGBT Modules
Fuji Electric’s Semiconductors: Current Status and
Future Outlook
Shuji Miyashita
Hirokazu Kaneda
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.313-316 (2004)
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.308-312 (2004)
Power conversion equipment, typified by general-purpose inverters and uninterruptable power supplies, are subject to constant
requests for higher efficiency, smaller size, lower cost and quieter
operation. Power semiconductor devices used in the equipment are
required to have high performance, low cost and high reliability, and a
5th generation IGBT module (U-series), which provides a dramatic
performance improvement over the 4th generation IGBT module (Sseries), has been developed. This paper introduces the product line of
U-series IGBT modules and describes the latest device technologies,
including NPT, trench-gate, field-stop and new FWD structures.
In the field of power electronics, Fuji Electric offers specialized
semiconductor products for controlling electric power. These devices
include discreet semiconductor devices such as diodes and MOSFETs,
as well as IGBT modules and power ICs. Fuji Electric is focusing on
applications in the strategic markets of industrial, automotive and
information & power supply equipment. This paper presents an
overview of Fuji’s main products, core technologies and future trends
of these markets.
Development of a Next-generation IGBT Module
Using a New Insulating Substrate
U-series of IGBT-IPMs (600 V)
Yoshitaka Nishimura
Kiyoshi Sekigawa
Eiji Mochizuki
Yoshikazu Takahashi
Akinori Matsuda
Hiroshi Endo
Hiroki Wakimoto
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.321-325 (2004)
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.317-320 (2004)
Due to the recent demand for energy-efficient electronic products,
IGBT modules are being used not only in industrial applications but
also in home electronic appliances. Accordingly, in addition to the obvious market demands for low cost and high reliability, IGBT modules
are also required to be lightweight and compact. In response to these
needs, an insulating substrate having low thermal resistance and high
strength was developed. This paper introduces the next-generation
IGBT module that utilizes this new insulating substrate and achieves
30 % better thermal resistance than prior comparable structures.
Fuji Electric has developed a 600 V series of U-IPMs (20 - 160 A).
A dramatic decrease in steady-state loss is achieved by using a trench
gate structure IGBT. Turn-on loss has also been reduced through the
use of a newly developed FWD chip that realizes soft recovery and
achieves higher di/dt without an increase in noise. In practical applications, the replacement of R-IPMs with the abovementioned U-IPMs
enables the carrier frequency to be increased by a factor of two.
High Pressure Sensor Using One Chip Technology
Study of Gate Oxide Film Formation for Power
Semiconductor Devices
Katsumichi Ueyanagi
Ryosuke Matsumoto
Shigeru Shinoda
Kimihiro Ashino
Hirohisa Katoh
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.330-333 (2004)
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.326-329 (2004)
In response to the expanding range of applications for high-pressure sensors to automotive and industrial applications, Fuji Electric has
developed the world’s smallest one-chip high-pressure sensor cell.
This paper presents an overview of the product, describes design considerations for achieving the desired pressure resistance, and discusses
product performance and reliability considerations. The newly developed high-pressure sensor cell is suitable for applications in the range
of 1 to 5 MPa, and is ideally suited as a high-pressure sensor for air
conditioner and oil pressure control applications.
As silicon devices scale down, the application of ultra-thin oxide
films has recently been attracting attention. In power devices such as
MOSFETs and IGBTs, sometimes they are applied very thick gate
oxide films and high temperature annealing is sometimes required in
certain processes, various phenomena occur which are not observed in
the application of ultra-thin oxide films. This paper reports the results
of our investigation into the relationship between the electrical characteristics of power devices and the gate oxide film formation conditions
such as oxidation method, film thickness and annealing method.
60 V-class Synchronous Buck Regulator Control ICs
with Internal High Voltage MOSFET Switches
Low I R Schottky Barrier Diode Series
Masanari Fujii
Mitsuhiro Kakefu
Tamotsu Yoneda
Masaki Ichinose
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.338-341 (2004)
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.334-337 (2004)
In recent years, electronic devices have increasingly been made
with smaller size, lighter weight and higher performance. The power
supplies for driving these electronic devices are required to have a
small size, high output and high efficiency. To meet these needs, Fuji
Electric has developed and commercialized 3-channel or 2-channel output type buck DC-DC converter ICs “FA7726F and FA7730F” that
contain an internal low on-resistance high-voltage power MOSFET on
their main side and on their synchronous regulator side respectively.
