2 チップ Si 圧力センサ 電子デバイス研究所 小山内 清 隆 1・伊 藤 清 成 2・松 木 幸 生 2・橋 本 幹 夫 3 村 重 伸 一 4・塩 尻 健 史 4・三 谷 尚 吾 4 Two-Chip Si Pressure Sensor K.Osanai,K.Itoh,Y.Matsuki,M.Hashimoto, S.Murashige,T.Shiojiri,and S.Mitani 高精度化,圧力レンジや動作温度範囲の拡張,あるいは駆動電圧や出力電圧範囲の変更など,多様化 するユーザニーズに対して柔軟に対応可能な汎用圧力センサとして高性能でカスタマイズ性に優れる,Si 圧力センサチップとその信号処理チップを分離したいわゆる 2 チップ Si 圧力センサを開発して,− 40 ∼ 125 ℃の広い温度範囲で動作し,0 ∼ 85 ℃における総合精度± 1.5 %FS を達成した. We have developed a two-chip Si pressure sensor that consists of two chips. One is a Si pressure sensor chip, and the other is a signal-conditioning ASIC for a sensor chip. Compared to monolithically integrated pressure sensors, this configuration enables higher accuracy, wider pressure range and operating temperature, more flexible modifications to changes in supply voltages and output ranges, which are suitable for fulfilling the diverse demands of the customers. Wide operational temperature ranges from − 40 to 125 ℃ and a total high accuracy of ± 1.5 % FS(0 ∼ 85 ℃)have been obtained. て独特のパッケージスタイルを採用することが多い.し 1.ま え が き かも通常の半導体素子が電気的入出力だけを行うのに対 小型軽量で信頼性の高い半導体圧力センサは日常生活 して,圧力センサは計測の際,シリコンチップが必然的 のさまざまなアプリケーションに応用されているが,特 に応力を受けるために,半導体素子の組立で考慮すべき に家電,医療,自動車などではユビキタスという言葉に 応力以外にも設計的な配慮が必要である.また半導体圧 代表されるようにセンシングデバイスを用いた利便性拡 力センサは 4 個のピエゾ抵抗で構成したホイートストン 大が大きなニーズとなりつつあることから,従来のエレ ブリッジを基本構造として圧力に比例した直流電圧信号 クトロニクス化,高機能化の流れとあいまって,圧力セ を出力するが,これらのブリッジ回路だけでは出力電圧 ンサに求められる機能は年々高くなってきている.また が小さく,加えて,オフセット電圧,スパン電圧といっ 携帯電話やデジタルカメラの急速な高機能化によって新 た諸特性のばらつきや温度特性の影響で精度の高い計測 しいアプリケーションの可能性も広がってきている.現 が難しいことから,多くの場合,増幅回路や温度補償回 在,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼 路を組み込んで使われる.こうした付属回路の組み込み ばれる微細加工技術は,加速度センサやシリコンマイク は,センサ部分との一体化,センサ外部のディスクリー ロフォンのようなデバイスとして広がりを見せているが, ト回路との接続といったインターフェイス方法やあるい 圧力センサもまた MEMS デバイスの一種であり,工業 はレーザによる薄膜抵抗のアナログ調整,Application 的には最も早く実用化されたもののひとつである.圧力 Specific Integrated Circuit(ASIC)によるデジタル調整 センサの場合,感圧部分として機能するダイヤフラム部 といったトリミング方法などによってさまざまなやり方 に圧力を印加することが必須であり,また圧力を導入す が考えられ,当社でもこれらの技術を適宜使い分けて製 るためのパイプを筐体に付加するなどといった点も含め 品を量産化してきた.特にセンサブリッジ周囲に付属回 路を配してワンチップ化した集積化圧力センサは小型で 使いやすい点からユーザに広く受入れられている.しか 1 シリコン技術開発部秋田分室グループ長 2 シリコン技術開発部秋田分室 3 シリコン技術開発部センサグループ長 4 シリコン技術開発部 しながら,センサの高精度化,圧力レンジや動作温度範 囲の拡張,あるいは駆動電圧や出力電圧範囲の変更など, 多様化するユーザ要求に対する対応については必ずしも 54 2 チップ Si 圧力センサ オフセット電圧 粗調整ブロック 圧力センサ オフセット電圧 微調整ブロック オフセット 温度特性 調整ブロック スパン 温度特性 調整ブロック 増幅率 調整ブロック EEPROM ブリッジ 抵抗 + + − − + 圧力センサ アナログ出力 − 増幅回路 温度センサ ブロック 温度センサ アナログ出力 ASIC 電源ノイズ除去用 コンデンサ ローパスフィルタ用 コンデンサ 電源 GND 図 1 2 チップ Si 圧力センサのブロック図 Fig. 1. Block diagram of two-chip Si pressure sensor. 