富士時報 Vol.76 No.3 2003 シリーズレギュレータ IC 荒井 裕久(あらい ひろひさ) まえがき 図1 FA3901Y の外観 近年,普及が急速に進んでいる PDA(Personal Digital Assistant)やディジタルスチルカメラ,携帯電話などの 携帯電子機器において,持ち運びの利便性,バッテリー電 源の長寿命化の面から使用する半導体部品に対し,小型 化・軽量化・低消費電力化の要求が高い。 これらの半導体部品には,電源のリプルを嫌う場合があ り,また随時変動する電源では動作範囲を超えるとの問題 を解消するため,安定化した電源を供給すべく,低消費電 流型シリーズレギュレータ IC が必要となる。 富士電機では,低消費電力化(消費電力の削減) ,小型 化(SOT23-5 パッケージ)に対応した携帯機器用電源 IC としてシリーズレギュレータ IC「FA3901Y」を開発,製 品化したので概要を紹介する。 (3) 低ドロップアウト電圧 製品の概要 typ. 60 mV(Iout = 10 mA,Vout = 3.0 V) (4 ) 高出力電圧精度 FA3901Y は CMOS(Complementary Metal Oxide + −2 % Semiconductor)プロセス技術を用いて開発した,高精度, (5) 低出力電圧温度係数 低消費電流の電圧レギュレータ IC で,基準電圧源,誤差 typ. + −100 ppm/℃ (6 ) 高ラインレギュレーション 増幅器,出力電圧設定用抵抗網,短絡電流制限回路, シャットダウン回路などで構成されている。 出力電圧は,1.5 ∼ 4.0 V の範囲において 0.1 V ステップ で設定可能であり IC 内部で固定される。 CMOS プロセスによる低消費電流特性と,低オン抵抗 p チャネル MOS トランジスタ内蔵による低ドロップアウ ト電圧特性および待機機能により電池の長時間使用に対応 typ. 2 mV(Vin = Vout + 0.5 V ∼ Vin = 6 V) (7) 小型パッケージ SOT23-5 FA3901Y の外観を図1に示す。 (8) 短絡電流制限機能 typ. 150 mA (9) 出力電流 可能である。 特徴は次のとおりである。 100 mA 出力可能(1.8 V 出力品,Vin = 2.8 V 時) 150 mA 出力可能(3.0 V 出力品,Vin = 4.0 V 時) (1) 出力電圧 1.5 ∼ 4.0 V において 0.1 V で設定可能 図2にブロック図を示す。 (2 ) 低消費電流 typ. 0.85 µA〔チップイネーブル(CE)抵抗に流れる電 仕 様 流は除く〕 typ. 0.01 µA(待機時) 表1に絶対最大定格を,表2に主要電気的特性を示す。 荒井 裕久 電源 IC の開発,設計に従事。現 在,松本工場 IC 第一開発部。 163(21) 富士時報 シリーズレギュレータ IC Vol.76 No.3 2003 図2 ブロック図 IC の概要 VIN VOUT 4.1 LDO レギュレータ FA3901Y は CMOS による LDO(Low Drop Out)レ ENB − ENB ギュレータ IC で,バイポーラあるいは高 PSRR(Power Supply Rejection Ratio)レギュレータと比較して消費電 + Vref 流が小さく,ドロップアウト電圧が小さいため,バッテ 電流制限 リーの消費を抑え,かつ低いバッテリー電圧での使用が可 GND CE 能である。 またトリミングにより,出力電圧を用途に応じ 1.5 ∼ 4.0 V の範囲において 0.1 V ステップで電圧の設定を可能に している。 図3に出力電圧ー出力電流特性を示す。 表1 絶対最大定格 指定なき場合:Ta=25℃ 4.2 待機機能 項 目 記号 定 格 単位 入 力 電 圧 V in −0.3∼+6.5 V レギュレート動作の起動および停止を行う。 入力電圧(CE端子) V CE −0.3∼ V in+0.3 V 待機時:CE 入力 L 出 力 電 圧 V out −0.3∼ V in+0.3 V 出 力 電 流 I out 200 mA 出力 p チャネル MOSFET がオフとなり VOUT 許 容 損 失 PD 250 mW 端子は数 MΩで GND 端子に接続 動 作 周 囲 温 度 Topr −40∼+85 ℃ 接 合 温 度 Tj +125 ℃ 保 存 周 囲 温 度 Tstg −55∼+125 ℃ 内部回路すべて動作停止 動作時:CE 入力 H 内部消費電流約 0.85 µA で動作する 図 4に消費電流ー入力電圧特性を示す。 