大容量伝送用マルチコアファイバ 国立大学法人 北海道大学 小 柴 正 則 1 ・ 齊 藤 晋 聖 2 光 電 子 技 術 研 究 所 佐々木 雄 佑 3 ・ 安 間 淑 通 3 ・ 竹 永 勝 宏 3 ・ 松 尾 昌一郎 4 Multicore Fiber for Large Capacity Transmission M. Koshiba, K. Saitoh, Y. Sasaki, Y. Amma, K. Takenaga, and S. Matsuo 光通信の伝送容量を飛躍的に拡大するための技術として,マルチコアファイバを用いた空間多重技術 の研究開発が世界中で活発化している.マルチコアファイバの設計においては,低クロストークと高密 度コア配置の両立が求められている.本稿では,高密度コア配置が可能として多数のマルチコアファイ バに採用された六方最密配置に内在する課題を明らかにし,その課題を解決するために提案した二種ピ ッチ配置と単リング配置について説明する.単リング配置を用いた 12 コアファイバにより,初めてフ ァイバ 1 本あたり 1 Pb/s を超える大容量伝送が実現した. As a key technology signif icantly increasing the capacity of optical transmission, space - division multiplexing using multicore f ibers has been attracting worldwide interest. Hexagonal close - packed structure has been widely used for multicore f ibers as it allows high core package density; however there are other critical requirements that need to be satisfied (e.g., low crosstalk). In this paper, we f irst highlight issues with the hexagonal close packed structure. We then review our two proposals -- two - pitch layout and one-ring layout -- to overcome these issues. Our 12 - core f iber with one - ring layout contributed to the world’s first demonstration of transmission capacity exceeding 1 Pb/s per f iber. イバについて紹介する.まず,空間多重技術の概要およ 1.ま え が き び当社のこれまでの取り組みについて紹介したのち,マ インターネットの普及をきっかけとして,世界の通信 ルチコアファイバに主だって採用されている六方最密配 トラフィックは 10 年で 100 倍という爆発的な勢いで 置に内在する課題を示す.それを解決するために我々が 増大を続けてきた.映像配信やスマートフォンの普及に 考案した二種ピッチ配置と単リング配置の特長,特性に 伴い,通信トラフィックは今後も増大を続けることが予 ついて説明する. 想される.光ファイバ通信システムは,これらの通信ト ラフィックのバックボーンである.光通信の伝送容量は 2.空 間 多 重 技 術 と 当 社 の 取 り 組 み TDM,WDM,デジタルコヒーレントなどの技術により 拡大を続け,爆発的に拡大した通信トラフィックを支え 図 1 に通信用シングルモードファイバの模式図を示 てきた.しかし,光ファイバに投入可能な光パワー入力 す. 通 信 用 シ ン グ ル モ ー ド フ ァ イ バ は, 直 径 125 µm の限界などから,既存の光ファイバ 1 本当たりの伝送 のクラッド内に,直径 9 µm 程度のコア1つを有する. 容量 は 100 Tb/s 程度が限界であるといわれてい る 1). クラッド この伝送容量の壁を打ち破るための光伝送技術として, コア マルチコアファイバや数モードファイバを用いた空間多 重技術が期待されている.最近ではマルチコアファイバ を用いることで 1 Pb/s(1000 Tb/s)を超える容量を実 現した伝送実験が報告されており,空間多重技術のポテ 125 µm ンシャルが実証されつつある 2). 本稿では,当社が提案した新規構造のマルチコアファ 1 国立大学法人北海道大学キャリアセンター長 2 国立大学法人北海道大学大学院情報科学研究科教授 3 光ファイバ技術研究部 4 光ファイバ技術研究部部長 博士(工学) 図 1 通信用シングルモードファイバの断面 Fig. 1. Schematic cross section of a conventional single mode f iber. 5 2013 Vol. 2 略語・専門用語リスト 略語 ・ 専門用語 フ ジ ク ラ 技 報 第 125 号 正式表記 説 明 TDM Time Division Multiplexing 時間分割多重. 