富士時報 Vol.74 No.10 2001 汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC 野村 一郎(のむら いちろう) 米田 保(よねだ たもつ) まえがき 表1 FA7703とFA7704の出力極性と適用回路 型 式 ノートパソコンや携帯電話,ビデオカメラなどの携帯電 出力 端子 子機器は,高機能化に伴う高速動作化,表示パネルの大画 面・カラー化などにより消費電力が増大する方向にある。 一方,機器の小型化や連続通電時間の長時間化の市場要 SEL1端子 接続先 駆動素子 GND 端子 pチャネル MOSFET pnpトランジスタ OUT1 FA7703 V/M 昇圧回路または フライバック 回路 pチャネル MOSFET pnpトランジスタ 降圧回路または 極性反転回路 pチャネル MOSFET pnpトランジスタ 降圧回路 OUT2 タが使用された機器にも,小型・高効率化に有利な DC- GND 端子 DC コンバータの適用が広がりつつある。 この要求にこたえ,富士電機では,小型化に有利な高周 波 化 , 高 効 率 化 に 有 利 な 低 消 費 電 流 化 と MOSFET OUT1 FA7704 V/M REG 端子 nチャネル MOSFET (2.2 V) npnトランジスタ 昇圧回路または フライバック 回路 nチャネル MOSFET npnトランジスタ 昇圧回路または フライバック 回路 (Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)駆 OUT2 動化に適する CMOS(Complementary Metal Oxide Semi- 降圧回路 REG 端子 nチャネル MOSFET (2.2 V) npnトランジスタ 求から,電源の小型・高効率化の必要性が高まっている。 このため,電源に関しては,従来はシリーズレギュレー 適用回路 conductor)型の DC-DC コンバータ IC(Integrated Circuit) (1)∼(4 ) の製品系列化を進めている。この系列として2チャネル出 (OUT2)降圧・極性反転用 力の IC「FA7703V/M」と「FA7704V/M」の開発を完了 したので,ここにその概要を報告する。 ™FA7704V/M: (OUT1)降圧・昇圧・フライバック用 (OUT2)昇圧・フライバック用 製品の概要 (5) 高精度基準電圧: 1 V + − 1 %(REF 端子) FA7703V/M,FA7704V/M は,直流安定化電源として 1 V+ − 2 %(チャネル 1 誤差増幅器) (6 ) 各チャネルとも,任意の最大オン時比率に設定可能 機能するための,駆動スイッチング素子のスイッチング周 (7) ソフトスタート機能(起動時にオン時比率を徐々に広 期に対するオン時比率(デューティサイクルともいう)の げて,電源出力電圧のオーバシュートなどを仰制)とタ 制御を行う基本機能のほか,電源の小型・高効率化に有利 イマ・ラッチ方式の短絡保護機能(電源出力の短絡が一 な以下の特長を有する。 定時間継続後にスイッチング動作を停止)を内蔵し, (1) 電源電圧範囲が広い: IC 電源入力 Vcc = 2.5 ∼ 18 V CS 端子にコンデンサ 1 個のみの接続でこれら二つの機 (2 ) 動作周波数範囲が広い: 50 kHz ∼ 1 MHz 能を実現(当社特許) (3) 低電圧動作に有利な 0 V ∼ Vcc の振幅で n チャネルま (8) 消費電流が小さい: 1.7 mA(標準,190 kHz 時) , (9) パッケージ: TSSOP-16〔最大 5.1 × 6.5 × 1.1( mm) たはpチャネル MOSFET を駆動可能: ™OUT1,OUT2 端子ハイサイドオン抵抗= 10 Ω 型式末尾: V〕の小型・薄型品と,許容損失が 400 mW ™OUT1,OUT2 端子ローサイドオン抵抗= 5 Ω , と比較的大きい SOP-16〔最大 10.5 × 8.0 × 2.1( mm) (ベース電流設定抵抗とスピードアップコンデンサの 型式末尾:M〕の 2 種を製品化 (10) 低 電 圧 誤 動 作 防 止 ( UVLO: Under Voltage Lock- 接続により,バイポーラトランジスタの駆動も可能) (4 ) 各回路方式に適した IC を選択可能(表1参照): Out)回路を内蔵し,Vcc 約 2 V 以下でスイッチングを ™FA7703V/M: (OUT1)降圧・昇圧・フライバック用 停止するとともに,CS 端子を 0 V に引き下げ,電源投 野村 一郎 米田 保 リニア IC の開発に従事。現在, スイッチング電源制御 IC の開発 松本工場 IC 開発部。 に従事。現在,松本工場 IC 開発 部。 557(13) 富士時報 汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC Vol.74 No.10 2001 構成しており,図3は SEL1 端子を GND 端子に接続し, 入前の状態にリセット (11) 外付部品が少ない:電圧検出抵抗を含め,抵抗11∼15 チャネル 1 で降圧回路,チャネル 2 で昇圧回路を構成して 個(アプリケーションに依存) ,コンデンサ 4 個で 2 チャ いる。