FEJ 79 05 398 2006

富士時報 Vol.79 No.5 2006
擬似共振型低待機電力電源制御 IC
特 集
園部 孝二(そのべ こうじ)
打田 高章(うちだ たかあき)
まえがき
することができ,プリンタ用電源や液晶テレビ用電源など
ノイズ対策が必要となるアプリケーションに適している。
近年,地球温暖化問題が注目され,電気製品全般での省
図 1 に 製 品 の 外 観(DIP-8,SOP-8) を 示 す。 最 大 発
エネルギー化が重要となっている。特に電気製品を使用し
振周波数や過負荷保護動作などの違いにより FA5540,
ていなくても,コンセントに接続されている状態で消費さ
FA5541,FA5542 の 3 型式の系列化を行った。特性一覧
れる待機電力を減らすことが大きな課題となっている。
を表1にまとめる。図 2 に FA5541 のチップ,図 3 に回路
こ の よ う な 状 況 の 中, 富 士 電 機 で は 商 用 交 流 電 源
(AC100 〜 240 V) を 直 流 電 源 に 変 換 す る AC-DC コ ン
図
製品の外観
表
FA5540シリーズの特性一覧
バータ用スイッチング電源の制御 IC として,低待機電力
化に有効な起動素子内蔵タイプの系列化を進めてきた。起
動素子内蔵タイプは,電源の起動時に,一次側高電圧から
制御 IC の動作開始に必要な起動電流を供給し,スイッチ
ング動作開始後は一次側高電圧からの起動電流をオフする
特徴を持つ。
現在までに系列化した起動素子内蔵タイプの制御 IC は,
PWM(Pulse Width Modulation) 制 御 IC「FA5516」 シ
( 1)
リーズと擬似共振型低待機電力電源制御 IC「FA5530」シ
( 2)
リーズがある。これらの IC の特徴として,電気製品の待
機状態である軽負荷時や無負荷時に,スイッチングロスを
最大スイッチング
周波数制限
過負荷
保護動作
型 式
VCC端子
過電圧レベル
消費電流
今回は,さらなる電源の低待機電力化を実現するために,
FA5540
16 V
1.1 mA
60 kHz
自動復帰
軽負荷時や無負荷時に間欠動作する擬似共振型低待機電力
FA5541
28 V
1.2 mA
120 kHz
自動復帰
電源制御 IC「FA5540」シリーズを開発したので,その概
FA5542
28 V
1.2 mA
120 kHz
ラッチ
減らすため発振周波数を低下させる機能を備えている。
要を紹介する。
図
FA5541 のチップ
製品の概要
.
特 徴
FA5540 シリーズは,擬似共振制御方式のスイッチング
電源用に開発した制御 IC である。AC-DC 電源の一次側
のパワー MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor FieldEffect Transistor)のドレイン電圧を補助巻線電圧で間接
的に監視し,トランスに蓄積したエネルギーを二次側出力
に供給し終わったあとの,共振振動の電圧極小点でタイミ
ングを取ってパワー MOSFET をオンさせる。これにより
スイッチングロスを低減し,高効率・低ノイズ化を容易に
398( 54 )
園部 孝二
打田 高章
スイッチング電源制御 IC の開発
スイッチング電源制御 IC の開発
に従事。現在,富士電機デバイス
に従事。現在,富士電機デバイス
テクノロジー株式会社半導体事業
テクノロジー株式会社半導体事業
本部情報・電源事業部技術開発部。
本部情報・電源事業部技術開発部。
擬似共振型低待機電力電源制御 IC
富士時報 Vol.79 No.5 2006
図
FA5541 の回路ブロック図
立下りエッジ
検出回路
FB端子電圧
ワンショット
パルス
発生回路
(205 ns)
内部トリガ
発生タイマ
(5.6 s)
起動電流
制御回路
12.4 V/10.2 V
5 V出力
チェック
回路
5 V発生
回路
−
0.34 V
電流比較器
+
S
Q
ZCD
+
R
−
1V
OUT端子
スイッチング
パルス
OUT
−
過電圧検出2
重負荷
−
−
ソフトスタート
電圧発生器
(1 ms)
7.2 V
タイマ
200 ms
1,600 ms
VCC
リセット
−
+
+
出力
回路
−
50 A
3.3 V
低電圧
保護回路
電源
+
IS
スイッチング
停止電圧
0.34 V
VCC
10.2 V/
内部制御用
9V
スイッチング停止
電圧検出
5V
起動電流
供給回路
VH
クリア
リセット 最大スイッチング
周波数制限
8.3 s
5V
(120 kHz)
FB
間欠動作波形
特 集
ZCD
図
タイマ
ラッチ
(54 s)
+
−
過負荷検出
軽負荷
過電圧検出1
28 V
GND
にトランスに蓄積したエネルギーを,オフ期間に二次側に
フライバック電圧として伝送し,放出し終わった後,トラ
図
擬似共振動作の説明
ンスのリアクタンスとドレイン容量の間で共振を起こし電
圧が振動する。擬似共振方式はこれを利用してドレイン電
圧が極小点まで下がったタイミングでパワー MOSFET を
パワーMOSFET
V ds 波形
オンさせる。この場合,トランスを流れる電流がゼロでド
レイン電圧が小さいときにスイッチングするため,スイッ
最大発振周波数
制限
8.3 s
(120 kHz)
8.3 s
8.3 s
(120 kHz) (120 kHz)
チングロスやノイズを低減することができる。
図 4 に擬似共振動作の説明を示す。一般に擬似共振方式
ZCD端子検出
立下りエッジ信号
では負荷が軽くなるとスイッチング周波数が高くなる。ス
OUT端子
スイッチング
パルス
低下することや高周波ノイズを発生し機器の誤動作を起こ
イッチング周波数が高いとスイッチングロスが増え効率が
すなどの弊害があるため,最大スイッチング周波数制限機
能を制御 IC に設けて,スイッチング周波数がそれ以上高
くならないようにしている。
ブロック図を示す。IC の特徴は以下のとおりである。
500 V 耐圧の起動電流供給回路を内蔵し,一次側高電
( 1)
.
