富士時報 Vol.78 No.1 2005 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 展 望 2004 年は半導体業界においては,アテネオリンピック 得ている。今回 PDP サステイン回路の低損失化要求に対 に代表される景気の後押しにより,ディジタル家電を中心 応した,150 ∼ 300 V の低 Ron 系列を開発した。また,さ に市況が活発化した年であった。このような市況の下,富 らなる低損失化のために,トレンチゲート型 MOSFET の 士電機の半導体は高耐圧,パワー技術を特徴として,顧客 開発を進めている。一方,スイッチング電源の小型・高効 の機器・システムの高機能化,省電力化,低コスト化など 率化を実現するために,二次側整流用 40 ∼ 250 V 耐圧 のニーズに応える製品群を提供してきた。 SBD を製品化し,展開中である。今回,比較的低容量電 電源 IC 分野では,待機電力低減の要求に応えるため, 源向けに 2 ∼ 4 A のアキシャルリードタイプ SBD を開発 高耐圧起動素子を内蔵したカレントモード制御 IC を開発 し系列化した。また,AC アダプタなどでの高温動作を可 した。起動電流の低減と軽負荷時スイッチング周波数低減 能にした低 IR SBD も開発し量産供給を開始した。 機能で待機電力 100 mW 以下に対応できる。 パワーデバイス分野では,低損失化,高信頼性,使いや さらに携帯機器における小型化,高効率化の要求実現の すさなどを実現させた第五世代 IGBT モジュールを「U ため,出力段 MOSFET 内蔵のマルチチャネル同期整流 シリーズ」として展開中である。600 V,1,200 V,1,700 V DC-DC コンバータ IC を開発した。また,高性能化が著 を機軸として中耐圧,中容量領域での IGBT モジュールで しいアプリケーションプロセッサに最適な電源を供給する 多くの電流容量,さまざまなパッケージで系列化し顧客の 5 チャネル LDO 電源 IC の開発も行った。 利便性を図っている。すでにスタンダードパッケージと PDP テレビ市場はアテネオリンピック後に伸び悩んだ なったエコノパックプラス(EconoPACK-Plus)では, ものの,価格低下が進めば今後とも飛躍的に拡大するもの 1,200 V,1,700 V で 300 A,450 A を U シリーズ IGBT と と予想される。また,液晶テレビとはサイズ別すみ分けが して系列化した。さらに大容量分野での顧客対応として, 進み,PDP テレビに対してはますます大画面化の要求が 1,200 V,1,700 V で 1,200 A から 3,600 A まで,スタンダー 強くなってきている。富士電機ではこれらの動向に対応し ドパッケージに搭載し U-IGBT 大容量モジュールとして て,PDP ドライバ IC のコストダウンや大画面対応化を積 系列化している。また,高耐圧分野では 3,300 V,1,200 A 極的に推進している。2004 年はコストダウンのためのア の U-IGBT モジュールを開発し系列化した。 ドレスドライバ IC の多出力化(128 出力/192 出力) ,大 小容量分野では,600 V,1,200 V で 50 A 以下の小容量 画面対応のためスキャンドライバ IC の大電流化を行い, モジュールとして Small-Pack,Small-PIM を製品化し系 それぞれ製品化した。 列化している。同じく U-IGBT を搭載し小容量分野での 富士電機独自のカメラ用パッシブオートフォーカスデバ 顧客の期待に応えている。 イスでは,特にディジタルカメラ向けに多点測距用のモ このように富士電機が,従来から多くの支持を得ている ジュールを開発した。このモジュールは,複数のラインセ 中容量帯の IGBT モジュールを機軸として,高耐圧,大容 ンサを順次走査して縦,横,斜め,どちらの方向も測距す 量分野および小容量分野へも系列化を行い顧客の利便性を ることができる。これにより,三次元の空間把握が可能と 図っている。 なり,カメラ以外の分野にもさまざまな応用が期待されて いる。 