This paper introduces the characteristics of these control ICs and
describes example circuit applications.
With the rapidly advancing trends toward the smaller size, lighter
weight and higher performance electronic devices, the environment in
which semiconductor devices are used is becoming more severe, especially in devices such as AC adapters for which the trends toward
miniaturization and higher output are particularly noticeable. In
response, Fuji Electric has commercially produced a low IR-SBD that is
ideally suited for use in the secondary source rectification of switching
power supplies in a high temperature environment. In order to optimize the characteristics of chip specific resistance and thickness, guard
ring concentration, diffusion depth and barrier metal, IR has been
reduced by approximately a factor of 10 compared to the conventional
SBD and the increase in VF has been suppressed to the maximum
extent possible so as to reduce power dissipation and to increase the
maximum operating temperature.
PDP 用中耐圧 MOSFET
汎用 PDP スキャンドライバ IC
原 幸仁
小林 英登
富士時報
井上 正範
Vol.77 No.5 p.342-345(2004)
富士時報
多田 元
澄田 仁志
Vol.77 No.5 p.346-349(2004)
大画面で高精細画像を実現するプラズマディスプレイパネル
フラットパネルディスプレイ(FPD)が普及し,かつ FPD の中
(PDP)が急速に普及している。低オン抵抗に対するニーズが大き
での液晶・ PDP ・プロジェクタによる競争が激しくなってきてい
いサステイン回路をターゲットに,150 ∼ 300 V の SuperFAP-G
る。その中で,PDP には消費電流低減や発光効率などの性能向上
を新たに系列化した。また,さらなる小型化・高効率化の要求に対
と,低価格化が求められている。この市場の要求に応えるために,
応するため,より低オン抵抗特性を有するトレンチ MOSFET の開
大電流を流すことができ,出力オン抵抗が低いスキャンドライバ
発を行っている。PDP 用 MOSFET の系列および特徴について紹
IC を低コストで供給することが可能な技術を開発し製品化した。
介する。
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
放射線システムの現状と展望
澄田 仁志
河野 悦雄
富士時報
Vol.77 No.5 p.350-354(2004)
富士時報
Vol.77 No.5 p.356-357(2004)
本稿では富士電機のプラズマディスプレイパネル(PDP)ドライ
放射線システムは,原子力発電所やラジオアイソトープ(RI)を
バ IC 用デバイス・プロセス技術について紹介する。PDP ドライバ
使用する病院・研究所の放射線監視に使われている。最近では,よ
IC はアドレスドライバ IC とスキャンドライバ IC に大別される。
り精度の高い測定を行うためにディジタル信号処理技術が導入され
それぞれの IC の要素技術となる素子間分離技術,プロセス技術,
てエネルギー分析やゲイン安定化,ノイズ低減などに活用されてい
そして高耐圧横型デバイス技術について概説する。あわせて,両ド
る。シリコン半導体検出器は,α線・β線・γ線・中性子の測定が
ライバ IC の開発技術動向に関しても触れる。
でき,従来型の放射線検出器はシリコン半導体検出器に置き換えら
れてきている。燃料加工工場や加速器施設の建設に伴い,中性子測
定に適した放射線モニタの開発が進められている。
個人線量モニタリングシステム
青山 敬
富士時報
上田 治
環境放射線モニタリングシステム
河村 岳司
Vol.77 No.5 p.358-363(2004)
高木 俊博
富士時報
木村 修
皆越 敦
Vol.77 No.5 p.364-368(2004)
個人線量モニタリングシステムに電子式個人線量計を適用するこ
原子力発電所では,周辺監視区域近傍や周辺市町村の環境γ線の
とによって,測定値のリアルタイムな評価,線量計一本化による合
線量率を連続的に測定・監視する必要がある。環境放射線モニタリ
理化などのメリットが期待できる。富士電機は半導体検出器を用い
ングシステムは,測定ポイントの環境γ線量率を連続測定し,測定
たγ(X)線,β線,中性子が測定できる電子式個人線量計を開発
データをリアルタイムに中央制御室に伝送することで環境放射線の
し,入退域管理装置と組み合わせてシステム化を図っている。さら
変動を集中監視するとともに,測定データを一般公開することで発
に JIS 体系に準拠した線源校正装置も開発済みである。今後は,多
電所の運転に対する理解を得るための重要な設備である。本稿では,
くの施設で利用できる低価格,高精度かつ使いやすい製品を開発し
富士電機の最新の環境放射線モニタリングシステムについて紹介す
ていく。
る。
環境放射線測定器
放射性物質汚染検査装置
小林 裕信
富士時報
酒巻 剛
増井 馨
Vol.77 No.5 p.369-372(2004)
長谷川 透
富士時報
橋本 忠雄
橋本 学
Vol.77 No.5 p.373-379(2004)
放射線測定器は,原子力発電所,研究所,病院などで放射線の監
原子力発電所では,管理区域外へ放射性物質による汚染が広がる