軽負荷時・無負荷時動作
圧の VH 端子から制御 IC の電源である VCC 端子に電
軽負荷時や無負荷時には,スイッチング停止電圧検出
流を供給している。
比較器により FB 端子電圧が 0.34 V 以下になるとスイッチ
™電流供給時:7.5 mA(VCC =0 V)
ング停止する。再び FB 端子電圧が 0.34 V 以上になるとス
™電流停止時:20 µA(VCC =15 V)
イッチングを再開する。この機能による間欠動作波形を図
軽負荷時や無負荷時には FB 端子電圧が低下し,
0.34 V
( 2)
5 に示す。このように FB 端子電圧はスイッチング停止電
以下になるとスイッチング停止電圧比較器により,ス
圧を挟んでオーバシュート,アンダシュートを起こす。こ
イッチング停止する。この機能を利用して間欠動作を実
のオーバシュート期間にオン幅の広い連続パルスを出し,
現している。
アンダシュート期間にスイッチング停止することで,周期
高耐圧厚膜ゲート CMOS プロセスの採用により,回
( 3)
の長い間欠動作を行っている。
路構成が単純化でき,消費電流が少ない。
電源回路への応用
制御 IC の電源端子 VCC の電圧が 10.2 V 以上で動作
( 4)
開始し,9.0 V 以下になると動作停止する UVLO(低電
圧誤動作防止)回路を内蔵している。
VCC 端子過電圧ラッチ,ZCD 端子過電圧ラッチ,ソ
( 5)
.
評価用電源
この IC を使ったスイッチング電源の特性を説明する。
フトスタート,過負荷保護など各種保護機能を内蔵して
図 6 に電源回路図を示す。
いる。
電源の主な仕様は以下のとおりである。
™入力電圧:AC 80 〜 264 V,50/60 Hz
.
擬似共振動作
フライバックコンバータはパワー MOSFET のオン期間
™出 力:DC19 V,0 〜 5 A(95 W)
™使用 IC:FA5541(最大周波数 120 kHz)
399( 55 )
富士時報 Vol.79 No.5 2006
図
擬似共振型低待機電力電源制御 IC
評価用電源回路
特 集
Bead C21
D21
2,200 pF
C11
AC80∼
264 V
470 pF
R1
1 MΩ
C1
R2
1 MΩ
F1
3A
7 mH
L1
C2
D1
∼ +
TH1
+
C4
220 F
C3
R3
56 kΩ
C5
2,200
pF
∼ −
0.22 F 470 pF
3,300 F
×3
L21
T1
D22
D2
J2
J1
Q1
パワー
MOSFET
FG
D3
R4
7.5 kΩ
R15
D4
100 Ω
R9
+
+
C22 C23 C24
+
C25
1,000 F
C29
0.022 F
C6
220
pF
R7
4.7 kΩ
R5
10 Ω
+
PC1
C9
22 pF
C7
1,000
pF
PC1
R12
0Ω
C8
4,700 pF
8
2
7
IC21
3
6
4
5
FA5541
+
2.4 Ω
R14
GND
R26
200 kΩ
R23
10 kΩ
C26 2,200 pF
R25
制御IC
1
R22
2 kΩ
R8
0.22 Ω
R6
100 Ω
+19 V
0∼5 A
4.7 F
L22
D5
C28
0.1
F
R27
18 kΩ
C27
10 kΩ 0.01 F
R28
15 kΩ
T1
N p :N s :N sub:57:10:12
L p =360 H
C10
100 F
R11
100 kΩ
図
定格負荷時のスイッチング波形(入力 AC100 V)
図
OUT端子
スイッチング
パルス
(20 V/div)
0
パワーMOSFET
ドレイン電圧
(100 V/div)
0
4 s/div
4 s/div
.