ディスクリート分野では,パワー MOSFET「Super FAP-G シリーズ」を中心に幅広い用途に使用され好評を 72 今後も引き続き富士電機の半導体製品は特徴ある技術を 生かして,顧客起点をベースとし,さらに多様化する顧客 ニーズに迅速に対応する所存である。 富士時報 Vol.78 No.1 2005 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 自動車用小型高機能 MOSFET 自動車電装システムの大規模化に伴う,半導体の小型・ 図1 高機能 MOSFET 薄型化要求に対応するため,従来はシステム側にて付加し ていた半導体を負荷短絡状態から保護するための保護回路 とパワーデバイスをワンチップ化した高機能 MOSFET F5045P 「F5045P」 「F5048」 「F5055」を開発した。 各機種の定格および特徴は以下のとおりであり,いずれ の機種も自己保護機能(短絡・過熱保護,サージ電圧に対 する保護回路:ダイナミッククランプ回路)を内蔵してい る。 (1) F5045P:50 V,1 A,0.6 Ω,SOP-8 パッケージ,最 F5055 低動作電源電圧 3 V,ハイサイド型 (2 ) F5048:80 V,15 A,0.125 Ω,T-Pack,ローサイド型 (3) F5055:40 V,5.9 A × 2 チャネル,0.14 Ω,SSOP-20 F5048 パッケージ(2 素子入り) ,ローサイド型 自動車用低オン抵抗パワー MOSFET「75V シリーズ」 電動パワーステアリング用電子制御ユニットの MOS 図2 75 V 耐圧トレンチ MOSFET FET として,60 V 耐圧の系列を進めてきたが,ハイブ リッド車,ワンボックス車などの 42 V 電源化に対応可能 な 75 V 耐圧の MOSFET を開発した。主な特徴は次のと おりである。 (1) トレンチ構造による低オン抵抗化(6 mΩ typ.) (2 ) ゲートしきい値電圧の最適化(3 Vtyp.) (3) 高ゲート耐圧(+ −20 V) 4 ( ) 低入力容量 (5) 高信頼性 概略仕様は次のとおりである。 ™2SK3804-01S:75 V,70 A ™2SK3730-01MR:75 T-Pack-S V,70 A TO-220F 大容量 IGBT モジュール 1,200 V,1,700 V/1,200 ∼ 3,600 A 電力変換装置に用いるパワーデバイスにおいては,大容 図3 大容量 IGBT モジュール 量・高性能・高信頼性を兼ね備えた製品の要求が高まって きている。これに対応するため,富士電機は耐圧 1,200 V お よ び 1,700 V ク ラ ス で , 1,200 A, 1,600 A, 2,400 A, 3,600 A の大容量 IGBT モジュールを系列化した。これら の 大 容 量 IGBT モ ジ ュ ー ル は , 第 五 世 代 の FS( FieldStop)トレンチ構造 IGBT を適用し,従来の製品に比べ 大幅な損失改善を達成している。 主な特徴は次のとおりである。 (1) 最大 3,600 A までの電流容量を系列化 (2 ) 低オン電圧 VCE(sat)= 2.0 V(125 ℃,標準値,1,200 V クラス) (3) パッケージ 130 × 140(mm):1,200 A,1,600 A 140 × 190(mm):2,400 A,3,600 A 73 富士時報 Vol.78 No.1 2005 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 IGBT モジュール EconoPACK-Plus 1,200 V,1,700 V/300 A,450 A 近年,産業用インバータなどにおいて 40 kW ∼ 1 MW 図4 IGBT モジュール EconoPACK-Plus クラスの大容量品の需要が高まっており,これに使用され る電力用半導体素子にはさらなる高性能・高信頼性・大容 量化が要求されている。これに対し,富士電機は第五世代 の FS(Field-Stop)トレンチ型 IGBT を搭載した大電流 定格の IGBT モジュール EconoPACK-Plus を製品化した。 主な特徴は次のとおりである。 (1) 定格:1,200 V/300,450 A,1,700 V/300,450 A (2 ) 小型化:従来 1 in 1 品使用時の約 2 分の 1 の容積 (3) 使いやすさ:プリント基板実装型構造で大電流定格ま で 6 in 1 化 (4 ) 高信頼性:サーミスタ内蔵による高精度の温度検出 (5) 大容量化:並列接続で 1,350 A 定格 2 in 1 品が構成可 能 小容量 IGBT モジュール「Small-Pack」 「Small-PIM」 近年,電力変換装置に使用されるパワーモジュールには, 図5 小容量 IGBT モジュール さらなる低消費電力化・小型化・軽量化が求められている。 この要求に対し,低出力の負荷に対応する第五世代のトレ ン チ 構 造 IGBT を 用 い た 小 容 量 の IGBT モ ジ ュ ー ル Small-Pack と Small-PIM の開発を行い,製品化した。主 な特徴は次のとおりである。 (1) 定格電圧・電流 Small-Pack 600 V/10 ∼ 50 A,1,200 V/10 ∼ 35 A Small-PIM 600 V/10 ∼ 30 A,1,200 V/10 ∼ 15 A Small-Pack (2 ) 小型・軽量化:W41 × D34 × H21(mm)/W57 × D41 × H21(mm) ,放熱用銅ベースレス構造 (3) 環境規制への対応(オール鉛フリーパッケージ) (4 ) トレーサビリティの向上(二次元バーコードラベル) Small-PIM 携帯電話用複合電源 IC 携帯電話で使われるディジタル IC の低電圧大電流化, 多電源化へ対応すべく,降圧同期整流型 DC-DC コンバー タ 1 チャネルと LDO(低飽和レギュレータ)5 チャネル を組み合わせた複合電源 IC を開発した。主な特徴は次の とおりである。 (1) パワー MOSFET 内蔵 DC-DC コンバータ (2 ) スイッチング周波数切換 (3) p チャネル MOSFET スルーモード切換 (4 ) DC-DC コンバータ各種保護(低電圧誤動作防止,出 力短絡保護,ソフトスタート) (5) LDO 負荷電流に応じた DC-DC コンバータ出力電圧 自動設定 (6 ) 低消費モード付 LDO (7) 小型パッケージ QFN28 74 図6 携帯電話用複合電源 IC 富士時報 Vol.78 No.1 2005 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 出力 MOSFET 内蔵同期整流対応 7 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC「FA7723R」 ディジタルスチルカメラの小型化に対応した 7 チャネル 図7 7 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC PWM 出力の電源 IC「FA7723R」を開発した。主な特徴 は次のとおりである。 (1) 動作電圧範囲 1.8 ∼ 5.5 V,低電圧での起動回路が不要 (2 ) 7 チャネルの電源構成が可能 (3) 同期整流対応 MOSFET を内蔵(3 チャネル) (4 ) 昇圧回路出力遮断用スイッチ内蔵(2 チャネル) (5) チャネルごとのオンオフコントロールが可能 (6 ) 保護回路機能内蔵(低電圧誤動作防止,短絡保護) (7) 外付け部品の内蔵(短絡保護,ソフトスタートなど) (8) QFN-56 パッケージ(鉛フリー対応) ボディサイズ 7 mm × 7 mm,ピンピッチ 0.4 mm,厚さ 最大 0.95 mm の小型・薄型パッケージ採用 起動素子内蔵低待機電力対応電源 IC 電子機器の待機電力を低減するために,高耐圧の起動素 図8 起動素子内蔵低待機電力対応電源 IC 子を内蔵し軽負荷時に発振周波数を低下させるスイッチン グ電源制御用 IC を開発した。主な特徴は次のとおりであ る。 (1) 高耐圧 CMOS プロセスにより低消費電力化を実現 (2 ) ピーク電流制御方式電流モードPWM制御 (3) 高耐圧起動素子と起動回路の内蔵により電源の低消費 電力化と外付け部品の削減を実現 (4 ) 発振周波数の異なる 3 タイプ FA5516:130 kHz,FA5517:100 kHz,FA5518:60 kHz (5) 軽負荷時周波数低下機能内蔵(typ.1.5 kHz まで低下) (6 ) 過負荷,過電圧,低電圧入力に対する保護機能内蔵 (7) DIP-8 または SOP-8 の 2 種類のパッケージ 大画面対応 PDP 用スキャンドライバ IC「FD3289F」 フラットパネルテレビが普及するにつれて,PDP では 図9 PDP 用スキャンドライバ IC 大画面化・高画質化・低価格化が進んでいる。