視や管理のため,多く用いられている。富士電機では,用途に応じ
のを防止するため,管理区域から外へ移動されるすべての物品の表
たさまざまな放射線測定器を供給している。本稿では,環境測定用
面汚染を監視している。本稿では,①作業者の身体の表面汚染を測
の放射線監視装置として近年開発した次の 2 機種について紹介する。
定する体表面汚染モニタ,②大物から小物までの物品の表面汚染を
(1) 従来に比べ感度を約 100 倍に高めた低線量環境線量計
測定する物品表面汚染モニタ,③管理区域内で着用する作業服など
(2 ) ワイド NaI(Tl)シンチレーション検出器を用いた可搬式モ
の表面汚染を測定するランドリモニタ,④作業者の体内被ばくを測
ニタポスト
定するホールボディカウンタ,⑤手足および着衣の表面汚染を測定
するハンドフットクロスモニタなどについて,装置の概要・特徴を
説明する。
Medium-voltage MOSFETs for PDP-use
PDP Scan Driver IC
Hideto Kobayashi
Gen Tada
Hitoshi Sumida
Yukihito Hara
Masanori Inoue
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.346-349 (2004)
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.342-345 (2004)
As flat panel displays (FPDs) increase in popularity, competition is
intensifying among the various types of FPDs (LCDs, PDPs and projectors). For PDPs, performance improvements such as lower current
consumption and higher luminous efficiency, as well as lower cost are
needed. In response to these market needs, Fuji Electric has developed
and commercialized technology that enables a scan driver IC having
high current flow and low output on-resistance to be supplied at low
cost.
Large-screen high-definitions plasma display panels (PDPs) are
rapidly growing in popularity. Targeting the sustain circuit, in which
there is tremendous need for low on-resistance, Fuji Electric has
newly developed a line-up of 150 to 300 V SuperFAP-G devices. In
response to requests for even smaller sizes and higher efficiency, Fuji
has developed low on-resistance trench MOSFET technology. This
paper introduces Fuji Electric’s line-up of MOSFETs for PDPs and presents their characteristics.
Current Trends in Radiation Monitoring System
Device and Process Technologies for PDP Driver ICs
Etsuo Kono
Hitoshi Sumida
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.356-357 (2004)
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.350-354 (2004)
Radiation monitoring systems are installed to monitor radiation
and radioisotopes (RI) at nuclear power plants, hospitals and research
laboratories. Recently digital signal processing technology is adopted in
them in order to do more precise measurements of radiation. Silicon
semiconductor detectors, which can detect gamma, alpha and beta rays
and neutrons, are replacing the conventional radiation detectors in
radiation monitoring systems. A new radiation monitor suitable for
measuring neutrons is being developed for use in nuclear fuel processing plants and accelerator facilities.
This paper introduces Fuji Electric’s device and process technologies for plasma display panel (PDP) driver ICs. PDP driver ICs can be
categorized as either address driver ICs or scan driver ICs. Isolation
techniques, process technology and high-voltage lateral device technology are described for each type of IC. Technical trends in the development of both types of driver ICs at Fuji Electric are also discussed.