.
OUT端子
スイッチング
パルス
(20 V/div)
0
パワーMOSFET
ドレイン電圧
(100 V/div)
0
出力電流 1 A 時のスイッチング波形(入力 AC100 V)
最大発振周波数制限
間欠動作
図 9 に AC100 V 入力で定格の 4 % 負荷(出力電流 0.2 A)
定格負荷時(出力電流 5.0 A)のスイッチング波形を図 7
の動作波形を示す。FB 端子電圧が低くなるとスイッチン
に示す。パワー MOSFET ドレイン電圧の共振動作の極小
グを停止し,FB 端子電圧が高くなるとスイッチングを再
点で OUT 端子スイッチングパルスがハイ状態になり,パ
開し,2.8 ms 周期で間欠動作している。 図
ワー MOSFET がオンする。次に定格の 20 % 負荷(出力
入力で無負荷時の動作波形を示す。440 ms とさらに長い
電流 1.0 A)のスイッチング波形を図 8 に示す。最大スイッ
周期で間欠動作している。
に AC100 V
チング周波数制限機能が働き,一つ目の共振の極小点をス
待機電力特性
キップし,二つ目の極小点で OUT 端子スイッチングパル
.
スがハイ状態になり,パワー MOSFET がオンしている。
図
400( 56 )
に出力電流 0.1 〜 2.0 A の効率を示す。比較のため
擬似共振型低待機電力電源制御 IC
富士時報 Vol.79 No.5 2006
図
出力電流 0.2 A 時の間欠動作波形(入力 AC100 V)
図
軽負荷時の効率(入力 AC100 V)
効率(%)
パワーMOSFET
ドレイン電圧
(100 V/div)
0
図
FA5541
90
0
特 集
100
FB端子電圧
(0.5 V/div)
80
FA5531
70
60
1 ms/div
50
0
0.5
1.0
出力電流(A)
1.5
2.0
無負荷時の間欠動作波形(入力 AC100 V)
図
無負荷時の入力電力特性
FB端子電圧
(0.5 V/div)
160
0
パワーMOSFET
ドレイン電圧
(100 V/div)
0
100 ms/div
入力電力(mW)
140
120
FA5531
100
80
60
FA5541
40
20
0
50
同じ電源評価ボードで従来機種 FA5531 に載せ換えた場合
100
150
200
250
300
交流入力電圧(V)
の特性を示す。間欠動作する出力電流 0.8 A 以下の領域で
効率が大幅に向上していることが分かる。
図
に無負荷時の入力電力特性を示す。比較のため同
い。VCC 電圧が 15 V のとき 7.5 mW 電力削減できる。
じ電源評価ボードで従来機種 FA5531 に載せ換えた場合
以上のように,この制御 IC を使用することにより,ス
の特性を示す。AC100 V の無負荷時入力電力は 48 mW,
イッチング電源の低ノイズ・高効率化を実現することが可
AC 240 V の無負荷時入力電力は 80 mW であり,FA5531
能である。
に比べて無負荷時入力電力を約 30 % 削減した。また入力
あとがき
電 圧 の 全 範 囲(AC 80 〜 264 V) で, 無 負 荷 時 入 力 電 力
100 mW 以下を実現した。
擬似共振型低待機電力電源制御 IC「FA5540」シリーズ
従来機種 FA5531 より,さらに低待機電力化を実現でき
について紹介した。これらの IC は低ノイズ・低待機電力
た主な要因は,次の二つが考えられる。
を重視したスイッチング電源に最適である。
間欠動作の効果
( 1)
今後も市場の低待機電力化の要求は高まると考えられる
間欠動作で FB 端子電圧にオーバシュートをかけること
ため,製品ごとの用途に最適化した特徴を持つ,低待機電
により,パワー MOSFET のオン時間が長くなり,1 回の
力対応制御 IC の系列化を進めていく所存である。
スイッチングで二次側出力に供給できる電力が大きくでき,
スイッチング回数が少なくて済むため,スイッチングロス
を低減できた。
高耐圧厚膜ゲート CMOS プロセスの採用
( 2)
これにより,回路構成を単純化でき,制御 IC の低消費
電流化を実現できた。この制御 IC の動作時消費電流は
参考文献
丸山宏志ほか.起動素子付き低待機電力対応電源 IC.富
( 1)
士時報.vol.76, no.3, 2003, p.149-152.
丸山宏志ほか.擬似共振電源制御 IC.富士時報.vol.78,
( 2)
no.4, 2005, p.294-298.
1.2 mA で,従来機種 FA5531 の 1.7 mA より 0.5 mA 少な
401( 57 )
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。