これらの電源は,各種 IC や液晶パネルなどの負荷 ネルの MOSFET 駆動を実現 に電力を供給することが可能である。なお,前述のとおり, 参考として 図 1 に FA7703V/M と FA7704V/M 共通の 各 IC ともに適用可能な電源回路方式は種々あり,ここに 内部ブロック図を示す。2 種の IC の相違点は OUT2 端子 示す例はあくまでその一例である。 の出力極性のみであり,上記 で述べたとおり,所望の応 (4 ) 電源起動時には CS 端子に接続したコンデンサを内部2 μA電流源で約 0.6 V から約 1.1 V に充電する間に,外付け 用回路に応じて最適の IC を選択できる。 MOSFET のオン時比率が 0 から徐々に広がる前述のソフ 応用回路例 トスタート動作が働くことにより,電源出力の容量を急速 充電する過大な突入電流の防止ができるとともに,電源出 応用回路例として,図2に FA7703,図3に FA7704 を 力電圧が緩やかに上昇するため,フィードバック制御によ 使用した例を示す。 図2 は SEL1 端子を REG 端子に接続 る同電圧のオーバシュートが抑制できる。電源出力電圧が し,チャネル 1 で昇圧回路,チャネル 2 で極性反転回路を 設定値で安定する定常動作に移ると,CS 端子は内部で約 図1 FA7703 と FA7704 共通の内部ブロック図 REG DT1 REF IN1− FB1 SEL1 OUT1 VCC 16 15 14 13 12 11 10 9 誤差増幅器1 − 基準電圧 + − + 1V + Ics 2.2 V + オンオフ PWM コンパレータ1 1.27 V バイアス UVLO 1.5 V 短絡保護 + − + − − 2.0 V 短絡検知 電圧監視 オンオフ FA7703 + − + 誤差増幅器2 + + 発振器 FA7704 PWM コンパレータ2 − 1 2 3 4 5 6 7 8 RT CS DT2 IN2+ IN2− FB2 GND OUT2 図2 FA7703 の応用回路例 10 1 kΩ 2.5∼8.0 V 9 kΩ H + SC802-04 CPH3403 数十 + 10 V/100 mA F 11 kΩ 10 kΩ REG 11 kΩ 0.1 F DT1 CPH3303 CS DT2 IN2+ IN2− FB2 10 kΩ 10 kΩ 1 F 10 kΩ 10 kΩ 1 kΩ 16 kΩ 558(14) −7.5 V/100 mA REF IN1− FB1 SEL1 OUT1 VCC FA7703 RT SC802-04 10 GND OUT2 数十 H F + Vol.74 No.10 2001 汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC 1.27 V にクランプされる。 MOSFET のスイッチング損失(ターンオン時またはター 富士時報 電源の過負荷または出力短絡による出力電圧の異常低下 ンオフ時の電力損失)を小さくできる。ここでは図4の全 が生じると, 図 2 では IN1 −端子または IN2 +端子にお 回路と図5のチャネル2の波形が不連続モードの動作のた いて, 図 3 では IN1 −端子または IN2 −端子において出 め,インダクタ電流が 0 になる期間にインダクタと回路全 力電圧絶対値の低下を検知することにより CS 端子の約 体の容量との共振による数 MHz 程度のドレイン電圧振動 1.27 V 内部クランプ回路がはずれ,CS 端子接続コンデン が生じているが,正常な波形である。 サを再び内部2μA電流源で充電する。同端子が約 2 V を 図6および図7に各回路の電力変換効率データを示す。 超えるとタイマ・ラッチ短絡保護回路が働き,二つのチャ 図6の昇圧回路と極性反転回路を構成した例では,入力 ネルともスイッチング動作を停止する。この動作後には, 2.5 ∼ 8.0 V, 出 力 10 V/0.1 A と − 7.5 V/0.1 A で 約 82∼ 電源入力遮断などにより VCC 端子が約 2 V 以下に下がる 85 %と高効率を得ている。電源入力電圧の上昇に対し, までスイッチング停止が維持される。 オン時比率が下がり外付け MOSFET のオン時電力損失が 定常動作時の外付け MOSFET のスイッチング波形を図 減少することと,同 MOSFET の駆動電力とスイッチング 4および図5に示す。二つの回路とも約 400 kHz の比較的 損失が増大することのトレードオフから,電源入力電圧の 高い周波数動作のため,メイン回路のインダクタ値および 変化に対して効率がほぼ一定になっている。 コンデンサ容量を小さくでき,電源の小型化が可能である。 図7の降圧回路と昇圧回路を構成した例においても,入 また,数十 ns 程度の高速スイッチングをしていること, 力 8 ∼ 18 V, 出 力 5 V/0.5 A と 30 V/20 mA で 約 84∼ およびインダクタ電流を連続モード (電流が常時 0 より大) 90 %と高効率を得ている。 