AN-892 アプリケーション・ノート 温度計測の理論と実践上のテクニック 著者:Donal McNamara 熱伝達の理論 一般に、熱は高温の物体から低温の物体に伝達します。システ ム(冷凍器など)で強制的にエネルギー伝達を行うことにより、 低温領域から高温領域に熱を伝達させることもできます。 WARM AIR RISES 熱伝達には、基本的に以下の3つの方法があります。 COOLER AIR DROPS AND REPLACES THE WARMER AIR • 伝導 06506-002 • 対流 • 放射 HEATER 伝導 図2. 固体における熱伝達で最もよくある形態が伝導です。微視的レ ベルで言えば、急速に移動または振動する高温の原子や分子が 隣接する原子や分子に作用し、エネルギー(熱)の一部を隣接 する原子に伝達することによって、伝導が行われます。 放射 放射は、どのような形態の媒体も存在しない場合に生じ得る唯 一の熱伝達形態です。このため、真空における熱伝達は放射の みです。熱の放射は、物質内部の原子や分子の運動そのものに よって発生します。放射の量は温度の上昇にともなって増加す るため、高温から低温へのエネルギーの正味移動量そのものに なります。 CROSS SECTIONAL AREA = A COLD HEAT FLOW 06506-001 HOT L 図1. 対流 伝導 対流 06506-003 液体や気体における主な熱伝達の形態が対流です。この用語は、 伝導と液体の流れの2 つの影響を表すときに使用します。対流 では、伝導による熱の伝達のほかに、液体の高温部や低温部の 移動によって熱成分が伝達します。 図3. 放射 REV. 0 アナログ・デバイセズ株式会社 本 社/ 〒105-6891 東京都港区海岸1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル 電話03(5402)8200 大阪営業所/ 〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原3-5-36 新大阪MTビル2号 電話06(6350)6868 ―1― AN-892 目次 熱伝達の理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 PCボードの温度を測定するための正しいPCボード・ レイアウト. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 周囲温度を測定するための正しいPCボード・ レイアウト. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 パッケージ. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 ―2― REV. 0 AN-892 事実: PCボードの主な熱伝達の形態は伝導です PCボードの一方の端が他の端よりも高温のとき、エネルギーは PCボードを伝って低温の方の端に伝達されます。速度の高い粒 T A 子が速度の低い粒子に衝突し、エネルギーの正味伝達量が低速 の粒子の方に移動します。伝導の熱伝達の速度は、次式で表す ことができます。 L H ここで、 図4. H=単位時間あたりの伝導エネルギー(ジュール/秒) K=銅の熱伝導率(385W/(m·K)、室温時) A=PCボード上の銅面積 T=温度 L=高温の物体と低温の物体の間の距離 伝導における熱の伝達速度 銅は優れた熱導体であるため、熱源から熱を放散させる方法と して多くのPCボード設計でよく利用されています。銅よりも優 れた熱伝導性がある物質は、銀とダイヤモンドだけです(表1 を参照)。 図4 に、熱が伝わる媒体(銅など)の面積が大きくなると、高 温の物体から低温の物体への熱の移動が速くなることを示しま す。同じように、銅の面積を小さくすると、熱の伝達速度が低 下します。このことから、2 つの物体の距離が長くなれば、低 温の物体を加熱するのに時間がかかるということがわかりま す。 REV. 0 06506-004 (K×A (THOT−TCOLD)) H= 表1. ―3― 物質の熱伝導率 Material Thermal Conductivity (W/m·K) Diamond 1000 to 2600 Silver 406 Copper 385 Gold 320 AN-892 PCボードの温度を測定するための正しいPCボード・レイアウト ピンからPCボードの熱の60∼65%がチップ温度センサに伝わります。GNDピンは基板に接続するため、温度センサと熱源との間の熱 抵抗値が最も低くなります(図5を参照)。 MAIN HEAT SOURCE (µCONTROLLER) 06506-005 TEMPERATURE SENSOR 図5. PCボードの温度を測定するための正しいレイアウト PCボードの温度を効率的に測定する方法 次に示す条件に従い、図6に示すように、温度センサでまずPCボードの温度を、次に主な熱源の温度を追跡し正確に測定します。 • 温度センサと熱源のに間は共通のGNDプレーンを1枚使用します。 • 温度センサのGNDピンをすべて熱源のGNDプレーンに接続します。 • PCボード上で温度センサを熱源にできる限り近く配置します。 28.0 27.5 MAIN HEAT SOURCE (µCONTROLLER) TEMPERATURE SENSOR TE MPE RAT URE ( °C) 27.0 26.5 26.0 25.5 25.0 24.0 TIME (Minutes) 図6. 06506-006 24.5 熱源の温度を高精度に追跡するデジタル温度センサ ほとんどの場合、PCボードや部品の温度を測定するのにIC温度センサを使用するため、図5と図6に示すPCボードのレイアウト方法を 利用することができます。 ―4― REV. 0 AN-892 周囲温度を測定するための正しいPCボード・レイアウト 設計者の多くは、PCボードの温度を測定しようとはしません。むしろ、周囲温度のほうを測定したいと考えています。では、PCボー ド上の熱源が温度センサによる周囲温度の測定を阻害しないようにするにはどうすればよいでしょうか。図7に示すPCボードのレイア ウト設計を利用することで、問題が解決します。 SOLID GND PLANE UNDER µCONTROLLER TEMPERATURE SENSOR 06506-007 MAIN HEAT SOURCE (µCONTROLLER) HASH GND PLANE 図7. 周囲温度を測定するための正しいレイアウト 周囲温度を効率的に測定する方法 次の条件に従い、主な熱源が放出する熱による温度センサへの影響を防止し、周囲温度を高精度に監視します。 • ハッシュGNDプレーンを使用します。GNDプレーンの面積が小さいと、熱抵抗値が高くなります。 • 温度センサを熱源からできる限り離します。 • 温度センサ用に別にGNDプレーンを使用し、主なGNDプレーンとの接続をできる限り短くします。 • 細いGND接続線を使用すると、熱抵抗値が高くなります。 • 主な熱源の下側に厚いGNDプレーンを使用し、緑色のハンダ・マスクを露出させます。こうすることによって、小さい熱抵抗値で 主な熱源から熱が放散します。 26.0 25.5 MAIN HEAT SOURCE (µCONTROLLER) TEMPERATURE SENSOR T E MPE RA TURE ( °C) 25.0 24.5 24.0 23.5 23.0 22.5 22.0 06506-008 TIME (Minutes) 図8. 周囲温度を高精度に追跡するデジタル温度センサ 場合によっては、大気温度の監視が必要であり、高精度で直線性があり、高速応答性と利便性を備えたIC温度センサの使用が望まれる ことがあります。このような場合は、図7と図8に示すPCボードのレイアウトを利用するのが最適です。 REV. 0 ―5― AN-892 パッケージ 熱抵抗値θJAは、外付けヒート・シンクなしに使用するパッケー ジに適しており、℃/Wの単位で表します。値は低いほどよくな ります。たとえば、次のようになります。 パッケージに関しては、サイズとピンの数以外にいくつかの注 意すべき点があります。 • パッケージの熱抵抗値 • 8ピンMSOP=205.9℃/W • デバイスの消費電力 • 8ピンSOIC=157℃/W • ハンダ処理温度 ジャンクションとケース間の熱抵抗値(θJC) チップ表面とパッケージ表面の間の熱の流れの状態を測るもの です。外付けヒート・シンクに熱がどのように流れるかも反映 しており、外付けヒート・シンクを付けて使用するパッケージ に適しています。熱抵抗値θJCは℃/Wの単位で表します。値が 低いほど、熱がヒート・シンクに流れやすいことになります。 たとえば、次のようになります。 • 熱衝撃に対する応答性 パッケージの熱抵抗値 データシートには、ジャンクションと周囲温度の間の熱抵抗値 (θJA)とジャンクションとケースの間の熱抵抗値(θJC)の2つ がパッケージ性能の基準として一般に記載されています。 ジャンクション周囲温度間の熱抵抗値(θJA) チップ表面と大気の間の熱の流れの状態を測るものです。ジャ ンクションから周囲温度にあらゆる経路を介して熱がどのよう に流れるかも反映しています。主な経路は、リードからボード への経路です。 • 8ピンMSOP=43.74℃/W • 8ピンSOIC=56℃/W TA MOLD COMPOUND GOLD WIRE TJ LEADFRAME DIE 06506-009 TCASE DIE ATTACH ADHESIVE DIE ATTACH PAD 図9. TSSOPパッケージの断面 PATHS TO AIR: 1. PACKAGE TOP TO AIR: 15% 2. PACKAGE BOTTOM TO BOARD: 20% 3. PACKAGE LEADS TO BOARD: 65% 06506-010 DIE 図10. 大気への主な経路 PATHS TO AIR: NEARLY ALL HEAT FLOWING OUT OF TOP OF PACKAGE 06506-011 DIE 図11. 