富士時報 Vol.79 No.5 2006 New Dual IGBT モジュール 小川 省吾(おがわ しょうご) 堀 元人(ほり もとひと) まえがき 外形寸法図を図 2 に,製品系列を表1に,最大定格・特性 を表 2 にそれぞれ示す。 汎用インバータや無停電電源装置(UPS)に代表される New Dual IGBT モジュールの特徴 電力変換機器は,常に高効率化・小型化・低価格化・低騒 音化が要求されている。電力変換用素子にも高性能化・低 価格化が求められている。電力変換用素子には,その低 コンセプト . 損失性,駆動回路の容易さ,さらに高破壊耐量から IGBT 現在,U4 シリーズ IGBT モジュール(以下,U4-IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor)が,現在最も普及し と略す)は,表 3 に示すように,耐圧 1,200 V に対して 50 ている。 〜 3,600 A という広範囲な電流容量および多彩なパッケー 富士電機では,1988 年の製品化以来,特性改善や信頼 ジが系列化されており,これにより,さまざまな電力変換 性の向上を進めてきた。 装置への適用が可能となっている。 また,近年,環境問題への対応から,エレクトロニク ス実装において従来の SnPb はんだの代替として鉛フリー 図 2 New Dual IGBT モジュールの外形寸法図 〈注 1〉 0.8 はんだの実用化(RoHS 規制への対応)が進められている。 このような背景から,電力変換用素子においても鉛フリー P のチップを用い,さらに鉛フリーはんだを適用し,欧州 62 22 50 AC N 本稿では,富士電機の最新技術を導入した U4 シリーズ 57.5 化が望まれている。 RoHS 規制に対応した New Dual IGBT モジュールを開発 94.5 したので紹介する。 回路構成 110 P 122 137 New Dual IGBT モジュールの系列・特性 150 AC φ4.5 φ2.6 T1 17 New Dual IGBT モジュールのパッケージ外観を図 1 に, 20.5 特 集 兼田 博利(かねだ ひろとし) T2 N 〈注 1〉RoHS:電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限 図 New Dual IGBT モジュールのパッケージ外観 表 New Dual IGBTモジュールの製品系列 型 式 定格電圧 (V) 2MBI225U 4N-120-50 2 in 1 2MBI300U 4N-120-50 2MBI450U 4N-120-50 354( 10 ) 定格電流 (A) パッケージ サイズ (mm) パッケージ 型式 150×60 ×17 M254 225 1,200 300 450 兼田 博利 小川 省吾 堀 元人 IGBT モジュールの構造設計・開 パワー半導体デバイスの開発・設 パワー半導体モジュールの開発・ 計および応用技術開発に従事。現 設計・品質保証に従事。現在,富 発に従事。富士電機アドバンスト 在,富士日立パワーセミコンダク 士日立パワーセミコンダクタ株式 テクノロジー株式会社シミュレー タ株式会社松本事業所開発設計部。 会社松本事業所開発設計部チーム ション/熱解析技術部。日本伝熱 リーダー。 学会会員。 New Dual IGBT モジュール 富士時報 Vol.79 No.5 2006 この中で,今回開発した New Dual IGBT モジュール および質量の低減を実現し,電力変換装置の小型化に貢献 している(表 4 参照) 。 わった系列である。表 3 中の EconoPACK+(6 in 1)パッ 一方,6 in 1 パッケージでは,冷却フィンの放熱限界か ケージ(以下,6 in 1 パッケージと称す)は,従来の 2 in らモジュール中央部分に熱集中が発生し,その結果,チッ 1 パッケージで構成した場合に対して,大幅な面積,体積 プ温度の上昇を招き,デバイス適用条件(温度,キャリヤ 〈注 2〉 周波数)などに制限が必要な場合があった。この課題に対 して,今回開発した New Dual IGBT モジュールにて構成 〈注 2〉EconoPACK+:Eupec GmbH. Worstein の登録商標 表 最大定格・特性(代表型式:2MBI450U4N-120-50) (a)最大定格(指定なき場合は, T j =T c =25 ℃) 記 号 条 件 定 格 単 位 コレクタ‒エミッタ間電圧 V CES VGE =0 V 1,200 V ゲート‒エミッタ間電圧 V GES ±20 V 450 A 項 目 コレクタ電流 ー IC 連続 I c(pulse) 1 ms Tc = 80 ℃ Tc = 80 ℃ 900 A 2,080 W ー 150 ℃ ー −40∼+125 ℃ コレクタ損失 Pc 1素子 最大接合温度 T jmax Tstg 保存温度 (b)電気的特性(指定なき場合は,T j =T c =25 ℃) 項 目 記 号 試験条件 標 準 最 大 単 位 コレクタ遮断電流 I CES ー ー 3.0 mA ゲート‒エミッタ間漏れ電流 I CES VGE =±20 V,VCE = 0 V ー ー 600 nA ゲート‒エミッタ間しきい値電圧 コレクタ‒エミッタ間飽和電圧 入力容量 VGE =0 V,VCE =1,200 V 