図6 に比べて電源入力電圧が と不連続モード(スイッチング周期内で電流が 0 になる期 高い領域にあるため,同電圧にほぼ比例する外付け MOS 間がある)の境界近傍で動作させていることから,これら FET の駆動電力とスイッチング損失が比較的大きくなり, 図3 FA7704 の応用回路例 CPH3303 1 kΩ 8∼18 V 4 kΩ 47 H + 数十 F 5 V/500 mA + SC802-04 22 REG DT1 RT CS REF IN1− FB1 SEL1 OUT1 VCC H SC802-04 数十 CPH3406 + F 30 V/20 mA FA7704 11 kΩ 0.1 F DT2 IN2+ IN2− FB2 GND OUT2 10 kΩ 10 kΩ 0.1 F 1.5 kΩ 43 kΩ 図4 FA7703 応用回路の MOSFET スイッチング波形 図5 FA7704 応用回路の MOSFET スイッチング波形 OUT1側 ゲート電圧 (5 V/div) 0V OUT1側 ゲート電圧 (10 V/div) 0V OUT1側 ドレイン電圧 (10 V/div) 0V OUT1側 ドレイン電圧 (10 V/div) 0V OUT2側 ゲート電圧 (5 V/div) 0V OUT2側 ゲート電圧 (10 V/div) 0V OUT2側 ドレイン電圧 (10 V/div) 0V (1 s/div) OUT2側 ドレイン電圧 (20 V/div) 0V (1 s/div) 559(15) 富士時報 汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC Vol.74 No.10 2001 がる傾向にある。 図6 FA7703 応用回路の電力変換効率データ いずれの IC においても,オン時比率制御に用いる発振 100 器の三角波電圧を内蔵して外部端子に出力しない構成とし たため,一般の電源 IC に多い三角波電圧の出力端子の接 95 効率(%) 地または電源端子などとの短絡によるオン時比率 100 %と 90 なるアブノーマルモードを回避することが可能である。 85 あとがき 80 75 70 2 携帯電子機器などの小型化,高効率化に有利な,高周波 動作,低消費電流,MOSFET 駆動に適した 2 チャネル出 3 4 5 6 入力電圧(V) 7 8 9 力の DC-DC コンバータ IC(4型式)の概要を紹介した。 富士電機では,今後も電源の小型化,高効率化,軽量化 および安全性向上に寄与すべく,高精度化,保護機能の充 図7 FA7704 応用回路の電力変換効率データ 実,制御方式の考案・改良などを行い,製品系列の拡大を 図っていく所存である。 100 参考文献 効率(%) 95 (1) 野村一郎.1 チャネル CMOS DC - DC コンバータ制御 IC. 90 富士時報.vol.73,no.8,2000,p.432- 435. 85 (2 ) 遠藤和弥.同期整流対応 6 チャネル DC- DC コンバータ制 御 IC.富士時報.vol.73,no.8,2000,p.436- 439. 80 (3) 山田谷政幸.3 チャネル DC- DC コンバータ用 IC.富士時 75 70 6 報.vol.71,no.8,1998,p.434- 437. (4 ) 遠藤和弥.6 チャネル DC- DC コンバータ用 IC.富士時報. 8 10 12 14 入力電圧(V) 16 18 20 vol.71,no.8,1998,p.438- 441. (5) 丸山宏志.カレントモード電源用 CMOSIC.富士時報. vol.71,no.8,1998,p.430- 433. 全損失に占める外付け MOSFET のオン時電力損失の割合 が小さくなるので,電源入力電圧の低下に対して効率が上 解 説 (6 ) 野村一郎,有村健一.DC- DC コンバータ制御用 IC.富士 時報.vol.68,no.7,1995,p.403- 406. CMOS-IC MOS 型〔駆動電極の金属など(Metal) ,絶縁物で あるシリコン酸化膜(Oxide) ,半導体(Semiconduc- 間平均値が小さく,かつ,駆動電流の流れる時間が短 いので,高周波動作,低消費電流動作に適している。 tor)のサンドイッチ構造〕の電界効果トランジスタ (Field Effect Transistor)で構成される半導体集積回 +電源 路(Integrated Circuit)の一種である。 ロー電圧駆動で導通する p チャネル MOSFET とハ G イ電圧駆動で導通する n チャネル MOSFET の 2 種に よ り 相 補 す る ( Complementary) MOSFET 構 成で S D 入力 (駆動電極) 駆動電流はスイッチング動作(ターンオン,ターン pチャネルMOSFET 出力 D nチャネルMOSFET 種々の回路が作りやすく,基本回路は右図のインバー タ(反転器)である。 寄生容量 (各電極間) G G:ゲート電極 D:ドレイン電極 S :ソース電極 S 0V オフ)時に駆動電極(ゲート)まわりの比較的小さい 寄生容量を充放電する成分のみのため,駆動電流の時 560(16) CMOS 回路例(インバータ) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。