複数の異なる信号に時間差を設けて伝送する方式. 伝送容量を拡大する方策のひとつ. WDM Wavelength Division Multiplexing 波長分割多重. 複数の異なる波長の光信号を同時にのせる伝送方式. 伝送容量を拡大する方策のひとつ. デジタルコヒーレント Digital Coherent コヒーレント検波と高速なデジタル信号処理を用い て,光高速通信時に発生するひずみを補正する技術 で,ファイバの伝送容量を大きく向上させることが できる. クロストーク Crosstalk マルチコアファイバにおけるクロストークは,コア からコアへの光の漏洩である.情報伝送する際は, 信号へのノイズ増大による伝送品質劣化の要因とな るので,できるだけ小さくすることが望ましい. MFD Mode Field Diameter モードフィールド径. ファイバ中を伝搬する光の電界分布の拡がりを示す 指標のひとつ.接続損失評価の指標となる. Aeff Effective Core Area 実効コア断面積. ファイバ中を伝搬する光の電界分布の拡がりを示す 指標のひとつ.主として非線形現象の起こりにくさ を示すときに用いられる. PDM Polarization Division Multiplexing 偏波分割多重. シングルモードファイバを伝搬する光は,偏波と呼 ばれる 2 つの振動方向を持つ.それぞれの偏波に情 報を載せて伝搬させることで,2 倍の多重度になる. QAM Quadrature Amplitude Modulation 直角位相振幅変調. 振幅変調と位相変調を組み合わせた多値変調の一つ. 32 QAM では,信号光 1 シンボルあたり 5 bit の伝 送が可能となる. 周波数利用効率 Spectral Efficiency 帯域あたりにどれだけ多くの情報量を送ることがで きるかの指標の一つ. コア内を伝搬するモードは 1 つ(つまり,シングルモ めている.数モードファイバにおいては,屈折率分布を ード)であるため,光ファイバ内の信号伝送路は 1 つ 最適化することにより,広い帯域でモード多重伝送に最 だけであり,クラッド内で信号伝搬に使っている割合 適なファイバが実現可能であることを明らかにした 3). は,断面積比でわずか 0 . 5 %程度である.空間多重技 マルチコアファイバにおいては,伝送品質劣化の要因と 術とは,光ファイバ内に信号伝送路を複数持たせ,空間 なるクロストークの抑制に着目した取り組みを行い,図 をより有効に活用する新しい多重技術である.空間多重 2 のようなトレンチ構造を各コアに付加することで,コ 技術を実現するための伝送媒体として,マルチコアファ アとコアの間隔を大きくせずにクロストークの抑制が可 イバと数モードファイバが提案されている.マルチコア 能となることを示した 4). ファイバは,通常のシングルモードファイバには 1 つ しかないコアをクラッド内に複数配置させたファイバで コア ある.それぞれのコアに異なる光信号を伝送させること で,ファイバ 1 本あたりの伝送容量をコアの数だけ増 やすことができる.また,数モードファイバは,1 つの トレンチ コア内に複数のモードが伝搬可能なファイバである.そ 内クラッド れぞれのモードに別の信号を載せることで,モード数分 の伝送容量拡大が可能になる.つまり,マルチコアファ イバでは複数のコアを,数モードファイバでは複数のモ ードをそれぞれ伝送路として活用することで,信号の空 間的な多重を実現している. われわれは空間多重技術の可能性に着目し,数モード 図 2 トレンチ構造 Fig. 2. Schematic prof ile of trench structure. ファイバ,マルチコアファイバの双方について開発を進 6 大容量伝送用マルチコアファイバ から被覆までの厚さ(Outer Cladding Thickness,以下 3.六方最密配置マルチコアファイバの課題 Tc と記す)が薄くなると,外側コアの伝搬損失が中心 六方最密配置は円状のコアを最も密に隙間無く並べる コアよりも大きくなるという現象がみられるようにな ことが出来る配置であり,マルチコアファイバの配置と る.これは,外側コアの光の一部が高屈折率の保護被覆 して最も一般的である.特に,ファイバの中心に一つの 層にしみだすようになるために起こる現象である.所望 コア(中心コア),それを取り囲むよう 6 つのコア(外 の光学特性が得られる設計,つまり,コア間距離と Tc 側コア)を正六角形の頂点上に配した図 3(a)のような の大きさを保った設計を行った場合,マルチコアファイ 7 コアのマルチコアファイバは,これまでに多数報告さ バのファイバ直径は通常のシングルモードファイバのフ れてきた 5)6)7) ァイバ直径である 125 µm より太くなる場合が多い. .