FEJ 76 01 071 2003

富士時報
Vol.76 No.1 2003
電子デバイス・半導体
IC
パワー半導体
展 望
2001 年は半導体業界にとって非常に厳しい年であった
パッケージに代わる特性のよいクリアゲル− SOP,セン
が,2002 年はパソコンや携帯電話の一部に回復が見られ
サピッチの大幅縮小により高性能・高精度の小型モジュー
たこと,ディジタルスチルカメラ,家庭用ゲーム機器,
ルをラインアップした。これによりディジタルカメラのレ
DVD 機などの伸長,および中国市場の台頭に支えられ好
リーズタイムラグ短縮や銀塩フィルムカメラの小型・高性
調に推移した。その中でも特に地球環境保護に向けた省エ
能化に寄与し,カメラ分野での採用拡大を図っていく。
ネルギー,省資源のニーズに応えられる製品群は適用分野
自 動 車 用 圧 力 セ ン サ で は , CMOS プ ロ セ ス に よ る
を拡大している。富士電機はこれまで培ってきた高耐圧,
EPROM を用いたディジタルトリミング型圧力センサを開
パワーデバイス技術をもとに,これらをさらに磨き上げ,
発した。これはセンサ内部に真空基準室が設けられており,
顧客のニーズに応える製品群を提供し続けている。
高精度の絶対圧測定が可能な圧力センサである。
IC 部門では,上記の背景のもと,顧客の機器,システ
パワーデバイス分野では,顧客起点とした対応を最大限
ムの高機能化,省電力化,低コスト化に貢献するべく,パ
に重視し顧客満足度を確実に向上させる施策を展開中であ
ワーマネジメント技術に特徴ある電源 IC を中心に製品展
る。例えば第五世代 IGBT モジュール「U シリーズ」で
開を図っている。
は技術的なブレークスルーにより従来製品に比較して大幅
電源 IC 分野では,電子機器の待機電力削減に
な損失低減を達成し,小型化,高信頼性,さらに使いやす
最適な起動素子内蔵型のカレントモード制御電源 IC を開
さを実現し顧客の強い要望に応えたものである。U シリー
AC-DC
発した。これは 700 V ワンチップパワー IC で開発された
ズでは,600 V,1,200 V,1,700 V での系列化を行った。ま
高信頼性パワー MOS 技術が適用されている。起動素子を
た U シリーズでは 3,600 A までの大容量化を進めている。
内蔵したことにより待機時の消費電力を 100 mW 以下に
一方,一層の高性能化を目指して,インテリジェントパ
抑えられ,また外付け部品の削減も可能となった。
ワーモジュール「Econo IPM」をシリーズ化し製品化した。
DC-DC 電源 IC 分野では,ディジタルスチルカメラ,
これは汎用インバータやサーボアンプなどの電力変換装置
VTR カメラなどに最適な高効率マルチチャネル電源 IC
に適用するパワーデバイスとして小型化・薄型化を図り,
を開発した。これは,幅広い入力電圧範囲,高精度の基準
放射ノイズを抑制しつつも損失を低減させたものである。
電圧,充実した保護回路機能を特徴としている。また,近
ディスクリートデバイス分野では,近年の高調波規制に
年の液晶モニタの大画面化に対応するため,大容量パワー
対応するため力率改善回路を搭載する電源が増加している
MOSFET を直接駆動できる液晶モニタ電源制御 IC を開
が,この回路用に最適設計したダイオードとして「Super
発した。さらに,携帯電話やディジタルスチルカメラなど
LLD」を開発した。これは順方向電圧,スイッチング損
携帯電子機器の省電力化を目的とした高精度,低消費電流
失を大幅に改善し,なおかつソフトリカバリー化により低
の電圧レギュレータも開発した。
ノイズ化を実現させている。またスイッチング電源では軽
富士電機の高耐圧デバイスの特徴の一つである SOI 基
負荷時でも高効率な制御を可能とした複合発振型電流共振
板技術を適用した PDP 駆動 IC 分野では,ディスプレイ
方式の電源を開発し,制御 IC とともに 1 パッケージにま
の大画面化,高精細化が進み,これに対応するため IC の
とめた「M-Power 2」を商品化している。自動車用デバイ
低オン抵抗化,低コスト化が求められている。富士電機で