大気への経路 ―6― REV. 0 AN-892 デバイスの消費電力 データシートの「絶対最大定格」には、次式が記載されています。これは最大電力定格の定義になります。 (TAMB max−TA) WMAX = θ JA ここで、 WMAX=デバイスの最大消費電力 TAMB max=データシートに記載されている最大周囲温度 TA=ジャンクション温度 θJA=ジャンクション−周囲温度間の熱抵抗値(単位:℃/W) LOWER θJA HAS BETTER POWER DISSIPATION 1.2 SOIC 1.0 0.8 MSOP 0.6 0.4 0.2 SOIC PD @ 150°C = 4.4mW MSOP PD @ 150°C = 3.4mW 0 –55 0 50 06506-012 MA XIMUM PO WE R IDSSIPA T IO N ( W) 1.4 150 100 TEMPERATURE (°C) 図12. SOICおよびMSOPパッケージの消費電力 パッケージのハンダ処理について アナログ・デバイセズでは、Sn-Pbハンダめっきリードと鉛フリー・リードの2種類のパッケージ・リードを製造しています(2006年 現在、アナログ・デバイセズのすべての新製品は鉛フリー材質のみです)。この2種類のリードのハンダ処理では、時間と温度のパラ メータが異なります。ハンダめっきリードと鉛フリー・リードとの最も重要な違いは、ハンダ処理のピーク温度です。表2でグレーの 部分がその違いです。 表2. Sn-Pbハンダめっきパッケージと鉛フリー・パッケージのデータ Average Ramp-Up Rate Sn-Pb Assembly (3℃/sec max) Pb-Free Assembly (3℃/sec max) Preheat Temperature Minimum (TSMIN) 100℃ 100℃ Temperature Maximum (TSMAX) 150℃ 150℃ Time (TSMIN to TSMAX) 60 sec to 120 sec 60 sec to 120 sec Time Maintained Above Temperature 183℃ 217℃ Time 60 sec to 150 sec 60 sec to 150 sec Peak Soldering Temperature 220℃ 260℃ Time Within 5℃ of Actual Peak Temperature 10 sec to 30 sec 20 sec to 40 sec Ramp-Down Rate 6℃/sec max 6℃/sec max Time from 25℃ to Peak Temperature 6 min max 6 min max REV. 0 ―7― AN-892 チップと熱源の間の熱抵抗値を小さくすると、熱時定数が減少 し、チップの熱応答性が改善します。熱時定数とは、温度∆が その最終値の63.2%に変化するまでに要する時間です。図13で は、ADT7301が25℃から125℃の熱衝撃を受けたとき、88.2℃ に達するまでに2秒(typ)かかっています。 電流出力温度センサ(AD590、AD592、TMP17など)の場合、 TO-52、TO-92(図14を参照)、CQFP、SOICのパッケージは θJCとθJAが低くなければ、高速の熱応答性が得られません。こ れらのデバイスにはGNDピンがありません。 140 100 80 60 40 06506-014 TE MPE RA T URE ( °C) 120 20 図14. 0 5 10 t = 2SECONDS 図13. 15 20 25 30 35 TIME (Seconds) 40 45 50 06506-013 0 TO-92 LFCSP (図 15 を参照)には、チップの GND に直接接続する ベースに金属スタブがあります。このスタブを PC ボードの GNDプレーンに接続することにより、LFCSPの熱抵抗値がほ ADT7301の熱時定数 とんどのパッケージよりも低くなります。 06506-015 図13からわかるように、ADT7301のSOT-23とMSOPの2種類 のパッケージには同じ熱時定数を使用しています。評価データ によれば、パッケージのタイプが熱時定数に及ぼす影響はごく わずかです。これは、熱の大部分がパッケージのリードを経由 していることを示します。θJA(ジャンクション−周囲大気間の 熱抵抗値)とθJC(ジャンクション−ケース間の熱抵抗値)は、 表面実装のデジタル温度センサの熱応答性にはほとんど影響し ません。 図15. LFCSP © 2006 Analog Devices, Inc. All rights reserved. 商標および登録商標は各社の所有に属します。 ―8― REV. 0 AN06506-0-12/06(0)-J 一般にパッケージのタイプよりも、 GND ピンと熱源のグラウ ンド・プレーンが効果的に接触していることのほうがはるかに 重要です。ほとんどの最新の温度センサは、消費電流がごくわ ずかです(µAレベル)。したがって、消費電力、またこれにと もなう自己発熱は特に懸念すべき要素とはなりません。 熱衝撃に対する応答性