また,6 つの外側コアのさらに外側に 12 個のコアを並べることにより,図 3(b)のような 19 ファイバ直径の太径化は,光ファイバに機械的強度の コアファイバも実現可能である.しかし,この配置を用 観点から許容される曲げ直径の増大につながる.光ファ いたマルチコアファイバでは,以下に説明する 3 つの イバは,ケーブル内や接続部付近で想定される曲げに対 課題がある. して,十分な信頼性を有することが求められる.図 4 3.1 中心コアのカットオフ波長の長波長化 は,光ファイバを直径 30 mm と 60 mm に曲げた時の トレンチ構造は,クロストークの抑制およびコアの高 破断確率のファイバ直径依存性を示している 8).光ファ 密度配置に有効である.しかしながら,トレンチ構造を イバのスクリーニングレベルを 1 %,巻き回数を 100 有するコアを六方最密配置したマルチコアファイバにお 回として,20 年後の破断確率を推定した.直径 30 mm いては,コア間距離が過度に近接すると,中心コアのカ という曲げは,アクセス系や構内系に広く用いられてい ットオフ波長が急激に長波長化する現象が見られる 4)5) る光ファイバの許容曲げ径であり 9),標準的なシングル . これは中心コアを伝搬する高次モードが,外側コアのト モードファイバ(ファイバ直径 = 125 µm)では厳しい レンチ構造によりさらに閉じ込められていくからである 条 件 の 1 つ で あ る. こ の 場 合 の 破 断 確 率 で あ る 10−7 と考えられる.カットオフ波長が通信使用波長帯よりも をマルチコアファイバの信頼性の目安として考えてみ 長くなると,通信帯でのシングルモード伝送が保証でき る.マルチコアファイバを基幹系として用いることを想 なくなり好ましくない.一般的にはクロストークの悪化 定すると,最も曲げ径が小さくなるのはクロージャへの がコア間距離を制限する要因であるが,トレンチ構造を 収容部となり,そこでの曲げ直径としては 60 mm 程度 有する場合は,カットオフ波長の長波長化がコア間距離 が 想 定 さ れ る. 曲 げ 直 径 60 mm に お い て 破 断 確 率 が を制限する要因になる場合がある. 10−7 になるファイバ直径は 230 µm となる.コアの Aeff 3.2 コア数選択の硬直性 が波長 1550 nm で 80 µm2 程度の場合,Tc は 30 µm 必 伝送用マルチコアファイバの伝送容量を拡大するた 要とされる 10).例えば,コア間距離 40 µm,Tc 30 µm め,限られたクラッド断面により多くのコアを収容する を想定すると,6 つの外側コアが 1 層配置された 7 コ ことが求められる.しかし,各コアでの伝送品質を保つ アファイバではファイバ直径が 140 µm となる. 収容 ためには,クロストークの抑制および低い伝搬損失が求 コア数を 8 つ以上に増やす場合,6 つの外側コアのさ められる.トレンチ構造を用いた場合でも,過小なコア らに外側の 2 層目にコアを配置せざるを得なくなり, 間距離はクロストークの増大を起こす.また,外側コア そのファイバ直径は信頼性上限に近い 220 µm に達す クラッド クラッド コア コア 10−4 C 巻き付け直径:30 mm 破断確率 10−6 C 10−8 巻き付け直径:60 mm (a) 10−10 100 (b) 図 3 六方最密配置を用いたマルチコアファイバ (a)7 コアファイバ (b)19 コアファイバ Fig. 3. Multicore f ibers with hexagonal close - packed structure; (a)Seven - core f iber, and(b)19 - core f iber. 150 200 250 300 ファイバ直径(µm) 図 4 光ファイバの破断確率のファイバ直径依存性 Fig. 4. Rupture probability of an optical f iber as a function of f iber diameter. 7 2013 Vol. 2 フ ジ ク ラ 技 報 る.信頼性の観点からは,ファイバ直径は可能な限り細 第 125 号 4.六方最密配置の課題を解決するための 新規配置 いことが望ましい.図 5 は,六方最密配置におけるフ ァイバ直径と収容可能コア数の関係を示したものであ る.ファイバ直径として 180 µm,200 µm が許容された 前述の六方最密配置の課題を解決する配置として,図 にしても,収容可能なコア数はファイバ直径が 140 µm 6 に示すような二種ピッチ配置と単リング配置を我々は の場合と同じ 7 つのままである.つまり,六方最密配 提案した. 表 1 に, 六方最密配置, 二種ピッチ配置, 置は,ファイバ径に応じた柔軟なコア数の選択という点 単リング配置の特徴を簡単にまとめている. 4.1 二種ピッチ配置の特徴 で問題があることがわかる. 二種ピッチ配置は,中心コアと外側コア間の距離(Λ in) 3.3 最悪クロストーク が外側コア間距離(Λ out)よりも大きいことを特徴とし マルチコアファイバのコアは,複数のコアに隣接して いる.