スとしては,ECU 用入力統合 IC を開発し,従来の ECU
は,これらの要求に応えるため,新構造 IGBT を採用した
部品実装点数・工数を大幅に削減し小型化を実現させてい
第三世代スキャンドライバ IC を開発した。
る。
富士電機独自のカメラ用パッシブ形オートフォーカスデ
バイスでは,低価格の広角モジュール,クリアモールド
今後も富士電機は特徴ある技術を生かして,さらに多様
化する顧客ニーズに応えていく所存である。
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1.4 V 起動マルチチャネル電源制御 IC
ディジタルスチルカメラなどの携帯機器に広く使われる
図1 1.4 V 起動マルチチャネル電源制御 IC
乾電池 2 本からの入力に対応したマルチチャネル電源制御
IC「FA7708R」
「FA7709R」を開発した。主な特徴は次の
とおりである。
(1) 幅広い入力電圧範囲:1.4 ∼ 10 V
(2 ) 6 チャネルの電源構成が可能
FA7708R では PWM 出力 5 チャネル+シリーズレギュ
レータ駆動,FA7709R では PWM 出力 6 チャネル。それ
ぞれ 2 チャネルは p/n 駆動切換可能
(3) 低消費電流化:200 kHz にて 3 mA
(4 ) チャネルごとのオンオフ制御,ソフトスタート機能
(5) 保護回路機能内蔵(低電圧誤動作防止,短絡保護)
(6 ) VQFN-48 パッケージ(鉛フリー対応可能)
液晶モニタ用 3 チャネル電源制御 IC
液晶モニタの大画面化に伴い,電源の供給電力は増加方
図2 3 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC
向にある。そこで,大容量パワー MOSFET を直接駆動で
きる 3 チャネル PWM 型 DC-DC コンバータ用 IC を開発
した。本 IC の主な特徴は次のとおりである。
(1) 大容量パワー MOSFET(Ciss = 2,000 pF 程度)を直
接駆動可能(ピーク出力電流+
− 800 mA)
(2 ) 降圧,昇圧,極性反転およびフライバック回路が構成
可能
(3) 外付け MOSFET の p/n 駆動切換が可能(チャネル 2,
3 のみ)
(4 ) CMOS プロセスにより低消費電流(動作時 7 mA)
(5) 高周波動作が可能(200 ∼ 800 kHz)
(6 ) 小型・薄型 TSSOP-24 ピンパッケージ
起動素子付きカレントモード制御電源 IC
電子機器の待機時消費電力を低減するために,高耐圧の
起動回路を内蔵し軽負荷時に発振周波数を低下させるス
イッチング電源制御用 IC を開発した。
この製品の主な特徴は次のとおりである。
(1) 高耐圧 CMOS プロセスにより低消費電力化を実現
(2 ) ピーク電流制御方式電流モード PWM 制御
(3) 起動回路の内蔵により低消費電力化と外付け部品の削
減を実現
(4 ) 発振周波数の異なる 3 タイプ
FA5506:130 kHz,FA5507:100 kHz,FA5508:60 kHz
(5) 軽負荷時周波数低下機能内蔵(typ.1.5 kHz まで低下)
(6 ) 過負荷,過電圧,低電圧入力に対する保護機能内蔵
(7) DIP-8 または SOP-8 の 2 種類のパッケージ
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図3 起動素子付きカレントモード制御電源 IC
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シリーズレギュレータ
携帯電話やディジタルカメラなど,携帯電子機器の省電
図4 電圧レギュレータ FA3901Y
力化を目的として,高精度・低消費電流の電圧レギュレー
タ「FA3901Y」を開発した。
主な特徴は次のとおりである。
(1) 低消費電流:0.9 μA(動作時)
(2 ) 高出力電圧精度:1.5 ∼ 4.0 V で 0.1 V ステップのトリ
ミングが可能。+
−2 %精度を実現
(3) 短絡電流制限機能内蔵
(4 ) 出力電流:150 mA
(5) 小型パッケージ:SOT23-5