Environmental Radiation Monitoring System
Personal Dose Monitoring System
Toshihiro Takagi
Kei Aoyama
Osamu Kimura
Atushi Minagoshi
Osamu Ueda
Takeshi Kawamura
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.364-368 (2004)
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.358-363 (2004)
At nuclear power plants, the dose rate of environmental gamma
radiations in the vicinity of the surrounding monitored areas and in the
neighboring towns must be measured and monitored continuously.
Environmental radiation monitoring system are critically important
systems that continuously measure the environmental gamma radiations dose rates at specified measurement points and transmit that
measurement data in real-time to a central control room where
changes in the environmental radiation conditions are monitored centrally. Moreover, the disclosure of this measurement data enables the
public to gain an understanding of the operation of the power plant.
This paper introduces Fuji Electric’s latest environmental radiation
monitoring system.
The integration of an electronic personal dosemeter in a personal
monitoring system is expected to enable the real-time evaluation of
measured values, achieve higher efficiency and realize other such
advantages. Fuji Electric has developed an electronic personal dosemeter capable of measuring gamma rays (X-rays), beta rays and neutrons,
and has realized a monitoring system that integrates this electronic
personal dosemeter with a doorway-monitoring device. A radiation
source calibration device conforming to JIS has also been developed. In
the future, Fuji Electric intends to develop low cost, high precision and
easy-to-use products for use at a wide range of facilities.
Radioactive Contamination Monitor
Environmental Radiation Measuring Equipment
Toru Hasegawa
Hironobu Kobayashi
Tadao Hashimoto
Manabu Hashimoto
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.373-379 (2004)
At nuclear power plants, in order to prevent radioactive materials
from spreading contamination outside the radiation control area, the
surface contamination of all material transferred outside the control
area is monitored. This paper presents an overview and describes features of:(1)personnel surface contamination monitoring assemblies for
measuring the surface contamination on workers,(2 )articles surface
contamination monitoring assemblies for measuring the surface contamination on articles of all sizes,(3)laundry monitors for measuring the
surface contamination on worker clothes worn inside the control area,
(4 )whole-body counters for measuring the worker's internal exposure,
and(5)hand-foot-clothing contamination monitors for measuring the
surface contamination on hands, feet and clothing.
Tsuyoshi Sakamaki
Kaoru Masui
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.369-372 (2004)
Nuclear power plants, research laboratories and medical facilities
use a wide variety of radiological instruments and devices for radiation
monitoring and control. Fuji Electric supplies a variety of radiological
instruments and devices for diverse uses. This paper introduces the
following two devices recently developed by Fuji Electric as environmental radiation monitors.
(1)An environmental dosimeter for low-level radiation featuring a
nearly 100-fold increase in sensitivity compared with the
conventional detectable level
(2 )A transportable monitoring post equipped with a wider-range
NaI (Tl) scintillation probe
大規模放射線監視システム
藤本 敏明
富士時報
伊藤 勝人
放射線管理計算機システム
中島 定雄
Vol.77 No.5 p.380-384(2004)
三保谷 英一
富士時報
田辺 健一
明石 倫雄
Vol.77 No.5 p.385-388(2004)
原子力施設では,従事者および周辺住民の放射線防護の観点から
富士電機では,電力会社の原子力発電所向けに初めてブラウザ方
適切な放射線管理を行っている。放射線監視システムは,施設内の
式画面を採用して放射線管理業務に合致したきめ細かいワークフ
作業環境の放射線状況や施設外に放出する気体・液体の放射能濃度
ロー機能を開発し,2003 年 3 月に北海道電力
(株)
泊発電所に納入
の監視を連続で行うものであり,非常に重要なシステムである。富