このため,実効的なクロストークは,隣接するコ ている.収容コア数を m とすると,Λ out からΛ in は幾何 ア数,およびその励振状態に影響を受ける.すべてのコ 学的に式(3)のように定まる. アが均一に励振されたときのあるコアへのクロストーク (XTworst[dB])は,以下の式(1)のように表される. L in = XTworst = XT + 10 log n (1) L out (3) 2 sin [p / (m - 1)] 10 コ ア 配 置 に お い てΛ out を 40 µm と し た 場 合, 式 ここで,XT[dB]は隣接する 2 コアの間のクロストー (3) か らΛ in は 58 . 5 µm と な る. コ ア 間 距 離 が 大 き い ク,n は隣接コアの数である.式(1)は n が増えるほど ほどクロストークは小さくなる.Λ in >Λ out であること XTworst も大きくなることを意味する.XTworst と XT の差 から, 外側コア - 中心コア間クロストーク(XTio) は, 分をΔXT とするとΔXT は式(1) から式(2) のよう 外側コア - 外側コア間クロストーク(XToo)と比べて小 に表される. さい.すべてのコアで光伝送を行ったとしても,中心コ アへのクロストークの総和は XToo と比べても小さくす DXT = XTworst - XT = 10 log n (2) ることができるので,中心コアの伝送品質の劣化が起こ らない. 六方最密配置の 7 コアファイバにおいて,外側コア では隣接するコア数が 3 つであるのに対し,中心コア また,外側コアが環状に配置されるので,収容するコ では隣接するコアが 6 つとなる(図 3(a)).3 つのコ ア数をファイバ直径に応じて選択可能である.たとえば ア か ら ク ロ ス ト ー ク を 受 け る 外 側 コ ア のΔXT は フ ァ イ バ 直 径 200 µm 程 度 で,Λ out が 40 µm,Tc が 4 . 8 dB であるのに対し,6 つのコアからクロストークを 40 µm の 10 コアファイバを実現できる. 受ける中心コアのΔXT は 7 . 8 dB にもなることが,そ れぞれ式(2)より求まる.中心コアのΔXT を補うた C めにはコア間距離を 3 µm 程度大きくする必要がある. 3 µm というコア間距離の増大は,できるだけ細いクラ C ッド内に複数のコアを詰め込むというマルチコアファイ バの設計に大きなインパクトを与える. Λ in Λ out (a) 23 (b) 収容最大コア数 図 6 新しく提案したマルチコアファイバの配置 (a)二種ピッチ配置 (b)単リング配置 Fig. 6. Newly proposed layouts to overcome the issues of hexagonal close - packed structure; (a)Two - pitch layout, and(b)One - ring layout. 19 15 11 7 3 140 160 180 200 220 240 表 1 各構造の特徴の比較 Table 1. Comparison of the layouts of multicore f iber. ファイバ直径(µm) 図 5 六方最密配置におけるファイバ直径と 収容最大コア数の関係 Fig. 5. Relationship of f iber diameter and maximum containable core number in hexagonal close - packed structure. 8 課 題 六方最密配置 二種ピッチ配置 単リング配置 カットオフ波長 × × ○ コア数選択 × ○ ○ クロストーク × ○ ○ 大容量伝送用マルチコアファイバ とファイバ直径の関係を示す.Tc は 30 µm に設定した. しかし,二種ピッチ配置においても中心コアは外側コ アに取り囲まれているため,トレンチ構造を有する場 図 7 から単リング配置を用いることで,ファイバ直径 合,Λ in を小さくしたときの中心コアのカットオフ波長 200 µm 程度で 12 個のコアを収容できることがわかる. の長波長化という課題は依然として残る 11) . 4.2 単リング配置の特徴 5.単リング配置を用いた 12 コアファイバの 試作結果 単リング配置は六方最密配置の 3 つすべての課題を 解決できる配置である. 単リング配置では,中心コアがないため,コア間距離 マルチコアファイバの作製方法としては,図 8 のよ を小さくしてもカットオフ波長の長波長化が起きない. うに孔開法とスタック&ドロー法の 2 つがある.孔開 つまり,コア間距離はクロストークのみに制約される. 法は,石英棒に孔開用ドリルを用いて軸方向に孔を開 また,コアを環状に配置した配置であることから,ファ け,そこにコアロッドをそれぞれ詰め込み,紡糸する方 イバ径に応じてコア数を柔軟に設定できる.さらに,い 法である.