(6 ) セラミックコンデンサ可能:1μF
第三世代 PDP スキャンドライバ IC
大画面で高精細の薄型ディスプレイが家庭内プラット
図5 PDP スキャンドライバ IC FD3283F
フォームとして求められるようになってきている。PDP
(Plasma Display Panel)はそのための最適なディスプレ
イであり,大幅な成長が見込まれている。富士電機は
PDP 開発当初から独自の高耐圧デバイス技術により,お
客様のニーズに合ったドライバ IC を開発し,供給し続け
てきた。今回,新構造 IGBT 採用による第三世代スキャン
ドライバ IC「FD3283F」を開発した。主な特徴は次のと
おりである。
(1) 新構造 IGBT 採用により低オン抵抗を実現
(2 ) チップサイズを当社従来品の 70 %に縮小
(3) 64 ビットトーテムポール IGBT 出力
(4 ) 最大電圧 150 V,最大電流-200 mA/1,000 mA
(5) TQFP100 ピンパッケージ(ヒートシンク付き)
車載用ディジタルトリミング型圧力センサ
CMOS プロセスによる EPROM を用いたディジタルト
図6 車載用ディジタルトリミング型圧力センサ
リミング型圧力センサを開発した。標準パッケージ製品と
して,エンジン吸気圧測定用スタンドアロンタイプと,大
気圧補正などに用いる自立型セルタイプがある。いずれも
センサ内部に真空基準室が設けられており,絶対圧力を高
精度に測定できる圧力センサである。
これらの標準パッケージ製品に搭載されている圧力セン
サチップは,①圧力をひずみ(抵抗値変化)に変換する
ゲージ,②高分解能・高信頼性 EPROM 調整回路,③高
精度増幅回路,さらに,車載用として高い技術力が必要な
④ EMI フィルタ回路,⑤サージ保護回路など,すべての
機能をワンチップに内蔵している。
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第五世代 IGBT モジュール「U シリーズ」
近年,産業用インバータなどの電力変換装置に使用され
図7 第五世代 IGBT モジュール U シリーズ
る電力用半導体素子にはさらなる低損失化,小型化,高信
頼性,使いやすさが求められている。この要求に対し富士
電機は,第五世代のトレンチ構造 IGBT を適用した中容量
の IGBT モジュールの開発を行い,製品化した。この製品
は従来製品に比べて大幅な損失改善を達成している。
主な特徴は次のとおりである。
(1) 定格:600 V/20 ∼ 600 A,1,200 V/10 ∼ 450 A,1,700
V/75 ∼ 450 A
(2 ) 小型化:従来品使用時の約 1/2 の容積
(3) 使いやすさ:ピン端子構造によりプリント板実装が容易
(4 ) 高信頼性:サーミスタ内蔵による温度保護精度向上
(5) 低損失化:VCE( sat)(125 ℃)= 1.8 V/2.0 V(600 V/
1,200 V 品)従来比較で素子発生損失を 20 ∼ 30 %低減
インテリジェントパワーモジュール「Econo IPM シリーズ」
汎用インバータやサーボアンプなどの電力変換装置に適
関連論文:富士時報 2002.10 p.572-576
図8 インテリジェントパワーモジュール Econo IPM シリーズ
用されるパワーモジュールに対する低損失化と小型化の要
求が高まっている。この要求に対し,富士電機は R-IPM
と Econo モジュールのコンセプトを融合して小型・薄型
化を図った Econo IPM を開発した。Econo IPM シリーズ
は 600 V NPT-IGBT と新構造 FWD の採用により,放射
ノイズ増加を抑制しつつ,トータル損失を 10 %(当社比)
改善した。Econo ダイオードモジュールと同等の端子高さ
であり,組み合わせることで装置の小型化に貢献する。
(1) 定格電圧・電流/構成:600 V,50 ∼ 150 A/6,7 個組
(2 ) 外形:W122 × D55 × H17(mm)
(3) VCE(sat):2.0 V(定格電流時,25 ℃標準値)
(4 ) 内蔵機能:ドライブ機能,SC,CO,TjOH,LV,全