これに伴い ドライバ IC には,ドライブ出力の大電流化,低オン抵抗 化や IC のコストダウンが要求されている。これらの要求 に応えるため,スキャンドライバ IC「FD3289F」を開発 した。主な特徴は次のとおりである。 (1) 165V 高耐圧 IGBT 出力 SOI 構造 (2 ) ドライブ電流−0.2 A/+1.5 A(ソース/シンク) (3) ローレベル出力電圧+3.0 V(400 mA 時) (4 ) ダイオード電流−1.5 A /+ 0.4 A(ソース/シンク) (5) 出力動作電圧 30 ∼ 130 V (6 ) 64 ビット双方向シフトレジスタ(15 MHz) (7) 外形:エクスポーズド PAD TQFP100 ピン 75 富士時報 Vol.78 No.1 2005 電子デバイス・半導体 IC ・パワー半導体 AF マルチラインセンサモジュール「FM6275W92」 「FM6273W91」 ディジタルカメラの多点オートフォーカス(AF)用の 図10 AF マルチラインセンサモジュール センサとして AF モジュール 2 機種を開発した。このモ ジュールは,複数のラインセンサを順次走査することで, 三次元の空間把握を可能にしている。このマルチラインセ ンサの特徴は次のとおりである。 (1) FM6273W91 は各ライン 464 画素の CMOS ラインセ ンサが左右各 13 本,FM6275W92 は 208 画素のライン センサが左右各 7 本あり,ともに横 37 度,縦 20 度の画 角を測距,監視できる。 (2 ) FM6275W92 はより近距離用で,厚さが 4.6 mm と薄 型で小型になっている。 (3) 温度センサの内蔵により,従来は必要であった基線長 FM6273W91 FM6275W92 の温度補正用外付けセンサが不要になった。 リードタイプ高耐圧 SBD シリーズ 高効率・低損失化が要求されるスイッチング電源では, 図11 リードタイプ高耐圧 SBD シリーズ 電子機器の小型・軽量化も求められる。特に低容量で 12 V 以上の高電圧出力電源の二次側整流用では従来 200 ∼ 300 V の TO-220 タイプ,リードタイプの超高速低損失ダ イオード(LLD)が主に使われている。この低容量電源 に最適な 120 ∼ 200 V のリードタイプ高耐圧ショットキー バリヤダイオード(SBD)を開発した。LLD と比較し, 低順電圧 VF とソフトリカバリー性を有し,電源の低損失 化と逆回復特性による跳ね上がり電圧の抑制,スイッチン グノイズの低減を実現し,さらに 1 ランク下のパッケージ を適用可能にする。概略仕様は次のとおりである。 ① 120 V,150 V,200 V/2 A,φ3.0 × 5.0 L(mm), リ ー ド φ0.8 mm, ② 120 V, 150 V, 200 V/3 A, 4 A, φ6.4 × 7.5 L(mm) ,リードφ1.2 mm PDP 用低損失 MOSFET の系列拡大 PDP は高画質化・大画面化・低価格化が進み急速に普 及しており,また,パネルの発光効率を向上させるため, サステイン回路の高駆動電圧化と高効率が要求される。サ ステイン回路用に最適設計した 150 ∼ 300 V 低損失・超高 速パワー MOSFET「SuperFAP-G」シリーズの系列拡大 開発を行った。 (1) 大 型 の TO - 3PF, TO - 247 パ ッ ケ ー ジ か ら 小 型 の TFP パッケージまでラインアップ (2 ) 低オン抵抗:TO-247 パッケージで 150 V/12.3 mΩ (代表値)を実現 (3) SuperFAP-G でゲートチャージは従来比 60 %低減。 スイッチング時間は従来比 65 %低減 76 図12 PDP 用パワー MOSFET の系列拡大 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。