表2 主要電気的特性 項 目 出 力 電 圧 記 号 条 件 最 小 V out V in − V out =1.0 V I out =50 mA ×0.98 I out 出 力 電 流 標 準 最 大 単 位 ×1.02 V V in − V out =1.0 V V out ≦2 V 100 mA V in − V out =1.0 V 2.1V≦V out ≦2.9 V 120 mA V in − V out =1.0 V 3.0 V≦ V out ≦4.0 V 150 mA V in − V out =2.0 V mA 120 負 荷 安 定 度 ΔV out /ΔI out V in − V out =2.0 V 1mA≦ I out ≦100 mA 30 50 mV 入 出 力 電 位 差 V DRP I out =10 mA 60 80 mV Vin_A I out =0 mA 0.85 1.5 A Vin_B I out =10 mA 0.85 1.5 A CC_STBY V in − V out =1.0 V V CE =0 V 0.01 0.5 A 20 mV I 消 費 電 流 I 消費電流(待機時) I 入 力 安 定 度 ΔV out V out +0.5 V≦ V in ≦6.0 V I out =10 mA 2 出力電圧温度係数 ΔV out /ΔT V in − V out =1.0 V I out =30 mA −40 ℃≦ T opr ≦85 ℃ ±100 V out =0 V 150 mA 6 MΩ 短 絡 電 流 I LIM ppm/℃ CEプ ル ダ ウ ン 抵 抗 R PD CE Hレベル入力電圧 V CEH 0.7×V in V in V CE Lレベル入力電圧 V CEL 0 0.3×V in V 164(22) 富士時報 シリーズレギュレータ IC Vol.76 No.3 2003 図3 出力電圧ー出力電流特性 図5 出力電圧ー出力電流(短絡電流)特性 Vout=3.0 V,V in=4.0 V 3.5 3.0 250 I out(mA) V out(V) 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0 0 Vout=3.0 V,V in=4.0 V 300 :−40 ℃ :0 ℃ :25 ℃ :85 ℃ 200 150 100 :−40 ℃ :0 ℃ :25 ℃ :85 ℃ 50 50 100 150 200 0 0 1 I out(mA) 図4 消費電流ー入力電圧特性 I dd( A) 3 図6 立上り特性(電源投入) Vout=3.0 V 1.00 0.95 2 V out(V) :−40 ℃ :0 ℃ :25 ℃ :85 ℃ V in=0∼5 V 0.90 0.85 Vout 0.80 0.75 0.70 3 4 5 C out=1 F I out=50 mA Vout=3 V 6 V in(V) 4.3 短絡保護 FA3901Y は,VOUTーGND 端子間の短絡から出力ト 今後の予定 ランジスタを保護する短絡保護機能が付いている。 図5に出力電圧ー出力電流(短絡電流)特性を示す。 短絡保護回路は,図5に示すように出力電圧に対して出 力電流を制御し VOUTーGND 端子間が短絡した場合でも 出力電流を 150 mA に抑える。 本 IC の立上り時には,短絡保護回路は動作しないので, 現在,シリーズレギュレータの系列化を図るため高 PSRR 型シリーズレギュレータを開発中である。 携帯機器のアナログ系,通信系は,電源を介してノイズ による影響を受けやすいため,リプル除去率の高いレギュ レータが必要となる。 立上りが遅くなることはない。 図6に立上り特性(電源投入)を示す。 4.4 出力コンデンサ ボルテージレギュレータではレギュレーション動作の安 あとがき 以上,携帯機器用の電源 IC として開発したシリーズレ ギュレータ IC FA3901Y の概要について紹介した。 定化および過渡応答特性の向上のため一般的に出力コンデ 富士電機では,今後も電源の小型化,低消費電流化,高 ンサが使われる。本 IC は過渡応答向上のため,出力コン 精度化へと,一層の拡大が期待される携帯電子機器市場の デンサとしてセラミックコンデンサ 1 µF を使用すること ニーズに応えるとともに,電子機器の発展に貢献していく を推奨する。 所存である。 165(23) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。