スタック&ドロー法は,空間を埋めるための ずれのコアにおいても隣接するコアの数が 2 であるた スペーサとともにコアロッドを石英管に詰め込み,紡糸 め,ΔXT はすべてのコアで 3 dB となり,均一かつ六 する方法である.今回の試作では,スタック&ドロー法 方最密配置よりも小さな値とすることが可能である.つ を用いたプリフォームの大型化を行い,長尺かつ低損失 まり,ある XTworst が得られるようにマルチコアファイバ なマルチコアファイバを作製した 13). を設計した場合,単リング配置のコア間距離は六方最密 図 9 に試作した素線の断面写真,表 2 に寸法および 配置よりも小さくできることを意味している.例えば, 光学測定結果の平均値を示す.すべてのコアで,波長 ケ ー ブ ル カ ッ ト オ フ 波 長 を 1 . 53 µm, 巻 き 直 径 を 1550 nm における Aeff が標準的なシングルモードファイ 2 310 mm,波長 1 . 55 µm における Aeff を 80 µm ,100 km バと同程度の 80 µm2 程度であった.ケーブルカットオ 伝搬後 XTworst を−47 dB と設定すると,六方最密配置で フ波長(λcc)も 1530 nm を下回り,一般的な通信に用 はコア間距離が 40 µm 必要なのに対し,単リング配置 いられる 1530 nm 以上の波長帯でシングルモード動作 ではコア間距離を 36 . 5 µm まで小さくすることが可能 することが確認された. である 12) .図 7 に,単リング配置における最大コア数 マーカー 23 収容最大コア数 3 19 2 1 4 15 12 11 5 7 3 140 160 180 200 220 240 6 ファイバ直径(µm) 図 7 単リング配置におけるファイバ直径と 収容最大コア数の関係 Fig. 7. Relationship of f iber diameter and maximum containable core number in one - ring layout. コアロッド 11 10 7 9 図 9 試作した単リング配置 12 コアファイバの 素線断面写真 Fig. 9. A cross - section of fabricated 12 - core f iber with one - ring layout. スペーサ コアロッド 孔 石英棒 表 2 作製した 12 コアファイバの測定結果 Table 2. Measurement results of the fabricated 12 - core f iber. 石英管 コア間距離(µm) (a) 8 (b) 図 8 マルチコアファイバの作製方法 (a)孔開法 (b)スタック&ドロー法 Fig. 8. Fabrication processes of multicore f iber (a)Drilling process, and(b)Stack and draw process. 9 36 . 8 Tc(µm) 39 . 3 ファイバ直径(µm) 225 . 0 ファイバ長(m) 52 . 5 伝搬損失(dB/km) 0 . 199 λcc(µm) 1 . 47 Aeff(µm2) 80 . 7 2013 Vol. 2 フ ジ ク ラ 技 報 第 125 号 試作したファイバの 100 km 伝搬時の隣接コア間クロ 北海道大学,デンマーク工科大学と当社の共同研究によ ス ト ー ク を 図 10 に 示 す. 測 定 波 長 を 1550 nm と り行われた.PDM と 32 QAM を用いて 456 Gb/s の信号 1625 nm, 巻 き 直 径 を 310 mm と し た. 奇 数 コ ア を 励 を生成し, それを 222 の波長で多重して 101 Tb/s にす 振し,それに隣接する偶数コアからの漏洩光のパワーを る.この信号を 12 のコアそれぞれに伝送させることで, 評 価 し て 隣 接 コ ア 間 ク ロ ス ト ー ク を 求 め た. 条 長 1 . 01 Pb/s の伝送容量を 91 . 4 b/s/Hz の高い周波数利用 52 km での測定結果と電力結合理論を用いて,100 km 伝 効率で達成している.図 12 に,今まで学会等で報告さ 搬後のクロストークを推定した 14).コア番号は図 9 に れたファイバ 1 本あたりの伝送容量の推移とそれに使わ 対 応 す る. 波 長 1550 nm で の 平 均 値 は −44 dB, れた代表的な技術を示す.既存のシングルモードファイ 1625 nm では−36 dB であった.全コア励振時の XTworst バを用いた伝送実験では,デジタルコヒーレント等を用 は,1550 nm で−40 dB 以下,1625 nm では−30 dB 以下 いても 100 Tb/s 付近で 伝送 容 量拡大が 停 滞している. となると予想され,大容量伝送に十分な特性を有してい これに対し,マルチコアファイバを用いた伝送実験では, ることがわかった. 