富士時報 Vol.78 No.4 2005 ショットキーバリヤダイオード 特 集 森本 哲弘(もりもと てつひろ) 一ノ瀬 正樹(いちのせ まさき) 掛布 光泰(かけふ みつひろ) 図1 SD-SBD シリーズとリードタイプ高耐圧 SBD シリーズ まえがき の外観 現在,地球温暖化・環境破壊などの社会問題が多岐にわ たっている中,その対策として電子機器の低消費電力化・ 高効率化が重要視されている。これに伴い,電子機器に搭 載されるスイッチング電源でも低消費電力・高効率化・高 周波化・低ノイズ化・高密度実装化が不可欠となってきて いる。また,近年,特に DSC(Digital Still Camera), DVC(Digital Video Camera) ,携帯通信機器,充電器な どの小型電子機器の市場伸長は目覚ましく,搭載される電 子部品への小型・薄型化の要求は強い。ダイオードには小 型で従来と同等以上の容量で高温動作に追従できる製品が 求められている。 一方,スイッチング電源の高周波化に伴い,スイッチン グ時に発生する回路サージおよび急峻(きゅうしゅん)な dv/dt によるノイズが問題となるため,これを抑制するた めに,これまでスナバ回路やビーズなどを適用することで 図2 SBD チップの断面構造 対策を施しているが,これは部品点数の増加,コストアッ ガードリング プなどの課題をさらに引き起こしている。 ショットキー電極 (バリヤメタル) 今回,富士電機ではこれらの要求・課題に対し,超薄型 酸化膜 ダイオード「SD シリーズ」の系列拡充と出力電圧 12 V 以上の低容量電源に最適なリードタイプの高耐圧ショット エピタキシャル層 キーバリヤダイオード(SBD : Schottky Barrier Diode) 。 シリーズを開発したのでその概要を紹介する(図1参照) Si基板 概 要 2.1 SD-SBD シリーズ 富士電機では,電流定格 3 A の超低 VF(順電圧)系 列・低 VF 系列の SD 型ショットキーバリヤダイオード 用し,系列ごとにバリヤメタルと結晶仕様の最適化を施し, 系列ごとに低 VF 化,低 IR 化を実現した。パッケージでは, (以下,SD-SBD と略す)を製品化してきている。そして 裏面のアノードとカソードの両端子をフラットに形成した 今回,近年の小型電子機器に搭載される電子部品への小 外部端子フラット構造を適用し,ダイオードから発生する 型・薄型化・高効率化の要求に応えるべく,超低 VF 系 熱を最短距離で積極的に外部基板へ放熱できるという特徴 列・低 VF 系列・低 IR(逆電流)系列をシリーズ化し,バ を持たせているため,小型 SMD(表面実装デバイス)の リエーションに富んだ製品系列とした。 温度対策に対し有効な構造としている。しかも,基板への 新規チップ設計に際しては,図2に示す SBD 構造を適 282(34) 自動実装に関しても外部端子が基板取付け面にほぼフラッ 森本 哲弘 一ノ瀬 正樹 掛布 光泰 パワーダイオードの開発設計に従 パワーダイオードの開発設計に従 パワーダイオードの開発設計に従 事。現在,富士日立パワーセミコ 事。現在,富士日立パワーセミコ 事。現在,富士日立パワーセミコ ンダクタ株式会社松本事業所開発 ンダクタ株式会社松本事業所開発 ンダクタ株式会社松本事業所開発 設計部。 設計部。 設計部。 富士時報 ショットキーバリヤダイオード Vol.78 No.4 2005 トとなるため,安定し効率的な実装が可能である。さらに 比較し,低 VF とソフトリカバリー性を有する 120,150, リードフレーム構造を最適化することにより,同一プロセ 200 V 耐圧のリードタイプ SBD を開発した。また,ガー スで電流定格 4 A クラスまでを薄型小型パッケージ(図3) ドリングの濃度・拡散深さを最適化することで,高い逆 に搭載可能とした。 サージ電圧耐量特性を有しており,電源起動時などの過渡 特 サージ電圧,高周波動作に伴う急峻な dv/dt による連続 集 特に,低 IR 系列は,従来の同耐圧 SBD と比較して,IR を約 1/10 に低減し,逆方向損失を大幅に低減させること サージ電圧への対応が可能である。 を実現し,熱暴走開始温度の改善,使用温度限界の向上が 素子特性 図られた。 3.1 SD-SBD シリーズ 2.2 リードタイプ高耐圧 SBD シリーズ 本製品は,低 VF であると同時にソフトリカバリー特性 今回開発した SD-SBD シリーズの定格特性と電気的特 を有し,スイッチング時のサージ電圧の抑制が期待できる。 