十分ではなく,より柔軟に要求仕様を実現できる汎用的 スイッチ S な圧力センサが必要になってきた.本報ではこうした市 抵抗 R 電流Ⅰ 場ニーズにこたえるべく開発した,より高性能でカスタ 周波数 f マイズ性の高い 2 チップ Si 圧力センサについて,その開 V1 発コンセプトや基本性能を中心に報告する. V2 V1 V2 容量 C 2.開発コンセプト Q = C・ (V 1−V 2) 2. 1 マルチチップ化 Ⅰ 等価 = Q・f = C・f・ (V 1−V 2) センサ部と周辺回路をワンチップ化する方法は最も小 R 等価 =(V 1−V 2)/ Ⅰ等価 = 1 /(C・f) 型化に適しているが,一方,ピエゾ抵抗と集積回路を形 図 2 スイッチトキャパシタ素子と等価抵抗 Fig. 2. Switched capacitor circuit and equivalent resistance. 成する各プロセス条件の整合とその制御に十分な検討と 配慮が必要であるために,設計仕様の異なる複数のセン サ部を組み合わせて多品種化することにはあまり適さな い.そこで当社では各圧力レンジ,要求特性に沿って適 アクセスせずに電気的な接続を保持した状態で,印加圧 正なセンサブリッジを持つ圧力センサチップを選択し, 力や雰囲気温度を自由に変えながらリアルタイム調整が これを信号処理チップと組み合わせるマルチチップ方式 可能な,ASIC を用いたデジタルトリミングの方が優れて を採用することにした.マルチチップ化することで微圧 いる.図 1 に 2 チップ Si 圧力センサのブロック図を示す. から高圧まで同一の信号処理チップで対応でき,センサ ASIC は CMOS プロセスを用い,増幅にはスイッチトキャ 部と ASIC 部の両者の工程を考慮した新規プロセス開発を パシタ回路を採用している.図 2 に示すように,スイッ 行うことが不要となるため,それぞれの工程を独立に最 チトキャパシタは MOS スイッチと容量によって等価的に 適化できるので,優れた特性を容易に得ることができる. 抵抗を実現する方法である.一般的に差動増幅回路にお 2. 2 高精度化 いては抵抗の絶対値よりも抵抗比やペア性が重要とされ 1) 一般的に,センサ特性の調整や温度特性を補償するこ るが,CMOS プロセスでは容量比を非常に精度よく作り とはトリミングと呼ばれ,その回路調整方法には前述し 込むことができるため,容量とスイッチによる等価的抵 たアナログ的手法(ex.. 薄膜抵抗のレーザカット)とデジ 抗で回路を構成するスイッチトキャパシタ方式は高精度 タル的な手法(ex..ASIC 内部メモリから呼び出したトリ の計装用アンプに適している.トリミングパラメータは ミングデータを D / A 変換して回路的に補正)があるが, オフセット電圧粗調整,オフセット電圧微調整,増幅率, 調整精度は,チップ表面に形成されたトリミング抵抗に オフセット温度特性,スパン温度特性の 5 つである.な 55 2008 年 1 月 フ ジ ク ラ 技 報 第 113 号 お各パラメータの 1 ビット当たりの調整量が小さいほど はないが,組み合わせによっては各々のデバイス特性評 分解能が高くなって調整ばらつきを抑えられる反面,必 価が困難であったり,かえってアプリケーションの使い 要とするメモリ領域が増えるために ASIC チップサイズが 勝手を悪くするなど必ずしもうまくいかないケースもあ 大きくなり,コスト的には不利になりやすいため,両者 る.2 チップ圧力センサでは温度センサを搭載することに のバランスを考慮して設計を行った. より,センサ部の雰囲気温度を測定し,それによりセン 2. 3 低電圧駆動/低消費電力化 サの温度特性の補償を行っている.この温度センサの出 2) 力は− 40 ∼ 125 ℃の温度に対応しており,温度計測に応 アプリケーションの中には携帯機器のように電池や 用することも可能である. バッテリ駆動を前提としたものもある.必要な駆動電圧 としては 2.7 ∼ 3.3 V を求められることが多いが,同時に センサや信号処理回路の消費電流をできるだけ小さくす 3.製造工程と出力特性 ることが望ましい.その他にも外部信号によって ASIC の動作を制御する間欠駆動によって見かけ上の消費電流 3. 1 製造工程 を抑える方法も考えられる.今回当社で用いた ASIC は 図 5 に製造工程のフローを示す.なおセンサチップと 5 kΩ インピーダンスセンサと組み合わせた場合,5 V 駆 ASIC は同一面に配置し,両者は Au ワイヤでダイレクト 動での消費電流は Typ. 値で 2 mA 程度である.図 3 に消 に接続している. 費電流温度依存性を示す.なお 3 V 駆動での消費電流は 3. 2 パッケージ実装後の出力特性 5 kΩ インピーダンスセンサでは Typ. 