相アラーム出力
大容量 IGBT モジュール
産業用電力変換装置に用いるパワーデバイスにおいては,
大容量・高性能・高信頼性を兼ね備えた製品の要求が高
まってきている。これに対応するため富士電機は,耐圧
1,200 V および 1,700 V クラスで,1,200 A の産業用大容量
IGBT モジュールの開発を進めている。これらの大容量
IGBT モジュールは,第五世代の FS(Field-Stop)トレン
チ構造 IGBT を適用し,従来の製品に比べ大幅な損失改善
を達成している。
主な特徴は次のとおりである。
(1) 大容量: 1,200 A の電流容量
(2 ) 高性能:低オン電圧 VCE(sat) = 2.0 V(125 ℃,標準
値,1,200 V クラス)
(3) 高信頼性:内部構造の最適化による信頼性の向上
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図9 大容量 IGBT モジュール
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自動車 ECU 用入力統合 IC
富士電機では ECU コネクタから入力される静電サージ,
図10 自動車 ECU 用入力統合 IC
イグニッションパルスサージ,電磁波ノイズなどのサージ
ノイズのみを吸収し,マイクロコンピュータへの電気的信
号・車両の各種状態信号のみを伝達することを製品コンセ
プトとする,自動車 ECU 用入力統合 IC を開発した。ワ
ンチップ 14 チャネル構成の半導体素子を SSOP 多ピン
パッケージに搭載することにより,従来構成に比べ ECU
の部品実装点数・工数を削減し,その実装面積を 1/5 に小
型化できる。その他の特徴は次のとおりである。
(1) 自己分離 NDMOS プロセス適用
(2 ) 高 ESD 耐量(150 pF-150 Ω,+
−25 kV 以上)
(3) 電磁波ノイズ耐量(200 V/m,1 ∼ 1,000 MHz)
(4 ) 耐圧: VB = 75 V,VOS = 7 V(typ.)
電源用マルチチップパワーデバイス「M-Power2」
スイッチング電源には低消費電力,ノイズの低減などの
図11 M-Power2(F9221L)
環境への配慮や,小型化・軽量化が求められている。これ
らの要求に対応し,かつ軽負荷時でも高効率な制御ができ
る複合発振型電流共振方式の電源を開発し,専用のデバイ
スとして制御 IC とスイッチングデバイスを一つのパッ
ケージにした M-Power 2 を商品化した。
特徴は次のとおりである。
(1) 高効率・低ノイズ
(2 ) 待機動作:無負荷時電力 0.4 W 以下(補助電源不要)
(3) 各種保護機能(ラッチ停止付き):過電流,負荷短絡,
過熱,過電圧
(4 ) 小型パッケージ:高さ 10 mm ,幅 30 mm,厚さ 3.5
mm の SIP パッケージ(13 ピン)
電流非連続モード力率改善回路用 600 V SuperLLD
電子機器の小型・軽量化に伴い,スイッチング電源では
図12 電流非連続モード力率改善回路用 600 V SuperLLD
高周波化・高効率化が進んでいる。特に近年の高調波規制
に対応するため力率改善回路(PFC 回路)を搭載する電
源が増加してきている。低容量電源を主とする電流非連続
モード用 PFC 回路に使用されるダイオードは損失が大き
く電源効率向上の課題となっていた。この改善のため,順
方向電圧 VF を低減した電流非連続モード力率改善回路用
600 V/3 ∼ 20 A の SuperLLD(Low Loss fast recovery
Diode)を開発した。主な特徴は次のとおりである。
(1) 順方向電圧:当社従来比 10 %低減
(2 ) 低損失:PFC 回路(電流非連続モード)用でのダイ
オード損失を 12 %低減可能
(3) ソフトリカバリーによる低ノイズ化
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*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。