性を表1に,代表型式の順方向特性比較を図4に,逆方向 したがって,従来は 200 ∼ 300 V 耐圧クラスの超高速低損 特性比較を 図5 に示す。SD-SBD は,2 A/20 V の超低 VF 失ダイオード(LLD : Low Loss fast recovery Diode) 系列,2 ∼ 4 A/30 ・ 40 V の低 VF 系列,2 ・ 3 A/40 ・ を使用していた回路へ1ランク下の耐圧製品の適用が可能 60 ・ 100 V の低 IR 系列をシリーズ化し,バリエーション となり,低 VF 化による低損失化,高効率化,スナバ回路 が広く,アプリケーションに合った最適 SBD の選択が可 の簡素化が期待でき,スイッチング電源の高効率化,小型 能である。 化に寄与できるものと考えている。今回,開発した高耐圧 SBD のチップ基本構造は, 図2 に示したとおりであり, チップ設計に際しては,耐圧構造にはガードリング方式を 採用し,結晶のエピタキシャル層(n−層)の比抵抗と厚 図4 SD-SBD シリーズの順方向特性 さ,およびバリヤメタルの最適化を図ることで,LLD と SD834-04 T =100 ℃ j T =25 ℃ j 図3 SD-SBD シリーズの外形 SD882-02 1 5.0 順電流 (A) IF 1.5 2.5 0.5 0.2 4.0 1.15 0.5 SD863-10 0.1 0.01 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 順電圧 (V) VF 表1 SD-SBDシリーズの絶対最大定格と電気的特性の一覧 絶対最大定格 V RRM (V) I FAV (A) 電気的特性 I FSM (A) V FM(V) I F = I FAV (T j=25 ℃) I RRM (mA) V R=V RRM R th(j-L) (℃/W) 系 列 型 式 V F 系列 超低 SD882-02 20 2 70 0.39 2 18 SD832-03 30 2 70 0.46 1 18 SD832-04 40 2 70 0.51 1 18 SD834-03 30 4 70 0.46 1 18 SD834-04 40 4 70 0.51 1 18 SD862-04 40 2 80 0.59 0.1 18 SD863-04 40 3 110 0.59 0.1 18 SD863-06 60 3 100 0.62 0.1 18 SD863-10 100 3 100 0.84 0.1 18 低 V F 系列 低 I R 系列 283(35) 富士時報 ショットキーバリヤダイオード Vol.78 No.4 2005 図5 SD-SBD シリーズの逆方向特性 図8 リードタイプ高耐圧SBD シリーズの逆回復特性 102 T =100 ℃ j T =25 ℃ j SD882-02 特 200 V SBD =3 I A −di F /dt=100 A/ s 100 ℃ 200 V LLD =3 I A −di F /dt=100 A/ s 100 ℃ 1 10 集 SD834-04 逆電流 (mA) IR 100 0A SD882-02 −1 10 SD863-10 10−2 0V SD834-04 10−3 1 A/div 25 V/div 20 ns/div SD863-10 −4 10 10−5 0 20 40 60 80 100 逆電圧 (V) VR 図6 リードタイプ高耐圧SBD シリーズの順方向特性 0A 200 V SBD 0V 200 V LLD 順電流 (A) IF 10 1 A/div 25 V/div 20 ns/div 100 ℃ 1 25 ℃ 図9 リードタイプ高耐圧 SBD シリーズの逆サージ電圧耐量 比較 2,000 120 V SBD 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 順電圧 (V) VF 図7 リードタイプ高耐圧SBD シリーズの逆方向特性 逆サージ電圧 (V) VS 0.1 150 V SBD 1,500 200 V SBD 1,000 500 1,000 200 V SBD 200 V LLD 100 ℃ 0 従来品 逆電流 ( A) IR 100 リードタイプ品 サンプル 他社A 10 3.2 リードタイプ高耐圧 SBD シリーズ 図6に 電流定格 3 A の富士電機製 200 V LLD との順方 25 ℃ 1 向特性比較を,図7に逆方向特性比較を示す。順方向特性 の立上り電圧の違いは顕著であり,ショットキー接合ダイ オードと pn 接合ダイオードの違いによる。 