値で 1.2 mA 程度で 表面実装パッケージに絶対圧タイプ,ゲージ圧タイ ある.加えて間欠駆動も可能であることから,パワーマ プの圧力センサチップと ASIC をワンパッケージ化した ネージメントが必要なアプリケーションにも対応可能で 製品の外観を図 6 に示す.パッケージサイズはゲージ圧 ある.また図 4 にオフセット電圧,スパン電圧の電源電 タイプ 9.8 × 9.5 × H4.8 mm,絶対圧タイプ 9.0 × 8.0 × 圧依存性を示すが,非常に良好なリニアリティを維持し H4.6 mm である(いずれも圧力ポート部を除く) .これら ている. 2. 4 マルチセンシング化 センサチップ 複数の計測デバイスを一体化する試みは特殊なことで ダイヤフラムエッチング Anodic Bonding 3.0 DC + 5 V 駆動,センサ = 5 kΩⅠmp. 2.5 ダイシング 2.0 消 費 電 1.5 流 (mA) 1.0 ダイボンド ASIC チップ ワイヤボンド トリム&フォーム 0.5 レーザマーキング 0.0 −50 0 50 100 150 トリミング測定 温 度(℃) 図 5 製造工程フロー Fig. 5. Process flow. 図 3 消費電流の温度依存性 Fig. 3. Temperature dependence of current consumption. 5.0 ゲージ圧タイプ スパン電圧 4.0 絶対圧タイプ 出 力 3.0 電 圧 2.0 (V) オフセット電圧 1.0 10 0.0 4 4.5 5 5.5 5 6 0 電源電圧(V) 図 4 オフセット,スパン電圧の電源電圧依存性 Fig. 4. Power supply voltage dependence of sensor offset and span output voltage. unit: mm 図 6 2 チップセンサの外観 Fig. 6. Finished two-chip Si pressure sensor. 56 2 チップ Si 圧力センサ 0.30 @ 20 kPa・abs 4.90 + 1.5 %FS 0.25 4.85 出 力 電 0.20 圧 (V) 出 力 電 4.80 圧 (V) 0.15 4.75 @ 250 kPa・abs + 1.5 %FS − 1.5 %FS 0.10 − 1.5 %FS 4.70 20 0 40 100 80 60 100 80 60 40 20 0 温 度(℃) 温 度(℃) 図 7 絶対圧 250 kPa・abs レンジにおける出力特性 Fig. 7. Characteristics of absolute pressure type @250 kPa・abs range. 0.60 @ 0 kPa 4.60 + 1.5 %FS @ 1 MPa + 1.5 %FS ▼ 85 ℃ ▼ 85 ℃ 0.55 4.55 出 力 電 0.50 圧 (V) 出 力 電 4.50 圧 (V) 0.45 4.45 ▲ 85 ℃ ▲ 85 ℃ − 1.5 %FS 0.40 0 20 40 60 80 100 120 − 1.5 %FS 4.40 140 0 20 40 60 80 100 120 140 温 度(℃) 温 度(℃) 図 8 ゲージ圧 1 MPa 高圧レンジにおける出力特性 Fig. 8. Characteristics of gauge pressure type @1 MPa range. 表 1 2 チップセンサの主な特長 Table 1. Main characteristics of two-chip Si pressure sensor. 4.む す び センサ部と信号処理部(ASIC)を分離し,高精度化と ■圧力レンジ,出力電圧のカスタマイズ性に優れる ■高精度(± 1.5 %FS / 0 ∼ 85 ℃) ■電源電圧は DC + 3 ∼ 6 V まで対応可能 ■温度センサを内蔵し,圧力と温度のマルチセンシングが可能 ■動作温度範囲が広い(− 40 ∼+ 125 ℃) ■出力電圧のダイナミックレンジが大きい(GND ∼電源電圧レベル) ■イネーブル端子による間欠駆動が可能 ■内蔵抵抗と外付けコンデンサによってローパスフィルタを構成 カスタマイズ性を強化しながら,新たな機能も盛り込ん だ 2 チップ Si 圧力センサを開発した.今後,医療,自動 車など精度が求められるアプリケーションをターゲット に製品展開をはかっていきたい. 参 考 文 献 を実際に電源電圧 5 V で駆動した時の出力電圧特性を評 1) 高橋ほか:半導体圧力センサのデジタルトリミング,フ 価してみた.図 7 は絶対圧タイプ圧力レンジ 250 kPa・ ジクラ技報,第 96 号,pp.54-60,1999 abs の出力特性,図 8 はゲージ圧タイプ圧力レンジ 1 MPa 2) 蓬田ほか:低電圧駆動ワンチップ集積化圧力センサ,フ の出力特性を示す.いずれも精度的には± 1.5 %FS / 0 ∼ ジクラ技報,第 101 号,pp.75-80,2001 85 ℃の範囲におさまっており,また圧力レンジ 1 MPa に おいては 120 ℃まで± 1.5 %FS の精度を維持しているこ とがわかる. 3. 3 特長まとめ 2 チップ Si 圧力センサの機能,基本性能について主な 特長を表 1 にまとめた. 57