した。このシステムでは,個人管理業務における煩雑な書類の申請
士電機は,各現場に分散配置される放射線検出部を高機能化して放
業務や通知業務の大幅削減を可能にした。さらに協力会社が自社
射線計測特有の機能を放射線検出部に集約し,中央への情報伝送に
データを任意様式で取り出せるようにした。また,発電所内外の放
Ethernet および情報処理に UNIX サーバを適用した高機能・高信
射線データ管理機能では,監視機能を強化するとともに,システム
頼性の大規模放射線監視システムを開発した。
状態やシステムの管理データの異常時に自動通報する機能を持たせ
た。
RI 利用施設向け放射線管理システム
放射線応用機器
佐藤 正昭
門野 浅雄
富士時報
水野 裕元
籔谷 孝志
Vol.77 No.5 p.389-391(2004)
富士時報
Vol.77 No.5 p.392-395(2004)
大学・病院・研究所などの放射性同位元素(RI)を使用する施設
熱間圧延制御用の大規模なシステムの例,厚板ミル直近γ線厚さ
向けの放射線管理システムを紹介する。近年,研究所・医療機関な
計,シームレス鋼管熱間肉厚計の最近の進展を紹介する。従来機に
どにおいて RI 利用が活発になっている。一方,環境に対する社会
比して,計器の飛躍的な高速応答化,インテリジェンス要素の多用,
の関心が高まる中で放射線管理システムは,ますます重要性が増し
データの大容量化,データベース化などが特長になっている。
てきている。システムの概要と最近の動向について紹介する。
また,日立製作所製放射線応用計測器の互換機の製造・販売を
行っており,すでに多数の納入実績がある。
Radiation Control Computer System
Large-scale Radiation Monitoring System
Eiichi Mihoya
Toshiaki Fujimoto
Kenichi Tanabe
Michio Akashi
Katsuhito Ito
Sadao Nakashima
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.385-388 (2004)
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.380-384 (2004)
Fuji Electric has adopted for the first time a browser-based screen
display developed for use by the nuclear power plants of electric power
companies and has deployed a detailed workflow function that corresponds to the radiation control. This system was installed at the
Tomari Power Station of Hokkaido Electric Power Co.,Inc. in March
2003, and enables the user to drastically reduce administrative paperwork, which including filings and notifications. Moreover, the capability
has been provided for partner companies to extract company data in
their desired format. Additionally, monitoring functions have been
strengthened and an auto-alarm function provided in case of error with
the system’s status or managed data.
Nuclear facilities monitor radiation in order to protect workers and
residents of neighboring communities from radiation exposure.
Radiation monitoring systems are extremely important systems that
continuously monitoring the radiation conditions within a facility and
the radioactivity concentration in gaseous and liquid waste emitted
from that facility. Fuji Electric has developed a sophisticated and highly
reliable large-scale radiation monitoring system in which radiation
detectors, provided with sophisticated and specific functionality for
measuring radiation, are distributed at various locations throughout
each site, data is transmitted via an Ethernet to a control room and a
UNIX server is used for data processing.
Industrial Measurement Instruments that Use
Radioisotopes
Radiation Monitoring System
Asao Monno
Masaaki Satou
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.392-395 (2004)
Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.389-391 (2004)
An example of a large-scale system for controlling hot rolling, and
recent developments for a gamma-ray thickness gauge for the innermill housing of a plate and a thickness gauge for a hot seamless tube
mill are introduced. The dramatically higher speed response, versatile
intelligent elements, larger data capacity and formation of a database
are advantages of these instruments over conventional devices.
Moreover, Fuji Electric’s industrial measuring instruments that use
radioisotopes are manufactured and marketed to be compatible with
those of Hitachi, and we have already compiled a track record of many
deliveries.
This paper introduces a radiation monitoring system for use at
facilities such as universities, hospitals and research laboratories
where radioisotopes (RIs) are used. RI used by medical institutions and
research laboratories has increased in recent years. Meanwhile, as
society becomes more concerned about the environment, radiation
monitoring systems are becoming increasingly important. An overview
of this system and recent trends are provided.