2011 年春に 109 Tb/s を達成したことが報告されてから 今回試作した 12 コアファイバと過去に報告されたマ 1 年半で 10 倍の伝送容量の拡大を実現した.マルチコ ルチコアファイバについて,コア数と XTworst の関係を アファイバを用いた空間多重技術には,これからも光通 図 11 にまとめた.過去に報告されたマルチコアファイ 信システムの大容量化を実現していく可能性がある. バにおいては,コア数が 8 以上では XTworst が−20 dB 程度と大きく,XTworst が低いものはコア数が 7 つだけ 6.む す び である.単リング構造を用いることで初めて,多コアと 低クロストークの両立が可能になったことがわかる. 六方最密配置を採用したマルチコアファイバにおいて, 試作したファイバは,2012 年秋に報告されたファイバ 中心コアのカットオフ波長の長波長化,選択可能なコア 1 本あたり 1 Pb/s を超える容量を初めて達成した伝送実 数の制限,隣接するコアの数が多い中心コアにおけるク 15) 験に使用された .本実験は,日本電信電話株式会社, ロストークの劣化の 3 つの課題があることを説明した. 3 つすべての課題を解決する配置として新しく単リン 0 グ配置を提案し,52 km のファイバを作製した.このフ 1550 nm 1625 nm −10 −20 ァイバは,225 µm のファイバ直径で 12 個のコアを収容 し,波長 1625 nm において,全てのコアを用いて光伝 −30 送とした最悪時のクロストークでも 100 km で−30 dB −40 以下という低クロストークを実現できることがわかっ −50 送が初めて実現された. 12−13 測定コア組み合わせ 11−12 10−11 9−10 8−9 7−8 6−7 5−6 4−5 3−4 た.さらに,このファイバを用いて,1 Pb/s を超える伝 2−3 (dB) −60 1−2 伝搬後クロストーク 100 km 謝 辞 図 10 100 km 伝搬後クロストーク推定結果 Fig. 10. 100 - km crosstalk estimated from measured results. 本研究の一部は,独立行政法人情報通信研究機構の高 度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバ技術 の研究開発の一環としてなされたものである . 20 光ファイバ1本あたりの伝送容量 コア数 15 今回の 12 コアファイバ 10 5 0 −20 −40 1550 nm における100 km 伝搬後 −60 −80 (dB) worst 10 P マルチコアファイバ 100 T WDM 10 T 1T TDM デジタルコヒーレント 10 G 1G (b/s) 100 M 1980 図 11 今回試作した 12 コアファイバと既報のファイバに おける 100 km 伝搬後 XTworst とコア数の比較 Fig. 11. Comparison between 100 - km XTworst at 1550 nm and core number of the fabricated 12 - core fiber and reported multicore fibers. 今回のファイバ 1P 1990 2000 2010 2020 年 図 12 光ファイバ 1 本あたりの伝送容量の推移 Fig. 12. Development of transmission capacity per fiber. 10 大容量伝送用マルチコアファイバ pp. 4626-4628, 2011 参 考 文 献 9) 市 井 ほ か:「 曲 げ 損 失 を 低 減 し た 低 O H - S M F (FutureGuide® - SR15E)の特性」,信学技報 , Vol. 104, No. 1) T. Morioka:“New generation optical infrastructure technologies:“EXAT initiative”towards 2020 and beyond,” 341, pp. 1-4, 2004 OECC 2009, FT4, 2009 10) K. Saitoh, et. al.:“Crosstalk and core density in uncou- 2) H. Takara, et al.:“1.01-Pb/s(12 SDM/222 WDM/456 Gb/s) pled multi-core fibers,”IEEE Photon. Technol. Lett. Vol. crosstalk-managed transmission with 91.4-b/s/Hz aggre- 24, No. 21, pp. 1898–1901, 2012 gate spectral efficiency,”ECOC 2012, Th.3.C.1, 2012 11) Y. 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