最 小 VGE(th) VCE = 20 V, I C = 450 mA 4.5 6.5 8.5 V VCE(sat)(端子間) I C = 450 A,VGE =15 V ー 2.40 2.55 V C ies VCE =10 V, VGE =0 V,f =1 MHz ー 50 ー nF ー 0.32 1.20 t on ターンオン時間 ターンオフ時間 tr VCC = 600 V, I C = 450 A, ー 0.10 0.60 t off VGE =±15 V,R G =1.1 Ω ー 0.41 1.00 tf s ー 0.07 0.30 順電圧降下 V F(端子間) I F = 450 A,VGE =0 V ー 2.10 2.25 V 逆回復時間 t rr I F = 450 A ー ー 0.35 s 記 号 試験条件 最 小 標 準 最 大 IGBT ー ー 0.06 FWD ー ー 0.10 (c)熱的特性 項 目 R th(j-c) 熱抵抗 表 単 位 ℃/W U4シリーズIGBTモジュールの系列 電圧 定格 パッケージ PIM I c定格 225 A 450 A 100 A 50 A 150 A 200 A 300 A 400 A 600 A 75 A (11 kW) (22 kW) (40 kW) (75 kW) 800 A 1,200 A 1,600 A 2,400 A 3,600 A EP3 New PC3 with NTC 6 in 1 New PC3 with NTC EconoPACK+ 1,200 V New Dual IGBTモジュール 2 in 1 M232 M233 M235 M249 1 in 1 M248 M127 M138 M142 M143 355( 11 ) 特 集 は 1,200 V 耐圧,電流容量 225 〜 450 A の領域に新たに加 富士時報 Vol.79 No.5 2006 New Dual IGBT モジュール 特 集 した場合,熱源の分散配置による最適化が可能となり,熱 すように,インバータ結線時のスペースファクタは,従来 集中を低減できる。図 3 に,6 in 1 モジュールと 2 in 1 モ の 2 in 1 パッケージと比較して,面積比では 6 % 増となる ジュールで構成した場合の温度上昇比較を行った熱シミュ が,体積比では 40 % 減,質量比では 24 % 減となる。これ レーション結果を示す。6 in 1 パッケージに比べて,モ は,ほぼ 6 in 1 パッケージと同等なスペースファクタであ ジュール間に距離を取り熱源を分散させたことで,同一 り,熱源分散の効果を維持しつつ電力変換装置の小型化に 発生損失の場合,チップ温度を 14 ℃下げることができる 貢献できる。図 4 に従来の 2 in 1 IGBT モジュール,6 in (代表モデルにおいて) 。このチップ温度低減により,装 1 IGBT モジュール,New Dual IGBT モジュールの外形 置・デバイスの信頼性向上に貢献できる。また,同一チッ 比較を示す。 プ温度とした場合は,電流容量アップ,キャリヤ周波数 さらに,NTC(Negative Temperature Coefficient)サー アップなどの装置性能向上に寄与できる。 ミスタが各モジュールごとに内蔵配置されるので,各モ New Dual IGBT モジュールは 6 in 1 パッケージを 3 分 ジュール内の温度監視をより高精度に行うことができ,き の 1 に分割した構造と類似している。このため,表 4 で示 わめて細かい制御が可能となる。 表 各種 IGBTモジュールのスペースファクタ比較 外形寸法 (mm) パッケージ M249(2 in 1) EconoPACK+ (6 in 1) New Dual IGBT モジュール(2 in 1) 図 . インバータ結線時の スペースファクタ 質量 (従来機種を100 %とする) (g) 占有 占有 占有 面積比 体積比 質量比 110×80 ×30 460 100 100 100 162×150 ×17 950 92 52 69 62×150 ×17 350 106 60 76 鉛フリー構造 本製品は,当初から RoHS 対応を視野に入れ,鉛フリー 構造を前提にして設計を行っており,以下に示す富士電機 の鉛フリー化技術を適用している。 パワーサイクル耐量を向上させるために,チップ下は ( 1) んだに鉛フリーはんだを適用 温度サイクル試験耐量を向上させるために,①熱膨張 ( 2) 係数が銅に近いアルミナセラミックスを絶縁基板に採用, ②絶縁基板と銅冷却ベース間のはんだに SnAgIn 系はん だを適用し,そのはんだ厚みを最適化 温度上昇比較(熱シミュレーション結果) . U4-IGBT の特徴 New Dual で適用した U4-IGBT チップはトレンチゲー 条件:IGBT発生損失 1,643 W/FWD発生損失 413 W 定常状態,冷却フィン 30 cm×30 cm 6 in1モジュール 123 ℃ 高 ト構造の最適化で,従来より実効的に小さなミラー容量 図 外形比較 温 度 従来の2 in1 IGBTモジュール (3個使用時) 6 in1 IGBTモジュール (EconoPACK+) 2 in1 New Dual IGBTモジュール (3個使用時) 低 高 2 in1モジュール 図 IGBT の容量成分とターンオン特性の関係 109 ℃ VGE 温 度 VCE IC 低ノイズ化 t 2∝ R G・ C res RG 低損失化 間隔:2 cm 低 356( 12 ) t1 t2 t1∝ R G・ C ies New Dual IGBT モジュール 富士時報 Vol.79 No.5 2006 図 従来のトレンチ IGBT と U4-IGBT のターンオンスイッチ 状にすることによりプレーナ型 IGBT の JFET(Junction Filed Effect Transistor) 成 分 が 存 在 し な い た め コ レ ク ング波形比較 大きいとターンオンスイッチングスピードが遅くなり,ス U4-IGBT 従来のトレンチIGBT R G(Ω) トレンチ構造のため容量成分が大きくなる。