Hiroyuki Mizuno
Takashi Yabutani
Sept. 2004
高精度,
高 信 頼 性で皆 様のお役に立ちます 。
原 子 力 施 設 および 放 射 線 利 用 施 設 の 安 全 管 理に 欠 か せない 各 種 放 射 線 測 定 機 器と
計 算 機システムの 開 発に積 極 的に貢 献しています 。
特集 1 半導体
特集 2 放射線システム
目 次
特集 1 半導体
307( 1 )
パワー半導体デバイスへの期待
松瀬 貢規
308( 2 )
半導体の現状と展望
金田 裕和 ・ 松田 昭憲
313( 7 )
U シリーズ IGBT モジュール
γ線の線量率を測定する検出器
宮下 秀仁
放射線の外部被ばく線量を測定する個人線量計
U シリーズ IGBT-IPM(600 V)
関川 貴善 ・ 遠 藤
317(11)
弘 ・ 脇本 博樹
新絶縁基板を用いた次世代 IGBT モジュール技術
321(15)
西村 芳孝 ・ 望月 英司 ・ 高橋 良和
パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術
326(20)
環
境
の
放
射
線
測
定
松本 良輔 ・ 加藤 博久
330(24)
ワンチップ技術による高圧センサ
上柳 勝道 ・ 篠 田
茂 ・ 芦野 仁泰
電源二次側整流器用ダイオード「低 I R-SBD シリーズ」
334(28)
掛布 光泰 ・ 一ノ瀬正樹
60 V 耐圧 MOSFET 内蔵型降圧同期整流電源 IC
藤井 優孝 ・ 米 田
342(36)
PDP 用中耐圧 MOSFET
原
表紙写真
338(32)
保
幸 仁 ・ 井上 正範
346(40)
汎用 PDP スキャンドライバ IC
小林 英登 ・ 多 田
元 ・ 澄田 仁志
PDP ドライバ IC 用デバイス・プロセス技術
350(44)
澄田 仁志
中性子の線量率を測定する検出器
特集 2 放射線システム
355(49)
放射線機器の可能性について
中村 尚司
356(50)
放射線システムの現状と展望
個
人
の
線
量
測
定
身体内部の汚染レベルを
測定するホールボディカウンタ
河野 悦雄
358(52)
個人線量モニタリングシステム
青 山
電子機器や電気機械,自動車などには,時
敬 ・ 上 田
高木 俊博 ・ 木 村
機能化がますます強く要求されてきている。
環境放射線測定器
それらの製品の進化には,半導体技術が無く
小林 裕信 ・ 酒 巻
の米といっても過言ではない。
富士電機は,産業,自動車,情報・電源分
野向けの半導体に注力し,パワーエレクトロ
ニクスを支えるパワー半導体,パワー IC な
どについて研究開発から生産販売までを一貫
して手がけている。
表紙写真では,IGBT モジュール,パワー
MOSFET,圧力センサ,電源 IC を示し,ま
た,それらが用いられる産業,自動車,情報
通信,家電分野をイメージ的に表現している。
364(58)
環境放射線モニタリングシステム
代の進展とともに省エネルギー,小型化,高
てはならないものであり,半導体は正に産業
治 ・ 河村 岳司
修 ・ 皆 越
敦
剛 ・ 増 井
馨
369(63)
373(67)
放射性物質汚染検査装置
長谷川 透 ・ 橋本 忠雄 ・ 橋 本
学
大規模放射線監視システム
380(74)
藤本 敏明 ・ 伊藤 勝人 ・ 中島 定雄
放射線管理計算機システム
385(79)
三保谷英一 ・ 田辺 健一 ・ 明石 倫雄
RI 利用施設向け放射線管理システム
放射性物質が放出されていないかを
調べるサンプルラック
身体表面の汚染レベルを測定する体表面モニタ
389(83)
佐藤 正昭 ・ 水野 裕元 ・ 籔谷 孝志
放射線応用機器
門野 浅雄
392(86)
富士の放射線管理システム
お問合せ先:富士電機システムズ株式会社 電力営業本部 放射線営業部 電話(03)5435-7007
昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 16 年 9 月 10 日発行(年 6 回 1,3,5,7,9,11 月の 10 日発行)富士時報 第 77 巻 第 5 号(通巻第 828 号)
昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 16 年 9 月 10 日発行(年 6 回 1,3,5,7,9,11 月の 10 日発行)富士時報 第 77 巻 第 5 号(通巻第 828 号)
ISSN 0367-3332
Sept. 2004
特集1 半導体
特集2 放射線システム
本誌は再生紙を使用しています。
雑誌コード 07797-9
定価 735 円(本体 700 円)