図 8 に LLD との逆回復特性比較を示す。高耐圧 SBD の IRP(逆回復 0.1 0 50 100 150 逆電圧 (V) VR 200 250 ピーク電流)は同レベルであるが,ソフトリカバリー特性 になっていることが分かる。また,これに伴い跳ね上がり 284(36) 富士時報 ショットキーバリヤダイオード Vol.78 No.4 2005 表2 リードタイプ高耐圧SBDシリーズの特性比較 項目 120 V SBD 150 V SBD 200 V SBD 200 V LLD 単位 VF I F =3 A 0.63 0.65 0.69 0.73 V IR VR = VRRM 929 808 283 306 t rr 条 件 100 ℃ I 26 I F =3 A −di F/dt = 100 A/ s 35 64 1.6 1.7 2.4 2.2 A S 0.56 0.87 0.19 ー t rr 21 28 52 19 ns 1.3 1.4 2 1.4 A 0.5 0.55 0.86 0.35 ー I RP 25 ℃ I F =3 A −di F/dt = 100 A/ s S IF ns 26 0.51 I RP di F dt A 特 集 Q rr t 0 I RP t1 t2 t rr ソフト性 t2 S= t1 表3 リードタイプ高耐圧SBDシリーズの絶対最大定格と電気的特性の一覧 絶対最大定格 電気的特性 型 式 パッケージ (mm) V RRM (V) I F(AV) (A) CB863-12 φ3.0×5.0 L 120 2 70 0.88 80 12 FD867-12 φ6.4×7.5 L 120 3 100 0.88 120 8 I FSM (A) V FM(V) I F = I F(AV) (T j=25 ℃) I RRM ( A) V R=V RRM R th(j-L) (℃/W) FD868-12 φ6.4×7.5 L 120 4 120 0.88 150 8 CB863-15 φ3.0×5.0 L 150 2 60 0.90 80 12 FD867-15 φ6.4×7.5 L 150 3 90 0.90 120 8 FD868-15 φ6.4×7.5 L 150 4 110 0.90 150 8 CB863-20 φ3.0×5.0 L 200 2 40 1.25 100 12 FD867-20 φ6.4×7.5 L 200 3 80 1.25 150 8 FD868-20 φ6.4×7.5 L 200 4 100 1.25 200 8 の逆サージ電圧は LLD の約 40 %に抑えられている。表2 であり,富士電機では,SBD の特性向上と,小型パッ に今回開発した 120 V,150 V,200 V SBD の順・逆・ス ケージ品の系列化・製品系列の拡充を図り,より高品質な イッチング特性の一覧を示す。LLD と比較して低 VF でな 製品を提供していく所存である。 おかつソフトリカバリー(S パラメータ大)となっている ことが分かる。図9に逆サージ電圧耐量比較を示す。従来 の 120 V,150 V SBD の約 2 倍,200 V タイプに関しては 他社 A に対し,約 1.5 倍の耐量へと向上している。表3に リードタイプ高耐圧 SBD シリーズの絶対最大定格と電気 的特性一覧を示す。 参考文献 (1) 滝沢勝.SBD の高耐圧・超低 IR 化による高効率化.電子 技術.2003- 04, p.102- 104. (2 ) 関康和.最近の IGBT と周辺ダイオード.’96 スイッチン グ電源システムシンポジウム.1996, B3- 2- 1 ∼ B3- 2- 12. (3) 北村祥司ほか.高耐圧ショットキーバリヤダイオード.富 あとがき 士時報.vol.75, no.10, 2002, p.589- 592. (4 ) 梅本秀利ほか.超薄型パワー SMD.富士時報.vol.74, 今回,富士電機が開発した SD-SBD シリーズとリード no.2, 2001, p.127- 131. タイプ高耐圧 SBD シリーズについて紹介した。これらの (5) 一ノ瀬正樹ほか.電源二次側整流器用ダイオード「低 デバイスは,携帯電子機器,および通信機器の小型軽量化 IR- SBD シリーズ」.富士時報.vol.77, no.5, 2004, p.334- を実現していくうえで十分有効だと考える。今後,さらに 337. 小型化・低損失化・高効率化の要求が高くなることは確実 285(37) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。