特に Cres が イッチング損失が大きくなる。したがって,この損失を低 減するためには Cres の低減および入力容量(Cies)と Cres 比率の最適化が有効であり,U4-IGBT ではシミュレー ションと確認実験を併用して,その最適化が図られている。 3.3 図 6 に,従来のトレンチ IGBT と U4-IGBT のターンオ Ch1 VCE(200 V/div)Ch3 V GE(20 V/div) Ch1 V CE(200 V/div)Ch3 V GE(20 V/div) Ch2 I C(250 A/div) 時間 200 ns/div Ch2 I C(250 A/div) 時間 200 ns/div E ON 54.200(mJ/pulse) 31.900(mJ/pulse) E ON ンスイッチング比較波形を示す。図 5 に示すように,Cres が低減されているため,ターンオン損失が従来のトレンチ IGBT よりも小さくなっている。また,ゲート抵抗(RG) を大きくした場合でも,コレクタ−エミッタ間電圧(VCE) テールが小さいので,ターンオン損失が比較的小さくなる 33 ため,RG によるターンオン速度制御がより広範囲に可能 Ch1 VCE(200 V/div)Ch3 V GE(20 V/div) Ch1 V CE(200 V/div)Ch3 V GE(20 V/div) Ch2 I C(250 A/div) 時間 1.00 Ch2 I C(250 A/div) 時間 1.00 E ON s/div 304.000(mJ/pulse) s/div 195.700(mJ/pulse) E ON となる。 図 7 に U4-IGBT の Ic-VCE(sat) 特性を示す。正の温度特 性が得られているため,並列接続時の電流アンバランスが 緩和され,並列接続適用が容易となる。 図 U4-IGBT の I C-V CE(sat)特性 . 1,200 せる傾向にあり,FWD(Free Wheeling Diode)につい 1,000 コレクタ電流 I C(A) U4-FWD の特徴 最近の汎用インバータは低周波出力時のトルクを向上さ VGE=15 V ても熱的責務が大きくなり,より低損失(低 VF)化が求 800 25 ℃ 600 められる。また,並列接続したときの電流バランスの均等 化も IGBT と同様に重要となる。今回 U4-FWD では,VF 125 ℃ のばらつきを小さくするため,ばらつきに対する工程要因 400 の少ない FZ(Floating Zone)結晶を採用した。FZ 結晶 200 の適用にあたり,逆回復時のサージ電圧を少なくし,低 0 VF にするために,キャリヤプロファイルと逆回復特性の 0 1 2 3 コレクタ−エミッタ間電圧 V CE(V) 4 シミュレーションを行い,その最適値を導き出している。 図 8 に IF-VF 特性を示す。U4-IGBT と同様,正の温度 特性が得られ,並列使用時の電流バランスに有効となる。 図 U4-FWD の I F-V F 特性 あとがき 1,200 本稿では,鉛フリー化技術,U4-IGBT,U4-FWD 技術 順電流 I F(A) 1,000 を適用した New Dual IGBT モジュールについて製品系列 800 25 ℃ 600 およびその特徴について紹介した。本製品は,最新の半導 125 ℃ 体技術とパッケージング技術を駆使し,電力変換装置の小 型化・低損失化,環境保護に大きく貢献できるものである。 400 今後も素子の高性能化・高信頼化に取り組み,さらなる技 200 0 術のレベルアップを図るとともに,パワーエレクトロニク 0 1 2 順電圧 VF(V) 3 4 スの発展に貢献する所存である。 参考文献 原口浩一ほか.U4 シリーズ IGBT モジュール.富士時報. ( 1) (Cres)が実現できている。図 5 に IGBT の容量成分とター ンオン特性の関係を示す。 従来のトレンチ IGBT の構造では,ゲートをトレンチ形 vol.78, no.4, 2005, p.256-259. 西村芳孝ほか.鉛フリー IGBT モジュール.富士時報. ( 2) vol.78, no.4, 2005, p.269-272. 357( 13 ) 特 集 タ−エミッタ間飽和電圧(VCE(sat))が低減されているが, サンプル:1,200 V/450 A素子 条件:V DC=600 V,VGE=+15 V/−15 V, I c=450 A, T j =125 ℃ *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。